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魔都・上海、時を駆ける旅へ。過去と未来が交錯する都市の歩き方

きらびやかなネオンが摩天楼を彩り、その足元では古き良き時代の面影が息づく街、上海。かつて「魔都」と呼ばれたこの都市は、訪れる者を決して飽きさせない、万華鏡のような魅力に満ち溢れています。アールデコ様式の壮麗な建築が並ぶ外灘(バンド)を歩けば1920年代のロマンに浸り、黄浦江を挟んだ対岸の浦東(プードン)に目を向ければ、空を突き刺す近未来的なビル群がSF映画の世界へと誘います。

路地裏に一歩足を踏み入れれば、湯気の向こうに人々の活気が満ちる昔ながらの風景が広がり、一方で洗練されたブティックやカフェが並ぶ旧フランス租界では、ヨーロッパの街角を散策しているかのような錯覚に陥るでしょう。ノスタルジーとフューチャリズム、東洋と西洋、静寂と喧騒。相反する要素が見事に溶け合い、唯一無二のエネルギーを生み出しているのが、上海という都市なのです。

この記事は、そんな上海の奥深い魅力を余すところなく味わい尽くすための、あなたのための羅針盤です。定番の観光スポットはもちろん、地元の人々に愛されるグルメ、心ときめくショッピング、そして旅をより快適にするための実践的な情報まで、旅サイトのプロライターとして、私の持てる情熱のすべてを注ぎ込みました。さあ、ページをめくるように、時空を超えた上海の旅へ一緒に出かけましょう。きっとあなたの心に、忘れられない光景が刻まれるはずです。

目次

時空を超える摩天楼の競演 – 外灘と浦東

上海の魅力を語る上で、黄浦江を挟んで対峙する外灘(バンド)と浦東(プードン)の存在は欠かせません。片や百年の歴史を刻む重厚な西洋建築群、片や天を衝く最先端の超高層ビル群。この二つのエリアは、上海の過去と未来を象徴する、まさに圧巻の舞台装置なのです。

百年の時を刻む「万国建築博覧会」 – 外灘(バンド)

黄浦江の西岸に、弓なりに約1.5kmにわたって続く遊歩道、それが外灘です。ここは19世紀半ばのアヘン戦争後、各国の租界が置かれた上海の中心地でした。イギリス、フランス、アメリカ、そして日本など、列強がこぞって銀行や商館、ホテルを建設した結果、ネオクラシック様式、ゴシック様式、アールデコ様式といった、当時最新の西洋建築がずらりと並ぶことになりました。「万国建築博覧会」との異名は、その多様な建築スタイルに由来します。

昼間の外灘散策は、まるでヨーロッパの街並みを歩いているかのよう。重厚な石造りの建物一つひとつに、それぞれの物語が宿っています。例えば、ひときわ目を引くドーム屋根を持つ旧香港上海銀行(HSBC)ビル。その内部には、かつて見事なモザイク画があったと言われています。隣に立つ、時計台が印象的な建物は税関ビルです。定時になると、イギリスのビッグ・ベンと同じ「ウェストミンスターの鐘」のメロディが流れ、往時の雰囲気を今に伝えます。

建物の細やかな彫刻や装飾に目を凝らしながら、ゆっくりと歩いてみてください。北端にはロシア領事館として使われた建物があり、南端にはアールデコ建築の傑作と名高い旧キャセイホテル(現在の和平飯店)が優雅に佇んでいます。チャップリンも宿泊したというこのホテルに一歩足を踏み入れれば、そこはもう1930年代の黄金時代。ジャズの音色が聞こえてきそうな、華やかで退廃的な空気に包まれます。

しかし、外灘の真骨頂は夜にあります。日没とともに歴史的建造物群が一斉にライトアップされ、黄金色の光に包まれた姿は、息をのむほどに幻想的です。その光の帯と、対岸の浦東エリアが放つ未来的なネオンとのコントラストこそ、上海でしか見ることのできない絶景と言えるでしょう。

この景色を最高の形で楽しむなら、選択肢は二つあります。一つは、外灘沿いのビルに入るルーフトップバーやレストランから、優雅に眺める方法です。和平飯店のルーフトップテラスや、「Bar Rouge」「Mr & Mrs Bund」といった有名店では、カクテルを片手に、足元に広がる光の絨毯と、目の前に迫る浦東のスカイラインを独り占めできます。少々値は張りますが、その価値は十分にあります。

もう一つの方法は、黄浦江ナイトクルーズです。遊覧船に乗って川面から両岸の景色を眺める体験は、また格別です。ゆっくりと進む船の上で、涼しい川風に吹かれながら、次々と表情を変える光のパノラマを堪能する時間は、きっと旅のハイライトになるはず。外灘のクラシカルな輝きと、浦東のサイバーな輝きが水面に映り込み、揺らめく様子は、まさに「魔都」の夜にふさわしい光景です。

未来都市のシルエット – 浦東(プードン)陸家嘴

外灘から黄浦江の対岸に広がるのが、浦東の陸家嘴(りくかし)金融貿易区です。ほんの30年ほど前まで、ここはのどかな田園地帯と古い工場が広がる土地でした。しかし、1990年代からの国家的な開発プロジェクトにより、世界有数の金融センターへと劇的な変貌を遂げたのです。まるで意志を持っているかのように天を目指す超高層ビル群は、中国の経済発展の象徴そのものです。

このエリアの主役は、なんと言っても個性的なシルエットを競い合う3つの超高層タワーでしょう。

まず、最もアイコニックな存在が東方明珠塔(オリエンタルパールタワー)です。ピンク色の大小の球体が連なるその姿は、一度見たら忘れられません。高さ468mのテレビ塔で、展望台は複数の球体の中に設けられています。特に人気なのが、足元が透明なガラス張りになっている展望フロア。まるで空中に浮いているかのようなスリルと、真下に広がる陸家嘴の街並みや黄浦江の流れを一望できる爽快感は、他では味わえません。

次に、その隣にそびえ立つのが、上海環球金融中心(Shanghai World Financial Center, SWFC)です。日本の森ビルが建設したこのビルは、栓抜きのようなユニークな形状から、地元では親しみを込めて「栓抜きビル」と呼ばれています。高さは492m。最上部にある展望台「スカイウォーク100」は、地上474mに位置するガラス張りの回廊で、まさに天空を散歩しているかのような気分に浸れます。晴れた日には、足元に広がる上海の街並みが遥か彼方まで見渡せ、そのスケールの大きさに圧倒されることでしょう。

そして、現在上海で最も高いビルが上海中心大厦(上海タワー)です。高さ632mを誇る、螺旋状にねじれながら伸びていくフォルムが美しいこのビルは、世界でも2番目の高さを誇ります。特筆すべきは、そのエレベーターの速さ。最高分速1,230m(時速73.8km)という世界最高速クラスのエレベーターに乗れば、あっという間に地上546mの展望台「上海之巓」へと到着します。360度のパノラマビューが広がる展望フロアからは、先ほど紹介した東方明珠塔やSWFCさえも眼下に見下ろすことができ、自分がどれだけ高い場所にいるのかを実感させられます。

どの展望台に登るべきか、迷う人も多いでしょう。アイコニックな体験とスリルを求めるなら東方明珠塔、洗練された天空散歩を楽しみたいならSWFC、そして圧倒的な高さと最新技術を体感したいなら上海タワーがおすすめです。訪れる時間帯によっても景色は全く異なります。昼間は街のディテールまで見渡せ、夕暮れ時は空と街がオレンジ色に染まるロマンチックな光景が広がり、夜は宝石箱をひっくり返したような夜景が楽しめます。

展望台以外にも、浦東エリアには IFCモール(国金中心商場)のような高級ブランドが揃う巨大ショッピングモールや、ビル群の間に広がるオアシス、陸家嘴中心緑地などがあり、一日中楽しむことができます。外灘から渡し船(フェリー)に乗って数分で渡ることもできるので、ぜひ二つのエリアを行き来して、上海の持つ時間のダイナミズムを肌で感じてみてください。

古き良き中国の原風景を訪ねて – 豫園と老街

近未来的な摩天楼のイメージが強い上海ですが、その喧騒の中に、まるでタイムスリップしたかのような古き良き中国の風景が大切に残されています。それが、明代の江南古典庭園である「豫園」と、それを取り囲むように広がる「豫園商城」です。ここは、中国らしい情緒と活気に満ちた、誰もが思い描く”チャイナ”の世界が凝縮された場所なのです。

明代の江南庭園に迷い込む – 豫園

高層ビルが林立する上海の中心部に、これほど見事な中国庭園が残っていることは驚きです。豫園は、今から400年以上前の明の時代に、四川省の役人であった潘允端(はんいんたん)が、父を喜ばせるために18年の歳月をかけて造営した私家庭園です。園名の「豫」は「愉」と同じ意味を持ち、「両親に楽しみを与える」という願いが込められています。

一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のように静かで、落ち着いた空気が流れています。豫園は、限られた空間の中に山や川、楼閣、橋、回廊などを巧みに配置し、歩くごとに景色が変わる「移歩換景」という中国庭園の伝統的な手法で造られています。そのため、園内はまるで迷路のよう。順路を示す看板はありますが、あえて気の向くままに歩き、自分だけの景色を見つけるのも一興です。

園内には数々の見どころが点在しています。壁の上を龍がうねるように見える龍壁(りゅうへき)は、その躍動感と迫力に圧倒されます。龍の爪が4本(皇帝以外の龍は爪が4本以下と定められていた)である点にも注目してみてください。また、上海の伝統的な武装蜂起「小刀会」が司令部を置いた点春堂(てんしゅんどう)は、歴史の舞台となった場所です。内部には当時の様子を再現した展示もあり、上海のもう一つの顔を垣間見ることができます。

庭園の中心に位置する玉玲瓏(ぎょくれいろう)は、豫園の至宝とされる太湖石です。無数の穴が空いた複雑な形状のこの奇石は、下で香を焚くと全ての穴から煙が立ち上り、上から水を注ぐと全ての穴から水が流れ落ちると言われています。江南三大名石の一つに数えられるその姿は、自然が作り出したアートそのものです。

池に架かるジグザグの橋「九曲橋」を渡り、池に映る楼閣や木々の緑を眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいます。春には牡丹やマグノリアが咲き誇り、夏は緑が深まり、秋は金木犀の香りが漂い紅葉が彩りを添え、冬は雪景色が水墨画のような世界を描き出す。豫園は、どの季節に訪れても、その時々の美しさで私たちを迎えてくれるのです。

喧騒と活気が渦巻く – 豫園商城

豫園の庭園を取り囲むように広がるエリアが「豫園商城」です。ここは、明清時代の建築様式を模した建物が軒を連ね、赤い提灯が飾られた、まるでお祭りのような賑わいを見せる一大商業エリア。上海随一の観光スポットであり、いつも多くの観光客と地元の人々でごった返しています。

細い路地を歩けば、両脇には所狭しとお店が並びます。美しい切り絵や刺繍、風格のある筆や硯、様々な種類のお茶や茶器、翡翠のアクセサリー、アンティーク風の雑貨など、中国らしいお土産を探すには最高の場所です。店員さんの威勢のいい呼び込みの声を聞きながら、掘り出し物を探すのも楽しい体験。値段交渉が可能な店も多いので、笑顔でコミュニケーションを取りながら、ショッピングを楽しんでみてください。

そして、豫園商城のもう一つの大きな魅力は、何と言ってもグルメです。ここは上海を代表する美食の宝庫であり、老舗から食べ歩きスナックまで、ありとあらゆる味が集結しています。

その中でも絶対に外せないのが、小籠包の元祖とされる南翔饅頭店です。店の前には、常にテイクアウトを求める人々の長蛇の列ができています。もし時間に余裕があるなら、列に並ぶよりも、2階や3階のレストランでゆっくりと味わうのがおすすめです。階が上がるごとに値段も質も上がると言われています。薄い皮を箸でそっと持ち上げ、レンゲの上で少しだけ皮を破ると、中から黄金色の熱々なスープが溢れ出します。このスープをまず一口すすり、その後、黒酢と生姜の千切りを添えて本体を頬張るのが本場の食べ方。口の中に広がる濃厚な肉汁の旨味は、まさに至福の味わいです。

また、エリザベス女王やクリントン元大統領など、各国の要人も訪れたという名店緑波廊(りょくはろう)も有名です。ここでは、見た目も美しい精巧な点心や、本格的な上海料理をいただくことができます。

もちろん、食べ歩きも豫園商城の醍醐味。香ばしい匂いが食欲をそそる羊肉の串焼き、フルーツに飴をコーティングした「糖葫芦(タンフールー)」、ヨーグルトドリンクの「酸奶(スヮンナイ)」など、気になるものを少しずつつまみながら歩けば、お腹も心も満たされること間違いなしです。

日が暮れると、商城全体がライトアップされ、昼間とはまた違う幻想的な雰囲気に包まれます。黄金色に輝く楼閣や赤い提灯が織りなす光景は、まるで映画のセットのよう。歴史ある庭園の静けさと、商城の熱気と活気。この二つの対照的な魅力を併せ持つ豫園エリアは、上海の旅の記憶に深く刻まれる、忘れられない場所となるでしょう。

モダンとノスタルジーの交差点 – 新天地・旧フランス租界

上海には、未来的な摩天楼や伝統的な中国庭園だけでなく、まるでヨーロッパの街角に迷い込んだかのような、洗練されたお洒落なエリアが存在します。それが、古い建物をリノベーションした「新天地」と、プラタナスの並木道が美しい「旧フランス租界」です。ここは、上海のモダンな感性と、かつての租界時代が残したノスタルジックな空気が融合する、特別な場所。散策するだけで心ときめく、上海のもう一つの顔です。

石庫門建築が生まれ変わる – 新天地

新天地は、「上海の過去と未来の対話」をコンセプトに、2000年代初頭に開発された複合商業施設です。このエリアの最大の特徴は、「石庫門(せっこもん)」と呼ばれる上海特有の伝統的な建築様式を保存しつつ、その内部を現代的なレストラン、バー、カフェ、ブティックに生まれ変わらせた点にあります。

石庫門とは、19世紀後半から20世紀前半にかけて建てられた、西洋のテラスハウスと中国の伝統的な四合院を融合させたような集合住宅のこと。レンガ造りの壁、石で縁取られた門、そして中国風の装飾が特徴で、かつての上海市民の暮らしを象受信していました。新天地では、これらの建物の外観はそのままに、内部を大胆にリノベーション。古いレンガの壁とモダンなガラスや鉄骨が絶妙に調和し、ユニークでスタイリッシュな空間を生み出しています。

新天地は、道を挟んで「北里」と「南里」に分かれています。北里は、石庫門建築の雰囲気を色濃く残したエリアで、高級レストランや雰囲気の良いバー、オープンエアのカフェが軒を連ねます。昼間はテラス席で優雅にランチを楽しみ、夜はライトアップされた石庫門の中で、世界各国の料理やカクテルに舌鼓を打つ。そんな大人の時間を過ごすのに最適な場所です。

一方の南里は、ガラス張りの近代的な建物が中心のショッピングモールになっています。ファッションブランドやライフスタイルショップ、映画館などが集まり、より現代的でカジュアルな雰囲気です。

新天地を歩いていると、世界中から集まった人々が思い思いの時間を過ごしている様子が目に入ります。テラス席で談笑する人々、ショッピングを楽しむカップル、歴史的な建物を背景に写真を撮る観光客。ここには、国際都市・上海の洗練された日常が凝縮されています。

また、このエリアには歴史的に非常に重要な場所もあります。それが「中国共産党第一次全国代表大会会址記念館」です。1921年、まさにこの新天地の一角にある石庫門住宅で、毛沢東を含む13人が集まり、中国共産党が産声を上げました。おしゃれな街並みの中に、中国現代史の原点ともいえる場所がひっそりと佇んでいるという事実は、上海という都市の多層性を物語っています。

プラタナスの並木道を歩く – 旧フランス租界

新天地から少し足を延ばせば、そこは「旧フランス租界」と呼ばれる、上海で最も美しいと称されるエリアが広がっています。淮海中路(わいかいちゅうろ)や武康路(ぶこうろ)、思南路(しなんろ)といった通りを中心に、プラタナスの木々が緑のトンネルを作り出し、その両脇にはヨーロッパ風の瀟洒な洋館やアパートメントが並びます。ここは、かつてフランスの租界だった場所で、今もなお色濃くその面影を残しています。

このエリアの魅力は、何と言ってもその雰囲気。大通りの喧騒から一歩入るだけで、時間がゆっくりと流れるような、静かで落ち着いた空気に包まれます。特に目的を決めず、ただプラタナスの木漏れ日の中を散策するだけで、心が満たされるような感覚になります。

散策のハイライトの一つが、武康路です。この通りには、個性的なブティックやギャラリー、隠れ家のようなカフェが点在しており、歩くたびに新しい発見があります。通りの南端に立つ武康大楼(旧ノルマンディー・アパート)は、まるでパリの街角にあるような風格を持つ、このエリアの象徴的な建物。船の先端のようなユニークな形をしており、多くの人がカメラを向けるフォトジェニックなスポットです。

さらに、思南公館(シナン・マンションズ)も見逃せません。ここは、1920年代から30年代にかけて建てられた50棟以上もの洋館を修復・保存し、ホテルやレストラン、ショップとして利用している複合施設です。手入れの行き届いた庭園と美しい洋館群が織りなす風景は、まるで一つの小さな町のよう。高級レストランで贅沢なディナーを楽しんだり、カフェのテラスで静かにお茶を飲んだり、上海にいることを忘れてしまうほど優雅な時間を過ごすことができます。

旧フランス租界エリアを効率よく巡るなら、シェアサイクルを利用するのもおすすめです。自転車で心地よい風を感じながら、美しい並木道や細い路地を気ままに走り抜けるのは、最高の体験です。気になるカフェや雑貨店を見つけたら、気軽に立ち寄ってみる。そんな自由な散策が、このエリアの楽しみ方の神髄かもしれません。

過去の歴史が残した美しい遺産と、現代のクリエイティブなエネルギーが融合した新天地と旧フランス租界。ここは、上海の旅に、洗練された彩りと心地よい安らぎを与えてくれる、特別な場所なのです。

アートと路地裏の迷宮へ – 田子坊・M50

上海の魅力は、壮大なスケールの観光名所だけではありません。迷路のような路地裏に息づくアートの薫りや、アーティストたちの創造的なエネルギーに触れることも、この街を深く知るための鍵となります。まるで宝探しのようにワクワクする「田子坊」と、上海の現代アートシーンを牽引する「M50」。この二つのスポットは、あなたの知的好奇心と遊び心をくすぐる、刺激的な体験を約束してくれます。

迷路散策が楽しいアートスポット – 田子坊(でんしぼう)

旧フランス租界の南側に位置する田子坊は、上海で最もユニークでエキサイティングな場所の一つです。もともとは「石庫門」が密集する古い住宅街でしたが、1990年代末から、著名な画家である陳逸飛(チェン・イーフェイ)をはじめとするアーティストたちがアトリエを構え始めました。すると、その噂を聞きつけた若手のクリエイターやデザイナーたちが次々と集まり、いつしか個性的なショップやギャラリー、カフェがひしめき合う、迷路のようなアートスポットへと変貌を遂げたのです。

田子坊の最大の魅力は、その「予測不能性」にあります。行政主導で開発された新天地とは対照的に、ここは自然発生的に生まれたエリア。そのため、区画整理されていない細く入り組んだ路地が、まるで毛細血管のように張り巡らされています。地図を片手に歩いても、すぐに自分がどこにいるのかわからなくなってしまうほど。しかし、その迷宮に迷い込むことこそが、田子坊の醍醐味なのです。

角を曲がるたびに、新しい景色が目に飛び込んできます。軒先には洗濯物がはためき、生活の匂いが漂う中、突然おしゃれなブティックが現れたり、壁一面に描かれたグラフィティアートに出くわしたり。昔ながらの住民の暮らしと、最先端のアートやファッションが、何の違和感もなく共存している光景は、田子坊ならではの魅力です.

路地に並ぶ小さなお店は、どれも個性的でクリエイティビティに溢れています。繊細なハンドメイドのアクセサリー、ユニークなイラストが描かれたTシャツやトートバッグ、モダンにアレンジされたチャイナドレス、オーナーこだわりの茶葉が揃うお茶の専門店など、見ているだけで飽きることがありません。大量生産品ではない、ここにしかない一点物を見つける喜びは格別です。

また、田子坊は食べ歩きの天国でもあります。顔よりも大きな鶏肉の唐揚げ「大鶏排(ダージーパイ)」、フレッシュなフルーツをその場で絞ってくれるジューススタンド、写真映えする可愛らしいスイーツ、様々な味の串焼きなど、五感を刺激するグルメが満載です。散策に疲れたら、路地裏の隠れ家的なカフェで一休みするのも良いでしょう。2階や3階のテラス席からは、迷路のような路地を行き交う人々を眺めることができ、それもまた一興です。

ただし、人気のスポットゆえに、週末や祝日は大変な混雑に見舞われます。人混みを避け、ゆっくりと散策を楽しみたいのであれば、平日の午前中など、比較的空いている時間帯を狙って訪れることを強くおすすめします。予測不能な路地裏探検と、アートとグルメとの出会い。田子坊は、あなたの冒険心をくすぐる、上海のワンダーランドなのです。

上海の最先端アートに触れる – M50(莫干山路50号)

もしあなたが現代アートに興味があるなら、絶対に訪れるべき場所があります。それが、蘇州河のほとりに位置する「M50(莫干山路50号)」です。田子坊が自然発生的なアートスポットだとすれば、M50は上海のアートシーンの中核を担う、より本格的なアート地区と言えるでしょう。

M50は、もともと1930年代に建てられた紡績工場でした。時代の流れとともに使われなくなった広大な工場跡地をリノベーションし、2000年代初頭からアーティストやギャラリーを誘致。今では、国内外の100を超えるギャラリー、アーティストスタジオ、デザイン事務所などが集まる、中国を代表するアートコンプレックスとなっています。

敷地内に足を踏み入れると、まず目につくのが、レンガ造りの古い工場建物の壁を埋め尽くすグラフィティアートです。色鮮やかでパワフルな作品群が、インダストリアルな空間に生命感を吹き込んでいます。このグラフィティ自体が、M50の自由で創造的な雰囲気を象徴しています。

M50の楽しみ方は、点在するギャラリーを一つひとつ巡ることです。ここには、国際的にも評価の高い「香格納画廊(ShanghART Gallery)」のような大手ギャラリーから、若手アーティストの実験的な作品を展示するインディペンデントなスペースまで、多種多様なアート空間が共存しています。絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションと、表現方法も様々。中国の現代アーティストたちが今、何を見つめ、何を表現しようとしているのか、その最前線を肌で感じることができます。

多くのギャラリーは入場無料で、気軽に立ち寄ることができるのも嬉しいポイントです。言葉がわからなくても、作品が放つエネルギーやメッセージは、国境を超えて心に響くものがあります。時には、アーティスト本人がスタジオで制作している場面に出くわすことも。クリエイティブな空気が満ちる空間に身を置くだけで、新たなインスピレーションが湧いてくるかもしれません。

アート鑑賞に疲れたら、敷地内にあるおしゃれなカフェで休憩しましょう。アートブックをめくりながら、先ほど見た作品について思いを巡らせる時間は、旅の豊かなアクセントになります。

M50は、いわゆる定番の観光地ではありません。しかし、ここには、経済発展だけではない、上海のもう一つの力強い鼓動があります。それは、文化と創造の力です。上海のディープな一面に触れたい、知的な刺激を求める旅をしたい、そんなあなたにこそ、M50は忘れられない体験を提供してくれるはずです。

食は上海にあり!美食の旅へ出かけよう

「食在広州(食は広州にあり)」という言葉が有名ですが、上海もまた、食を語らずしてその魅力を語り尽くすことはできません。伝統的な本帮菜(上海料理)から、熱々の肉汁が溢れる小籠包、秋の味覚の王様・上海蟹、さらにはローカルなB級グルメや最先端のカフェ文化まで。上海は、あらゆる食いしん坊の胃袋と心を満たしてくれる、まさに美食の都なのです。さあ、箸を手に取り、上海の美味なる世界へ探検に出かけましょう。

まずはこれ!上海グルメの王様たち

上海に来たら、何をおいてもまず味わうべきものがあります。それは、この街が誇る二大巨頭、小籠包と上海蟹です。

小籠包 もはや説明不要の世界的な点心ですが、本場・上海で味わうその味は格別です。上海の小籠包は、透けるほど薄い皮の中に、熱々のスープ(肉汁)と旨味の詰まった豚肉の餡がたっぷりと入っているのが特徴。その代表格が、豫園にある南翔饅頭店です。元祖を名乗るこの店の小籠包は、まさに王道の味。行列は必至ですが、並んででも食べる価値はあります。 より洗練された味を求めるなら、台湾発祥で世界中に展開する鼎泰豊(ディンタイフォン)へ。美しいひだの数まで計算された芸術的な小籠包は、上品なスープと繊細な味わいが楽しめます。 一方で、地元の人々に絶大な人気を誇るのが佳家湯包です。ここは、注文を受けてから一つひとつ手作りするため、いつでも出来立てが味わえます。蟹味噌入りやエビ入りなど、種類が豊富なのも魅力。どの店もそれぞれに個性があるので、ぜひ食べ比べて、自分のお気に入りを見つけてみてください。

上海蟹 秋の上海を訪れるなら、絶対に外せないのが上海蟹です。正式には「チュウゴクモクズガニ」と言い、長江流域で獲れる淡水蟹です。旬は9月から12月頃で、特にメスはオレンジ色の濃厚な内子(卵巣)が、オスはねっとりとした白子(精巣)がぎっしりと詰まり、その味わいは「一度食べたら忘れられない」と言われるほど。 最もポピュラーな食べ方は、シンプルに姿蒸しにしたものです。何もつけずにそのまま食べれば、蟹本来の甘みと旨味、そして味噌の濃厚なコクが口いっぱいに広がります。老舗の王宝和酒家成隆行蟹王府といった専門店では、最高品質の上海蟹を味わうことができます。蟹味噌を使ったあんかけ豆腐や炒飯など、様々な蟹料理も絶品。少々高価ではありますが、この時期にしか味わえない旬の味覚は、旅の最高の思い出になることでしょう。

奥深い本場の上海料理(本帮菜)

上海料理は、中国の八大料理の一つ「江蘇料理」にルーツを持ち、地元では「本帮菜(ベンバンツァイ)」と呼ばれています。その最大の特徴は、醤油と砂糖を巧みに使った、濃厚で甘じょっぱい味付けです。見た目は色が濃く、こってりしているように見えますが、口にすると意外にもまろやかで、奥深い味わいが広がります。

上海料理の代表格といえば紅焼肉(ホンシャオロウ)。皮付きの豚バラ肉を、醤油、砂糖、八角などと一緒に、とろとろになるまでじっくりと煮込んだ料理です。日本の角煮に似ていますが、より濃厚で甘みが強いのが特徴。艶やかな飴色に輝く豚肉は、口に入れるとほろりと崩れ、脂の甘みと濃厚なタレがご飯と絶妙にマッチします。

糖醋排骨(タンツーパイグー)も人気のメニュー。豚のスペアリブを一度揚げてから、黒酢ベースの甘酢あんに絡めた料理で、甘さと酸味のバランスが食欲をそそります。また、新鮮な川エビをシンプルに塩と油で炒めた清炒蝦仁(チンチャオシャーレン)は、素材の味を生かした上品な一品。プリプリとしたエビの食感と、あっさりとした味わいが楽しめます。

これらの本格的な上海料理を味わうなら、地元の人で賑わうレストランがおすすめです。「老吉士」や「保羅酒楼(ポール・レストラン)」、「上海姥姥(シャンハイラオラオ)」といった店は、観光客にも人気があり、古き良き上海の家庭の味を堪能することができます。

ローカルフードから最新カフェまで

上海の食の魅力は、高級レストランだけにとどまりません。街の至る所で、安くて美味しいローカルフードに出会うことができます。

朝食の定番は「四大金剛」と呼ばれる、大餅(ダービン)油条(ヨウティヤオ)豆漿(トウジャン)粢飯糕(ツーファнгао)。大餅は小麦粉を焼いたパンのようなもの、油条は揚げパン、豆漿は豆乳、粢飯糕はもち米を固めて揚げたものです。街角の小さな食堂で、地元の人々に混じって食べる朝ごはんは、上海の日常に溶け込むような楽しい体験です。

小腹が空いたら、生煎(ションジェン)はいかがでしょうか。これは、小籠包を鉄板で焼いたもので、焼き小籠包とも呼ばれます。カリカリに焼かれた底の皮と、もちもちの上の皮、そして中から溢れ出す熱々の肉汁のコンビネーションがたまりません。有名チェーンの小楊生煎(シャオヤンションジェン)は、市内の至る所にあるので、見かけたらぜひ試してみてください。

一方で、上海は中国で最もカフェ文化が発展した都市でもあります。旧フランス租界や新天地のおしゃれな通りには、テラス席が気持ちいいカフェや、こだわりの豆を揃えたスペシャルティコーヒーの店が数多くあります。散策の合間に、美味しいコーヒーを片手に一息つくのも、上海流の粋な時間の過ごし方です。

伝統と革新が共存する街、上海。その食文化もまた、古き良き味を守りながら、新しいスタイルを取り入れ、日々進化を続けています。あなたの五感をフルに使って、上海の美食の世界を心ゆくまでお楽しみください。

上海旅行を120%楽しむための実践ガイド

魅力的な観光スポットや美食が溢れる上海。この街での滞在をより快適で、スムーズなものにするために、知っておくと便利な実践的な情報をお届けします。交通手段から支払い方法、インターネット事情まで、旅の前にしっかりと準備しておくことで、現地での時間を最大限に有効活用できるはずです。

スマートな移動で時間を有効に

広大な上海の街を効率よく移動するには、公共交通機関の活用が不可欠です。幸いにも、上海の交通網は非常に発達しており、旅行者にとっても使いやすいシステムが整っています。

地下鉄 上海観光の最も強力な味方となるのが、網の目のように市内をカバーする地下鉄です。2024年現在、20以上の路線が運行しており、外灘、浦東、豫園、新天地といった主要な観光スポットは、ほぼ全て地下鉄の駅の徒歩圏内にあります。料金は初乗り3元(約60円)からと非常に安く、渋滞の心配もないため、時間とコストの両面で最も効率的な移動手段と言えるでしょう。 駅の券売機は英語表示にも対応していますが、毎回切符を買うのは手間がかかります。そこでおすすめなのが、交通ICカード「上海公共交通卡」の購入です。駅の窓口で購入でき、チャージしておけば改札機にタッチするだけで通過できます。地下鉄だけでなく、バスやタクシー、フェリーでも利用可能なので、一枚持っておくと非常に便利です。また、AlipayやWeChat Payのアプリ内に交通カード機能を追加することもできます。

タクシー&配車アプリ 荷物が多い時や、深夜の移動にはタクシーが便利です。流しのタクシーも多いですが、注意したいのが白タクやぼったくりです。必ず正規のタクシー(車体に会社名が明記されている)を利用し、乗車したらメーターが作動しているかを確認しましょう。 しかし、現在の中国では、タクシーよりも配車アプリ「DiDi(滴滴出行)」を利用するのが一般的です。スマートフォンのアプリで行き先を入力して車を呼ぶシステムで、料金が事前に確定し、アプリ上で決済が完了するため、言葉の壁や料金トラブルの心配がありません。ドライバーと直接会話する必要がないため、中国語が話せない旅行者にとっては、これ以上なく心強いツールです。日本で事前にアプリをダウンロードし、クレジットカードを登録しておくと、現地でスムーズに利用できます。

シェアサイクル 旧フランス租界のような、散策が楽しいエリアでの短距離移動には、シェアサイクルが最適です。街の至る所に「Hellobike(哈啰单车)」や「Meituan Bike(美团单车)」といったシェアサイクルが置かれています。Alipayなどのアプリと連携してQRコードをスキャンするだけで解錠でき、料金も非常に安価です。美しい街並みを、風を感じながら自分のペースで巡る体験は、きっと忘れられない思い出になるでしょう。

支払いと通信環境

現代の中国、特に上海のような大都市を旅する上で、最も重要な準備と言っても過言ではないのが、決済と通信に関する知識です。

キャッシュレス社会 現在の中国は、世界最先端のキャッシュレス社会です。ほとんどの支払いは、スマートフォンアプリの「Alipay(支付宝)」か「WeChat Pay(微信支付)」で行われます。露店や小さな食堂ですらQRコード決済が主流で、逆に現金が使えない、あるいはお釣りがないと断られるケースも珍しくありません。 外国人旅行者も、これらのアプリに国際クレジットカードを登録することで、QRコード決済を利用できるようになっています。渡航前に日本でアプリをダウンロードし、カード情報を登録しておくことを強く推奨します。これにより、現地での支払いが格段にスムーズになります。

Wi-Fiとインターネット規制(VPN) 中国のインターネット環境には、一つ大きな特徴があります。それは、「グレート・ファイアウォール(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムが存在することです。これにより、中国国内からはGoogle(マップ、Gmail等)、Facebook、Instagram、X (Twitter)、LINE、YouTubeといった、私たちが普段利用している多くの海外のウェブサイトやSNS、アプリにアクセスすることができません。 これらを現地で利用するためには、「VPN(Virtual Private Network)」というサービスが必要不可欠です。VPNは、インターネット接続を暗号化し、海外のサーバーを経由することで、この規制を回避する仕組みです。日本にいる間に、信頼できる有料のVPNサービス(例:ExpressVPN, NordVPNなど)を契約し、スマートフォンやPCにアプリをインストールしておきましょう。無料のVPNはセキュリティ上のリスクや接続の不安定さがあるため、避けるのが賢明です。 通信手段としては、日本の空港で海外用Wi-Fiルーターをレンタルするか、上海の空港で現地のSIMカードを購入する方法があります。複数人で利用する場合はWi-Fiルーターが、一人旅で電話番号も必要な場合はSIMカードが便利です。いずれの場合も、VPNの準備は忘れずに行いましょう。

知っておきたい基本情報

ビザ(査証) 2024年5月現在、日本人観光客に対する15日以内の滞在ビザ免除措置は停止されています。そのため、観光目的で中国を訪れる際には、事前に中国査証申請サービスセンターで観光ビザ(Lビザ)を取得する必要があります。この情報は変更される可能性があるため、渡航を計画する際には、必ず在日中国大使館や総領事館のウェブサイトで最新の情報を確認してください。

トイレ事情 ホテルのトイレは日本と同じように清潔で快適ですが、公共のトイレや観光地のトイレでは、トイレットペーパーが備え付けられていないことがほとんどです。ポケットティッシュを常に携帯することを習慣にしましょう。また、場所によっては和式に近いスタイルのトイレも多いです。

言葉 上海の主要なホテルや高級レストラン、観光地の窓口では英語が通じることもありますが、ローカルな食堂やお店ではほとんど通じません。しかし、スマートフォンに翻訳アプリ(Google翻訳はVPNが必要ですが、他のオフライン対応アプリもあります)を入れておけば、大きな問題にはなりません。簡単な挨拶(ニーハオ/你好/こんにちは、シェイシェイ/谢谢/ありがとう)や数字を覚えておくと、現地の人々とのコミュニケーションがより温かいものになるでしょう。

これらの準備を万端に整えれば、あなたはもう上海のエキスパート。歴史と未来、文化とエネルギーが渦巻くこの魅力的な都市を、心ゆくまで満喫してください。

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この記事を書いたトラベルライター

SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

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