ふと、日常から遠く離れた場所へ旅に出たくなるときがありませんか。賑やかな観光地も魅力的だけれど、今はもう少し静かで、心に深く刻まれるような風景に出会いたい。そんな想いを抱えるあなたに、私が心からおすすめしたい場所があります。それは、台湾の「馬祖列島」。
台北の喧騒から飛行機でわずか1時間。そこには、まるで時が止まったかのような、穏やかでノスタルジックな世界が広がっています。中国大陸にほど近く、かつては軍事上の要衝として、長い間そのベールに包まれてきた秘境の島々。石造りの家々が丘に連なる風景は、どこか地中海の古い港町を彷彿とさせ、灰色の石壁と青い海のコントラストは、ミニマルながらも洗練された美しさを湛えています。
アパレルの仕事で常に新しいトレンドを追いかけている私にとって、馬祖の変わらない風景は、逆にとても新鮮で、インスピレーションを掻き立てられるものでした。流行とは無縁の場所にある、本質的な美しさ。今回は、そんな馬祖列島の魅力を、アクセス方法から島での過ごし方、そしてあの神秘的な「青い涙」との出会い方まで、余すところなくお伝えしたいと思います。この記事を読み終える頃には、きっとあなたの次の旅の目的地リストに、「馬祖」という二文字が加わっているはずです。
また、馬祖のように心を揺さぶる時が止まる台湾の秘境、金門島の魅力も、ぜひ探してみてください。
馬祖列島ってどんなところ?知っておきたい基本情報

旅の計画を始める前に、まず馬祖列島がどのような場所であるか、そのユニークな特徴を少しだけ覗いてみましょう。台湾本島とは異なる独特の歴史や文化を理解することで、旅の体験がより深く、一層味わい豊かなものになるでしょう。
台湾本島とは異なる独自の歴史と文化
馬祖列島は台湾海峡の北部に位置し、地理的には台湾本島よりも中国大陸の福建省に近い場所にあります。この「地理的な近接性」が、馬祖の歴史や文化を形成してきた最も大きな要因といえます。
かつてこの地域は、中国と台湾の軍事的緊張が最も高まった最前線でした。島内には現在も多くの軍事施設の跡や、壁に残る「スローガン」と呼ばれる標語が点在し、当時の緊迫した雰囲気を静かに物語っています。この「戦地政務」という特異な時代を経験した結果、馬祖は台湾本島とは異なる独自の発展を遂げました。その歴史の痕跡は島のあちこちに感じられ、まるで歴史の教科書を歩くかのような不思議な体験をもたらします。
さらに文化面では、中国福建省北東部の「閩東(びんとう)文化」の影響が色濃く見られます。現地で話される言語も、台湾で主に使われる北京語や台湾語とは異なり、「馬祖語(閩東語)」が中心です。特に目を引くのが建築様式で、花崗岩を積み上げて造られた石造りの家屋は「閩東石厝」と呼ばれています。これらの家は風雨に耐えるための重厚な構造ながら、素朴でありながらも風格ある美しさを備えています。この独特な集落の景観こそが、馬祖が「台湾の地中海」と評される所以です。
旅のベストシーズンはいつ?気候と服装
馬祖の旅を最良のものにするためには、訪れる時期の選び方が重要です。四季それぞれに魅力がありますが、特に気候と「霧」の影響を知っておくと計画の参考になります。
- 春(3月〜5月):霧と「藍眼涙」の季節
春は馬祖が最も幻想的な顔を見せる季節です。頻繁に発生する濃い霧は、時には飛行機の欠航を招くこともありますが、霧に包まれた石造りの集落は息を呑むほど美しく、水墨画の世界のように感じられます。さらに、この時期の最大の魅力は後ほど詳しく紹介する神秘の光「藍眼涙(ブルーティアーズ)」です。気温はまだ冷え込む日が多いため、ライトダウンやフリース、防水性のウインドブレーカーの用意が必要です。視界が悪くなることもあるため、滑りにくいスニーカーの着用がおすすめです。
- 夏(6月〜9月):観光のハイシーズン
霧が晴れて安定した天候が続く夏は、観光のベストシーズンと言えます。青い空と海、そして石造りの家々の美しい対比が最も際立つ時期です。強い日差しに備えて帽子やサングラス、日焼け止めは必須です。服装はTシャツとショートパンツなど軽装で快適ですが、室内やバスの冷房対策、朝晩の気温差に備えてリネンシャツやカーディガンなど羽織れるものを一枚用意すると良いでしょう。ただし、台風シーズンでもあるため、こまめに天気予報を確認することをおすすめします。
- 秋(10月〜11月):穏やかで過ごしやすい季節
気候が落ち着き、過ごしやすい気温になる秋は、のんびりと島を散策するのに最適な季節です。夏の喧騒がおさまり、ゆったりとした時間を楽しめます。服装は長袖シャツや薄手ニット、ジーンズやチノパンが快適です。朝晩は冷えることがあるので、ジャケットやストールがあると便利です。澄み切った空気のなか、夕日に染まる集落の風景は、忘れがたい思い出になるでしょう。
- 冬(12月〜2月):静寂に包まれる季節
冬の馬祖は強い季節風が吹き、気温も低くなります。観光客は少なくなり、島全体が静けさに包まれるため、その落ち着いた雰囲気に魅力を感じる人には最適な季節です。寒さ対策はしっかりと行いましょう。ダウンジャケット、ニット帽、手袋、マフラーが必須で、風を通しにくい素材のアウターを選ぶのがポイントです。
馬祖列島を構成する主要な島々
馬祖列島は大小合わせて36の島々から成り立っていますが、観光で主に訪れるのは以下の4つのエリアです。それぞれの島が持つ異なる個性を楽しみながら、島巡りを満喫してください。
- 南竿(なんかん)島
馬祖の行政・経済の中心地であり空港もあるため、多くの旅行者がまず訪れる島です。見どころが豊富で、巨大な媽祖像や、お酒の香りが漂う「八八坑道」、ボートで探検できる「北海坑道」など、多彩なスポットが揃っています。観光の拠点として非常に便利な島です。
- 北竿(ほくかん)島
南竿島からフェリーでわずか15分の距離にあります。馬祖を代表する絶景スポット「芹壁村」があることで知られ、斜面にびっしりと並ぶ石造りの家々の風景は一度見ると忘れられません。手つかずの自然も豊かで、のんびりした島の雰囲気に浸れます。
- 東引(とういん)島
馬祖列島の中で台湾領土の最北端に位置。白亜の「東引島灯台」がシンボルです。断崖絶壁が連なる海岸線は非常にダイナミックで、雄大な自然が好きな人にはたまらないスポットです。基隆や南竿からフェリーでアクセス可能ですが、やや時間がかかるため、秘境感を楽しむにはぴったりの場所です。
- 莒光(きょこう)島
東莒島と西莒島の2つの島から構成されています。観光客が比較的少なく、より静かで素朴な馬祖本来の風景が残る場所です。なかでも東莒島のイギリス人設計の「東莒島灯台」や美しい砂浜が広がる「福正聚落」は必見のスポットです。
秘境への扉を開く。馬祖列島へのアクセス完全ガイド
それでは、馬祖の魅力が少し伝わったところで、次はいよいよ具体的なアクセス方法をご案内します。秘境という響きから行きづらいのではと不安に思うかもしれませんが、ご安心ください。空路と海路の両方のルートをしっかり押さえれば、スムーズに旅をスタートできます。
空路と海路のどちらを選ぶ?それぞれのメリット・デメリット
馬祖へのアクセスは主に、台北からの飛行機か基隆からのフェリーの2つの方法があります。それぞれの特徴を比べて、自分の旅のスタイルに合った方法を選びましょう。
- 空路(飛行機)
松山空港(台北市内)から、馬祖の南竿空港または北竿空港へ、UNI AIR(立栄航空)が毎日数便運航しています。
- メリット: とにかく速いことが最大の魅力。所要時間は約50〜60分と短く、時間を効率的に使いたい方や短い日程での旅行に最適です。
- デメリット: 最大の難点は「霧」。特に春先は霧の影響で欠航が頻発します。また、料金はフェリーより高く、座席数が限られているためハイシーズンは早めの予約が必須です。
- 海路(フェリー)
基隆港(台北近郊)から、夜行便のフェリー「新臺馬輪」または「臺馬之星」が南竿島および東引島へ向けて運航しています。
- メリット: 天候による欠航が飛行機に比べて少ないことが大きなポイントです。運賃も安く、コストを抑えたい方にぴったり。夜出発し船内で一晩過ごして早朝に到着するため、宿泊費を一泊分節約できるのも魅力です。大きな荷物も追加料金を気にせず運べる点もありがたいです。
- デメリット: 所要時間が約8〜10時間と長め。船旅に慣れていないと、船酔いの心配も考慮しておく必要があります。
旅のアドバイス: 時間に余裕があれば、行きはフェリーでゆったり船旅を楽しみ、帰りは飛行機でさっと戻るという組み合わせもおすすめです。特に霧の季節は飛行機の欠航リスクが高いため、帰りの便の翌日に重要な予定を入れず、余裕をもったスケジュールにしておくと安心です。
【実践編】航空券・フェリーチケットの予約方法と購入手順
ここからは、具体的にチケットの予約方法を詳しくご説明します。海外のサイト利用に不安があっても、手順通りに進めば難しくありません。
- 航空券の予約
馬祖へのフライトは、現在UNI AIR(立栄航空)の独占路線です。公式サイトからの予約が最も確実かつ簡単です。
- 公式サイトにアクセス: UNI AIRのウェブサイトを開きます。中国語(繁体字)と英語のどちらかを選べます。
- フライト検索: 出発地は「Taipei Songshan (TSA)」、目的地に「Nangan (LZN)」または「Beigan (MFK)」、搭乗日と人数を指定して検索します。
- 便の選択と情報入力: 希望の便を選び、搭乗者情報を正しく入力します。氏名はパスポート記載のローマ字表記で、パスポート番号や有効期限、生年月日も正確に記入しましょう。
- 支払い: クレジットカードで決済。VISA、MasterCard、JCBなどが利用可能です。
- 予約完了: 支払い完了後、予約確認書(E-ticket)がメールで届きます。搭乗時に必要なので必ず保存してください。
予約のポイント: 航空券は通常、搭乗日の2ヶ月前から予約可能です。週末や連休、夏のピークシーズンはすぐに満席になるため、早めの予約を強くおすすめします。
- フェリーチケットの予約
フェリーの予約は「馬祖海上交通預約購票系統」などのオンライン予約システムが便利です。
- 予約サイトにアクセス: 「馬祖海上交通預約購票系統」で検索、または新臺馬輪の公式サイトから予約ページへ。多くは中国語のみですが、ブラウザの翻訳機能を使えば問題なく手続きできます。
- 路線と日付を指定: 基隆から馬祖(南竿または東引)への片道または往復、希望の日付を選びます。
- 個人情報の入力: パスポート番号、氏名、連絡先などを正確に入力します。
- 座席クラスの選択: エコノミー(座席)、ビジネス(リクライニングシート)、ファースト(個室に近い)から選択可能。料金と快適さを考慮して選びましょう。女性のひとり旅なら、少し料金は上がりますがプライバシー確保のためビジネスクラス以上がおすすめです。
- 予約確定と支払い: 予約を確定し、オンライン決済か指定の期日までにコンビニ支払い等でチケット代金を支払います。
予約時の注意点: フェリーもハイシーズンは混雑します。特に個室タイプは人気が高いため、早めの予約を推奨します。また、フェリーの運航ルートは「先東後馬(東引島に先に寄る)」「先馬後東(南竿に先に寄る)」の2パターンがあり、曜日によって異なるため、自身の旅程に合った航路の日程を事前に確認しておきましょう。
万一のときのために。欠航・遅延時の対処法
馬祖旅行で最も気をつけたいのは天候による交通機関の乱れです。特に飛行機の欠航は珍しくありません。慌てず対応できるよう、事前に対策を把握しておきましょう。
- 飛行機欠航時の対応
- 航空会社カウンターへ向かう: 欠航が決まるとUNI AIRのカウンターは混雑しますが、落ち着いて列に並びましょう。
- 代替便への振り替え: 空席があれば、翌日以降の便に無料で振り替えられます。ただし霧が数日続く場合もあるため、翌日の便確保が必ずしも保証されません。
- キャンセル・払い戻し: 旅の都合で待てない場合は、航空券のキャンセルと全額返金を申し出られます。
- 代替手段を検討: 飛行機が飛ばない場合は、フェリーへの乗り換えも選択肢。すぐに基隆港へ移動し当日券を確保できるかチェックしましょう。
- 宿泊確保: 欠航で馬祖滞在や台北で足止めされることもあるため、宿泊先を早急に手配しましょう。空港の案内所で相談に乗ってもらえることもあります。
- フェリー欠航時の対応
フェリーの欠航はめったにありませんが、台風接近時などでは発生し得ます。その場合は購入先で払い戻し手続きを行い、代わりに飛行機の空席状況をUNI AIRのサイトで速やかに確認しましょう。
トラブルを避けるための心得:
- 天気予報をこまめにチェック: 滞在中は特に帰りのフライト直前に現地の天気や空港の運航状況を頻繁に確認しましょう。
- 余裕のある旅程を組む: 帰国日の前日に台湾本島に戻るなど、1日ほどの予備日を設けると欠航時も冷静に対応できます。
- 複数の交通手段を想定する: 「飛行機がだめならフェリー」という代替プランを持っておくと精神的にも安心です。
島々の個性を巡る。馬祖のおすすめ観光スポット

無事に馬祖に到着したら、いよいよ島々を巡る旅が始まります。各島が持つ独特の魅力を存分に感じてみてください。ここでは、私が特に印象に残ったスポットを島ごとにご紹介します。
南竿島 – 馬祖観光の玄関口
多くの旅行者が最初に足を踏み入れる南竿島は、見どころが豊富で活気あふれる島です。ここを拠点に、馬祖の多様な風景や文化に触れてみましょう。
- 馬祖の象徴「媽祖宗教文化園区」
馬祖という地名の由来となった航海の女神「媽祖」。その巨大な石像が丘の上に鎮座し、海を見守っています。高さ28.8メートルにも及ぶ像は間近で見ると圧倒的な迫力です。像の足元まで続く階段を昇れば、美しい海岸線と集落を一望できます。敬虔な信仰心と島民の海に対する畏敬の念が伝わる、馬祖訪問時には外せないパワースポットです。
- 戦時の記憶を伝える「八八坑道」
かつて軍の弾薬庫として使われていたこのトンネルは、現在では馬祖名産の高粱酒や老酒の貯蔵庫として活用されています。足を踏み入れるとひんやりとした空気の中に、芳醇な酒の香りがふんわりと漂います。年間を通じて温度と湿度が一定に保たれているトンネル内には酒甕がずらりと並び、その光景は壮観です。自由に見学でき、出口付近のショップでは試飲やお土産の購入も可能。歴史の重みと熟成された酒の香りが溶け合う、独特な空間です。
- 海に浮かぶ要塞「北海坑道」
南竿島で外せないのが、この北海坑道の探検体験。軍事目的で人力で掘られた巨大な地下水路を、手こぎボート「搖櫓(ヤオルー)」やカヤックで進んでいきます。ヘルメットを装着し、ガイドの巧みな操船で静かな水面を進むと、まるで冒険映画の主人公になった気分に。昼間の探検も素晴らしいですが、夜には藍眼涙鑑賞ツアーが催されることもあり、暗闇の水路で光る神秘的な光景は忘れられない体験となるでしょう。多くの場合事前予約が必要なので、観光案内所などで情報をチェックしましょう。
- アートの薫る村「津沙聚落」
かつて漁業で栄えた古い集落が、現在は石造りの家屋をリノベーションし、おしゃれな民宿やカフェ、ゲストハウスが軒を連ねる人気スポットとなっています。目の前には広大な砂浜が広がり、夕暮れ時には空と海がオレンジ色に染まる美しい絶景が楽しめます。石壁に描かれたグラフィティやさりげなく置かれたアート作品など、散策するだけで心が躍ります。どこを切り取っても絵になるこの村で、のんびりとコーヒー片手に過ごす時間は格別の贅沢です。
北竿島 – 石造りの集落が織り成す絶景
南竿島からフェリーでほど近い北竿島は、より素朴で手つかずの自然と美しい集落が魅力。まるで絵葉書の世界に迷い込んだかのような場所です。
- 台湾の地中海「芹壁村」
馬祖と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、ここ芹壁村の風景でしょう。海の見える急斜面に閩東式の石造り家屋が密集して建ち並び、その景観は圧巻です。「台湾の地中海」とも称され、多くの観光客を引きつけています。迷路のように入り組んだ石畳の小路を歩くと、猫が気持ちよさそうに昼寝をしていたり、窓辺にかわいらしい花が飾られていたりと、穏やかな光景に出会えます。集落内には海を望むテラス席のあるカフェも点在しているので、ぜひお気に入りの場所を見つけて絶景を眺めながらお茶を楽しんでください。どこから撮っても絵になるフォトジェニックなスポットです。
- 軍事史跡の島「大坵島」
北竿島の橋仔漁港から小さな船で約5分の無人島、大坵島には数百頭もの野生のニホンジカが生息しています。かつて軍が駐留していましたが撤退後に残された鹿が繁殖したものです。船着き場で鹿せんべい(桑の葉)を購入すると、人懐っこい鹿たちがすぐそばまで寄ってきます。島を一周できる遊歩道も整備されており、鹿と触れ合いながら手つかずの自然を満喫するハイキングは最高の体験です。
- スリリングな「螺蚌山自然歩道」
少しアクティブな体験を望むなら、このトレイルがおすすめです。午沙港近くの断崖絶壁沿いに設けられた約1.5kmのハイキングコースで、眼下には荒々しい波が打ち寄せる青く広大な海が広がります。絶景ですが道幅が狭く、柵のない場所や急な階段も多いため、高所恐怖症の方や体力に自信のない方には向きません。挑戦する際は歩きやすい靴を履き、飲み水を持参し、天気の良い日を選びましょう。スリルと達成感を味わえる、馬祖ならではの冒険です。
東引島 – 国境の灯台と雄大な自然
台湾最北端に位置する東引島は、その隔絶された立地による荒々しくも美しい自然景観が魅力です。
- 台湾最北端のシンボル「東引島灯台」
断崖の先端に立つ真っ白な灯台は、1904年にイギリスの技師により設計されたヴィクトリア朝様式の美しい建築物です。青い海と空を背景にしたその佇まいはまるで絵画のよう。灯台へと続く坂道を登りながら徐々にその優美な姿が見えてくる瞬間は感動的です。灯台のそばからは遮るもののない大海原を一望でき、国境の島に来たことを実感させてくれます。
- 奇岩の名所「一線天」
巨大な岩が真っ二つに割れたかのような海蝕地形です。両側から迫る絶壁の間を細い通路と階段で下りると、岩の隙間から空が一直線に見え、この名前がつけられました。かつて軍事拠点として使用されていたため、壁にはスローガンが残り、独特の緊張感が漂います。自然の造形美と歴史の痕跡が融合した興味深いスポットです。
莒光島 – 静寂の中に息づく歴史の島
南竿島からフェリーで約50分の莒光島は、東莒島と西莒島から成り、訪れる人も少なく、より濃密な馬祖体験を求める人に最適です。
- 東莒島の「東莒島灯台」と「福正聚落」
東引島灯台と同様にイギリス人が設計した花崗岩造りの灯台で、こちらは黒い帯がアクセントとなりまた違った趣を持ちます。灯台の麓には美しい石造りの集落「福正聚落」と白砂が美しい「福正沙灘」が広がります。満潮時には集落のすぐそばまで海水が迫り、干潮時には広大な砂浜が現れます。ゆったりと流れる時間の中で、ただ海を眺めているだけで心が洗われるような場所です。
旅の醍醐味!馬祖で味わうべき絶品グルメ
旅の醍醐味のひとつは、やはりその土地ならではの美味しい食事にあります。馬祖には、閩東文化と戦地文化が融合して生まれた、素朴ながら味わい深いグルメが数多く存在しています。
伝統の味を紡ぐローカルフード
- 繼光餅(ジーグァンビン)
見た目はゴマがたっぷりまぶされたベーグルのようなシンプルなパンです。明代の武将・戚継光が兵士の保存食として考案したと伝えられており、その名が由来になっています。そのままでも素朴な美味しさですが、豚の角煮やネギ入りの卵焼きを挟んだ「馬祖バーガー」は絶対に味わってほしい一品。外はカリッと、中はもちもちのパンと、甘辛い具材の組み合わせが抜群です。
- 老酒麵線(ラオジウミェンシェン)
馬祖の家庭で昔から作られてきた、もち米を発酵させて作るお酒「老酒」。この老酒をたっぷり使ったスープに、細い麺線、麻油(ごま油)で炒めた卵、紅糟肉などを加えた麺料理が「老酒麵線」です。老酒の芳醇な香りと優しい甘みが体に染みわたり、特に肌寒い日にぴったりの美味しさ。身体を温める効果もあるとされ、地元の人々に愛されるソウルフードです。
- 紅糟(ホンザオ)料理
紅麹菌を使って酒を造る際にできる酒粕が「紅糟」です。これが天然の調味料として様々な料理に用いられます。鮮やかな赤色と独特の風味が特徴で、チャーハンにすれば「紅糟炒飯」、豚肉を漬け込んで揚げると「紅糟肉」に。見た目のインパクトは強いですが、味は意外にもまろやかでコク深く、旨味に満ちています。レストランのメニューで見つけたらぜひ挑戦してみてください。
新鮮な海の幸を満喫
四方を海に囲まれた馬祖は、海産物の宝庫でもあります。台湾本島ではなかなか味わえない珍しい海の幸も楽しめます。
- 淡菜(ダンツァイ):馬祖産のムール貝は身が大きくぷっくりとし、濃厚な味わいが特徴です。シンプルに蒸すか、スープに入れていただくのが一般的です。
- 黃魚(ホアンユー):高級魚として知られるキグチで、柔らかな身と上品な風味が魅力。蒸し魚やスープ料理で味わうのが定番です。
- 佛手(フォーショウ):名前の由来は仏の手に似ていることから。カメノテという貝で、見た目は少し奇妙ですが、磯の香りが強くエビやカニに似た濃厚な旨味を持っています。
これらの海鮮は、南竿の介壽村や北竿の塘岐村などにある海鮮レストランで気軽に味わうことができます。
旅の準備と島内での過ごし方

快適で安全な旅を実現するためには、事前の準備と現地での移動手段の確保が非常に重要です。特に女性の視点から、注意しておきたいポイントをまとめました。
ぜひ持って行きたい!持ち物チェックリスト
馬祖の旅は都会とは異なる準備が必要です。私の体験を踏まえ、これだけは持っておくべきというアイテムをピックアップしました。
- 必携アイテム
- パスポートと航空券/フェリーチケットの控え: 基本中の基本ですが、コピーやスマホでの写真も一緒に用意しておくと安心です。
- 現金(台湾ドル): 馬祖では個人商店や食堂、バスでクレジットカードが使えないところが多いです。ATMも集落の中心部にしかないため、台北である程度両替して現金を用意しておくことをおすすめします。
- 常備薬: 頭痛薬や胃腸薬など、普段使い慣れている薬は必ず持参してください。
- 服装・装備
- 羽織るもの: 夏でも朝晩の冷え込みや室内の冷房対策にカーディガンやパーカーは欠かせません。春や秋はライトダウンやフリースが重宝します。
- 歩きやすい靴: 石畳や坂道、自然の歩道が多いため、歩き慣れたスニーカーがおすすめ。ヒールは避けましょう。
- 帽子、サングラス、日焼け止め: 季節を問わず紫外線対策はしっかりと行いましょう。
- 便利グッズ
- 酔い止め薬: 船や山道を走るバス移動が多いため、乗り物酔いしやすい方は必携です。
- 虫除けスプレー: 特に夏季や自然豊かな場所を散策するときに役立ちます。
- モバイルバッテリー: 絶景を撮影しているとスマホの電池がすぐ減るため、大容量のバッテリーがあると安心です。
- 防水・防塵ケース: 海辺での活動や藍眼涙の撮影時にスマホを守るために持っておくと便利です。
- S字フック: 民宿などで荷物を掛ける場所が限られている場合に意外に重宝します。
- ウェットティッシュ・除菌ジェル: 食事の前など、あると何かと便利です。
島内の移動手段は?効率よく使い分けよう
島内の移動はレンタルバイク、タクシー、路線バスが主な選択肢です。それぞれの特長を理解し、自分の旅のスタイルに合わせて選びましょう。
- レンタルバイク(スクーター)
もっとも自由に島を巡るのに便利なのがレンタルバイクです。
- 借り方: 空港や港の近くに多数のレンタルショップがあります。日本の運転免許証と、中国語の翻訳文(JAFや運転免許センターで発行)、さらにパスポートを提示することで借りられます。
- 注意点: ヘルメット着用は義務です。馬祖は坂道や曲がり角が多いため、運転に慣れていない場合は特に注意が必要です。国際免許証は台湾では有効ではないため、中国語翻訳文の準備を忘れずに。
- 電動バイク: 免許不要で借りられる電動バイクもありますが、パワーが弱く急な坂を登るのが大変なことも。平坦なエリアでの利用に限定するのが安全です。
- タクシー
運転に不安がある場合やグループでの移動にはタクシーが便利です。
- 利用方法: メーター制と交渉制がありますので、乗車前に料金を確認しましょう。数時間、半日、1日単位のチャーターも可能で、ドライバーが観光案内も兼ねておすすめスポットへ案内してくれることがあります。効率よく回りたいときに適した選択です。
- 路線バス
料金が最も安い移動手段ですが、便数が少ないため利用に計画が必要です。
- 利用方法: 主要な集落や観光地をつないでいますが、1〜2時間に1本程度と少なめ。利用時は馬祖国家風景区公式サイトなどで時刻表を事前に詳しく確認し、余裕を持った予定を立てましょう。時間を気にせずゆったり旅を楽しみたい人向けです。
- 島間交通(フェリー)
南竿、北竿、莒光、東引の各島は定期船で結ばれています。便数が限られているため、移動する日は必ず時刻表を確認して乗り遅れに注意してください。
安全に旅するために知っておきたいこと
台湾全体が治安の良いことで知られており、馬祖も例外ではなく非常に穏やかで安全な場所です。地元の人も親切で、女性一人旅でも安心できる環境でした。ただし、海外であることには変わりありません。
- 基本的な注意点: スリや置き引きに備えて、貴重品は身体から離さず持ち、バッグは常に体前方で抱えるようにしましょう。夜間に一人で暗い路地を歩くのは避けるなど、基本的な防犯意識は忘れずに。
- 自然環境への備え: 治安よりも気をつけたいのは天候の変化です。霧や台風で交通が乱れる可能性があるため、こまめに天気予報をチェックしましょう。また、トレッキングなどの際は自身の体力を過信せず、無理のない計画を立てることが大切です。
- 緊急連絡先: 万一のために警察(110)、救急・消防(119)の番号を覚えておきましょう。さらに、パスポート紛失などのトラブルに備え、日本の台湾窓口「日本台湾交流協会」の連絡先も控えておくと安心です。
神秘の光「藍眼涙(ブルーティアーズ)」に出会うために
馬祖の旅を彩る最大の見どころであり、多くの人々がこの島を訪れる理由の一つが「藍眼涙(ブルーティアーズ)」です。夜の海が銀河のように青く輝く幻想的な光景。この奇跡的な現象に出会うための知識とコツをお伝えします。
藍眼涙とは?その正体と発生条件
藍眼涙は、「夜光虫(ウミホタルとは異なる渦鞭毛藻の一種)」というプランクトンの光によって生まれます。この夜光虫は波や岩などの刺激を受けると、青白い光を放ち、まるで海が涙を流しているかのように見えます。
この現象はいつでも観察できるわけではなく、いくつかの条件が重なる必要があります。
- 時期: 主に4月から9月までで、特に春から初夏にかけてが最盛期とされています。
- 気候: 水温が上昇し始める時期が最も活動的になります。
- 暗さ: 月明かりや街灯の少ない暗い夜ほど、より鮮やかに光が見えます。新月前後の夜が特に狙い目です。
- 刺激: 満ち潮の時間帯や適度な波が岩場を打つ場所など、夜光虫が反応しやすい環境が必要です。
自然現象のため「必ず見られる」という保証はありません。それゆえ、出会えたときの感動は格別です。
藍眼涙の観賞スポットとツアー情報
藍眼涙は馬祖の複数の島で観察可能ですが、特に有名な場所がいくつかあります。
- 南竿島「北海坑道」のナイトツアー
最も確実に鑑賞できるのが北海坑道のボートツアーです。坑道内は完全に暗いため、わずかな光でも鮮明に見えます。ガイドが櫓で水をかき、その軌跡に沿って青白い光が滑らかに走り、水面を叩くと光がキラキラと弾ける様子はまるで魔法のようです。人気のため定員制となっており、到着次第すぐの予約をおすすめします。
- 各島の海岸線
ツアーに参加せず、自力で探すことも可能です。南竿島の「鉄堡」や「大漢據點」、北竿島の「橋仔漁港」周辺などが有名な場所です。夜になったら懐中電灯を持ち、海岸の波打ち際をじっと見つめてみましょう。
観賞のポイント: 地元の最新情報が最も頼りになります。宿のオーナーや観光案内所、タクシーの運転手などに「今夜はどこがおすすめですか?」と尋ねてみると、その日の風向きや潮の流れを踏まえた最適なスポットを教えてくれます。
撮影のポイントと注意事項
幻想的な光景を写真に収めたいと思うのは自然なことですが、藍眼涙の撮影は非常に難易度が高いです。スマホのカメラではほぼ写りません。撮影には十分な準備が必要です。
- 必要な機材:
- マニュアル設定可能なカメラ: 一眼レフやミラーレスカメラが必須となります。
- 三脚: 長時間露光のためにカメラをしっかり固定する必要があります。
- 明るいレンズ: F値(絞り)が2.8以下の明るい広角レンズが理想的です。
- カメラ設定の目安:
- 撮影モード: マニュアル(M)モード
- ISO感度: 3200〜6400以上
- 絞り(F値): 開放(最小値)で設定
- シャッタースピード: 30秒程度から
- ピント: マニュアルフォーカス(MF)で、遠くの漁火や星に合わせて固定します。
- 撮影時の注意点:
- 安全最優先: 夜の海岸は暗く足場が悪い場所も多いです。懐中電灯は必ず携帯し、足元を確認しながら歩き、無理は絶対にしないでください。
- 光害を避ける: 撮影中は他の鑑賞者の迷惑にならないように、懐中電灯やスマホのライトは消しましょう。赤色ライトのヘッドランプがあると便利です。
- 環境への配慮: 藍眼涙を鑑賞するために石を海に投げ込む人がいますが、生態系への影響が問題視されています。自然のままの状態で静かに楽しみましょう。
馬祖での特別な体験 – 旅の記憶を彩るアクティビティ

観光名所を巡るだけが旅の楽しみではありません。馬祖では、その土地ならではの文化や生活に触れられる、特別な体験が待っています。
閩東古民家で味わうタイムトリップ
馬祖での宿泊には、ぜひ「閩東民宿」を選んでみてください。厚い石の壁に囲まれた空間で眠り、朝は小さな窓から差し込む柔らかな光で目を覚ます。まるで何十年も前に戻ったかのような不思議な感覚を味わえます。多くの民宿は古い建物の趣を残しつつ、水回りなどは現代的に快適なリノベーションが施されているため、安心して滞在が可能です。なにより、オーナーの方々はとても親切で、島の歴史や暮らしについて教えてくれたり、おすすめのスポットを案内してくれたりと、温かな交流が生まれます。ホテルでは味わえない、人とのつながりも旅の大きな魅力のひとつです。
戦地文化を肌で感じる体験
島の各所に見られる「殺朱拔毛(共産党を倒せ)」といった、物々しい軍事スローガン。最初は驚くかもしれませんが、これも馬祖の歴史を物語るひとつの要素です。こうした戦地の記憶は現在、ユニークな観光資源として新たな魅力を放っています。迷彩柄をテーマにしたカフェやお土産品、軍事施設を改装したアートスペースなど、平和な時代だからこそ堪能できる「戦地文化」を探し歩くのも面白い経験となるでしょう。台湾の複雑な歴史を思い返す、貴重な機会にもなります。
地元の朝市をのぞいてみる
土地の素顔を感じたいなら、ぜひ朝市に足を運んでみてください。南竿の介壽村に位置する「介壽獅子市場」は、早朝から地元の人々で賑わいます。新鮮な海の幸や馬祖ならではの野菜、手作りの繼光餅や点心がずらりと並び、活気に満ちています。地元の人々の会話に耳を傾け、美味しそうな香りに誘われながら市場を歩けば、ガイドブックには載っていない馬祖の素朴な日常が垣間見えるはずです。
馬祖の旅を終えて
馬祖列島は、静かに、しかし力強く、自身の歴史と文化を守り続けている場所です。霧に包まれた石造りの村、断崖に咲く野生のユリ、夜の海に輝く青い光。私の心のアルバムには、数多くの美しい風景が鮮明に刻まれています。
変化の激しい現代の世界で生きていると、時に何が本当に大切なのか見失いそうになることがあります。しかし、馬祖の変わらない景色と、そこで穏やかに暮らす人々の姿は、「そのままでいいんだよ」と優しく語りかけてくれるようでした。
この旅は単なる観光ではありませんでした。時間と向き合い、自分自身と向き合う、静かな対話のひととき。もし日々の喧騒に少し疲れたなら、どうぞこの台湾最後の秘境を訪れてみてください。きっと、あなたの心に忘れられない青い光を灯してくれることでしょう。そして私もまた、あの穏やかな島の空気に触れる日を心待ちにしています。

