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ベトナムのウイスキーとスピリッツ:歴史を紐解き未来を味わう

熱帯の風が肌を撫で、街路樹の葉がざわめく音と無数のバイクが織りなす喧騒。ベトナムと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、芳醇な香りのフォー、濃厚で甘いベトナムコーヒー、そして喉を潤す爽快なビールではないでしょうか。確かに、それらはベトナムの食文化を代表する紛れもない主役たちです。しかし、この国の奥深く、喧騒の影で静かに熟成の時を待つ、琥珀色の物語があることをご存知でしょうか。それは、ベトナムにおけるウイスキー、そしてその魂の源流ともいえるスピリッツの歴史です。フランス植民地時代の残り香から、戦争の傷跡、そして経済成長の熱気まで、この国の近現代史そのものを映し出すかのような蒸留酒の世界。今回は、食品商社に籍を置き、世界の食と酒を追い求めてきた私が、ベトナムという国が秘める、まだあまり語られていないウイスキーの物語へと皆様をご案内します。伝統的な米の蒸留酒が遂げた革新、そして今まさに産声を上げようとしているクラフトウイスキーの胎動。この旅は、単なる知識の探求ではありません。実際にあなたがベトナムを訪れた際に、その一滴を味わい、歴史を感じ、未来を垣間見るための実践的なガイドでもあります。さあ、グラスを片手に、時を遡る旅に出かけましょう。まずは、現代ベトナムのスピリッツ文化が花開く、熱気あふれるホーチミン市の中心部から、この物語を始めたいと思います。

ベトナムの食文化をより深く探求したい方は、ベトナム南部地方都市を巡る美食と探求の旅もご覧ください。

目次

序章:フランスの香り、ベトナムに芽吹いた洋酒文化

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ベトナムのウイスキーの歴史を語る際に、避けては通れないのがフランスの植民地時代です。19世紀後半にフランスが支配を始めると、食文化に大きな変化の波が押し寄せました。現在ベトナムの生活に深く根付いているバゲットやパテ、コーヒーといった食文化と並んで、西洋のアルコール文化、つまりワインやブランデー、そしてウイスキーも持ち込まれました。これが、ベトナムにおける西洋式蒸留酒の歴史の幕開けとなったのです。

植民地時代と西洋文化の浸透

当時のサイゴン(現在のホーチミン市)は「東洋のパリ」と称され、フランス建築が美しい街並みを彩っていました。オペラハウスが建ち、街の中心には洒落たカフェやレストラン、高級ホテルが軒を連ねていました。こうした華やかな社交の場で、フランス人の支配階級やベトナムの上流社会が楽しんでいたのが、輸入された洋酒でした。特にウイスキーは、その深い味わいと希少性から富と権力の象徴とされていたに違いありません。彼らはコロニアル様式のホテルのバーで、ゆっくりと氷が溶ける音に耳を傾けながら、スコットランドから長い船旅を経て運ばれてきた琥珀色の一滴を味わっていたのです。

もちろん、これは一部の特権階級に限られた話でした。大多数のベトナム庶民にとって、ウイスキーは遠い異世界の飲み物であり、日常にあったのはもっと身近で土地に根付いたお酒でした。しかし、この時代に植え付けられた「ウイスキー=高級品」というイメージは、後のベトナムのウイスキー市場形成に少なからぬ影響を与えていきました。現在もサイゴンのグランドホテルやホテル・マジェスティックなどの歴史的ホテルのバーに立つと、かつてのブルジョワ層の談笑が聞こえてくるような錯覚にとらわれます。彼らのグラスに注がれていたであろう輸入ウイスキーは、この国の蒸留酒文化の原点のひとつであったことは間違いありません。

伝統蒸留酒「ルオウ」との融合点

一方、ベトナムにはフランス人到来以前から独自の蒸留酒文化が確立していました。それが「ルオウ(Rượu)」と呼ばれる、主に米を原料とする伝統的な蒸留酒です。北部の山岳から南部のメコンデルタまで、地域によって製法や味わいに多様な特色があり、冠婚葬祭や日常の晩酌で人々の生活に深く根付いていました。特に「ルオウ・デ」や「ルオウ・ガオ」として知られる米蒸留酒は、日本の焼酎や泡盛に通じるもので、アジアの稲作文化が育んだ知恵の結晶といえるでしょう。

フランス人がもたらしたウイスキーとベトナム古来のルオウ。この二つの蒸留酒は、植民地時代においては交わることなく、それぞれ独自の道を歩んでいました。ウイスキーは都市の洗練された社交場で楽しまれ、一方でルオウは農村の共同体や庶民の生活の中で人々の絆を深める役割を果たしていたのです。西洋の蒸留技術がルオウの製造法に直接的な影響を与えたという記録はほとんど見られません。これは、ウイスキーが支配者の酒であり、ルオウが庶民の酒という明確な文化的棲み分けがあったためかもしれません。

しかし、この邂逅は後の時代にベトナム独自のスピリッツが発展するための無形の土壌となった可能性があります。西洋の「樽で熟成させ香味を豊かにする」というウイスキーの概念と、ベトナムの「米という身近な穀物から味わいを引き出す」伝統が、長い年月を経て現代のベトナムで新しい化学反応を生み出し始めているのです。植民地時代は、直接的な技術交流は少なかったものの、ベトナムの人々の心に「ウイスキー」という一つの基準や憧れの対象を植え付け、その歴史の第一章を彩る時代だったと言えるでしょう。

激動の時代を越えて:戦争、統一、そしてドイモイ政策

フランスの支配が終わると、ベトナムはさらなる激動の時代へと突入しました。第一次インドシナ戦争に続き、ベトナム戦争が勃発。長期間にわたる戦火は、国土だけでなく人々の生活や文化にも深い傷跡を残しました。かつて華やかだったサイゴンの社交界も変貌を遂げ、ウイスキーを取り巻く環境も大きく揺れ動くこととなります。

戦火と停滞の時代

ベトナム戦争の期間、南ベトナムには多くのアメリカ兵が駐留していました。彼らがもたらしたのは、スコッチウイスキーとは異なるアメリカの文化です。その代表的な存在が、バーボンやライといったアメリカンウイスキーでした。サイゴンのバーでは、兵士たちが故郷を懐かしみつつ、あるいは束の間の安息を求め、グラスを傾ける姿が日常的に見られました。この時期、アメリカンウイスキーは戦争という非日常の中で、ある種の大衆的な広がりを見せていたと言えるでしょう。

しかし、1975年のサイゴン陥落と南北統一後、ベトナムは社会主義国家として歩み始めます。戦後の復興と国家建設が最優先課題となる中、ウイスキーのような輸入高級品は「ブルジョワ的な贅沢品」とみなされ、市場から姿を消しました。統一後しばらくの間は、経済的な困窮と物資不足も重なり、洋酒文化は長い停滞期に突入。人々の関心は日々の生計に向けられ、琥珀色の液体がもたらす豊かさに思いを馳せる余裕はありませんでした。この時代、ベトナムの蒸留酒の主役は再び伝統的なルオウとなり、庶民のささやかな楽しみを支えていたのです。

ドイモイ政策が開いた新たな扉

そんな長い暗闇に光明が差し込んだのが、1986年に採択された「ドイモイ(刷新)政策」でした。計画経済から市場経済への大転換は、ベトナム社会のあらゆる面に劇的な変化をもたらしました。外国からの投資が積極的に受け入れられ、人々の生活水準も徐々に向上していきます。

この経済発展の波に乗り、ウイスキー市場も再び活気を取り戻します。外資系企業の進出や輸入規制の緩和により、かつては特権階級の飲み物であったスコッチウイスキーが再びベトナム市場に姿を現しました。ジョニーウォーカー、シーバスリーガル、バランタインといった有名なブレンデッドスコッチブランドが、新たに台頭した富裕層や中間層の間で人気を集め始めます。特にビジネスの場での接待や、大切な相手への贈り物としての需要が急速に高まりました。

ベトナムでは、年間で最も重要な祝祭である旧正月「テト」の際に、感謝の気持ちを込めて贈り物を贈る習慣があります。その贈答品のなかでも、高級ウイスキーは瞬く間に定番となりました。美しい箱に収められた著名ブランドのウイスキーは、成功と尊敬の象徴となっています。ドイモイ政策による経済成長は、ウイスキーに新たな社会的価値を与え、ベトナム市場に確かな根ざしをもたらしたのです。この時期に形成された「ウイスキー=ステータス」というイメージは、現在のベトナムにおけるウイスキー文化の礎となっています。戦争の時代を経験したウイスキーは、再びではありますが以前とは異なる姿で、ベトナム社会にその存在を示すようになったのです。

北部の大地から生まれる米の魂:ハノイと伝統スピリッツの革新

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ベトナムのウイスキーの歴史を語る際、多くの人は経済の中心地である南部のホーチミン市に注目しがちです。しかし、この国のスピリッツ文化の核心、つまりその魂のふるさとは、むしろ政治や文化の中心である北部のハノイとその近隣地域にあるのかもしれません。ここには長い年月をかけて伝承されてきた米の蒸留酒「ルオウ」の伝統が色濃く息づいており、近年ではその伝統を現代的な手法で進化させようという、静かながらも力強い動きが芽生えています。

伝統酒「ルオウ・デ」の現状

ハノイの旧市街地を散策すると、小さな食堂の前に透明な液体が入った大きなガラス瓶が置かれているのをよく見かけます。その中には蛇や高麗人参、さまざまなハーブが漬け込まれていることもあります。これこそが庶民の酒として親しまれている「ルオウ・デ」です。米を原料とし、多くは小規模な家族経営の工房や、場合によっては家庭内で手作りされるこの蒸留酒は、北部の食文化に欠かせない存在となっています。

その製造法は非常に伝統的で、蒸した米に「メン・ルオウ」と呼ばれる餅麹を加えることで糖化・発酵を行い、シンプルな単式蒸留器によって蒸留されます。出来たスピリッツは荒々しいながらも、米特有の甘みと旨みがしっかりと感じられ、アルコール度数が40度を超えるものも珍しくありません。ハノイの名物である豚焼肉つけ麺「ブンチャー」や雷魚の油鍋「チャーカーラボン」など脂っこい料理との相性は抜群で、地元の人々は小さな杯を交わしながら食事と会話を楽しみます。

しかし、こうした伝統的なルオウ・デには幾つかの課題も存在しました。品質が安定せず、不純物が多く含まれていることから二日酔いの原因になる場合も少なくありませんでした。そのため、長い間「安価だが洗練されていない酒」という印象がつきまとっていました。ウイスキーのような国際的な評価基準とは無縁の存在で、あくまでも地域に根付いた飲み物として今日まで存続してきたのです。

プレミアムスピリッツ「Sơn Tinh」の挑戦

そんな伝統的なルオウの世界に革命をもたらしたのが、「Sơn Tinh(ソンティン)」というブランドです。2002年にハノイでスイス人のオーナーが設立したこの蒸留所は、「ベトナムの伝統的な米蒸留酒を世界水準のプレミアムスピリッツへ昇華させる」という野心的なビジョンを掲げました。

彼らの手法は、伝統を敬いながらも現代的な品質管理を徹底的に取り入れる点に特徴があります。原料の米は、香り高い最高級ジャスミン米や北部山岳地帯の古代米など、厳選されたものだけを使用。発酵には30種類以上のハーブやスパイスで作られた秘伝の餅麹を用い、複雑で豊かな香味の基盤を築いています。そして蒸留はドイツ製の最新鋭銅製ポットスチルで行い、ヘッドやテールを丁寧にカットすることで、クリアで洗練された味わいのスピリッツが生み出されるのです。

Sơn Tinhのすごさは、単に高品質なルオウを作り出したことに留まりません。彼らはウイスキーの常識である「熟成」というプロセスを、ベトナムの米スピリッツに本格的に導入しました。輸入したアメリカンオーク樽で数年間熟成させた「Sơn Tinh Nếp Cẩm」は、米由来の甘みと樽由来のバニラやスパイスの香りが見事に調和した、まさに「ライス・ウイスキー」と呼ぶにふさわしい逸品です。これにより、ベトナムのスピリッツが単なる地酒から、世界中のウイスキーファンをも唸らせる可能性を秘めた存在へと成長できることを証明したのです。

Sơn Tinhの登場は、ベトナムのスピリッツ史において一つの大きな転機となりました。スコットランドや日本が自国の穀物と伝統を胸に世界的品質を追求したように、ベトナムも同じ道を歩み始めたのです。厳密にはウイスキー(大麦麦芽を主原料とするもの)ではありませんが、その精神性と味わいは、ベトナムにおける「ウイスキー的なもの」の歴史を語る上で、欠かせない重要なページとなっています。

南部の熱気が育むクラフトの夜明け:ホーチミンと未来のベトナムウイスキー

北部のハノイが伝統と革新を静かに融合させる「静」の都市であるのに対し、南部のホーチミン市は経済の活気を背景に新たな文化を生み出す「動」の都市といえます。世界的に広がるクラフトスピリッツの潮流は、このエネルギッシュな都市にも確実に波及しており、ベトナムのウイスキーの未来を予感させる刺激的な動きが始まっています。まだ道のりは始まったばかりですが、この地には無限の可能性が秘められています。

クラフト蒸留所の誕生

近年、ホーチミン市およびその周辺では、小規模ながらも強いこだわりを持つクラフト蒸留所が次々と立ち上がりつつあります。多くは比較的短期間で製造できるジンやラムから事業を始めています。たとえば、ベトナム独自のボタニカル(カルダモンやシナモン、柑橘類など)をふんだんに用いたクラフトジンは、国内外で高い評価を受け、同市のバーシーンを席巻しています。

このようなクラフト蒸留所の動きは、将来的なベトナム産ウイスキーの基盤づくりとして非常に重要です。彼らは良質な原料選び、緻密な発酵・蒸留の制御、そして「ベトナムらしさ」を追求する情熱を日々積み重ねています。ジンで成功を手にした蒸留家たちが、次の挑戦として手間と時間がかかるウイスキー造りに挑むのも自然な流れと言えるでしょう。

しかし、ベトナムでウイスキー製造を行ううえで特有の課題も存在します。そのひとつが気候です。年間を通じて高温多湿なベトナムの気候は、ウイスキーの熟成過程に大きな影響を与えます。スコットランドのような涼しい環境では樽内のウイスキーは年間約2%蒸発するのに対し、熱帯に位置するベトナムではその割合が年に10%を超えることも珍しくありません。これは熟成が非常に速く進むことを意味し、短期間でスコットランドの10年や12年物に匹敵する熟成感を得る可能性があるのです。この「トロピカルエイジング」には、迅速に個性的なウイスキーを生み出せる利点がある一方、熟成の管理が非常に難しく、過剰な樽成分が出てしまうと渋みやえぐみが目立つリスクも伴います。この亜熱帯気候をうまく活かすことが、ベトナム産ウイスキーの成功を左右する重要なポイントといえるでしょう。

ベトナム初のシングルモルトウイスキーの展望

現状、商業的に広く流通している「ベトナム産シングルモルトウイスキー」はまだ存在していないといってよいでしょう。その実現にはいくつかの課題があります。最大の壁は原料の調達です。ウイスキーの主原料である大麦は、ベトナムの気候では育成が難しく、多くを輸入に依存せざるを得ません。これがコスト面での大きなハンディキャップとなります。

とはいえ悲観する必要はありません。台湾のカバラン蒸留所やインドのアムルット蒸留所が、同じ熱帯・亜熱帯の気候条件を乗り越え世界的に評価されるウイスキーを生み出したように、ベトナムにも独自の道が拓けるはずです。たとえば輸入した大麦麦芽を使いつつ、ベトナム特有の酵母で発酵工程を行い、先述のトロピカルエイジングを巧みに調整することによって、唯一無二の個性を持つウイスキーが生まれる可能性があります。

さらに夢が広がるのは、フィニッシュ(後熟)に用いる樽の選択肢です。ベトナムは世界有数のカカオ産地であり、高品質なラム酒も製造されています。たとえば、ベトナム産ラムの熟成に使われた樽や、カカオニブを浸した樽を使用してウイスキーに後熟を施せば、チョコレートやトロピカルフルーツを思わせる甘くエキゾチックな風味を持つ、新しいタイプのウイスキーが誕生するかもしれません。また、ダラット高原産の良質なアラビカ種コーヒー豆の樽を活用するアイデアも考えられます。こうしたベトナムの豊かな農産物を活かしてウイスキー造りを行うことは、単なる模倣を越えた真の「ベトナム産ウイスキー」の誕生を意味します。

南部の熱気が育むクラフト蒸留所の夜明けは、まだ始まったばかりです。しかし、その一滴一滴には、この国の未来と無限の可能性が込められているのです。私たちウイスキー愛好家は、歴史的な瞬間の目撃者となるかもしれません。

旅人のための実践ガイド:ベトナムでウイスキー(とスピリッツ)を愉しむ

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これまでベトナムのウイスキーやスピリッツの歴史と未来を紐解いてきました。ここからは、実際にベトナムを訪れた際に、その文化を存分に楽しむための具体的な方法をご案内します。この記事を読めば、単なる観光とは一味違う、「酒好き」ならではの深い旅が実現できるでしょう。準備からトラブル対処まで、これひとつで安心の実用ガイドです。

ベトナム産スピリッツの購入と持ち帰りのポイント

旅の思い出や日本への個性的なお土産として、ベトナム産スピリッツは最適な選択肢です。特にハノイの「Sơn Tinh」は、高品質で美しいボトルデザインが人気で、贈り物としても喜ばれます。

購入可能な場所

  • 空港の免税店: ハノイのノイバイ国際空港やホーチミン市のタンソンニャット国際空港の免税店では、Sơn Tinhをはじめとしたベトナム製のスピリッツが手に入ることがあります。帰国直前に購入できる手軽さが魅力です。
  • 大型スーパーマーケット: Co.opmart、Big C(現在はGO!)、Lotte Martなどの大手スーパーの酒売り場では、国内外の多様なお酒が揃っています。輸入ウイスキーはもちろん、地元のルオウやSơn Tinhも見つかることがあり、価格も比較的手頃です。
  • 専門酒販店: ホーチミンやハノイの中心部には、ワインやスピリッツを専門に扱うリカーショップが数多くあります。品数が豊富で、スタッフに相談しながら選べるのがメリットです。Googleマップで「liquor store」や「wine shop」と検索してみましょう。
  • 蒸留所直営店や提携レストラン: Sơn Tinhはハノイにフラッグシップショップを構えているほか、多くのレストランやバーでも取り扱われています。公式サイトで販売店一覧を確認するのが確実です。

日本への持ち込み(免税範囲)と注意事項

ベトナムで購入したお酒を日本に持ち帰る際には、規則を守ることが重要です。知らないと空港で予期せぬ税金を請求されたり、最悪の場合没収されたりする恐れがあるため、しっかり把握しておきましょう。

  • 免税範囲: 海外から持ち込める酒類の免税範囲は、1本あたり約760mlのものを3本までとなっています。4本以上持ち込む場合は、税関で申告して所定の関税を納める必要があります。ウイスキーの場合、1リットルあたり数百円程度の税金がかかりますが、銘柄やアルコール度数によって異なります。
  • 梱包と輸送: 購入したボトルは液体物の機内持ち込み制限(1容器100ml以下)に該当するため、必ずスーツケースなどに入れて預け荷物にしてください。破損防止のため、衣類で多重に包んだり気泡緩衝材(プチプチ)などを使用すると安心です。酒店によっては海外配送向けの梱包サービスを提供していることもあります。
  • 申告: 免税範囲を超える酒類を持ち込む場合は、日本の空港到着時に税関申告書の該当欄に正直にチェックを入れ、税関職員に報告しましょう。隠そうとするとペナルティの対象となるため絶対に避けてください。

ベトナムのウイスキーバー:予約や楽しみ方のコツ

ベトナムの夜を満喫するなら、洗練されたウイスキーバーの訪問がおすすめです。特にホーチミンには世界水準のバーが多く集まっています。

ドレスコードと予約方法

  • 服装の目安: 高級ホテル内バーや隠れ家的スピークイージーでは、スマートカジュアルが基本です。男性は襟付きシャツに長ズボン、女性はワンピースやブラウスがおすすめです。タンクトップや短パン、サンダルなどのカジュアルすぎる服装は入店を断られることがあるため注意しましょう。迷う場合は、ややおしゃれを意識するのが無難です。
  • 予約の仕方: 人気店は週末に満席になることも多いため、事前予約が安心です。多くのバーにはFacebookページがあり、メッセンジャーで簡単に予約できます。また電話予約も一般的です。以下のような簡単な英語で伝わります。
  • “Hello, I’d like to make a reservation for two people at 8 p.m. tonight. My name is [あなたの名前].”
  • (こんにちは、本日20時に2名で予約したいのですが。名前は[あなたの名前]です。)

注文時のポイントと楽しみ方

メニューには世界各国のウイスキーが並んでいますが、せっかくならベトナムならではの味わいを試してみましょう。バーテンダーに「Do you have any Vietnamese spirits?(ベトナム産のスピリッツはありますか?)」と尋ねてみてください。Sơn Tinhや地元のクラフトジンを紹介されることが多いです。それをストレートやロックで楽しむほか、オリジナルカクテルも素敵な体験です。「Please make a cocktail with this Vietnamese spirit. Something refreshing.(このベトナムのスピリッツで、さっぱりしたカクテルをお願いします)」とリクエストしてみましょう。プロのバーテンダーが期待以上の一杯を作ってくれます。

万が一の備え:トラブル対策

楽しい旅も、思わぬトラブルに見舞われることがあります。あらかじめ対処法を知っておけば、落ち着いて対応できるでしょう。

  • 商品の破損や誤購入: スーパーや酒店でお酒を買う際は、現地でボトルに割れやヒビがないか、ラベルや包装が間違っていないか必ずチェックしましょう。ホテルに戻ってから発覚した場合は、購入時のレシートを持参して購入店にすぐ戻り、交換を申し出てください。言葉に不安がある場合はホテルスタッフに相談し、電話での説明を代わりにしてもらうとスムーズです。
  • バーでの会計トラブル: 注文前にメニューの価格を確認し、支払い時には必ず明細を受け取り内容をチェックしましょう。もし注文していない品が含まれていたり、金額に誤りがあれば、その場で丁寧に指摘してください。英語で「Excuse me, I think there is a mistake on the bill.(すみません、会計に間違いがあるようです)」と言えば対応してくれます。
  • 体調不良や飲み過ぎ: 慣れない環境での飲酒は控えめに。特にベトナムの暑さでアルコールがまわりやすいため、水分補給をしっかり行い、無理なく楽しみましょう。もし急性アルコール中毒や体調不良になった際は、速やかに医療機関を受診してください。海外旅行保険への加入は必須であり、クレジットカード付帯保険だけでなく補償内容が充実したものへの加入を強く推奨します。緊急時には日本語対応可能な病院の紹介も受けられます。
  • 公式窓口への連絡: 盗難や重大なトラブルに遭った場合は、現地警察に届け出ると同時に、在ベトナム日本国大使館(ハノイ)在ホーチミン日本国総領事館へ連絡してください。彼らは手続きの助言や邦人保護のサポートを行っています。出発前に連絡先を控えておくと安心です。

未来を映す琥珀色の一滴:ベトナムウイスキーの展望

フランス植民地時代に持ち込まれた西洋への憧れから始まり、戦争と停滞の時期を経てドイモイ政策による市場の復興へと進展しました。北部の伝統的な米を原料としたスピリッツは目覚ましい進化を遂げ、一方で南部ではクラフトウイスキーが熱気の中で誕生しつつあります。ベトナムのウイスキーをめぐる物語は、まさにこの国の近現代史を映し出す鏡のような存在です。

現在、ベトナムのウイスキー文化は確実に黎明期を迎えています。まだ世界を驚かせるようなシングルモルトは登場していませんが、その可能性は計り知れません。Sơn Tinhが示した通り、ベトナムの豊かな米文化と伝統的な発酵や蒸留技術は、世界に誇るべき独特なスピリッツを生み出す力を秘めています。加えて、ホーチミンの若い蒸留家たちは、世界的なトレンドとベトナム独自の素材を融合させ、全く新たな価値創造に情熱を燃やしています。

私が特に注目しているのは、「トロピカルエイジング」の可能性です。高温多湿の気候が促す急速な熟成により、ベトナム産ウイスキーは他国のどのウイスキーにもない、凝縮された果実味や複雑なスパイスの香りを持つことが期待されます。これは、スコットランドの長期間熟成に基づく歴史とは異なり、時間の概念を越えたまったく新しいウイスキーのあり方を生み出す可能性さえ秘めているのです。

ベトナム経済の成長は、国内のウイスキー市場の成熟をさらに促進するでしょう。消費者の知識が深まり、多様で質の高い製品が求められるようになれば、それが生産者の刺激となり、全体のレベルアップをもたらすに違いありません。いつか世界的なウイスキーコンペティションの場で、ベトナム産のシングルモルトが最高賞を獲得する日が必ず訪れると、私は強く信じています。

この旅の締めくくりに、ぜひ伝えたいことがあります。次にベトナムを訪れる際には、この国のスピリッツに目を向けてみてください。ハノイのレストランでSơn Tinhのロックを注文し、その滑らかで米の甘みあふれる味わいに驚いてください。ホーチミンの隠れ家的なバーで、バーテンダーにおすすめのベトナム産スピリッツを尋ね、その情熱に耳を傾けてみてください。単なるアルコールの摂取ではなく、激動の歴史を乗り越え、未来に向けて力強く成長を遂げるベトナムという国の魂に触れる体験となるはずです。琥珀色の一滴には、過去への敬意と未来への限りない希望が映し出されているのですから。

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この記事を書いたトラベルライター

食品商社で世界中の食を探求してきました。旅の目的は「その土地でいちばん美味い一皿」に出会うこと!市場や屋台でのグルメハントが得意です。

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