地中海の太陽が降り注ぐシチリア島、その州都パレルモの中心に、まるで古代の神殿のように荘厳な姿で佇む建築物があります。それが、今回ご紹介する「マッシモ劇場(Teatro Massimo Vittorio Emanuele)」。その名はイタリア語で「最も大きな劇場」を意味し、言葉通り、イタリア最大、そしてヨーロッパでも屈指の規模を誇るオペラの殿堂です。しかし、この劇場が人々を惹きつけてやまない理由は、その大きさだけではありません。
ここは、イタリア統一の夢とパレルモ市民の誇りが結晶した場所であり、血と涙、そして歓喜の歴史が刻まれた舞台。そして何より、映画史に燦然と輝く不朽の名作、『ゴッドファーザー PART III』のあの衝撃的なクライマックスシーンが撮影された聖地として、世界中の映画ファンの心を捉え続けています。
食品商社に勤める傍ら、世界中の食と文化を求めて旅する私にとって、シチリアは常に特別な場所。この島には、複雑な歴史が生んだ独特の文化と、生命力あふれる食が満ちています。そして、その魂のど真ん中に位置するのが、このマッシモ劇場なのです。今回は単なる観光案内ではありません。この壮麗な劇場を120%味わい尽くすためのチケットの取り方から、観劇のマナー、周辺の美食スポット、そして知られざるミステリーまで、私の経験と知識を総動員して、徹底的にご案内いたしましょう。この記事を読み終える頃には、あなたはもうパレルモ行きの航空券を探し始めているはずです。さあ、シチリアの魂に触れる旅へ、ご一緒に。
パレルモの心臓、マッシモ劇場の歴史と建築美

ヴェルディ広場に足を踏み入れると、その圧倒的な存在感にまず息をのむことでしょう。マッシモ劇場は単なる美しい建築物ではなく、一つひとつの石にシチリア、そしてイタリア近代史の重みが刻み込まれています。
統一イタリアの夢と情熱が築いた記念碑的建築
この劇場の建設計画は19世紀後半に始まりました。イタリアが長らく分裂していた時期から統一国家へと進み出した、リソルジメント(イタリア統一運動)の熱狂の中でのことです。新生イタリア王国の一員となったシチリア、そしてその首都パレルモは、かつて独自の王国としての威厳を示した歴史を持ち、新時代の象徴となる壮麗なオペラハウスを求めていました。ヨーロッパの主要都市にひけを取らない華やかで壮大な劇場の建設は、市民にとって新たな時代への希望そのものでした。
1864年に国際公募が行われ、地元パレルモ出身の建築家ジョヴァン・バッティスタ・フィリッポ・バジーレの案が選ばれます。しかし、工事は順調に進みませんでした。政治的不安や資金不足、さらに建設予定地から古代の教会跡や墓地が発見されるなど、多くの障害が立ちはだかりました。着工は計画から11年後の1875年で、残念ながら設計者である父バジーレは完成を待たずにこの世を去ってしまいます。
父の熱意を継いだのが息子のエルネスト・バジーレでした。父の壮大な構想を尊重しつつ、当時ヨーロッパで流行し始めていた新たな芸術様式、アールヌーヴォー(イタリアでは「リバティ様式」と呼ばれます)のエレメントを内装に巧みに取り入れ、劇場をより一層洗練されたものへと昇華させました。
着工から22年、1897年5月16日にヴェルディ作『ファルスタッフ』でこけら落としが行われ、マッシモ劇場はついにその荘厳な姿をパレルモの人々に披露しました。親子二代の情熱と市民の長年の願いが結実した瞬間であり、この劇場は単なる娯楽施設を超え、パレルモの誇りとアイデンティティの象徴となっているのです。
ギリシャ神殿とローマ建築の融合が生む壮麗なネオクラシック様式
マッシモ劇場の建築様式はネオクラシック(新古典主義)を基本としています。古代ギリシャ・ローマの美意識を理想とし、その荘重さや調和を復元しようとしたスタイルです。
劇場の正面に立つと、6本の巨大なコリント式円柱が並ぶファサードが目を引きます。これはシチリアに点在する古代ギリシャの神殿群、特にセリヌンテの神殿に着想を得たと言われています。その円柱の上部には「芸術は魂を育て人々の生活を明るくする。無意味な日々を送る者たちを劇場に導き、無感動な者たちに喜びや悲しみを与えることこそ劇場の使命である」という趣旨のラテン語の碑文が刻まれ、ここが芸術を享受する神聖な場所であることを示しています。
大階段を上がると、その両側に並ぶ二体のブロンズ製ライオン像が訪問者を出迎えます。右側の前足を球に乗せ、穏やかな表情のライオンは「抒情詩(Lirica)」を象徴し、左側の獲物に飛びかかろうとする猛々しい姿のライオンは「悲劇(Tragedia)」を表しています。オペラが持つ二面性を巧みに表現し、これからの舞台への期待を高めてくれます。
一歩劇場内部に踏み入れると、外観の重厚な荘厳さとは異なり、華やかで優美な空間が広がっています。父バジーレの堅牢なネオクラシックと、息子エルネストが加えた軽快で曲線的なリバティ様式が見事に調和しています。特に有名なのは「ポンペイの間(Sala Pompeiana)」。古代ローマのポンペイ遺跡の壁画を彷彿とさせる鮮烈な赤を基調とした円形ホールで、休憩時間には着飾った紳士淑女たちの社交の場となります。また、パレルモ貴族の紋章で天井を飾る「紋章の間(Sala degli Stemmi)」など、各部屋がまるで芸術品のような完成度を誇ります。
ヨーロッパ最大級のオペラハウス、驚異の音響効果を誇るメインホール
マッシモ劇場の真価はそのメインホールに集約されています。客席数は約1,387席で、完成当時はヨーロッパで三番目の規模を誇りました。客席は伝統的な馬蹄形に配され、豪華なボックス席が5層もの層をなして壁面を囲みます。深紅のビロード張りの座席や金箔の装飾、そして天井を見上げるとアンドレア・カッメラーノ、ロッコ・レンティ、フランチェスコ・ディ・バルトロら画家による寓意画「芸術の勝利」が観客を圧倒します。
しかし、このホールの最大の驚きは、その卓越した音響設計にあります。舞台で囁くような小声までも最上階の天井桟敷までクリアに届くとされ、その音響は「完璧な耳(l’orecchio perfetto)」と評されています。この奇跡的な音響効果をもたらす秘密の一つが、ホール天井裏に設けられた「共鳴室(Camera acustica)」と呼ばれる巨大な空間です。木材を巧みに組み合わせて作られたこの共鳴室が、劇場全体を巨大な楽器のように響かせ、豊かで美しい音色を生み出しています。この設計は今なお音響学の専門家を唸らせるほど完成度の高いものです。
映画ファン必見!『ゴッドファーザー PART III』の聖地巡礼

マッシモ劇場の名声を世界に知らしめた最大の立役者は、間違いなくフランシス・フォード・コッポラ監督です。1990年公開の映画『ゴッドファーザー PART III』のクライマックスに登場する、約40分にわたるオペラのシーンは、このマッシモ劇場で撮影されました。
悲劇のクライマックスが繰り広げられた大階段
映画をご覧になった方なら、忘れられない印象的な場面です。それは、オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』の終演後、多くの観客が一斉に劇場の外に出てくる、その大階段の上で起きた悲劇の瞬間です。
敵対するマフィアのドンを狙った銃弾が誤って、最愛の娘メアリー(ソフィア・コッポラ)の胸を突き刺してしまいます。アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが娘の亡骸を抱きしめ、言葉にならない嘆きに沈む…。映画史に残るこの壮絶なシーンは、まさにマッシモ劇場の正面にある大階段で撮影されました。
実際にその階段に立つと、あの映画の一場面が鮮明に蘇ってきます。一歩ずつ石の階段を踏みしめるごとに、マイケルの絶望や悲哀が足元から伝わってくるような不思議な感覚にとらわれます。多くの観光客がこの階段で思い思いのポーズを取り、記念撮影を楽しんでいます。ぜひあなたも、マイケルが崩れ落ちたその場所で、コルレオーネ一族の栄光と悲劇に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。まるで映画の世界に入り込んだかのような特別な体験が味わえるはずです。
劇場内部の撮影場所を巡る
映画の撮影は、この大階段だけでなく劇場の内部でも行われました。マイケルたちがオペラを鑑賞していたのは、最上位の格式を誇るロイヤルボックス(貴賓席)でした。一方、マイケルの甥ヴィンセント(アンディ・ガルシア)が、敵の殺し屋を追跡し緊迫した攻防を繰り広げたのは、劇場内の廊下やホワイエのエリアです。
これらの場所は、のちに開催されるガイドツアーに参加することで訪れることができます。ツアーの案内役によっては、撮影の裏話やどのシーンがどの場所で撮られたのかを詳しく説明してくれることもあるでしょう。映画のパンフレットやスマートフォンに保存した画像と照らし合わせながらロケ地を巡ると、感動は一層深まります。華麗で豪奢な劇場の装飾と、スクリーンの中で繰り広げられたマフィアの激しい争いとの対比が、この劇場の光と影をよりいっそう際立たせています。
マッシモ劇場を120%楽しむための実践ガイド

それでは、マッシモ劇場の魅力を実際に味わうための具体的な方法をご紹介します。「行ってみたいけれど、海外のオペラハウスは敷居が高そう…」とお考えの方も安心してください。チケットの購入方法から当日の服装まで、このガイドを読めば誰でもスマートにマッシモ劇場を楽しめます。
鑑賞?見学?あなたにピッタリの楽しみ方を探そう
マッシモ劇場の楽しみ方は大きく分けて2つあります。
- オペラ、バレエ、コンサートを鑑賞する
本場の劇場で最高の音響を体感しながら芸術に浸る、正統派の楽しみ方です。公演はシーズンごとに変わり、ヴェルディやプッチーニなどのイタリアオペラの名作から、モダンバレエ、クラシックコンサートまでバリエーション豊かです。旅の特別な夜にしたい方にぴったり。公演時間は演目によって異なりますが、休憩を含めて約3時間前後が一般的です。料金も座席のランクによって幅がありますが、天井桟敷なら比較的手頃な価格で楽しめます。
- ガイド付き見学ツアーに参加する
「オペラにはあまり興味がないけれど建物内部は見てみたい」「滞在時間が短くて夜の公演に行けない」という方には、日中に行われるガイドツアーが最適です。約30分のツアーで、メインホールやロイヤルボックス、ポンペイの間など劇場の主要スポットを巡ります。リハーサルがなければ舞台に上がれることも。建築や歴史に興味のある方はこちらの方が満足度が高いかもしれません。
どちらを選ぶかは興味や旅程次第です。昼にツアー参加、夜に公演鑑賞という両方楽しむ贅沢なプランも可能です。
チケット入手ガイド
チケットは主に「オンライン予約」と「劇場窓口での購入」の2通りがあります。最も確実かつ便利なのはオンライン予約です。
オンライン予約の流れ
海外でのチケット購入が不安でも、公式サイトは英語対応で方法はとても簡単です。
- 公式サイトへアクセス: まずマッシモ劇場公式サイトにアクセスし、英語表示に切り替えます。”TICKETS”や”CALENDAR”から希望の日や演目を選びましょう。
- 公演と座席の選択: カレンダーの公演をクリックすると詳細ページへ。そこで “BUY TICKETS” を押すと座席表が出ます。色分けされた座席表で料金帯がひと目でわかります。
- Platea(プラテア): 1階の平土間席。舞台に最も近く臨場感抜群ですが、価格は最も高め。
- Palchi(パルキ): 馬蹄形ボックス席。プライベート感があり優雅な気分になれます。階層が高いほど安価ですが、ボックスによっては舞台の一部が見えにくい席もあるため注意が必要です。
- Galleria(ガレリア): 最上階の天井桟敷席。距離はありますが、料金は最も手頃でホールのよい音響も十分楽しめます。
- 支払いとEチケット受け取り: 座席を決めたら指示に従い個人情報とカード情報を入力。決済完了後、登録メールにEチケット(QRコード付きPDF等)が届きます。当日はこれを印刷するかスマートフォンで提示して入場します。
予約のコツ: 人気の公演や好位置の座席は数ヶ月前に売り切れることも多いです。特に繁忙期の週末は早めの予約が肝心。旅の予定が決まったらすぐに公式サイトをチェックする習慣をつけましょう。
劇場窓口での購入
もちろん、パレルモ到着後に劇場外のチケットオフィス(Biglietteria)で購入も可能です。窓口はヴェルディ広場に面しています。
- 営業時間: 事前に公式サイトで確認すると安心。公演のない日も営業している場合があります。
- 当日券: 空席があれば当日券の販売もあります。公演によっては開演直前に割引のラストミニッツチケットが出ることもありますが確実ではありません。
- 言語の問題: スタッフは英語対応可能なことが多いですが、希望の日付、演目、座席の種類(PlateaやPalcoなど)を紙に書いて持参するとスムーズです。
ガイドツアーの予約
見学ツアーのチケットも公演チケット同様、公式サイトからオンライン予約が確実です。多くはイタリア語か英語で、予約時に言語と時間帯を選べます。窓口で空きがあれば当日参加も可能ですが、観光シーズンは混みやすいため早目の予約をおすすめします。
訪問当日のポイントと注意事項
劇場へ向かう日。当日を最高のものにするため、いくつか知っておくべき点があります。
アクセス
マッシモ劇場はパレルモの中心部、ヴェルディ広場(Piazza Verdi)に位置します。主要な観光地が集まる場所にあり、旧市街のホテルからは徒歩圏内です。ポリテアマ劇場やクアットロ・カンティなどからも近場です。
服装(ドレスコード)
一番気になるのが服装かもしれません。夜の公演と昼の見学ツアーで大きく異なります。
- 夜のオペラ・バレエ鑑賞:
厳密なドレスコードはありませんが「スマートカジュアル」が望ましいです。地元の人々はオペラの夜を特別なイベントとしてお洒落しますので、少しフォーマルに装うと気分も盛り上がります。
- 男性: ジャケットの着用が理想的。ネクタイは必須ではありませんが、襟付きシャツにスラックスかチノパンがおすすめです。ジーンズ、Tシャツ、ショートパンツ、サンダル、スニーカーは避けましょう。
- 女性: ワンピースや上品なブラウスにスカートやパンツが一般的です。華やかなアクセサリーも素敵ですが、露出は控えめに。
特に初日(Premiere)は格式高く、タキシードやイブニングドレスで着飾る方も多いです。
- 昼間のガイドツアー:
日常の観光と同じくカジュアルな服装で問題ありません。歩きやすい靴を選んでください。ただし、神聖な芸術の場ですので、タンクトップや極端に短いショートパンツは避けた方が無難です。
持ち物チェックリスト
- 必携品:
- チケット: 印刷済みのEチケットまたはスマートフォンの画面
- 身分証: パスポートのコピーなどを持っておくと安心
- あると便利なもの:
- オペラグラス: 演者の表情や衣装を詳しく見たい方には必須。劇場でレンタル可能な場合もあります。
- 薄手の上着: 夏でも冷房が効いて冷えることがあるため、ストールやカーディガンがあると快適です。
- 少量の現金: クローク利用料やプログラム購入時に便利です。
持ち込み禁止品と撮影について
- 荷物預け: 大きなバッグ、リュック、カメラ、飲食物はホール内に持ち込めません。入場前にクローク(Guardaroba)に預けましょう。クロークは入口付近にあり、利用料がかかることがあります。預かり券は紛失しないように注意してください。
- 写真撮影:
- 公演中: 撮影、録画、録音は著作権保護のため厳禁です。スマホは電源を切るか音・光を完全オフにしてください。
- 公演前後・休憩中: ホールやロビーでの記念撮影は原則可能ですが、周囲に配慮しましょう。
- カーテンコール時: 演目によってはここでのみ撮影OKの場合もありますがフラッシュは厳禁です。
- ガイドツアー中: ガイドの指示に従い、撮影可能な場所と禁止の場所があります。
トラブル時の対処法
旅では思わぬトラブルもありえます。万一の際の対処法を把握しておくと安心です。
- 公演キャンセルの場合:
ストライキや急な出演者の不調などで中止になることもあります。公式サイトで最新情報を確認しましょう。チケット代は払い戻されるのが通常です。オンライン購入なら自動返金やメール案内、窓口購入ならチケット持参で対応します。旅行代理店経由なら代理店へ問い合わせてください。
- チケット紛失の場合:
慌てず劇場のチケットオフィスへ相談を。オンライン購入なら購入確認メールや履歴をスマホで提示すれば再発行が期待できます。窓口購入でも日時や座席、クレジットカード控えが手がかりになります。身分証も持参しましょう。
- 体調不良時:
公演やツアー中に体調が悪くなったら我慢せず、近くの係員(Maschera)にすぐ助けを求めてください。適切に対応してくれます。
わからないことは遠慮なく劇場スタッフへ相談しましょう。観光客に慣れていて親切に対応してくれます。最新かつ正確な情報は、常にマッシモ劇場公式サイトで確認するのが最も確実です。
食のプロが語る、劇場周辺の美食と歩き方

さて、ここからはグルメライターとしての腕前を披露する場面です。マッシモ劇場での芸術鑑賞を、より豊かで心に残る体験にするための「食」のプランをご提案いたします。劇場周辺はパレルモ屈指の美食スポットであり、観劇の前後の過ごし方次第で旅の満足度は大きく左右されます。
観劇前の優雅なアペリティーヴォタイム
イタリアの夜の楽しみは、まず「アペリティーヴォ」から始まります。これは夕食前に一杯飲みながら軽いおつまみを楽しむ習慣です。マッシモ劇場の周辺には、開演前のワクワク感を共有するのにぴったりのバールやカフェが点在しています。
特におすすめなのは、劇場からポリテアマ劇場へ続くルッジェーロ・セッティモ通り(Via Ruggero Settimo)や、その近くの小道に佇むお店たちです。夕暮れ時にはテラス席が地元の人や観光客で賑わい、活気にあふれます。ぜひオレンジ色が鮮やかな「スプリッツ」か、すっきりと冷えた「プロセッコ」を注文してください。そこに添えられるのは、シチリア独特のおつまみ。ミニサイズのアランチーニ(ライスコロッケ)、ひよこ豆の粉で揚げたパネッレ、ポテトのクロッケといった小皿が並び、小腹を満たすのに最適です。
これから始まるオペラの世界に思いを馳せつつ、パレルモの喧騒を背景にグラスを傾ける。まさに旅の醍醐味と言える、この優雅な習慣を劇場近くで早めに体験してみましょう。
観劇後の余韻に浸る深夜のトラットリア
感動的なオペラの幕が降り、拍手喝采に包まれた後、その余韻と興奮をどこで味わうかがお楽しみのポイントです。答えは簡単、シチリア料理と美味しいワインが待つトラットリア(大衆食堂)へ向かいましょう。
パレルモの夜は遅くまで活気に満ちており、劇場周辺には深夜営業の優秀なレストランが多くあります。私が特に推したいのは、派手な観光客向け店ではなく、路地裏でひっそりと営業し地元の人々に愛される一軒です。
ぜひ味わっていただきたいのは、パレルモ名物パスタ「パスタ・コン・レ・サルデ」。新鮮なイワシと野生のフェンネル、レーズン、松の実を合わせた、ほのかに甘く香り高いエキゾチックな一皿です。アラブやギリシャなど多彩な文化が重なり合うシチリアの歴史が凝縮されています。また、薄切りのメカジキにパン粉とハーブを巻いて焼いた「インヴォルティーニ・ディ・ペッシェスパーダ」も、白ワインと非常によく合います。
感動の余韻を語りつつ、美味しい料理を楽しむ。こうしてシチリアの夜は深まっていくのです。
劇場の雰囲気を持ち帰るおすすめのお土産
旅の思い出を形に残すのも楽しみの一つ。マッシモ劇場やその周辺で素敵な記念品を探してみましょう。
- 劇場内ショップ:
劇場内にある公式ショップには、公演のプログラムやポスターはもちろん、マッシモ劇場をデザインしたトートバッグやTシャツ、文房具など、ここだけで手に入るオリジナルグッズが揃っています。オペラファンや建築好きの友人への贈り物にぴったりです。
- マヨルカ焼きの陶器:
劇場から少し歩くと、鮮やかな色彩が特徴のシチリア伝統陶器「マヨルカ焼き」を販売する店があります。太陽やレモン、ムーア人の横顔(テスタ・ディ・モーロ)をあしらった伝統的なデザインが有名ですが、中にはマッシモ劇場を描いた絵皿やタイルを扱う店も。手作りならではの温かみがあり、インテリアとしても魅力的です。
- 地元パスティッチェリア(菓子店):
グルメライターとして外せないのは甘いお土産。シチリア名物のリコッタチーズクリームを詰めた「カンノーロ」や、マジパンとリコッタチーズで作られた華やかなケーキ「カッサータ」が有名です。劇場近くの老舗パスティッチェリアでできたての味を楽しんでみてはいかがでしょうか。日持ちの良いアーモンド菓子「マルヴァジーア」や、ピスタチオクリームもシチリアらしい贈り物としておすすめです。グルメな友人には、イタリア政府観光局も推薦する上質なオリーブオイルや塩漬けケッパーも喜ばれるでしょう。
マッシモ劇場の伝説とミステリー

壮大な歴史と芸術の背後には、しばしば謎めいた物語が秘められているものです。マッシモ劇場も例外ではありません。地元の人々の間で伝えられてきた、少しぞっとするような伝説をご紹介しましょう。
幽霊の出現?修道女の呪いにまつわる伝説
実は、マッシモ劇場が建てられた場所には、かつて2つの修道院と1つの教会が存在していました。劇場建設のため、これらの歴史ある建物は取り壊され、そこにあった墓地も移動させられたのです。
そのうちの一つ、聖ジュリアーノ女子修道院の最後の修道院長は、聖なる場所が壊されることを強く拒み、呪詛の言葉を残したと言われています。それ以来、劇場内では白い修道服を身にまとった女性の幽霊が目撃されるようになったという話があります。
特に有名なのは、「つまずきの階段(gradino della suora)」と呼ばれる言い伝えです。劇場の入口付近にあるある一段でつまずくと、その修道女の呪いにより7年間の不運が続くと言われています。もちろん、これは都市伝説の一つに過ぎません。しかし、劇場を訪れた際に遊び心でその「呪いの階段」を探してみるのも一興でしょう。ガイドツアーの案内役がこっそり教えてくれることもありますよ。
シチリア・マフィアとの隠された関係
シチリア、そして『ゴッドファーザー』と聞くと、やはりマフィアの影を思い浮かべずにはいられません。実際、19世紀末から20世紀にかけてのパレルモでは、マフィアが社会のあらゆる領域に深く根を張っていたことは歴史的事実です。
マッシモ劇場の建設の過程でも、その利権を巡ってマフィアが暗躍していたという噂が絶えませんでした。さらに、完成後も劇場の運営やチケット配布の場面で彼らの影響力が及んでいたと言われています。コッポラ監督がマフィアをテーマにした作品のクライマックスの舞台としてこの場所を選んだのは、偶然ではなかったのかもしれません。マッシモ劇場は、パレルモの栄華だけでなく陰の部分も映し出す、シチリアの光と影を象徴する存在なのです。
もちろん、これは過去の話に過ぎません。現在のパレルモはパレルモ市公式の情報によれば治安も大きく改善されており、世界中から訪れる観光客が安心して楽しめる安全な街となっています。どうぞ安心して、その奥深い歴史を味わってください。
旅の終わりに、シチリアの魂に想いを馳せて

マッシモ劇場は、美しいオペラハウスという言葉だけでは到底語りきれない、数えきれないほど多くの物語を秘めた場所です。ここは、イタリア統一という壮大な歴史の波の中から生まれたパレルモ市民の誇りの結晶であり、親子二代にわたるバジーレ家の情熱が注がれた建築の傑作でもあります。
さらに、世界中の人々を魅了するオペラやバレエの聖地でありながら、映画『ゴッドファーザー』に登場する悲劇の記憶が息づく場所でもあります。その大階段に立てば、まるでコルレオーネ・ファミリーの物語の一部に引き込まれたかのような錯覚にとらわれるでしょう。
豪華絢爛なホールで響き渡るアリアの旋律に心を揺さぶられ、観劇の前後にはシチリアの美食が心を満たしてくれます。時には、修道女の幽霊の伝説に胸を少しだけ高鳴らせながら、この街の光と影に彩られた歴史に想いを馳せることもあるでしょう。マッシモ劇場での体験は、私たちの五感を余すところなく刺激し、旅の記憶に深く鮮やかな彩りを添えてくれます。
もしシチリアを訪れる機会があれば、ぜひパレルモのヴェルディ広場に足を運んでみてください。そして、その荘厳な建築を見上げ、一歩劇場の中へ踏み入れてみてください。そこには、単なる観光スポットを超え、今なお力強く息づくシチリアの魂が、あなたを待ち受けていることでしょう。

