エメラルドグリーンの海が広がるバリ島、近代的なビルが立ち並ぶジャカルタ、そして悠久の歴史を感じさせるボロブドゥール遺跡。数千の島々からなるインドネシアは、訪れる人々を魅了する多様な魅力に満ち溢れています。しかし、どれだけ素晴らしい旅の計画を立てても、予期せぬ体調不良は誰にでも訪れる可能性があります。慣れない環境、気候の変化、そして食事。ほんの少しの油断が、楽しいはずの旅行を不安なものに変えてしまうかもしれません。
「もしも高熱が出たら?」「激しい腹痛に襲われたらどうしよう?」「言葉の通じない国で病院にかかるなんて…」そんな不安を抱えたままでは、心から旅を楽しむことはできませんよね。この記事は、そんな万が一の事態に備え、インドネシアで安心して医療サービスを受けるための全てを網羅した完全ガイドです。病院のかかり方から薬局での薬の買い方、さらには日本を出発する前の準備まで、具体的かつ実践的な情報をお届けします。この記事を最後まで読めば、あなたのインドネシア旅行は、不安から解放され、より一層輝きを増すはずです。さあ、安心して冒険の旅に出るための準備を始めましょう。
体調管理と同様に、現地のルールを事前に知っておくことも安心な旅の重要な要素であり、例えばインドネシアでの喫煙に関する最新のルールやマナーを確認しておくと良いでしょう。
旅行前に必ずチェック!インドネシアの医療事情と日本との違い

インドネシアの医療システムは日本とはいくつかの面で大きく異なっています。こうした違いを理解しておくことが、緊急時に円滑に対応するための第一歩となります。まずは現地の医療事情の基本をしっかり押さえておきましょう。
公立病院と私立病院、旅行者はどちらを選ぶべきか?
インドネシアには、国や地方自治体が運営する「公立病院」と、民間企業が運営する「私立病院」という二種類の病院があります。旅行者が利用するなら、結論としては圧倒的に「私立病院」を選ぶべきです。
公立病院(Rumah Sakit Umum Daerah)
公立病院は主にインドネシア国民向けの医療機関であり、医療費が非常に安価なため、常に多くの地元住民で混雑しています。しかし、一方で施設の老朽化が進んでいる場合や最新の医療機器が整っていないことも少なくありません。さらに、医師やスタッフは基本的にインドネシア語しか話せないため、外国人旅行者にとっては言語の壁が大きな障害となります。また、衛生面の基準も日本とは異なることが多く、快適な環境で治療を受けたい方にはあまり適していないと言えるでしょう。
私立病院(Rumah Sakit Swasta / International Hospital)
これに対して私立病院、特に「インターナショナルホスピタル」と呼ばれる病院は、富裕層や外国人を主な対象にしています。医療費は公立病院に比べてかなり高額ですが、その代わりに享受できるメリットは非常に大きいです。最新の医療機器を備え、院内は清潔でホテルのような快適な環境が保たれています。加えて、英語が堪能な医師やスタッフが多く在籍しており、中には日本語対応の窓口や通訳サービスを提供する病院もあります。ジャカルタやバリ島のデンパサール、スラバヤなど主要都市には、このような国際基準の私立病院が複数あり、日本の病院と比べても遜色ない医療を受けることが可能です。
旅行中の限られた時間の中で、迅速かつ確実に質の高い医療を受けたい場合は、迷わず私立病院を選ぶのが最も賢明です。高額な医療費については後述する海外旅行保険で補えるため、費用を気にせず、まずは安心して治療に専念できる環境を優先しましょう。
医療水準は安全か?インドネシアの現状を理解する
「インドネシアの医療レベルは実際どの程度なのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。この点については、都市部と地方で著しい格差があるのが実情です。
ジャカルタやバリ島のように外国人旅行者が多い都市の私立病院は、医療水準が非常に高いと言えます。欧米の大学で学んだ経験を持つ医師も多数おり、設備も日本と同等かそれ以上の最新機器を備えていることが珍しくありません。内科や外科、歯科など一般的な診療であれば、安心して受診できます。
一方で、地方に足を運ぶと状況は一変します。医療インフラが不十分な地域も多く、高度な専門治療や手術が必要な場合は都市部の病院に移送されることが多いです。さらに、心臓外科や脳神経外科といった高度専門分野では、国内での対応が難しく、シンガポールやマレーシア、バンコクのような医療先進国への緊急搬送が行われるケースもあります。この際の搬送費用は数百万円から1,000万円を超えることもあり、こうした背景から海外旅行保険の重要性が浮き彫りになります。
支払いシステムの違い|キャッシュレス診療の重要性
日本とインドネシアの医療の大きな違いの一つに、支払い方法があります。日本では国民健康保険や社会保険制度があり、窓口での自己負担は原則3割ですが、海外では日本の公的保険は適用されません。つまり、インドネシアの病院でかかる費用は全額自己負担となります。
そして、医療費は私たちが想像する以上に高額になることが多いです。例えば私立病院で簡単な診察と処方箋を受け取るだけでも1万円から2万円程度かかり、点滴や検査が加われば5万円から10万円、入院すれば1泊で数十万円、手術が必要になると数百万円に達することも珍しくありません。
ここで心強いのが、海外旅行保険に付帯している「キャッシュレス・メディカル・サービス」です。これは保険会社が提携する病院で、自己負担なし(キャッシュレス)で診療を受けられるサービスです。受診前に保険会社のアシスタンスデスクに連絡して手配してもらうことで、医療費を保険会社が直接病院に支払います。このサービスを利用すれば、現金やクレジットカードの心配なく治療に集中できるのです。海外旅行保険に加入する際は、自分の渡航先に多いキャッシュレス提携病院がある保険会社を選ぶことも重要なポイントとなります。
【実践編】インドネシアで病院にかかるためのステップ・バイ・ステップ
実際に体調を崩した際、慌てず冷静に対処できるよう、具体的な手順を事前にシミュレーションしておきましょう。以下のステップを頭に入れておくだけで、不測の事態に対する安心感が格段に高まります。
STEP 1: 症状が現れたら、まず何をすべきか?
旅先で「体調が何だかおかしい」と感じた場合は、まず慌てずに自分の状態を冷静かつ客観的に把握することが重要です。
- 症状のチェック: 熱はどのくらいあるのか?お腹のどの部位にどのような痛みがあるのか?下痢や嘔吐は起きているか?発疹は見られるか?怪我があれば、出血の有無や痛み、腫れの程度を確認しましょう。
- 緊急性の見極め: 症状は軽度か、それとも耐え難いほど辛いか?意識が朦朧としている、呼吸困難、激しい頭痛や胸痛がある場合は、一刻も早く行動を起こす必要があります。軽い頭痛や軽度の腹痛であれば、携帯している常備薬を飲み安静にして様子を見る選択肢もあります。
自己判断が難しい場合や症状が悪化している場合は、躊躇せずに次のステップに進みましょう。特に小さな子どもや高齢者が同伴している場合は、迅速な対処が肝心です。
STEP 2: 海外旅行保険会社への連絡が最優先!
病院に駆け込む前に、まず最初にすべきことは、契約している海外旅行保険会社のアシスタンスデスクへ電話することです。保険証券や契約時に受け取った連絡先一覧、あるいは保険会社のアプリには、24時間365日対応の日本語窓口が記載されています。この一本の電話が、その後の手続きを円滑に進める大きなカギとなります。
電話をかけたら、オペレーターに以下の情報を正確に伝えましょう。
- 伝えるべき内容
- 氏名、生年月日
- 保険証券番号
- 現在の所在地(都市名、滞在ホテル名などできるだけ詳細に)
- 発症した症状とその開始時刻
- 連絡可能な電話番号
オペレーターはこれらの情報をもとに、あなたの現在地に近く、かつ症状に対応可能なキャッシュレス提携病院を検索し、案内してくれます。さらに病院側へ連絡し、あなたの受診予定を伝え、キャッシュレス診療の手配を完了させてくれます。場合によっては、病院までの交通手段に関する助言や、電話による簡単な医療通訳サービスを提供してくれることもあります。このプロセスを経ることで、あなたは指定された病院に行くだけで済み、面倒な支払い手続きを気にせずに済みます。
STEP 3: 病院へ向かう|交通手段と注意事項
受診先の病院が決まったら、速やかに病院へ向かいましょう。インドネシアの都市部では、タクシーや配車アプリ「Grab」や「Gojek」といったスマートフォンを使った配車サービスの利用が一般的で便利です。
- 配車アプリのおすすめポイント: 行き先をアプリで指定できるため、ドライバーに直接目的地を伝える必要がなく、言葉のストレスを軽減できます。料金もあらかじめ確定しているので安心です。利用するには現地SIMカードやWi-Fi環境があると便利です。
- 救急車について: インドネシアの救急車要請番号は「118」または「119」ですが、公営の救急車は到着までに時間がかかりやすく、交通渋滞にも巻き込まれやすいのが実情です。搬送先は基本的に最寄りの公立病院となります。命に関わる非常事態でなければ、保険会社が紹介する私立病院の救急車サービスやタクシーでの移動の方が迅速な場合が多いです。緊急度が高いと思われる場合はアシスタンスデスクに相談し、最適な対応を仰ぎましょう。
持参すべきものリスト
病院へ行く際は、以下の物を忘れずに準備してください。小さなポーチ等にまとめておくと、いざという時に焦らずに済みます。
- パスポート:本人確認のため必須です。
- 海外旅行保険証券(または契約カード):保険内容を示すもの。コピーやスマートフォンの画像でも可。
- クレジットカード:キャッシュレス診療が適用されない場合の支払いや、予備として持っておくと安心です。
- 現金(インドネシアルピア):交通費などの小額支払いに備えて持参しましょう。
- スマートフォン:翻訳アプリや地図、保険会社への連絡に必要です。
- お薬手帳や常備薬:既往症がある方や現在服用中の薬がある場合は、医師に正確な情報を伝えるため必ず持参してください。
STEP 4: 病院での受付から診察、会計まで
病院に着いたら、受付(Registration / Admission)へ行きましょう。インターナショナルホスピタルの場合、外国人専用の窓口が設けられていることもあります。
- 受付手続き: パスポートと海外旅行保険の情報を提出し、「I have an appointment arranged by [保険会社名] insurance.([保険会社名]保険で予約済みです)」と伝えるとスムーズです。
- 問診票の記入: 症状やアレルギー、既往歴などを記入する問診票(Patient Registration Form)が渡されます。英語表記が基本なので、落ち着いて記入しましょう。わからない語句は翻訳アプリを活用すると良いです。
- 診察: 順番が来たら名前が呼ばれ、診察室へ入り医師に症状を伝えます。診察も基本的に英語で行われます。伝えたい症状や質問はあらかじめ英語でメモしておくと安心です。簡単なフレーズやジェスチャーでも十分通じます。保険会社によっては三者間の電話通訳サービスを提供している場合もあるため、必要なら利用しましょう。
- 検査・処置: 症状に応じて血液検査、レントゲン、点滴などの検査や処置が実施されます。必要な検査内容や理由は医師が説明します。不明点は遠慮なく質問してください。
- 会計: 診察終了後、会計(Cashier / Payment)へ案内されます。キャッシュレスメディカルサービスが整っていれば、あなたは保険会社による支払い承認書にサインするだけで、自己負担なく手続きが完了します。仮に支払いを自己負担した場合は、必ず診断書(Medical Certificate)と領収書(Official Receipt)の原本を受け取りましょう。これらは帰国後の保険金請求に必須の重要書類となります。
薬局(Apotek)の歩き方|インドネシアで薬を手に入れる方法

病院に行くほどではない軽い症状や、病院で処方された薬の受け取りには、街の薬局を利用するのが一般的です。インドネシアの薬局の特徴を理解し、賢く活用しましょう。
「Apotek」の看板を探そう!インドネシアの薬局事情
インドネシア語で薬局は「Apotek(アポテック)」と呼ばれています。緑色の十字や蛇と杯のシンボルが目印です。Apotekは街のあちこちにあり、主要なショッピングモールや大型病院の隣には必ずと言ってよいほど併設されています。
- 営業時間: 多くの薬局は朝から夜まで営業していますが、ジャカルタなどの大都市には「Apotek 24 Jam」と表示された24時間営業の薬局もあり、深夜や早朝の急な体調不良時に大変心強い存在です。
- 信頼できる薬局: 個人経営の小さな薬局も見かけますが、旅行者が安心して利用できるのは全国規模でチェーン展開している大手の薬局です。たとえば「Kimia Farma」「Century Healthcare」「Guardian Pharmacy」などは品質管理が徹底されており、薬剤師が常駐していることが多いため、偽造薬の心配も少なく安心して利用できます。
処方箋が必要な薬と、カウンターで購入できる薬
インドネシアの薬局で取り扱う薬は、大きく2つに分類されます。
- 処方箋薬(Obat Keras): 医師の処方箋(Resep Dokter)がなければ購入できない薬です。抗生物質や睡眠薬、専門的な治療薬などが含まれます。病院で診察を受けた後、医師から渡された処方箋を薬局のカウンターに提出して購入します。
- 一般医薬品(Obat Bebas): 処方箋不要で誰でも購入できる薬です。風邪薬や解熱鎮痛剤、胃腸薬、消毒液、絆創膏などが該当します。これらはカウンター越しに薬剤師や店員に症状を伝えて購入します。ただし、日本の市販薬とは成分や用量が異なる場合があるため、購入時には注意が必要です。
薬局での購入手順とコミュニケーションのポイント
薬局のカウンターで薬を買う際の流れと便利なフレーズを紹介します。
- 症状を伝える: まずは自分の症状を伝えましょう。英語が通じることも多いですが、簡単なインドネシア語が分かるとよりスムーズです。
- 頭痛: Sakit kepala(サキット クパラ)
- 腹痛: Sakit perut(サキット プルッ)
- 発熱: Demam(ドゥマム)
- 咳: Batuk(バトゥッ)
- 風邪: Masuk angin(マスック アンギン)
- 「Minta obat untuk 〜(〜のための薬をください)」という形で伝えます。
薬の選択: 薬剤師が症状に合う薬をいくつか提案してくれます。インドネシアではジェネリック医薬品(Obat Generik)が広く普及しており、ブランド薬よりも価格が抑えられています。品質や効果は同等とされているため、特にこだわりがなければジェネリック薬で問題ありません。
- 用法・用量の確認: 最も重要なポイントです。薬の購入時には必ず使用方法や用量(Aturan Pakai)を確認しましょう。
- 「Berapa kali sehari?(ブラパ カリ スハリ?)」- 1日に何回飲みますか?
- 「Sesudah makan(ススダー マカン)」- 食後に
- 「Sebelum makan(スブルム マカン)」- 食前に
- 「Tiga kali sehari, satu tablet(ティガ カリ スハリ、サトゥ タブレット)」- 1日3回、1錠ずつ
薬剤師は丁寧に説明してくれますが、聞き取れなかったり不安がある場合は、メモに書いてもらうことをお願いするのも効果的です。薬のパッケージに指示が書かれていますがほとんどインドネシア語なので、購入時にしっかり確認することがトラブル回避のポイントとなります。
【準備が9割】日本から備えるべきこと|薬の持ち込みルールと持ち物リスト
インドネシアで安全かつ快適に過ごすためには、日本での事前準備が何より大切です。特に医薬品の持ち込み規則を正しく把握し、万全の持ち物リストを用意しておくことで、現地での不安を大幅に軽減できます。
自分の薬は持ち込める?押さえておきたい医薬品の持ち込み規制
普段服用している薬や、いざという時のための常備薬を日本から持参することで、安心して旅を楽しめます。基本的には個人使用の範囲内であれば、多くの医薬品は持ち込み可能です。ただし、一部注意が必要な薬もあるので、規則をしっかり確認しましょう。
- 一般的な常備薬:風邪薬や解熱鎮痛剤、胃腸薬など、日本のドラッグストアで購入できる一般医薬品は、特別な手続きなしで持ち込めます。ただし、医薬品であることがわかるように、可能な限り元のパッケージのままで持参するのがおすすめです。別の容器に移し替えると中身を疑われる恐れがあります。
- 処方薬:持病の治療薬も、個人使用目的であれば持ち込み可能です。万が一、税関で質問された時に備え、「英文の処方箋のコピー」や「薬剤情報提供書」を携帯しておくと安心です。
- 特に注意が必要な薬品:睡眠薬や精神安定剤、医療用麻薬成分を含む鎮痛剤など、向精神薬に分類されるものは持ち込み規制が厳格です。これらを持参する場合は、必ず事前に主治医に相談し、「英文の診断書」を用意してください。診断書には病名や治療の必要性、薬剤名、必要量が明記されていることが必要です。詳しくは在インドネシア日本国大使館の公式サイトを渡航前に必ずご確認ください。
- 持ち込み量の制限:滞在期間内に使用する量に限定するのが基本です。個人使用の範囲を超える大量の医薬品は、販売目的と疑われるリスクがあるため避けましょう。
これだけは必携!安全を支える「常備薬リスト」
現地でも薬は入手可能ですが、日本の慣れた薬を持って行く方が安心です。言語や成分の違いを気にせず使えるよう、以下の薬はぜひ日本から持参してください。
- 解熱鎮痛剤:急な発熱や頭痛、歯痛、生理痛の際に。アセトアミノフェン系やイブプロフェン系など、ご自身に合うものを選びましょう。
- 総合感冒薬:喉の痛みや鼻水、咳など、風邪の初期症状に対応できるもの。
- 胃腸薬:食べ過ぎや飲み過ぎ、胃もたれに備えて消化剤や胃粘膜保護薬など。
- 整腸剤・下痢止め:環境変化や食事の違いによりお腹の調子を崩しやすいため、ビオフェルミンなどの整腸剤と急な下痢に対応できる下痢止めは必須です。
- 虫刺され薬・かゆみ止め:インドネシアは蚊が多いため、虫刺され対策は欠かせません。かゆみを和らげる薬も忘れずに持参しましょう。
- 絆創膏、消毒液、綿棒:旅先での小さな切り傷やすり傷にすぐ対応できるよう、応急手当セットを準備しましょう。
- 酔い止め:船や車での移動が多い場合に持っていると安心です。
- 持病の薬:普段から服用している薬は、旅行日数より多少余裕を持って用意しましょう。フライトの遅延などを考慮し、手荷物と預け入れ荷物に分けて収納すると紛失リスクが減らせます。
海外旅行保険は「治療・救援費用無制限」がスタンダード!
本文中でも繰り返し述べてきた通り、海外旅行保険への加入はもはや必須です。加入時には補償内容を十分に確認することが非常に重要です。
- 最優先すべきは「治療・救援費用」:特に重視したいのは、病気やけがの治療費をカバーする「治療費用」と、日本への医療搬送費用などを補償する「救援者費用」です。インドネシアの医療費は高額で、近隣国への搬送が必要な場合は1,000万円を超えることもあります。こうした非常時に備え、「治療・救援費用」の補償額が無制限のプランを選ぶことを強く推奨します。
- クレジットカード付帯保険の注意点:多くのクレジットカードに海外旅行保険が付帯していますが、補償内容には制限があります。治療費用の上限が200~300万円程度の場合が多く、重い病気や大きなケガには不足する可能性があります。また、「旅行代金をカードで支払う」という条件がある「利用付帯」の場合もあるため、事前にカードの保険内容をよく確認し、不足を感じたら別途保険会社の旅行保険に加入しましょう。数千円の保険料を惜しんで数百万円の借金を背負うリスクは避けるべきです。
インドネシアで注意すべき病気と感染症

適切な準備を行うと同時に、現地で考えられる健康リスクを把握しておくことも重要な予防策の一つです。ここでは、インドネシア滞在時に特に注意すべき病気や感染症について詳しく解説します。
「バリ腹」だけではない!旅行者がかかりやすい疾患
- 旅行者下痢症: 通称「バリ腹」として知られる、旅行者に最も多く見られる病気です。原因は、生水や氷、加熱不足の食品、カットフルーツに含まれる細菌やウイルスです。予防の基本は「口に入れるものに十分注意する」ことです。
- 水: 未開封のペットボトルの水を必ず飲みましょう。ホテルの水道水でのうがいも避けた方が安全です。
- 氷: 屋台や地元の食堂の氷は水道水を凍らせたものの可能性が高く、飲み物は氷なし(Tanpa es)で注文するのが望ましいです。
- 食事: 信頼できるレストランを選び、十分に加熱された料理をいただきましょう。生野菜やカットフルーツも注意が必要です。
- 手洗い: 食事前には石鹸での手洗い、あるいはアルコール消毒ジェルの使用を習慣にしてください。
食中毒: 旅行者下痢症と似た原因で発生しますが、より重篤な症状を伴い、発熱や嘔吐が現れることがあります。特に路上の屋台(ワルン)で食事をする場合は、食材の新鮮さや調理環境の衛生状態を自分の目で確認することが重要です。地元の人で賑わうお店は、食材の回転が速く新鮮であることの一つの指標となります。
蚊が媒介する感染症|デング熱・チクングニア熱・ジカ熱
インドネシアの熱帯気候では、一年中蚊が活発に活動しています。蚊は多種の感染症を媒介するため、しっかりとした対策が欠かせません。厚生労働省検疫所(FORTH)のウェブサイトにも注意喚起がされています。
- デング熱: 特に警戒すべき感染症の一つです。ネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることでうつり、高熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹などを引き起こします。特効薬はなく対症療法が中心で、重症化すれば命の危険もあります。疑わしい症状が出た場合は早急に医療機関を受診してください。
- チクングニア熱・ジカウイルス感染症: これらも蚊を介して感染し、症状はデング熱に似ています。特にジカウイルスは妊婦が感染すると胎児に小頭症などの先天性異常をもたらす可能性があるため、妊婦や妊娠の可能性がある方は流行地域への渡航を見合わせることを検討しましょう。
蚊から身を守るための具体的対策
- 虫除け剤の使用: DEET(ディート)やイカリジンを含む虫除けスプレーを皮膚の露出部分にこまめに塗り直してください。
- 服装の配慮: 屋外活動時はできるだけ長袖・長ズボンを着用し、肌の露出をできるだけ少なくしましょう。白や明るい色の服は蚊が寄り付きにくいと言われています。
- 時間帯に注意: 蚊は特に夜明けと夕暮れ前後に活発になるため、この時間帯の外出は特に注意が必要です。
- 宿泊設備: 宿泊先は網戸やエアコン完備の部屋を選びましょう。蚊取り線香や電気蚊取り器も有効です。
その他の注意すべき感染症
- A型肝炎・腸チフス: 汚染された食品や水を通じて感染します。基本的な予防策は旅行者下痢症と同様ですが、これらには予防接種が可能です。長期滞在や衛生環境が不明瞭な地域へ行く場合は、渡航前にトラベルクリニックでのワクチン接種を検討すると良いでしょう。
- 狂犬病: 犬だけでなく猿や猫、コウモリなど哺乳類からも感染するリスクがあります。特にインドネシアのバリ島では野犬が多く、観光地の猿も人を恐れません。安易に動物に触れたり餌を与えたりすることは避けてください。万が一、動物に噛まれたり引っ掻かれたりした場合は、ただちに傷口を石鹸と流水で15分以上洗浄し、速やかに医療機関で暴露後のワクチン接種について相談してください。狂犬病は発症するとほぼ100%致命的な恐ろしい病気です。
【読者のあなたへ】今日からできるインドネシア旅行の医療準備アクションプラン
ここまでインドネシアにおける医療事情について詳しくご説明してきました。最後に、この記事をお読みいただいたあなたが、次の旅行に向けて「具体的に何をすれば良いのか」を分かりやすくアクションプランとしてまとめました。このリストを順番にクリアしていくことで、あなたの旅は一段と安全かつ安心なものになるでしょう。
出発前に必ず済ませておくべき3つのポイント
アクション1:海外旅行保険の加入と比較検討を行う
まずはインターネットで複数の保険会社の海外旅行保険を比較検討しましょう。注目すべきは「治療・救援費用が無制限」であること、そして「渡航先でキャッシュレス提携病院が多い」かどうかです。クレジットカード付帯の保険を利用する場合でも、補償内容や適用条件を必ず再確認してください。出発当日に慌てて空港で加入するのではなく、余裕を持ってじっくり選ぶことが肝心です。
アクション2:かかりつけ医に相談し、常備薬や必要書類を準備する
次の診察や薬局を訪れる際に、旅行の予定を医師や薬剤師に伝えましょう。持病の薬は、旅行期間+αの余裕を持って処方してもらい、「英文の処方箋」や「英文の診断書」の発行もお願いしておくと安心です。さらに、ご自身に合った常備薬(解熱剤や胃腸薬など)をピックアップし、早めに購入して救急ポーチに入れておきましょう。
アクション3:公的機関の最新情報を定期的に確認する
出発の1~2週間前になったら、外務省の海外安全ホームページや厚生労働省検疫所のサイトをチェックし、インドネシアの最新の感染症流行状況や安全情報を必ず確認する習慣をつけましょう。これにより、現地で注意すべきポイントを事前に把握できます。
現地で困らないための準備と情報収集
重要書類のバックアップを必ず作成する
パスポートの顔写真ページ、航空券のeチケット、ホテル予約確認書、そして加入した海外旅行保険の証券番号や緊急連絡先。これらの大切な書類は、紙のコピーを携帯するだけでなく、スマートフォンで撮影し、さらにGoogle DriveやDropboxといったクラウドサービスにも保存しておきましょう。原本やスマホの紛失時も別のデバイスからアクセスでき、大きな助けとなります。
滞在先周辺の病院を事前に調べておく
宿泊予定のホテルやヴィラ名でGoogleマップ検索し、その周辺にあるインターナショナルホスピタルをいくつかピックアップしましょう。例えば「International Hospital near [ホテル名], [都市名]」と検索して、候補をブックマークするだけでも、万が一の際の心の余裕が大きく変わります。
簡単な医療用語のメモを作成する
この記事で紹介したような、頭痛や腹痛、発熱といった自分の症状を伝えやすい英語やインドネシア語の単語、アレルギー情報や持病の名前などをスマートフォンのメモ帳にまとめておきましょう。これだけの準備で診察時のコミュニケーションが格段にスムーズになります。
旅をより楽しむための心構え
インドネシアは、一度訪れたら誰もがその魅力に惹かれる素敵な国です。しっかり準備をすることは旅の楽しみを減らすものではなく、むしろその逆で、不安を軽減し、美しい風景や文化、現地の人々との出会いに全力で向き合うための「お守り」のようなものです。
現地では、無理をせずゆったりとしたスケジュールを心掛け、こまめな水分補給と休憩も忘れないようにしてください。また、「少し体調がおかしい」と感じたときは我慢せず、「大丈夫だろう」と過信もせず、早めに対処する勇気を持ちましょう。あなたの健康と安全こそが、最高の旅の思い出をつくるための土台となります。
このガイドが、あなたのインドネシア旅行をより安全で充実したものにする一助となれば幸いです。どうぞ素晴らしい旅をお楽しみください!

