「魔法の都」「百塔の街」「ヨーロッパの心臓」。数々の美しい異名を持つ、チェコの首都プラハ。石畳の小径を歩けば中世の世界に迷い込み、ヴルタヴァ川の畔に立てば、荘厳なプラハ城が夕日に染まる。そのあまりに絵画的な風景は、一度訪れた者の心を掴んで離しません。こんにちは、旅ライターの亜美です。アパレルの仕事の合間を縫っては、心惹かれる世界の街角へ飛んでいく生活を送っていますが、プラハほど「おとぎ話」という言葉がしっくりくる街を私は知りません。
街全体がまるごと美術館のようなプラハですが、その魅力は単に美しいだけではありません。何層にも積み重なった歴史の深み、アルフォンス・ミュシャに代表される華麗な芸術、そして素朴で温かいチェコ料理と世界一美味しいと称されるビール。歩けば歩くほど、知れば知るほど、この街の虜になってしまうのです。
今回の記事では、私が実際にプラハを旅して心から感動した、とっておきの魅力を4つのテーマに分けて、余すところなくお届けします。初めてプラハを訪れる方はもちろん、再訪を考えている方にも、新たな発見があるはず。この記事を読み終える頃には、きっとあなたもプラハ行きのチケットを探し始めていることでしょう。さあ、一緒に魔法の都への扉を開けてみませんか?
プラハの魅力は、この記事で紹介した4つの体験だけにとどまらず、黄金の都プラハへ。中世の宝石箱を巡る、心揺さぶる旅の誘いでもさらに深く探求することができます。
まるで迷宮、歩くだけで心躍る古都の街並み

プラハが持つ最大の魅力は、なんといっても息を呑むほど美しい街並みに他なりません。第二次世界大戦の戦火を奇跡的に免れた歴史的建造物が街のあちこちに点在し、当時の様子を色濃く伝えています。ヴルタヴァ川を挟んで広がるこの風景はユネスコの世界遺産に登録されており、一歩足を踏み入れれば中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのような錯覚に囚われるでしょう。目的を決めず、ただ気の向くままに歩くだけで次々に現れる絶景に心が躍る。そんな魔法のような体験が、プラハでは日常となっています。
旧市街広場と天文時計:街の中心で感じられる歴史の息吹
プラハ観光のスタート地点となるのが旧市街広場です。ゴシック、ルネサンス、バロックといったさまざまな時代の建築様式が調和した建物に囲まれた広場は、まさに圧巻の光景を見せてくれます。天に向かって鋭くそびえる双塔が印象的なティーン教会、パステルカラーが美しく彩るゴルツ・キンスキー宮殿、そして広場の象徴である旧市庁舎。どこを切り取っても絵葉書のような風景が広がり、シャッターを押す手が止まらなくなります。
広場に着いたら、まずはカフェのテラス席に腰を下ろし、その喧騒と空気を肌で感じてみましょう。大道芸人のパフォーマンスに笑い、馬車の蹄の音に耳を澄まし、世界各国から訪れた人々が織り成す活気に包まれる。それだけで「プラハに来てよかった」と心から実感できるはずです。
そして、この広場で見逃せないのが旧市庁舎の壁に組み込まれた天文時計「プラハのオルロイ」です。15世紀に製作されたこの精巧な時計は、単なる時刻表示にとどまらず、天体の動きやキリスト教暦も示しています。文字盤の周囲にはさまざまな彫刻が施され、ひとつひとつに意味が込められています。
毎時0分になると、時計の仕掛けが動き出す様子を一目見ようと多くの観光客が集まります。時計上部の窓からキリストの12使徒が次々と姿を現し、骸骨の人形が鐘を鳴らし、鶏が鳴き声をあげる。その約1分間のパフォーマンスは、どこかユーモラスでありつつも、死や時の移ろいを思わせる厳かな雰囲気に包まれています。この瞬間を最高の場所で見たいなら、少し早めに時計の正面に陣取るのがおすすめ。ただし、人混みはスリが活発になる場所でもあるため、見学に夢中になりすぎず、リュックサックは前に抱える、ショルダーバッグは体の前でしっかり持つなど、貴重品管理は十分注意しましょう。
旧市庁舎の塔は有料で登ることが可能です。チケットは現地の窓口でも購入できますが、混雑を避けたい場合はプラハ市公式観光ポータルなどからオンラインで事前購入するとスムーズです。エレベーターも備わっているため、体力に自信がない方でも安心して登れます。塔の上から眺める旧市街広場とオレンジ色の屋根が連なる街並みはまさに絶景で、一生忘れられない思い出になることでしょう。
カレル橋のロマンチックな散策:芸術と伝説が息づく石の橋
旧市街とプラハ城が位置するマラー・ストラナ地区を結ぶカレル橋は、プラハを象徴する最も美しい橋のひとつです。1402年に完成したこの石橋は歩行者専用で、橋上には30体もの聖人像が並び、まるで屋外美術館のような趣を放っています。
橋を渡るなら、ぜひ時間帯を変えて何度も訪れてみてください。朝靄に包まれた幻想的な早朝、世界中から訪れた観光客と大道芸人で賑わう日中、そしてガス灯が灯りプラハ城がライトアップされるロマンチックな夜。それぞれに異なる表情で魅了してくれます。特に朝日が昇る頃は人も少なく、静けさの中で浮かび上がるプラハ城と聖ヴィート大聖堂のシルエットは神々しいほどの美しさ。写真撮影が好きななら、この時間帯は見逃せません。
橋上に並ぶ聖人像の中で特に有名なのが「聖ヤン・ネポムツキー」の像です。彼は王妃の告解の内容を明かすことを拒んだため、カレル橋からヴルタヴァ川に投げ込まれ殉教したと伝えられています。像の台座にあるレリーフを触ると幸運が訪れるとの言い伝えがあり、多くの人に撫でられた部分はツヤツヤと輝いています。旅の安全や幸運を願い、そっと触れてみるのもおすすめです。
日中の橋は、似顔絵描きやアクセサリー販売の露店、人形遣いによるマリオネットの演技、楽器奏者の演奏などで賑わい、まるでお祭りのような活気があります。彼らのパフォーマンスを楽しみながらゆっくり歩くのもまた楽しい時間ですが、気に入ったものがあっても気負わず購入せずに、自分のペースで橋の上の芸術的な雰囲気を満喫してください。
細い路地裏を探検する楽しみ:迷い込みながら深まるプラハへの愛着
旧市街広場やカレル橋など主要な通りから少し逸れると、まるで迷宮のような石畳の路地が広がっています。この路地裏こそが、プラハの真の魅力が隠れている場所だと私は感じます。
地図を見ずに、ただ足の向くままに歩いてみてください。ふと角を曲がると、可愛らしい看板を掲げたマリオネット専門店が現れたり、壁一面が蔦に包まれた趣深いカフェを発見したり。ショーウィンドウに輝くボヘミアン・グラスの美しさに心惹かれ、どこからか聴こえてくるクラシック音楽の調べに足を止める。そんな予期せぬ出会いが、旅の楽しさを一層深めてくれます。
プラハの石畳は歴史の趣を感じさせる反面、ヒールのある靴や薄底の靴では歩きにくいことが多いです。快適に街歩きをするためには、クッション性の高いスニーカーやウォーキングシューズが必須といえます。これはプラハ旅行の持ち物準備において、非常に重要なポイントのひとつでしょう。また、道が複雑に入り組んでいるため、方向感覚に自信があっても迷子になりやすいのが現実です。スマートフォンのGoogleマップなどの地図アプリをオフラインでも使えるように事前にダウンロードしておくと、いざという時に心強いでしょう。
治安は比較的良好ですが、夜間は人通りの少ない路地の雰囲気が一変します。特に女性の一人歩きは、明るく人通りの多い通りを選ぶよう心掛けてください。安全には細心の注意を払いながら、あなただけの宝物を発見するかのような路地裏散策をぜひ楽しんでください。
千年の歴史が息づく、プラハ城の荘厳な世界
ヴルタヴァ川の西岸、丘の上に雄々しくそびえ立つプラハ城。それは単なる一つの城ではなく、教会や宮殿、庭園などが集まった巨大な複合施設で、その敷地面積は「世界最大の古城」としてギネスブックにも登録されています。9世紀に始まったその歴史以来、ボヘミア王国やチェコの国の中心地として、多くの歴史的場面の舞台となってきました。その荘厳な姿は街のどの場所からでも望むことができ、プラハの揺るぎない象徴として存在しています。
プラハ城の概要とアクセス方法:効率的に巡るための基本ポイント
広大なプラハ城をスムーズに見学するためには、事前のプランニングが欠かせません。まずアクセスですが、最も一般的なのはトラムの利用です。特に22番トラムは観光客に人気で、「Pražský hrad(プラハ城)」停留所か、そのひとつ先の「Pohořelec」で降りるのが便利です。「Pohořelec」で降りる場合、城の正門まで少し歩くものの、下り坂なので体力的には楽になります。反対に、マラー・ストラナ地区から旧登城道を歩いて登るルートもありますが、勾配がかなり急なため、体力に自信のない方はトラムの利用が無難です。
プラハ城に入場する際は、まずセキュリティチェックを受けます。手荷物検査があり、特に混雑時には長蛇の列が生じることもあるので、余裕をもって行動することが大切です。刃物や危険物の持ち込みは禁止されており、小さなナイフなどをうっかりバッグに入れたままにしないよう注意してください。
セキュリティを通過後、チケットを購入します。チケットの種類はいくつかあり、見学可能な施設が異なります。代表的なのは「サーキットB」で、聖ヴィート大聖堂、旧王宮、聖イジー教会、黄金小路の主要スポットをすべて巡れ、最も一般的でおすすめです。さらに多くの施設を訪れたい場合は「サーキットA」を選びましょう。チケットはプラハ城公式サイトでオンライン事前購入ができ、当日の長い列に並ばずにスムーズに入場できます。購入したEチケットはスマートフォンで表示するか、印刷して持参してください。
聖ヴィート大聖堂の壮麗なステンドグラス:光と色彩の芸術に心奪われる
プラハ城の敷地内でひときわ高く聳え立ち、どこからでもその姿が見えるのが聖ヴィート大聖堂です。チェコで最も重要視されるゴシック様式のこの教会は、着工から完成まで約600年もの歳月がかかりました。その外観に施された緻密な彫刻や堂々たる規模も圧倒的ですが、一歩内部へ足を踏み入れた瞬間の感動は言葉に尽くせません。
高く果てしなく感じられる天井。厳粛な空気に包まれた空間。そして、壁面を覆うステンドグラスから注ぐ色鮮やかな光のシャワー。それはまるで神の光が降り注いでいるかのような神秘的な光景です。数あるステンドグラスの中でも、私が最も感銘を受けたのが、アール・ヌーヴォーを代表する画家、アルフォンス・ミュシャ(チェコ語読みではムハ)が制作した「聖キリルと聖メトディウス」です。
ほかのステンドグラスとは一線を画す、ミュシャ独特の優雅な曲線と繊細な色使い。物語の一場面を切り取ったようなドラマチックな構図。太陽の光がガラスを透過し、床や柱に映す鮮やかな色彩はまるで命が吹き込まれたかのようでした。ファッションデザインにも通じる、洗練された色彩感覚と構成力にはただただため息が漏れます。このステンドグラスを見るためだけにプラハを訪れても価値があると自信を持って言えます。
大聖堂内は祈りの場であることを踏まえ、静かに見学しましょう。帽子は脱ぐのがマナーです。写真撮影は許可されていますが、フラッシュは禁じられています。美しく撮影するには、スマートフォンの場合はHDRモードをオンに、一眼レフカメラなら露出をややアンダー気味に設定すると白飛びを防ぎ、色彩が鮮明に捉えられます。
黄金小路の愛らしい家々と物語:まるでおとぎ話の世界
聖ヴィート大聖堂の荘厳な雰囲気とは対照的に、おもちゃ箱をひっくり返したような可愛らしい空気が漂うのが、城壁内にある「黄金小路(Zlatá ulička)」です。かつて城に仕える召使いや射手たちが住んでいたと伝わるこの通りには、小さな家々がカラフルにひしめき合うように並んでいます。
「黄金小路」という名称は、16世紀にこの場所で錬金術師たちが王のために金を生成しようと試みたという伝説に由来します。その真偽は不確かですが、神秘的な響きが小路の魅力を一層高めています。
この通りで特に有名なのは、水色の壁が目印の22番の家。作家フランツ・カフカは姉の家を仕事場として一時期使っており、現在はカフカ関連書籍を扱う小さな書店として営業しています。独創的な物語がこの小さな空間で生み出されたと考えると、感慨深いものがあります。
各家は当時の生活を再現した展示室や、鎧や武器の展示、ユニークなお土産店になっています。通路が狭いため、特に日中は観光客で混雑しがちです。ゆっくり見たいなら、比較的空いている朝一番か閉館間際の夕方を狙うのがおすすめです。大きな荷物はすれ違いが困難なので、ホテルに預けるか城内のロッカーを利用すると便利です。
城からの絶景を望む:百塔の街を見渡す特等席
高台に位置するプラハ城は、敷地の至る所がプラハの街並みを見渡せる絶好の展望スポットとなっています。特に南庭園や城の東門近くの展望台からの眺めは格別です。
眼下に広がるのは、オレンジから赤へと美しいグラデーションを描く屋根の波。そこを縫うようにヴルタヴァ川がゆったり流れ、カレル橋をはじめとした複数の橋が架かっています。そして街のあちこちから天高く伸びる緑青色の尖塔たち。「百塔の街」と称されるプラハの名が決して誇張でないことを実感させられます。
昼間の明るい光の中での景色も素晴らしいですが、夕暮れ時に街が黄金色に染まるマジックアワーは言葉を失うほどの美しさです。徐々に灯りが灯り、空の色が刻々と変化する様子を眺めていると、一日の喧騒が嘘のように心が穏やかになります。この絶景を心に刻む時間は、プラハ旅行の忘れがたいハイライトとなることでしょう。
アール・ヌーヴォーの華、芸術と文化に浸る

19世紀の終わりから20世紀の初めにかけてヨーロッパで流行した芸術様式、アール・ヌーヴォー。その特徴は、植物など自然をモチーフにした有機的な曲線美と、華麗で装飾的なデザインにあります。ここプラハは、ウィーンやパリと並んでアール・ヌーヴォーの一大中心地であり、その代表格となったのが、チェコが誇る芸術家アルフォンス・ミュシャ(ムハ)です。彼の繊細で優雅な作品は街の至るところで見られ、プラハの芸術散歩はまるでミュシャの世界を辿る旅のように感じられます。アパレルデザインのインスピレーション源ともなるこの様式に心から浸る時間は、私にとってまさに至福のひとときでした。
アルフォンス・ミュシャ(ムハ)の世界:美しい線と色彩の魔法
プラハを訪れたなら、ミュシャ美術館はぜひ立ち寄りたい名所です。旧市街から近くアクセスも便利。女優サラ・ベルナールのために制作した演劇ポスターで一躍パリの人気者となったミュシャですが、彼の心は終始故郷チェコにありました。美術館には彼の代名詞とも言えるポスター作品や装飾パネル、大作「スラヴ叙事詩」の習作など、祖国への愛情が込められた多くの作品が展示されています。
流れるような髪の動き、草花をあしらった衣装、夢見るような表情の女性像。ミュシャが描く女性たちは現代のファッションイラストや広告デザインにも大きな影響をもたらしています。彼の作品の前に立つと、その圧倒的なデザイン力と細部に宿る美的感覚に心奪われるでしょう。特に注目したいのが、文字のデザイン(タイポグラフィ)です。絵の一部として自然に溶け込み、作品全体の調和を生んでいる文字の処理はまさに天才的。美術館では日本語のオーディオガイドが利用可能なので、ぜひ活用してみてください。作品に込められた背景やミュシャの想いを知ることで、鑑賞体験がさらに豊かなものになります。
チケットは現地の窓口で購入でき、規模はそれほど大きくないため、1時間から1時間半ほどで見て回れます。併設のミュージアムショップはミュシャファンにはたまらない場所。ポスターやポストカードはもちろん、スカーフやアクセサリー、食器など、彼のデザインをあしらったおしゃれなグッズが充実しており、お土産探しにも最適です。
市民会館の華やかな空間:アール・ヌーヴォー建築の集大成
プラハのアール・ヌーヴォー建築の最高傑作として知られるのが、旧市街の入口に建つ市民会館(Obecní dům)です。外観は彫刻やモザイクで豪華絢爛に彩られ、見る者の目を奪いますが、その真の魅力は内部にこそあります。
一歩中に入ると、まるで別世界に迷い込んだかのよう。曲線を描く階段、優雅なシャンデリア、ステンドグラスの窓。建物の隅々までアール・ヌーヴォーの精華を集めた装飾が施されています。この建築はミュシャをはじめとする当時の一流アーティストたちが総力を注いで作り上げた、まさに芸術の殿堂と呼ぶにふさわしい場所です。
内部見学は基本的にガイドツアーに参加するのが一般的。ツアーは主にチェコ語と英語で行われますが、言葉が分からなくてもその空間に身を置くだけで圧倒されます。特に見逃せないのが、ミュシャが内装全体を手がけた「市長の間」。壁画や照明、カーテンのデザインに至るまで、ミュシャの美学が凝縮されたこの空間は見る者の息をのませる美しさを誇ります。ツアーのスケジュールや予約は公式サイトで事前に確認し、人気の回は早めの予約が推奨されます。
市民会館内には、コンサートホール「スメタナ・ホール」のほか、カフェやレストランもあります。特に1階のカフェ「カヴァールナ・オベツニー・ドゥーム」は高い天井と大きな窓が開放感を演出し、古き良き時代の趣を残す空間。芸術鑑賞の合間に、優雅な雰囲気の中でコーヒーとケーキを楽しむのは旅の素敵な思い出になるでしょう。訪れる際は少しだけお洒落をしていくのがおすすめです。厳しいドレスコードはありませんが、Tシャツや短パンなどカジュアルすぎる服装は控えた方が、施設の雰囲気をより楽しめるでしょう。
街角で出会うアール・ヌーヴォー:建築散策の楽しみ
プラハの街歩きの醍醐味は、有名な美術館や建築物を訪れるだけにとどまりません。注意深く周囲を観察してみると、どこにでもある普通の通りに、アール・ヌーヴォー様式の美しい建物が点在していることに気付くでしょう。
ヴァーツラフ広場に面した「グランド・ホテル・エウロパ」はその代表例。緑と金色の華麗な装飾が施されたファサードは、今なお輝きを保っています。現在は改装のため閉鎖中ですが、その美しい外観を眺めるだけでも価値があります。
その他にも、建物の入り口にある鉄製の装飾や窓枠のデザイン、壁に描かれた女性像など、思いがけない場所でアール・ヌーヴォーの意匠に出合うことがしばしばあります。それはまるで街全体が舞台の宝探しのよう。観光案内所で建築マップを入手し、テーマを決めて散策すると一層楽しくなるでしょう。ぜひお気に入りの「街角アール・ヌーヴォー」を見つけて、写真に収めてみてはいかがでしょうか。
五感を満たす、チェコならではの美食と音楽
旅の醍醐味とは、その土地独自の食文化や風習に触れることにあります。プラハは、視覚や聴覚を楽しませるだけでなく、私たちの味覚や心までも満たしてくれる魅力にあふれた街です。素朴で温かみのある伝統料理、世界一のビール消費量を誇る絶品のビール、そして街中に響き渡るクラシック音楽の美しい調べ。歴史と芸術が息づくこの街で過ごす夜は、五感を存分に使って楽しむのがプラハ流の過ごし方と言えるでしょう。
伝統的なチェコ料理の魅力:素朴で味わい深い大地の恵み
チェコ料理と言われても、ピンとこない方もいるかもしれません。しかし実際には、日本人の口にも合う美味しくてボリュームのある料理が数多くあります。肉料理が中心で、煮込み料理が特に多いのが特徴です。
まずぜひ試してほしいのが「グラーシュ」。牛肉をパプリカなどでじっくり煮込んだシチューで、ハンガリーのグヤーシュに起源を持ちますが、チェコ版はよりとろみがあり、濃厚な味わいです。これに欠かせないのが、チェコ料理の定番付け合わせ「クネドリーキ」。小麦粉やじゃがいもで作られた蒸しパンのようなもので、もちもちした食感がソースによく絡みます。
もう一つの代表的な料理として「スヴィチュコヴァー」があります。柔らかく煮込んだ牛フィレ肉に、野菜と生クリームから作った甘酸っぱいソースをかける、やや意外な組み合わせです。クランベリージャムとホイップクリームが添えられており、この酸味と甘みが濃厚なソースのアクセントとなり、絶妙なハーモニーを生み出します。見た目よりもさっぱりと食べられ、チェコの人々に愛される一皿です。
そして、チェコと言えば絶対に外せないのがビールです。国民一人当たりのビール消費量は世界トップであり、正真正銘のビール大国。日本でもよく知られているピルスナースタイルのビールの発祥地であり、本場の「ピルスナー・ウルケル」は格別のフレッシュさを誇ります。プラハには「ピヴニツェ」や「ホスポダ」と呼ばれるビアホールがあちこちにあり、昼間から地元民がジョッキを傾ける光景が見られます。私も創業500年以上の歴史を持つ「ウ・フレクー」で名物の黒ビールを味わいました。濃厚でコクがありながら後味はすっきりとしていて、旅の疲れも一気に吹き飛ぶ美味しさでした。
レストラン選びでは、観光客向けの派手な看板の店よりも、少し路地裏にある地元の人で賑わう店が狙い目です。人気店は予約を要することも多いため、ホテルのコンシェルジュに依頼するか、ウェブサイトでの予約を事前に済ませておくと安心です。チェコではチップの習慣があり、会計の約10%を上乗せして支払うのが一般的です。カードで支払う場合はチップ込みの金額を伝えるか、現金でテーブルに置くのがスマートなマナーです。
街角のスイーツとカフェ文化:甘く心地よいひととき
プラハを歩いていると、ふわっと漂う甘く香ばしい香りに引き寄せられることがあります。それが名物スイーツの「トゥルデルニーク」です。棒状の道具にパン生地を巻きつけ、回転させながら焼き上げた後、砂糖やシナモン、ナッツをまぶした「煙突パン」とも呼ばれる菓子です。外はカリっと、中はもちもちの食感で、歩きながら楽しむのにぴったり。最近ではソフトクリームやチョコレートを包み込んだ豪華なアレンジも人気を集めています。
美味しい食事の後は、歴史あるカフェでゆったりとくつろぐのもおすすめです。プラハにはかつて多くの文化人や芸術家が集った伝統的なカフェがいくつも現存します。国民劇場の向かいに位置する「カフェ・スラヴィア」は、窓からカレル橋とプラハ城を一望できる絶好のロケーション。カフカやアインシュタインも常連だった「カフェ・ルーヴル」は、アール・ヌーヴォー様式の優雅な内装が魅力的です。こうしたカフェでは、美味しいコーヒーやケーキとともに、プラハが育んできた知的文化の香りを感じ取ることができます。チェコのカフェでは日本のように長時間席を占有しても問題ないことが多いため、読書や旅の計画を練るなど、それぞれのペースで心地よい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
クラシック音楽に浸る夜:本場で味わう珠玉の旋律
スメタナの「わが祖国」、ドヴォルザークの「新世界より」などで知られるチェコは、世界に名だたる音楽家を数多く輩出した音楽の国でもあります。プラハでは毎晩、市内の教会やコンサートホールでクラシックコンサートが開催されており、気軽に本場の演奏を楽しむことが可能です。
特に旧市街広場そばの聖ミクラーシュ教会や、市民会館のスメタナ・ホールでの演奏は、その荘厳な空間も手伝って格別の感動を味わえます。教会の高い天井に響きわたるパイプオルガンの音色は、心の奥底に響き渡るような感銘を与えてくれます。
チケットは街角で声をかけてくる売り子もいますが、トラブルを避けるためには公式チケットオフィスや信頼できるウェブサイトからの購入を強くおすすめします。チェコ政府観光局のウェブサイトでも最新のイベント情報を確認できます。服装は、オペラや格式の高いホールでなければスマートカジュアルで十分です。ジーンズやスニーカーでも問題ないことが多いですが、少しお洒落をして訪れると、より特別な夜を演出できるでしょう。開演に遅れると入場できない場合もあるため、時間に余裕を持って会場へ向かうことを心がけてください。
プラハ旅行を計画するあなたへ
さて、プラハの4つの魅力をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。この美しい街に対して旅心が刺激されたあなたに向けて、最後に、より快適で安全な旅を実現するための具体的な情報をお伝えします。少しの準備と知識があれば、あなたの旅は忘れられない素晴らしい思い出になることでしょう。
プラハの基本情報と準備
通貨と両替
チェコの通貨はチェコ・コルナ(CZK)です。ユーロも一部で利用可能ですが、為替レートが悪かったり、お釣りがコルナで返ってきたりすることが多いため、基本的にはコルナを用意するのがおすすめです。空港や駅、観光地の中心にある両替所はレートが悪いことが多いので避けましょう。たとえ「0% commission」と謳っていても、非常に悪いレートを適用されることがありますので注意が必要です。街中の信頼できる両替所を利用するか、ATMでクレジットカードを使って現地通貨を引き出す方法が手軽で安心です。レストランや大手店舗ではクレジットカードが広く使えますが、小さな店や市場では現金のみのこともあるので、ある程度の現金を持ち歩くと便利です。
公共交通機関
プラハ市内の移動には、トラム(路面電車)や地下鉄が非常に便利です。チケットは時間制で、30分券、90分券、24時間券などさまざまな種類があります。当日の予定に応じて選ぶと良いでしょう。チケットは駅の券売機やタバコ屋(Tabák)などで購入可能です。最も重要なのは、乗車前に必ずチケットを刻印(バリデーション)すること。黄色い刻印機にチケットを差し込み、日時を打刻してください。これを怠って乗車し、検札官に見つかると高額な罰金が科せられます。「知らなかった」は通用しませんので十分にご注意ください。一度刻印すれば、有効時間内はトラム、地下鉄、バスに自由に乗り降りできます。プラハ公共交通会社の公式サイトで最新の料金や路線図を確認できます。
準備・持ち物リスト
- 歩きやすい靴: 石畳の道が多いため、快適な履物は必須です。
- 変換プラグ: チェコの電源プラグはCタイプまたはSEタイプです。
- 羽織るもの: 夏でも朝晩は肌寒く、教会内は冷えることがあるので、カーディガンやストールがあると便利です。
- エコバッグ: スーパーのレジ袋は有料なので、持参すると役立ちます。
- スリ対策グッズ: セキュリティポーチやワイヤーロックなど、安全対策を万全に。
- ウェットティッシュ・除菌ジェル: 屋台の食事を楽しむ際などに重宝します。
安全に旅するためのヒント
プラハはヨーロッパの中でも比較的安全な都市ですが、観光客を狙ったスリや置き引きは頻発しています。特に以下の場所では十分な注意が必要です。
- カレル橋の上
- 旧市街広場の天文時計前(特に仕掛けの動作時間帯)
- 混雑したトラムや地下鉄の車内
- ヴァーツラフ広場
これらのエリアでは、バッグは必ず体の前で抱えるようにし、ファスナーは常に閉めておきましょう。リュックサックは特に狙われやすいため、人混みでは前に抱えるのが基本です。レストランで椅子にバッグをかけたり、足元に置いたりするのも危険です。常に目の届く場所、膝の上に置く習慣をつけてください。また、親しげに話しかけて注意をそらし、その隙に仲間が盗む集団スリの手口もあります。知らない人に話しかけられた際は、まずは貴重品に注意を払いましょう。
万が一パスポートを盗まれるなどトラブルに遭った場合は、最寄りの警察署で盗難証明書(ポリスレポート)を発行してもらい、その後、在チェコ日本国大使館に連絡してパスポートの再発行や「帰国のための渡航書」の発行手続きを行ってください。こうした不測の事態に備え、海外旅行保険には必ず加入しましょう。クレジットカード付帯の保険だけでなく、治療費や携行品損害を十分にカバーする保険を選ぶことを強くおすすめします。
旅の終わりに
歴史を刻む石畳の道、空に伸びる数多の尖塔、ヴルタヴァ川の穏やかな流れ。そして街中に満ちる芸術と音楽の香り。プラハは、訪れる人の五感すべてに訴えかける、不思議な魅力あふれる都市です。
この記事で、プラハの魔法が少しでもあなたの心に届いていれば幸いです。細かく計画を立てる旅も素晴らしいですが、時には地図をしまい、心のコンパスに従って歩いてみてください。きっと、ガイドブックには載っていない、あなただけの特別なプラハと出会えるはずです。さあ、次はあなたの番です。美しい古都で、心を揺さぶる体験があなたを待っています。

