「次は、どこへ行こうか」。カナダのワーキングホリデーを終え、バンクーバーの喧騒から日本へ戻った僕の心は、すでに次の冒険を探していました。地図を広げ、指先がふと止まったのは、アフリカ大陸の西、ギニア湾に浮かぶ小さな、小さな点。サントメ・プリンシペ民主共和国。名前すら、ほとんど聞いたことがありませんでした。
チョコレートの原料であるカカオの、かつての世界一の産地。「アフリカのガラパゴス」と称されるほどの固有種の宝庫。そして、人々の心に流れる「レヴェレヴェ(Leve Leve)」という、ゆったりとした時間。調べれば調べるほど、その島国は謎めいた魅力を放ち、僕を強く惹きつけていきました。それは、効率やスピードを追い求めた北米での生活とは、まさに対極にある世界への誘いでした。
こうして僕は、ほとんど情報もないまま、期待と少しの不安を胸に、赤道直下の島国へと飛び立ったのです。この旅が、僕の価値観を静かに、しかし確かに揺さぶるものになるとも知らずに。
時が止まった島々、サントメ・プリンシペという奇跡

サントメ・プリンシペは、アフリカ大陸の西側、ギニア湾に浮かぶサントメ島とプリンシペ島という二つの主要な火山島を中心に、その周囲に点在する小島群から成る国です。面積は東京都の約半分に相当します。かつて無人島であったこの地は、ポルトガルによる植民地化を経て、サトウキビ、コーヒー、そしてカカオのプランテーションが発展しました。特にカカオは20世紀初頭には世界有数の生産量を誇り、「チョコレートの島」として名声を博しました。
しかし、この国の真髄を語るうえで欠かせないのが「レヴェレヴェ(Leve Leve)」という言葉です。ポルトガル語で「ゆっくり」「気楽にいこう」といった意味を持つこの言葉は、単なる挨拶や掛け声にとどまらず、人々の生き方そのものに深く根ざしています。慌てず、焦らず、目の前の瞬間を大切にする生活態度。この精神が島全体の空気を包み込んでいるように感じられました。
公用語はポルトガル語で、通貨はドブラ(STD)が使われていますが、大きなホテルやレストランではユーロも通用する場合があります。ただし、クレジットカードの利用は首都サントメの中心部にある一部の高級ホテルに限られるため、現金、特にユーロを十分に用意しておくことが重要です。私も最初の数日間はその事情に気付かず、ATMを探して慌てた経験がありました。両替は空港や市内の銀行、両替所で可能ですが、レートに差があるため、複数の場所で確認するのがおすすめです。
この島には、大航海時代の趣を残すコロニアル風の街並み、手つかずの原生林が広がる国立公園、そして透き通るような青い海が広がっています。しかし、それ以上に旅人の心をとらえるのは、「レヴェレヴェ」の精神によって育まれた穏やかで優しい人々の笑顔と、島全体を包み込む圧倒的な安らぎかもしれません。
島の案内人、ジョアンとの出会い – 船と昆虫を愛する男
サントメの国際空港に降り立った僕を迎えたのは、湿気を帯びた熱気が肌を包み込むような感触と、にこやかな笑みを浮かべた一人の男性でした。彼の名前はジョアン。ホテルを通じて事前に手配したガイドです。がっしりとした体格に、日に焼けた顔立ち。そしてその瞳は、まるで子どものような好奇心で輝いていました。
「ようこそ、勇気!俺がジョアン。この島のことなら何でも訊いてくれ。特に船や小さな生き物については任せてくれ!」
彼の自己紹介は、僕の旅の方向性を決める大きなきっかけとなりました。ジョアンは生粋の海の男であると同時に、昆虫など島の生き物に強い情熱を持つナチュラリストでした。彼の手入れの行き届いた古い四輪駆動車のダッシュボードには、昆虫図鑑や船の専門誌が並んで置かれていました。
信頼できるガイドを見つけることは、サントメ・プリンシペのように個人旅行がまだ発展途上の国では非常に大切です。僕のように、宿泊先のホテルに紹介を依頼するのが最も安全かつ確実な方法のひとつでしょう。また、首都の観光案内所や、事前にオンラインの旅行コミュニティで情報収集するのも効果的です。料金は交渉制であることが多いですが、1日あたりの料金に含まれるもの(ガソリン代や昼食代、公園の入場料など)を事前にきちんと確認するのがトラブルを防ぐコツです。ジョアンとは、1日のチャーター料金とプリンシペ島へ渡る船の費用についてお互い納得がいくまで話し合いました。この最初のやり取りが、その後の旅を円滑に進めるための大きなポイントとなりました。
「聞いてくれよ、勇気。この島は急いで回る場所じゃない。レヴェレヴェさ。風の音を聞き、鳥のさえずりに耳を傾け、足元の小さな生命に気付く。それがサントメの本当の楽しみ方なんだ」
ジョアンの言葉に、僕はこれから始まる旅への期待で胸が高鳴りました。彼の愛車は僕たちを乗せ、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、緑豊かな島の中心へと走り出したのです。
緑の迷宮へ – オボ国立公園の深淵を歩く

サントメ島南部に広がるオボ国立公園は、この国の自然の豊かさを象徴する場所です。熱帯雨林が密生し、空を覆い尽くすほどの巨木が天高くそびえ立つその地は、まさに緑の迷宮と言えるでしょう。僕とジョアンは、公園の入口で入園手続きを済ませ、湿り気を帯びた土の香りが立ち込める森の中へと足を踏み入れました。
「静かに、しっかり耳を澄ましてごらん」
ジョアンが小さな声で囁くと、それまで気づかなかった無数の音が耳に届きました。名前を知らない鳥たちのさえずり、葉が擦れる音、遠くで響く滝の轟音。都会の雑音に慣れた耳には、どれも新鮮な自然の音楽のように響きました。
このトレッキングで欠かせないのは、入念な準備です。まず服装ですが、肌の露出はできるだけ避けるべきです。長袖のシャツや長ズボンは、虫刺されや植物による擦り傷から身を守るために必須です。特にこの森には蚊をはじめ、多くの虫が生息しています。僕はカナダでのハイキング経験から虫除けには自信がありましたが、サントメの虫は手強く、DEET成分が高濃度の虫除けスプレーをこまめに塗り直す必要がありました。足元は、滑りにくく防水性のあるトレッキングシューズが理想的です。ぬかるみや沢渡りも多いため、一般的なスニーカーでは心もとないでしょう。
持ち物としては、急なスコールに備えたレインウェア、カメラやスマートフォンを守る防水バッグ、そして十分な量の飲料水やエネルギー補給用の行動食が不可欠です。森の中は湿度が高く、想像以上に体力を消耗します。ジョアンはレモンと少量の塩を加えた水を水筒に用意してくれていて、それが体に驚くほど染み渡り、彼の知恵に感心させられました。
歩き始めてしばらくすると、ジョアンがふと立ち止まり一本のシダの葉を指さしました。 「ほら、勇気。こいつだ」 彼が指した先には、葉の色と見分けがつかないほど美しい緑色のカマキリがいました。僕一人では絶対に見つけられなかったその姿に、思わず息を呑みました。
「こいつはこの島特有の固有種だ。進化の過程でこの森の葉に完全に擬態する術を身につけたんだ。すごいだろ?小さな体だけど、この森の王の一員さ」
ジョアンの解説はまるで大学教授のようで、彼は次々に僕の知らなかった生き物を見つけてくれます。世界最大級のベゴニア、宝石のように輝く羽を持つチョウ、木の幹に張り付くヤモリ。彼の目には、僕には見えない生命の層が映っているかのようでした。なかでも彼が最も愛してやまないのはチョウで、サントメ・プリンシペには多くの固有種のチョウがいて、その生態について何時間でも語り続けられるのです。
森の奥深くで、僕たちは壮大なサン・ニコラウの滝にたどり着きました。轟音と共に流れ落ちる水しぶきが、火照った体を心地よく冷やしてくれます。その圧倒的な光景の前で、僕はただ立ち尽くすしかありませんでした。ここには人工物は一切なく、ありのままの自然が何千年も変わらずに存在しているのです。その事実に深い感動を覚えました。
オボ国立公園を訪れる際は、必ず公認ガイドをつけることをおすすめします。道が入り組み、天候も変わりやすいため、個人での探検は非常に危険です。ガイドは公園の入口や首都のツアー会社で手配可能です。ジョアンのような知識豊富なガイドと共に歩けば、単なるハイキングが忘れがたい学びと発見の旅へと変わるでしょう。
チョコレートの源流を訪ねて – カカオ農園「ロッサ」の甘い誘惑
サントメ・プリンシペの歴史は、カカオの歴史と切り離せない深い結びつきを持っています。かつて「ロッサ(Roça)」と呼ばれた大規模なプランテーションが島全体に広がり、ポルトガルの植民地時代の繁栄とともに、その裏側にあった強制労働という暗い過去を今に伝えています。独立後、多くは廃墟と化しましたが、一部は修復されてホテルやレストラン、さらにカカオの歴史を紹介する博物館として新たな役割を果たしています。
私たちが訪れたのは、その中でも特に著名な「ロッサ・サン・ジョアン・ドス・アンゴラレス」。現在はホテル兼レストランとして機能し、地元の食材を活かした独創的な料理が評判を呼んでいます。しかし、私のもう一つの目的は、このロッサでカカオがチョコレートへと変わる過程を実際に体験することでした。
案内役のジョアンとともに、私たちはロッサの敷地内にあるカカオ農園へと足を運びました。ラグビーボールのような形状をしたカカオの実が、木の幹から直接吊り下がっている様子はまさに不思議な光景。ジョアンは慣れた手つきで一つをもぎ取り、ナタで真っ二つに切り分けて見せてくれました。中から現れたのは、白い果肉(パルプ)に包まれた数十個の種子、すなわちカカオ豆です。
「これを食べてみて。甘酸っぱくて美味しいよ」 勧められるままにパルプを口に含むと、ライチのような爽やかな甘みが口いっぱいに広がりました。これがあのほろ苦いチョコレートの原料とは、とても信じられません。
ここからチョコレートが完成するまでには、長い工程が存在します。まず、収穫したカカオ豆をパルプごと木箱に入れ、バナナの葉を被せて数日間発酵させます。この発酵こそが、チョコレート独特の豊かな香りや味わいを生み出す最も重要な過程です。次に、発酵済みの豆を天日で乾燥させます。ロッサの広場には乾燥用の巨大な木製の台が幾つも並んでいました。そして乾燥した豆を焙煎し、殻を剥いて砕いたものが「カカオニブ」。これをすり潰しペースト状にした「カカオマス」に砂糖やカカオバターを加えて練り上げ、冷やし固めて初めて私たちが知るチョコレートが出来上がります。
ロッサでは、スタッフがこの一連の工程を丁寧に説明してくれました。そして最後には、できたてのチョコレートの試食も提供されます。添加物を一切使わない、100%オーガニックのチョコレート。その味わいは力強く、フルーティーで、これまでに味わったどのチョコレートとも異なる、生命力にあふれた味でした。
サントメ島には、このようなカカオ農園を訪れるツアーが数多く存在します。多くのプランテーションには宿泊施設が併設されているため、歴史の中に身を置きながら滞在するのも素晴らしい体験となるでしょう。お土産にはぜひ現地のチョコレートを選んでみてください。世界的に有名なクラウディオ・コラロ氏が手掛ける最高級チョコレートのほか、それぞれのロッサで作られる素朴なチョコレートも格別の味わいです。スーパーマーケットなどでも気軽に購入できますが、農園で直接買うチョコレートは、その背後にある物語も共に持ち帰ることができる、最高の記念品となるでしょう。
プリンシペ島への船旅 – ジョアンの愛船とイルカの歓迎

サントメ島での数日を過ごした後、僕たちは旅のもう一つの目的地であるプリンシペ島へ向かうことにしました。サントメ島の北東約150kmに位置するこの島は、サントメ島よりもさらに小さく、手つかずの自然が豊かに残されていると言われています。
サントメ島からプリンシペ島へは飛行機か船で移動するのが一般的です。STPエアウェイズが運航する小型のプロペラ機は、約35分で両島を結びます。これが最も速く快適な方法ですが、料金はやや高額で、天候不良による欠航も珍しくありません。もしフライトがキャンセルとなった場合は、航空会社のカウンターで代替便への振り替えを相談することになりますが、便数が少ないため、スケジュールが大幅に狂う可能性も覚悟しなければなりません。
もう一つの選択肢は船での移動です。所要時間は6〜8時間と長く、快適とは言えませんが、料金は飛行機に比べてかなり安く、何よりも冒険心をくすぐってくれます。そして、その船旅を提案してくれたのは、船を愛してやまない男、ジョアンという僕のガイドでした。
「俺の友達が、ちょうど明日プリンシペに物資を運ぶ船を出すんだ。チャーターじゃないから安く乗せてもらえる。どうだ、勇気、本物の船旅を体験してみないか?」
彼の目は輝きに満ちていました。断る理由など見つかりません。翌朝、僕たちは夜明け前の薄暗い港に立っていました。ジョアンが「友達の船」と呼んだのは、思っていたよりもずっと小さく、漁船を少し大きくした程度の貨物船でした。甲板には野菜や建材、日用品などがぎっしりと積み込まれています。
「こいつは最高の船だ。エンジンの音を聞いてみろ。元気そのものだ」 ジョアンは船体の剥げたペンキ部分を優しく撫でながら語りました。彼にとって船は単なる移動手段ではなく、魂が宿ったアシスタントのような存在なのでしょう。
船はゆっくりと港を離れ、目の前に広がるギニア湾の壮大な海原へと漕ぎ出しました。船旅には船酔い対策が欠かせません。僕は事前に酔い止めを飲んでいましたが、それでも時折襲う大きな揺れに少し身を縮めました。船に弱い方は、乗船前に必ず薬を服用し、揺れの少ない船体の中央付近で風通しの良い場所に身を置くことをおすすめします。
出航して数時間が経った頃、突然、目を見張る光景が現れました。 「見ろ!あそこだ!」 ジョアンが指さす方向、船のすぐ横をイルカの大群が並走していたのです。数十頭、いや百頭以上かもしれません。彼らはまるで僕たちの船を歓迎するかのように、水面から次々と跳び上がり、空中を舞っています。その生命力あふれる躍動感に、僕も船の乗組員たちも歓声を上げるしかありませんでした。
太陽が真上に昇り、青い海と空の境界線がぼんやりと溶け合う頃、遠くの水平線に緑の塊が見えてきました。プリンシペ島です。切り立った岩山が天を突き、深い緑の森が海岸線まで迫るその姿は、まるで映画『ジュラシック・パーク』の世界に迷い込んだかのようでした。長い船旅の疲れも一瞬にして忘れさせる、圧倒的な絶景でした。
時が止まった島、プリンシペ – ユネスコ生物圏保存地域の鼓動
プリンシペ島に降り立った途端、僕はサントメ島とは異なる空気感を強く感じました。一層静寂で、自然の存在感がより濃く感じられたのです。これは当然のことで、この島全体がユネスコの世界生物圏保存地域に指定されており、まさに自然の聖域と呼べる場所だからです。ここでは環境保護が最優先されており、開発行為は厳しく制限されています。
この島での滞在は、サントメ島以上に「何もしない贅沢」を実感させてくれました。僕のお気に入りは、映画『バウンティ』のロケ地の一つとも言われるプライア・バナナ(バナナ・ビーチ)です。三日月のように弧を描く真っ白な砂浜、両側から包み込むヤシの木々、そして澄んだエメラルドグリーンの穏やかな海。そこには僕とジョアンのほかには誰もいませんでした。波のさざめきを聞きながら木陰で読書したり、昼寝を楽しんだり。まさかこれほどまでにゆたかな時間になるとは思いもよりませんでした。
もちろん、アクティブに過ごす選択肢も豊富にあります。島の周囲には美しいサンゴ礁が広がっており、シュノーケリングやダイビングに絶好のスポットが点在しています。さらに、11月から2月にかけてはウミガメが産卵のために上陸するタートルウォッチングのシーズンでもあります。これらのアクティビティは、現地のホテルやツアー会社を通じて予約可能です。
ただし、この島で行動する際は常に環境への配慮が欠かせません。ゴミは必ず持ち帰り、サンゴ礁を傷つけないこと、野生動物に無闇に近づかないこと。これらは、この美しい自然を後世に残すために、旅行者として守るべき最低限のマナーです。ビーチでペットボトルを拾い上げ、無言で自分のリュックにしまったジョアンの姿が、この島の住民たちの自然への尊敬を物語っているように感じられました。
プリンシペ島でも、ジョアンの昆虫への情熱は変わりませんでした。彼はサントメ島とは異なる固有種の蝶を見つけるたびに、子供のようにはしゃいでいました。彼の案内で、僕たちはカカオだけでなく、バニラや胡椒のプランテーション跡地も訪れました。そこでジョアンはスパイスの歴史や栽培方法について熱心に語ってくれました。船と昆虫だけでなく、この島のあらゆるものを彼が愛していることが、僕にははっきりと伝わってきました。
旅の準備と知っておくべきこと – 快適なサントメ・プリンシペ滞在のために

この素晴らしい体験を、これからサントメ・プリンシペを訪れるかもしれないあなたにもぜひ味わってほしいと思います。そのため、私の経験をもとに得た実践的な情報をここにまとめておきます。
ビザと入国について
サントメ・プリンシペへ渡航する際、日本のパスポートを持っている方は、観光目的で15日以内の滞在であればビザは不要です(2024年5月時点)。ただし、この規定は変更される場合があるため、渡航前には必ず最新の情報を確認してください。最も信頼できる情報源は日本の外務省が提供する海外安全情報です。渡航情報や現地の治安状況など重要な事項が掲載されているため、出発前にしっかり目を通すことをおすすめします。外務省海外安全ホームページで国・地域別の情報を検索し、サントメ・プリンシペのページを熟読しておきましょう。
衛生面と健康管理
熱帯地域へ旅行するときに最も重視すべきは健康管理です。サントメ・プリンシペは黄熱病リスク地域に指定されており、入国時に黄熱予防接種証明書(イエローカード)の提示が求められることがあります。また、マラリアのリスクも存在するため、防蚊対策は欠かせません。長袖・長ズボンの着用や虫よけスプレーの使用はもちろん、専門医に相談して予防薬を服用することも検討してください。私も渡航前にトラベルクリニックを受診し、必要な予防接種とマラリア予防薬を処方してもらいました。
生水は絶対に飲まず、ミネラルウォーターを利用してください。食事は火の通ったものを中心に選び、衛生的なレストランを利用することが重要です。詳しい医療情報や推奨される予防接種については、厚生労働省検疫所FORTHのウェブサイトが非常に参考になります。国別の詳細な情報が掲載されているので、渡航準備の際にぜひ確認してください。
持ち物リスト(完全版)
旅の快適さは準備にかかっているといっても過言ではありません。パスポートや航空券、現金(ユーロが便利)などの必需品に加え、私が実際に持っていって役立ったもの、逆に持っていなくて困ったものをリストアップします。
まず医薬品類です。常備薬はもちろん、整腸剤、解熱鎮痛剤、絆創膏、消毒液など基本的な救急セットは必須です。現地では入手が難しいことも多いので持参をお勧めします。
次に電子機器関連。日本とは電圧やプラグ形状が異なるため、変換プラグや変圧器が必要です。また、停電が起こる場合もあるので、大容量のモバイルバッテリーは非常に頼りになります。暗い夜道を歩くことや停電に備えて、ヘッドライトも一つ持っていると便利です。
衣類は特に速乾性のあるものを中心に揃えましょう。熱帯雨林でのトレッキングやスコールで濡れてもすぐ乾く素材が重宝します。防水性の高いジャケットやパンツも一着あると安心です。強い日差し対策として、帽子、サングラス、日焼け止めも忘れずに。
そして意外と重宝したのが、簡単な日本食の持参です。フリーズドライ味噌汁や醤油など、現地の食事に飽きたときにその味が心身を癒してくれました。
トラブル対策
万全に準備しても、海外旅行ではトラブルが起こることがあります。飛行機の遅延や欠航、荷物の紛失、体調不良や怪我など、慌てないために事前準備が重要です。
まず、海外旅行保険への加入は必ず行ってください。現地の医療費は高額になる恐れがあり、盗難や携行品の破損も補償されます。クレジットカードに付帯する保険もありますが、補償内容を十分確認し、必要なら別途加入を検討しましょう。
パスポートを紛失した場合や事件・事故に巻き込まれた場合には、日本の大使館に連絡を取る必要があります。サントメ・プリンシペには日本の大使館がなく、在ガボン日本国大使館が兼轄しています。渡航前に、在ガボン日本国大使館のウェブサイトで緊急連絡先や所在地を確認し、パスポートのコピーや予備の証明写真を準備しておくと、いざという時にスムーズに対応できます。
私自身は幸い大きなトラブルには遭いませんでしたが、「もしものとき」の連絡先と対応方法を知っているだけで、心に余裕が大きく違います。
魂に刻むレヴェレヴェの響き
プリンシペ島からサントメ島に戻る日、僕たちは再び船に乗りました。帰路もまたジョアンの友人が操る船です。港で僕はジョアンに旅の間の感謝を述べ、約束していたガイド料と少しばかりのチップを手渡しました。
「勇気、また必ず戻ってこいよ。次に来る時までには、誰も知らない新種のチョウを見つけておくからな」 そう言って彼は、太陽のような笑顔を見せました。船がゆっくり岸壁を離れていくのを見送りながら、小さくなっていくジョアンの姿を目にし、僕はこの旅で得たものが、美しい光景や珍しい体験だけに留まらないことを実感していました。
それは、「レヴェレヴェ」と呼ばれる独特の時間の流れでした。効率や成果に追われるのではなく、ただ今この一瞬を味わい、受け入れること。鳥のさえずりに耳を澄まし、道端の花に目を止め、見知らぬ人と笑顔をかわす。そんな、日常の中で当たり前に感じながらも忘れがちな豊かさを、この島の人々、そしてジョアンは僕に教えてくれたのです。
サントメ・プリンシペは決して利便性の高い旅先ではありません。インフラは十分に整っておらず、物事が計画通りに進まないことのほうが多いでしょう。しかしその分、現代社会が失いかけている何かが色濃く残っています。手つかずの自然、素朴で温かい人々、そして心を解き放つような、ゆったりと流れる時間。
もしあなたが日常の喧騒に疲れ、本当に大切なものを見つめ直したいと思うなら、アフリカのギニア湾に浮かぶこの小さな楽園へ足を運んでみてください。そこでは、僕のように船と昆虫を愛する男との素敵な出会いが待っているかもしれません。そして、あなたの心にもきっと、「レヴェレヴェ」の優しい響きが静かに、深く刻まれることでしょう。僕がそうであったように。

