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ストラスブールの新たな扉を開く旅。ビールと鉄道の街、シルティカイム&ビシュハイムで過ごす、心豊かな時間

ストラスブール。その名は、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。荘厳な大聖堂、おとぎ話の世界から抜け出してきたかのようなプティット・フランスの街並み。アルザス地方の中心として、世界中から旅人を魅了し続ける美しい都市です。

しかし、もしあなたが「観光客の喧騒から少しだけ離れて、この土地の本当の日常に触れてみたい」「次の旅は、地球にもっと優しく、心に残るものにしたい」と願うなら、ぜひストラスブールの中心部からトラムに乗って、北へほんの少しだけ足を延ばしてみてください。

そこには、観光ガイドブックのメインページを飾ることは少ないけれど、ストラスブールの歴史と文化を深く、そして静かに支えてきた二つの街、シルティカイム(Schiltigheim)とビシュハイム(Bischheim)が、あなたを待っています。

シルティカイムは「醸造家の街(Cité des Brasseurs)」の愛称で知られる、ビールの魂が宿る場所。そしてビシュハイムは、鉄路と共に発展してきた、歴史の轍が刻まれた街。

この二つの街を巡る旅は、派手なアトラクションを追いかける旅ではありません。それは、澄んだ空気の中を自転車で走り、地元の人で賑わうマルシェで旬の恵みを買い、川のほとりで静かに流れる時間を味わう、そんなささやかだけれど、満ち足りた喜びに溢れた旅です。

この記事では、ストラスブールの知られざる魅力をサステナブルな視点で紐解きながら、シルティカイムとビシュハイムで過ごす、心豊かな時間の過ごし方をご提案します。さあ、いつもの地図を少しだけ広げて、新しい物語のページをめくりましょう。

目次

ストラスブールから始まる、環境に優しい旅のプラン

旅のスタイルは、その人の価値観を映す鏡のようなもの。私が旅に出る時、いつも心に留めているのは「その土地に敬意を払い、できるだけ負荷をかけずに、深く繋がる」ということです。シルティカイムとビシュハイムへの旅は、まさにそんなエコツーリズムの思想を実践するのに最適なフィールドと言えるでしょう。

公共交通と自転車で巡る、軽やかなアクセス

ストラスブール都市圏(Eurométropole de Strasbourg)の素晴らしいところは、その高度に発達した公共交通網です。中心部からシルティカイムやビシュハイムへは、CTS(ストラスブール交通会社)が運営するトラムやバスを利用すれば、驚くほど簡単かつ快適にアクセスできます。

例えば、ストラスブール中央駅からトラムB線に乗れば、シルティカイムの中心部までわずか10分ほど。車窓から眺める景色が、歴史的な中心街から、より落ち着いた住宅街へと移り変わっていく様子もまた、旅の楽しみの一つです。運賃も手頃で、一日券や複数回券を利用すれば、二つの街を自由に行き来するのにとても便利。アプリを使えばリアルタイムの運行状況もわかり、計画を立てやすいのも嬉しいポイントです。

そして、私が心からおすすめしたいのが、自転車での移動。ストラスブールはフランスで最も自転車に優しい街として知られており、その広大な自転車専用道路網は郊外のシルティカイムやビシュハイムまで完璧に整備されています。

街の至る所にある公共レンタルサイクル「Vélhop」は、短期旅行者でも気軽に利用できます。風を感じながら、自分のペースで街を探索する心地よさは格別です。トラムでは見過ごしてしまうような小さなパン屋さん、美しい庭を持つ家、地元の人々の談笑する声。自転車だからこそ出会える、一期一会の風景があります。CO2を排出しないこの移動手段は、環境への配慮だけでなく、旅の解像度をぐっと高めてくれる最高のパートナーなのです。

エコな視点で選ぶ、心安らぐ滞在先

どこに泊まるか、という選択もまた、サステナブルな旅の重要な要素です。大規模なチェーンホテルも良いですが、シルティカイムやビシュハイムの魅力をより深く味わうなら、少し違った視点で宿を選んでみてはいかがでしょうか。

探してみたいのは、「The Green Key」や「EU Ecolabel」といった国際的な環境認証を取得しているホテルやB&B(シャンブル・ドット)。これらの宿は、節水や省エネ、廃棄物の削減、地産地消の食材の積極的な利用など、環境負荷を低減するための具体的な取り組みを行っています。快適な滞在を楽しみながら、自分の選択が地球の未来に貢献していると感じられるのは、とても満ち足りた気持ちにさせてくれます。

また、キッチン付きのアパートメントタイプの宿泊施設を選ぶのも素晴らしい選択です。これは後ほど詳しく触れますが、地元のマルシェで新鮮な食材を買い、自分で料理をすることで、その土地の食文化をより深く体験できるだけでなく、外食に頼らないことでゴミの削減やフードロスの管理にも繋がります。

選ぶ宿が、地域の小さな経済を支え、環境に配慮している。そんな「意志ある選択」をすることが、旅を一層思い出深いものにしてくれるはずです。

ビールの都シルティカイム – 醸造家の魂と緑に触れる

トラムを降り、シルティカイムの地に足を踏み入れると、どこか香ばしいような、豊かな空気が流れているのを感じます。ここは、単なるストラスブールのベッドタウンではありません。アルザスのビール文化を牽引してきた、誇り高き「醸造家の街(Cité des Brasseurs)」。その歴史と活気は、街の隅々にまで息づいています。

黄金色の歴史を辿る – ハイネケン醸造所とビールの物語

シルティカイムのアイデンティティは、ビールと分かちがたく結びついています。その歴史は古く、19世紀から20世紀にかけて、この街はアルザスビール醸造の中心地として栄華を極めました。フィッシャー(Fischer)、シュッツェンベルジェ(Schutzenberger)、アデルスホッフェン(Adelshoffen)… かつてこの地には、いくつもの伝説的な醸造所が立ち並び、互いに切磋琢磨しながら、芳醇な味わいのビールを生み出していたのです。

街を歩けば、今もなおその面影を見つけることができます。赤レンガ造りの重厚な建物、醸造所の名を刻んだ古い看板。それらは、黄金色の液体に情熱を注いだ人々の記憶を、静かに語りかけてくるようです。

現在、これらの伝統ある醸造所の多くは、その歴史に幕を下ろしたり、大手資本の傘下に入ったりしました。しかし、シルティカイムの醸造の魂が消えたわけではありません。その伝統を今に受け継ぐ最大の存在が、街のランドマークともいえる「ハイネケン醸造所(Brasserie de l’Espérance)」です。

もともとは1746年にストラスブールで創業したシュッツェンベルジェ醸造所が、1862年にこのシルティカイムの地に移転したのが始まり。その後、ハイネケングループの一員となり、現在ではフランス最大級の醸造所として、フィッシャーやデスペラードスといったブランドを含む多種多様なビールを製造しています。

工場の敷地は広大で、近代的な設備が並ぶその姿は、かつての小規模な醸造所がひしめいていた時代とは様相を異にします。しかし、ここで働く人々の中には、代々ビール造りに携わってきた家族も少なくないといいます。最新の技術と、古くから受け継がれる職人技。その融合が、シルティカイムの新たなビールの物語を紡いでいるのです。

残念ながら、常設の見学ツアーは行われていないことが多いですが、特別なイベントなどで内部が公開されることもあります。もしタイミングが合えば、その巨大な発酵タンクやボトリングのラインを目の当たりにできるかもしれません。たとえ外から眺めるだけでも、この街の産業を支える力強い鼓動を感じ取ることができるでしょう。

地元の息吹を感じるマルシェ・ド・シルティカイム

醸造所の歴史に思いを馳せたなら、次に向かうべきは、街の胃袋であり、心臓部でもあるマルシェ(市場)です。シルティカイムでは、毎週木曜日の朝、市庁舎前の広場(Place de la Mairie)に活気あふれるマルシェが立ちます。

私がマルシェを愛してやまない理由は、そこが最も手軽に、そして深く、その土地の文化と繋がれる場所だからです。色とりどりの野菜や果物が山と積まれ、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂い、生産者の威勢の良い声と、買い物客の楽しげな会話が交じり合う。その光景は、五感を刺激し、生きるエネルギーそのものを感じさせてくれます。

シルティカイムのマルシェも例外ではありません。並ぶのは、アルザスの豊かな大地が育んだ旬の恵み。春には真っ白なアスパラガス、夏には太陽をたっぷり浴びたトマトやズッキーニ、秋にはキノコやカボチャ、そして冬にはシュークルート用のキャベツ。季節の移ろいを、これほど鮮やかに感じられる場所は他にありません。

サステナブルな旅を志す者にとって、マルシェはまさに宝の山です。スーパーマーケットのように過剰に包装された商品は少なく、多くが量り売り。持参したマイバッグや布袋に、必要な分だけ詰めてもらう。生産者の顔を見ながら直接会話をし、「この野菜はどうやって食べるのが一番美味しい?」なんて尋ねるのも、マルシェならではの楽しみです。

ここで手に入れたいのは、アルザス名物のチーズ、ミュンスター。そして、地元の養豚家が作る風味豊かなシャルキュトリ(加工肉)。新鮮な卵と、ずっしりと重いライ麦パン。これらを持って、近くの公園でピクニックをするのも最高です。プラスチックゴミを一切出さず、地元の経済を直接応援し、そして何より、最高に美味しい。これぞ、旅の醍醐味ではないでしょうか。

心洗われる緑のオアシス – 公園でのんびり過ごす時間

ビールの街、産業の街というイメージの強いシルティカイムですが、実は心安らぐ緑の空間にも恵まれています。喧騒から離れ、地元の人々に交じってのんびりと過ごす時間は、旅に深い安らぎと余白を与えてくれます。

特におすすめなのが「シルティカイム城公園(Parc du Château de Schiltigheim)」です。かつてこの地にあった城の跡地を整備した公園で、小高い丘の上からはシルティカイムの街並みや、遠くにストラスブール大聖堂の尖塔を望むことができます。広々とした芝生の上で、マルシェで買ったパンとチーズを広げる。木漏れ日の下で本を読む。ただそれだけで、心が満たされていくのを感じます。

この公園は、単なる憩いの場ではありません。様々な種類の樹木が植えられ、野鳥たちのさえずりが聞こえる、都市における貴重なビオトープ(生物生息空間)でもあります。自然と共生する街の姿を、ここでも垣間見ることができるのです。

もう一つ、地元の人々に愛されているのが「ロズレ公園(Parc de la Roseraie)」です。その名の通り、見事なバラ園があり、開花のシーズンには甘い香りに包まれます。丁寧に手入れされた花壇を散策する時間は、心を穏やかにしてくれます。

これらの公園で過ごす時間は、お金のかからない、最も贅沢なアクティビティです。私たちはつい、旅先で何かを「しなければならない」と考えがちですが、時には何もしない時間、ただその場の空気を感じるだけの時間が、最も記憶に残るものになったりするのです。

シルティカイムの隠れた名建築を巡る

シルティカイムの魅力は、大きなランドマークだけではありません。何気ない通りを歩いていると、ふと心惹かれる建物に出会うことがあります。

旧市街の中心に静かに佇む「シルティカイム・プロテスタント教会(Église protestante de Schiltigheim)」は、その代表格です。19世紀に建てられたネオ・ゴシック様式の教会で、その簡素ながらも美しい姿は、この地域のプロテスタントの歴史を物語っています。観光客でごった返すこともなく、静寂の中でステンドグラスから差し込む光を眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいます。

また、ビール醸造で財を成した一族が建てたであろう、立派な邸宅や、アルザス地方特有のコロンバージュ(木組み)様式を残す古い家々も散見されます。ストラスブールの中心部のように観光地化されていない、ありのままの姿がそこにはあります。自分の足で歩き、自分だけの「お気に入り」の風景を見つける。そんな宝探しのような散策も、シルティカイムの楽しみ方の一つです。

鉄道の街ビシュハイム – 歴史の轍と穏やかな日常

シルティカイムからさらに北東へ、トラムや自転車でわずかの距離に、もう一つの興味深い街、ビシュハイムがあります。シルティカイムが「ビール」なら、ビシュハイムのキーワードは「鉄道」。この街は、フランスの鉄道網の重要な結節点として発展し、その歴史は鉄路と共に刻まれてきました。

鉄路が刻んだ歴史 – 操車場と街の発展

ビシュハイムの個性を最も象徴しているのが、街の東側に広がる巨大な鉄道関連施設、特に「ビシュハイム操車場(Triage de Bischheim)」です。ここは、フランス国鉄(SNCF)の国内有数の規模を誇る操車場であり、ヨーロッパ中からやってきた貨物列車が、ここで編成を解かれ、新たな目的地へと旅立っていきます。

陸橋の上からこの操車場を見下ろすと、そのスケールに圧倒されます。幾重にも伸びる線路、ずらりと並んだ貨車、ゆっくりと動き出す機関車。それはまるで、巨大な生き物のようです。鉄道ファンならずとも、この機能美とダイナミズムに満ちた光景には、思わず見入ってしまうでしょう。

この操車場の存在が、ビシュハイムの街の姿を形作ってきました。19世紀後半、アルザスがドイツ帝国領だった時代に建設が始まり、多くの鉄道労働者がこの街に移り住みました。彼らのための住宅地「シテ・デ・シュミノ(Cité des Cheminots)」(鉄道員の街)が形成され、独自のコミュニティと文化が育まれたのです。

鉄道は、人や物を運ぶだけの存在ではありません。それは産業を支え、街を育て、人々の生活の礎となるものです。ビシュハイムを歩くと、鉄道と共に生きてきた人々の誇りと、力強い生活の匂いが感じられます。公共交通機関のサステナビリティが改めて見直される現代において、この鉄道の街の風景は、私たちに多くのことを示唆してくれます。

イル川のほとりを歩く – 水辺のプロムナード

産業の街という側面を持つビシュハイムですが、同時に豊かな自然にも恵まれています。街の西側を、イル川がゆったりと流れており、その川沿いには美しい遊歩道「プロムナード・ド・リル(Promenade de l’Ill)」が整備されています。

ここは、地元の人々にとって最高の散策とサイクリングのコース。私も自転車を借りて、このプロムナードを走ってみました。川面を渡る涼しい風、木々の葉が擦れる音、カモや白鳥がのんびりと泳ぐ姿。ストラスブールの中心部からそれほど離れていないのに、ここには別世界のような穏やかな時間が流れています。

特に夕暮れ時、川面が茜色に染まる光景は息をのむほどの美しさです。ベンチに座って、ただ静かにその景色を眺める。そんな贅沢な時間を過ごすことができます。この遊歩道は、環境に配慮した形で整備されており、自然の生態系を尊重しながら、人々が水辺の環境に親しめるように工夫されています。旅の疲れを癒し、心をリフレッシュするのに、これ以上の場所はないでしょう。

静寂に包まれた祈りの空間 – サン・ローラン教会

ビシュハイムの旧市街の中心には、街の歴史を見守り続けてきた「サン・ローラン教会(Église Saint-Laurent de Bischheim)」が聳え立っています。12世紀に起源を持つこの教会は、現在のゴシック様式の姿になったのは14世紀のこと。幾度かの改修を経ていますが、その荘厳な雰囲気は今も変わりません。

一歩中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫で、外の喧騒が嘘のような静寂に包まれます。高く、美しいリブ・ヴォールトの天井を見上げ、繊細な彫刻が施された説教壇や、歴史を感じさせるパイプオルガンを眺めていると、心が洗われるようです。

この教会もまた、シルティカイムの教会と同様、大勢の観光客が押し寄せる場所ではありません。だからこそ、私たちはこの空間と静かに向き合うことができます。旅先で教会を訪れるのは、信仰の有無に関わらず、その土地の人々が何を大切にし、何を祈ってきたのか、その精神性に触れる行為だと私は思います。サン・ローラン教会は、ビシュハイムの人々の心の拠り所として、これからも静かに時を刻んでいくのでしょう。

多様な文化が織りなす街の表情

ビシュハイムを歩いていて気づくのは、その多文化的な雰囲気です。鉄道の街として、フランス各地、そして近隣諸国から多くの人々が集まってきた歴史的背景に加え、現代においても様々なルーツを持つ人々が共に暮らしています。

その多様性は、街の食文化にも表れています。伝統的なアルザス料理のレストランの隣に、本格的なトルコ料理のケバブ店があったり、北アフリカのスパイスを扱う食料品店があったり。こうした店を覗いてみるのも、ビシュハイムのもう一つの楽しみ方です。異なる文化が混じり合い、生まれる新たな活気。それもまた、この街の紛れもない魅力なのです。

二つの街で味わう、サステナブルな美食体験

旅の喜びの中で、食が占める割合は決して小さくありません。シルティカイムとビシュハイムの旅は、アルザスの豊かな食文化を、環境に優しい形で満喫する絶好の機会でもあります。

醸造家の魂を一杯に – ローカルビアパブ探訪

ビールの都シルティカイムを訪れたからには、やはりその土地のビールを味わわないわけにはいきません。ハイネケン醸造所が有名ですが、ぜひ探してみたいのが、地元の小規模な醸造所(マイクロブルワリー)のビールや、こだわりのセレクションを揃えたビアパブです。

近年、フランス全土でクラフトビールブームが起きており、アルザス地方も例外ではありません。伝統的なスタイルを守りつつも、新しい発想で独創的なビールを生み出す若き醸造家たちも登場しています。シルティカイムやストラスブール市内で、そうした「Brasserie Artisanale(手作り醸造所)」のビールを扱うお店を見つけたら、ぜひ立ち寄ってみてください。

そして、ビールと共に味わいたいのが、アルザスの郷土料理です。薄い生地にチーズやベーコンを乗せて焼いた「タルト・フランベ(Tarte Flambée)」は、ビールとの相性が抜群。発酵キャベツの漬物と豚肉やソーセージを煮込んだ「シュークルート(Choucroute)」も、この地方を代表する一皿です。

こうした料理を提供する伝統的な居酒屋は「ヴィンステューブ(Winstub)」と呼ばれ、温かく家庭的な雰囲気の中で、心ゆくまで地元の味を楽しむことができます。地元の食材を使い、昔ながらのレシピで作られた料理を味わうことは、その土地の文化を丸ごといただくようなもの。最高の地産地消体験です。

マルシェの恵みを食卓へ – 地産地消のシンプルクッキング

もしあなたがキッチン付きのアパートメントに滞在しているなら、旅の楽しみはさらに広がります。シルティカイムのマルシェで手に入れた、朝採れの新鮮な食材を使って、自分だけのアルザス料理に挑戦してみましょう。

何も、手の込んだ料理を作る必要はありません。買ってきたばかりの白アスパラガスをシンプルに茹でて、ヴィネグレットソースでいただく。色とりどりの夏野菜をオリーブオイルでさっと炒める。ミュンスターチーズをライ麦パンに乗せて、軽くトーストする。それだけで、レストランでは味わえない、格別のご馳走になります。

この「自分で料理する」という行為には、サステナブルなヒントがたくさん詰まっています。まず、外食と比べて格段にゴミを減らすことができます。テイクアウト容器や余分な包装は必要ありません。そして、フードロスを自分の手で管理できること。食べきれる量だけを買い、調理し、もし野菜の皮や芯が残ったら、それらを煮込んで美味しい野菜だしのスープ(ブイヨン)を作ることもできます。

生産者の顔が見える食材を、無駄なく、感謝していただく。それは、旅先でできる最も豊かで、地球に優しい食の体験ではないでしょうか。

環境に優しい選択 – ヴィーガン・ベジタリアンフレンドリーな店

伝統的に肉料理が多いアルザスですが、近年の健康志向や環境意識の高まりを受け、ストラスブール都市圏ではヴィーガンやベジタリアン向けの選択肢も増えてきています。

シルティカイムやビシュハイムでも、オーガニック食材を扱うカフェや、中東料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)を出すお店など、探してみると植物性の美味しい食事に出会えることがあります。特にマルシェでは、新鮮な野菜や果物、豆類、ナッツなどが豊富に手に入るので、菜食中心の食生活を送る人にとっても天国のような場所です。

畜産業が環境に与える負荷が大きいことは、広く知られています。旅の食事の中で、何回かを植物性のものに置き換える。そんな小さな選択もまた、地球の未来を考えるサステナブルなアクションの一つです。伝統的な食文化に敬意を払いつつ、新しい食のスタイルを柔軟に取り入れる。そんな旅の食事ができたら素敵ですね。

旅の記憶を未来へつなぐ – 私たちにできること

シルティカイムとビシュハイムを巡る旅は、終わりに近づいています。しかし、この旅で得た気づきや感動は、きっとあなたの日常や、これからの旅のスタイルに、新しい光を投げかけてくれるはずです。

ローカルビジネスを応援する旅

旅先で私たちがお金を使うとき、そのお金がどこへ流れるのかを少しだけ意識してみませんか。世界展開するチェーン店でコーヒーを飲む代わりに、地元の人が経営する小さなカフェに入る。大手スーパーではなく、個人商店やマルシェで買い物をする。

そうした選択の一つひとつが、その土地の経済を潤し、個性豊かなコミュニティを守ることに繋がります。シルティカイムのパン屋さん、ビシュハイムの八百屋さん、街角の小さな本屋さん。彼らのビジネスを応援することは、私たちが旅で受け取った素晴らしい体験への、ささやかな恩返しでもあるのです。旅人である私たちが「消費者」ではなく、「コミュニティの一員」として振る舞うこと。それが、旅をより意義深いものにしてくれます。

ゴミを減らし、自然を敬う

この旅で何度も登場した、サステナブルな旅の基本アクションを、もう一度心に刻みましょう。

マイボトルを持ち歩き、街角の水飲み場を利用する。マイバッグやエコラップを持参し、使い捨てのプラスチックを断る。ホテルのアメニティは必要なものだけ使い、リネンの交換は数日に一度にしてもらう。

そして、シルティカイムの公園やビシュハイムの川辺といった美しい自然の空間を訪れた際には、敬意を払うことを忘れないでください。ゴミは必ず持ち帰り、植物や生き物を傷つけない。私たちが美しいと感じたその風景を、未来の旅人や、そこに住む人々、そして他の生命たちも同じように楽しめるように、責任ある行動を心がけたいものです。

ストラスブールの、その先へ

シルティカイムとビシュハイムへの旅は、私たちに教えてくれます。旅の価値は、訪れた観光地の数や、撮った写真の「映え」だけでは測れない、と。

トラムに揺られ、地元の人々の日常に少しだけお邪魔する。醸造所の歴史に耳を傾け、鉄道の響きに街の鼓動を感じる。マルシェの活気に心を躍らせ、公園の静寂に安らぎを見出す。

それは、有名な観光地を巡る旅のような華やかさはないかもしれません。しかし、そこには、地に足のついた、本物の生活の豊かさがあります。観光というフィルターを通さずに、その土地の素顔に触れる喜びがあります。

ストラスブールを訪れたなら、ぜひもう一歩、足を延ばしてみてください。シルティカイムとビシュハイムが、きっとあなたの旅に、忘れられない奥行きと、温かい記憶を加えてくれるはずです。そしてこの旅が、あなたの次の旅を、さらに優しく、さらに深いものへと導く、新たな始まりとなることを願ってやみません。

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この記事を書いたトラベルライター

サステナブルな旅がテーマ。地球に優しく、でも旅を諦めない。そんな旅先やホテル、エコな選び方をスタイリッシュに発信しています!

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