台北の喧騒を抜け出して、まだ見ぬ景色に会いたくなる。アパレルの仕事で世界中を飛び回る合間、私の心はいつも、そんな純粋な旅への渇望に満たされています。今回、私の心を捉えて離さなかったのは、台湾の南東にぽつりと浮かぶ、太平洋の小さな宝石。その名を「蘭嶼(らんしょ)」といいます。
そこは、台湾でありながら台湾でないような、不思議な空気が流れる場所。フィリピンにほど近く、古来より海洋民族であるタオ族が、自然の摂理と共に生きてきた島です。手つかずの紺碧の海、風が削り出した奇岩、そして何よりも、彼らが守り続ける独自の文化。デジタルの波が届きにくいこの島で、私はきっと、本当の豊かさを見つけられる。そんな予感に胸を躍らせ、台東行きの飛行機に乗り込みました。
この旅の記録が、いつかあなたをこの神秘の島へと誘う、小さな道しるべになりますように。
蘭嶼のように、台湾にはまだまだ「知られざる楽園」が眠っているのかもしれません。
蘭嶼ってどんな島? 神々と人が暮らす、太平洋の宝石

旅の準備を始める前に、まずは蘭嶼という島が持つ独特の魅力について少しだけご紹介させてください。この島を深く理解することが、旅をより豊かで意義深いものにしてくれるでしょう。
地理と気候
蘭嶼は台湾本島の南東沖、台東からおよそ90km離れた太平洋上の火山島です。島の周囲は約38kmで、バイクでゆっくり巡っても3~4時間あれば一周できるほどの小さな島ですが、その風景は非常に多様です。ゴツゴツとした岩肌の海岸線、緑豊かな山々、そして果てしなく広がる青い海が広がります。黒潮が島の周りを流れている影響で、海の生物が豊富で、世界中のダイバーを魅了する透明度の高さを誇っています。
気候は熱帯海洋性で、一年を通して温暖です。旅の最適な時期は春から初夏(4月~6月)と秋(9月~10月)でしょう。とくに4月から6月にかけては、後述するタオ族の「トビウオ漁」の季節でもあり、島の文化を最も濃厚に感じられるタイミングです。
その一方で、夏(7月~8月)は台風の季節にあたり、飛行機やフェリーが数日間欠航することも珍しくなく、島に足止めされる可能性もあります。そのため、旅の計画を立てる際にはこの点を十分に考慮することが大切です。冬(11月~2月)は北東の季節風が強く海が荒れやすいため、観光客が少なく静かな島時間を望む方には向いているかもしれません。
蘭嶼に暮らす人々、タオ族
この島の物語に欠かせないのが、タオ族の存在です。彼らは台湾政府が認める16の原住民族の一つで、かつては「ヤミ族」と呼ばれていました。これは日本の人類学者・鳥居龍蔵が名付けた呼称で、彼ら自身は自らを「タオ(Tao)」=「人」と呼んでいます。現在、島の約5000人の住民の多くがタオ族にあたります。
タオ族のルーツはフィリピン北部のバタン諸島にあると考えられ、言語や文化にも多くの共通点が見られます。彼らは優れた海洋民族であり、生活は海と密接に結びつき、特に「トビウオ」と深い関係を持っています。毎年春、トビウオの群れが黒潮に乗って蘭嶼近海にやって来ると、タオ族の人々はこれを神からの授かりものとして捉え、独自の暦や儀式、社会的な規範を築き上げてきました。
彼らの信仰はアニミズムで、自然界のあらゆるものに霊(アニート)が宿ると信じています。神々や祖先の霊を敬いながら、何よりも自然との調和を重んじているのです。私たちが蘭嶼を訪れるということは、彼らが大切に守ってきた神聖な土地に足を踏み入れることにほかなりません。その意識を持つだけで、見える景色や感じ方がきっと変わってくることでしょう。
旅の始まりはアクセスから。蘭嶼への道
では、いよいよ蘭嶼への具体的なアクセス方法についてご紹介します。この島へ渡る手段は、飛行機かフェリーのいずれかですが、それぞれにメリットとデメリットがあります。旅のスタイルや予算、さらには運の要素も考慮して選択することが大切です。
飛行機かフェリーか?両者のメリット・デメリット
飛行機でのアクセス
蘭嶼へは、台東空港から徳安航空(Daily Air)が運航する19席の小型プロペラ機による便のみが利用可能です。1日に数便という限られた運航本数で、「秘境へ飛ぶ翼」とも呼べる存在です。
- メリット: 最大の魅力は何と言っても速さです。約30分で蘭嶼空港に到着し、眼下に広がる太平洋の絶景を楽しみながら、あっという間に目的地に着けます。
- デメリット: 予約が非常に取りにくいのが難点です。特に観光シーズンには、数か月前から予約しなければほぼ席を確保できません。加えて、機体が小さいことから天候の影響を受けやすく、欠航のリスクが高いのも問題です。風が強い日や霧が濃いといった理由で、現地に着いてから欠航が決まることも珍しくありません。
読者が実際にできること:飛行機の予約 徳安航空の公式サイトから予約が可能で、中国語と英語に対応しています。希望日と便を選び、パスポート情報を入力して手続きを進めてください。特に台湾の祝祭日や連休時は混雑が激しいため、計画が決まり次第早めの予約を強く推奨します。ウェブサイトでの予約が難しい場合は、電話予約も受け付けています。
フェリーでのアクセス
もう一方の方法はフェリーでの移動です。台湾本島からは、台東の富岡漁港や南部リゾート地・墾丁の後壁湖港から出航しています。
- メリット: 飛行機に比べて予約が取りやすく、便数も多い点が魅力です。荷物の重量制限が緩やかなので、大きなスーツケースやダイビング器材を持ち込む場合も安心です。
- デメリット: 所要時間がおよそ2時間から2時間半と飛行機と比べて長めです。さらに最大の課題は「船酔い」です。外洋に出るため、波が高い日はかなり揺れることも多く、船に弱い方はもちろん、乗り物に強いと自信がある方でも酔い止めを用意することをおすすめします。
読者が実際にできること:フェリーの予約と船酔い対策 フェリーの予約は各運航会社(金星客輪、緑島之星など)の公式サイトあるいは旅行代理店のサイトから可能で、こちらも早めの予約が安全です。乗船日は出航の30分前までに港に到着し、カウンターでパスポートを提示して乗船券を受け取ってください。 船酔い対策としては、乗船30分から1時間前に酔い止め薬を飲んでおくのが効果的です。これらの薬は薬局で簡単に購入できます。また、船内では遠くの景色を眺めたり、風通しの良い後方のデッキに出たりすることで酔いを軽減できます。空腹や満腹も乗り物酔いを誘発するため、乗船前は軽めの食事を心掛けましょう。
島内での移動手段
蘭嶼に着いた後は、島内を巡る足が必要です。最も一般的で自由に動き回れる方法はレンタルバイクの利用です。
島を一周する環島公路は整備された舗装道路で、信号もほとんどありません。潮風を感じながら海岸線を走る爽快感は蘭嶼ならではの体験と言えます。レンタル時には、日本の運転免許証とその中国語翻訳文、または国際運転免許証が必要となるため、忘れずに手配しておきましょう。
ここでひとつ重要な注意点があります。島内のガソリンスタンドは椰油集落と朗島集落の2か所しかなく、営業時間も限られているため、ガソリンメーターが半分程度になったら早めに給油することをおすすめします。私自身も一度、ガス欠寸前で冷や汗をかいた経験があります。
体力に自信のある方はレンタサイクルも選択肢のひとつですが、島にはアップダウンが多く険しい場所もあるため、それなりの覚悟が必要です。公共交通機関としては、一周するバスが運行していますが、本数が非常に少なく、観光に使うにはあまり便利とは言えません。
蘭嶼で心に刻むべき風景と体験

いよいよ、この島の中心部へ足を踏み入れます。蘭嶼には息を呑むほどの絶景と、この地ならではの特別な体験が数多く待っています。
六つの集落をめぐる、島一周の冒険
蘭嶼には、海岸線に沿って六つの主要な集落が点在しています。各集落はそれぞれ異なる個性を持ち、巡るだけで島の暮らしや文化の多様性を肌で感じられます。
- 椰油(ヤヨ): 島の玄関口である空港とフェリー乗り場があるエリア。セブンイレブンや比較的新しい商店、宿泊施設が集まっており、最も利便性の高い場所です。旅のスタート地点やゴールとして利用するのに適しています。
- 漁人(イラタイ): 椰油のすぐ南に位置し、美しい砂浜が広がる集落。ここから望む水平線に沈む夕日は絶好のスポットです。夕暮れ時、オレンジ色に染まる空と海の光景は、心に深く刻まれる思い出となるでしょう。
- 紅頭(イモロド): 郵便局や農協のスーパーマーケットがあり、生活の中心地のひとつです。伝統的なタオ族の半地下式住居「地下屋」も現存しており、伝統と現代が融合した独特の雰囲気に触れることができます。
- 野銀(イヴァリヌ): 最も多くの伝統的な地下屋が保存されている集落で、時間が止まったような景観が広がります。観光地であると同時に実際の生活の場でもあるため、訪れる際には後述のマナーを守り、敬意を持って接することが大切です。
- 東清(イラヌミル): 島の東側に位置し、美しい日の出で知られる場所です。東清湾に並ぶタオ族の伝統的な木造船「タタラ船(またはチヌリクラン)」は、蘭嶼の象徴的な風景のひとつ。早起きして、水平線から昇る太陽が船と海を照らす瞬間をぜひ目に焼き付けてください。
- 朗島(イラライ): 地下屋が残る趣のある集落で、入り組んだ路地を歩くと地元の人々の穏やかな日常を垣間見ることができます。
自然が織りなす壮大なアートギャラリー
火山活動と長い年月にわたる風雨や波による浸食で形成された奇岩の数々は、蘭嶼のもう一つの魅力です。まるで自然が作り上げた巨大な彫刻の美術館のような光景が広がっています。
島をバイクで一周すれば、次々と個性的な形の岩が姿を現します。蒸しパンのような「饅頭岩」、リアルな姿に驚く「鰐魚岩(ワニ岩)」、戦車そっくりの「坦克岩(戦車岩)」、二頭のライオンが向き合う「雙獅岩」、沖合に浮かぶ軍艦の形をした「軍艦岩」など。名前の由来を想像しながら、お気に入りの岩を探す楽しみも尽きません。
夕日観賞に欠かせないのは「青青草原」。島の南西部に広がる広大な草原で、遮るものがない丘の上から太平洋に沈む夕日を独り占めできます。風に揺れる草のささやきとともに、刻一刻と変わる空の色を眺めていると、日々の悩みが小さく感じられる不思議な体験が味わえます。
体力に自信がある方には、島の中心部に位置する「大天池」へのトレッキングもおすすめです。火山の火口湖跡で、雨季には水が溜まり幻想的な光景が広がります。道中は険しい山道が続くため、トレッキングシューズや十分な飲み物を用意し、できれば現地のガイド同行を検討すると安心です。
透き通った海で心を解き放つ
蘭嶼の海の美しさは言葉では伝えきれません。黒潮がもたらす豊富な栄養と汚染の少ない環境が育んだ海は、驚くほど澄んだ透明度を誇ります。
シュノーケリングや体験ダイビングは、この素晴らしい海を楽しむ最高の手段です。ほんの少し水に顔をつけるだけで、色鮮やかなサンゴ礁とその周りを泳ぐ熱帯魚たちの世界が広がります。カクレクマノミやチョウチョウウオ、運が良ければウミガメにも出会えることがあります。
読者への実践的アドバイス:マリンアクティビティの予約と準備 シュノーケリングやダイビングのツアーは、島内の多くの民宿やダイビングショップで申し込めます。宿泊先に相談すれば、おすすめのショップを案内してもらえるでしょう。料金は内容によって異なりますが、シュノーケリングは一人およそ500台湾ドルから。ウェットスーツや機材は全てレンタル可能で、水着とタオル、そしてサンゴに優しい日焼け止めを用意すれば参加できます。安全のためインストラクターの指示を必ず守り、単独行動は避けてください。
また、東清湾周辺ではタオ族の伝統的なタタラ船に乗るカヌー体験も楽しめます。自らの手で舟を漕ぎ、タオの漁師たちが見つめてきた同じ海の景色を味わうこの体験は、単なるレジャーを超えた文化的な感動をもたらすことでしょう。
タオ族の魂に触れる。文化と交流の心得
蘭嶼の旅は、美しい風景をただ眺めるだけにとどまりません。この島に深く根差すタオ族の文化に触れ、彼らの生き方を尊重することこそが、旅の真価を高めます。ここでは、訪問者として心得ておきたい大切なルールとマナーをご紹介します。
尊重が旅の第一歩。旅行者が守るべきルールとマナー
タオ族の人々は穏やかで控えめな方が多い一方で、文化や日常生活への敬意を欠いた旅行者には厳しい目を向けます。良好な交流を築くために、以下の点は必ず守りましょう。
- 写真撮影の心得: これが最も重要なルールの一つです。村の住人、特に年配の方々を無断で撮影することは絶対に避けてください。彼らにとっては魂を奪われると感じる行為でもあります。伝統的な家屋やタタラ船、干されているトビウオなども、生活や信仰の一部です。撮影したい際には必ず「写真を撮ってもよろしいですか?(可以拍照嗎?/クーイー パイジャオ マ?)」と声をかけ、許可を得てからにしましょう。断られた場合は、素直に引き下がることが大切です。
- タタラ船に触れない: タタラ船はトビウオ漁に使われる神聖な舟です。特に3月から6月の漁期中は、女性が船に触れることが伝統的に禁じられてきました。近年、その風習に変化も見られますが、旅行者としては文化を尊重し、むやみに手を触れないのが賢明です。
- 伝統家屋(地下屋)への立ち入り禁止: 野銀集落などに残る地下屋は貴重な文化遺産であると同時に、現在も人々が暮らす生活の場です。観光客が無断で敷地に入り込んだり、内部をのぞき込むことはプライバシーの侵害にあたります。見学を希望する場合は、必ず現地のガイドツアーを利用しましょう。
- 服装マナー: ビーチやシュノーケリングスポットを除き、水着のまま集落を歩くのはマナーに反します。海から上がったら、必ずTシャツやショートパンツなど肌の露出を控えた服装に着替えましょう。
- 自然環境への配慮: 蘭嶼の美しい自然は島の大切な財産です。島の生態系を守るため、外から植物や動物を持ち込まないこと。そして滞在中に出たゴミはできるだけ持ち帰りましょう。また、海岸でサンゴや貝殻を拾って持ち帰ることは禁じられています。
これらのルールは、私たち旅行者がタオ族の文化や島の自然に敬意を示すための具体的な行動です。守ることで彼らとの信頼関係を築く第一歩となります。
トビウオ漁祭(飛魚季)-季節と共に生きる暮らし
毎年春の3月から6月にかけて、蘭嶼は一年で最も賑わう時期を迎えます。この期間、黒潮に乗ってやってくるトビウオを獲る「トビウオ漁祭(飛魚季)」が催されます。
この祭りは単なる漁ではありません。舟を海に下ろす儀式から始まり、漁の安全と豊漁を祈る儀式、そして漁の終わりに行われる感謝の儀式まで、連続する神聖な行事です。期間中、男性たちは海へ出てトビウオを追い、女性たちは家でトビウオを捌き、日干しの保存食として仕込みます。集落のあちこちに銀色に輝く干しトビウオが並ぶ光景は、この時期の蘭嶼ならではの風物詩です。
この神聖な祭の時期に島を訪れる際は、あくまでも「見学者」という姿勢を忘れてはなりません。儀式を妨げたり、神聖な場所に無断で入ることは厳禁です。静かに見守りながら、彼らの文化の奥深さを心に刻みましょう。
地下屋(パイワン語:vaay)見学で知る、先人の知恵
蘭嶼の伝統的住居である「地下屋」は、厳しい自然環境、特に毎年襲来する台風から身を守るためにタオ族の先祖が編み出した知恵の結晶です。
地面を掘り下げて主な居住空間を半地下にすることで、強風の影響を抑えています。茅葺きの屋根に、石や木材の壁が用いられ、夏は涼しく冬は暖かいという特徴も持ちます。
私は野銀集落で地下屋のガイドツアーに参加しました。案内してくれたタオ族の男性は実際にその家で育った方で、建物の構造や部屋ごとの役割、そこで営まれてきた暮らしをユーモアを交えながら丁寧に教えてくれました。薄暗い室内に入ると、ひんやりとした空気が肌をなで、燻された木の香りが鼻をくすぐります。ここで家族が寄り添い語り合い、厳しい自然の猛威を乗り越えてきたことを思うと、胸に深く響くものがありました。
実際に体験できること:地下屋ガイドツアーへの参加 地下屋の見学は個人で勝手に行うのではなく、必ずガイドツアーを利用してください。野銀集落や朗島集落の入り口、または宿泊先の民宿で予約が可能です。料金は一人あたり300〜500台湾ドルが目安です。主に中国語の説明ですが、簡単な英語の補足がある場合もあります。ガイドの話を聞くことで、建築に込められた知恵や文化の背景を深く理解でき、ただ見るだけでは得られない貴重な体験となるでしょう。蘭嶼を訪れたらぜひ参加したいおすすめのプログラムです。
蘭嶼グルメを堪能!島の恵みをいただく

旅の醍醐味のひとつと言えば、やはり食事でしょう。蘭嶼には、この地の豊かな自然が育んだシンプルで美味しい恵みが数多くあります。
やはり主役はトビウオ料理
蘭嶼の食文化を支えるのは、やはりトビウオです。漁の季節に訪れれば、新鮮なトビウオを使った多彩な料理を堪能できます。
中でも定番なのが、天日干しにしたトビウオを揚げたり焼いたりしたシンプルな料理。噛むほどに旨味が広がり、ビールとの相性も抜群です。また、ほぐしたトビウオの身をたっぷり使った「飛魚炒飯(トビウオチャーハン)」も絶品で、多くの食堂で味わえます。シーズン外は冷凍されたものが使われますが、やはり旬の時期の味は格別です。
タロイモとサツマイモにも注目
タオ族の伝統的な主食は、タロイモ(芋頭)とサツマイモ(地瓜)です。これらは単なるご飯の代わりだけではなく、さまざまな料理やスイーツに使われています。
特におすすめしたいのが、タロイモを使ったスイーツです。タロイモペーストがたっぷりトッピングされたかき氷や、タロイモ味のアイスクリームは、暑い日中に冷たく身体を癒してくれます。自然な甘みとねっとりした食感が癖になる美味しさです。
島のセンス光るカフェ&レストラン
近年、蘭嶼では若い世代が営むおしゃれなカフェやレストランが増えています。海を眺められるテラス席で、ゆったりとコーヒーを飲んだり、地元の食材を生かした創作料理を楽しめます。
たとえば、東清集落にある「蘭嶼旅人・Rover」は、美味しいブランチと手作りパンが評判のカフェです。漁人集落の「無餓不坐」では、アートな空間の中で夕日を眺めつつ、食事やお酒を満喫できます。
夜には満天の星空のもと、波の音を聴きながら過ごす時間は都会では味わえない贅沢なひととき。ぜひお気に入りの一軒を見つけて、ゆったりとした島の夜を楽しんでみてください。
旅の拠点選び。蘭嶼の宿事情
蘭嶼には、高級ホテルのような大型施設はありません。宿泊施設の大半は地元の人たちが営む、温かみのある「民宿」です。どの民宿に泊まるかが、蘭嶼の旅の楽しみのひとつとなっています。
旅のスタイルに合わせて選ぶ宿泊先
滞在する集落によって、旅の雰囲気や過ごし方が変わってきます。
- 利便性を重視する場合: 椰油集落がおすすめです。空港や港が近く、セブンイレブンもあり利便性が高いため、初めて訪れる方や短期間の滞在に向いています。
- 伝統的な雰囲気を楽しみたいなら: 野銀集落が最適です。地下屋が多く残る地域で、タオ族の文化が色濃く感じられるエリア。静かで落ち着いた時間を過ごしたい方におすすめです。
- 朝日とともに一日をスタートしたい方は: 東清集落がぴったりです。美しい日の出が見られるだけでなく、人気のカフェや朝市もあり、活気のある場所です。
- 夕日をゆったり眺めたい場合: 漁人集落や紅頭集落がおすすめです。美しいサンセットスポットに近く、ロマンチックなひとときを楽しめます。
多くの民宿は清潔感がありシンプルな内装で、オーナー家族との温かい交流も民宿ならではの魅力です。島の暮らしやおすすめスポットについて話を聞くのも、旅の素敵な思い出になるでしょう。
予約時のポイントと注意点
蘭嶼の民宿は部屋数が限られているため、早めの予約が肝心です。特に台湾の連休や夏休みシーズンは、数ヶ月前から予約が埋まっていきます。
実際にできる予約方法: 民宿の予約方法は様々ですが、電話やFacebookメッセンジャー、LINEなどで直接オーナーと連絡を取るケースが多いです。そのため、簡単な中国語か英語のコミュニケーションが求められる場合があります。近年ではBooking.comなどの予約サイトに掲載されている民宿も増えています。 さらに、多くの民宿では宿泊に加え、レンタルバイクやシュノーケリングなどのアクティビティがセットになったパッケージプランも用意しています。個別に手配するよりお得なことが多いので、予約時に確認してみると良いでしょう。
旅の準備と安全対策。安心して島時間を過ごすために

蘭嶼の旅を快適かつ安全に過ごすためには、特に女性の一人旅や初めて訪れる方は、入念な準備が欠かせません。ここでしっかりと確認しておきましょう。
持ち物リスト完全版
蘭嶼は都市部のようにすぐに何でも手に入る場所ではありません。事前の用意が旅の快適さを大きく左右します。
実際にできる準備:持ち物リストのチェック
- 必携アイテム:
- 現金: 最も重要な持ち物です。島内にあるATMは紅頭集落の郵便局に1台だけで、故障や現金切れが頻繁に発生します。クレジットカードが使える店舗も極めて少ないため、宿泊費や食費、ツアー代など滞在中に必要な分は、台湾本島で多めに現金を用意して持参しましょう。
- 日焼け対策グッズ: SPF50+かつPA++++の強力な日焼け止めクリーム、つば広帽子やサングラス、UVカット機能のある羽織ものを準備してください。蘭嶼の陽射しは予想以上に強烈です。
- 虫除けスプレー: 特に夕方以降は蚊が多いため、露出した肌には必ず使用しましょう。
- 常備薬: 胃腸薬や頭痛薬、絆創膏など、普段から使い慣れているものを持参してください。島内に診療所(衛生所)はありますが、万全に備えましょう。
- 船酔い止め: フェリー利用の方は必須アイテムです。
- 防水バッグやスマホ用防水ケース: 海でのアクティビティや急なスコールに対応できるよう準備しましょう。
- 国際運転免許証、または日本の免許証に中国語翻訳文を添えたもの: バイクをレンタルする際に必要です。島内の交通情報は、蘭嶼郷公所の公式サイトで確認できます。
- あると便利なアイテム:
- モバイルバッテリー: 観光中の充電環境は限られます。
- 速乾性タオル: 海遊びや汗かき対策に重宝します。
- ラッシュガード: 日焼け予防はもちろん、シュノーケリング時のクラゲ対策としても役立ちます。
- 水中カメラ: 美しい海中の景色を記録するのにおすすめです。
- 簡単な日本食: 食事が口に合わない場合に備え、インスタント味噌汁やお茶漬けなどがあると心強いです。
トラブルシューティング
旅には予期せぬトラブルがつきものです。特に自然環境の多い蘭嶼では不測の事態も考えられます。落ち着いて対処できるよう、心構えをしておきましょう。
実践できる対処法:トラブル発生時の心構え
- 飛行機・フェリーの欠航: 蘭嶼では天候による欠航が頻繁に起こるため、これを「普通」のこととして捉えましょう。旅程には1〜2日の予備日を必ず設け、帰路の便も余裕を持ったスケジュールを立てるのがポイントです。欠航が決まった際は、航空会社やフェリー会社の窓口で翌日以降の便への振替手続きを行いましょう。払い戻しの規定などは予約時に各社の公式サイトで事前に必ず確認しておくことが重要です。最新の運航情報は、台東観光旅行サイトで確認可能です。
- 怪我や病気の場合: 島内の各集落には衛生所(診療所)があり、軽度な怪我や病気の治療は受け付けています。ただし設備は限られているため、重篤な状況ではヘリコプターで台湾本島の病院へ搬送される場合があります。念のためにも海外旅行保険には必ず加入しておきましょう。
- スリ・盗難対策: 蘭嶼は比較的治安が良いものの、油断は禁物です。貴重品は常に身につけ、宿に置く際もスーツケースに鍵をかけるなど対策を講じてください。バイクのメットインに貴重品を入れたまま離れるのは避けましょう。女性が一人で歩く場合は、夜間の暗い道を避けるなど基本的な注意を払うことで安全に過ごせます。
旅の終わりに想うこと、蘭嶼が教えてくれたもの
バイクを駆り、潮風に髪を揺らした日々。東清湾の夜明けに息を呑み、青青草原の夕日に胸を打たれ涙した瞬間。野銀集落で出会ったおじいさんの、深く刻まれた皺と温かな笑顔。私の蘭嶼での記憶は、鮮やかな色彩とやさしい感情で満たされています。
この島は、私たちが日常生活でつい忘れがちな大切なことを、そっと思い出させてくれる場所でした。それは、自然の圧倒的な力と美しさ、そしてその前で謙虚にいることの大切さ。季節の変化とともに暮らしを築き、神々と共に生きるタオ族の人々の生き様は、効率や便利さばかりを追い求める現代社会とはまったく異なる、もうひとつの豊かさの形を示してくれました。
彼らの神聖な島に訪れる私たち旅行者にできることは、ごくわずかです。彼らの文化を理解し、ルールを守り、静かに敬意を示すこと。そして、この島のありのままの姿を愛し、その価値を心から受け入れること。
次にこの島を再訪する際には、私はもっとタオの言葉を覚えていたいと思います。そして、「こんにちは」だけでなく、彼らが大切にしている自然への感謝の気持ちを、自分の言葉で伝えられるようになりたい。
蘭嶼の旅は終わりましたが、私の心の中には、あの紺碧の海と力強く生きる人々の姿が、これからもずっと息づいているでしょう。この島が教えてくれた、本当の豊かさを胸に抱きながら、私はまた次の旅路へと歩み出すのです。







