世界の南の果てに、手つかずの自然と洗練された文化が奇跡のように共存する島があります。オーストラリア大陸の南東に浮かぶ、ハートの形をした島、タスマニア。そこは、太古の森が呼吸し、氷河が削り取った荒々しい山々が連なり、ターコイズブルーの海が純白の砂浜を洗い続ける、まさに「最後の秘境」と呼ぶにふさわしい場所です。しかし、タスマニアの魅力は、その圧倒的な自然だけではありません。世界中から注目を集める先鋭的なアート、新鮮な恵みが彩る美食の数々、そして、この島だけに息づくユニークな野生動物たち。訪れる者の五感を揺さぶり、人生観すら変えてしまうかもしれないほどの深い感動が、ここにはあります。さあ、日常を脱ぎ捨てて、地球の鼓動が聞こえる島、タスマニアへの旅へと出発しましょう。この記事が、あなたの忘れられない旅の羅針盤となることを願って。
タスマニアってどんなところ? – 基本情報と魅力
旅の計画を立てる前に、まずはタスマニアという島が持つ基本的なプロフィールと、その尽きることのない魅力の源泉について知っておきましょう。知れば知るほど、この島への期待は高まっていくに違いありません。
オーストラリアのどこにある? – 地理とアクセス方法
タスマニア州は、オーストラリア大陸の南東、ビクトリア州の約240km南に位置する島です。バス海峡によって大陸と隔てられており、その面積は北海道の約8割ほど。この絶妙な大きさが、多様な自然環境と文化を凝縮させ、旅のしやすさにも繋がっています。
日本からタスマニアへの直行便はありません。そのため、シドニー、メルボルン、ブリスベンといったオーストラリアの主要都市を経由するのが一般的です。日本からこれらの都市までは約9〜10時間のフライト。そこからタスマニアの主要な玄関口であるホバート国際空港(HBA)やロンセストン空港(LST)へは、国内線で1〜2時間ほどです。乗り継ぎ時間を含めると、日本を出発してから丸一日ほどで、この楽園に降り立つことができます。
もう一つのアクセス方法として、メルボルンからタスマニア北部のデボンポートまで運航している大型フェリー「スピリット・オブ・タスマニア」を利用する選択肢もあります。日中便と夜行便があり、車ごと乗り込むことも可能。時間はかかりますが、バス海峡を渡る船旅は、これから始まる冒険への序章として、忘れられない体験となるでしょう。
四季が織りなす島の表情 – ベストシーズンと気候
タスマニアは南半球にあるため、日本とは季節が逆になります。温帯性気候に属し、四季がはっきりしているのが特徴です。どの季節に訪れてもそれぞれの美しさがありますが、一般的に旅行のベストシーズンと言われるのは、夏にあたる12月から2月です。
- 夏(12月〜2月): 日が長く、平均気温も20℃前後と過ごしやすい季節です。海水浴やハイキング、各種アウトドアアクティビティを存分に楽しむのに最適。ただし、人気のシーズンなので、航空券や宿泊施設の予約は早めに行うことをお勧めします。
- 秋(3月〜5月): 気温が少しずつ下がり、穏やかな日々が続きます。特に4月頃は、「ファガス」と呼ばれるタスマニア固有のブナの葉が黄金色に色づき、クレイドルマウンテン周辺は息をのむような絶景に包まれます。人混みも落ち着き、ゆったりと旅をしたい方には最高の季節です。
- 冬(6月〜8月): 最も寒く、山間部では雪が積もります。クレイドルマウンテンは雪化粧をまとい、荘厳な美しさを見せてくれます。日照時間は短いですが、運が良ければ夜空に舞うオーロラ(サザンライツ)に出会える可能性が高まる季節でもあります。暖かい暖炉のある宿で、タスマニア産のウイスキーを片手に過ごす夜は格別です。
- 春(9月〜11月): 島中が生命力に満ち溢れる季節。ワイルドフラワーが咲き乱れ、緑が日に日に濃くなっていきます。気温はまだ肌寒い日もありますが、新しい季節の始まりを感じながらドライブや散策を楽しむことができます。
タスマニアの天気は「一日に四季がある」と言われるほど変わりやすいことでも知られています。夏でも朝晩は冷え込みますし、急な雨に見舞われることも少なくありません。どの季節に訪れるにしても、重ね着できる服装や防水性のあるジャケットは必須アイテムです。
世界遺産の宝庫 – 手つかずの自然の価値
タスマニアの魅力を語る上で欠かせないのが、その圧倒的な自然遺産です。島の面積の約40%が国立公園や自然保護区に指定されており、そのうちの約20%にあたる広大なエリアが「タスマニア原生地域」としてユネスコの世界複合遺産に登録されています。
この世界遺産は、単に美しい景観だけが評価されているわけではありません。ここには、ゴンドワナ大陸の分裂から取り残された、太古の植物相が今なお生き続けています。樹齢数千年にも及ぶヒューオンパインの森や、氷河期に形成された地形、地球上でここにしか存在しない固有の動植物たち。タスマニアの自然は、まさに「生きた化石」であり、地球の進化の歴史を物語る貴重なタイムカプセルなのです。この計り知れない価値を持つ自然に触れることこそ、タスマニアを旅する最大の醍醐味と言えるでしょう。
タスマニアに来たら絶対に外せない!必訪エリア徹底解説
広大なタスマニアには、それぞれに異なる魅力を持つエリアが点在しています。歴史とアートが香る都市から、絶景の海岸線、そして神秘的な内陸部の原生林まで。ここでは、絶対に訪れるべき主要なエリアを、その見どころとともに徹底的にご紹介します。
州都ホバートとその周辺 – 歴史とアート、美食が交差する街
タスマニアの旅は、多くの場合、州都ホバートから始まります。オーストラリアでシドニーに次いで2番目に古いこの街は、ダーウェント川の河口に位置し、背景には雄大なウェリントン山(クナニ)がそびえ立つ、風光明媚な港町です。歴史的な建造物が並ぶ街並みと、現代的なアートやグルメシーンが見事に融合し、歩いているだけで心が躍ります。
サラマンカ・マーケット – 活気あふれる週末の風物詩
毎週土曜日の朝、ホバートのウォーターフロントにあるサラマンカ・プレイスは、島中から300以上もの屋台が集まる巨大な屋外マーケットへと姿を変えます。これが、タスマニアで最も有名で活気のある「サラマンカ・マーケット」です。
ジョージア様式の砂岩倉庫群を背景に、新鮮なオーガニック野菜や果物、焼きたてのパン、職人技が光るチーズやサラミが並びます。ラベンダー製品やヒューオンパインで作られた木工品、個性的なアクセサリーなど、タスマニアならではのクラフトを探すのも楽しみの一つ。屋台から漂う美味しい匂いに誘われて、地元産の食材を使ったグルメを味わいながら散策すれば、タスマニアの人々の温かさと島の豊かさを肌で感じることができるでしょう。陽気なストリートミュージシャンの演奏が、マーケットの雰囲気をさらに盛り上げます。
MONA(ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー・アート) – 世界が注目する前衛的な美術館
ホバートに来たら、いや、タスマニアを訪れるなら絶対に外せないのが、この「MONA」です。地元出身の大富豪であり、プロのギャンブラーでもあるデイビッド・ウォルシュ氏が私財を投じて設立したこの私設美術館は、アートの常識を覆す、過激で挑発的なコレクションで世界的に知られています。
ホバートの港から専用の高速フェリーに乗って向かうアプローチからして、すでに非日常的な体験の始まり。ダーウェント川のほとりの崖をくり抜いて作られた、地下3階建ての巨大な迷宮のような空間に足を踏み入れると、生と死、セックス、宗教といった根源的なテーマをえぐるような、衝撃的な作品群が待ち受けています。解説パネルは一切なく、代わりに「O」と呼ばれる専用端末が、作品情報やアーティストのインタビュー、さらにはウォルシュ氏自身の毒舌な解説まで提供してくれます。好き嫌いははっきりと分かれるかもしれませんが、あなたの価値観を根底から揺さぶる、強烈な知的興奮を味わえる場所であることは間違いありません。
ウェリントン山(クナニ) – ホバートを一望する絶景スポット
ホバート市街の背後に雄大にそびえる標高1,271mのウェリントン山。先住民の言葉では「クナニ」と呼ばれ、古くから聖なる山として崇められてきました。山頂までは車で約30分ほどで登ることができ、展望台からはホバートの街並み、ダーウェント川、そしてその先に広がる海まで、息をのむような360度のパノラマビューが広がります。
山頂付近は高山植物の宝庫であり、夏には可憐な花々が咲き誇ります。一方、冬には雪に覆われ、幻想的な銀世界へと変わります。麓から山頂にかけては、ウォーキングやマウンテンバイク用のトレイルも整備されており、アクティブに自然を楽しみたい人にも人気です。天気が良ければ、ぜひ訪れたい絶景スポット。ただし、山頂は市街地よりも気温が10℃近く低くなることも珍しくないので、防寒対策は万全にしていきましょう。
ポート・アーサー史跡 – オーストラリアの囚人史を物語る世界遺産
ホバートから南東へ車で約90分。タスマン半島に位置する「ポート・アーサー史跡」は、オーストラリアの暗い過去を今に伝える、最も重要な歴史遺産の一つです。19世紀、大英帝国によって最も凶悪とされた囚人たちが送り込まれたこの流刑植民地は、脱出不可能な「地獄の監獄」として恐れられていました。
広大な敷地には、かつての監獄や監視塔、教会、役人の住居などが廃墟として点在し、美しく穏やかな現在の風景とは裏腹に、当時の過酷な囚人たちの生活に思いを馳せることができます。ガイドツアーに参加すれば、ここで繰り広げられた数々のドラマや悲劇について、より深く知ることができるでしょう。夜には、ランタンの灯りだけを頼りに敷地を巡るゴーストツアーも開催され、スリルを求める観光客に人気です。ここはオーストラリアという国家の成り立ちを理解する上で、避けては通れない場所なのです。
東海岸を巡る – 絶景ドライブと白砂のビーチ
ホバートから北東へ向かう海岸線は、タスマニアで最も風光明媚なドライブコースの一つとして知られています。ターコイズブルーの海と純白の砂浜が織りなす美しいコントラストは、どこを切り取っても絵葉書のよう。点在する魅力的な町に立ち寄りながら、気ままなロードトリップを楽しみましょう。
フレシネ国立公園とワイングラス・ベイ – 世界で最も美しい湾のひとつ
タスマニア東海岸のハイライトといえば、間違いなくこの「フレシネ国立公園」です。ピンク色がかった花崗岩の山脈「ハザーズ」が海に突き出すこの半島には、世界最高のビーチの一つに数えられる「ワイングラス・ベイ」があります。
駐車場から展望台までの往復約1.5時間のウォーキングは、少し汗をかきますが、その先で待っている景色は、すべての疲れを忘れさせてくれるほどの絶景です。展望台から見下ろす、完璧なカーブを描く純白の砂浜と、透き通ったサファイアブルーの海。その名の通り、まるで巨大なワイングラスのような形をした湾の美しさは、まさに圧巻の一言。時間に余裕があれば、ぜひビーチまで下りてみてください。きめ細かな砂の感触を素足で楽しみ、穏やかな波の音を聞きながら過ごす時間は、至福のひとときとなるでしょう。
ベイ・オブ・ファイアーズ – 炎のように輝く奇岩群
フレシネ国立公園からさらに北上すると、海岸線に不思議な光景が広がります。それが「ベイ・オブ・ファイアーズ(火の湾)」です。この印象的な名前は、1773年にこの地を訪れたイギリスの探検家が、先住民アボリジニの焚く火を海岸線の至る所で目にしたことに由来すると言われています。
しかし、この地のもう一つの特徴は、海岸に点在する花崗岩が、鮮やかなオレンジ色の地衣類(菌類と藻類の共生体)で覆われていることです。青い海、白い砂浜、そして燃えるようなオレンジ色の岩。この三色のコントラストが生み出す景観は、他に類を見ないほどユニークで幻想的。特に朝日や夕日を浴びて輝く時間帯は、その名の通り、まるで湾全体が炎に包まれているかのような錯覚を覚えるほどです。
ビシェノー – 可愛いペンギンに会える町
東海岸沿いにある小さな漁師町ビシェノーは、のどかで可愛らしい雰囲気が魅力ですが、この町を有名にしているのは、夜になると見られるペンギンパレードです。日中、海で餌を探していた世界最小のフェアリーペンギンたちが、日没後、巣に戻るために海岸をよちよちと歩いていく姿は、愛らしくてたまりません。
地元のボランティアが運営するガイドツアーに参加すれば、ペンギンたちの生態を学びながら、彼らの邪魔にならないように、間近でその健気な姿を観察することができます。赤いライト(ペンギンが眩しがらないため)で照らされた暗闇の中、一生懸命に丘を登っていく小さなペンギンたちの姿は、心温まる感動的な光景です。
クレイドルマウンテン=レイク・セント・クレア国立公園 – 太古の自然を歩く
タスマニアの魅力を語る上で、島の心臓部に位置するこの国立公園を抜きにすることはできません。ここは「タスマニア原生地域」世界遺産の中核をなし、氷河によって刻まれた荒々しい山々と、太古の森、そして鏡のように澄んだ湖が広がる、手つかずの自然の聖域です。
ダブ湖周辺のハイキングコース – 初心者から楽しめる絶景トレイル
公園の北部に位置するクレイドルマウンテン(標高1,545m)は、そのギザギザとした特徴的な山容で、タスマニアの象徴とも言える存在です。その麓に広がるダブ湖の周りには、体力や時間に合わせて選べる様々なハイキングコースが整備されています。
最も人気があるのは、ダブ湖を一周する約6km、2時間ほどのサーキットウォーク。平坦で歩きやすく、初心者や家族連れでも安心して楽しめます。コースからは、角度によって様々な表情を見せるクレイドルマウンテンの雄姿を常に眺めることができ、途中には太古の植物が生い茂る「ボールルーム・フォレスト」や、小さな砂浜など、見どころも豊富です。冷たく澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、静寂の中で自分と向き合う時間は、何物にも代えがたい贅沢な体験となるでしょう。
ウォンバットやタスマニアデビルとの出会い
この国立公園は、タスマニア固有の野生動物たちに出会える確率が非常に高い場所としても知られています。特に夕暮れ時になると、のっしのっしと歩く姿が愛らしいウォンバットが、草を食むためにあちこちで姿を見せます。警戒心が比較的薄く、静かにしていればかなり近くで観察することも可能です。
また、夜行性のため日中に出会うのは難しいですが、公園内には「デビルズ@クレイドル」という保護施設があり、タスマニアデビルを間近で見ることができます。デビルたちが餌を食べる様子は迫力満点。彼らが直面している「デビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)」という伝染病の問題や、保護活動についても学ぶことができる貴重な機会です。他にも、ワラビーやポッサム、ハリモグラなど、多くのユニークな動物たちがこの豊かな森に暮らしています。
夜空を彩るオーロラ(サザンライツ)の可能性
クレイドルマウンテンは、南半球で見られるオーロラ、通称「サザンライツ」の観測地としても有名です。街の光がほとんど届かないこの場所では、天候に恵まれれば、満天の星空が広がります。
オーロラは、太陽活動が活発な時期に、運と忍耐力があれば見ることができる神秘的な天文ショーです。特に、空気が澄み、夜が長い冬(6月〜8月)は観測のチャンスが増えると言われています。肉眼では白くぼんやりとした雲のように見えることが多いですが、カメラの長時間露光で撮影すると、緑やピンクの美しいカーテンが夜空に舞う姿を捉えることができます。ダブ湖の水面に映るオーロラと星空は、まさにこの世のものとは思えないほどの幻想的な光景です。
西海岸の荒々しい自然 – ゴードン川クルーズと原生地域
タスマニアの西海岸は、偏西風「吠える40度」の直撃を受け、年間を通じて雨が多く、手つかずの原生地域が広がる、島内で最もワイルドなエリアです。アクセスは容易ではありませんが、だからこそ、訪れる者を圧倒するような、荒々しくも美しい自然が残されています。
ストラハン – 歴史的な港町からの出発
西海岸の冒険の拠点となるのが、マッコリー湾の奥深くに位置する港町ストラハンです。かつては周辺で伐採された貴重なヒューオンパインの積出港として栄え、今もその面影を残す歴史的な建物が並びます。静かで美しいこの町から、世界遺産のゴードン川を目指すクルーズが出航します。
世界遺産ゴードン川クルーズ – 静寂の川面を滑るように進む
ストラハンからのクルーズは、西海岸観光のハイライトです。大型のクルーズ船は、まず広大なマッコリー湾を抜け、狭い入り口「ヘルズ・ゲート(地獄の門)」を通過して、ゴードン川へと入っていきます。川の両岸には、人の手が一切入っていない、太古から続く温帯雨林がどこまでも続いています。
川の水は、植物から溶け出したタンニンによって紅茶のような色をしており、その黒い水面が空と森を完璧に映し出すことから「鏡の川」とも呼ばれています。エンジンを止め、静寂の中で川を滑るように進む時間は、まるで地球の胎内にいるかのような、神秘的で荘厳な体験です。途中、樹齢2000年を超えるヒューオンパインが生育する森を散策する機会もあり、地球の長い歴史と生命の力強さを感じずにはいられません。
サラ島 – “地獄の入り口”と呼ばれた囚人流刑地
ゴードン川クルーズの多くは、マッコリー湾に浮かぶサラ島への上陸を含んでいます。ここはポート・アーサーよりもさらに過酷で、脱獄は不可能とされた、タスマニアで最も古い囚人流刑地でした。鬱蒼とした森に囲まれ、常に雨と風にさらされるこの島での生活は、まさに地獄そのものだったと言われています。
ガイドの解説を聞きながら、囚人たちが建てた造船所や監獄の跡地を歩くと、そのあまりにも過酷な歴史に胸が締め付けられます。しかし、そんな絶望的な状況下でも、人間は演劇を上演するなどして生き抜こうとしたという事実は、人間の持つ強さと脆さの両面を私たちに教えてくれます。美しい自然とは対照的な、重い歴史を持つこの島への訪問は、旅に深い奥行きを与えてくれるでしょう。
食通も唸る!タスマニアのグルメ体験
タスマニアは、世界クラスの自然遺産だけでなく、世界中の美食家たちを魅了する「食材の宝庫」でもあります。汚染のない冷たい海、清らかな水、そして豊かな土壌が育む食材は、どれもフレッシュで味わい深いものばかり。タスマニアを旅するということは、すなわち、究極のグルメ旅でもあるのです。
新鮮なシーフードの饗宴 – オイスター、サーモン、ロブスター
タスマニアを訪れたら、まず味わうべきは新鮮なシーフードです。島の周りの冷たく栄養豊富な海流は、世界最高のシーフードを育んでいます。
特に有名なのが、クリーミーで濃厚な味わいのカキ(オイスター)です。東海岸のグレート・オイスター・ベイなどで養殖されており、各地のレストランやオイスターファームで、獲れたてを味わうことができます。レモンを軽く絞って、つるりと一口。口の中に広がる磯の香りと海の滋味は、まさに至福の瞬間です。
アトランティックサーモンもタスマニアを代表する味覚の一つ。脂がのっていながらも、身が引き締まっており、刺身やスモーク、グリルなど、どんな調理法でもその美味しさを発揮します。ホバート近郊のサーモンフィッシング場で、自分で釣り上げたサーモンをその場で調理してもらう体験も人気です。
さらに、高級食材であるサザンロックロブスター(伊勢海老の一種)も、タスマニアの名産品。プリプリとした弾力のある身は甘みが強く、濃厚な味わいが特徴です。少し値は張りますが、旅の思い出にぜひ味わってみてください。
冷涼な気候が育む極上ワイン – ピノ・ノワールとスパークリング
タスマニアの冷涼な気候は、フランスのシャンパーニュ地方やブルゴーニュ地方に似ており、高品質な冷涼気候性ワインの産地として、世界的な評価を高めています。
特に評価が高いのが、エレガントな酸味と複雑な風味が魅力の「ピノ・ノワール」と、きめ細やかな泡立ちと洗練された味わいの「スパークリングワイン」です。これらのブドウ品種は、涼しい気候でゆっくりと成熟することで、豊かなアロマと繊細な味わいを持つようになります。
ホバート近郊のコール・リバー・ヴァレーや、ロンセストンを中心とするテイマー・ヴァレーには、数多くのワイナリー(セラードア)が点在しています。美しいブドウ畑を眺めながら、様々なワインをテイスティングするのは、ワイン好きにはたまらない体験です。多くのワイナリーには、地元の食材を使った料理が楽しめるレストランが併設されており、ワインとの極上のマリアージュを堪能することができます。
クラフトビールとウイスキー – 世界に誇る蒸留所巡り
タスマニアは、ワインだけでなく、クラフトビールやウイスキーの産地としても非常にレベルが高いことで知られています。
1824年創業の「カスケード醸造所」は、オーストラリアで最も古い歴史を持つビール醸造所です。ホバートのウェリントン山の麓にあり、その清らかな水を使って作られるビールは、地元の人々に長年愛されています。工場見学ツアーに参加すれば、ビールの製造工程を学び、最後にはできたてのビールを試飲することができます。
近年、世界中のウイスキー愛好家から熱い視線を浴びているのが、タスマニアン・ウイスキーです。純粋な水と、島で栽培される高品質な大麦、そしてピート(泥炭)が、スコットランドのシングルモルトにも引けを取らない、個性的で複雑な味わいのウイスキーを生み出します。サリヴァンズ・コーヴ蒸留所が世界的なコンペティションで最高賞を受賞したことをきっかけに、その名は一気に世界に広まりました。島内には個性的な蒸留所が点在しており、蒸留所巡りを楽しむ「ウイスキー・トレイル」も人気です。
ファーマーズマーケットで味わうローカルフード – チーズ、ハチミツ、ベリー
タスマニアの食の豊かさを最も手軽に、そして深く体験できるのが、各地で開かれるファーマーズマーケットです。ホバートのサラマンカ・マーケットはもちろん、ロンセストンや島の小さな町でも、週末になると生産者が自慢の品々を持ち寄ります。
マーケットを歩けば、驚くほど多様な食材に出会うことができます。濃厚でクリーミーな味わいの職人技が光るチーズ、レザーウッドというタスマニア固有の花から採れる、独特の香りと風味が特徴のハチミツ、夏には甘酸っぱいベリー類が山積みで売られています。生産者と直接言葉を交わしながら、試食をさせてもらい、お気に入りの一品を見つける。これこそ、旅の醍醐味ではないでしょうか。マーケットで買ったパンとチーズ、ワインを持って、景色の良い場所でピクニックをするのも、最高の贅沢です。
タスマニア旅行を120%楽しむための実践的アドバイス
魅力あふれるタスマニア。その旅を最高のものにするために、移動手段や宿泊、モデルプランなど、具体的な計画に役立つ情報をお伝えします。
モデルプラン提案 – 目的別・日数別のおすすめルート
タスマニアは想像以上に広く、見どころも多いため、限られた日数ですべてを巡るのは困難です。自分の興味や滞在日数に合わせて、効率的なルートを組むことが重要になります。
5日間で巡る王道コース(ホバート&東海岸)
タスマニアのハイライトを凝縮した、初めての方におすすめのプランです。
- 1日目: ホバート空港到着。レンタカーを借り、ホバート市内へ。ウェリントン山(クナニ)から絶景を堪能し、市内のホテルにチェックイン。
- 2日目: 午前中はMONAでアートに触れる。午後はタスマン半島へドライブし、ポート・アーサー史跡を見学。夜はホバートでシーフードディナー。
- 3日目: (土曜の場合)午前中にサラマンカ・マーケットを散策。その後、東海岸を北上。途中、景色の良いワイナリーに立ち寄り、ビシェノーへ。夜はペンギンツアーに参加。
- 4日目: フレシネ国立公園へ。ワイングラス・ベイ展望台までのハイキングを楽しむ。午後はベイ・オブ・ファイアーズの絶景を堪能。この日はセント・ヘレンズかビシェノーに宿泊。
- 5日目: 東海岸を南下しながらホバートへ戻る。途中、ケイトのベリーファームなどで休憩。フライトの時間に合わせてホバート空港へ。
7日間で自然を満喫するコース(クレイドルマウンテン追加)
王道コースに、タスマニアの自然の神髄であるクレイドルマウンテンを加えた、より充実したプランです。
- 1〜3日目: 上記の5日間コースの1〜3日目と同様。
- 4日目: ビシェノーから内陸部へ向かい、クレイドルマウンテンへ。午後はダブ湖周辺の散策や、ウォンバット探しを楽しむ。国立公園内のロッジなどに宿泊。
- 5日目: 終日クレイドルマウンテンを満喫。少し長めのハイキングに挑戦したり、「デビルズ@クレイドル」を訪れたりする。夜は星空観賞やオーロラ探し。
- 6日目: クレイドルマウンテンからホバートへ向けて南下。途中、趣のある小さな町に立ち寄りながらドライブを楽しむ。夜はホバートで最後のディナー。
- 7日目: ホバート市内で最後のお土産探し。フライトの時間に合わせて空港へ。
10日間以上で島を一周する究極の旅
時間に余裕があるなら、ぜひ島を一周する壮大なロードトリップに挑戦してみてください。西海岸のワイルドな自然も加わり、タスマニアの多様性を余すことなく体験できます。
- ルート例: ホバート → 東海岸(フレシネ、ベイ・オブ・ファイアーズ) → ロンセストン → 北西部(スタンリー) → クレイドルマウンテン → 西海岸(ストラハン、クイーンズタウン) → ホバート
- このルートでは、ゴードン川クルーズや、歴史的な鉱山の町クイーンズタウンの荒涼とした風景など、さらにディープなタスマニアの魅力に触れることができます。急がず、各町で連泊しながら、ゆったりと旅を進めるのがおすすめです。
レンタカーは必須? – 島内の移動手段ガイド
結論から言うと、タスマニアを自由に、そして効率的に旅するためにはレンタカーがほぼ必須です。公共交通機関であるバスもありますが、本数が少なく、国立公園の奥地や景色の良いスポットなど、観光客が訪れたい場所の多くをカバーしていません。
空港や主要都市には、大手のレンタカー会社のカウンターがあります。国際免許証と日本の免許証、クレジットカードがあれば簡単に借りることができます。タスマニアの道は、都市部を除けば交通量も少なく、比較的運転しやすいですが、いくつか注意点があります。
- 野生動物の飛び出し: 特に夜明けや夕暮れ時は、ワラビーやウォンバットなどの動物が道路に飛び出してくることが頻繁にあります。この時間帯の運転は特に慎重に行いましょう。
- 天候の変化: 山間部では天候が急変し、霧が発生したり、冬には路面が凍結したりすることがあります。
- ガソリンスタンド: 田舎道ではガソリンスタンドの間隔が長くなることがあります。早め早めの給油を心がけましょう。
どこに泊まる? – おすすめの宿泊施設タイプ
タスマニアには、旅のスタイルや予算に合わせて、多種多様な宿泊施設があります。
- ホテル: ホバートやロンセストンなどの都市部には、高級ホテルからビジネスホテルまで揃っています。
- モーテル/モーターイン: レンタカーで旅をする人に便利な、駐車場付きの宿泊施設。主要な町には必ずあります。
- B&B(ベッド&ブレックファスト): 個人経営の宿で、温かいおもてなしと美味しい朝食が魅力。オーナーから地元の情報を教えてもらえることも。
- アパートメント/ホリデーハウス: キッチン付きの宿泊施設。ファーマーズマーケットで買った食材で自炊を楽しみたい人におすすめです。
- 国立公園内のロッジやキャビン: クレイドルマウンテンなどの国立公園内には、自然に囲まれた宿泊施設があります。少し高価ですが、移動時間を節約でき、朝夕の美しい景色や野生動物との出会いを満喫できます。
服装と持ち物 – 変わりやすい天候への備え
「一日に四季がある」タスマニアでは、重ね着(レイヤリング)が基本です。
- 必須アイテム:
- 防水・防風性のあるジャケット: 急な雨や風に対応するために必須。フード付きが便利。
- フリースやセーター: 中間着として。暖かく、着脱しやすいもの。
- 速乾性のあるTシャツや長袖シャツ: ベースレイヤーとして。
- 歩きやすい靴: ハイキングや街歩きのために、履き慣れたスニーカーやウォーキングシューズを。
- 帽子、サングラス、日焼け止め: 夏はもちろん、年間を通じて紫外線が強いので対策は万全に。
- 暖かい帽子、手袋、マフラー: 特に冬や、ウェリントン山、クレイドルマウンテンなど標高の高い場所へ行く場合に。
これらの準備をしっかりして、どんな天候でも快適に旅を楽しめるようにしましょう。
タスマニアのユニークな野生動物たちとの出会い方
タスマニアが「オーストラリアのガラパゴス」とも呼ばれる所以は、ここにしかいない固有の野生動物たちが数多く生息しているからです。彼らとの出会いは、タスマニアの旅を忘れられないものにしてくれます。
タスマニアデビル – 絶滅の危機から救う保護活動
タスマニアの象徴ともいえる動物、タスマニアデビル。黒い毛皮に覆われた、イヌ科に似た姿の有袋類です。夜行性で、動物の死骸などを食べることから「森の掃除屋」とも呼ばれています。食事の際に見せる、骨まで砕く強力な顎と、「ギャーギャー」という鳴き声が、悪魔(デビル)という名前の由来となりました。
しかし現在、彼らは「デビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)」という、癌の一種である伝染病によって絶滅の危機に瀕しています。野生で彼らの姿を見ることは非常に困難ですが、「デビルズ@クレイドル」や「タスマニアン・デビル・アンズー」といった保護施設を訪れることで、その生態を間近で観察し、保護活動について学ぶことができます。施設への入場料は、デビルたちを救うための貴重な資金源となります。
ウォンバットとワラビー – 愛らしい有袋類を探して
ずんぐりむっくりとした体で、のっしのっしと歩くウォンバットは、タスマニアで最も出会いやすい動物の一つです。特にクレイドルマウンテンやマリア島国立公園では、夕暮れ時になると、あちこちで草を食む姿を見ることができます。その愛らしい姿は、多くの旅人の心を鷲掴みにします。
カンガルーよりも小型のワラビーも、島の至る所で見られます。特にベネットワラビーや、お腹の毛が赤茶色いパディメロンはよく見かける種類です。彼らは比較的警戒心が強いですが、静かに観察すれば、親子で寄り添う微笑ましい姿などを見せてくれるかもしれません。
ペンギンパレード – 小さな妖精たちの帰巣
東海岸のビシェノーや、北西部のスタンリー、そしてブルニー島などでは、日没後にフェアリーペンギンたちが巣に戻ってくる「ペンギンパレード」を見ることができます。体長わずか30cmほどの世界最小のペンギンたちが、海から上がり、一生懸命に砂浜を歩いて茂みの中の巣へと帰っていく姿は、感動的で心温まる光景です。観察する際は、必ずガイドの指示に従い、フラッシュ撮影や大きな声は絶対に避け、彼らの生態系を尊重するよう心がけましょう。
野生動物と出会う際の注意点
タスマニアの野生動物たちは、この島の貴重な宝です。彼らとの出会いを素晴らしい体験にするために、いくつかのルールを守る必要があります。
- 絶対に餌を与えない: 人間の食べ物は動物たちの健康を害し、生態系のバランスを崩します。
- 距離を保つ: 可愛くても、彼らは野生動物です。近づきすぎず、静かに観察しましょう。
- 運転は慎重に: 特に夜明けと夕暮れ時は、動物の飛び出しに最大限の注意を払いましょう。
- ゴミは持ち帰る: 美しい自然と動物たちの生息地を守るため、ゴミは必ず持ち帰りましょう。
太古から続く自然のリズムの中で生きる彼らに敬意を払い、謙虚な気持ちでその姿を見守ること。それこそが、タスマニアの自然と共存する旅の、最も大切な心構えなのかもしれません。この島で得られる感動は、きっとあなたの心に深く刻まれ、明日への新たな活力を与えてくれることでしょう。

