地中海の中心に浮かぶ、太陽と神話の島、シチリア。その東岸に位置する古都シラクーサに、まるで宝石のように浮かぶ小さな島があります。その名は、オルティージャ島。本土とは2本の橋で結ばれた、わずか1平方キロメートルほどのこの島こそが、シラクーサ発祥の地であり、2700年以上にわたる文明の記憶を凝縮した、生きた博物館なのです。
古代ギリシャの植民都市として栄華を極め、ローマ、ビザンツ、アラブ、ノルマン、スペインと、様々な支配者の下で文化を重ねてきたオルティージャ。一歩足を踏み入れれば、そこはクリーム色に輝くバロック建築が連なる迷路のような路地。潮風が頬をなで、遠くから市場の喧騒が聞こえてくる。どこを切り取っても絵になる風景は、訪れる者の心を瞬時に掴んで離しません。
食品商社に勤める傍ら、世界の食文化を探求する私にとって、シチリア、とりわけこのオルティージャ島は特別な場所です。豊かな海がもたらす極上のシーフード、燦々と降り注ぐ太陽の恵みを受けた野菜や果物、そして幾重にも重なった歴史が生み出した独自の食文化。この島には、人生を豊かにする「美味しい」が溢れています。
この記事では、単なる観光スポットの紹介に留まらず、歴史の物語を紐解きながら、オルティージャの迷宮を歩き、その魂に触れるための具体的な方法をご案内します。地元の人々の息遣いが聞こえる市場の歩き方から、食通をも唸らせるレストランの選び方、旅の記憶を彩るお土産探しまで。あなたがこの島を心ゆくまで味わい尽くすための、実践的な旅の処方箋です。さあ、時を超えた旅へ、一緒に出かけましょう。
まずは島へ渡ろう!オルティージャ島へのアクセス完全ガイド

旅のスタートは目的地に到着することから始まります。オルティージャ島はシラクーサの本土と橋でつながっているため、比較的アクセスは簡単ですが、いくつかのポイントを押さえておくと、より快適に旅を始めることができます。特に気をつけたいのが、島内の交通規制である「ZTL」です。
空の玄関、カターニア空港からシラクーサへ
シチリア東部への玄関口となるのが、カターニア・フォンターナロッサ空港(CTA)です。日本からの直行便はなく、ローマやミラノ、またはヨーロッパ主要都市での乗り継ぎが必要です。カターニア空港からシラクーサまでは約60kmで、主な交通手段としてバス、電車、タクシー、レンタカーがあります。
便利さ抜群!空港からの直行バス
旅行者にとって最も手軽なのが、空港からシラクーサ中心部への直行バスです。Interbus社やAST社が運行しており、空港到着ロビーのすぐ外のバス停から乗車できます。
- チケット購入方法: 空港内のチケットカウンター、またはバス乗り場付近の券売機で購入可能です。オンラインで事前に予約もできますが、便数が多いため現地での購入でも問題ありません。往復で買うと割引が適用されることもあります。
- 所要時間と料金: 所要時間は約1時間15分で、料金は片道6〜7ユーロほどです。交通状況によって多少変動します。
- 降車場所: シラクーサ側のバス停は本土の鉄道駅近くのバスターミナル(Piazzale della Stazione)で終点です。オルティージャ島へは徒歩で約20分、またはタクシーや市内のミニバスを利用できます。
景色を楽しみたいなら鉄道もおすすめ
鉄道を利用する場合は、まず空港からカターニア中央駅(Catania Centrale)までAlibus(空港シャトルバス)で移動し、そこからイタリア国鉄Trenitaliaでシラクーサ駅(Siracusa)へ向かいます。
- 利用方法の流れ: 空港からカターニア中央駅まではAlibusで約20分。Trenitaliaの切符は駅の窓口や自動券売機、さらに公式サイトやアプリでも購入可能です。乗車前には駅にある刻印機でチケットに打刻(Convalida)するのを忘れないでください。打刻がないと検札時に罰金を科される場合があります。
- 所要時間と料金: カターニア中央駅からシラクーサ駅までは快速列車(Regionale Veloce)で約1時間10分、各駅停車(Regionale)だと1時間半以上かかります。料金はおおよそ8〜10ユーロです。
- ポイント: 直通バスに比べ乗り換えが必要なので、荷物が多い場合はやや不便かもしれませんが、シチリアの海岸線の景色をゆったり楽しみたい方には最適です。
自由に動きたい場合はレンタカーがベスト
シチリア島内を広く回る予定があるなら、レンタカーが最も自由度が高い選択となります。ただし、オルティージャ島へ向かう際には「ZTL(Zona a Traffico Limitato)」という交通規制に特に注意が必要です。
- ZTLとは? 歴史地区の環境保護や住民の生活を守るために設けられた車両の進入制限区域です。オルティージャ島のほぼ全域がZTLに指定され、許可を得ていない車両は特定の時間帯に入ることができません。
- 行動上のポイント:
- 宿泊施設に確認: オルティージャ島内に宿泊予定の方は、事前に宿泊先にZTL区域への通行許可が得られるかどうか必ず確認しましょう。宿泊者であれば、車の情報を伝えることで一時的な通行許可が発行される場合があります。
- ZTLの標識に注意: ZTL入口には電光掲示板があり、「Varco Attivo」(規制作動中)の間は進入禁止です。「Varco non attivo」(規制時間外)なら通行可能です。この表示の見落としによる違反は、後日高額な罰金通知が国際郵便で届くことがあるため細心の注意が必要です。
- 駐車場利用が安心: 最も確実な方法は、オルティージャ島手前の有料駐車場を利用することです。Talete駐車場やMolo Sant’Antonio駐車場が大規模で、島へは徒歩圏内です。ここに車を停めて徒歩で島内を散策するのが賢明でしょう。
シラクーサ本土からオルティージャ島へ
シラクーサの駅やバスターミナルからオルティージャ島へは、ウンベルティーノ橋(Ponte Umbertino)を渡ってすぐです。
- 徒歩: 駅から島まではおよそ20分の距離で、スーツケースがあっても歩ける距離です。街の風景を楽しみながら向かうのもおすすめです。
- タクシー: 駅前にタクシー乗り場があり、料金はおよそ10〜15ユーロ程度ですが、乗る前に料金を確認すると安心です。
- ミニバス: 「Siracusa d’Amare」というシャトルバスが運行しており、本土の主要スポットとオルティージャ島内を結んでいます。車内が小さいため、大きな荷物があると少し窮屈に感じるかもしれません。
時の迷宮へ誘う散策 – ドゥオモ広場と古代の記憶

オルティージャ島の中心部に位置し、イタリアでも特に美しい広場の一つとして知られるのがドゥオモ広場(Piazza Duomo)です。楕円形のこの広場は、太陽の光を浴びて輝くクリーム色のバロック建築にぐるりと囲まれ、まるで壮大な劇場の空間を思わせます。そこに立つだけで、誰もがその荘厳で麗しい美しさに息を呑むことでしょう。
ドゥオモ(シラクーサ大聖堂):異教の遺産とキリスト教の調和
広場の中でも圧倒的な存在感を誇るのが、シラクーサ大聖堂、通称ドゥオモです。真っ白なファサードは見事なシチリア・バロック様式の傑作ですが、この建築の真の魅力は内部構造とその歴史的背景にあります。
- 重なる時代の息吹: この大聖堂の土台となっているのは、なんと紀元前5世紀に建てられた女神アテナの神殿です。側廊を歩くと、力強いドーリア式石柱がキリスト教の壁と見事に融合しているのを確認できます。古代ギリシャの神殿がほぼそのままキリスト教会へと転用された例は非常に稀で、まさに文明の融合が形となった稀有な建築物です。2500年以上にわたり、この地が聖なる場所として崇拝されてきた歴史の重みを感じずにはいられません。
- 内部の魅力: 内部は荘厳でありながら静謐な空気に包まれています。ノルマン時代に造られた美しいモザイクの床や、聖ルチアの銀製像が安置された礼拝堂など、見どころが豊富です。差し込む光が古代の石柱と教会のアーチによって織りなされる陰影を生み出し、神秘的な雰囲気を醸し出します。
ドゥオモ訪問のポイント
- 入場料とチケット: 入場は有料で料金は数ユーロ程度。チケットは入り口横の券売所で購入可能です。混雑することは少ないですが、時間に余裕を持って訪れると安心です。
- 服装の注意: 教会を訪れる際は肌の露出が多い服装は避け、肩や膝を覆う服装での入場がマナーとされています。特に夏季はタンクトップやショートパンツでは入場を断られる場合もあるため、ストールやカーディガンをバッグに携帯しておくと安心です。これはイタリアの多くの教会で共通するルールです。
- 開館時間: 開館時間は季節によって変わるほか、ミサや宗教行事の間は観光客の入場が制限されることもあります。訪問前には公式サイトなどで最新情報を確認することをおすすめします。
カラヴァッジョの名作と聖女ルチアの物語
ドゥオモ広場に面して建つもう一つの重要な教会が、サンタ・ルチア・アッラ・バディア教会(Chiesa di Santa Lucia alla Badia)です。シラクーサの守護聖人である聖ルチアへ捧げられたこの教会には、イタリア・バロック絵画の巨匠ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの晩年の傑作『聖ルチアの埋葬』が所蔵されています。
光と影の劇的な対比で知られるカラヴァッジョ。ローマで犯した殺人事件から逃れシチリアへ辿り着いた彼が描いたこの作品は、痛々しいほどのリアリティと深い精神性を併せ持っています。薄暗い教会内でこの絵と向き合う時間は、魂が揺さぶられるような強烈な体験となるはずです。
- 訪問情報: この教会は入場無料ですが、開館時間が不規則な場合が多く、特に午後の早い時間帯は閉まっていることがよくあります。確実に鑑賞したい場合は、午前中または夕方に訪れるのがおすすめです。最新の開館状況は現地の観光案内所で確認すると確実です。
広場の周囲にはおしゃれなカフェやバールが軒を連ねています。散策で疲れたら、テラス席に座りエスプレッソやシチリア風かき氷のグラニータを片手に、行き交う人々を眺めながら過ごすのもオルティージャならではの贅沢な楽しみ方です。
海風が誘う神話の世界へ – アレトゥーザの泉からマニアーチェ城へ

ドゥオモ広場の賑わいを抜けて海沿いへ歩みを進めると、オルティージャ島のもう一つの魅力が姿を現します。イオニア海の深い青と古代神話が溶け合う、風光明媚な海辺の散策路です。
アレトゥーザの泉:神話が息づく淡水の泉
海岸線に突如現れる、パピルスの群生する淡水の泉が「アレトゥーザの泉(Fonte Aretusa)」です。海辺にありながら清らかな水が湧き出るこの不思議な泉には、美しいギリシャ神話の物語が伝わっています。
森の妖精(ニンフ)アレトゥーザは、河の神アルペイオスの求愛を逃れ、月の女神アルテミスの助けにより泉へと姿を変え、このオルティージャの地に湧き出たと言われています。追いかけてきたアルペイオスもまた川となり、ギリシャからシチリアの海底を越えてこの泉でアレトゥーザと再会を果たしたと語り継がれています。夕暮れ時に夕日に染まる泉の水面を眺めると、このロマンチックな神話が現実のもののように感じられるのが不思議です。
なお、ここに自生するパピルスはエジプトのナイル以外では、ヨーロッパで唯一の野生の自生地として知られています。かつては製紙に使われており、現在もパピルス紙を用いたお土産品が販売されています。
マニアーチェ城:島の最先端にそびえる海の要塞
アレトゥーザの泉から続く海岸遊歩道(Foro Italico)を進むと、オルティージャ島の最南端に突き出るように威厳あるマニアーチェ城(Castello Maniace)が姿を見せます。
13世紀、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世(フェデリーコ2世)が築いたこの城は、シラクーサ港を守る重要な軍事拠点でした。堅牢な石造りの城壁に囲まれ、まるで海に浮かんでいるかのようなその佇まいは、中世の騎士たちの物語を彷彿とさせます。城内部にはゴシック様式の優美な大広間が広がり、かつての栄光を今に伝えています。特に城壁の上から望むイオニア海とシラクーサ港のパノラマは息をのむ美しさです。
マニアーチェ城観光のポイント
- 入場料・開館時間: 有料で開館時間は季節により異なり、特に冬季は閉館が早まるため注意が必要です。訪問前にはイタリア文化財省の公式サイトなどで最新情報の確認をおすすめします。
- 服装・持ち物: 石段や舗装されていない場所が多いため、歩きやすい靴が必須です。また、日差しを遮る場所が少ないため、夏場は帽子やサングラス、日焼け止めを忘れずに携行してください。
- チケット購入: 現地の窓口で購入します。オンライン事前予約はあまり普及していませんが、状況は変わる可能性もあるので、公式サイトでの確認をお勧めします。
ボートツアーで海上からオルティージャを眺める
オルティージャ島をより一層楽しむなら、ぜひボートツアーに参加してみてください。ウンベルティーノ橋付近やアレトゥーザの泉周辺には、多くのツアー案内人が待機しています。
ツアーでは島を一周し、海側からしか見られない海蝕洞(グロッタ)を訪れたり、マニアーチェ城を海上から眺めたりと、陸上とは全く異なる島の魅力を発見できます。特に夕暮れのサンセットクルーズは格別で、オレンジ色に染まる空とバロック様式の街並みが織りなす景色は、一生の思い出になることでしょう。
ボートツアー参加のポイント
- 予約と料金: 一般的には現地の案内人と直接交渉します。料金はツアーの時間や内容によって異なり、1時間程度の周遊で1人15~25ユーロが相場です。グループ参加や閑散期は価格交渉も可能な場合があります。オンラインで事前予約を受け付ける業者もあるので、事前確認も推奨されます。
- トラブル時の対応: 天候によってはツアー中止となることもあるため、その際の返金規定は必ず予約時に確認しましょう。信頼できる業者を見極めるためにも、複数の業者と話し合い比較検討することが大切です。
- 持ち物: 夏は強い日差し対策として帽子やサングラスが必須です。海風で冷えることもあるため、薄手の羽織るものもあると快適です。船酔いが心配な場合は、あらかじめ酔い止めを服用しておくと安心です。
食通の天国!オルティージャの市場とシチリア美食探訪

私の旅の中でも特に印象に残った場所であり、オルティージャ島の活気を最も強く実感できるのが、島の入口にあるアポロ神殿跡のすぐ裏手で毎朝開かれるメルカート(市場)です。ここは単なる食材の取引所にとどまらず、シチリアの豊かな食文化を五感で楽しめる、まさに最高のエンターテインメント空間となっています。
メルカート・ディ・オルティージャ:島の生命が息づく市場
一歩足を踏み入れれば、色彩や音、香りの洪水が押し寄せてきます。元気いっぱいのマグロ売りの呼び声、山積みになった鮮やかなパキーノトマト、身長ほどもある巨大なカジキマグロ、見たことのない珍しい貝類、そしてレモンやオレンジが放つ爽やかな香り――すべてが力強く輝いていて、歩くだけで胸が高鳴ります。
ここには、シチリアの太陽と海の恵みをたっぷり浴びた旬の食材がずらりと並び、その鮮度と質の高さには、食品商社で働く私自身も毎回驚かされるのです。特に注目してほしいのが、豊富な魚介類です。ウニ(Ricci di mare)、タコ(Polpo)、エビ(Gamberi)、イワシ(Sarde)など、すべてが新鮮そのもの。中には、魚屋の店先で新鮮なウニの殻を割り、その場でレモンを絞って味わわせてくれる店もあり、これぞシチリアならではの贅沢といえます。
市場散策のポイント
- 訪問のタイミング: 市場が最も賑わうのは午前中です。朝早くから営業を始め、午後1時から2時頃には大半の店が閉まってしまいます。活気ある雰囲気を楽しみたいなら、遅くとも午前10時頃までに訪れるのがおすすめです。なお、日曜日は休業なのでご注意ください。
- 準備と注意事項:
- 現金の用意: 小規模な店舗ではクレジットカードが使えない場合が多いので、ある程度の現金(ユーロ)を持って行くと安心です。
- スリに注意: 活気ある場所ゆえ、スリの被害にも注意が必要です。バッグは必ず体の前で抱え、貴重品は分散して管理するなど、基本的な対策を怠らないようにしましょう。
- 服装: 地面が濡れていることもあるため、汚れてもよく滑りにくい靴で訪れるのが賢明です。
- 市場で味わうストリートフード:
メルカートの魅力は、見るだけでなくその場で味わうことにもあります。市場内および周辺には、絶品のストリートフードを提供する店が多く点在しています。
- Caseificio Borderi: 市場の奥に位置し、常に行列が絶えないチーズ&デリカテッセン。名物は特大のパニーノで、オーナーのアンドレアさんが歌を歌ったり冗談を交えながら、目の前でリコッタチーズやサラミ、ドライトマト、オリーブをたっぷりと挟んでくれます。味もさることながら、そのパフォーマンスも含めて忘れがたい体験です。
- Fratelli Burgio: こちらも人気のデリカテッセンで、新鮮な食材を使ったタリエーレ(盛り合わせプレート)が看板メニュー。ワインを片手に市場の活気を感じながら楽しむことができます。
オルティージャで楽しむべきシチリア料理
市場で食欲をそそられたら、次はレストランで本格的なシチリア料理を味わってみましょう。オルティージャ島には、星付きの高級リストランテから気軽に入れるトラットリア、ピッツェリアまで、幅広い選択肢が揃っています。
- シチリア料理の特徴: シチリア料理はイタリア本土の料理とは異なり、アラブやギリシャ、スペインなど、多様な文化の影響を色濃く反映した独自の発展を遂げています。新鮮な魚介類に加え、ナスやトマト、イワシ、松の実、レーズン、ケッパーなどを巧みに使った料理が多いのが特長です。
- 押さえておきたい名物料理:
- パスタ・コン・レ・サルデ(Pasta con le Sarde): イワシと野生のフェンネルを合わせた、シチリアを代表するパスタ。松の実やレーズンの自然な甘みがアクセントとなり、味わいは奥深く複雑です。
- スパゲッティ・アイ・リッチ・ディ・マーレ(Spaghetti ai Ricci di Mare): 新鮮なウニを贅沢に使ったパスタ。濃厚で豊かな海の風味が口いっぱいに広がる、まさに絶品の一皿です。
- カポナータ(Caponata): ナスを甘酢で煮込んだ冷たい前菜。トマトや玉ねぎ、セロリ、オリーブ、ケッパーなどを炒めて煮込んだ料理で、店ごとに味の違いを楽しめるのも魅力です。
- アランチーニ(Arancini): シチリア名物のライスコロッケ。ラグーソースやモッツァレラチーズを詰めたものが定番で、外はカリッと中はとろりとした食感がたまりません。
- マグロのボッタルガ(Bottarga di Tonno): マグロの卵巣を塩漬けにして乾燥させた、日本のカラスミに似た珍味。パスタに絡めたり薄くスライスして味わったりします。その濃厚な旨味は白ワインと特に相性が良いです。
レストラン選びと予約のポイント
- 予約は必ず行うこと: とくに夕食時は人気店への直行が難しい場合が多く、週末や観光シーズンは事前に数日前から予約を済ませておくことをおすすめします。予約は電話が確実ですが、近年は公式サイトや予約サービスを通じてオンライン予約できる店も増えています。
- 店の選び方: ドゥオモ広場周辺の一等地は観光客向けで価格が高めなこともあるため、少し路地を入った地元の人々で賑わうトラットリアやオステリアを選ぶと、本物の味に出会える確率が高まります。
- チップについて: イタリアではチップは義務ではありませんが、満足のいくサービスを受けた際は、会計額の5〜10%程度を現金でテーブルに置いておくと良い印象を与えます。ただし、サービス料(Servizio)が含まれている場合は無理に支払う必要はありません。
旅の思い出を形に – オルティージャで見つける特別な一品

旅の楽しみのひとつに、その土地ならではのお土産探しがあります。オルティージャの細い路地を歩いていると、職人のこだわりが詰まったショップや、シチリアの豊かな恵みを詰め込んだ食材店など、魅力あふれる店々に次々と出会えます。ここでは、旅の思い出を鮮やかに呼び起こす、特別なお土産をいくつかご紹介します。
シチリアの太陽を宿した伝統工芸品
オルティージャのお土産屋でまず目を奪われるのは、色彩豊かな陶器(マヨルカ焼き)です。
- 鮮やかな陶器: レモンや太陽、海をテーマにした絵皿やカップ、タイルは、シチリアの明るく陽気な空気をそのまま家に届けてくれます。特に有名なものに、「テスタ・ディ・モーロ(Testa di Moro)」と呼ばれる、ムーア人の頭部を模した陶器の装飾品(花瓶など)があります。そこには悲しい伝説が秘められていますが、シチリアの象徴的な工芸品として知られています。
- プーピ・シチリアーニ(Pupi Siciliani): シチリアの伝統的な人形劇に使われる騎士の人形で、職人の手による精巧な作りが特徴です。インテリアとしても存在感が際立ちます。
- お土産購入時のポイント: 陶器など割れ物を購入する際は、しっかりと梱包してもらうようお願いしましょう。持ち帰る際は機内持ち込みの手荷物にするのが最も安全です。預け荷物にする場合は、衣類などで丁寧に包み、衝撃に備える必要があります。
食の宝庫シチリアから持ち帰りたい逸品グルメ
グルメライターとして、特におすすめしたいのはやはりシチリアならではの美味しい食材です。
- ピスタチオ製品: シチリア、とくにエトナ山麓のブロンテ産ピスタチオは世界的に高品質で知られ、その風味は格別です。ピスタチオクリーム(スプレッド)はパンやジェラートにかけるだけで絶品で、お菓子作りにも重宝します。
- モディカ・チョコレート(Cioccolato di Modica): シラクーサから少し足を伸ばしたモディカで伝統的な古代製法で作られるチョコレートです。アステカ文明から伝わる製法を守り、低温で製造されるため砂糖が溶けずに残り、ジャリジャリとした独特の食感が楽しめます。カカオの純粋な味わいに加えて、唐辛子やシナモン、ピスタチオなど多彩なフレーバーが揃います。
- 乾燥トマトとオリーブオイル: シチリアの太陽の恵みを受けて乾燥させたドライトマト(Pomodori secchi)は旨味が凝縮され、パスタやサラダに加えるだけで料理を格上げします。また、高品質のエキストラバージンオリーブオイルもシチリアを代表する名産品です。
- 海産加工品: マグロやカジキマグロのオイル漬け、アンチョビ、さらには先に触れたボッタルガ(カラスミ)など、日持ちのする瓶詰めや真空パック製品はお土産に最適です。
- 食品購入時の注意点: 肉製品(サラミなど)や生の果物や野菜は、日本の検疫規制により持ち込みが制限または禁止される場合があります。購入前に、農林水産省・動植物検疫所のウェブサイトで最新情報を確認することをおすすめします。瓶詰め品を持ち帰る際には液漏れ対策としてビニール袋に入れるなどの工夫を忘れずに。
シラクーサ本土と近郊へ – もう一つの古代遺跡とバロックの街々

オルティージャ島だけでも数日間じっくり楽しめますが、時間に余裕があるならぜひ橋を渡ってシラクーサ本土や近隣の街へも訪れてみてください。そこにはオルティージャとは異なる趣きが待ち受けています。
ネアポリス考古学公園:古代ギリシャの壮大な劇場
シラクーサ本土の必見スポットがネアポリス考古学公園(Parco Archeologico della Neapolis)です。オルティージャ島からは徒歩で約30分、またはバスでアクセス可能です。
- ギリシャ劇場(Teatro Greco): 公園の見どころは、何と言っても古代ギリシャ時代に築かれた巨大な野外劇場。岩盤を削って作られた半円形の客席は、最大で約15,000人を収容できたと伝えられています。現在でも夏季にはギリシャ悲劇の上演があり、古代の観客と同じ場所で演劇を楽しむ、時代を超えた体験が味わえます。
- ディオニュシオスの耳(Orecchio di Dionisio): ギリシャ劇場の隣にそびえる高さ23メートルの巨大な人工洞窟。入口が人間の耳の形に似ていることからこの名が付けられました。内部は抜群の音響効果を持ち、かすかな囁き声でも洞窟全体に響き渡ります。伝説によれば、古代シラクーサの僭主ディオニュシオスがこの洞窟を牢獄として使い、囚人の会話を盗み聞きしていたそうです。
- ローマ円形闘技場(Anfiteatro Romano): 剣闘士の戦いや猛獣との闘技が繰り広げられたローマ時代の闘技場跡地。ギリシャ劇場とはまた異なる、ローマ帝国の力強さを感じさせる遺跡です。
考古学公園訪問のポイント
- チケット購入: 人気の高い場所で、チケット売り場は常に長蛇の列ができています。時間を効率よく使うために、公式サイトから事前にオンライン購入することを強くお勧めします。オルティージャ島のパオロ・オルシ考古学博物館との共通券もあります。
- 準備と持ち物: 公園内は非常に広く、日陰がほとんどありません。夏に訪れる場合は必ず帽子やサングラス、多めの水分を持参してください。足元は未舗装の場所が多いため、歩きやすいスニーカーが必須です。
バロックの宝石箱 — ヴァル・ディ・ノート地方の後期バロック様式の街々
シラクーサを拠点に少し足を伸ばすなら、世界遺産にも登録されている「ヴァル・ディ・ノートの後期バロック様式の町々」がおすすめです。1693年の大地震で壊滅的な被害を受けた後、当時最先端のバロック建築様式で再建された、美しい街並みが今に残っています。
- ノート(Noto): 「石の庭園」と称される、ハチミツ色の石造りのバロック建築が並ぶ優雅な街並み。夕暮れ時には建物が夕日に照らされて黄金色に輝き、息を呑む美しさです。
- ラグーザ(Ragusa): 谷を挟んで古い街(イブラ地区)と新しい街が広がる立体的な景観が特徴。イブラ地区の迷路のような路地と丘の上から望む眺めは絶景です。
- モディカ(Modica): 谷間に広がるバロック建築の街並みと、100を超える教会があることで知られています。また、先ほどお土産で紹介した古代製法のチョコレートの発祥地でもあります。
近郊の街へのアクセス方法
- 公共交通機関: これらの町へはシラクーサからASTやInterbusといったバスが運行しています。ただし便数は限られているため、事前にInterbus社の公式サイトで時刻表を細かく確認し、計画を立てることが大切です。往復チケットをあらかじめ購入しておくのも安心です。
- レンタカー: 自由に周遊するにはレンタカーがおすすめですが、多くの市街地はZTL(交通規制区域)になっているため、駐車場の場所などを事前に調べておく必要があります。
- ツアー: 日帰り観光ツアーを利用する手もあります。移動の手間が省け、効率よく複数の街を巡ることができます。
古代の光が満ちる島、オルティージャで過ごす至福の時

オルティージャ島は、その美しさだけでは語り尽くせない、奥深い魅力を秘めた場所です。狭い路地に足を踏み入れると、建物の合間から青い海がふと顔をのぞかせ、遠くから響く教会の鐘の音が何世紀もの時の流れを静かに伝えてきます。
朝は市場の賑わいに活力をもらい、昼には古代遺跡の石段に腰を下ろして遥かな過去に思いを馳せる。午後はカフェのテラスで人々の様子を眺めながら過ごし、夕暮れ時には海辺を散策して空と海が溶け合うマジックアワーに心を奪われます。そして夜には、シチリアの美味しい料理とワインを味わいながらゆったりとした時間を楽しむのです。
この島では、急ぎ足で過ごす必要はありません。むしろ、気の向くままに歩き、迷うことすらも楽しむのが何よりの過ごし方でしょう。思いがけず訪れた小さな教会や、地元の人だけが知る美味しいジェラート店、窓辺で和やかに談笑する老夫婦の姿。そんなガイドブックには載っていない発見こそが、旅を特別なものにしてくれます。
歴史や文化、美食、そしてそこで暮らす人々の温かさ。オルティージャ島は、訪れた者の五感を優しく刺激し、日常の疲れた心を穏やかに解きほぐしてくれる不思議な力を持っています。この記事が、あなたのシチリア旅行、そしてオルティージャという名の迷宮を巡る冒険の確かな道しるべとなることを願ってやみません。さあ、あなただけの物語を紡ぐために、この光あふれる島へ旅立ってみませんか。







