イスラエルで再びポリオウイルスが検出されたことを受け、米疾病対策センター(CDC)は、同国への渡航者に対し、ポリオワクチンの追加接種を推奨する渡航健康情報を発表しました。この勧告は、公衆衛生上の懸念と、旅行者が直面する潜在的なリスクに対応するものです。
イスラエルで再び検出されたポリオウイルス
今回イスラエルで検出されたのは、ワクチン由来ポリオウイルス1型(cVDPV1)です。これは、エルサレム地区の環境サンプル(下水)から確認されました。幸いなことに、現時点ではこのウイルスによる麻痺患者の報告はありません。
イスラエルでは2022年にも同様のウイルスが検出され、数名の小児麻痺患者が確認された事例があります。ワクチン由来ポリオウイルスは、経口生ワクチンに含まれる弱毒化されたウイルスが、ワクチン接種率の低い集団内で循環するうちに遺伝子変異を起こし、野生株と同様に麻痺を引き起こす能力を取り戻したものです。
米CDCによる渡航勧告の詳細
この状況を受け、米CDCはイスラエルへの渡航者に対して以下の予防措置を強く推奨しています。
対象者と推奨事項
CDCは、年齢や過去の接種歴に関わらず、イスラエルに渡航するすべての人々がポリオから完全に守られている状態であることを確認するよう呼びかけています。
- ワクチン接種を完了している成人: 過去にポリオの基礎免疫(通常は小児期に完了)を受けている成人は、生涯に一度の追加接種(ブースター)を受けることが推奨されます。
- ワクチン未接種または接種歴が不明・不完全な成人: 3回のポリオワクチン接種を完了させる必要があります。
- 乳幼児および小児: 年齢に応じた定期接種スケジュールを確実に完了させることが最も重要です。
この追加接種は、免疫力を最大限に高め、万が一ウイルスに接触した場合でも感染・発症、そして無症候性キャリアとしてウイルスを他国へ持ち帰るリスクを最小限に抑えることを目的としています。
背景:世界的なポリオ根絶への挑戦
ポリオ(急性灰白髄炎)は、特に5歳未満の子供に深刻な麻痺を引き起こす可能性のある感染症です。世界保健機関(WHO)などが主導する世界ポリオ根絶推進計画(GPEI)の長年の努力により、野生株ポリオウイルスは現在、アフガニスタンとパキスタンの2カ国にまで封じ込められています。
しかし、今回のイスラエルの事例のように、ワクチン由来ポリオウイルスの発生が世界各地で散発的に報告されています。WHOによると、2023年には世界で500件以上のワクチン由来ポリオウイルスによる麻痺症例が報告されており、公衆衛生上の大きな課題となっています。
イスラエルは全体として高いワクチン接種率を誇りますが、一部のコミュニティでは宗教的・思想的な理由から接種率が低い地域が存在し、そうした場所がウイルスの循環と変異の温床となるリスクを抱えています。
今後の予測と旅行者への影響
この勧告は、イスラエルへの旅行計画に直接的な影響を与える可能性があります。
短期的な影響
イスラエルへの渡航を予定している方は、出発前に自身の母子手帳などでポリオワクチンの接種歴を確認し、必要であれば医療機関やトラベルクリニックに相談することが不可欠です。特に、最後の接種から長期間が経過している成人は、追加接種を積極的に検討すべきでしょう。
また、イスラエル保健省は国内での監視体制を強化し、対象地域での追加接種キャンペーンなどを実施する可能性があります。
長期的な影響
今回の事例は、根絶間近と思われていた感染症が、グローバル化した社会においていかに容易に再燃しうるかを示しています。ワクチン接種率の地域的な偏りは、今後も世界各地で同様のアウトブレイクを引き起こす可能性があります。
旅行者にとっては、渡航先の感染症リスクを事前に把握し、適切な予防接種を受けることの重要性が一層高まります。日本の厚生労働省検疫所(FORTH)や外務省海外安全ホームページなども、今後同様の注意喚起を行う可能性があるため、常に最新情報を確認する習慣が求められます。
安全な旅のために
海外への渡航は、未知の文化や体験に触れる素晴らしい機会ですが、同時に健康上のリスクも伴います。特に感染症対策は、自分自身を守るだけでなく、感染拡大を防ぐための社会的な責任でもあります。イスラエルへの渡航を計画中の方は、必ず最新の公衆衛生情報を確認し、万全の準備で旅に臨んでください。

