地中海の太陽が燦々と降り注ぐシチリア島、その南東部に位置するイオニア海に面した街、シラクーザ。かつて古代ギリシャ世界においてアテネと覇を競った強大なポリス(都市国家)であり、天才数学者アルキメデスの故郷としても知られています。歴史の教科書で目にしたその名前に、どこか遠い世界の響きを感じるかもしれません。しかし、ひとたびこの地に足を踏み入れれば、2700年以上の時を超えて息づく圧倒的な歴史の重みと、シチリアらしい陽気な日常が織りなす唯一無二の魅力に、心を鷲掴みにされることでしょう。
青く輝く海に浮かぶオルティージャ島には、神殿の記憶をとどめる大聖堂が聳え、迷路のような路地裏には地元の人々の笑い声が響きます。対岸に広がる大地には、古代のギリシャ劇場が今なお観客を待ち受け、巨大な石切り場が過去の栄光と悲劇を物語る。そして何より、この街は食を愛する者にとっての楽園。市場に溢れる色とりどりの食材、太陽と海の恵みを一身に受けた料理の数々は、旅人の胃袋と魂を深く満たしてくれます。
今回は、古代のロマンと美食の喜びに満ちた街、シラクーザの奥深い魅力をご案内します。歴史の表層をなぞるだけの旅ではなく、この街の呼吸を感じ、その物語の一部になるような、そんな体験をしてみませんか。さあ、時空を超える旅の始まりです。
オルティージャ島:シラクーザの心臓部を歩く

シラクーザの旅は、確実にこのオルティージャ島から始まります。本土とは2本の橋でつながれており、全長約1km、幅はおよそ500mの小さな島です。しかし、この小さな島こそがシラクーザの発祥地であり、歴史と美の結晶が詰まった宝のような場所なのです。旧市街の石畳の道を歩けば、車のほとんど通らない静けさの中、一歩ずつ時代を遡るような感覚に包まれます。バロック様式の荘厳な建築物、潮風に錆びついたバルコニー、壁から顔をのぞかせる鮮やかなブーゲンビリアの花々。すべてがまるで絵画のように美しく、訪れるものを魅了してやみません。
ドゥオーモ(大聖堂)の神秘に触れる
オルティージャ島の中心に位置するドゥオーモ広場は、「イタリアで最も美しい広場のひとつ」と称される場所です。広々とした空間を囲むのは、白亜の石造りのバロック様式の教会や宮殿。調和のとれた景観は息をのむほどの美しさを誇ります。特に夕暮れ時、建物の壁が夕陽を浴びて蜂蜜色に輝く瞬間は、決して忘れられない光景となることでしょう。
この広場の主役は、シラクーザのドゥオーモ(サンタ・マリア・デッレ・コロンネ大聖堂)です。一見すると豪華に装飾された壮麗なバロック建築ですが、その側面に回り込むと誰もが驚きを隠せなくなるでしょう。そこには古代ギリシャの神殿で使われていた、堂々たる太く力強いドーリア式の柱が、教会の壁の一部としてしっかりと姿を現しているのです。
このドゥオーモは紀元前5世紀に建てられたアテナ神殿を礎とし、その構造を巧みに取り込んでキリスト教の教会に改築された、類例のない建築物です。内部に足を踏み入れると、神殿の列柱がそのまま聖堂の身廊と側廊を仕切る壁として機能していることがはっきりと感じられます。多神教の神殿が時とともにキリスト教の聖堂となり、2500年にわたり人々の祈りの場であり続けてきたのです。この場所に身を置くと、宗教や文化が重層的に重なり合い形成されたシラクーザの複雑で豊かな歴史を、肌で感じ取ることができるでしょう。
ドゥオーモ観光のポイント
- 服装に関する注意: ドゥオーモは今も現役の祈りの場として使用されています。見学時には肩や膝が露出する服装(タンクトップ、ショートパンツ、ミニスカート等)は避けましょう。夏場は薄手のストールやカーディガンを一枚携帯しておくと、さっと羽織れて便利です。入口で服装チェックが行われることがあるため、訪れる際は敬意を表した服装を心がけてください。
- チケットについて: 内部の見学は有料で、入り口付近にあるチケット売り場で数ユーロ程度で購入できます。混雑はあまり見られませんが、時間に余裕を持って訪れるのがおすすめです。
- 見学マナー: 静かに祈りを捧げる信者の方もいらっしゃいます。内部での大声の会話やフラッシュ撮影は控え、厳かな雰囲気を尊重して見学しましょう。
アレトゥーザの泉:神話が息づく地
ドゥオーモ広場から海の方へ歩みを進めると、突如として緑豊かな一画が姿を現します。ここが「アレトゥーザの泉(Fonte Aretusa)」です。海のすぐ近くにありながら、こんこんと清らかな真水が湧き出る不思議な泉で、古代からシラクーザの人々の命を支えてきました。
この泉にはギリシャ神話の切ない恋物語が伝えられています。森の妖精(ニンフ)アレトゥーザは、ギリシャのアルペイオス川の神に求愛されるも拒み、逃げ回ります。狩りの女神アルテミスの助けで泉の姿に変えられ、シチリアまで逃れてきましたが、アルペイオスもまた川となって彼女を追いかけ、この泉の底でついに結ばれたと言われています。
泉の中には、エジプト以外では珍しい野生のパピルスが青々と茂り、水面を優雅に泳ぐカモや水鳥の姿が、まるで神話の世界へ迷い込んだかのような幻想的な空気を醸し出しています。特にイオニア海に沈む夕陽を望む時間帯は格別です。泉周辺の遊歩道には、夕涼みを楽しむ地元の人々やカップルが集い、ロマンチックな雰囲気に包まれています。ベンチに腰掛けて神話の世界に想いを馳せながら、刻々と変わりゆく空の色彩を眺める—これぞシラクーザならではの贅沢な時間です。
オルティージャ市場:五感を刺激する食文化の迷宮
シラクーザ、いやシチリアの「素顔」を知りたいなら、早朝のオルティージャ市場を訪れるべきです。新市街とオルティージャ島を結ぶウンベルティーノ橋すぐ近くで、毎朝(日曜を除く)開催されるこの市場は、まさに食のワンダーランド。地元の人々と観光客で賑わい、多様な音が混然一体となって、強い生命力を感じさせます。
「マグロ!新鮮なマグロだよ!」、「このトマトを見てごらん、太陽の味がするぞ!」
魚屋の威勢のよい呼び込み(「バンニアーテ」と呼ばれる独特の節回し)、野菜売りの誇らしげな声、買い物客の陽気なイタリア語の会話が交錯し、市場全体がまるで生きているかのように脈動しています。
目の前に広がるのは、色鮮やかな食材の洪水です。銀色に輝く太刀魚やイワシ、巨大なメカジキの頭、鮮やかな赤色のエビ。山積みにされたトマトは多種多様な品種が揃い、濃い赤がきらめきます。紫色のナス、アーティチョーク、そしてシチリア名物のブラッドオレンジ。チーズ屋の前にはリコッタ、ペコリーノ、カチョカヴァッロがずらりと並び、その濃厚な香りが鼻をくすぐります。隣のサラミ屋からは、スパイスの芳香が漂ってくる。この場所は単なる食材売買の場ではなく、シラクーザの人々の胃袋を支え、日々の暮らしの活気を育む街の心臓部なのです。
Caseificio Borderi(カゼイフィーチョ・ボルデリ):伝説のサンドイッチを味わう
市場の奥まった一角には、常に黒山の人だかりができている場所があります。チーズ工房兼食材店「Caseificio Borderi」です。このお店の看板商品は、もはやパニーノの概念を覆すほど巨大で芸術的なサンドイッチです。
店主のアンドレア・ボルデリ氏は、まるで歌うかのように、語りかけるように客と接しつつ目の前で一つの作品を作り上げていきます。大きなパンにまず数種類のチーズをたっぷり塗り、プロシュートやサラミを惜しみなく重ね、ドライトマト、オリーブ、ハーブやサラダを山盛りに飾り、最後に絞りたてのレモン果汁と最高品質のオリーブオイルをふりかける。そのパフォーマンスはもはや一種のエンターテイメントで、眺めているだけで心躍ります。
ボルデリでパニーノを手に入れるコツ
- 覚悟して並ぶ: ボルデリの行列は必須です。特に昼時に近づくほど行列は長くなります。時間に余裕を持ち、可能なら午前11時前には並び始めるのがベターです。
- 整理券の取得: 列に並ぶ前にまず店内に入り、整理券(番号札)を受け取りましょう。自分の番号が呼ばれるまで辛抱強く待つ必要があります。
- 注文は「おまかせ」で: メニューはありますが、多くの客が「fai tu(ファイ・トゥ=あなたにおまかせ)」と注文します。その日の最高の食材を活かし、店主がインスピレーションで作り上げるサンドイッチは格別です。苦手な食材があれば事前に伝えましょう。
- シェアが基本: 出来上がったパニーノは非常に大きく、一人で完食するのは困難です。友人や家族とシェアするのが賢明です。近くの海辺のベンチで、青い海を眺めながら頬張るのが最高のひとときです。
このパニーノは単なる食事ではなく、シラクーザの太陽と大地の恵み、そして作り手の情熱が融合した、忘れがたい味わい深い体験となるでしょう。
マニアーチェ城:海に臨む要塞と絶景
オルティージャ島の先端、イオニア海に向かって突き出るように建つのがマニアーチェ城です。13世紀、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世によって築かれたこの城は、シラクーザの港を護る重要な軍事要塞でした。頑強で堅牢なその姿は、華やかなバロック建築の並ぶオルティージャ島ではひときわ異彩を放っています。
城の名前は、11世紀にアラブ人からシラクーザを奪還したビザンツ帝国の将軍ジョルジョ・マニアーチェに由来します。城内に足を踏み入れると、美しいゴシック様式の大広間が迎えてくれます。かつては祝宴や儀式が行われたであろうこの空間は、今は静寂に包まれ、石造りの壁が歴史の重みを静かに語りかけています。
この城最大の魅力は、城壁の上から広がる眺望です。360度のパノラマが展開し、一方にはオルティージャ島の美しい街並み、反対側には果てしなく続く紺碧のイオニア海が広がります。潮風に吹かれながら、古代から数多の船が行き交ったであろうこの海を見つめていると、自分が歴史の大きな流れの中にいるかのような壮大な気持ちに浸れます。
マニアーチェ城訪問のヒント
- オンラインチケット: 事前に公式サイトでチケット予約をしておくことをお勧めします。特に観光シーズンは窓口が混雑しやすいため、オンライン購入で時間を節約しましょう。
- 開館時間の確認: イタリアの観光施設は予告なく開館時間が変更されたり、昼休みが長い場合があります。訪問前に必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
- 歩きやすい靴で: 城内は石造りの階段や段差が多いため、履き慣れたスニーカーなど安定感のある靴での訪問が必須です。
ネアポリス考古学公園:古代ギリシャの栄華を体感する

オルティージャ島で歴史散策を堪能した後は、本土側に位置する「ネアポリス考古学公園」へ足を伸ばしてみましょう。ここには、古代シラクーザが最盛期を迎えた時代の壮大な遺跡群が眠っています。オルティージャ島が「生きた歴史の地区」と呼ばれるなら、ネアポリスはまさに「古代への入り口」と言えるでしょう。広大な敷地内には、ギリシャ劇場やローマ円形闘技場、「ディオニュシオスの耳」と称される巨大な洞窟などが点在し、その規模の大きさに圧倒されます。ここを訪れることは、ユネスコ世界遺産「シラクーザとパンターリカの岩壁墓地遺跡」の核心を体験することにもつながります。
ギリシャ劇場
公園内でも特に印象深い遺跡が、このギリシャ劇場です。紀元前5世紀に岩山の斜面を削り出して造られた半円形の劇場は、直径138メートルに及び、最大で15,000人もの観客を収容できたと伝えられています。最上段の客席に登れば、眼下に劇場全体の光景が広がり、その先にはシラクーザの街並みとイオニア海の大パノラマを楽しめます。
ここに腰を下ろして目を閉じると、かつてアイスキュロスやエウリピデスの悲劇が上演され、市民たちが息を呑んで舞台を見守っていた様子が浮かんでくるようです。驚くべきことに、この劇場は単なる遺跡ではありません。現在でも毎年夏には国立古典劇研究所(INDA)主催のギリシャ古典劇フェスティバルが開催され、古代と同じ場所で演劇が上演されます。夕暮れ時、ライトアップされた古代劇場で鑑賞する悲劇は、時代を超えた感動を呼び起こす、かけがえのない体験です。
ギリシャ古典劇フェスティバル観覧のポイント
- 開催時期: 例年5月中旬から7月上旬まで開催されます。
- チケット入手方法: 公式サイト「INDA Fondazione」でオンライン購入が可能です。人気の演目や良席は早めに売り切れるため、旅行計画が決まり次第、早期予約をおすすめします。上演はイタリア語ですが、あらかじめあらすじを押さえておけば、役者の表情や舞台演出だけでも十分に楽しめます。
- 服装・持ち物: 夜は冷え込むこともあるため、羽織るものを持参すると安心です。また、客席は石段なので、座布団やクッションがあるとより快適に鑑賞できます。
ディオニュシオスの耳
ギリシャ劇場のすぐ隣には、古代の石切り場「ラトミーア」が広がっています。その中でも特に大きく不思議な形をした洞窟が「ディオニュシオスの耳(Orecchio di Dionisio)」と呼ばれています。高さ約23メートル、奥行き65メートルにも及ぶこの洞窟は、その入り口が人間の耳のように見えることから、画家カラヴァッジョによって命名されました。
この洞窟は卓越した音響効果で有名です。内部で出した小さな声や物音が洞窟全体に反響し、非常に大きく聞こえます。伝説によると、シラクーザの僭主ディオニュシオス1世が囚人の会話を盗み聞きするために牢獄として利用したと伝えられています。
実際に中で拍手をしたり声を出すと、その驚くべき反響に感動するでしょう。多くの観光客が音響効果を試すために声や音を響かせており、様々な響きが楽しめます。内部はひんやりとしていて夏の暑さをしのぐのにも適していますが、地面が湿り滑りやすい箇所もあるため足元には十分注意してください。
ローマ円形闘技場
ギリシャ劇場が演劇の場だったのに対し、こちらローマ円形闘技場は剣闘士と猛獣の戦い、さらには模擬海戦など、より血なまぐさい見せ物の舞台として機能しました。紀元後3世紀に建設されたこの闘技場は、シチリア島で3番目の規模を誇ります。現在は一部の遺構のみが残っていますが、楕円形の競技場跡や観客席跡から当時の熱狂が伝わってくるようです。中央部には舞台装置を操作するための地下通路の跡も見ることができます。ギリシャ文化とローマ文化、異なる文明が遺した対照的な娯楽施設を比較するのも、シラクーザ観光の楽しみの一つです。
ネアポリス考古学公園の訪問ポイント
- チケット購入: チケットは公園入口で購入可能で、ギリシャ劇場、ディオニュシオスの耳、ローマ円形闘技場を含む共通券となっています。近隣にある「パオロ・オルシ州立考古学博物館」との共通券も販売されており、歴史愛好家にはこちらが断然お得です。公式チケット販売サイト Aditus Cultureで事前にオンライン予約を済ませておけば、当日の長蛇の列を避けスムーズな入場が可能です。
- 訪問に適した時間帯: 公園内には日陰がほとんどないため、特に夏の日中は非常に暑くなります。熱中症対策のため、開園直後の午前中や閉園近くの夕方の涼しい時間帯の訪問を強くおすすめします。
- 必携アイテム:
- 歩きやすい靴: 広大な敷地を歩くため、また足元が不安定な場所も多いため、スニーカーなど歩きやすい靴が必須です。
- 十分な水分: 売店はありますが、常に水を携帯するのが賢明です。最低でも1リットルの飲料を用意しましょう。
- 日よけ対策: 帽子、サングラス、日焼け止めは必ず持参してください。
- 軽食: 長時間の滞在時には、エネルギー補給のための軽食があると便利です。
シラクーザの食文化:太陽と海の恵みを味わい尽くす

歴史と遺跡が息づくシラクーザですが、この街のもう一つの大きな魅力は、間違いなく「食」にあります。食品商社で働く私にとって、シラクーザはまさに宝の宝庫です。ギリシャ、ローマ、アラブ、ノルマン、スペインといった多彩な文化が交錯してきた歴史は、ここで育まれた料理にも深い影響を及ぼし、複雑で豊潤な食文化を築き上げてきました。イオニア海からの新鮮な魚介類、太陽の恵みを浴びて育った色とりどりの野菜や果物、さらに古代から受け継がれる伝統的なレシピ。そのすべてが旅人の五感を刺激し、至福のひとときを約束してくれます。
シチリア料理の真髄に出会う
シラクーザで食事をする際には、地元の伝統料理をぜひ試してみてください。レストランのメニューにこれらの名前を見つけたら、迷わずオーダーしてみるのがおすすめです。
- パスタ・コン・レ・サルデ(Pasta con le Sarde): シチリアを代表するパスタ料理のひとつ。新鮮なイワシ、野生のフェンネル、松の実、レーズン、サフランが織りなす甘みと塩味、そしてハーブの香りが絶妙に調和した一品です。アラブ文化の影響が色濃く反映された複雑で奥行きのある味わいは、一度味わえば忘れられない体験となるでしょう。
- スパゲッティ・アイ・リッチ・ディ・マーレ(Spaghetti ai Ricci di Mare): ウニを贅沢に使ったパスタ料理。シラクーザ近郊の海で取れる新鮮なウニをふんだんに盛り込み、濃厚でクリーミーな味わいが広がります。口いっぱいに磯の香りが満ち、海の恵みを存分に感じられます。提供時期が限られていることもあるので、出会えたらラッキーです。
- カポナータ(Caponata): 揚げたナスをトマト、玉ねぎ、セロリなどと一緒に甘酸っぱいソースでじっくり煮込んだ、シチリアの伝統的な家庭料理。冷やして前菜として、また肉や魚の付け合わせとしても楽しめます。味付けは店ごとに微妙に異なるため、食べ比べもまた楽しみの一つです。
- アランチーニ(Arancini): シチリア独特のライスコロッケ。サフランで色付けしたご飯の中に、ラグーソースやモッツァレラチーズなどを包み込み、外はカリッと揚げた一品です。市場の屋台やバールで気軽に味わえる名物B級グルメで、小腹がすいた時の最適なおやつとして親しまれています。
これらの料理と合わせるなら、地元産のワインが特におすすめです。シチリアの地葡萄品種「ネロ・ダーヴォラ」を使った赤ワインは、豊かな果実味とスパイシーさが特徴。一方、魚介料理には「グリッロ」や「カタラット」といった品種の、爽やかでミネラル感あふれる白ワインがよく合います。
おすすめのレストラン&トラットリア
オルティージャ島を中心に、素晴らしいレストランやトラットリアが数多くあります。ここでは、私自身が訪れて感動したいくつかのお店をご紹介します。
Osteria da Mariano(オステリア・ダ・マリアーノ)
路地裏のひっそりとした場所にあり、地元の人々から絶大な支持を受けるオステリアです。派手な看板はなく、一見すると見逃してしまいそうな佇まいですが、扉を開けると温かな活気に満ちた食の世界が広がります。メニューは日替わりで、その日市場から仕入れた新鮮な食材を使い、手作りの味を守るマンマ(お母さん)が腕をふるいます。特に魚介の前菜盛り合わせは圧巻で、ウニ、エビ、タコ、貝類など、新鮮な海の幸が華やかに並びます。予約は必須で、英語はあまり通じませんが、指差しとシンプルなイタリア語、そして「美味しいものを食べたい」という情熱があれば心配いりません。
予約のポイント: 人気店のため、ディナーは数日前、ランチでも前日までに予約するのが安心です。直接お店に出向いて予約するか、ホテルのスタッフに電話予約をお願いするのが確実です。
Sicilia in Tavola(シチリア・イン・ターヴォラ)
こちらも路地に隠れた家庭的な雰囲気のトラットリアで、コストパフォーマンスが抜群の人気店です。予約は受け付けていないため、常に行列ができていますが、並んでも損はないと言える味と価格が魅力です。名物は手打ちパスタで、もちもちとした食感と濃厚なソースが絶妙に絡みます。イワシのパスタやイカスミパスタなど、シチリアの伝統的な味を気軽に楽しめるのも魅力。フレンドリーなスタッフのサービスも心地よく、シラクーザの人情を感じられるお店です。
行列対策: 開店時間(通常19時頃)の少し前に到着するのがおすすめ。一巡目に入れば、待ち時間を最小限に抑えられます。たとえ行列が長くても、回転は比較的速いため、根気よく待つ価値があります。
甘美なドルチェとカフェタイムの楽しみ
シチリアの食文化を語る上で、ドルチェ(デザート)は欠かせません。アラブ文化の影響を受けており、リコッタチーズやアーモンド、ピスタチオといった素材を贅沢に使った濃厚で個性的な味わいが魅力です。
- カンノーリ(Cannoli): サクサクに揚げた筒状の生地に、甘くてクリーミーなリコッタチーズのクリームを詰めたシチリアを代表するお菓子。注文を受けてからクリームを詰める店が多く、出来立ての新鮮な味わいが楽しめます。
- カッサータ(Cassata): リコッタチーズのクリームをスポンジケーキでサンドし、マジパンで覆って砂糖漬けのフルーツを飾った視覚的にも華やかなケーキ。かなり甘めですが、その濃厚な味は一度は試すべき逸品です。
- グラニータ(Granita): シチリア風のかき氷で、日本のものとは異なり果汁を凍らせて作った、滑らかでシャーベットに近い食感が特徴です。定番のレモン、アーモンド、ピスタチオのほか、季節によっては桑の実(Gelsi)やイチジクなどの味も登場します。これをふわふわのブリオッシュに浸して食べるのが、シチリア流の夏の朝食です。
Artale(アルターレ)
ドゥオーモ広場からほど近いこのパスティッチェリアは、カンノーリの名店として知られています。ショーケースの生地を指さして注文すると、その場でたっぷりとリコッタクリームを詰めてくれます。外はカリッと、中はとろけるようなクリーミーさのコントラストは格別です。
Caffè Apollo(カッフェ・アポッロ)
オルティージャ島の入口、アポロ神殿跡のすぐそばにある老舗バールです。ここのグラニータは地元でも評判で、特にアーモンド(Mandorla)とピスタチオ(Pistacchio)の味が絶品。朝、テラス席でブリオッシュとともにグラニータを味わえば、あなたもシラクーザの一員になったような気分を味わえるでしょう。
シラクーザ滞在を快適にするためのプラクティカル情報

歴史と美食が息づく魅力の街シラクーザを余すところなく満喫するため、事前に知っておくと便利な実用的な情報をまとめました。準備をしっかり整えて、快適でストレスのない旅を目指しましょう。
アクセス方法
シチリア島東部の主要な空の玄関口はカターニア・フォンターナロッサ空港(CTA)です。日本からの直行便はないため、ローマやミラノ、あるいはヨーロッパ各地の主要都市で乗り継ぎが必要です。
カターニア空港からシラクーザへの移動のポイント
- バスが最も便利: 空港到着ロビーを出てすぐのバス停から、Interbus社またはAST社のシラクーザ行き直行バスが頻繁に運行しています。所要時間は約1時間15分です。チケットはバス停付近の券売所か、バスの運転手から直接購入可能です。あらかじめInterbus社公式サイトで時刻表をチェックしておくと安心です。シラクーザ側のバス停は鉄道駅近くのバスターミナルです。
- 電車利用: 電車での移動も可能ですが、空港からカターニア中央駅までバスで移動し、その後電車に乗り換える必要があるため、バスよりも時間と手間がかかります。
- タクシーや専用車: 荷物が多い場合や深夜の到着時に便利ですが、料金は高めでおおよそ100ユーロ前後です。複数人数で利用すると割安になるため、選択肢として検討できます。
宿泊エリアの選び方
シラクーザの宿泊先は主に「オルティージャ島」と「新市街」の二つに分けられます。
- オルティージャ島: 歴史的な街の中心部に滞在し、朝から夜までその独特な雰囲気を満喫したいならオルティージャ島がおすすめです。レストランや観光スポットが徒歩圏内に集まっており、夜の散歩も楽しめます。ただし、狭い路地で車の乗り入れが制限されるゾーン(ZTL)があるため、レンタカー利用時は注意が必要です。宿泊施設はB&Bやアパートメントタイプが多く、価格はやや高めの傾向にあります。
- 新市街: 鉄道駅やバスターミナルの周辺に広がる新市街は、比較的手頃な価格のホテルが多く、駐車場も確保しやすいのが特徴です。レンタカーでのシチリア周遊の拠点に適しています。オルティージャ島へは徒歩で15〜20分程度なので、散策がてら歩くのも良いでしょう。
旅の持ち物と服装
シラクーザでの滞在を快適にするためのおすすめ持ち物リストです。
- 歩きやすい靴: 最優先事項です。オルティージャ島の石畳やネアポリス考古学公園など不整地も多いため、履き慣れたスニーカーやウォーキングシューズが必須です。
- 日除けグッズ: 地中海性気候のため年間通して日差しが強烈です。帽子、サングラス、日焼け止めは季節を問わず必携アイテムとなります。
- 羽織りもの: 夏でも教会内は冷んやりしていたり、朝晩は海風が涼しく感じることがあります。薄手のカーディガンやストールがあると便利です。
- 水筒やタンブラー: こまめな水分補給を心掛けましょう。街中には水飲み場(fontanella)が多いため、マイボトルを持参すると経済的かつ環境にも優しいです。
- エコバッグ: 市場での買い物やお土産購入時に役立ちます。イタリアではレジ袋が有料のことが多いため持参がおすすめです。
- 変換プラグ: イタリアの電源コンセントはCタイプが主流です。日本のAタイプ電化製品を使用する際は変換プラグが必要です。
知っておきたい注意点とトラブル予防
- 治安: シラクーザは比較的安全ですが、観光客を狙ったスリや置き引きには警戒が必要です。市場やバス内など人が多い場所では、バッグは体の前に抱える、貴重品は分散して持つなど基本的な防犯対策を徹底しましょう。
- コペルト(Coperto): イタリアのレストランでは席料として「コペルト」が請求されるのが一般的です。パン代が含まれていることが多く、1人あたり1.5〜3ユーロ程度が相場です。サービス料とは別なので、覚えておきましょう。
- 簡単なイタリア語: 「こんにちは(Buongiorno/Buonasera)」「ありがとう(Grazie)」「お願いします(Per favore)」などの簡単なフレーズを覚えておくと、地元の人とのコミュニケーションがスムーズになります。笑顔とともに使うと温かく迎えてくれるでしょう。
- トラブル時の対応: 万が一パスポートを紛失や盗難にあった場合は、まず最寄りの警察署(PoliziaやCarabinieri)で紛失・盗難証明書を発行してもらい、その後ローマの日本大使館に連絡して再発行手続きを行います。緊急連絡先や手順を事前にメモしておくと安心です。
シラクーザの思い出を持ち帰る:おすすめのお土産

旅の終わりには、その土地独特の香りを持ち帰りたくなるもの。シラクーザは食の宝庫であるため、お土産も「美味しいもの」を中心に選ばれるでしょう。スーパーマーケットや市場、専門の食材店を巡って、特別な逸品を見つけてみてください。
太陽の恵みを瓶詰めに
- ポモドーロ・パキーノ(Pomodoro di Pachino)のソース: シラクーザ近郊のパキーノという町は、糖度が高く味わい深いチェリートマトの名産地として知られています。このトマトを使ったパスタソースは、まさにシチリアの太陽の味わい。瓶詰めや缶詰の形で販売されており、日本に戻ってからも旅の味を楽しめます。
- ピスタチオペースト: シチリアは質の高いピスタチオの産地でもあり、濃厚なピスタチオペーストはパンに塗ったり、アイスクリームにかけたり、パスタソースに加えたりと用途が多彩です。とりわけブロンテ産のものは最高品質とされています。
- 極上のオリーブオイル: シチリア産オリーブオイルはフルーティーでほんのりスパイシーな風味が特徴です。小規模な生産者が手がける高品質なオイルが数多くあり、ラベルのデザインや産地をチェックしながら選ぶのも楽しみのひとつです。
シチリアの伝統的な菓子
- パスティ・ディ・マンドルラ(Paste di Mandorla): アーモンドパウダー、砂糖、卵白を練り上げて焼いた、やわらかく香ばしいアーモンド菓子。シチリアの各地で作られており、シラクーザのパスティッチェリアでも優れたものに出会えます。日持ちがするためお土産にぴったりです。
- モディカ・チョコレート: シラクーザから日帰りで訪れることができるモディカの町は、古代アステカから伝わる伝統製法で作るチョコレートで知られています。低温で加工するため砂糖が溶けずに残り、ザラザラとした独特の食感が楽しめます。カカオの純粋な風味を味わえるほか、唐辛子やシナモン、ピスタチオなど多様なフレーバーがあります。
こだわりの塩とスパイス
- トラパニの天日塩: シチリア西部にあるトラパニの町では、古くから続く塩田で天日塩が生産されています。ミネラル豊富でまろやかな味の塩は、どんな料理も一段と格上げしてくれます。
- 乾燥オレガノ: シチリア料理に欠かせないハーブの代表がオレガノです。束になって売られている乾燥オレガノは香りが際立って強く、パスタやピザ、サラダに振りかけるだけで、瞬時にシチリアの風味を運んでくれます。
歴史の光が未来を照らす街、シラクーザ

シラクーザの旅は、まるで何層にも重なった地層を少しずつ掘り進めるかのような体験です。ギリシャ劇場に立つと、古代の悲劇に涙した人々の息づかいが聞こえてくるように感じられます。ドゥオーモの柱に触れれば、神殿から教会へと変わりながら積み重ねられてきた2500年の祈りの重みが伝わってきます。そして、市場の喧騒に身を任せれば、今を生きるシラクーザの人々の力強い生命力に圧倒されるのです。
この街において、過去は決して薄れた遺物ではありません。古代の遺跡は現代の演劇の舞台となり、神話の泉は恋人たちの語らいの場所となり、何世紀も受け継がれてきたレシピが今の食卓を彩ります。歴史の光は影を伴いながらも、確かに現在の街、そして未来の街を照らしているのです。それがシラクーザという町なのです。
迷路のように入り組んだオルティージャ島の路地を歩き、太陽の光を浴びた石畳の温もりを感じ、潮風に混じるレモンの香りを胸いっぱいに吸い込みます。絶品のパニーノを頬張り、濃厚なグラニータの味に舌鼓を打つ。そうした一つひとつの瞬間が、あなたの心に深く刻み込まれていくでしょう。
シラクーザの物語は、一度訪れただけではとうてい読み解けるものではありません。この街は訪れるたびに新たな表情を見せ、常に新しい発見をもたらす、尽きることのない魅力で満ちあふれています。では、次にこの地を訪れるとき、あなたはどんな物語の新しいページを開くのでしょうか。シラクーザは、いつまでもあなたを待ち続けています。

