「広島」。その地名を聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。多くの人が、歴史の教科書で学んだ出来事や、平和への祈りを捧げる場所としての姿を連想するかもしれません。もちろん、それは広島が世界に誇る、そして後世に伝え続けるべき大切な顔です。しかし、広島の魅力は、それだけにとどまりません。
瀬戸内海の穏やかな波に抱かれた美しい島々。生命力あふれる緑が輝く山々。復興のエネルギーがみなぎる活気ある街並み。そして、訪れる者の胃袋を掴んで離さない、唯一無二の絶品グルメの数々。広島は、過去の記憶を真摯に受け止めながらも、未来への希望を力強く紡ぎ続ける、多面的な魅力に満ちた土地なのです。
この地を訪れることは、単なる観光ではありません。それは、歴史と向き合い、自然の恵みに感謝し、人々の営みに触れ、そして、自分自身の「平和」や「幸せ」について深く考える、特別な体験となるはずです。
この記事では、そんな広島の奥深い魅力を余すところなくお伝えします。初めて訪れる方はもちろん、再訪を考えている方にも、新たな発見があるはず。さあ、ページをめくるように、広島を巡る旅へと出かけましょう。あなたの心に深く刻まれる、忘れられない物語がここから始まります。
まずは訪れたい、広島の「心」に触れる場所
広島の旅は、ここから始まると言っても過言ではありません。市の中心部を流れる元安川と本川に抱かれた三角州に広がる平和記念公園。ここは、かつて多くの人々が暮らし、笑い、日常を営んでいた繁華な街でした。その日常が一瞬にして失われた場所で、私たちは静かに歴史と向き合います。
原爆ドーム – 時を超えて訴えかける無言の証人
路面電車を降り、相生橋を渡ると、その建物は静かに、しかし圧倒的な存在感で姿を現します。世界文化遺産「原爆ドーム」です。 元は「広島県産業奨励館」と呼ばれ、チェコ人の建築家ヤン・レツルの設計によるモダンで美しい建物でした。当時としては珍しいドーム屋根が特徴で、広島の名所として親しまれていたそうです。
1945年8月6日午前8時15分。この建物のほぼ直上で原子爆弾が炸裂しました。爆風と熱線を浴び、建物は瞬く間に大破。中にいた人々は全員即死したと言われています。しかし、爆心地に近かったがゆえに、衝撃波がほぼ垂直に作用したこと、そして窓が多かったために爆風が抜けやすかったことなど、いくつかの偶然が重なり、ドーム部分と壁の一部は奇跡的に倒壊を免れました。
戦後、この遺構を保存するか、取り壊すかで長く議論が続きました。被爆の悲惨な記憶を呼び起こすものとして、取り壊しを望む声も少なくありませんでした。しかし、「この悲劇を二度と繰り返さない」という誓いの証として、後世に伝えるべきだという声が高まり、市民の寄付などによって保存が決定。1996年にはユネスコの世界文化遺産に登録されました。
フェンス越しに眺める原爆ドームは、剥き出しになった鉄骨、崩れ落ちた壁、散乱する瓦礫が生々しく、70年以上前の惨禍を雄弁に物語ります。昼間に見るその姿は、青空とのコントラストの中で、痛々しくも力強く、復興した周囲のビル群との対比が、失われたものの大きさと、そこから立ち上がった人々の強さを同時に感じさせます。
夜になると、ドームは静かにライトアップされます。闇の中に浮かび上がるシルエットは、どこか幻想的で、鎮魂の祈りを捧げるモニュメントとしての表情を見せます。昼とはまた違う静謐な空気の中、ゆっくりとドームと向き合う時間も、また格別です。ここを訪れることは、広島の旅の始まりであり、平和について考える原点となるでしょう。
広島平和記念資料館 – 過去と向き合い、未来を想う
原爆ドームから平和記念公園の中心部へ歩を進めると、建築家・丹下健三氏が設計したモダンな建物が見えてきます。広島平和記念資料館です。ここを訪れるには、少し心の準備が必要かもしれません。しかし、広島を深く理解するためには、決して避けては通れない場所です。
資料館は、主に「東館」と「本館」の二つで構成されています。まずは東館から見学するのが順路です。東館では、核兵器の危険性や広島の歴史を、映像やパネルで体系的に学ぶことができます。被爆前後の広島の街を再現したジオラマは圧巻で、活気あふれる街が一瞬にして焦土と化した様子が視覚的に理解できます。ここで、まず原爆投下がどのようなものであったか、その全体像を把握することができるでしょう。
そして、渡り廊下を通って本館へ。ここからが、この資料館の核心部分です。本館では、被爆者の遺品や、熱線、爆風、放射線の凄まじさを物語る資料が、静かに、しかし力強く展示されています。焼け焦げた三輪車、熱線で壁に焼き付いた人の影、黒い雨の痕が残る衣服。一つひとつの遺品には、持ち主であった人々の生きた証と、一瞬にして断ち切られた無念が込められています。
展示を見るのは、決して楽な体験ではありません。胸が締め付けられ、涙がこぼれそうになる瞬間が何度も訪れるでしょう。しかし、ここで目を背けてはいけません。これは遠い過去の出来事ではなく、この地球上で実際に起こったことなのだと、自分自身の問題として受け止めることが重要です。被爆者の「こんな思いを、他の誰にもさせてはならない」という切実な声が、展示物を通して聞こえてくるようです。
資料館の最後には、来館者がメッセージを書き込めるノートが置かれています。世界中の人々が、様々な言語で綴った平和への想い。それらを読むと、この場所が国境や人種を超えて、人々の心を一つにする力を持っていることを実感します。見学には少なくとも1時間半から2時間は確保することをおすすめします。時間に追われることなく、一つひとつの展示と丁寧に向き合うことで、あなたの広島の旅は、より深い意味を持つものになるはずです。
平和の灯と原爆の子の像 – 絶やしてはならない祈りの炎
平和記念資料館と原爆ドームを結ぶ直線上に、いくつかの重要なモニュメントが点在しています。その中心にあるのが、「原爆死没者慰霊碑(広島平和都市記念碑)」です。屋根の部分は、犠牲者の霊を雨露から守りたいという思いを込めて、はにわの家をかたどっています。アーチの中心には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という碑文が刻まれており、その向こうには「平和の灯」、そして「原爆ドーム」を一直線に見通すことができます。
この「平和の灯」は、1964年に点火されて以来、一度も消えることなく燃え続けています。「核兵器が地球上から姿を消す日まで燃やし続けよう」という、反核と平和への願いが込められた炎です。静かに揺れる炎を見つめていると、世界中の人々の祈りがここに集まっているかのような、厳かな気持ちになります。
そして、公園内で特に多くの人々が足を止めるのが「原爆の子の像」です。これは、2歳で被爆し、10年後に白血病で亡くなった佐々木禎子さんをはじめ、原爆で亡くなったすべての子どもたちの霊を慰めるための像です。禎子さんは、「千羽鶴を折れば病気が治る」と信じ、病床で鶴を折り続けました。その物語は多くの人々の心を打ち、像の周りには、今もなお世界中から色とりどりの千羽鶴が捧げられています。像の上で金色の鶴を掲げる少女の姿は、未来への希望と平和な世界への夢を象徴しているかのようです。
元安川クルーズ – 水上から眺める復興の街並み
平和記念公園を訪れたなら、少し視点を変えてみるのもおすすめです。原爆ドームのたもとから出航する「元安川クルーズ」に乗船してみましょう。約25分間の短い船旅ですが、水上から眺める景色は、地上から見るのとはまた違った感動を与えてくれます。
穏やかな川面を進む船上からは、間近に原爆ドームを仰ぎ見ることができます。被爆当時は、水を求めて多くの人々がこの川に飛び込み、亡くなっていきました。そんな悲しい歴史を持つ川が、今では市民の憩いの場となり、観光船が行き交う。その光景は、広島の力強い復興のシンボルそのものです。
ガイドさんが、橋の歴史や周辺の建物について解説してくれます。川から見上げる平和大橋や西平和大橋のデザインに込められた思い、そして復興を遂げたビル群と、変わらずに佇む原爆ドームの対比。水面に映る街の灯りが美しい夕暮れ時のクルーズもまた格別です。地上で歴史を学んだ後に、このクルーズで復興の姿を体感することで、広島という街の物語がより立体的に心に刻まれることでしょう。
世界遺産の島「宮島」へ。神々と自然が織りなす神秘の風景
広島を訪れたなら、必ず足を運びたいのが、安芸の宮島、正式名称を「厳島」です。古くから島そのものが神として信仰されてきた神聖な場所であり、1996年には嚴島神社とその背後に広がる弥山の原生林が世界文化遺産に登録されました。神々が宿る島は、私たちを日常から解き放ち、神秘的な世界へと誘ってくれます。
宮島へは、JR宮島口駅または広電宮島口駅からすぐのフェリー乗り場から渡ります。JR西日本宮島フェリーと宮島松大汽船の2社が運航しており、所要時間は約10分。日中は15分間隔で出航しているので、時間を気にせず利用できます。特におすすめなのが、JRのフェリー。大鳥居に最も接近する「大鳥居便」を運航しており、海上から朱色の大鳥居と社殿を眺める絶好の撮影チャンスがあります。船が宮島に近づくにつれて、徐々に大きくなる大鳥居の姿に、誰もが胸を高鳴らせるはずです。
嚴島神社 – 海に浮かぶ朱色の神殿
フェリーを降り、賑やかな表参道商店街を抜けると、目の前に広がるのは、息をのむような光景です。海を敷地とし、潮の満ち引きによってその表情をがらりと変える、世界にも類を見ない神社「嚴島神社」。 その創建は、推古天皇元年(593年)と伝えられ、現在の壮麗な寝殿造の社殿は、平安時代の権力者、平清盛によって造営されました。なぜ海上に社殿を建てたのか。それは、神の島である宮島そのものを傷つけないため、陸地を避けて海の上に建てたという説が有力です。神を敬う人々の深い信仰心が、この唯一無二の建築様式を生み出したのです。
嚴島神社の最大の魅力は、やはり潮の満ち引きによって見せる二つの顔でしょう。 満潮時には、社殿や廻廊がまるで海に浮かんでいるかのような幻想的な光景が広がります。朱塗りの柱と緑青の屋根、そして青い海と空のコントラストは、まさに竜宮城を思わせる美しさ。特に、廻廊を歩くと、まるで海の上を散歩しているかのような不思議な感覚に包まれます。板張りの床の隙間から、すぐ下にきらめく水面が見えるのも、この神社ならではの体験です。
一方、干潮時には、海の水が引き、社殿が立つ広大な干潟が現れます。そして、満潮時には海の中にそびえ立っていた大鳥居の根元まで、歩いて行くことができるのです。2022年に大規模な修復工事を終えた大鳥居は、鮮やかな朱色が甦り、その迫力は圧巻の一言。間近で見上げると、高さ約16.6メートル、重さ約60トンというその巨大さに圧倒されます。鳥居の主柱は、地面に埋められているのではなく、自らの重みだけで立っているというから驚きです。干潟に降り立ち、大鳥居に触れてみる。それは、宮島を訪れた者だけが味わえる特別な感動体験です。
訪れる時間帯によって全く違う顔を見せる嚴島神社。事前に潮見表をチェックして、満潮と干潮、両方の時間を狙って訪れるのが、宮島を最大限に楽しむコツと言えるでしょう。また、日没後にはライトアップも行われます。闇夜の海に浮かび上がる朱色の社殿と大鳥居は、昼間とはまた違う、幽玄で神秘的な美しさを放ちます。
弥山(みせん) – 神が宿る聖なる山を歩く
嚴島神社の背後にそびえ、古くから神体山として崇められてきたのが、標高535メートルの弥山です。弘法大師・空海が開いたとされる霊山であり、手つかずの原生林は国の天然記念物にも指定されています。山頂からの絶景はもちろん、道中に点在するパワースポットも見どころ満載です。
本格的な登山も可能ですが、多くの観光客は宮島ロープウエーを利用します。紅葉谷公園の駅から、循環式のロープウエーと交走式のロープウエーを乗り継ぎ、獅子岩駅へと向かいます。ゴンドラから見下ろす瀬戸内海の多島美は、まさに絶景。約15分の空中散歩は、それ自体がアトラクションのようです。
獅子岩駅からは、山頂まで約30分のハイキングコース。道は整備されていますが、階段や坂道が続くので、歩きやすい靴は必須です。途中には、弘法大師が灯した火が1200年以上も燃え続けているという「消えずの霊火堂」があります。この火は、広島平和記念公園の「平和の灯」の種火の一つにもなりました。この霊火で沸かした霊水を飲むと、万病に効くと言われています。
さらに進むと、巨大な岩が絶妙なバランスで重なる「くぐり岩」や、自然が作り出した奇岩が次々と現れ、訪れる人を楽しませてくれます。そして、苦労して辿り着いた山頂の展望台からの眺めは、まさに筆舌に尽くしがたいもの。360度のパノラマが広がり、晴れた日には遠く四国の山々まで見渡せます。大小さまざまな島々が浮かぶ瀬戸内海の穏やかな風景は、まるで一枚の絵画のよう。登山の疲れも吹き飛ぶ、感動的な光景が待っています。
宮島の町歩きと食べ歩きグルメ
宮島のもう一つの楽しみは、何と言ってもグルメと町歩きです。フェリー乗り場から嚴島神社へと続く「表参道商店街」は、宮島で最も賑やかなエリア。道の両脇には、お土産物屋や飲食店がずらりと並び、歩いているだけでワクワクしてきます。
必食!宮島グルメ
宮島に来たら絶対に外せないのが、海の幸と伝統の味です。 まずは、何と言っても「牡蠣」。広島は日本一の牡蠣の産地ですが、特に宮島では、店頭で焼きたての「焼き牡蠣」を気軽に味わうことができます。醤油やレモンの香ばしい匂いが漂ってくると、もう素通りはできません。ぷりっぷりの身を頬張れば、濃厚な海のミルクが口いっぱいに広がります。一軒一軒、味付けや焼き加減が違うので、食べ比べてみるのも一興です。
牡蠣と並ぶ宮島の名物が「あなごめし」。焼いたあなごの蒲焼をご飯の上にぎっしりと敷き詰めたもので、その歴史は明治時代にまで遡ります。ふっくらと柔らかく煮上げられたあなごに、甘辛いタレが絡み、ご飯との相性は抜群。有名店「あなごめし うえの」をはじめ、島内には多くの名店があり、それぞれに秘伝のタレの味を競っています。
そして、広島土産の代名詞「もみじ饅頭」。宮島はその発祥の地でもあります。定番のこしあんや粒あんだけでなく、チーズ、チョコレート、抹茶など、バリエーションの豊かさに驚かされます。最近の人気は、もみじ饅頭を天ぷらのように揚げた「揚げもみじ」。外はサクサク、中はアツアツで、串に刺してあるので食べ歩きにぴったりです。また、しっとりもちもちの食感が新しい「生もみじ」も、ぜひ試してみたい一品です。
可愛い鹿とのふれあい
宮島を歩いていると、あちこちで野生の鹿に出会います。古くから「神の使い」として大切にされてきた彼らは、とても人懐っこく、観光客の周りをのんびりと歩き回っています。その愛らしい姿は、宮島の風景に欠かせない要素の一つ。ただし、彼らはあくまで野生動物です。観光客が持っているパンフレットや食べ物を食べてしまうこともあるので、手荷物には十分注意しましょう。餌やりは禁止されていますので、優しく見守るに留めてくださいね。
広島市内の魅力を再発見!平和だけじゃない街の素顔
平和記念公園や宮島が広島観光のハイライトであることは間違いありません。しかし、広島市の魅力はそれだけではありません。歴史ある庭園や城、アート、そして活気あふれるグルメスポットなど、街の素顔に触れることで、広島の旅はさらに豊かなものになります。
ひろしま美術館 – フランス印象派の名画に酔いしれる
平和記念公園からほど近く、都心のオアシスのような中央公園の一角に「ひろしま美術館」はあります。原爆で亡くなった人々への哀悼と平和への願いを込め、「愛とやすらぎのために」をテーマに1978年に開館しました。 円形の美しい建物が特徴的で、そのコレクションの質の高さには驚かされるばかりです。特に、フランス近代絵画のコレクションは日本でも有数で、モネ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、マティス、ピカソといった巨匠たちの名画がずらりと並びます。
ドラクロワから始まるフランス近代美術の流れを、時代を追って鑑賞できる構成になっており、美術史を辿るような贅沢な時間を過ごすことができます。教科書で見たことのある有名な作品を、こんなにも間近で、そして静かな環境でじっくりと鑑賞できるのは、この美術館ならではの魅力です。 常設展のほか、日本の洋画コレクションや企画展も充実しています。平和学習で少し疲れた心を、美しいアートで癒してみてはいかがでしょうか。ミュージアムカフェで絵画の余韻に浸るのもおすすめです。
縮景園 – 凝縮された日本の美を堪能する大名庭園
都会の喧騒を忘れさせてくれる、緑豊かな大名庭園「縮景園」。広島藩主・浅野長晟が、茶人として名高い家老の上田宗箇に作庭を命じ、1620年に完成しました。その名の通り、中国の名勝・西湖をはじめ、各地の景勝を凝縮して表現した「池泉回遊式庭園」です。 園内の中央に大きな池(濯纓池)を配し、その周りに築山や渓谷、茶室などが巧みに配置されています。池に浮かぶ大小の島々を橋で結び、園路を巡りながら変化に富んだ景色を楽しめるのが特徴です。
この縮景園もまた、原爆によって壊滅的な被害を受けました。しかし、多くの人々の尽力によって、かつての美しい姿を取り戻したのです。園内には被爆を生き延びたイチョウやクロガネモチの木が今も力強く根を張り、復興のシンボルとして人々に勇気を与えています。 春の梅や桜、初夏の緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、一年を通して四季折々の美しさを見せてくれます。特に、池の中央に架かる優美なアーチ橋「跨虹橋(ここうきょう)」は、庭園のシンボル的存在。水面に映るその姿は、まるで絵画のようです。ゆっくりと時間をかけて散策し、日本の伝統的な庭園美を心ゆくまで堪能してください。
広島城 – 鯉城と呼ばれた名城の軌跡
広島の街の愛称「鯉城(りじょう)」の由来となったのが、この「広島城」です。毛利輝元が1589年に築城を開始した、典型的な平城です。かつては五層の壮麗な天守閣がそびえ、国宝にも指定されていましたが、原爆によって一瞬にして倒壊してしまいました。 現在の天守閣は、1958年に外観復元されたものです。内部は広島の歴史を紹介する博物館になっており、武具や古文書などが展示されています。最上階からは広島市街や遠く宮島までを一望でき、復興を遂げた街並みを実感することができます。
見どころは天守閣だけではありません。城内には、江戸時代の姿を忠実に復元した「二の丸」の表御門、御門橋、平櫓、多聞櫓、太鼓櫓があります。木材をふんだんに使った美しい白壁の建物群は、まるで時代劇の世界に迷い込んだかのよう。天守閣のコンクリート造りとは対照的に、伝統的な工法で再建された櫓の内部も見学でき、当時の城の雰囲気を肌で感じることができます。 堀に囲まれた城内は緑豊かな公園として整備されており、市民の憩いの場ともなっています。歴史に思いを馳せながら、のんびりと散策するのも良いでしょう。
お好み村と広島お好み焼き物語
広島のソウルフードと言えば、誰もが「お好み焼き」を挙げるでしょう。しかし、広島のお好み焼きは、私たちが普段イメージするものとは少し違います。生地と具材を混ぜて焼く関西風とは異なり、広島風は、まずクレープ状に薄く焼いた生地の上に、大量のキャベツ、もやし、豚肉、天かすなどを乗せ、ひっくり返して蒸し焼きにする「重ね焼き」が特徴です。そして、その横で焼いた中華そば(またはうどん)と卵を重ねて完成。この独特のスタイルが、広島お好み焼きの美味しさの秘密なのです。
そのルーツは、戦後の食糧難の時代に遡ります。少ない小麦粉で空腹を満たすため、屋台で生まれた「一銭洋食」が原型と言われています。その後、復興と共にキャベツや肉、卵、そして栄養価の高い中華そばが加わり、現在の形へと進化していきました。つまり、広島のお好み焼きは、広島の復興の歴史そのものが詰まった、まさにソウルフードなのです。
その聖地とも言えるのが、新天地にある「お好み村」です。ビルの中に20店舗以上ものお好み焼き店がひしめき合い、フロアに足を踏み入れた瞬間、ソースの香ばしい匂いと「ジュージュー」という音が食欲を刺激します。目の前の鉄板で、店主が鮮やかなヘラさばきで焼き上げてくれるライブ感もたまりません。店ごとにキャベツの切り方や麺の茹で加減、ソースの味などが微妙に異なり、それぞれにこだわりと個性があります。どこに入るか迷うのも、お好み村の楽しみの一つ。まずは直感で選んでみて、自分だけのお気に入りを見つけてみてください。
少し足を延ばして訪れたい、広島県東部の魅力
広島の旅は、広島市内や宮島だけでは終わりません。県内には、それぞれに個性豊かな魅力を持つ街が点在しています。少し足を延ばせば、また違った広島の顔に出会えるはずです。
尾道 – 坂と猫と映画の街でノスタルジック散歩
広島市の東部に位置する港町、尾道。ここは、まるで時間がゆっくりと流れているかのような、ノスタルジックな空気に満ちた場所です。山と海に挟まれた急斜面に家々が密集し、車が入れない細い坂道や階段が迷路のように入り組んでいます。この独特の景観は、多くの映画や文学作品の舞台となり、訪れる人々を魅了し続けてきました。
尾道観光のハイライトは、なんといっても「千光寺公園」からの眺めです。麓からロープウェイに乗って一気に山頂へ。展望台からは、尾道の街並みと、その向こうに広がる尾道水道、そして対岸の向島やしまなみ海道の橋々が一望できます。この景色は、まさに尾道を象徴する風景です。
公園から麓までは、坂道をゆっくりと散策しながら下るのがおすすめです。「文学のこみち」には、林芙美子や志賀直哉など、尾道にゆかりのある文人たちの詩や言葉が刻まれた岩が点在し、文学散歩を楽しむことができます。 また、尾道は「猫の街」としても有名です。「猫の細道」と呼ばれるエリアでは、あちこちで気ままに暮らす猫たちの姿を見かけることができます。アーティスト園山春二氏が生み出した「福石猫」が点在し、まるで宝探しのよう。人懐っこい猫たちに癒されながら、細い路地裏を探検するのは、尾道ならではの楽しみ方です。
そして、尾道グルメと言えば「尾道ラーメン」。鶏ガラと瀬戸内の小魚からとった出汁に醤油ダレを合わせたスープ、そしてその上に浮かぶ豚の背脂のミンチが特徴です。あっさりしているのにコクがあるスープは、一度食べたらやみつきになる美味しさ。市内に数多くある名店を巡ってみるのも良いでしょう。 さらに、尾道は日本有数のサイクリングロード「しまなみ海道」の玄関口でもあります。本格的なサイクリストでなくとも、レンタサイクルで少しだけ橋を渡ってみるだけでも、瀬戸内海の風を感じる爽快な体験ができます。
鞆の浦 – 時が止まったかのような江戸情緒あふれる港町
福山市の南部に位置する「鞆の浦」は、瀬戸内海の潮の満ち引きが出会う「潮待ちの港」として、古くから栄えた港町です。その歴史的な港湾施設や江戸時代から続く古い町並みが、奇跡的にそのままの姿で残されており、2017年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。 この町のシンボルは、港に佇む「常夜燈」。江戸時代に建てられた石造りの灯台で、高さは約5.5メートル。今もなお、鞆の浦の港を見守り続けています。この常夜燈の周りは、絶好の写真スポットです。
町を散策すれば、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。狭い路地に連なる古い商家や白壁の土蔵、格子戸のある家々。坂本龍馬が率いる海援隊の「いろは丸」が沈没した事件の舞台でもあり、「いろは丸展示館」ではその歴史に触れることができます。また、かの宮崎駿監督がこの地に滞在し、映画『崖の上のポニョ』の構想を練ったことでも有名で、町の風景のどこかに、映画の面影を見つけることができるかもしれません。 せかせかと観光地を巡るのではなく、カフェで一休みしたり、対岸の仙酔島に渡ってみたりと、ゆったりとした島時間に身を任せるのが、鞆の浦の正しい過ごし方かもしれません。
呉 – 日本一の海軍工廠の歴史を体感する
広島市の南東に位置する港湾都市、呉。かつては東洋一の軍港と謳われ、戦艦「大和」を建造した巨大な海軍工廠があった場所です。その歴史は、今も街の至る所に色濃く残っています。 呉を訪れたなら、絶対に外せないのが「呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)」です。館内に入ってまず目に飛び込んでくるのが、10分の1スケールで再現された戦艦「大和」。全長26.3メートルというその巨大さと精密さには、誰もが息をのみます。日本の造船技術の粋を集めて造られた巨大戦艦の姿は、圧巻の一言。ミュージアムでは、呉の歴史や造船技術について、豊富な資料と共に学ぶことができます。
そして、大和ミュージアムと道を挟んで向かい合うのが「海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)」。ここでの一番の見どころは、何と言っても屋外に展示された巨大な本物の潜水艦「あきしお」です。実際に海上自衛隊で使われていた潜水艦の内部に入ることができる、日本で唯一の施設です。狭い通路やベッド、計器類が並ぶ発令所など、潜水艦乗りの過酷な日常をリアルに体感することができます。 呉のグルメも見逃せません。旧海軍のレシピを元に再現された「海軍さんのカレー」や、海軍で生まれたと言われる「肉じゃが」など、この地ならではの味をぜひ堪 officiel てみてください。
広島の「食」を極める。旅の記憶を彩る絶品グルメ
旅の醍醐味は、その土地ならではの食文化に触れることです。広島は、瀬戸内海の豊かな恵みと、温暖な気候が育んだ山の幸に恵まれた、まさに食の宝庫。ここでは、広島を訪れたら絶対に味わうべき絶品グルメを、さらに深掘りしてご紹介します。
牡蠣 – ぷりっぷりの海のミルクを味わい尽くす
広島グルメの王様と言えば、やはり「牡蠣」でしょう。広島湾は波が穏やかで、栄養分が豊富なため、牡蠣の生育に最適な環境です。広島の牡蠣は、身がぷっくりと大きく、濃厚でクリーミーな味わいが特徴。旬は冬場の11月から2月頃ですが、近年は夏場でも美味しく食べられる「かき小町」などのブランド牡蠣も登場し、一年中楽しむことができます。
食べ方も実に多彩です。最もシンプルなのが「生牡蠣」。新鮮な牡蠣にレモンをきゅっと絞って、つるりと一口。磯の香りと濃厚な旨味が口いっぱいにとろけます。宮島で人気の「焼き牡蠣」は、香ばしさが加わり、旨味が凝縮されます。サクサクの衣とジューシーな身のコントラストがたまらない「カキフライ」も定番です。 さらに、地元ならではの郷土料理もぜひ試したいところ。味噌で土手を作り、その中で牡蠣や野菜を煮込む「牡蠣の土手鍋」は、冬の広島の風物詩。牡蠣の旨味が溶け出した味噌スープは、体の芯から温まります。また、牡蠣をご飯と一緒に炊き込んだ「牡蠣めし」や、オイルに漬け込んで旨味を閉じ込めた「牡蠣のオイル漬け」はお土産にも最適です。 広島市内には、牡蠣料理を専門に扱うオイスターバーや割烹も数多くあります。様々な調理法で、広島の牡蠣を心ゆくまで味わい尽くしてください。
あなご – ふっくらとろける瀬戸内の恵み
牡蠣と並んで広島を代表する海の幸が「あなご」です。特に、宮島近海で獲れるあなごは、脂が乗っていて身が柔らかいのが特徴。宮島名物「あなごめし」は、その代表格です。香ばしく焼き上げたあなごを、甘辛いタレで煮詰め、温かいご飯の上に敷き詰めた逸品。蓋を開けた瞬間に立ち上る香りが食欲をそそります。ふっくらとしたあなごの身と、タレが染み込んだご飯のハーモニーは、まさに至福の味わいです。
宮島口にある「あなごめし うえの」は、創業明治34年の老舗中の老舗。駅弁としても有名で、その味を求めて全国からファンが訪れます。もちろん、宮島島内や広島市内にも、美味しいあなごめしを食べられる店はたくさんあります。店ごとにタレの味やあなごの焼き加減が違うので、自分好みの一杯を探すのも楽しいでしょう。 また、あなごは蒲焼や白焼き、天ぷらにしても絶品。淡白ながらも上品な旨味は、日本酒との相性も抜群です。
瀬戸内の小魚と地酒 – 最高のペアリングを求めて
広島の食の魅力は、牡蠣やあなごだけではありません。瀬戸内海で獲れる新鮮な小魚も、ぜひ味わってほしい逸品です。 初夏から夏にかけて旬を迎える「小イワシ(カタクチイワシ)」は、広島の夏の味覚の代表。手でさばけるほど新鮮なものを、ショウガ醤油でいただく「小イワシの刺身」は、地元の人々に愛されるソウルフードです。キラキラと輝く銀色の身は、見た目も美しく、さっぱりとしていながら旨味があります。 また、「ネブト(テンジクダイ)」という小魚の唐揚げも、広島の居酒屋では定番のメニュー。頭から丸ごと食べられ、サクサクとした食感と香ばしさが、ビールや日本酒のお供に最高です。
そして、美味しい肴があれば、美味しいお酒が飲みたくなるのが人情です。広島は、実は日本三大酒処の一つに数えられる「西条」を擁する、酒造りの盛んな土地。県内には50以上もの酒蔵があり、それぞれに個性豊かな日本酒を醸しています。全国的に有名な「賀茂鶴」や、フルーティーで飲みやすいと人気の「雨後の月」、食中酒として評価の高い「宝剣」など、銘酒がずらり。 広島市の中心部、流川・薬研堀エリアは、中四国最大の歓楽街。地元の魚介と地酒を存分に楽しめる居酒屋や小料理屋が軒を連ねています。瀬戸内の新鮮な幸を肴に、広島の地酒で一杯。これぞ、広島の夜の最高の楽しみ方と言えるでしょう。
旅のプランニングガイド – 賢く巡る広島モデルコース
魅力的なスポットが満載の広島。どこからどう回れば効率的に楽しめるか、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。ここでは、旅の目的に合わせたモデルコースと、便利な交通情報をご紹介します。
1泊2日 王道コース(広島市内&宮島)
初めて広島を訪れる方におすすめの、見どころを凝縮した定番コースです。
- 1日目:広島の「心」に触れる
- 午前:広島駅に到着後、荷物を預け、路面電車で平和記念公園へ。
- 昼:原爆ドーム、平和記念資料館、原爆の子の像などをじっくり見学。
- 午後:元安川クルーズで水上からの景色を楽しむ。その後、広島城や縮景園を散策。
- 夜:お好み村や流川エリアで、広島お好み焼きと地酒を堪能。広島市内に宿泊。
- 2日目:神の島「宮島」を満喫
- 午前:JRまたは広電で宮島口へ。フェリーで宮島に渡る。潮の時間をチェックし、まずは満潮時の嚴島神社を参拝。
- 昼:表参道商店街で焼き牡蠣や揚げもみじを食べ歩き。昼食はあなごめしを。
- 午後:宮島ロープウエーで弥山へ。山頂からの絶景を楽しむ。下山後、干潮の時間なら大鳥居の根元まで歩いて行ってみる。
- 夕方:お土産を選びながらフェリー乗り場へ。広島駅から帰路へ。
2泊3日 欲張りコース(広島・宮島+α)
時間に余裕があるなら、少し足を延ばして広島の多面的な魅力を体感するコースはいかがでしょうか。
- 1日目・2日目: 上記の「1泊2日 王道コース」と同様。2日目の夜も広島市内または宮島に宿泊。
- 3日目:呉または尾道を選択
- 【呉コース】
- 午前:JR呉線で呉へ。大和ミュージアムを見学し、日本の近代史と造船技術に触れる。
- 昼:てつのくじら館で本物の潜水艦に潜入。昼食は海軍さんのカレーを。
- 午後:呉の港や街並みを散策し、広島駅へ戻り帰路へ。
- 【尾道コース】
- 午前:JR山陽本線で尾道へ。到着後、千光寺山ロープウェイで山頂へ。
- 昼:展望台からの絶景を楽しんだ後、文学のこみちや猫の細道を散策しながら下山。昼食は尾道ラーメン。
- 午後:レトロな商店街を散策したり、海辺のカフェで休憩したり。時間があればレンタサイクルで少しだけしまなみ海道を体験。尾道駅または広島駅へ戻り帰路へ。
交通アクセスと便利でお得なチケット
広島観光をスムーズにするには、公共交通機関の活用が鍵となります。
- 市内交通: 広島市内は「ひろでん」の愛称で親しまれる路面電車が網の目のように走っており、主要な観光スポットへはほとんど路面電車でアクセスできます。一日乗車券を利用すると便利でお得です。バス路線も発達しています。
- お得なパス: 外国人観光客や一部の日本人旅行者向けには「Visit Hiroshima Tourist Pass」があります。指定エリア内の路面電車、バス、フェリー(宮島航路含む)が乗り放題になる非常にお得なパスです。利用条件を確認の上、活用を検討してみてください。
- 広島空港から: 市内中心部へはリムジンバスが便利です。約50分で広島バスセンターや広島駅に到着します。
心に刻む、広島の旅へ
広島の旅は、私たちに多くのことを語りかけてくれます。 原爆ドームの前に立った時、平和記念資料館の遺品を目にした時、私たちは歴史の重みと、平和の尊さを痛感するでしょう。それは、決して目を背けてはならない、この地が背負う記憶です。
しかし、旅を続けるうちに、私たちは気づくはずです。広島が、ただ悲しみの記憶だけを抱えた街ではないことに。 力強く復興を遂げた活気ある街並み。嚴島神社の荘厳な美しさ。弥山の山頂から望む、穏やかで光り輝く瀬戸内の海。人々の笑顔が溢れるお好み焼き屋の熱気。そして、それらすべてを包み込む、温かく優しい人々の心。
過去を真摯に見つめ、未来への希望を紡ぐ。 自然の恵みに感謝し、日々の営みを大切にする。
広島は、そんな「生きる力」に満ちた場所です。 この地で見たもの、感じたこと、味わったものすべてが、あなたの心に深く刻まれ、旅が終わった後も、きっと日常を照らす小さな光となるでしょう。さあ、あなた自身の物語を見つけに、広島へ出かけてみませんか。忘れられない感動が、あなたを待っています。

