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映画『アメリ』のロケ地を巡る、パリ・モンマルトルの夢色散歩道

パリ、という言葉を聞いて、あなたの心にはどんな風景が浮かびますか?エッフェル塔の煌めき、セーヌ川の穏やかな流れ、それともシャンゼリゼ通りの華やかさでしょうか。そのどれもがパリの美しい顔ですが、私が心の奥でずっと焦がれていたのは、石畳の小道が迷路のように続き、芸術家たちの息吹が今もなお感じられる街、モンマルトルの丘でした。その憧れを決定的にしたのは、一本の映画との出会いです。そう、ジャン=ピエール・ジュネ監督の『アメリ』。

空想好きで、周りの人々をこっそりと幸せに導く、いたずら好きな瞳が魅力的なアメリ・プーラン。彼女が暮らす世界は、赤と緑を基調とした、まるで絵本の中から飛び出してきたかのような色彩に溢れています。クリーム・ブリュレの焦げ目をスプーンの背で割る音、豆の袋にざっくりと手を入れる感触、サン・マルタン運河での水切り。彼女が日常の中に見出す小さな幸せの数々は、観る者の心を温かく包み込み、忘れかけていた日々の輝きを思い出させてくれます。この映画の魔法にかかったなら、きっと誰もが思うはずです。「アメリの世界に迷い込んでみたい」と。

この記事では、そんな願いを叶えるための、パリ・モンマルトルを中心とした『アメリ』のロケ地を巡る旅へとご案内します。アメリが働いていたカフェでクリーム・ブリュレを味わい、彼女が駆け抜けた石畳の坂道を自分の足で歩いてみる。それは単なる映画の舞台訪問ではありません。スクリーン越しに見ていたあの色彩豊かな日常が、現実のパリの街並みと重なり合う瞬間、きっとあなただけの新しい物語が始まるはずです。さあ、少しだけ勇気を出して、アメリが見たパリの景色を探しに出かけましょう。まずは、私たちの旅の舞台となるモンマルトルの地図を広げてみてください。

映画の舞台を巡る旅に加えて、パリで文豪ヘミングウェイの足跡を辿る旅もまた、この街の芸術的な魅力を深く知る一つの方法です。

目次

物語が始まる場所、カフェ・デ・ドゥ・ムーラン

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アメリのロケ地巡りで絶対に外せない聖地が、彼女がウェイトレスとして働いていた「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」です。モンマルトルにある現存する二つの風車、ムーラン・ルージュとムーラン・ド・ラ・ギャレット(Deux Moulins)にちなんで名付けられたこのカフェは、今なお映画の雰囲気を色濃く残しつつ、訪れる人々を温かく迎え入れています。

アメリがもたらしたクリーム・ブリュレの魔法

映画の中で、アメリが幸せそうな表情でスプーンの背をコンッとあてて表面のカラメルをパリッと割るシーン。あの音と映像は、彼女のキャラクターを象徴する忘れがたい瞬間のひとつです。このカフェ・デ・ドゥ・ムーランでは、もちろん「アメリのクリーム・ブリュレ」を味わうことができます。

メトロ2号線のブランシュ(Blanche)駅で下車し、赤い風車が目印のムーラン・ルージュを横目に坂を少し上ると、映画さながらの赤いファサードが現れます。店内に一歩足を踏み入れれば、そこはすでにアメリの世界。ヴィンテージ感あふれるバーカウンター、壁に飾られた映画のポスター、そしてやや気だるげでありながらもプロフェッショナルに動き回るウェイターたち。これは映画のセットではなく、リアルなパリのカフェならではの空気感が心地よいざわめきとともに伝わってきます。

席に着いたら、メニューを開く前に「Un crème brûlée, s’il vous plaît(アン・クレーム・ブリュレ、シル・ヴ・プレ)」とオーダーしてみてください。ほどなくして運ばれてくるずっしりと重い陶器の器。スプーンでそっと表面を叩けば、あの心地よいパリッという音が響き渡ります。濃厚で滑らかなカスタードと、香ばしくほろ苦いカラメルの絶妙なハーモニーは、旅の疲れを優しく癒やす魔法の味わい。アメリが感じた小さな幸せを五感で味わう、特別なひとときです。

カフェの内装は撮影当時から多少変わっている箇所もありますが、全体の雰囲気はほぼそのまま。特にバーカウンターは必見で、アメリが同僚や個性的な常連客と語り合った場所です。もしかすると、隣席のムッシュがあなたの人間観察の対象になるかもしれません。店内はアメリファンだけでなく地元の常連客も多く見られ、活気に満ちています。パリの日常に溶け込む感覚を味わえるのも、このカフェの大きな魅力のひとつと言えるでしょう。

訪問前に知っておきたいポイント

このカフェを存分に楽しむために、いくつか事前に知っておくと便利なことがあります。まずアクセスは、メトロ2号線のブランシュ駅が最も便利です。駅を出て徒歩2〜3分の距離に位置しています。モンマルトルの丘の上に建つサクレ・クール寺院からはやや歩くため、散策の起点か終点に設定するのがおすすめです。

営業時間は朝から夜まで通しで開いていることが多いですが、ランチタイム(12時〜14時頃)やディナータイム(19時以降)は食事客で非常に混み合います。特に週末は行列ができる場合もあります。ゆっくりとアメリの世界に浸りたいなら、午前中やお昼過ぎを狙うのが良いでしょう。予約は基本的に受け付けていないため、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。

写真撮影はマナーを守れば問題ありません。ただしこのカフェは観光名所であると同時に地元の人々の憩いの場でもあるため、他のお客の顔が写らないよう配慮し、フラッシュは使用せず、長時間席を使って撮影会を行うのは控えましょう。店員さんや他の客への礼儀を忘れず、素敵な思い出をカメラに収めてください。

注文時には簡単なフランス語があるとスムーズです。挨拶の「Bonjour(ボンジュール)」、ありがとうの「Merci(メルシー)」、会計をお願いするときの「L’addition, s’il vous plaît(ラディスィオン、シル・ヴ・プレ)」だけでも、コミュニケーションがぐっと楽しくなります。もちろん、多くの場合英語メニューも用意されており、観光客に慣れているので心配はいりません。

日常の舞台、コリーニョンの八百屋「オ・マルシェ・ド・ラ・ビュット」

カフェ・デ・ドゥ・ムーランから少し坂を上ったところにあるのが、アメリが住むアパルトマンの下に位置する八百屋「オ・マルシェ・ド・ラ・ビュット(Au Marché de la Butte)」です。映画の場面では、陰険な店主コリーニョンが店番をしている間に、アメリがささやかな仕返しをするユーモラスなシーンの舞台となりました。特に印象的なのは、アメリが豆の袋に手をざっくりと差し入れ、その感触を楽しむ場面です。

指先で味わう、日常のささやかな幸せ

実際の店舗は映画の看板とは異なりますが、緑色の外観と店先に所狭しと並べられた色鮮やかな新鮮な野菜や果物が、映画の世界観を思い起こさせます。今も地元の人々に親しまれる食料品店(Épicerie)として営業しており、パリの日常の息吹を肌で感じられる貴重なスポットです。

店の前に立つと、トマトの赤、ズッキーニの緑、アプリコットのオレンジが目に飛び込んできます。その鮮やかな色彩はまさにアメリの映画のカラーパレットのよう。店内に一歩足を踏み入れると、チーズやハム、ワイン、スパイスが所狭しと並び、食欲をそそる香りが漂っています。映画でアメリが手を入れた豆の袋は残念ながら見当たりませんでしたが、量り売りされているオリーブやナッツを見ていると、彼女のように指先で世界の感触を確かめたくなる気持ちが湧いてきます。

この店の魅力は、単なるロケ地としてだけでなく、本物のパリの「マルシェ(市場)」の雰囲気を体験できるところにあります。スーパーマーケットとは違い、店主と直接会話ができる場所です。欲しいものを指差して伝えたり、おすすめを尋ねたりすることで、言葉が完璧でなくても笑顔やジェスチャーで心が通じ合います。

パリジェンヌ気分で楽しくお買い物

訪れた際には、ぜひお買い物を楽しんでみてください。パリジェンヌになった気分でマルシェショッピングを満喫できる絶好のチャンスです。ここでの買い物にはいくつかのポイントがあります。

まず、商品は勝手に取らずに、欲しいものがあれば店員さんに「Je voudrais ceci, s’il vous plaît(ジュ・ヴドレ・スシ、シル・ヴ・プレ / これをください)」と指差して伝えましょう。量り売りの場合は、欲しい量を伝えます。「Un peu(アン・プー / 少しだけ)」や「Deux cents grammes(ドゥ・サン・グラム / 200グラム)」といった簡単な表現で十分です。

また、エコバッグ(Sac de courses)を持参することをおすすめします。フランスでは環境保護の観点からレジ袋が有料か、あるいはもらえないことが多いです。おしゃれな布製のエコバッグを肩にかけていれば、地元の人と同じ気分を味わえます。

何を買うか迷ったときは、ぜひ季節のフルーツを選んでみてください。春なら苺(Fraise)、夏にはサクランボ(Cerise)や桃(Pêche)、秋にはブドウ(Raisin)や洋梨(Poire)がおすすめです。ホテルの部屋に持ち帰って味わえば、旅の思い出に残る特別な味になるでしょう。近くのパン屋でバゲットを買い、こちらの店でチーズや生ハムを手に入れてモンマルトルの丘の上で即席ピクニックを楽しむのも贅沢な過ごし方です。旅先でその土地の味覚を堪能することは、文化を深く理解する一番の近道。コリーニョンの八百屋は、その入口となってくれる場所なのです。

丘の上からパリを見守る、サクレ・クール寺院

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モンマルトルの丘の頂上にそびえる白亜のドーム、サクレ・クール寺院。その姿はパリのどの街角からも望むことができ、市内の象徴的なランドマークとなっています。映画『アメリ』では、彼女がニノを宝探しゲームに誘う、ロマンチックで少し神秘的な舞台として描かれました。

アメリが仕掛けた宝探しの舞台

アメリは、拾ったニノのアルバムを返すために彼をサクレ・クール寺院に呼び出します。寺院前の広場にある双眼鏡をのぞくと、そこにはアメリからの矢印の指示が見えます。その矢印に従って階段を駆け降り、メリーゴーランドへ、そして駅へ導かれていく…。まさにあの胸が高鳴る宝探しのスタート地点がここです。

実際に寺院の前の広場に立つと、目の前に広がるパリの壮大な眺望に息を飲みます。エッフェル塔、ノートルダム大聖堂(再建中ですが)、オペラ・ガルニエなど、パリを代表する名所がまるでミニチュアのように見渡せます。この風景を眺めていると、時間の経過も忘れてしまうほど。アメリがこの場所を選んだ理由が自然と理解できるのです。この壮麗なパノラマは、どんな物語の幕開けにもふさわしい特別な高揚感をもたらします。

寺院内部には、ロマネスクとビザンチン様式が融合した厳かな空間が広がっています。なかでも後陣の天井を飾るフランス最大級のモザイク画『キリストの聖心』は圧倒的な美しさ。外の賑わいとは打って変わって、静寂に包まれた堂内で、ステンドグラスから差し込む光を浴びると、心が洗われるような穏やかな感覚に浸れます。ここは祈りの場。敬虔な思いをもって静かにこの空間を味わいましょう。

サクレ・クール寺院を訪れる際のポイント

サクレ・クール寺院を訪れる際には、いくつか留意しておきたいポイントがあります。まず入場は無料ですが、ドームに登る場合は有料です。ドームの上からの景色は格別ですが、狭い螺旋階段が約300段続くため、体力と時間に余裕がある方におすすめします。訪問前には公式サイトで最新の開館時間や料金をチェックするのが安心です。サクレ・クール寺院公式サイトにはミサの時間なども掲載されています。

服装にも配慮が必要です。ここはカトリックの重要な聖堂であり、神聖な祈りの場です。過度に肌を露出する服装(タンクトップやショートパンツなど)は入場を拒否される場合があります。特に夏季に訪れる際は、肩や膝を覆えるストールやカーディガンを一枚持参すると安心です。アパレル業に携わる立場から言うと、旅先でのTPOに合わせた服装も旅の楽しみの一つ。涼しく品のあるリネンシャツやロングスカートなどがおすすめです。

また残念ながら、サクレ・クール寺院周辺は観光客を狙った軽犯罪が多いエリアとして知られています。特に寺院へ続く階段の下付近では、「ミサンガ売り」と呼ばれる人々が観光客の腕に強引にミサンガを巻きつけ、高額請求をするトラブルが多発しています。声をかけられても毅然と「Non, merci(ノン、メルシー/いいえ結構です)」と断り、決して立ち止まらないようにしましょう。万が一腕を掴まれそうになったら、すぐその場を離れることが大切です。スリも頻発しているため、バッグは体の前に抱え込み、貴重品の管理に十分注意を払いましょう。美しい景色に心を奪われがちですが、常に警戒心を忘れずに。

夢見るメリーゴーランド

サクレ・クール寺院の階段を下りた先にあるサン・ピエール広場には、映画にも登場した美しいメリーゴーランドがあります。アメリがニノを導いた宝探しの中継地点であり、ふたりの運命が交差する予感を感じさせるロマンティックな場所です。白馬や華やかな装飾が施されたこのメリーゴーランドは、青空と白亜の寺院を背景に回る姿がまるで夢のよう。実際に乗ってみるのも素敵な体験です。子どもたちの楽しげな声とオルゴールの優しいメロディに包まれ、ゆったりと回る木馬に揺られていると、日常の悩みも忘れて、幼い頃の純真な気持ちに戻れるような気がします。

パリの地下を駆け抜ける、ラマルク=コランクール駅

モンマルトルの丘の北側に位置するメトロ12号線のラマルク=コランクール(Lamarck – Caulaincourt)駅は、映画『アメリ』の中で彼女の優しさが最も印象的に描かれた場所の一つです。アメリが盲目の老人の手を取り、見えない街の風景や通り過ぎる人々の様子を豊かな言葉で伝えるシーンは、老人の驚きと喜びに満ちた表情が観る者の心を深く打ちます。

盲目の老人を案内した、優しさの螺旋階段

この駅の最大の魅力は、地上へ続く美しい二重螺旋階段にあります。映画の中では、アメリと老人がゆっくりとこの階段を下りていく場面が映されました。実際に訪れると、優雅に描かれた曲線やタイル貼りの壁が醸し出すレトロな趣に引き込まれます。パリの多くのメトロ駅が持つ芸術的な魅力を、この駅は一際強く感じさせてくれます。

地上に出ると、観光客で賑わう丘の上とは異なり、穏やかな雰囲気が漂うエリアに出ます。オシャレなカフェやブティックが点在し、パリの地元の生活の一端を垣間見ることができるでしょう。映画のワンシーンを思い出しながら、アメリが老人に語りかけたように、パン屋から漂う香ばしい香りやショーウィンドウに陳列されたお菓子の華やかな色彩を、一つひとつ丁寧に味わいながら歩いてみてください。何気ない街並みが特別なものに見えてくるはずです。

写真撮影スポットとしても非常に人気ですが、この駅は公共交通機関の一部であるため、通勤・通学の地元の人々の妨げにならないよう、撮影は手早く行い、周囲への配慮を忘れないようにしましょう。螺旋階段の美しい構図を狙うには、比較的人が少ない時間帯を選ぶのが賢明です。昼間の自然光も魅力的ですが、夜になると照明に照らされた姿が幻想的な雰囲気を醸し出します。

パリのメトロを上手に利用するために

この駅を訪れる機会に、パリのメトロの利用方法も覚えておくと便利です。パリのメトロ網は非常に充実しており、市内のほぼ全域に簡単にアクセス可能です。チケットにはいくつか種類があり、観光客に特に適したものとしては、1回券の「Ticket t+」、1日乗り放題の「Mobilis」、そしてICカード方式の「Navigo Découverte」があります。

  • Ticket t+:1回切符。10枚セットのカルネ(Carnet)で購入すると割安になるため、短距離の移動が多い日に便利です。
  • Mobilis:ゾーン指定の1日乗り放題券。滞在範囲が限られている場合に最適です。
  • Navigo Découverte:1週間または1カ月単位でチャージ可能なICカード。週の途中での購入は損になることもありますが、滞在期間と曜日が合えば非常にお得に使えます。購入時には証明写真(2.5cm×3cm)が必要で、日本から用意していくとスムーズです。

チケットは駅の券売機や窓口で購入可能です。券売機は日本語対応のものも増えていますが、クレジットカードや紙幣が使えないトラブルが起きることもあるため、小銭や複数のカードを手元に用意しておくと安心です。パリの最新の交通情報は、RATP(パリ交通公団)の公式サイトで確認するのが最も確実です。

改札はチケットを挿入するとゲートが開く仕組みで、出口ではチケットの提示は不要です。ただし、稀に検札があるため、目的地に到着するまではチケットを失くさないよう注意してください。スリ対策としては、メトロの車内や駅構内で特に手荷物をしっかり管理することが重要です。リュックは前に抱える、バッグのファスナーは確実に閉めるなど、基本的な対策を徹底すればトラブルを防ぐことができます。

水面に映るパリの詩、サン・マルタン運河

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モンマルトルの賑わいから少し離れたパリ10区には、静かな時間が流れるサン・マルタン運河があります。映画『アメリ』の中で、主人公アメリが心を落ち着けたい時や物思いにふける際に訪れ、石を水面に投げて水切りをする象徴的なスポットです。彼女が軽やかに石を投げ、水面を跳ねる様子は、彼女の自由な精神や日常の中の小さな喜びを映し出しているように感じられます。

アメリの水切りと心の解放

実際にサン・マルタン運河を訪れてみると、映画で描かれた通りの穏やかな風景が広がっています。緑に包まれた並木道や趣ある鉄製の橋、ゆっくりと水門を通り抜ける遊覧船など、パリの中心部とは一線を画したゆったりした空気があります。運河沿いの石畳の遊歩道に腰を下ろして水面を眺めると、アメリのように日々の心配やストレスがふっと和らぐ穏やかな気持ちを味わえます。

もちろん、アメリを真似て水切りに挑戦してみるのも楽しい体験です。平らな石を探し、手首のスナップを効かせて投げてみましょう。上手く石が跳ねても、すぐに沈んでしまっても、その瞬間自体が楽しい思い出になります。周囲の人に当たらないよう、安全には十分に気をつけてくださいね。

この運河はナポレオンの指示で19世紀初頭に造られた歴史あるものです。かつては物資輸送の重要な役割を担っていましたが、現在はパリ市民の憩いの場として親しまれています。水門が開閉し、船の水位を調整する様子は見飽きることがありません。技術と自然が調和する、パリのもう一つの顔を感じられる場所です。

運河沿いの楽しみ方

サン・マルタン運河周辺は、歩くだけでも十分に楽しめますが、多彩な過ごし方ができる魅力的な場所でもあります。晴れた日には、地元のパン屋さんでサンドイッチや飲み物を購入して運河沿いでピクニックをするのがパリっ子の定番。芝生に座って読書をしたり、友人と会話を楽しむ人々の様子は、見ているだけで心が和みます。

さらに、このエリアにはおしゃれなカフェやビストロ、個性的なブティックや古本屋が点在しています。特に運河沿いのヴァルミー通り(Quai de Valmy)やジェマップ通り(Quai de Jemmapes)は散策に最適です。歩き疲れた際には、テラス席のあるカフェで休憩を。運河を行き交う人々を眺めながら過ごす時間は、何にも代えがたい贅沢なひとときとなるでしょう。

時間に余裕があれば、運河クルーズに参加するのもおすすめです。バスティーユからヴィレット貯水池まで、水門を通過しながら進む船旅は、陸上とは異なる角度からパリの風景を楽しむことができます。アメリが見た景色を水上から体験できる、特別な時間になるはずです。クルーズ会社の情報は、パリ観光局公式サイトなどでご確認いただけます。

旅立ちと再会の場所、パリ東駅 (Gare de l’Est)

パリにはいくつかの主要な駅がありますが、『アメリ』の物語において特に重要な役割を担うのがパリ東駅(Gare de l’Est)です。ここは、ニノが働く店のすぐ近くであり、アメリが彼の大切な証明写真のアルバムを見つける場所でもあります。また、物語の後半で二人がすれ違い、再び運命が動き出すきっかけとなるフォトマシーン(Photomaton)が設置されていた場所でもあります。

ニノとのすれ違い、運命を結ぶフォトマシーン

パリ東駅は、フランス東部やドイツ、スイス方面へ向かう長距離列車が発着する壮大で歴史的なターミナル駅です。19世紀に建てられた駅舎は、美しい正面玄関と鉄骨とガラスが組み合わさった広々としたコンコースが特徴的で、一歩足を踏み入れると、出発を控えた人々の期待と再会を喜ぶ人々の安堵感が入り交じった独特の熱気に包まれます。

映画では、アメリがニノを追ってこの駅にやって来ます。そして象徴的な証明写真の機械の前で、二人の心がすれ違う場面が描かれています。残念ながら映画で使われたフォトマシーンは現在撤去されているようですが、駅の構内を歩くとあのシーンが鮮明に蘇ってきます。雑踏の中、必死にニノを探すアメリの気持ちになって、柱の陰から静かにコンコースを見渡してみる。そんな感じで映画の世界に浸るのも、ロケ地巡りの楽しみの一つです。

駅構内には多くのカフェや売店があり、列車の出発案内を眺めながらコーヒーを一杯楽しむのも旅情あふれるひとときです。ここから旅立つ人、ここに帰ってくる人……数え切れないドラマがこの場所で繰り広げられてきたことを思うと、しみじみとした気持ちになります。

フランス国鉄(SNCF)の利用方法

もしパリから他の都市へ移動する予定があるなら、東駅のようなターミナル駅を利用する機会があるかもしれません。フランス国鉄(SNCF)の利用は、一度慣れてしまえば非常に簡単です。

チケットはSNCFの公式サイトやアプリで事前購入するのが最も便利で、割引価格で手に入ることもあります。もちろん、駅の窓口や自動券売機でも購入可能です。Eチケットの場合はスマートフォンの画面を見せるだけで乗車できますが、紙のチケットの場合は、乗車前に駅のホーム入り口付近にある黄色い刻印機(Composteur)で必ず打刻(Composter)してください。これを怠ると、車内検札で罰金を科されることがあります。

どの列車がどのホーム(Voie)から出発するかは、出発時刻の約20分前になると駅内の大きな電光掲示板(Tableau d’affichage)に表示されます。自分の乗る列車番号と行き先を確認し、表示されたホームへ向かいましょう。フランスの列車は定刻通りに出発することが多いため、時間に余裕を持って行動することをおすすめします。何か困ったことがあれば、駅のインフォメーションセンター(Accueil)のスタッフに尋ねると親切に対応してくれます。

アメリの世界観を旅するモデルコース

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ここまで紹介してきたロケ地を効率的に、そして心ゆくまで満喫するためのモデルコースをご提案します。旅のスタイルやスケジュールに応じて、自由にカスタマイズしてみてください。

半日で巡るモンマルトル満喫プラン

時間に余裕がないものの、アメリの世界観をしっかり味わいたい方にぴったりのコースです。

  • スタート:メトロ12号線 アベス(Abbesses)駅

アール・ヌーヴォー調の美しい駅舎から旅を始めましょう。まずは、壁一面に世界各国の言葉で「ジュテーム(愛してる)」が記された「ジュテームの壁」で記念撮影を。

  • ① カフェ・デ・ドゥ・ムーラン(所要時間:約1時間)

アベス駅から徒歩約10分。旅の最初に、アメリの名物クリーム・ブリュレでエネルギー補給を。午前早めの時間帯なら比較的空いています。

  • ② オ・マルシェ・ド・ラ・ビュット(所要時間:約20分)

カフェから坂を上がってすぐ。地元の生活を垣間見て、季節の果物を少しお買い物。

  • ③ サクレ・クール寺院とテルトル広場(所要時間:約1時間半)

さらに丘を登り、画家たちが集うテルトル広場を散策。似顔絵を描いてもらうのも良い思い出に。白亜のサクレ・クール寺院内を見学し、広場からパリの絶景を楽しみましょう。アメリの宝探しシーンを思い浮かべながら、麓にあるメリーゴーランドもぜひチェックしてください。

  • ゴール:メトロ2号線 アンヴェール(Anvers)駅

サクレ・クールの麓からフニクレール(ケーブルカー)で下るか、階段を歩いて降りてアンヴェール駅から次の目的地へ向かいましょう。

1日かけてじっくり楽しむ満喫プラン

時間にゆとりがあり、アメリの世界にじっくり浸りたい方におすすめの充実した1日プランです。

  • 午前:サン・マルタン運河で朝の散歩(約2時間)

メトロ5号線ジャック・ボンセルジャン(Jacques Bonsergent)駅付近からスタート。運河沿いをゆったり散策し、アメリにならって石を水面で跳ねさせてみたり、オシャレなカフェで朝食を楽しむのも素敵です。

  • 移動:バスまたはメトロでモンマルトルへ
  • 昼:モンマルトル散策とランチ(約3時間)

ラマルク=コランクール駅で下車し、映画のワンシーンを思い出しながら螺旋階段を体験。落ち着いた雰囲気のモンマルトル北側を歩き、隠れ家的なビストロでランチを堪能。さらにテルトル広場やモンマルトル美術館を訪れて、芸術の街の空気を満喫しましょう。

  • 午後:アメリの聖地巡礼(約3時間)

サクレ・クール寺院を訪れて絶景を味わい、その後丘を下って「オ・マルシェ・ド・ラ・ビュット」へ。旅のハイライト、カフェ・デ・ドゥ・ムーランで優雅な午後のカフェタイムを楽しみます。クリーム・ブリュレを味わいながら、旅の思い出をノートに書き留める贅沢なひとときを過ごせます。

  • 夕方以降:ムーラン・ルージュとディナー

カフェ近くのムーラン・ルージュにある赤い風車の前で記念撮影。夜はモンマルトルの洒落たレストランで食事をするか、少し足を伸ばしてオペラ地区などで華やかな夜のひとときを楽しむのもおすすめです。

旅の準備と安全対策 – 安心してアメリになるために

アメリのように軽やかにパリの街を歩き回るためには、事前の準備と安全意識が欠かせません。特に女性の一人旅や少人数での旅行では、少し知識があるだけで安心感が大きく変わります。

パリ散策に役立つ持ち物リスト

パリ、特にモンマルトルのエリアは石畳や坂道が多いのが特徴です。ファッションも気になりますが、まずは歩きやすい靴の用意を優先しましょう。スニーカーはもちろん、厚めの底のフラットシューズや安定感のあるウェッジソールもおすすめです。新品の靴は靴擦れを起こしやすいので、履き慣れた靴を選ぶと良いでしょう。

バッグは両手が自由になるショルダーやリュックが便利ですが、スリ対策としては身体の前で持てるタイプが最適です。ファスナーでしっかり閉じられるデザインを選ぶことも重要です。

また、季節に合わせた服装の準備も欠かせません。夏でも朝晩の気温の変化や急な雨を考慮し、薄手のカーディガンや折りたたみ傘を常にバッグに入れておくと安心です。冬は石畳からの冷えが厳しいため、暖かい靴下やインナーでしっかり防寒してください。さらに教会など神聖な場所に訪れる際には、肌の露出を控えられるストールが一枚あると便利です。

女性が気をつけるべきスリ・置き引き防止の安全ポイント

残念ながらパリではスリや置き引きといった軽犯罪が多発しています。観光客が集まる場所はターゲットになりやすいので、常に警戒心を持つことが重要です。貴重品はホテルのセーフティボックスに預けるのが基本で、持ち歩く現金は必要最低限にし、クレジットカードと分散して携帯しましょう。

歩きながらスマートフォンを操作する「ながらスマホ」はひったくりの狙い目です。地図を確認する場合も、立ち止まって店の壁側など安全な場所で行うことをおすすめします。カフェやレストランでテーブルの上にスマホや財布を置くのは避けましょう。一瞬の隙に盗まれる危険があります。

メトロの車内や駅のエスカレーターなど、混雑する場所では特に注意が必要です。リュックは前に抱え、ショルダーバッグも体の前でしっかり押さえるのが基本です。知らない人に急に話しかけられたり、体をぶつけられたりした場合は、その場から離れて持ち物を確認してください。それはスリの陽動の可能性があります。万一パスポートを盗まれた場合は、すぐに最寄りの警察署へ行き盗難証明書を発行してもらい、在フランス日本国大使館に連絡を取りましょう。事前に連絡先を控えておくと、いざという時に慌てず対応できます。

トラブル時に役立つフランス語のフレーズ

完璧な会話ができなくても、いくつかの基本フレーズを覚えておくだけで現地でのコミュニケーションがスムーズになり、トラブル回避にもつながります。

  • Excusez-moi (エクスキューゼ・モワ):すみません(人を呼ぶ時)
  • Parlez-vous anglais? (パルレ・ヴ・アングレ?):英語を話せますか?
  • Je suis perdu(e) (ジュ・スイ・ペルデュ):道に迷いました(女性形は最後に-eをつけて発音)
  • Au secours! (オ・スクール!):助けて!
  • Laissez-moi tranquille! (レセ・モワ・トランキル!):ほっといて!

これらの言葉を知っているだけでも、いざという時の心強い味方になるでしょう。

モンマルトルの丘で、あなただけの物語を見つける旅

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映画『アメリ』のロケ地を訪ねる旅は、ただ映画のシーンをなぞるだけの体験ではありません。むしろ、アメリという独特の視点を通して、パリという街の奥底に秘められた魅力を改めて見つめ直す旅なのです。彼女が心を寄せたモンマルトルの坂道、日々の喧騒、そしてそこで営まれる人々のささやかな暮らし。それら一つひとつに触れることで、スクリーンの物語が決して虚構ではなく、現実と繋がっていることを感じ取れます。

カフェ・デ・ドゥ・ムーランの赤い椅子に腰掛け、クリーム・ブリュレを味わう瞬間、あなたは単なる観光客から物語の登場人物の一人へと変わるでしょう。サクレ・クール寺院の階段に座り、パリの街を見下ろすとき、アメリが抱いたであろう街への愛おしさや、かすかな孤独感が胸の中にそっと流れ込んでくるかもしれません。

この旅で最も大切なのは、五感を最大限に活かすことです。パン屋から立ち上る甘い香り、石畳を踏みしめる足裏の感触、カフェの賑わい、そしてサン・マルタン運河の穏やかな水面に煌めく光。アメリがそうであったように、日常の中に隠された小さな幸せや美しさを見つけることこそが、この旅を何倍にも豊かにしてくれる秘訣なのです。

モンマルトルの丘は昔も今も、夢を追う人々をやさしく迎え入れてきました。あなたもその丘の上で、あなただけの小さな発見をして、自分だけの物語を紡いでみてください。旅の終わりには、きっとアメリのように、日常をほんの少しだけ素敵に変える魔法を手にしていることでしょう。

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この記事を書いたトラベルライター

アパレル企業で培ったセンスを活かして、ヨーロッパの街角を歩き回っています。初めての海外旅行でも安心できるよう、ちょっとお洒落で実用的な旅のヒントをお届け。アートとファッション好きな方、一緒に旅しましょう!

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