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グリーンランド「氷山の首都」の葛藤:観光ブームがもたらす光と影

息をのむほど美しい氷山が浮かぶ海、そしてユネスコ世界遺産にも登録された巨大な氷河。北極圏に位置するグリーンランドの町、イリリサットは、その唯一無二の景観で世界中の旅行者を魅了しています。しかし、The Guardianの報道によると、この「氷山の首都」で今、観光業の急拡大が地域社会に深刻な亀裂を生んでいます。経済的な恩恵への期待と、伝統的な生活や環境が失われることへの懸念が衝突し、住民たちは大きな岐路に立たされています。

目次

なぜ今、グリーンランド観光が注目されるのか

イリリサットへの関心が高まっている背景には、複数の要因が絡み合っています。

気候変動と「最後の楽園」への憧れ

皮肉なことに、地球温暖化による氷の融解が、この地の観光的価値を高めています。日々姿を変え、いつかは失われてしまうかもしれない壮大な氷の景観を「今のうちに見ておきたい」という、いわゆる「ラストチャンス・ツーリズム」の需要が急増しているのです。

インフラ整備によるアクセス向上

これまでグリーンランドへの旅は、デンマークのコペンハーゲンを経由する必要があり、時間も費用もかかるものでした。しかし現在、イリリサットと首都ヌークで新しい国際空港の建設が進められており、2024年以降の開港が予定されています。これが完成すれば、北米やヨーロッパからの直行便が就航し、アクセスは劇的に改善されます。

この新空港により、イリリサットの観光客数は、現在の年間約3万人から数年で倍増、将来的にはさらに増加すると予測されています。人口わずか約4,700人の町にとって、これはまさに地殻変動とも言える変化です。

住民の分断:経済的恩恵と社会的・環境的コスト

観光客の増加は、地域に大きな経済効果をもたらす可能性を秘めています。一方で、その代償も決して小さくありません。

期待される「光」:経済的自立と若者の未来

観光推進派は、ホテル、レストラン、ツアーガイドといった新たな雇用が生まれることに大きな期待を寄せています。グリーンランドでは、多くの若者がより良い仕事を求めてデンマークへと移住してしまいますが、地元に魅力的な産業が育てば、この人口流出を食い止められるかもしれません。観光業の成功は、デンマークからの経済的自立を目指すグリーンランド全体の悲願にも繋がっています。

懸念される「影」:オーバーツーリズムの足音

しかし、すべての住民がこの変化を歓迎しているわけではありません。懸念派が指摘するのは、オーバーツーリズムがもたらす深刻な問題です。

  • 生活環境の悪化:観光客の急増は、住宅価格や物価の高騰を招きます。すでにイリリサットでは、宿泊施設への転用などにより、住民が住むための家を見つけるのが困難になりつつあると報じられています。
  • 伝統文化への影響:イリリサットの住民の多くは、古くから続くイヌイットの伝統に基づき、狩猟や漁業を生活の糧としてきました。観光船の増加がアザラシやクジラの行動に影響を与え、伝統的な生活様式を脅かすのではないかという不安が広がっています。
  • 環境への負荷:繊細な北極圏の生態系にとって、観光客の増加は大きな負担です。ゴミや排水の処理、エネルギー消費の増大、そしてクルーズ船が排出する汚染物質など、手つかずの自然が損なわれるリスクは計り知れません。

予測される未来と持続可能な観光への模索

新国際空港の開港が目前に迫る中、イリリサットが観光開発とどう向き合っていくのかは、まさに待ったなしの課題です。もし無秩序な開発が進めば、地域社会は分断され、観光の魅力そのものである美しい自然や文化が失われかねません。

未来への影響を最小限に抑え、持続可能な観光を実現するためには、以下のような対策が急務となるでしょう。

  • 観光客の総数をコントロールするための入域制限や、観光税の導入。
  • 観光収益をインフラ整備や環境保全、そして地域住民へ適切に還元する仕組みの構築。
  • 環境への影響が少ないエコツーリズムの基準を設け、旅行会社や観光客に遵守を求める。

イリリサットが直面するこの問題は、私たち旅行者一人ひとりにも問いを投げかけています。この地球上で最も美しい場所の一つを訪れるとき、私たちはその土地の文化や環境に敬意を払い、責任ある旅行者として行動することが求められています。イリリサットの未来は、そこに住む人々の選択だけでなく、私たち訪問者の意識にもかかっているのです。

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この記事を書いたトラベルライター

SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

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