マレーシアのボルネオ島、サバ州。多くの旅人がコタキナバルの美しい海を目指してこの地を訪れますが、私はあえてそこから車を北東へ走らせることを強くお勧めしたい。目指すのは、東南アジア最高峰のキナバル山の麓に広がる、標高約1,500メートルの高原都市「クンダサン」です。食品商社に身を置き、世界中の「旨いもの」を追い求めてきた私にとって、このクンダサンは単なる避暑地ではありません。そこは、肥沃な火山性土壌と涼冷な気候が育む、マレーシア屈指の「食材の宝庫」なのです。
熱帯の熱気を脱ぎ捨て、曲がりくねった山道を登り切った先に現れるのは、霧に包まれた深い緑と、雄大なキナバル山の山影。そして驚くほど澄んだ空気です。この地は、その景観の美しさから「マレーシアのニュージーランド」とも称されます。しかし、食文化の深掘りを得意とする私に言わせれば、ここはニュージーランド以上の驚きに満ちています。現地の農家が丹精込めて育てる高原野菜、新鮮なミルク、そして先住民族カダザン・ドゥスン族に伝わる伝統的な肉料理。どれをとっても、コタキナバルの中心部では味わえない、力強くも繊細な命の味がするのです。
この記事では、クンダサンの魅力を余すことなくお伝えします。単なる観光名所の紹介に留まらず、実際に現地でどのように行動すべきか、どのような準備が必要か、そして何を食べ、何をお土産に選ぶべきか。私のこれまでの渡航経験と、食品流通のプロとしての視点を交えながら、12,000文字を超える圧倒的なボリュームでナビゲートしていきましょう。この記事を読み終えたとき、あなたの心はすでにボルネオの涼風を感じているはずです。
マレーシアの高原リゾートの魅力をもっと知りたい方は、霧に包まれた英国風の避暑地、フレーザーズ・ヒルについての記事もご覧ください。
クンダサンへの旅を成功させるための完璧な準備と持ち物リスト

クンダサンはマレーシアに属しながらも、まるで別世界のような独特な気候を持っています。赤道直下の国だからといって、Tシャツと短パンだけで訪れるのは非常に危険です。私が初めてクンダサンを訪れた際、軽装で挑み、夜の寒さに震え上がった苦い経験があります。プロのライターであり、旅慣れた商社マンとして、まずは失敗しないための準備方法をお伝えします。
まず何よりも気をつけたいのが「服装」です。クンダサンの日中の気温は20度から25度程度と快適ですが、日が暮れると急激に15度以下、時には10度近くまで冷え込みます。基本は「重ね着」が鉄則です。日中の観光には通気性の良い長袖シャツを選び、朝晩の寒さにはユニクロのウルトラライトダウンのような軽量な防寒具や、しっかりしたウィンドブレーカーが欠かせません。さらに、この地域の天候は非常に変わりやすく、突然霧が出たり雨に遭うことが頻繁です。折りたたみ傘よりも、両手を自由にできるレインコートやポンチョの携帯を強くお勧めします。靴は、デサ・デイリー・ファームのような牧場を歩く際に足元が濡れたり泥濘んだりすることが多いため、履き慣れたスニーカーや防水性のあるウォーキングシューズが最適です。
次に気をつけるべきは「紫外線対策」です。標高が高いことで気温は低くても紫外線は非常に強力です。涼しさに油断すると、知らぬ間にひどい日焼けをしてしまうことも。帽子やサングラス、高SPFの日焼け止めは必須のアイテムです。また、高原地帯は虫が少ないと誤解されがちですが、森に近い場所や夕暮れ時には蚊やブユが活動します。DEET配合の強力な虫よけスプレーを必ず持参しましょう。食品商社に勤める者としてのアドバイスですが、現地の市場で新鮮な果物を購入する際は、小さめのナイフ(預け入れ荷物に入れること)や除菌ウェットティッシュ、ジップロックを持っていくと、その場で清潔に旬の味覚を楽しめます。
また、薬品類にも触れておきます。コタキナバルからクンダサンまでの道は急勾配とカーブが続くため、車酔いしやすい人は酔い止め薬の服用を忘れないようにしてください。標高が高いため、軽い高山病の症状(頭痛や倦怠感)を感じる方も稀にいます。鎮痛剤や十分な経口補水液の準備も欠かせません。さらに意外と忘れがちなのが「現金」です。クンダサンの中心には数台のATMがありますが、故障や現金不足の可能性もあります。地元の市場や小さな食堂ではクレジットカードが使えないことも多いため、コタキナバルを出発する前に十分なリンギットの現金を用意しておくことが、トラブル回避の重要なポイントとなります。
クンダサンへのアクセス方法と行動の手順:レンタカーかチャーターか
クンダサンへ行くには、一般的にコタキナバルから陸路を使う方法が選ばれます。距離は約100キロ弱ですが、険しい山道を通るため、車での所要時間は2時間から2時間半ほどかかります。ここで多くの旅行者が悩むポイントは、「自分で運転するか(レンタカーを借りるか)、またはドライバーを雇うか」という点です。
もし海外での運転に慣れていて、マレーシアの右ハンドル・左側通行に対応できるなら、レンタカーは非常に魅力的な選択肢となります。自分のペースで途中の景勝地に立ち寄れるだけでなく、クンダサン内での移動も格段に自由になります。ただし、いくつか注意すべきポイントがあります。道路状況は全体的に良好ですが、雨天時は視界が極端に悪化し、落石や土砂崩れが起こりやすい区間も存在します。また、クンダサン周辺の坂道は非常に急なため、軽自動車より馬力のあるSUVや排気量が大きめの車のレンタルを強く推奨します。チケット予約は不要ですが、マレーシアで運転するには国際免許証が必須であることを忘れないでください。
運転に自信がなかったり、のんびり景色を楽しみたい方は、コタキナバルでプライベートタクシーをチャーターするか、現地ツアーに参加するのが賢明です。チャーターの場合、8〜10時間の1日利用で料金は350リンギットから500リンギット程度が相場となっており、ガソリン代やドライバーの食事代が含まれていることが多いです。ただし、事前にしっかりと交渉し、行き先を明確に伝えておくことが必要です。また、配車アプリGrabを利用してクンダサンまで行くことも可能ですが、帰りの車を見つけるのが非常に難しいため、片道利用は避け、必ず往復の手配をしておきましょう。
クンダサン到着後の手続きについても説明します。主要な観光地であるキナバル公園やデサ・デイリー・ファームでは、それぞれ入口で入場料の支払いが必要です。特にデサ・デイリー・ファームは現在「完全オンライン予約制」となっており、予約を忘れると現地で入場を断られることになります。予約は公式サイトから数日前、特に週末や祝日は数週間前に行うのが基本です。予約確認画面はQRコードで表示する形式のため、山間部で電波状況が不安定でも提示できるよう、事前にスクリーンショットを撮っておくことが賢い方法です。
デサ・デイリー・ファーム:マレーシアの「リトル・ニュージーランド」で味わう本物の乳製品

クンダサン観光の目玉と言えば、間違いなく「デサ・デイリー・ファーム(Desa Dairy Farm)」です。標高の高い斜面に広がる青々とした牧草地、そこでのびのびと放牧される白黒模様のホルスタイン牛、そしてその背後に雄大にそびえるキナバル山の岩肌。その風景は、ここが東南アジアとは思えないほどの壮大さがあります。商社マンとして乳製品の流通に関心がある私にとって、ここでの体験は非常に興味深いものでした。
まず、この牧場では牛の搾乳作業を見学できます。最新の設備が整った搾乳システムは衛生管理が徹底されており、そこで生み出される製品の高い品質が感じられます。しかし、訪問者にとって最大の魅力は何と言っても「味わい」です。ここに訪れたらぜひ試してほしいのが、搾りたての牛乳から作られたソフトクリームやジェラートです。市販品とは一線を画す濃厚さながら、後味は爽やかでクンダサンの冷涼な空気の中で食べる冷たいスイーツは格別の贅沢です。また、パック入りの新鮮な牛乳やチョコレートミルク、ヨーグルトも販売されており、保存料を極力控えているため賞味期限が非常に短いのが特徴です。購入したら、その場で飲むか宿泊先に持ち帰り、できるだけ早く味わうのが、本当の美味しさを楽しむポイントです。
また、ここでは動物たちへの餌やり体験も可能です。子牛やヤギにミルクをあげたり、牧場で草を手渡したりするアクティビティは、特に家族連れに大変人気があります。餌となる草やミルクボトルは施設内で数リンギットで購入できますが、ひとつ注意点があります。動物たちの健康を守るため、外部からの食べ物の持ち込みは禁止されていること、そして牛を驚かせないように大声を出したり、柵を乗り越えたりすることも禁じられています。基本的なマナーを守って、動物との触れ合いをお楽しみください。
写真撮影に関してもいくつかポイントがあります。デサ・デイリー・ファームは非常に広大ですが、キナバル山に雲がかかりにくいのは「早朝(午前8時から10時頃)」です。午後になると山頂付近が雲に覆われることが多いため、朝一番の回を予約して、澄み渡った青空とキナバル山、さらに牧場の緑が織りなす三位一体の絶景をぜひカメラに収めてください。なお、施設内でのドローンの使用は制限されている場合が多いため、ドローンの利用を希望する際は、必ずあらかじめスタッフに確認し、許可をもらうようにしてください。
最新の公式情報や予約については、以下のサバ州政府観光局のサイトや公式サイトをご確認いただくことをおすすめします。営業時間や予約状況は常に更新されています。
Sabah Tourism Board Official Website
Desa Dairy Farm Official Online Booking
食のプロが唸る。クンダサン・マーケットで出会う高原野菜と未知の味覚
ではここから、グルメライターとしての私の腕の見せどころ、クンダサンの食文化にじっくりと迫ってみましょう。クンダサンの中心部を走る通り沿いには、多くの野菜市場、いわゆるクンダサン・マーケットが所狭しと並んでいます。この場所を通り過ぎてしまうのは非常にもったいないことです。なぜなら、ここにはマレーシア全土や、隣接するシンガポールなどへも輸出される、最高級の「高原野菜」が揃っているからです。
クンダサンは夜間の気温が低く、そのため野菜がゆっくりと甘みを蓄える環境に恵まれています。特に有名なのが「クンダサン・キャベツ」です。日本のキャベツに似た肉厚で甘み豊かなこのキャベツは、地元の食堂で「ニンニク炒め(Sayur Manis)」として提供され、シャキシャキとした食感と瑞々しさが口いっぱいに広がり、感動必至です。そのほかにも、小松菜に似たシウ・パッチョイ(Siew Pak Choy)、肉厚な椎茸、鮮やかな色彩のパプリカなどが驚くほど手頃な価格で手に入ります。食品業界の視点から見ても、これほど新鮮な野菜が直接消費者のもとに届く市場は世界的にも稀でしょう。
市場でぜひ探していただきたいのが、この地域ならではの果物です。その代表格が「タラップ(Tarap)」です。ボルネオ島にしか生息しない果物で、外見は小さなジャックフルーツのようにトゲトゲしています。熟すと簡単に手で皮が剥け、中には白く濃密な果肉がぎっしり詰まっています。味わいはバナナ、マンゴスチン、カスタードが合わさったような濃厚でクリーミーな甘さです。非常に傷みやすいため、産地であるボルネオの特にクンダサンの高地でしかベストな状態で味わえません。見かけたら迷わず手に入れてください。
もう一つ忘れてはならないのが「バンバン(Bambangan)」という野生のマンゴーの一種です。果物としてそのまま食べるよりは、塩や唐辛子、そして地元の生姜(Bunga Kantan)とともに漬け込まれ、魚料理の付け合わせや調味料として用いられることが多いです。その強烈な酸味と独特な香りは、一度試すと癖になる味わいです。市場の奥のほうには、地元の女性たちが手作りしたバンバンの漬物や自家製のサンバル(唐辛子ペースト)が瓶詰めで売られています。これは私が最も推す「自分用のお土産」です。家にいながらにしてマレーシアの熱気と高原の香りを再現するには、これ以上の品はないでしょう。
ただし、市場での買い物にはいくつか注意が必要です。ほとんどの店舗ではクレジットカードが使えません。また、野菜はバラでの購入が難しく、基本的に束や山単位で販売されています。ホテルにキッチンがついている場合は問題ありませんが、そうでない場合は、すぐに食べられる果物や日持ちのする加工品を中心に選ぶのが賢明です。さらに、マレーシアの航空法や検疫規則により、一部の果物、特にドリアンなど強い臭いを持つものはホテルや車内、航空機への持ち込みが制限されています。購入後に移動中に楽しむ際は、周囲への配慮を忘れないようにしてください。
キナバル公園:ユネスコ世界自然遺産の神秘に触れる

クンダサンから車で間もなく到着する場所に、マレーシアで初めてユネスコの世界自然遺産に登録された「キナバル公園」があります。標高4,095メートルのキナバル山を中心に広がるこの公園は、豊かな生物多様性で知られています。本格的な登山を希望する場合は数ヶ月前からの予約と綿密な準備が必要ですが、一般の観光客でも園内の遊歩道(トレイル)を歩くだけで、その多彩な生態系の一端を体験することが可能です。
公園の標高はおおよそ1,500メートルから1,800メートルに位置しており、ここにはボルネオ島に固有の花や植物が数多く自然に生育しています。特に有名なのは食虫植物である「ウツボカズラ(Nepenthes)」で、大型のものではネズミや小鳥を捕らえるほどの大きさに成長します。また、テングザル(主に低地の川沿いに多い)が持つ世界最大の鼻と共に、世界最大の花「ラフレシア」もこの公園周辺の民間の庭園などで、運が良ければ見ることができます。ラフレシアの開花は非常に珍しく、その期間も約5日間と短いため、「Rafflesia Blooming」の看板に出会えたなら、それは一生に一度の貴重な機会かもしれません。
キナバル公園の訪問方法は次のとおりです。まず、メインゲートの本部(HQ)で入場料金を支払います。料金はマレーシア人と外国人で異なります。公園内には植物園(Botanical Garden)もあり、ガイドツアーに参加すると植物の興味深い生態についてより詳しく学べます。散策中は指定されたトレイルから外れることは厳禁です。貴重な植物を傷つけたり盗んだりする行為は法律で厳しく禁じられており、違反すると高額の罰金や拘留の対象となります。さらに、公園内は全面禁煙となっているため、自然を大切にし、ルールを守ってこの神秘的な森を楽しんでください。
また、トラブルへの対応についてもご案内します。急激な天候の変化により、一部のトレイルが閉鎖されることがあります。その場合、原則として入場料の返金はありませんが、安全な他のルートをスタッフが案内してくれます。さらに山岳地帯のため、携帯電話の電波が届かないエリアも存在します。散策前には必ず家族や同行者に目的地と帰宅予定時間を伝えておきましょう。もし道に迷ったり怪我をした場合は、無理に動かず救助を待つことが重要です。
Kinabalu Park – UNESCO World Heritage Centre
禁断の美味「シナラウ・バカス」:クンダサンの野生を喰らう
グルメライターとしてクンダサンを語る際に決して避けて通れない料理があります。それが「シナラウ・バカス(Sinalau Bakas)」です。これはこの地域の先住民族であるドゥスン族の伝統的な料理で、簡単に言えば「野生のイノシシの燻製肉」です。クンダサンからコタキナバルへ戻る途中や、クンダサン周辺の道端で、煙が立ち上る屋台を見かけたら、そこがシナラウ・バカスの有名なスポットです。
地元で採れる木材(多くはコーヒーの木やゴムの木)を使い、野生のイノシシ肉を時間をかけてじっくりと燻し焼きにします。商社マンとして様々な食肉を見てきましたが、ここのイノシシ肉の力強さは特別です。脂身は甘みがあり、赤身は噛むほどに野性的な旨味が口いっぱいに広がります。味付けはシンプルに塩のみ、または地元のスパイスが効いたサンバルをつけて楽しみます。付け合わせには、地元産の米(バリオライス)や、タピオカ粉を練って作るもちもちとした食感の「アンブヤ(Ambuyat)」に似た料理が出されることもあります。
ただし、シナラウ・バカスを味わう際には注意が必要です。まず、この料理は「ノン・ハラール(Non-Halal)」、つまりイスラム教徒は豚肉を食べられないため、イスラム教徒の方は避ける必要があります。マレーシアはイスラム教が国教ですから、公共の場やイスラム教の友人がいる場で食べる際は十分な配慮が求められます。また、野生動物の肉ゆえ衛生面には自己責任も伴います。私自身は胃腸が強いほうですが、心配な方はお客さんが多く、肉をしっかり高温で焼いている清潔な屋台を選んでください。持ち帰りも可能ですが、強い香りがあるためレンタカーやホテルの部屋に持ち込む際は匂いが移らないよう注意が必要です。
注文の流れとしては、まず店頭で焼かれている肉を選び、重さを計ってもらいます。その場でカットして皿に盛ってくれるので、豪快に手でつかむかフォークでいただきます。合わせる飲み物は地元産のライム(リマウ・カストリ)を絞った冷たいお茶。高原の涼しい風を感じながら味わう野生の肉と爽やかなライムティー。これこそが、クンダサン観光の本当の醍醐味と言えるでしょう。
ポーリン温泉とキャノピー・ウォーク:癒やしとスリルが共存する場所

クンダサンの中心部から車でさらに東へ約45分ほど進んだ場所に、「ポーリン温泉(Poring Hot Springs)」があります。この温泉は第二次世界大戦中に日本軍によって開発されたと伝えられており、現在はキナバル公園の一部として管理されています。キナバル山の登山を終えた後、筋肉痛の緩和のために立ち寄る人が多い場所ですが、観光客にも非常に人気のスポットです。
温泉は屋外の公衆浴場形式で、水着の着用が必須となっています。タイル張りの浴槽には、蛇口から自分でお湯と水をためるスタイルですが、日本の情緒ある温泉宿を期待して訪れると少し驚くかもしれません。地元の人たちが家族で楽しむ「温水プール」に近い雰囲気を感じられます。よりゆったり過ごしたい方には、追加料金を支払って個室の貸切風呂(プライベートキャビン)を利用することをおすすめします。硫黄の香りが漂う湯は、美肌効果や疲労回復に良いとされています。
また、ポーリン温泉のもう一つの見どころが「キャノピー・ウォーク(Canopy Walkway)」です。地上およそ40メートルの高さに設置された吊り橋を渡りながら、熱帯雨林の樹冠部(キャノピー)を観察できるアクティビティです。全長は約150メートルで、足元が網目になっているためスリル満点です。高所恐怖症の方には少々厳しいかもしれませんが、ここからの森の眺めは圧巻です。鳥のさえずりや猿の鳴き声を聞きながら、まるで雲の上を散歩しているかのような体験が楽しめます。
ここで気をつけたいのが「カメラ料金」です。キャノピー・ウォークでは、入場料のほかにカメラやスマートフォンの持ち込みに対する別途料金がかかります。この料金を支払わずに撮影をしているとスタッフから注意を受け、罰金が科されることもあるため、必ずチケットカウンターで正直に申告しましょう。さらに、歩道は狭く、一方通行ではありません。対向者が来た場合は譲り合い、決して橋の上で飛び跳ねたり走ったりしないことがルールです。加えて、ポーリン温泉周辺は低地に位置しているため、クンダサン中心部より気温が高く、湿度もかなり高いです。水分補給をこまめに行い、歩きやすい靴を履いて訪れることをおすすめします。
トラブル発生時の対応ガイド:冷静に行動するための知識
旅にはトラブルがつきものです。特にクンダサンのような山岳地帯では、思いがけない事態が発生することがあります。最も多いのは「天候によるアクティビティの中止」です。クンダサンは雨が多く、特に夕方になると激しい雷雨になることが少なくありません。デサ・デイリー・ファームやキャノピー・ウォークは、雷や豪雨の際、安全確保のために閉鎖されることがあります。この場合、チケットの返金対応は施設ごとの規約に依りますが、多くの場合は「自己責任」とされています。代わりのプランとして、雨天でも楽しめるクンダサン戦争記念館(Kundasang War Memorial)の屋内展示や、地元のカフェでのんびりとSabah Tea(サバ・ティー)を味わうことを検討すると良いでしょう。
次に、多いのがレンタカーなど車両に関するトラブルです。急な坂道でエンジンがオーバーヒートしたり、タイヤがパンクする場合があります。マレーシアの山間部では、日本のように迅速なロードサービスがすぐに到着するとは限りません。まずは車を安全な場所に停車させ、レンタカー会社に連絡してください。その際、現在地を正確に伝えるためにGoogleマップの座標や近隣の目印(近くのレストラン名など)をあらかじめ把握しておくことが大切です。また、言葉が通じにくい場合は、周囲の地元の方に助けを求めるのも有効です。サバ州の人々は非常に親切で、困っている観光客を見捨てることはまずありません。
健康面のトラブルとしては、食あたりや急な発熱が挙げられます。クンダサンの中心部には小規模なクリニック(Klinik Kesihatan Kundasang)があるものの、夜間や症状が重い場合は、コタキナバル市内にある私立総合病院(KPJサバ・スペシャリスト・ホスピタルなど)に行く必要があります。海外旅行保険には必ず加入し、緊急連絡先を手元に控えておくことが大切です。食品商社マンとしての経験から言えば、現地の食事で胃の調子が優れない時は無理をせず、特に生姜入りの温かいお茶を飲んで休むことをおすすめします。現地のスパイスや油に慣れていない日本人の胃腸は、想像以上に繊細なことが多いのです。
旅の締めくくりに。絶対買いのクンダサン土産リスト

楽しかったクンダサン旅行の締めくくりには、お土産選びが欠かせません。食の専門家である私が、自信を持っておすすめできる満足度の高い品々を厳選してご紹介します。これらのお土産は、ただの思い出ではなく、クンダサンの「恵み豊かな土壌」を自宅に持ち帰ることができる逸品ばかりです。
・サバ・ティー(Sabah Tea):クンダサンからほど近いラナウ地区で栽培されている無農薬の紅茶です。雑味のないクリアな味わいが特徴で、特に「タリク(Teh Tarik)」用の粉末タイプや、パンダンやジンジャーのフレーバーティーは人気があります。
・デサ・デイリー・ファームのチーズとバター:新鮮なミルクから作られたチーズは、市販品とは異なる豊かな香りが魅力です。ただし冷蔵保存が必要なため、保冷バッグと保冷剤が用意できる場合に限ります。コタキナバル市内のスーパーで帰国直前に購入するのも一つの方法です。
・クンダサン産のハチミツ:キナバル山周辺の野生の蜂が集めたハチミツは、花の香りが濃厚で高い栄養価を誇ります。市場で販売されている小瓶入りのものは、手軽なお土産として最適です。
・カダザン・ドゥスン族の伝統工芸品:竹や藤(ラタン)で編まれた小さなかごやバッグは丈夫で素朴なデザインが魅力です。マーケットの一角で地元のおばあちゃんたちが手作りしている様子を見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。
・揚げたてのスナック菓子:地元産のカボチャや芋を薄くスライスして揚げたチップスは無添加で素材の味がしっかり感じられます。特に「揚げバナナ(Pisang Goreng)」のスナックは、一度食べ始めると止まらない美味しさです。
これらの土産品を選ぶ際は、できるだけ地元の個人商店や市場を利用するようにしましょう。それがこの美しい高原地域の経済を支え、次世代へ文化を受け継ぐ助けとなります。商社に勤める身として常に意識していることですが、消費こそが最大の支援です。クンダサンで支払う数リンギットが、現地の農家の子どもたちの教育や、豊かな自然の保全に繋がっているのです。
クンダサンは、訪れるたびに新しい発見が待っている不思議な場所です。キナバル山の頂上に差し込む朝日、牧場に立ち込める霧の幻想的な光景。地元の市場で見知らぬ野菜に出会い、その調理法を教わるひととき。野生イノシシの肉に舌鼓を打ちながら、冷えたビールや現地の米酒「リヒン」で喉を潤す夜。こうしたすべての瞬間が旅の思い出として深く刻まれることでしょう。赤道直下の熱帯地帯であることを忘れ、雲の上に広がる別世界で過ごす時間は、忙しい現代人にとって最高のリフレッシュになります。さあ、次の休暇はボルネオの秘境、クンダサンへ。この記事が、あなたの素晴らしい冒険の道しるべとなることを願っています。

