眼下に広がるのは、宝石を散りばめたようなヴィクトリア・ハーバーの夜景。人々が「100万ドルの夜景」と称賛するこの煌めきを求め、世界中から旅人が香港の地に降り立ちます。しかし、私の心を捉えて離さないのは、その光の洪水ではありません。私が追い求めるのは、この美食都市の喧騒の奥底に眠る、舌を焼き、魂を揺さぶるほどの「灼熱のスパイス」。スパイスハンター・リョウとして世界を巡る私の今回のミッションは、実にシンプルかつ困難。「美食の都・香港で、本物の激辛料理を見つけ出す」。広東料理の繊細で優しいイメージが強いこの街で、果たして私の渇望を満たす一皿は存在するのでしょうか。さあ、100万ドルの夜景を背に、未知なる辛さへの冒険を始めましょう。
美食の摩天楼で繰り広げられるスパイスハンターの食の迷宮への挑戦は、ここで語りつくせないほどのドラマに満ちています。
香港に「激辛」は存在するのか?広東料理の常識への挑戦

香港の食文化と聞くと、多くの人が思い描くのは、繊細な点心を楽しむ飲茶や、豊かな味わいの海鮮料理、あるいは香ばしい皮が輝くローストグースではないでしょうか。これらはすべて広東料理の精髄であり、その根底にあるのは「食材本来の味を最大限に活かす」という考え方です。新鮮な魚介類はシンプルに蒸し上げ、鶏は丸ごと煮込んでその旨みを引き出す。過度な香辛料は素材の良さを損なうとして、敬遠されがちです。
この「引き算の美学」と称される広東料理の世界において、「激辛」という「足し算の暴力」とも言える要素は、果たして受け入れられる余地があるのでしょうか。旅に出る前、友人たちに「香港で一番辛いものを食べてくる」と言うと、決まって返ってきたのは、「香港に辛い料理なんてあるの?」という純真な疑問の声でした。
確かに、観光客がよく訪れるレストランのメニューには、「辣(ラー)」の文字は控えめに見られる程度です。しかし、私のスパイス探求者としての直感が告げます。この街は単なる広東文化の聖地だけではない、と。アジアの十字路として長らく多様な人々や文化を受け入れてきた国際都市。そのエネルギッシュなダイナミズムは、必ずや食文化にも反映されているはずです。中国各地、特に四川や湖南といった辛さで知られる地域からの移民たちが、ここで故郷の味を再現しないわけがありません。そして、東南アジアや南アジアとの交易の歴史は、唐辛子以外の多彩なスパイス文化ももたらしているに違いないのです。
今回の挑戦は、単に辛いものを口にする行為ではありません。それは、香港という都市が持つステレオタイプなイメージの裏側に隠された「多様性」と「混沌」の味わいを、自身の舌で確かめる旅。点心や海鮮料理といった表の顔の背後に隠れた、別の香港の姿を見つけ出す冒険でもあります。
インターネットで情報を探り、古いガイドブックの頁をめくり、香港に住む知人から執拗に話を聞いた結果、いくつかの有力な手がかりが浮上しました。ミシュラン星を獲得しながらも本格的な四川の辛さを提供する高級店。眠らない街・旺角(モンコック)の裏通りで、青春を賭け汗をかきながら味わう麻辣(マーラー)ヌードル。そして、多種多様な人種が交錯するカオスなビルとして知られる「重慶大厦(チョンキンマンション)」の奥深くにある、本場のインディアンカレー。
これら断片的な情報を結びつけ、私は香港の激辛マップを頭の中に描き出しました。これは観光ガイドには載らない、私だけの特別な美食ルート。さあ、胃袋の準備は整いました。まずは、洗練された空間で提供されるという芸術的な激辛料理から、旅を始めてみましょう。
第一の刺客 – 伝統と革新が交差する四川料理の名店
香港での激辛探訪のスタートに選んだのは、尖沙咀(チムサーチョイ)の煌びやかなショッピングモール内に位置する、洗練された雰囲気の四川料理店。伝統的な四川の味わいを、香港らしいモダンなスタイルで提供することで知られ、ミシュランガイドでも常に高い評価を誇る名店です。激辛に挑むとはいえ、まずは確かな技術に支えられた「美味しい辛さ」を味わうのが、スパイスハンターとしての私の信条。単なる刺激だけの辛さでは、この旅の開始にふさわしくありません。
店内は四川の伝統的な装飾をモチーフにしつつも、現代的で落ち着いた空間が広がっています。テーブル席の間隔もゆったりと確保されており、快適に食事を楽しむことが可能です。こういった高級店を訪れる際には、服装にも少し気を配りたいところ。ビーチサンダルやショートパンツのようなあまりにカジュアルすぎる服装は避け、スマートカジュアルを心がけると、雰囲気を壊すことなく、気持ちよく食事ができるでしょう。襟付きシャツや、女性ならワンピースなどが無難です。
席に案内され、分厚いメニューを開くと、見慣れた四川料理の名前がずらりと並び、それぞれが美しい写真とともにまるで芸術品のように紹介されています。麻婆豆腐、担々麺、回鍋肉…しかし私の視線は、メニューの中でも鮮やかな赤色と、最多の唐辛子マークが付く一品に釘付けになりました。それが「水煮牛肉(スイヂュウニョウロウ)」です。
「これを、できる限り辛く。本場の辛さでお願いします」
私のオーダーに、優しかった店員の表情がわずかに曇ります。「お客様、当店の『大辣(ダイラーッ)』は本当に、本当に辛いのですが、大丈夫でしょうか?」という問いかけは、間違いなく私への挑戦状でした。「それでこそ」と応じると、店員は覚悟を決めたような面持ちで厨房へと戻っていきました。
人気店であるため、予約は必須です。公式サイトのオンライン予約フォームを利用するか、確実を期すならホテルのコンシェルジュに依頼するのが賢明です。特に週末のディナータイムは数週間前から満席になることも多いため、旅程が決まり次第、早めに予約を押さえておきましょう。
しばらくして運ばれてきた「水煮牛肉」は、期待を遥かに超える迫力でした。大きな鉢にたっぷりと注がれた深紅の辣油の海。その表面は無数の乾燥唐辛子と、鮮烈な香りを放つ花椒(ホアジャオ)でびっしりと覆われています。箸で油の層をかき分けると、主役の薄切り牛肉と、たっぷりの豆もやし、キャベツが姿を現しました。立ち上る湯気だけでむせるほどの刺激があり、これはなかなかの強敵です。
一口、牛肉を口に運ぶとまず襲ってきたのは燃えるような唐辛子の直球の辛さ、辣(ラー)。続いて間髪入れずに、脳天を突き抜けるかのような痺れる刺激、麻(マー)が襲います。この「麻辣」こそが四川料理の真髄。しかしここで味わったそれは、単に暴力的な辛さだけではありません。柔らかな牛肉、シャキッとした野菜の食感、何よりも多彩な香辛料が溶け込んだスープの深い旨味。辛さを超えた先に確かに存在する「美味」が、次の一口、また次の一口へと私を誘い続けます。
額には汗が滴り落ち、口内は燃えるような感覚に包まれていますが、箸は止まりません。この感覚こそが私の求めていたもの。洗練された空間で、最高の素材と技術が融合して生み出された芸術的な激辛料理。それは香港の食文化の奥深さを物語る、見事な一皿でした。
食べ進めるうちに、白ご飯が恋しくなります。この刺激的なスープをご飯にかけ、一気に頬張る背徳の快感は格別です。夢中で鉢を空にすると、先ほどの店員が心配そうでありながら、どこか満足そうな表情でこちらを見ていました。空になった鉢を見せて親指を立てると、彼はほっとしたように、そして誇らしげに微笑んでくれました。
このレベルのレストランでは、支払いはクレジットカードが基本です。現金で支払う場合も、お釣りがないように準備する必要はありません。サービス料が会計に含まれていることが多いですが、素晴らしいサービスには、テーブルに少額のチップ(小銭程度)を残すのがスマートな振る舞いです。
幸先の良いスタートとなりましたが、これはまだ序章にすぎません。次の舞台は、煌びやかなモールとは打って変わった世界。ネオンが瞬き、人々がひしめく、地元の活気が渦巻くあの場所です。
ネオンの奥に潜むローカルの洗礼 – 旺角(モンコック)のストリートフード

高級四川料理店で洗練された辛さの刺激を味わった私は、新たな挑戦を求めてMTR(香港鉄路)に乗り込みました。向かうのは、世界でも有数の人口密度を誇る地域、旺角(モンコック)です。煌びやかなネオンライト、人で溢れかえる通り、あらゆる商品が並ぶ露店の数々。この街の喧騒と活気こそが、香港のもう一つの顔を示しています。
尖沙咀の洗練された雰囲気とは全く異なり、ここはまさに地元の熱気が渦巻く場所。西洋菜南街(Sai Yeung Choi Street South)や女人街(Ladies’ Market)を歩けば、化粧品や電化製品、衣類、そして食欲をそそる香りを漂わせる屋台が五感を強烈に刺激します。私の目標は、そうした屋台で地元の人々に愛されるB級グルメの激辛メニューを見つけることです。
ストリートフードを楽しむ際に欠かせないのが「オクトパスカード(八達通)」。日本の交通系ICカードのような存在で、MTRやバスはもちろん、コンビニや多くの屋台でも使え、小銭のやり取りを減らせて非常に便利です。空港やMTR駅内のカスタマーサービスセンターで購入やチャージが可能です。ただし、現金のみを受け付ける店もまだ多いため、少額の香港ドル紙幣や硬貨を用意しておくと安心です。また、ウェットティッシュとハンドタオルは必携アイテム。ソースが飛び散ったり、手がベタついたりするのは日常茶飯事だからです。
まず目に飛び込んできたのは、「咖喱魚蛋(カレーフィッシュボール)」の屋台。魚のすり身団子をスパイシーなカレーソースで煮込んだ、香港の定番ソウルフードです。店先には大きな鍋が置かれ、黄金色のカレーソースの中でグツグツと魚蛋が煮えています。
「老闆(ロウバン/店主さん)、一番辛くして!」
ジェスチャーを交え注文すると、店主のおじさんはニヤリと笑い、串に刺した魚蛋をカップに入れてから通常のカレーソースをかけ、カウンターの隅に置かれた赤い壺から、濃厚な暗赤色のペーストをたっぷりスプーンですくい追加してくれました。その見た目だけで危険な予感が漂います。
一口食べると、まずはカレーの香りと魚蛋のプリッとした食感が広がります。しかしその直後、舌の奥からじわじわと、そして瞬く間に辛さが炸裂します。これは単なるチリソースではなく、多彩なスパイスが複雑に絡み合う、奥深く鋭い辛さです。汗が吹き出し、呼吸が少し乱れる中、周囲を見ると地元の若者たちが真っ赤なソースをかけた魚蛋を涼しい顔で平らげています。彼らの日常に根ざした、荒々しくも魅力的な辛さは高級店の計算された辛味とはまるで異なります。
一本食べ終える頃には口内が完全に火事状態。近くのコンビニで買った冷たい豆乳をゴクゴクと飲み、辛さを和らげました。ストリートフードを楽しむ上で、こまめな水分補給は命綱です。マイボトルを携帯し、コンビニやジューススタンドで随時補充するのが賢い方法です。
続く挑戦は、「麻辣燙(マーラータン)」。店先に並ぶ野菜、肉、練り物など数十種類の具材から好きなものを皿に取り、店員に渡すと麻辣スープで煮込んで提供してくれる人気のスタイルです。もちろん、スープの辛さも選べます。
指差しでキノコや豆腐、センマイを選び、「大辣(ダイラーッ)!」と力強く告げると、店員のおばちゃんは「よくわかってるね」というような満面の笑みを見せ、私のボウルに真っ赤な特製パウダーをたっぷり振りかけてくれました。
数分後、湯気を立てた熱々の一杯が完成。スープは赤黒く濃厚で表面には厚いラー油の層が漂います。ひと口味わうと、さっきの四川料理店で体験した「麻」と「辣」がより一層ダイレクトかつ攻撃的に襲ってきました。特にスープを吸った厚揚げ豆腐は口中で麻辣の爆弾が炸裂し、痺れと痛みが入り混じり、数秒間思考が停止します。
しかし、この辛さこそ旨味の証。多彩な具材から染み出た出汁が強烈な麻辣スープと調和し、奥深くて中毒性の高い味わいを創り出しています。汗だくになりながらも夢中で箸を動かす私。周囲の騒音も耳に届かないほど集中しきっていました。これこそストリートフードの真髄。飾らずありのままの食文化がここにあります。
旺角での食べ歩きは生き残りバトルのよう。人混みをかき分け、目的の店を探し出し、言葉の壁を乗り越えて注文する。もしも注文ミスや予想外の品が出てきても、それもまた旅の味わいです。指差しや簡単な英語、笑顔でのコミュニケーションが地元体験をより豊かにしてくれます。衛生面が気になる際は、多くの人が列をつくる活気ある店を選ぶのが目安。回転が速い店は食材も新鮮である可能性が高いのです。
洗練と混沌、二面性を持つ香港を二種類の激辛料理で味わい尽くした私は、次の目的地へと足を進めました。そこは香港の中でも際立つ異彩を放つ、伝説の場所。さまざまな文化が入り混じるカオスな空間で、想像を超えた究極のスパイスが私を待ち受けていました。
予想外の伏兵 – 重慶大厦(チョンキンマンション)で出会った本物のスパイス
旺角の喧騒を後にして私が足を運んだのは、ネイザンロードに堂々とそびえる巨大な雑居ビル「重慶大厦(チョンキンマンション)」でした。映画『恋する惑星』の舞台としても有名なこの建物は、バックパッカー向けの格安宿や両替所、数多くのエスニック料理店がひしめき合う、香港における多文化共存の象徴であり、同時に独特な治外法権的な雰囲気も醸し出しています。
一歩中に入ると、そこはもはや香港の地ではありません。インドやパキスタン、ネパール、アフリカ各国から集まった人々が多言語で会話し、スパイスと香水が混ざり合った独特の香りが鼻を刺激します。「両替いかが?」「SIMカードありますよ」「友よ、カレーはどう?」と、次々と声をかけてくる客引きの存在も圧倒的。この混沌とした空気に面食らう人もいるでしょうが、それこそが重慶大厦の魅力の一つです。断りたい時はニコリと笑って「No, thank you」と言えば、しつこく追いかけられることはありません。
私の目的は、このビルの上層階に点在する本格的なインド・パキスタン料理店で、広東料理や四川料理とはまったく違う、南アジア独特の激辛スパイス料理に挑戦することでした。ただし、エレベーターホールは常に長蛇の列で、奇数階と偶数階で使い分けられるエレベーターにより、初めて訪れる者にとってはまるで迷宮のような場所です。訪問前に訪れるレストランと階数を決めておくのが賢明です。私は口コミで評判の高かったパキスタン料理店を目指しました。
目的の階でエレベーターを降りると、薄暗い廊下が迷路のように続き、まるで別世界に迷い込んだような感覚にとらわれます。似たようなドアが並び、本当に先にレストランがあるのかと不安に思いましたが、奥から漂ってくるクミンやコリアンダー、カルダモンなど本格的なスパイスの香りが、正しい道を示してくれました。
扉を開けると、先ほどの怪しい空気は一変し、店内は清潔で、家族連れやカップルで溢れていました。壁にはボリウッド映画のポスターが貼られ、テレビからは明るく楽しいインド音楽が流れています。メニューにはタンドリーチキンやビリヤニなど定番料理が並びますが、私の狙いはただ一つでした。「一番辛いカレーはどれですか?」
店主は立派なひげをたくわえたパキスタン人の男性で、私の問いにニヤリと笑いながら「うちのチキン・ヴィンダルーは覚悟がいるぞ。本当にいいのか?」と流暢な英語で返してきました。ヴィンダルーとはポルトガルからインドのゴア地方に伝わった激辛カレーで、酢やニンニク、大量の唐辛子が使われています。迷わず「イエス」と答えました。
やがて、焼きたての巨大なナンとともに、真っ赤というよりむしろ黒に近い色のカレーが運ばれてきました。油が分離し、表面には唐辛子の種が無数に浮かび、スパイスの香ばしい焙煎香とビネガーの酸味、複雑なスパイスの層が鼻孔をくすぐります。これは四川料理の麻辣とはまったく異なる辛さの質です。
ナンをちぎってカレーに浸し、恐る恐る口に運ぶと、味覚は未知の領域へと誘われました。
最初に感じたのは強烈な酸味とニンニクの風味。続いて舌の奥を鈍く打ち付けるような重い辛さが襲います。それは単なる唐辛子の辛みではなく、ブラックペッパーの刺激やクローブの痺れる感覚、シナモンの甘い香りに秘められた熱さが重なり合い、無数のスパイスが絶妙な不協和音を奏でるかのように口内で暴れまわりました。
一口また一口と食べ進めるごとに全身の毛穴から汗が滝のように流れ出し、もはや食事というよりは格闘の様相。しかし不思議とスプーンは止まりません。辛さの先にある鶏肉の旨み、玉ねぎの甘み、そしてスパイスの深いコクが私を虜にしたのです。四川の麻辣が瞬間的な刺激と痺れであるならば、このヴィンダルーの辛さは体の芯からじわじわと燃え上がる持続的な熱波のように感じられました。
水を飲んでも辛みは和らがず、むしろ口内で辛さが拡散するだけ。こうした時にはラッシーやマンゴージュースなど乳製品を使った甘い飲み物が口内の火事を優しく沈めてくれます。多くのカレー店でラッシーが提供されているのは実に理にかなっているのです。
完食した頃には私は完全に燃え尽きていました。汗でシャツはびっしょり濡れ、胃の中は灼熱のマグマを抱えているよう。しかし、その疲労感とともに大きな達成感が全身を包み込みました。重慶大厦という香港のカオスが生み出した本物のスパイスの洗礼。それこそが、私が求めていた予想外の出会いだったのです。
もしあなたが重慶大厦で食事に挑戦するなら、いくつかの心得が必要です。まず客引きについていかず、自分の行きたい店を明確に決めておくこと。衛生面が気になるかもしれませんが、多くの店は長年営業を続け地元の人々やリピーターに支えられています。判断基準の一つとして、香港最大のグルメレビューサイト「OpenRice」などで事前に評価をチェックするのもおすすめです。そして何より、無理は禁物。あまりの辛さで体が悲鳴を上げたら、勇気をもって残すことも大切です。あなたの旅はまだ始まったばかりなのですから。
香港激辛探訪・実践ガイド – あなたも挑戦者になるために

これまで私の個人的な激辛体験をお伝えしてきましたが、この記事を読んでいるあなたも、きっと香港での刺激的なグルメ冒険に挑みたくなっていることでしょう。そこでこの章では、スパイスハンターとして香港に降り立つために必要な具体的な準備や実践的な情報をお届けします。この記事を読めば、旅の準備はもう完璧です。
準備編:旅立つ前に押さえておきたいポイント
まずは日本でできる準備と、心構えについて解説します。
- 持ち物リスト・スパイスハンター特別編
- 胃腸薬:最重要アイテムです。慣れない食事、特に激辛料理は胃腸に負担がかかります。普段から使い慣れている薬を必ず持参しましょう。私の愛用アイテムについては記事の最後で詳しくご紹介します。
- ウェットティッシュ・ティッシュ:香港のローカル食堂ではおしぼりやナプキンが出てこないことが多いです。ストリートフードを食べる際に手が汚れたときにも役立ちます。
- ハンドタオル・ハンカチ:激辛料理を食べると汗が止まりません。さらに亜熱帯気候の香港では歩くだけでも汗ばみますので、複数枚用意しておくと快適に過ごせます。
- マイボトル:湿度が高く脱水しやすい香港では水分補給が欠かせません。ペットボトルの水も良いですが、エコかつ経済的に使えるマイボトルがおすすめです。多くの場所で給水が可能です。
- 羽織るもの:屋外は蒸し暑いものの、ショッピングモールやMTRの車内は冷房が強めです。薄手のカーディガンやパーカーを一枚持っていると温度調節に便利です。
- モバイルバッテリー:Googleマップのナビゲーション、食事の撮影、情報検索など、スマートフォンは旅の必需品です。充電切れを防ぐため、大容量のモバイルバッテリーを持ち歩きましょう。
- エコバッグ:香港ではレジ袋が有料です。コンビニやスーパーでの買い物には、折りたたみ式のエコバッグが便利です。
- 服装のポイント
基本的に日本の夏服で問題ありませんが、湿度が高いため通気性や速乾性に優れた素材の服を選ぶと快適です。足元は石畳や坂道が多いので歩きやすいスニーカーがおすすめです。もし高級レストランへ行く予定があるなら、スマートカジュアルの服装を一着用意しておくと安心です。
- 辛さのオーダー表現を覚えよう
辛さをお店で伝えられると、より食事が楽しくなります。代表的な広東語はこちらです。
- 唔辣 (ンーラーッ):辛くない
- 少辣 (シウラーッ):少し辛い
- 中辣 (ジョンラーッ):中辛
- 大辣 (ダイラーッ):大辛
- 加辣 (ガーラーッ):もっと辛くして
メニューを指しながらこれらの言葉を使うだけで、現地の人との距離がぐっと縮まります。
実践編:香港の街をスマートに楽しむために
続いて、現地での具体的な行動ポイントについて説明します。
- オクトパスカードをフル活用しよう
香港に着いたら、空港のエアポートエクスプレス窓口やMTRの駅でオクトパスカードを購入しましょう。購入時にデポジット(保証金)がかかりますが、帰国時に返却すれば保証金と残高が返金されます。チャージは駅のチャージ機(Add Value Machine)やコンビニのレジで「Add value, please.」と言えば簡単にできます。一枚で交通、飲食、買い物までキャッシュレスで使えるので、旅がスムーズに進みます。
- 公共交通機関の利用法
香港の公共交通はとても発達しています。
- MTR(地下鉄):市内を網羅しており最も便利な移動手段です。路線図は色分けされて分かりやすく、主要観光地はほとんどMTR駅の近くにあります。
- バス:香港名物の2階建てバスで、MTRが届かない場所へ行く際に便利です。路線が複雑なので、Googleマップなどのアプリで路線番号と目的地を必ず確認してください。降りるときは降車ボタンを押して運転手に知らせましょう。
- トラム:香港島を東西に走る路面電車です。ゆっくり走りますが、運賃は一律で安く、街並みをのんびり楽しめます。後ろのドアから乗り、前のドアから降りる際にオクトパスカードをタッチして支払います。
- タクシー:赤いタクシーは市街地、緑は新界、水色はランタオ島を営業エリアとしています。メーター制なので安心ですが、ラッシュ時は渋滞もあります。海底トンネル利用時には別途トンネル料金が発生します。
- レストランでのマナーなど
- 予約:人気店や高級店は予約が安心です。公式サイトや予約サイトを利用しましょう。ローカル食堂は予約不要ですが、食事時は相席(搭枱/ダップトイ)が普通なので、空いている席に座りましょう。
- 注文:ローカル店では、自分で紙のメニューにチェックを入れて店員に渡すセルフオーダー方式もよく見られます。
- 支払い:高級店ではクレジットカード、ローカル店では現金やオクトパスカードが主流です。AlipayやWeChat Pay対応の店も増えています。支払いの際に「埋單(マイダーン)」と言うと伝票を持ってきてくれます。
トラブル対策編:もしもの時の備え
旅のトラブルに慌てないためのアドバイスです。
- 食あたりや体調不良の場合:無理をせず、まずはホテルで休み水分補給をしましょう。改善しない場合はホテルのフロントに相談し、近隣の病院を紹介してもらうか、海外旅行保険のサポートデスクに連絡してください。街には「Watsons」や「Mannings」などのドラッグストアがあり、簡単な薬を購入できます。
- 注文ミス・トラブルの場合:注文と違う料理が出てきたら、遠慮なく店員に伝えましょう。簡単な英語で「Excuse me, I think I ordered a different one.」と言えば通じます。言葉が通じなくてもメニューを指差せば意図は伝わります。
- 返金・キャンセルについて:香港では一度支払った商品やサービスの返金は、日本ほど容易ではありません。特にストリートフードやローカル店では返金がほぼできないため、高額商品購入時は内容をよく確認してから支払いましょう。
- 公式情報の確認を習慣に:旅の情報は変わりやすいです。交通機関の運行状況や営業時間などは、必ず公式サイトで最新情報をチェックしてください。香港政府観光局の公式サイトにはイベント情報や基本の観光情報が揃っており、出発前に一読することをおすすめします。
このガイドを参考に、あなただけの香港激辛グルメ探訪プランを組み立ててみてください。失敗を恐れず好奇心のままに街へ繰り出せば、きっと忘れられない食の体験があなたを待っています。
激辛の先に見たもの – 香港の食文化の深淵
香港での激辛グルメ探訪を終え、帰国の途につく飛行機の中、窓の外に広がる雲海を見つめながら、この数日間の出来事をじっくりと振り返っていました。私の舌と胃は、これまでにない刺激に満たされ、心地よい疲れが体を包み込んでいました。しかし、この旅で得たものは、単なる「辛さ」の記憶にとどまりませんでした。
ミシュラン星付きレストランで味わった四川料理の繊細な「麻辣」。それは伝統的な料理法を尊びながらも、国際都市・香港の洗練された感性で新たに組み立てられたものでした。料理人たちの誇りと革新精神が息づき、単なる辛さを超えた旨味や香りを巧みに引き出した、一種の芸術作品だったのです。
旺角の喧騒の中で頬張ったカレーフィッシュボールの直球の辛さは、忙しく日々を駆け抜ける香港の人々のエネルギーそのものでした。飾り気なく気取らない、生活に根ざした庶民のB級グルメ。そこから感じ取れたのは、人々の活気と困難をものともせずたくましく生きる力強さ。汗をかきながら同じ串を頬張る若者たちの姿には、この街の明るい未来を見た気がしました。
さらに、重慶大厦の迷路の奥深くで出会ったパキスタン料理。その複雑かつ奥深いスパイスの世界は、香港が単一の文化圏にとどまらず、アジアの十字路として多種多様な人々を受け入れ、それぞれの文化がしっかりと根付いていることの何よりの証明でした。あのヴィンダルーの激しい辛さは、故郷を離れ異国で生きる人々の情熱とアイデンティティを映し出す味わいだったのかもしれません。
当初は、「広東料理の街であえて激辛を探す」という、少し逆説的な好奇心からスタートしたこの旅。しかし、結果として私が目にしたのは、香港という都市が持つ驚くほどの多様性と懐の深さでした。
繊細で優しい味わいを基本とする広東料理の文化が、この街の「幹」としてどっしりと根を下ろしている一方、中国各地や南アジア、東南アジアからの移民たちが持ち込んだ刺激的で多彩な食文化が「枝葉」として豊かに生い茂り、互いに影響を与え合いながら共存しています。ここでは、朝は優しい粥で胃を労わり、昼は刺激的な麻辣燙で活力を得て、夜はスパイス香るカレーに浸るという食の旅が可能なのです。
「食は文化の鏡」という言葉がありますが、これほどその言葉がしっくりくる都市は他にないでしょう。イギリス植民地時代の名残であるアフタヌーンティー文化、広東の伝統的な飲茶、そして今回私が追い求めた移民たちがもたらした灼熱のスパイス。これらすべてがモザイクのように組み合わさり、一つの巨大な「香港の食」の絵画を形作っています。
激辛料理を追い求めるという使命は、結果的に私を香港の文化の深淵へと誘いました。それは、煌びやかな夜景やショッピングだけでは決して見えない、この街の生々しく力強い、そして人間味あふれる素顔。舌の痛みを代償に得たこの気づきは、どんな高価な土産よりも価値のある、私だけの宝物となりました。
旅の終わりに胃腸を労わる、スパイスハンターの必需品

世界各地を巡り、各国の最も辛い料理に挑むという大胆なミッションを続ける私には、欠かせないパートナーがあります。それは、どんなに過酷な食の戦いの後でも荒れきった胃腸を優しく癒し、次の挑戦へと送り出してくれる「胃腸薬」です。
今回の香港での熱い冒険。洗練された四川の麻辣、地元のストリートで味わう麻辣、そして多文化が融合した南アジアのスパイス。連続して襲いかかる刺激の猛攻に、私の胃は何度も悲鳴を上げそうになりました。それでもこの旅を最後まで乗り切れたのは、間違いなくポーチに常備している「太田胃散A〈錠剤〉」のおかげです。
なぜ数ある胃腸薬の中からこれを選ぶのか。その理由は幾つかあります。まず携帯性。ボトルタイプは持ち運びにくく、粉薬は水がないと飲めない場合がありますが、この錠剤はPTP包装で場所を取らず、どこへでも気軽に持ち歩けます。街中の屋台でも、機内でも、さっと取り出して水と一緒に飲める手軽さは、常に旅を続ける者にとって大きなメリットです。
さらに成分にも注目しています。脂肪、タンパク質、でんぷんを分解する4種の消化酵素が、過食や胃もたれに効果的に働きます。特に、激辛料理に多く含まれる油分を分解するリパーゼAP6は、スパイス好きの私にとって心強い存在です。加えて、胃の痛みを和らげ、弱った胃の機能を助ける健胃生薬も配合されており、攻めと守りの両面から胃腸をしっかりサポートしてくれます。
香港での旅の夜、ホテルに戻るたびに、その日の挑戦をねぎらうようにこの錠剤を飲むのが日課でした。すると翌朝には胃の重さや不快感がすっかり解消され、「よし、今日も新たなスパイスに出会いに行こう」というフレッシュな気持ちで一日を始められるのです。
もちろん、これはあくまで私の個人的なパートナーです。体質は人それぞれなので、ご自身に合った信頼できる胃腸薬を見つけて、旅の相棒にすることを強くお勧めします。素晴らしい旅の思い出が、胃腸のトラブルで台無しになるのは何よりも残念ですから。
灼熱の香港で、私の探求心と胃袋は満たされました。しかし世界は広く、未だ発見されていないスパイスは無数に存在します。次はどの国で、どんな刺激的な出会いが待っているのか。胃腸薬をポーチにしのばせながら、私の心はすでに新たな冒険へと飛び立っているのです。

