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美食の迷宮へようこそ。台北、食いしん坊たちの終わらない旅

胃袋がいくつあっても足りない街。もし、そんな表現が許される場所が世界にあるとしたら、私は迷わず台北を挙げます。ネオンきらめく近代的な都市の顔の裏で、路地裏の一本一本にまで、何十年、いや百年以上続く食の物語が息づいている。ここは、食いしん坊たちにとって、始まりも終わりもない、永遠に続く美食の迷宮なのです。食品商社で世界中の「うまいもの」に触れてきた私、隆(たかし)が、今回はその中でも特に心を掴んで離さない街、台北の奥深い食の世界へと皆様をご案内します。高級レストランの洗練された一皿から、市場の喧騒の中で頬張るB級グルメの熱気まで。ガイドブックの星の数だけでは測れない、人々の生活に根差した本物の味。さあ、深呼吸をして、お腹を空かせて。私たちの、美味しく、そしてディープな旅が今、始まります。

目次

台北の朝は豆漿(トウジャン)の優しい香りで始まる

台北の朝は、けたたましいバイクの音と、そして何よりも食欲をそそる匂いで幕を開けます。その中でも、街のそこかしこから漂ってくる優しい香り、それが豆漿(トウジャン)です。豆漿とは、簡単に言えば豆乳のこと。しかし、日本のそれとは一線を画す、台湾の朝の食文化における絶対的な主役なのです。ただ飲むだけでなく、様々な具材と合わせて「食べるスープ」として楽しむのが台北流。この一杯をすすることなくして、台北の食を語ることはできません。

定番中の定番!阜杭豆漿(フーハンドウジャン)の行列に並ぶ価値

台北の朝ごはんを象徴する場所といえば、MRT善導寺駅に直結する華山市場の2階にある「阜杭豆漿(フーハンドウジャン)」をおいて他にないでしょう。夜明け前から伸び始める長蛇の列は、もはや台北の風物詩。観光客はもちろん、地元の人々もわざわざこの味を求めてやってきます。一見すると絶望的な長さの列ですが、驚くほど手際の良い店員さんたちのおかげで、意外とスムーズに進むのが救いです。

列に並んでいる間も、楽しみは尽きません。ガラス張りの厨房では、職人たちが巨大な生地を伸ばし、窯の内側に貼り付けて名物のパン「厚餅(ホウビン)」を焼いている様子を眺めることができます。小麦粉が焼ける香ばしい匂いと、湯気を立てる豆漿の甘い香りが混ざり合い、空腹をこれでもかと刺激してきます。

ようやくカウンターにたどり着き、注文するべきはやはり「鹹豆漿(シェンドウジャン)」です。温かい豆乳に、酢、干しエビ、ネギ、ザーサイ、そしてラー油などを加えた、いわば「食べる豆乳スープ」。お酢の作用で、ふわふわ、おぼろ豆腐のように固まった豆乳の食感がたまりません。干しエビの旨味、ザーサイの塩気と食感、そしてカリカリに揚げられた油條(ヨウティヤオ、揚げパン)の香ばしさが一体となり、複雑で奥行きのある味わいを生み出しています。優しいのに、パンチがある。この絶妙なバランスこそが、阜杭豆漿が王座に君臨し続ける理由なのです。

そして、鹹豆漿のお供には「厚餅夾蛋(ホウビンジャータン)」を。窯で焼かれた厚餅は、外側がパリッと、中はもっちりとした食感。その間にネギ入りのふんわりとした卵焼きが挟まれており、素朴ながらも滋味深い味わいです。これを鹹豆漿に浸しながら食べるのが、私のお気に入りのスタイル。炭水化物の甘みと豆乳スープの塩気が口の中で溶け合い、まさに至福の朝食が完成します。この味を知ってしまえば、一時間近く並んだことなど、些細なことに思えてくるでしょう。

地元民に愛される、もう一つの選択肢

阜杭豆漿の行列に怖気づいてしまった方や、もっとローカルな雰囲気を味わいたいという方には、他の選択肢ももちろんあります。例えば、中正紀念堂の近くにある「鼎元豆漿(ディンユェンドウジャン)」は、地元の人々や日本の駐在員に深く愛されている名店です。阜杭豆漿に比べると規模は小さいですが、その分、アットホームな雰囲気が漂います。

ここの鹹豆漿は、阜杭豆漿よりも少し酸味が穏やかで、より優しい味わいが特徴。油條も店内で揚げたてを提供してくれるため、サクサク感が際立ちます。そして、鼎元豆漿を訪れたならぜひ試していただきたいのが「小籠包(ショウロンポウ)」です。朝から小籠包?と思うかもしれませんが、ここの小籠包は皮がやや厚めでもっちりとしており、肉餡もジューシー。朝食にぴったりの、どこかほっとする味わいなのです。鹹豆漿と小籠包という、夢のような朝食セットが楽しめるのも、この店の大きな魅力と言えるでしょう。

また、台北市内に数多くの店舗を構える「永和豆漿大王(ヨンハードウジャンダーワン)」も、気軽に立ち寄れる選択肢として覚えておくと便利です。24時間営業の店舗も多く、朝食だけでなく、夜食としても利用できるのが嬉しいところ。味は店舗によって多少のばらつきはありますが、基本的なメニューは揃っており、台湾の日常に溶け込むような朝ごはんを手軽に体験できます。

たかが豆乳、されど豆乳。台北の人々にとって、豆漿は一日のエネルギーをチャージするための単なる食事ではなく、生活の一部であり、文化そのもの。その日の気分や時間に合わせて店を選び、自分好みの組み合わせを見つけるのも、台北の朝の楽しみ方の一つなのです。

小籠包(ショウロンポウ)の宇宙を探求する

台湾グルメの代名詞として、世界中にその名を轟かせる小籠包。薄く伸ばされた皮の中に、熱々の肉汁スープと繊細な餡が閉じ込められた、まさに点心の芸術品です。箸でつまみ上げた時のずっしりとした重み、皮を破った瞬間に溢れ出す黄金色のスープ。その一口に、どれだけの技術と情熱が込められていることか。台北には、星の数ほどの小籠包の名店が存在し、それぞれが独自の哲学とプライドを持って、究極の一籠を追求しています。

世界が認める王道、鼎泰豐(ディンタイフォン)の完璧なる一籠

小籠包を語る上で、「鼎泰豐(ディンタイフォン)」の存在を無視することはできません。ニューヨーク・タイムズ紙で「世界の10大レストラン」に選ばれたという逸話はあまりにも有名ですが、その名声は決して伊達ではありません。台北市内に数店舗を構える鼎泰豐は、いつ訪れても国内外の客でごった返しており、その待ち時間も名物の一つとなっています。

しかし、その待ち時間さえもエンターテイメントに変えてしまうのが鼎泰豐の凄さ。ガラス張りの厨房では、白い制服に身を包んだ点心師たちが、寸分の狂いもない正確な手つきで小籠包を包んでいく様子を見ることができます。生地を捏ね、餡を詰め、美しい18のひだを刻んでいく様は、もはや工芸品の制作過程を見ているかのよう。この徹底した品質管理とパフォーマンスが、料理が運ばれてくる前から客の期待感を最高潮に高めるのです。

そして、ついにテーブルに運ばれてきた蒸籠の蓋が開けられる瞬間。湯気と共に立ち上る芳醇な香りに、思わず息をのみます。鼎泰豐の小籠包は、まずその見た目の美しさに驚かされます。均一に刻まれたひだ、透き通るように薄い皮。レンゲの上でそっと皮を破ると、じゅわっと溢れ出すスープは、豚骨と鶏ガラから丁寧に取られたであろう、雑味のないクリアな旨味の塊です。しつこさがなく、いくらでも飲めてしまいそうなほど。肉餡は非常にきめ細かく、上品な味わいです。これらを、刻み生姜をたっぷりと入れた黒酢と醤油のタレにつけて頬張れば、皮、スープ、餡、そしてタレのすべてが完璧な調和をもって口の中に広がります。まさに「黄金比率」と呼ぶにふさわしい、揺るぎない王者の風格を感じさせる一品です。

コスパと味で勝負!ローカル名店の隠れた実力

鼎泰豐が「完璧なる調和」を追求するオーケストラだとすれば、台北には情熱的なソロプレイヤーのような、個性あふれるローカルの名店も数多く存在します。その代表格が「杭州小籠湯包(ハンゾウショウロンタンバオ)」です。中正紀念堂のすぐ近くに位置するこの店は、地元の人々で常に満席。鼎泰豐のような洗練された雰囲気とは対照的に、活気と熱気に満ちたローカル食堂といった趣です。

ここの小籠包は、鼎泰豐に比べると皮がやや厚め。しかし、それがもっちりとした独特の食感を生み出しており、食べ応えがあります。そして何より特筆すべきは、スープの量とパンチの効いた味わい。皮を破ると、まるで決壊したダムのようにスープが溢れ出し、レンゲをたちまち満たしてしまいます。豚肉の旨味がガツンと前に出てくる、力強い味わいのスープは、一度食べたら忘れられないインパクトがあります。鼎泰豐が寸分の狂いもない計算された美味しさなら、こちらは素材の持ち味を最大限に引き出した、ダイナミックな美味しさと言えるでしょう。コストパフォーマンスも非常に高く、お腹いっぱい小籠包を堪能したいという欲求を、最高の形で満たしてくれます。

もう一軒、中山エリアに店を構える「京鼎樓(ジンディンロウ)」も忘れてはなりません。ここは、鼎泰豐で修行を積んだシェフが独立して開いた店として知られています。そのため、小籠包のスタイルは鼎泰豐に近く、薄皮で上品な味わいを踏襲しています。しかし、京鼎樓の真骨頂は、そのオリジナリティあふれるメニューにあります。特に「烏龍茶小籠包」は必食。皮に烏龍茶の茶葉が練り込まれており、口に入れると豚肉の旨味と共に、お茶の爽やかな香りがふわりと鼻に抜けていきます。この意外な組み合わせが驚くほどマッチしており、食後感をさっぱりとさせてくれるのです。定番の味を極めつつも、新しい挑戦を忘れない。そんな職人の心意気を感じさせる一品です。

王道の鼎泰豐で小籠包の「基準」を知り、杭州小籠湯包でローカルの「熱気」を感じ、京鼎樓で「革新」に触れる。この探求の旅こそ、台北で小籠包を味わう醍醐味なのです。

路地裏にこそ真髄あり。台北B級グルメ食べ歩き

きらびやかなレストランや有名店だけが、台北の食の魅力ではありません。むしろ、この街の食文化の真髄は、名もなき路地裏や、地元の人々が日常的に通う小さな食堂にこそ宿っていると私は信じています。気取らない、しかし、一度食べたら忘れられない。そんな魂を揺さぶるB級グルメたちが、あなたを待っています。

魯肉飯(ルーローハン)頂上決戦!甘辛い誘惑の虜になる

台湾のソウルフードを一つだけ挙げろと言われたら、多くの人が「魯肉飯(ルーローハン)」と答えるでしょう。白飯の上に、甘辛く煮込んだ豚のそぼろ肉をかけた、ただそれだけのシンプルな料理。しかし、シンプルだからこそ、店ごとの個性や哲学が色濃く反映される、奥深い世界が広がっています。

南門市場の近くにあり、常に行列が絶えない「金峰魯肉飯(ジンフォンルーローハン)」は、魯肉飯界の横綱的存在です。ここの特徴は、細かく刻んだ豚バラ肉だけでなく、椎茸も一緒に煮込んでいること。これにより、肉の旨味に椎茸の深い香りとコクが加わり、タレの味わいを一層複雑で豊かなものにしています。脂身はトロトロに煮込まれ、口に入れるとすっと溶けて、ご飯と一体化します。付け合わせの煮卵「魯蛋(ルータン)」や、スープの「蛤蜊雞湯(グーリージータン、ハマグリと鶏肉のスープ)」と一緒にいただけば、数百円で得られるとは思えないほどの満足感に包まれるはずです。

一方、若者に人気の街、西門町の路地裏に佇む「天天利美食坊(ティエンリーメイシーファン)」は、また違った魅力で人々を惹きつけます。ここの魯肉飯は、半熟の目玉焼きを乗せるのが定番スタイル。とろりとした黄身を崩し、甘めのタレが染み込んだご飯と混ぜ合わせて食べる瞬間は、まさに至福。金峰が正統派の力強い味わいだとすれば、天天利は少しジャンクで、背徳感すら覚える美味しさです。このB級グルメ感あふれる組み合わせが、若者たちの心を掴んで離さないのでしょう。どちらの店も甲乙つけがたい魅力があり、まさに魯肉飯の頂上決戦。台北を訪れたなら、ぜひ両方を食べ比べて、自分好みの一杯を見つけてみてください。

麺をすする幸せ。牛肉麺(ニューロウメン)の奥深き世界

魯肉飯と並び、台湾を代表する麺料理が「牛肉麺(ニューロウメン)」です。じっくりと煮込まれた牛肉と、味わい深いスープ、そして歯ごたえのある麺が三位一体となったこの料理もまた、店ごとに千差万別の表情を見せます。

スープは大きく分けて二種類。醤油ベースで、豆板醤や香辛料が効いたスパイシーな「紅焼(ホンシャオ)」と、塩ベースで、牛骨の旨味をじっくりと引き出したクリアな「清燉(チンドゥン)」があります。どちらを選ぶかで、牛肉麺の印象は全く異なるものになります。

「林東芳牛肉麵(リンドンファンニューロウメン)」は、ミシュランのビブグルマンにも選ばれた超有名店。ここのスープは、漢方のような独特の香りがする唯一無二の味わいです。一見すると清燉のようですが、テーブルに置かれた特製の牛油(牛脂と唐辛子などを混ぜたペースト)を好みで加えることで、自分だけの紅焼スープを完成させることができます。この牛油がまた絶品で、スープに深みと辛味、そして圧倒的なコクを与えてくれます。ホロホロと崩れるほど柔らかく煮込まれた牛スジ肉もたまりません。深夜まで営業しているため、飲み会の〆に訪れる地元客も多い、活気あふれる名店です。

よりクラシックな紅焼スープを求めるなら、「永康牛肉麵(ヨンカンニューロウメン)」がおすすめです。永康街に本店を構えるこの老舗のスープは、ピリリとした四川風の辛さが特徴。しかし、ただ辛いだけでなく、その奥に牛骨のどっしりとした旨味が感じられます。ゴロゴロと入った牛肉は、赤身とスジのバランスが絶妙で、肉を食べているという満足感が非常に高いです。麺も太めで、力強いスープによく絡みます。辛いものが好きな方には、ぜひ挑戦していただきたい一杯です。

粉もの万歳!胡椒餅(フージャオビン)と葱油餅(ツォンヨウビン)の誘惑

食べ歩きに最適な「粉もの」グルメも、台北の街角の至る所で見つけることができます。中でも、饒河街観光夜市の入り口で圧倒的な存在感を放つのが「福州世祖胡椒餅(フーゾウシーズーフージャオビン)」です。タンドールのような特製の窯の内側に、生地を貼り付けて焼き上げるという独特の調理法。職人たちがリズミカルに生地を窯に貼り付けていく様子を眺めているだけで、期待感が高まります。

焼き上がった胡椒餅は、ラグビーボールのような形。表面はパリッパリに焼き上げられ、ゴマが香ばしい。一口かじると、肉汁がジュワッと溢れ出してくるので火傷に注意が必要です。中には、たっぷりの豚肉の餡とネギがぎっしり。黒胡椒がピリリと効いたスパイシーな味付けは、一度食べたらやみつきになること間違いなし。熱々をハフハフしながら頬張るのが、この上ない幸せです。

もう一つ、忘れてはならないのが「葱油餅(ツォンヨウビン)」。小麦粉の生地にネギを練り込み、油で揚げ焼きにしたシンプルなストリートフードです。店によっては、卵を加えたり(加蛋)、バジルを挟んだり(九層塔)と、様々なバリエーションがあります。永康街にある「天津蔥抓餅(ティエンジンツォンジュアビン)」は常に行列ができており、その場で焼き上げられるアツアツの葱油餅を求めて多くの人が集まります。外はカリッと、中はもちもちとした生地の食感と、ネギの甘い香り。そこに甘辛いタレやチリソースをかけて食べれば、最高のB級グルメ体験ができます。派手さはありませんが、毎日でも食べたくなるような、飽きのこない美味しさが魅力です。

夜市の喧騒は、最高のスパイス

日が落ち、街にネオンの灯がともり始めると、台北はもう一つの顔を見せ始めます。それは、台湾の食と文化の縮図ともいえる「夜市(イエシー)」の世界。食べ物の匂い、人々の話し声、ゲームの呼び込み、そして熱気。これらすべてが渾然一体となったカオスな空間は、ただ食事をする場所ではありません。その場のエネルギーを全身で感じ、五感をフル活用して楽しむ、台湾最大級のエンターテイメントなのです。

巨大迷宮に挑む。士林夜市(シーリンイエシー)の歩き方

台北で最も有名かつ最大規模を誇るのが「士林夜市(シーリンイエシー)」です。MRT剣潭駅を降りると、そこはもう巨大な食と遊びの迷宮の入り口。その規模はあまりにも大きく、初めて訪れる人はどこから手をつけていいか戸惑ってしまうかもしれません。

士林夜市は、大きく分けて二つのエリアに分かれています。一つは、駅の向かい側にある「美食區(フードコート)」。ここは天候を気にせず楽しめる屋内施設で、蚵仔煎(オアチェン:牡蠣オムレツ)や臭豆腐(チョウドウフ)、士林大香腸(シーリンダーシャンチャン:巨大ソーセージ)といった、台湾夜市の定番グルメが一堂に会しています。初心者でも安心して夜市グルメを楽しめるエリアと言えるでしょう。

しかし、士林夜市の真の魅力は、その周辺に広がる屋外の屋台エリアにあります。衣料品や雑貨を売る店に混じって、無数の食べ物屋台がひしめき合っています。ここで絶対に外せないのが、人の顔ほどもある巨大なフライドチキン「豪大大雞排(ハオダーダージーパイ)」です。揚げたての熱々チキンに、スパイスを振りかけてもらい、袋のままかぶりつく。カリッとした衣と、ジューシーな鶏肉の組み合わせは、まさに背徳の味。これぞ夜市の醍醐味です。

また、フレッシュジュースの屋台や、揚げ団子の屋台、串焼きの屋台など、目移りしてしまうほどの選択肢があります。食べ物だけでなく、射的やエビ釣りといった昔ながらのゲームもあり、童心に返って楽しむことができます。士林夜市を攻略するコツは、完璧な計画を立てようとしないこと。気の向くままに歩き、美味しそうな匂いに誘われ、気になるものがあればとにかく試してみる。その偶然の出会いこそが、この巨大迷宮を冒険する最大の楽しみ方なのです。

グルメ通が集う、饒河街観光夜市(ラオハージエグアンクアンイエシー)

士林夜市が巨大な迷宮なら、「饒河街観光夜市(ラオハージエグアンクアンイエシー)」は、食に特化した一本道の大通りです。松山駅のすぐそばにあり、全長約600メートルの通りにグルメ屋台がぎっしりと並んでいます。一本道なので迷う心配がなく、効率よく食べ歩きを楽しみたいグルメ通には、こちらの方が向いているかもしれません。

この夜市の象徴ともいえるのが、東側の入り口にある「福州世祖胡椒餅」。先にも紹介しましたが、この夜市を訪れたら、まずこの行列に並ぶのがお約束です。焼き上がりを待つ間の高揚感も、旅の素晴らしい思い出になるでしょう。

胡椒餅を堪能したら、通りの奥へと進んでみましょう。饒河街には、胡椒餅以外にも数多くの名物があります。例えば「陳董藥燉排骨(チェンドンヤオドゥンパイグー)」は、漢方をじっくり煮込んだ真っ黒なスープで豚のスペアリブを味わう、滋養強壮に良いとされる一品。漢方の独特な香りがしますが、飲んでみると意外にもすっきりとしており、体の芯から温まります。ホロホロと骨から外れる柔らかい肉も絶品です。

他にも、豚肉の餡を餅で包んで揚げた「圓圓燒(ユェンユェンシャオ)」や、イカのとろみスープ「魷魚焿(ヨウユーグン)」など、この夜市ならではのディープなグルメが満載。士林夜市に比べると規模は小さいですが、その分、食のレベルは非常に高く、本気で美味しいものを探している人々の熱気が渦巻いています。美味しいもののために人々が集まり、エネルギーが生まれる。夜市の喧騒が、どんな高級レストランのBGMよりも最高のスパイスになることを、ここではっきりと実感できるはずです。

ほっと一息。台湾茶とスイーツの時間

刺激的なB級グルメや夜市の喧騒を堪能した後は、少し落ち着いて、甘いもので心を和ませる時間も必要です。台湾は、世界有数の茶所であると同時に、トロピカルフルーツの宝庫。伝統的なお茶文化から、最先端のフォトジェニックなスイーツまで、食後の楽しみもまた、驚くほど豊かで多様なのです。

伝統と革新が交差する、台湾茶藝館の静寂

台湾といえば、凍頂烏龍茶や東方美人茶に代表される高品質な台湾茶が有名です。そのお茶を、専門の作法に則ってじっくりと味わう場所が「茶藝館(チャーイーグァン)」。台北市内には、歴史を感じさせる伝統的な茶藝館から、現代的なデザインのスタイリッシュなティースタンドまで、様々なお店が存在します。

もし時間に余裕があるなら、少し足を延ばして「九份(ジョウフェン)」を訪れるのがおすすめです。赤い提灯が灯るノスタルジックな街並みの中にある「九份茶坊」や「阿妹茶樓」といった茶藝館で、眼下に広がる美しい景色を眺めながらいただくお茶は、まさに格別。スタッフが丁寧にお茶の淹れ方を教えてくれるので、初心者でも安心です。一煎目、二煎目と、淹れるたびに変化していくお茶の香りや味わいを感じながら、ゆったりと流れる時間に身を任せる。これは、単にお茶を飲むという行為を超えた、一種の瞑想のような体験です。

台北市内で気軽に楽しみたいなら、老舗の茶葉店が営むモダンな茶藝館が良いでしょう。例えば、迪化街に本店を構える「嶢陽茶行(ヤオヤンチャーハン)」の永康街店などは、洗練された空間で、様々な種類の台湾茶を試飲しながら選ぶことができます。お茶請けとして提供されるパイナップルケーキやドライフルーツとのマリアージュもまた、楽しみの一つ。喧騒から離れ、お茶の深い香りに包まれる静かなひとときは、旅の疲れを癒やし、心を豊かにしてくれます。

マンゴーかき氷だけじゃない!進化する台湾スイーツ

台湾のスイーツと聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのが、山盛りのマンゴーが乗ったかき氷でしょう。特に夏場に訪れるなら、これは絶対に外せません。永康街の「思慕昔(スムーシー)」は、その代表格。雪のようにふわふわに削られたミルク氷の上に、フレッシュなアップルマンゴーが惜しげもなく盛られ、濃厚なマンゴーソースとパンナコッタが添えられています。その圧倒的なビジュアルと、口の中でとろける甘さは、まさに南国の楽園の味。

しかし、台湾スイーツの魅力はマンゴーかき氷だけにとどまりません。もっと素朴で、日常に根差したスイーツもぜひ試していただきたいのです。その筆頭が「豆花(トウファ)」。ふるふるとした食感の絹ごし豆腐のようなデザートで、ピーナッツや小豆、タピオカ、芋圓(ユーユェン:タロイモの団子)など、好みのトッピングを乗せて、甘いシロップをかけていただきます。温かいものも冷たいものもあり、一年を通して楽しめる国民的スイーツです。寧夏夜市の近くにある「古早味豆花(グーザオウェイトウファ)」などは、昔ながらの製法で作られた豆の味が濃い豆花が人気で、地元の人々でいつも賑わっています。

そして忘れてはならないのが、タピオカミルクティーを始めとするドリンクスタンドの存在です。日本でも一大ブームを巻き起こしましたが、本場台湾では、その進化は止まることを知りません。定番のミルクティーだけでなく、フルーツティーや黒糖ミルク、チーズフォームを乗せたものなど、メニューの多様性は日本の比ではありません。街を歩けば数メートルおきにドリンクスタンドがあると言っても過言ではなく、人々が思い思いのドリンクを片手に歩く姿は、台北の日常風景の一部となっています。人気店で一杯買うのも良いですが、あえてローカルな小さな店で、自分だけのお気に入りを見つけるのもまた一興です。

伝統的なお茶から、国民的スイーツ、そして最先端のドリンクまで。台北の甘い誘惑は、食いしん坊たちの別腹を優しく、そして確実につかんで離さないのです。

旅の記憶を食卓へ。目利きが選ぶ、とっておきの台湾土産

楽しかった旅も、いつかは終わりを迎えます。しかし、旅の本当の価値は、帰国してからも続く余韻にあるのかもしれません。台北で出会ったあの味、あの香りを日本の食卓でも再現できたら。そんな願いを叶えてくれるのが、食のプロである私が本気で選ぶ、とっておきのお土産たちです。定番のあのお菓子から、スーパーマーケットで見つける隠れた逸品まで。旅の記憶を呼び覚ます、最高の台湾土産を探しに出かけましょう。

定番だけでは終わらない、パイナップルケーキの選び方

台湾土産の王様といえば、やはり「パイナップルケーキ(鳳梨酥:フォンリースー)」です。しかし、一口にパイナップルケーキと言っても、その個性は店によって全く異なります。大きく分けると、冬瓜を混ぜた昔ながらの甘い餡と、パイナップル100%の繊維質で酸味の効いた「土鳳梨酥」の二つの系統があります。どちらが良いというわけではなく、完全に好みの問題。だからこそ、選ぶ楽しみがあるのです。

モダンで洗練された土鳳梨酥の代表格が、「微熱山丘(サニーヒルズ)」です。南投産のパイナップルを使い、添加物を一切使用せずに作られた餡は、パイナップルの力強い酸味と甘み、そして豊かな繊維質が特徴。クッキー生地は、フランス産のエシレバターと日本の小麦粉、そしてこだわりの卵を使っており、ザクっとした食感と芳醇なバターの香りがたまりません。甘さ控えめで、グルメな大人へのお土産として最適です。

一方、伝統的なスタイルで、地元の人々から絶大な支持を得ているのが「佳徳糕餅(チアダーガオビン)」です。ここのパイナップルケーキは、冬瓜を混ぜた滑らかで甘い餡が特徴。バターの香るしっとりとしたクッキー生地とのバランスが絶妙で、どこか懐かしさを感じる優しい味わいです。クランベリー味やメロン味など、フレーバーのバリエーションが豊富なのも魅力。どちらの店のものも試してみて、自分の好みや贈る相手に合わせて選ぶのが、賢い買い方と言えるでしょう。

スーパーマーケットは食の宝庫

お菓子だけでなく、もっと日常的な「台湾の味」を持ち帰りたいなら、現地のスーパーマーケットへ向かうべきです。カルフール(家樂福)やウェルカム(頂好Wellcome)といった大型スーパーの棚には、食文化のヒントが詰まった宝物が眠っています。

まずチェックしたいのが、調味料のコーナーです。炒め物や鍋料理に一さじ加えるだけで、一気に台湾の味になる魔法の調味料「沙茶醬(サーチャージャン)」は絶対に外せません。魚介をベースにしたペースト状の調味料で、独特の香ばしさと深いコクがあります。また、ピリ辛の「豆瓣醬(トウバンジャン)」や、香り高いごま油も、日本で買うものとは一味違います。

乾麺のコーナーも必見です。「關廟麵(グアンミャオミェン)」に代表される、天日干しで作られた平打ちの麺は、ツルツル、シコシコとした食感がたまりません。シンプルな汁麺にしても、ジャージャー麺のように和えても美味しくいただけます。これに、先ほどの沙茶醬を絡めるだけでも、立派な台湾風の一皿が完成します。

他にも、台湾ビールのクラシックフレーバー、ネギ風味のクラッカー「香蔥蘇打餅乾」、そして様々なメーカーが出しているインスタントの牛肉麺や火鍋の素など、スーパーマーケットはまさに食いしん坊のテーマパーク。パッケージを眺めているだけでも、台北の食卓が目に浮かぶようで、時間を忘れて楽しんでしまうことでしょう。

乾物街「迪化街(ディーホアジエ)」で探す本物

よりディープで、本物志向のお土産を探すなら、台北最古の問屋街「迪化街(ディーホアジエ)」へ足を運ぶことを強くお勧めします。赤レンガのバロック建築が続く美しい街並みには、乾物、漢方、からすみ、お茶などを扱う老舗がずらりと軒を連ねています。

迪化街の代名詞とも言えるのが「からすみ(烏魚子)」です。店先には、美しい飴色に輝くからすみがずらりと並び、壮観です。値段はピンからキリまでありますが、信頼できる老舗で、色艶が良く、ずっしりと重いものを選ぶのがポイント。試食させてくれる店も多いので、納得のいく一品を見つけましょう。軽く炙って薄切りにし、大根やリンゴと一緒にいただけば、濃厚な旨味とねっとりとした食感が、極上の酒の肴になります。

また、色とりどりのドライフルーツも迪化街の名物。特に、ドライマンゴーやドライグアバは、南国ならではの濃厚な甘みが凝縮されています。砂糖不使用のナチュラルなものから、甘く味付けされたものまで種類も豊富。お茶請けにも、ヨーグルトのトッピングにも最適です。

漢方薬の店では、自分でブレンドしてもらうことも可能ですが、初心者には「四物湯(スームータン)」や「八珍湯(バージェンタン)」といった、女性の体に良いとされる薬膳スープのセットがおすすめです。鶏肉や豚肉と一緒に煮込むだけで、本格的な薬膳スープが手軽に作れます。旅で疲れた体を、帰国後に内側から癒やす。そんなお土産も、また乙なものではないでしょうか。この歴史ある問屋街の喧騒の中で、旅の記憶を詰め込んだ宝物を探す時間は、台北の旅を締めくくるにふさわしい、豊かな体験となるはずです。

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この記事を書いたトラベルライター

食品商社で世界中の食を探求してきました。旅の目的は「その土地でいちばん美味い一皿」に出会うこと!市場や屋台でのグルメハントが得意です。

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