インドネシア、ジャワ島のほぼ中央に位置するケドゥ盆地。緑豊かなジャングルの海から、まるで巨大な蓮の花が姿を現したかのように、荘厳な石造りの寺院がそびえ立っています。それが、世界最大級の仏教遺跡であり、ユネスコ世界遺産にも登録されている「ボロブドゥル寺院」です。
こんにちは、世界30カ国を旅してきたライターのさくらえみです。これまで数々の絶景や歴史的建造物を見てきましたが、ボロブドゥル寺院で迎えた朝日の光景は、今でも忘れられない感動的な体験の一つです。静寂の中、霧の海からムラピ山が顔を出し、朝日に照らされて遺跡が黄金色に輝く瞬間は、まさに「天空の寺院」と呼ぶにふさわしい神秘的な美しさでした。
この記事では、そんなボロブドゥル寺院の魅力を余すところなくお伝えするとともに、これから訪れるあなたが最高の体験をするための具体的な方法を、私の経験を交えながら徹底的に解説していきます。チケットの予約方法から、悩みがちな服装のルール、サンライズ鑑賞を成功させるためのコツ、そして知っておくと旅が何倍も楽しくなる寺院の構造や歴史まで。この記事を読み終える頃には、あなたのボロブドゥル旅行の計画は完璧になっているはずです。さあ、一緒に時を超えた祈りの空間へと旅立ちましょう。
ボロブドゥルでの忘れられない体験の後には、同じジャワ島の天空の楽園、ディエン高原も、あなたを神秘的な絶景へと誘うでしょう。
ボロブドゥル寺院とは?天空に浮かぶ壮大な仏教世界

ボロブドゥル寺院は、単に巨大な石造建築ではありません。その一つひとつの石には、深い信仰と宇宙観が宿っています。この寺院の歴史やその象徴するものを知ることで、実際に訪れた際の感動は格別なものとなるでしょう。
謎に包まれた建設と奇跡の再発見
ボロブドゥル寺院がいつ、誰によって、何の目的で建てられたのかについて、正確な記録は残されていません。しかし、碑文や建築様式の分析から、8世紀末から9世紀初頭にかけて、この地を治めていたシャイレーンドラ朝が建立したと推測されています。驚くべきことに、この巨大な建造物は、接着剤を一切使わず、約200万個もの安山岩が精密に切り出され、まるでパズルのように組み合わされて作られているのです。
しかし、栄華を極めたシャイレーンドラ朝が衰退し、ジャワ島の中心が東へ移っていくと、ボロブドゥル寺院はムラピ山の噴火による火山灰と密林の中に覆われ、約1000年もの長い間、忘れ去られてしまいました。人々の記憶から消え去っていたこの寺院が再び歴史の表舞台に姿を現したのは、19世紀初頭のこと。ジャワ島を支配していたイギリスのトーマス・スタンフォード・ラッフルズが、地元住民の噂を頼りに調査隊を派遣し、密林の奥深くでこの奇跡の遺跡を発見したのです。
発見後も建造物の崩壊や風化は大きな課題でした。そこで20世紀後半に、インドネシア政府とユネスコが主導する大規模な修復プロジェクトが始まりました。「20世紀最大の考古学的修復事業」と称されたこの取り組みでは、一度寺院の石をすべて解体し、基礎を強化したうえで再構築するという、途方もない作業が行われました。この国際的な協力がなければ、現在のように美しい姿でボロブドゥル寺院を見ることは叶わなかったでしょう。詳しい歴史的価値と修復の過程についてはユネスコ世界遺産センター公式サイトに記されています。
宇宙を象徴する立体曼荼羅(マンダラ)
ボロブドゥル寺院は、下から見上げると巨大な階段状ピラミッドのように見えますが、上空から見ると仏教世界観を表す壮大な「立体曼荼羅」の形状をしています。全体は大きく三つの世界(三界)を示す構造に分けられます。
- 基壇(欲界 – カーマ・ダートゥ)
寺院の最も下層にあたり、欲望に満ちた人間の世界を象徴しています。この層のレリーフには、人間の抱える様々な欲望や悪行、そしてその因果応報が描かれていますが、多くは後付けされた土台によって隠されています。これは俗世の欲望を土台とし、その上に仏教の教えが成り立つことを意味しているとも解釈されています。
- 方形壇(色界 – ルーパ・ダートゥ)
基壇の上に築かれた、五層の四角い壇です。ここは欲望から解放されたものの、なお物質的な制約(色)にとらわれている世界を表します。方形壇の回廊には、壁一面に緻密な仏教説話のレリーフがびっしりと刻まれており、その総延長は実に約5キロメートルに及ぶため、「石の絵本」とも称されます。釈迦の生涯や仏教説話が、右回りに進むことで時系列に沿って追体験できる仕組みです。
- 円形壇(無色界 – アルーパ・ダートゥ)
寺院の最上部に位置する三層の円形壇で、物質的な制約から完全に解放された精神的な世界、つまり涅槃(ニルヴァーナ)を象徴しています。ここは方形壇の精巧な装飾とは対照的に、レリーフが一切なく、静謐な無の世界が広がっています。円形壇には釣鐘型の「ストゥーパ」と呼ばれる仏塔が72基規則的に並び、その中央にはひときわ大きな中央大ストゥーパが悠然と鎮座し、寺院全体の頂点を飾っています。
このようにボロブドゥル寺院は、下層から上層へと登っていく参拝の過程そのものが、俗世の欲望から悟りの境地へと至る仏教修行の道を体現する、壮大な宗教的装置となっているのです。
ボロブドゥル観光のハイライト!サンライズ鑑賞のすべて
ボロブドゥル寺院を訪れる多くの旅行者が求めるのは、息をのむほど美しい「日の出(サンライズ)」を目にすることです。漆黒の夜が徐々に明けて白み始め、霧に包まれた大地から荘厳な寺院とムラピ山のシルエットが浮かび上がる瞬間の光景は、まさに神聖そのもの。このかけがえのない体験をより素晴らしいものにする方法を、段階を踏んで詳しくお伝えします。
なぜボロブドゥルで日の出を鑑賞すべきなのか?
日中のボロブドゥル寺院も確かに魅力的ですが、日の出鑑賞にはそれを凌ぐ特別な魅力が存在します。
まず何より、その圧倒的な美しさです。夜明け前の静寂の中、寺院の最頂部で東の空がオレンジやピンク、紫へと刻々と色を変えていく様子は、まるで壮大な交響曲のようです。そして、太陽がムラピ山とムルバブ山の稜線から顔をのぞかせるそのとき、周囲の霧が黄金色に染まり、ストゥーパや仏像の影が鮮明に浮かび上がります。この幻想的な景観は写真や映像では決して伝わりきらず、その場に立ち会った人だけに味わえる深い感動をもたらします。
次に、その静けさと神聖な雰囲気です。開場時間よりも早い時間に入場できるため、日の出時は比較的観光客が少なく、静謐な環境で寺院と向き合えます。鳥のさえずりや風の音だけが響く中で迎える夜明けは、心を落ち着け、自分自身と向き合う瞑想的な時間となるでしょう。1200年前の人々も、きっと同じ光景を見つめ祈りを捧げていたに違いないと、悠久の時の流れに思いを馳せることができます。
日の出鑑賞チケットの予約方法と流れ
ボロブドゥル寺院でのサンライズ鑑賞は非常に人気が高く、入場者数には制限が設けられています。そのため、事前にチケットを予約することが必須です。かつては隣接するマノハラホテルがチケット販売を独占していましたが、現在は運営形態が変わり、公式ウェブサイトからオンライン予約するのが一般的です。
ここからは実際にチケットを予約するための手順をご案内します。
- ステップ1:公式サイトへアクセスする
まずは、ボロブドゥル寺院の公式チケット販売サイトにアクセスしましょう。検索エンジンで「Borobudur Park Ticket」などと検索すると見つかりますが、偽サイトに注意し必ず公式URLであることを確認してください。参考として、運営会社であるTWC (Taman Wisata Candi) の公式サイトから予約ページに進むのが最も安全です。
- ステップ2:「Borobudur Sunrise」プランを選択する
サイト内には通常の入場券や他寺院とのセット券など様々なプランがあります。必ず「Sunrise」もしくは「Dagi Hill Borobudur Sunrise」といった、日の出鑑賞専用のプランを選んでください。近年、寺院保護の観点から最上階(円形壇)への登壇が制限されており、サンライズは寺院敷地内にある別の丘(Dagi Hill)から鑑賞し、その後に寺院へ登壇する形式が主流となっています。プランの詳細をよく確認し、最新情報を必ずチェックしましょう。
- ステップ3:訪問日と人数を選択する
カレンダーから希望の日程を選びます。乾季の週末など混雑しやすい時期は早々に売り切れるため、旅行の予定が決まったらできるだけ早めに予約することをおすすめします。少なくとも1か月前の予約が安心です。
- ステップ4:個人情報の入力と支払い
氏名、パスポート番号、メールアドレスなど必要事項を入力します。誤りがないよう、パスポートを手元に用意して正確に記入してください。入力後はクレジットカードにて支払いを行います。VISAやMastercardなど国際ブランドのカードが利用可能です。
- ステップ5:Eチケットの確認と保存
支払い完了後、登録したメールアドレスにQRコード付きのEチケット(バウチャー)が送られてきます。このメールは絶対に削除せず、スマホに保存するか念のため印刷しておきましょう。当日はゲートでこのQRコードを提示して入場します。
当日の流れとポイント
予約が完了したら、あとは当日を迎えるだけです。最高のサンライズを楽しむため、当日の行動を事前にイメージしておきましょう。
- 早朝の出発
集合時間は季節により変動しますが、およそ午前4時半ごろです。ジョグジャカルタ市内のホテルからボロブドゥル寺院までは車で1時間〜1時間半かかるため、午前3時頃には出発する必要があります。事前にチャーター車やツアーを手配しておくと安心でスムーズです。
- 受付と入場
指定の集合場所に着いたら、予約時に受け取ったEチケット(QRコード)を提示して受付を済ませます。多くの場合、懐中電灯を貸してもらえるので、足元が暗い中での移動に非常に役立ちます。また、記念としてサロン(腰布)を受け取ることもあります。
- 寺院または鑑賞スポットへ向かう
スタッフの案内に従い、懐中電灯の光を頼りに暗闇の中を進みます。寺院の階段は急で段差も不規則なため、足元には十分注意しましょう。ゆっくり一歩ずつ確実に登ることが大切です。日の出鑑賞スポットは主に最上階のストゥーパ群の中で、東側のムラピ山が見える場所が人気ですが、混雑時はやや離れた場所でも美しさは変わりません。場所取りに固執せず、静かにその瞬間を味わえる場所を探すことをおすすめします。
- 夜明けを待つ時間を楽しむ
日の出までにはまだ時間があるため、スマホから顔を上げて周囲の環境に意識を集中してください。ひんやりとした朝の空気、遠くで聞こえるイスラムの礼拝呼びかけ(アザーン)、徐々に明るく染まる空の色。日常の喧騒を離れたこの静寂のひとときは、日の出そのものと同じくらい貴重な体験となるでしょう。冷え込むことも多いので、薄手のジャケットやパーカーなど一枚羽織るものを持参すると快適です。
そして待望の瞬間が訪れます。地平線の彼方が燃え立つように輝き、太陽が顔をのぞかせるとき、言葉を失うほどの感動が心に刻まれることでしょう。
ボロブドゥル寺院訪問の完全準備ガイド

壮大なボロブドゥル寺院を存分に楽しむためには、事前の準備が欠かせません。ジョグジャカルタからのアクセス方法や服装・持ち物のルールなど、知っておくべき実用的な情報をまとめました。これを参考にすれば、安心して旅支度を進められます。
ジョグジャカルタからのアクセス方法を詳しく比較
ボロブドゥル寺院観光の拠点は、歴史あるジョグジャカルタ市です。寺院までは約40キロの距離があり、いくつかの移動手段が利用可能です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分に最適な方法を選びましょう。
- ツアー参加
最も手軽で初心者におすすめなのは、旅行会社の催行するツアーに参加する方法です。特にサンライズ観賞を目指す場合、早朝の交通手段を自分で確保するのは難しいですが、ツアーならホテル送迎付きで安心です。ボロブドゥル寺院だけでなく、プランバナン寺院などほかの観光地も効率よく巡るプランが多数あります。費用はやや高めですが、ガイドによる解説も受けられるため、遺跡の理解を深められます。
- カーチャーターの利用
より自由に行動したい場合は、ドライバー付きの車を時間単位で貸切るチャーター車が便利です。自分たちのペースで移動し、好きなタイミングで立ち寄りができます。例えば、「サンライズ鑑賞後に近くのカフェで朝食をとり、その後プランバナン寺院へ向かう」といったオリジナルプランも可能です。料金は交渉制ですが、2〜4人のグループなら一人当たりの費用がツアーとほぼ同じか安くなることもあります。ホテルや現地代理店で手配可能です。
- タクシーや配車アプリを使う
ジョグジャカルタ市内からボロブドゥルまで、タクシーや東南アジアで普及している配車アプリ「Grab」を利用する手もあります。片道だけの利用もできますが、帰りの車を捕まえにくいこともあるため、往復交渉するか、数時間待機してもらう契約を結ぶのが無難です。料金はメーター制または事前交渉制となっています。
- 公共バス
最も経済的なのは公共バスの利用です。ジョグジャカルタ市内のジョンボルバスターミナルからボロブドゥル行きのバスが出ています。ただし、運行時間が不規則で冷房がない車両も多く、所要時間も2時間以上かかる場合があります。体力と時間に余裕のあるバックパッカー向けと言え、現地語に自信がない方や快適さを求める方にはおすすめできません。
【必読】服装規定と持ち込み禁止事項
ボロブドゥル寺院は神聖な宗教施設であり、訪問者は敬意を払い定められたルールを守る必要があります。特に服装は厳格にチェックされるため、事前に確認しておきましょう。
- 服装について
肌の露出を控えることが最重要です。 ・トップス:肩を完全に覆う服装が必須。タンクトップやキャミソールは不可で、半袖のTシャツやブラウスは問題ありません。 ・ボトムス:膝が隠れる丈のズボンかスカートの着用を。ショートパンツやミニスカートは入場拒否の可能性があります。 もし規定に合わない服装の場合でも、入口で無料貸し出しされる「サロン」と呼ばれる腰布がありますので安心です。ただし、特に暑い日は自前の薄手のロングパンツやロングスカートのほうが快適でしょう。足元は階段の移動が多いため、歩きやすいスニーカーやサンダルを選んでください。ヒールのある靴は危険かつ遺跡の損傷につながるため避けましょう。
- 寺院登壇時の注意点
遺跡保護の観点から、寺院の主要構造物に登る際のルールが強化されています。 ・専用サンダルの着用:石段保護のため、入場時に「ウパナ」と呼ばれる特別なサンダルに履き替えることが義務付けられています。このサンダル代はチケットに含まれており、記念に持ち帰り可能です。 ・ガイドの同行:方形壇・円形壇への登壇時は、公認ガイドの同行が必須。これにより、観光客の遺跡の無秩序な立入りを防ぎ、レリーフや仏像の理解を促進します。ガイドはグループごとにアサインされます。 ・人数・時間の制限:同時に登壇できる人数や滞在時間にも制限があるため、最新の規定は公式サイトで必ず確認してください。
- 持ち込み禁止物
遺跡の保護や他の観光客への配慮から、次のものは持ち込み禁止または制限されています。 ・大型リュックやスーツケース(入口付近のクロークに預ける必要あり) ・飲食物(指定エリア以外での飲食は禁止) ・ドローン(無許可の飛行は厳禁) ・三脚(通行の妨げになるため基本禁止) ・傘(遺跡損傷の恐れがあるため日傘も雨傘も不可。雨天時はレインコートを推奨)
これらのルールは、貴重な世界遺産を後世に伝えるための大切な取り決めです。訪れる私たち一人ひとりが遵守することが、ボロブドゥル寺院の保護につながります。
持っていると便利なアイテム
必須ではありませんが、持参するとボロブドゥル観光がより快適になるグッズをご紹介します。旅の準備にお役立てください。
- 帽子・サングラス・日焼け止め
日中の日差しは非常に強烈です。特に上層部は日陰がほとんどないため、熱中症や紫外線対策は万全にしておきましょう。
- 薄手の羽織もの
サンライズ時は冷え込みますが、日中は急に暑くなるため、着脱しやすいカーディガンやパーカーがあると便利です。
- 虫除けスプレー
周囲はジャングルが多く蚊などの虫がいるため、特に肌が敏感な方は持参を推奨します。
- 飲み水
熱中症予防にこまめな水分補給が必要です。ただし飲水可能な場所は限られているため、ガイドの指示に従いましょう。
- カメラ
圧巻の景色を記録するために必携です。予備バッテリーやメモリーカードも持っておくと安心です。
- ウェットティッシュ
汗拭きや手の清潔保持に役立ちます。
- 現金(インドネシアルピア)
チケットはカード決済可能ですが、周辺のお店やトイレ利用時などに少額現金が必要になる場合があります。少し用意しておくと安心です。
寺院の登り方から楽しみ方まで!遺跡散策のポイント
準備が整ったら、いよいよ寺院の散策へと出発します。ただ漫然と歩くだけではなく、その構造やレリーフに込められた意味を理解することで、ボロブドゥル寺院は単なる石の山から、壮大な物語を紡ぐ生きた空間へと変わります。
チケット購入から入場までの流れ
サンライズ鑑賞以外の時間帯に訪れる場合(一般入場)のチケット購入と入場の手順を事前に確認しておきましょう。
- チケットの購入方法
一般入場のチケットも、サンライズ鑑賞の際と同様に公式サイトからオンラインで事前購入することが推奨されています。特に混雑が見込まれる時期は、現地窓口の長い列を避けるためにもオンライン購入が賢明です。当日、現地チケットカウンターでの購入も可能ですが、その際は時間に余裕をもって行動してください。なお、外国人観光客向けの料金はインドネシア国内の料金とは異なっています。
- 入場ゲートでの手続き
入場時には、オンライン購入の場合はEチケットのQRコードを、現地購入の場合は紙のチケットを提示します。その後、セキュリティチェックが行われ、服装が規定に適合しているかの確認もあります。問題がなければ、寺院内での登壇用に渡される専用サンダル「ウパナ」を受け取り、履き替えます。持参した靴は専用の袋に入れて自身で携帯します。
- ガイドとの合流
寺院本体へ登る際はガイドの同伴が必須です。チケットの種類によって異なりますが、通常ここでグループに分けられ、担当ガイドと合流します。ガイドは主に英語で解説を行い、遺跡の構造やレリーフに込められた物語を丁寧に説明してくれます。気になる点は積極的に質問してみましょう。
階層ごとの見どころ:レリーフに刻まれた物語
ガイドの案内に従い、いよいよ寺院の回廊を巡ります。ボロブドゥルのレリーフは右回り(時計回り)で進むことによって物語が展開される仕組みとなっており、これは仏教の聖なる作法「右繞(うにょう)」に基づいています。
- 第一回廊:釈迦の生涯
最初に訪れる第一回廊の上段には、仏教の開祖である釈迦の生涯を描いた「ラリタ・ヴィスタラ」の物語が刻まれています。マーヤ夫人が白象の夢を見て釈迦を宿す場面から始まり、誕生、出家、苦行、そして悟りを開いて仏陀となるまでの壮大な物語が120枚のレリーフで鮮やかに描かれています。ガイドの説明を聞きながら、一つひとつの場面をじっくりと味わってください。まるで古代の映画を観ているかのような感覚に陥るでしょう。
- 第二回廊から第四回廊:仏教説話の世界
さらに上の階層へ進むと、釈迦の前世の物語である「ジャータカ」や、善財童子が悟りを求めて遍歴する「ガンダヴィユーハ」など、様々な仏教説話が描かれています。これらは善行の尊さや悟りへの険しい道のりを教えるものです。すべてのレリーフを詳細に理解するのは難しいかもしれませんが、「人々が教え合い学び合う場面が多い」「動物が多く描かれている」など、全体の雰囲気を感じながら歩くだけでも十分に楽しめます。
- 仏像の印相に注目
回廊の壁龕には合計504体もの仏像が安置されています。これらの仏像は、よく観察すると手の形(印相)が方角によって異なっています。東は触地印(悪魔を打ち負かす)、南は与願印(願いを叶える)、西は禅定印(瞑想)、北は施無畏印(恐れを取り除く)と、それぞれが異なる意味を持っています。この手の形の違いに注目するのも、ボロブドゥル散策の興味深いポイントの一つです。
円形壇とストゥーパ:涅槃への道のり
長く続いたレリーフの回廊を抜けると、視界がぱっと開け、円形壇にたどり着きます。ここは悟りの世界である無色界を象徴しています。
- 静けさと解放の空間
装飾が豊かな方形壇から一転して、円形壇はレリーフがなく、とてもシンプルな空間が広がっています。これは物質的世界から解き放たれた精神世界を象徴しており、目の前には青い空と緑のジャングル、そして遠く雄大な山々が広がります。まるで天空に浮かんでいるかのような錯覚を覚えるこの場所で、深呼吸をしてみてください。心が洗われるような穏やかな感覚を得られるでしょう。
- 72のストゥーパとその仏像
円形壇には格子状の透かし彫りが美しい釣鐘型のストゥーパが72基並んでいます。その一つ一つのストゥーパの内部には大日如来像が静かに鎮座しています。かつてはストゥーパの格子越しに仏像に触れると幸運が訪れるといわれていましたが、今は遺跡保護のため、登壇や仏像への接触は固く禁じられています。私たちは敬意をもって静かに見守りましょう。
- 中央にそびえる大ストゥーパ
寺院の最頂部に位置するのが巨大な中央大ストゥーパです。このストゥーパは密閉されており、内部が空洞か何かが納められているのか、未だに謎に包まれています。言葉では表現できない究極の「無」や「空」の象徴とも考えられています。この大ストゥーパの前で、あなた自身のボロブドゥル訪問の意味を静かに振り返ってみるのも良いでしょう。
知っておきたい!ボロブドゥル観光のQ&Aとトラブル対策

旅行には予期しない出来事がつきものです。ここでは、ボロブドゥル観光でよくある疑問や、万が一のトラブルに備えるための情報をQ&A形式でまとめました。
チケットのキャンセルや返金は可能?
楽しみにしていた旅行も、急な体調不良やフライトの遅延などによって予定が変わることがあります。
- 公式サイトで予約した場合
ボロブドゥル寺院の公式サイトで購入したチケットのキャンセル規定は非常に厳しい場合が多いです。基本的に、購入後のキャンセルや返金、日程変更は認められないと考えたほうが安全です。予約手続きをする際は、日程を確定してから行うことをおすすめします。ただし、運営側の都合(特別な行事や急な閉鎖など)により入場ができなかった場合に限り、返金などの対応が行われる可能性があります。その際は公式サイトの案内に従ってください。
- 旅行代理店や予約サイト経由の場合
KlookやKKdayなどの外部の予約プラットフォームを通じてチケットやツアーを予約した場合、キャンセルポリシーはそれらのサイトの規定に準じます。サイトによっては「〇日前までは無料キャンセル可能」といった柔軟な対応をしていることもあるため、予約時にキャンセル条件を必ず確認しておくことが大切です。
- 天候不良によるサンライズ鑑賞中止の場合
サンライズ観賞で最も気にかかるのが天気です。残念ながら、雨や霧により全く日の出が見られなかった場合でも、チケット代は返金されません。これは自然現象のため仕方のないことです。ただし、雨上がりに霧がかかるボロブドゥル寺院はむしろ幻想的で美しい景色となります。「完璧な天気でなくても、その日ならではの特別な景色を楽しもう」という気持ちで訪れると良いでしょう。
雨季・乾季、そして最適な訪問時期は?
インドネシアには大きく分けて乾季と雨季があります。
- 乾季(概ね4月〜10月)
雨が少なく晴れの日が多いため、観光には最適なシーズンとされています。特にサンライズ狙いなら、空が澄みやすい乾季が断然おすすめです。ただし、日中は日差しが非常に強く、観光客も最も多い時期ですから、暑さ対策や混雑対策が必要です。
- 雨季(概ね11月〜3月)
一日中降り続くというより、短時間に激しいスコールが降ることが多いのが特徴です。雨具は必須ですが、雨上がりは空気が澄み、緑が鮮やかに映えます。観光客が比較的少なく、料金も安くなる傾向があるのがメリット。雨に濡れた石畳や寺院も、しっとりとした魅力を感じさせます。
総じて、サンライズ鑑賞を最優先するなら乾季、人混みを避けてゆったり観光したいなら雨季も良い選択肢と言えるでしょう。
周辺の観光地とセットで楽しむプラン
ボロブドゥル寺院の周辺には魅力的な観光スポットが多く点在しています。せっかく訪れるなら、ぜひ併せて訪れてみてください。
- プランバナン寺院遺跡群
ボロブドゥル寺院と並ぶ、ジャワ島を代表する世界遺産のひとつです。ボロブドゥルが仏教遺跡であるのに対し、プランバナンはヒンドゥー教の遺跡で、天に向かって伸びる尖塔群が特徴的。壮麗な建築は圧巻で、壁面には古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」の物語がレリーフで刻まれています。異なる宗教文化を象徴する二つの遺跡を一日で訪れることで、この地域の豊かな歴史をより深く実感できます。インドネシア観光省公式サイトでもその魅力が紹介されています。ボロブドゥルとプランバナンを巡る1日ツアーは、ジョグジャカルタ観光の定番コースです。
- ムラピ山ジープツアー
ボロブドゥルの背後にそびえるムラピ山は、現在も活動している火山です。そのふもとを四輪駆動のジープで駆け抜けるアドベンチャーツアーは人気を集めています。過去の噴火でできた村々や溶岩の跡を間近に見ながら、大自然の力強さを体感できます。
- ジョグジャカルタ市内観光
古都ジョグジャカルタの中心部にも魅力的なスポットが多数あります。今も王様が暮らす「クラトン(王宮)」や、美しい庭園の「タマン・サリ」、銀細工の工房が並ぶ「コタ・グデ」など、ジャワの伝統文化や歴史が息づく街並みを楽しめます。
ボロブドゥル寺院の未来のために私たちができること
1200年以上の時を経て、多くの困難を乗り越えてきたボロブドゥル寺院。この壮大な人類の宝を次世代へ受け継ぐためには、私たち訪問者一人ひとりの意識が非常に重要となります。
近年、世界中の観光地で問題となっているのが「オーバーツーリズム(観光公害)」です。多くの人が訪れることで、遺跡自体が傷つき、周辺の環境も損なわれる恐れがあります。実際にボロブドゥル寺院では、観光客の靴による石段の摩耗や、レリーフへの接触によって風化が進むことが懸念されています。
私たちが今日体験した専用サンダルへの履き替えやガイドの同行義務、訪問者数の制限といった規則は、こうした課題から寺院を守るために欠かせない取り組みです。多少の不便さを感じるかもしれませんが、これら一つひとつが遺跡の保護につながっていることを理解し、積極的に協力することが求められています。
訪問者として私たちにできることは、決して難しいことではありません。
- ルールやマナーをしっかり守ること。
- 遺跡に登ったり触れたり、寄りかかったりしないこと。
- ゴミは必ず持ち帰り、現地に捨てないこと。
- 神聖な場所であることを意識し、大声を出さず静かに見学すること。
これらの小さな心がけの積み重ねこそが、ボロブドゥル寺院の輝きを未来永劫にわたり守る大きな力となるのです。
ボロブドゥル寺院は、単なる観光スポットではなく、今なお人々の祈りが捧げられる生きた信仰の場であり、全人類が共有すべき重要な文化遺産です。この貴重な場所を訪れる機会を得たことに感謝し、敬意を持って接すること。それこそが、この素晴らしい体験をもたらしてくれたボロブドゥルへの最高の恩返しと言えるでしょう。あなたの旅が、心に残る感動で満たされることを心より願っています。









