まるでファンタジー映画のセットに迷い込んだかのような、圧倒的な光景。巨大すぎる花崗岩の塊が、家々の屋根となり、壁となり、時には家そのものを飲み込んでいるようにさえ見えます。ここはポルトガルの中央部、スペインとの国境にほど近い場所にひっそりと佇む村、モンサント。「もっともポルトガルらしい村」という栄誉ある称号を持つこの場所は、訪れる者の常識を優しく揺さぶる、石と人間が共存する奇跡の村です。
なぜ人々は、これほどまでに巨大な岩と共に暮らすことを選んだのでしょうか。そこには、厳しい自然環境を生き抜くための知恵と、連綿と受け継がれてきた歴史、そして何よりも、自然に対する深い敬意がありました。今回の旅では、このモンサントの石畳の道を一歩一歩踏みしめながら、村の歴史を紐解き、驚異的な建築の秘密に迫り、そして現代に生きる人々の暮らしに触れてみたいと思います。それはきっと、私たちがこれからの未来を考える上で、大切な何かを教えてくれる、サステナブルな視点に満ちた旅になるはずです。
さあ、時を超えた石の村への旅に、一緒に出かけましょう。
ようこそ、巨石が微笑む村モンサントへ

ポルトガルの首都リスボンから北東へ車で約3時間走ると、高速道路を降りてオリーブ畑やコルク樫の木々が広がる静かな田園風景が続きます。その中を進んでいくと、突然目の前に異様な光景が現れます。小高い丘の上に巨大な岩が積み重なり、その隙間にオレンジ色の屋根を持つ家々がぎっしりと密集しているのです。これが、モンサント村との初めての出会いでした。
村の入口に車を停め、石畳の坂を登り始めると、すぐに非現実的な世界に引き込まれます。空気は澄み切っており、耳に入るのは鳥のさえずりや時折吹き抜ける風の音ばかり。そして見回す限り、どこを見ても必ず巨大な花崗岩が存在しています。家の壁は岩の一部でできていたり、レストランの天井が岩だったり、路地の片隅にはまるで意思を持つかのように堂々と鎮座する岩があります。その大きさは数メートルから数十メートルに及び、それぞれが悠久の時を刻み、苔むし複雑な模様を浮かび上がらせています。
人々は岩を削ったり移動させたりするのではなく、そこに岩があることを前提に、その形に沿って家を建て、道を作りました。まるで人間が後から訪れて岩の隙間に住まわせてもらっているかのような光景です。この徹底した「自然との共生」の姿勢こそが、モンサントの唯一無二の魅力を形作っているのでしょう。1938年に行われたコンテストで「もっともポルトガルらしい村」に選ばれたのも、このようなポルトガルの人々の素朴で強靭な精神性が見事に表れているからかもしれません。
時を遡る旅:モンサントの歴史を紐解く
この村の独特な景観は、一夜にして形成されたものではありません。その背後には、多くの民族がこの地を支配し、戦略的な要地として活用してきた、長く複雑な歴史が刻み込まれています。モンサントの石畳を歩むことは、まさに歴史の層を遡る旅そのものと言えるでしょう。
砦としての起源とテンプル騎士団の関与
モンサントの歴史は非常に古く、その起源はローマ時代以前、ケルト系ルシタニア人がこの地に定住した時期にまでさかのぼると伝えられています。標高758メートルの丘の上という立地は、視界が広がり、外敵の侵入を防ぎやすい天然の要塞の役割を果たしました。その後、ローマ帝国、西ゴート王国を経て、8世紀以降はイスラム勢力(ムーア人)が支配します。この土地が持つ戦略的な価値は、時代を超えて常に不変でした。
モンサントの歴史が大きく動くのは、12世紀に起こったレコンキスタ(キリスト教徒による国土回復運動)の時代です。1165年、ポルトガル初代国王アフォンソ1世がムーア人からこの地域を奪還し、その防衛と開発を聖テンプル騎士団に委ねました。謎に満ちたテンプル騎士団は、モンサントの丘の頂上に堅牢な城を築き、国境防衛の要所としました。現在、村の頂上に残る城跡は、この時期にテンプル騎士団によって建設または改修されたものが基盤となっています。彼らは、この岩だらけの地形を巧みに利用し、攻略困難な要塞を築き上げたことでしょう。
その後、テンプル騎士団の解散に伴い、その財産と役割はキリスト騎士団に引き継がれ、モンサントは国境の城塞都市として発展を続けます。16世紀にはマヌエル1世から都市の特権(フォラル)が与えられ、村は最盛期を迎えました。村内に点在する、天球儀や十字架が彫られたマヌエル様式の美しい窓枠や出入り口は、この繁栄を今日に伝える証です。
「もっともポルトガルらしい村」という誇りと運命
時代が進み、国境線が安定し、近代化の波が押し寄せると、モンサントのような山頂の村は徐々にその重要性を失っていきました。しかし、1938年、モンサントは再び注目を浴びます。サラザール政権時代に開催された「ポルトガルの村」コンテストで、多くの候補の中から見事「もっともポルトガルらしい村」として選ばれたのです。この称号は、ポルトガルの伝統的な生活様式や文化が色濃く残っている点が高く評価されました。
この栄誉は、モンサントにとって大きな誇りであると同時に、ひとつの「宿命」を背負うことも意味しました。称号の獲得と共に、村の景観保護のために極めて厳格な建築規制が課せられたのです。新築はもちろんのこと、既存の住居の改築においても、伝統的な石造りの外観を忠実に守ることが求められました。その結果、モンサントは近代化の波から取り残され、中世の趣そのままに風景が「凍結保存」された形となったのです。
現代のサステナブルな視点から見れば、この規制は非常に先進的な措置だったと言えるでしょう。廃棄して新築を繰り返すのではなく、現存するものを大切に使い続け、自然と調和した景観を守り抜く。これにより、国の政策は意図しない形で、モンサントという独自の文化遺産を未来へと継承する役割を果たしたのです。ポルトガル政府観光局公式サイトでは、モンサントは「歴史的な村(Aldeias Históricas)」のひとつとして、その文化的価値の高さが紹介されています。この称号がなければ、現在のモンサントの姿は存在しなかったかもしれないと考えると、歴史の面白さを改めて感じずにはいられません。
石と共に生きる建築:驚異の家々を巡る

モンサントの魅力は何と言っても、その独特な建築様式にあります。村を歩き進めると、まるで岩と人間が知恵比べをしながら生み出した芸術作品のような家々に次々と出会えます。
岩を壁や天井に取り入れ、自然と一体化した住まい
モンサントの家々は「カーザ・デ・ウマ・ソ・テリャ(Casa de uma só telha)」、すなわち「一枚岩の屋根の家」と呼ばれることがあります。これは、巨大な花崗岩をそのまま屋根として利用している住宅が存在することに由来しています。想像してみてください。家の天井が自然が生み出した数十トン、あるいは数百トンにも及ぶ巨大な岩であるということを。その下で暮らす感覚は、一体どのようなものでしょうか。
実際に村を歩いてみると、その多様な形態に驚かされます。二つの巨石の間に壁を築き、居住空間としている家。巨大な岩を片側の壁として使い、そこから家屋を増築した家。地面からせり出した岩盤を床の一部に活用している住宅もあります。また、岩のくぼみを上手に利用して貯蔵庫や家畜小屋にしている場所も見受けられます。
なぜこれほどまでに岩を避けるのではなく、取り入れる建築様式が発展したのでしょうか。その理由の一つは、この硬い花崗岩を切り出し、移動させる技術や労力が非常に大変だったことにあります。そう考えれば、最初からそこにある岩を最大限に活用する方が理にかなっています。また、この分厚い岩は、夏の強烈な日差しを遮って涼しさを保ち、冬には冷たい風から家を守る天然の断熱材やシェルターとしての機能も持ち合わせていました。厳しい自然環境の中で生き抜くための、非常に賢明な知恵だったのです。
家の壁は周辺で採取される花崗岩を積み上げて造られており、オレンジ色の屋根瓦との色彩の対比が青空によく映えます。窓辺にはゼラニウムやブーゲンビリアの鉢植えが飾られ、無骨な石の世界に明るさと温かみを添えています。人々の暮らしの温もりが、この厳しい自然環境と見事に調和しているのです。
迷宮のごとき石畳の路地を探訪する
モンサントの散策は、まるで迷路を探検しているかのような体験です。細く入り組んだ道には急な坂や階段が連なり、一台の車がやっと通れるほどの狭さです。かつて荷物を運ぶロバが唯一の交通手段であったことも納得できます。
この石畳の道を歩く際に欠かせないのが「歩きやすい靴」の用意です。できれば滑りにくいソールのスニーカーやトレッキングシューズをおすすめします。長年多くの人々に踏まれて磨かれた石畳は、特に雨の日や朝露に濡れている時には非常に滑りやすくなります。ヒールのある靴やサンダルでの散策は危険なので、避けるべきです。また、村全体が坂道だらけなので、体力に自信がない方は無理せず休憩をこまめに取りながら、自分のペースで歩くことを心がけましょう。
散策中に見逃せないフォトジェニックなスポットもいくつかあります。村の中心部近くにある「ルーポの塔(Torre de Lucano)」は、美しいマヌエル様式の窓や、屋根の上に乗った銀色の雄鶏の風見鶏が印象的です。この雄鶏は1938年のコンテストで優勝した際のトロフィーとして贈られたものだそうです。また、どこかユーモラスな表情をした豚の石像も、人気の撮影ポイントとなっています。
村を歩くうえで最も重要なマナーは、住民の生活空間への敬意を払うことです。観光地ではありますが、ここは実際に人々が暮らす場所。家の窓から中を覗き込んだり、私有地である庭先へ無断で立ち入ったりすることは禁止されています。静かに敬意をもって散策しましょう。持ち込んだペットボトルやごみは必ず持ち帰ることが、旅人としての責任です。美しい村の風景を未来に残すために、私たち一人ひとりができる小さな配慮なのです。
村の頂へ:モンサント城からの絶景
村の散策を楽しんだ後、ぜひ訪れてほしいのが丘の頂上にそびえるモンサント城です。村の中心からさらに岩場を縫うように続く小道を約20分ほど登ると、その静かにたたずむ廃墟の城が見えてきます。
廃墟の城が伝えるもの
モンサント城への道のりは決して楽ではありません。足場の悪い岩場や急な階段が続きますが、登るにつれて視界が開け、村の全景や周囲の壮大な風景が広がる様子は、疲れを忘れさせるほどの感動をもたらします。
城壁の中に足を踏み入れると、まるで天空の城にいるかのような感覚になります。かつてテンプル騎士団が築き、その後も改修が重ねられたこの城は、19世紀に落雷で火薬庫が爆発したことで大部分が崩壊しました。現在は城壁やいくつかの建物の基礎、礼拝堂の遺跡が残るのみですが、その廃墟の姿がかえって想像力をかき立てます。風化した石壁に触れると、ここで繰り広げられた騎士たちの攻防や人々の祈りの声が聞こえてくるような気がします。
城内には、岩をくり抜いて造られた貯水槽や、墓石が並ぶ不思議な空間もあります。特に印象深いのが、サン・ミゲル礼拝堂の遺跡の隣にある岩に直接彫られた人型の墓です。誰の墓なのか詳しくはわかっていませんが、この地の神秘的な雰囲気を一層際立たせています。
パノラマビューと持続可能な視点
城壁の最も高い場所に立つと、360度のパノラマビューが広がります。眼下にはまるでミニチュアのように見えるモンサントの村が広がり、オレンジ色の屋根と巨大な岩の織りなすユニークな光景を鳥の目線で楽しむことができます。視線をさらに遠くに向けると、広大なベイラ・バイシャ地方の平原が地平線の彼方まで続きます。遠くにはスペインの山々も望め、この地が国境の要衝であったことを改めて実感させられます。
この壮大な景色を眺めていると、自然の持つ圧倒的な力と、その中で懸命に生きてきた人の営みの小ささ、そして尊さを同時に感じ取ることができます。人々は自然を支配しようとするのではなく、その一部として調和し共生する道を選びました。それはまさに持続可能な暮らしの原点とも言えるでしょう。このモンサント城からの眺めは、単なる美しい景色を超え、現代の私たちが忘れかけている大切な何かを思い起こさせる特別な体験となるはずです。なお、日差しを遮るものがないため、夏場に訪れる際は帽子の着用と十分な水分補給をお忘れなく。
モンサントでの暮らし:伝統と現代の交差点

この非日常的な風景の中で、人々はどのような日々を過ごしているのでしょうか。観光地としての顔の裏側にある、モンサントの本当の姿に少しだけ触れてみましょう。
村の住民の日常と交流
現在のモンサントの常住人口は、残念ながら100人を下回っていると言われ、その多くが高齢者です。若い世代は仕事を求めて村を離れ、過疎化がゆっくりと進んでいるのが現状です。村の主な収入源はもちろん観光業で、数軒のレストランやカフェ、お土産屋、そしてゲストハウスが経済を支えています。
それでも村を歩けば、軒先で井戸端会議を楽しむおばあさんたちや、窓辺で日向ぼっこをする猫の姿など、穏やかな日常の光景に出会えます。観光客に対して村人たちはとても親切で、ポルトガル語で「こんにちは」を意味する「Olá(オラ)!」と挨拶すれば、きっと温かい笑顔で「Olá!」と返してくれるでしょう。感謝の言葉は、男性なら「Obrigado(オブリガード)」、女性なら「Obrigada(オブリガーダ)」です。簡単な挨拶だけでも、旅の思い出はより深くなります。
言葉に不安を感じる方もいるかもしれませんが、レストランやゲストハウスでは簡単な英語が通じることが多いです。それでも少しでもポルトガル語を話そうとする姿勢は、地元の人々との距離をぐっと縮めるきっかけになります。スマートフォンの翻訳アプリや簡単な会話集を準備しておくと、もっとスムーズにコミュニケーションが取れるでしょう。
伝統を今に伝える祭り「聖十字架祭」
モンサントにおける伝統を象徴する最も重要な祭りは、毎年5月初旬(通常は5月3日かその直近の日曜日)に催される「聖十字架祭(Festa das Cruzes)」です。この祭りは、中世に村が敵に包囲された伝説に由来しています。
その伝説によれば、長引く包囲戦で村の食料はほぼ尽き、残っていたのは一頭の仔牛とわずかな小麦だけでした。絶望的な状況の中、村人たちは最後の策を講じます。わずかな小麦でケーキを焼き、そのケーキを仔牛に食べさせた上で、その仔牛を城壁外の敵陣へと投げ入れたのです。栄養満点の仔牛を見た敵軍は、「村にはまだこれだけの豊富な食糧が残っているのか。このまま包囲を続けるのは無駄だ」と判断し、撤退していきました。
この伝説を記念するため、祭りの日には若い女性たちが色鮮やかな野の花で飾られた土の壺を頭に乗せて歌いながら城まで行進します。そして城壁の上からその壺を投げ割ります。これはかつて仔牛を投げた行為を象徴しています。また、祭りには「マラス(marafonas)」と呼ばれる、腕を十字の形に組んだ布製の人形も登場します。この人形は幸運をもたらし、悪天候から家を守ると信じられ、村のお土産屋でも見かけることができます。この独特な祭りの詳細は、モンサントが属するイダニャ・ア・ノヴァ市の公式サイトでも紹介されています。もし訪問のタイミングが合えば、ぜひ足を運んでみてください。村が一年で最も賑わう、特別な一日です。
旅の実践ガイド:モンサントへのアクセスと滞在プラン
ここまで読んで、実際にモンサントを訪れたくなった方も多いのではないでしょうか。しかし率直に申し上げると、モンサントは公共交通機関でのアクセスが非常に不便な場所です。そこで、天空の村へ到達するための具体的な方法と滞在のコツを詳しくご紹介します。
モンサントへのアクセス方法:レンタカーが基本
もっとも現実的で自由度の高い移動手段はレンタカーの利用です。リスボンやポルトといった主要都市から高速道路を活用して向かうのが一般的です。
- リスボン出発の場合: 高速道路A1およびA23を経由し、カステロ・ブランコ(Castelo Branco)方面へ。所要時間はおよそ3時間です。
- ポルト出発の場合: 高速道路A1、A25、A23を利用し、約3時間半のドライブとなります。
高速道路を降りると一般道に入ります。道路は整備されていますが、モンサントに近づくにつれて道幅が狭くなり、多くのカーブも現れるため注意が必要です。特に村の入口付近の道は非常に狭く、対向車とのすれ違いが難しい箇所もあるため、運転に自信のない方は麓の駐車場に車を停めて徒歩で登ることをおすすめします。村内は基本的に観光客の車両の乗り入れが制限されています。
ポルトガルで運転するには国際運転免許証が必須です。また、高速道路には日本のETCのような自動料金支払いシステム「Via Verde」が導入されており、多くのレンタカーに搭載されています。もし搭載されていない場合は、後日請求書が送付されたり、郵便局で支払う仕組みなど、レンタカー会社によって対応が異なるため、借りる際に必ず確認してください。
公共交通機関利用時の注意点
公共交通機関でのアクセスをどうしても試みたい、というチャレンジ精神旺盛な方に向けて、その具体的な方法もお伝えしますが、相当な覚悟が必要です。
- ステップ1:最寄りの主要都市カステロ・ブランコへ
リスボンやポルトからカステロ・ブランコへは、ポルトガル国鉄(CP)の特急列車(Intercidades)や、Rede Expressosなどの長距離バスが運行しており、所要時間は約3時間から4時間です。
- ステップ2:カステロ・ブランコからモンサントへ
ここが最大の難関となります。カステロ・ブランコ発のモンサント行き路線バスの本数は極端に少なく、平日でも1日1〜2本程度、週末や祝日は運休になることが多いのが現状です。時刻表も頻繁に変わるため、出発前に必ずバス会社のウェブサイトで最新情報を確認することが不可欠です。
このルートを利用する場合、カステロ・ブランコで一泊し、翌朝のバスでモンサントへ向かい、その日の夕方に再びバスで戻るという非常にタイトな日程を組む必要があります。バスの乗り遅れがあった場合、同日中に公共交通機関で戻る手段はほとんどありません。
- 代替手段:タクシーやツアーの活用
バスの時間に縛られず自由に行動したい場合は、カステロ・ブランコからタクシーを利用する手もあります。片道料金は交渉により異なりますが、50ユーロ以上を目安に考えておくと良いでしょう。運転手に待機をお願いするか、帰りの時間を約束して再び迎えに来てもらう必要があります。
もっとも手軽なのは、リスボンやポルト発の日帰りツアーに参加することです。交通の心配がなく、ガイド付きで効率的に観光できるため、運転に自信がない方や時間が限られている方に特におすすめです。
宿泊先の選び方
モンサントをじっくりと堪能するなら、ぜひ村内に宿泊してみましょう。村内には伝統的な石造りの家を改装した小規模な民宿やゲストハウス(Turismo Rural)が数軒点在しています。中には巨大な岩が客室の一部になっているユニークな宿もあり、モンサントならではの特別な体験が可能です。ただし客室数が限られているため、特に観光シーズンは早めの予約が必要です。
サステナブルな旅を志すなら、地元産の食材を使った朝食を提供する宿や、伝統的な建築を尊重してリノベーションした施設を選ぶのが良いでしょう。オーナーと直接交流できるような小さな宿では、ガイドブックには載っていない貴重な歴史や文化の話を聞けるかもしれません。
村内の宿が満室の場合は、麓の町やカステロ・ブランコのホテルに宿泊し、そこを拠点に日帰りで訪れるプランも検討してみてください。
食事と買い物で地域を応援する
村には地元の家庭料理が楽しめるレストランがいくつかあります。ポルトガル名物の干しダラ「バカリャウ」を使った料理やイワシのグリル、地元産の羊のチーズ(Queijo de Ovelha)、素朴で美味しいパンなどをぜひ味わってみてください。地域の食材を積極的に使用するレストランを選ぶことは、地元農業の支援やフードマイレージの削減につながる、立派なサステナブル・ツーリズムの実践です。
お土産には、前述した幸運の人形「マラス」や地元産のオリーブオイル、ハチミツ、手作りのリネン製品などがおすすめです。大手チェーン店ではなく村の小さなお店で買い物をすることが、地域経済の直接的な支援につながり、地域文化の保護にも寄与します。
トラブルシューティングと旅のヒント

どんなに入念に計画を立てても、旅先では予想外のトラブルが起こることがあります。ここでは、モンサントへの旅行で起こり得る問題と、その対処法についてまとめました。
万が一の備えとして
- 交通機関の問題:
公共交通機関を利用すると、バスの遅れや急な運休が発生することは十分にあり得ます。予定していたバスが来なかったり乗り遅れたりした場合でも、慌てず冷静に対処することが重要です。代替手段として、カステロ・ブランコのタクシー会社の連絡先を事前に控えておくと安心です。また、このようなトラブルに備えて、旅行スケジュールには余裕を持たせることを強くお勧めします。バスチケットの返金ルールは利用するバス会社によって異なるため、購入時に確認しておくと良いでしょう。
- 体調不良やケガの場合:
モンサントの村には本格的な病院や診療所がありません。軽い切り傷に対応できる救急セットや、常用している薬は必ず持参してください。急に体調を崩す、あるいはケガをして緊急の治療が必要な場合は、ポルトガルの緊急番号「112」に連絡しましょう。最寄りの総合病院はカステロ・ブランコにあります。旅行前には、必ず海外旅行保険に加入しておくことが大切です。
- ATMや両替について:
村内にはATMがないか、あっても使用できない可能性があります。レストランやゲストハウスではクレジットカードが使えることもありますが、小規模な店では現金のみの対応が多いです。カステロ・ブランコなどの大きな街で、ある程度のユーロ現金を用意しておくことをおすすめします。
石と生きる知恵から学ぶ、サステナブルな未来
モンサントへの旅は、ただ珍しい風景を楽しみ、写真を撮るだけのものではありませんでした。巨大な岩を壊さず受け入れ、その一部として共に暮らす人々の姿は、自然と人間がどのように調和し共生していくべきかという、普遍的かつ重要な問いを私たちに投げかけています。
岩の形状に沿って壁を造り、傾斜を屋根として活かす。その姿勢は、自然の力を支配しようとするのではなく、流れに寄り添い最小限の介入で最大限の利を得るという、究極のサステナブル思想を示しています。私たちは日頃の暮らしの中で、どれほど自然に寄り添えているでしょうか。利便性や効率を追求するあまり、本来あるべきものを壊し、環境へ多大な負荷をかけてしまってはいないでしょうか。
このモンサントでの学びを日常に活かすために、いくつか具体的な行動を提案いたします。
旅先でも日常でも実践できること
- 責任ある観光者であること:
モンサントのような歴史的価値の高い場所を訪れる際には、自分がその文化と環境のゲストであることを忘れてはなりません。ごみを捨てない、文化財に触れない、地元の人々のプライバシーを尊重する、といった基本的マナーを守ることは、その場所の価値を未来に繋ぐための第一歩です。国連世界観光機関(UNWTO)も持続可能な観光の重要性を訴え、私たち一人ひとりの意識が観光地の未来を左右すると強調しています。持続可能な開発のための観光は、特別なことではなく、今や旅の新たなスタンダードとなっています。
- CO2排出を意識した旅の選択:
モンサントへの移動ではレンタカーが便利ですが、複数人で移動する際は相乗りを心がけ、燃費の良いハイブリッドカーや電気自動車を選ぶなどの工夫により、移動にともなうCO2排出を抑えられます。また飛行機利用時は、航空会社が提供するカーボン・オフセットプログラムに参加するのも環境負荷軽減の一手段です。
- 「あるものを活かす」心を日常に:
モンサントの住民が岩を活かして家を築いたように、私たちも手元にあるものを大切に使い、新しく買う前に代用や修理ができないか考えてみましょう。服をリメイクしたり、野菜の皮で出汁をとったり、壊れた家具を自分で直してみたり。こうした小さな工夫の積み重ねが、大量生産・大量消費の社会から持続可能で循環型の社会へと変えていく重要な一歩となるでしょう。
モンサントの旅から戻った今、目の前のコンクリートの壁がかつてどんな場所だったのか、思いを巡らせることがあります。この村で過ごした時間は、石の静かな声に耳を傾け、自然と共にあることの豊かさを改めて感じ取る、かけがえのない体験でした。
もし日常から少し離れ、時間や空間を超えた旅を求めるなら、ぜひポルトガルのモンサントを訪れてみてください。そこでは、巨大な岩々が何万年もの知恵を携え、静かにあなたを迎えてくれるはずです。そしてその旅が、あなたの世界の見え方をほんの少し変えてくれることでしょう。

