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バンコクの心臓、シーロムを歩く:摩天楼の光とネオンの影が交差する場所

バンコクという都市の鼓動を最も強く感じられる場所はどこかと問われれば、私は迷わず「シーロム」と答えるでしょう。BTSスカイトレインとMRT地下鉄が交差するこのエリアは、昼と夜で全く異なる顔を見せる、まさにバンコクの縮図のような場所です。日中はガラス張りの高層ビルが空を突き、スーツに身を包んだビジネスマンたちが足早に行き交うタイ経済の中心地。しかし、太陽が西の空に傾き、熱帯の生ぬるい空気が街を包み込む頃、シーロムは色とりどりのネオンを身にまとい、妖艶で、どこか危うい光を放ち始めます。小学生の息子たちの手を引きながら歩く昼のシーロムと、一人でその深淵を垣間見る夜のシーロム。そのあまりにも鮮やかなコントラストは、訪れる者にこの都市が抱える複雑な現実と、人間の営みの光と影について、静かに、しかし雄弁に語りかけてくるのです。この記事は、単なる観光ガイドではありません。30代の父親である私が、この街の光と影の境界線を歩きながら感じたこと、考えたことを綴る、社会学的な視点を交えた旅の記録です。

バンコクを訪れる際には、コスパ最強の1泊2日モデルプランを参考に、効率的に街の魅力を体験してみるのも一興です。

目次

摩天楼が見下ろす昼の顔:経済の中心地と市民の憩い

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シーロムの朝は、ガラスと鋼鉄の森に太陽の光が反射することで始まります。BTSサラデーン駅やMRTシーロム駅の出口からは、まるで動脈を流れる血液のように、多くの人々がオフィスビルへと次々に吸い込まれていきます。ここはタイのウォール街と呼ばれ、バンコク銀行本店をはじめ国内外の金融機関や大手企業の本社が集結し、タイ経済の中心的な役割を果たしています。その景色は東京の丸の内や大手町を思い起こさせますが、街路樹に植えられた熱帯植物や、ビルの隙間から漂うスパイスの香りが、ここが東南アジアの巨大都市であることを強く感じさせてくれます。

ビジネス街を歩くための準備と心構え

シーロムのエリアを日中に散策する際は、いくつか準備をしておくと快適に過ごせます。まず服装ですが、日差しが非常に強いため、通気性の良い長袖シャツ、帽子、サングラスは必須です。日焼け止めも忘れずに。靴は履きやすいスニーカーが最適でしょう。多くの商業施設やオフィスビルは冷房が強めに効いているので、屋外との気温差で体調を崩さないように、薄手のカーディガンやストールを一枚バッグに入れておくと便利です。

持ち物としては、以下のものを準備すると良いでしょう。

  • 水筒やペットボトル飲料: 屋台やコンビニで簡単に購入できますが、エコの観点からもマイボトルを持参するのがおすすめです。
  • 日焼け対策アイテム: 帽子、サングラス、日焼け止め。
  • 羽織るもの: 室内の強い冷房対策に。
  • ハンカチやウェットティッシュ: 汗を拭いたり、屋台で食事をする際の手拭きにも重宝します。
  • 小額の現金: 屋台や小規模な店ではクレジットカードが使えないことが多いため、20バーツ、50バーツ、100バーツ札を多めに用意すると支払いがスマートに進みます。

都市のオアシス、ルンピニー公園

高層ビルが立ち並ぶシーロムの隣には、広大な緑地帯であるルンピニー公園が広がっています。ここはビジネスマンのランチタイムの憩いの場であり、夕方にはジョギングや太極拳を楽しむ市民で賑わうまさに都会の肺といえるスポットです。我が家の子どもたちもこの公園が大好きで、池に生息する巨大なミズオオトカゲを見つけては歓声をあげ、レンタルボートを漕いだり遊具で遊んだりしています。子どもたちの無邪気な姿を見ていると、この賑やかなビジネス街の隣にいることをつい忘れてしまいます。

ルンピニー公園利用のポイント

この公園を訪れる際に知っておきたいルールがあります。公園内ではアルコールの持ち込み・飲酒、及び喫煙が全面的に禁止されており、違反すると罰金の対象になる場合があるため注意が必要です。また、許可なくドローンを飛ばすこともできません。

公園は早朝から開放されており、特に涼しい朝は散歩や運動に最適な時間帯です。夕方になると広場で無料のエアロビクス教室が開催され、多くの市民が音楽に合わせて体を動かす風景はバンコクらしい光景の一つです。観光客も気軽に参加できるので、旅の思い出に体を動かしてみるのもおすすめです。

交通の要衝を使いこなす

シーロムの魅力のひとつに、その優れた交通アクセスがあります。BTSシーロム線のサラデーン駅とMRTブルーラインのシーロム駅は連絡通路で結ばれており、市内の主要観光地へ乗り換えなし、または一度の乗り換えで簡単にアクセス可能です。この交通網を上手に利用することが、バンコク滞在を充実させるポイントとなります。

BTS/MRTの乗車ガイド

  • チケットの購入: 各駅にある券売機で購入できます。行き先の駅名を選択すると料金が表示されるので、硬貨または紙幣を投入してください。最近の券売機はお釣りがでますが、古いタイプでは硬貨のみ対応のものもあるため、小銭を用意しておくと安心です。窓口での購入も可能ですが、混雑することがあるため時間に余裕を持ちましょう。
  • ラビットカード(Rabbit Card): 日本のSuicaやPASMOに相当するICカードです。最初にデポジットとチャージが必要ですが、いちいち切符を買う手間が省けるため、数日間滞在して何度も乗る予定があるなら購入をおすすめします。カードは駅の窓口で入手でき、チャージも窓口または一部の券売機で可能です。
  • 乗車時の注意: 公共交通機関内でドリアンの持ち込みは禁止されています。また、飲食も原則マナー違反とされています。優先席は僧侶や高齢者、妊婦、子連れに配慮するため設けられているので、そのような方を見かけた際は席を譲る気遣いを持ちましょう。

もしカードの残高不足で改札を通れなくなったり、券売機にお金が飲み込まれてしまったりした場合は慌てず、改札付近にいる駅員に声をかけてください。英語が片言でも、身振り手振りで事情を説明すれば、ほとんどの場合適切に対応してもらえます。

ネオンが誘う夜の素顔:欲望と喧騒が渦巻く場所

太陽が地平線の向こうへと沈み、街が紫色に染まる頃になると、シーロムは昼間とはまったく異なる顔を見せ始めます。オフィスビルから流れ出る人の波がひと段落すると、今度は別種の人々がこの界隈に集まってきます。観光客や夜の仕事に従事する人々、刺激を求める冒険者たちです。シーロム通りから一歩入った脇道に足を踏み入れると、そこにはネオンの輝きと大音量の音楽、人々の欲望が渦巻く異世界が広がっています。

パッポン通り:観光名所としての歓楽街

シーロムの夜を象徴する場所として最も広く知られているのは、やはりパッポン通りでしょう。通りの中央にはTシャツや腕時計のコピー商品、土産物などを扱うナイトマーケットが長く続き、その両側をゴーゴーバーが囲むという独特な構成です。ナイトマーケットをただ冷やかしながら歩くだけでも、その熱気と喧騒に圧倒されることでしょう。しかし、このマーケットはあくまで表の顔にすぎません。真のパッポンの姿は、バーの扉の奥に隠されています。

客引きの「ショーを見ていかない?」という声が四方から飛び交います。この種の店では、法外な料金を請求する「ぼったくり」が横行しているのが有名です。興味本位で入るならば、事前に料金体系をしっかりと確認することが絶対に必要です。ドリンク1杯の価格はどのくらいか、ショーチャージがあるか、料金体系が明瞭かどうかを見極めることが求められます。少しでも不透明な点があれば、はっきりと断る勇気が不可欠です。トラブルに巻き込まれるリスクを考えると、安易な気持ちで訪れるべき場所ではない、というのが率直な感想です。

タニヤ通り:リトル東京の光と影

パッポン通りに隣接するタニヤ通りは、また違った雰囲気を持っています。通りの入口に掲げられた「タニヤ」の看板をくぐると、そこは日本語の看板が立ち並ぶまさにバンコクの「リトル東京」です。カラオケクラブやスナックが密集し、日本のサラリーマンたちが接待や個人の楽しみで訪れる、日本人向けの歓楽街として知られています。この通りの成立には、日本の高度経済成長期からバブル期にかけて多くの日本企業がタイに進出した歴史的背景があります。タイで働く日本人男性の癒しの場として発展し、現在もその役割を担い続けています。 タニヤの光景は、日本人である私にとってパッポン以上に複雑な感情を抱かせます。自国の言葉にあふれた空間には奇妙な安心感を覚える一方で、グローバル経済の中で形成された日本人男性のための「楽園」という側面には、どこか居心地の悪さや社会的な問題意識を感じざるを得ません。ここで消費される資金はタイの経済を支えている反面、どのような社会構造を支え、また再生産しているのでしょうか。家族の待つ家に帰る父親として、この場所で働く女性たちの人生に思いを巡らせずにはいられません。 タイの観光業が国の経済に与える影響は極めて大きいと言えます。日本貿易振興機構(JETRO)のデータによると、観光業はタイのGDPに大きく寄与し、多数の雇用を創出しています。シーロムの夜は、こうした観光立国タイの現状が最も凝縮されたエリアの一つであると言えるでしょう。

夜の街を安全に歩くためのポイント

シーロムの夜は魅力的ですが、一方で危険も内包しています。特に観光客はトラブルに巻き込まれやすいため、以下の点にくれぐれも気をつけてください。

  • 貴重品の管理: スリや置き引きが頻発します。バッグは体の前で抱えるように持ち、ズボンの後ろポケットに財布やスマートフォンを入れるのは避けましょう。大金は持ち歩かず、その日の必要分だけ携帯するのが賢明です。
  • 客引きへの対応: 興味がなければ曖昧な態度は取らず、はっきり「No, thank you」と伝えてその場を離れること。しつこく付きまとわれても無視して歩き続けるのが最善策です。
  • タクシーの利用: 夜間にタクシーを利用する際は、流しのタクシーよりも「Grab」などの配車アプリを使うことをお勧めします。料金が事前に確定し、運転手の情報も記録されるため、ぼったくりやトラブルのリスクを大きく減らせます。どうしても流しのタクシーを利用する際は、乗車前に必ず「メーターを使ってください(Meter, please)」と確認し、拒否された場合は乗らないことが重要です。
  • トラブル時の対応: 万が一犯罪や深刻なトラブルに遭遇した場合は、すぐにツーリストポリス(観光警察)へ連絡してください。専用ホットライン「1155」は24時間対応で、英語や日本語に対応可能なオペレーターもいます。また、在タイ日本国大使館の連絡先を事前に控えておくと安心です。

光と影の境界線で考えること

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シーロムという街が、なぜこれほどまでに鮮やかな二面性を帯びるに至ったのか。その背景には、タイという国特有の社会構造や文化、さらにグローバル資本主義の影響に翻弄されてきた歴史が深く関わっています。

「マイペンライ」の心と現実のギャップ

タイの人々の性格を象徴する言葉として頻繁に用いられる「マイペンライ(大丈夫、気にしないで)」。この言葉が表すある種の寛容さや柔軟性こそが、シーロムのように多様な価値観が交錯する場を受け入れてきた一因かもしれません。仏教の教えが社会に深く根付く一方で、性の多様性や欲望の表出に対して驚くほど開かれた面も持ち合わせています。しかし、その寛容さの背後には、目を背けられない経済格差という厳しい現実が横たわっています。地方からバンコクへ働きに出て、夜の世界で生計を立てる人々にとって、シーロムは生活を支える唯一の拠り所となることも少なくありません。私たち観光客が華やかな夜の街を楽しむのは、彼らの労働があってのことです。この構造を理解せずにただ興味本位で眺めることは、彼らの尊厳を傷つける危険性があります。現地メディアのバンコク・ポスト紙などは、こうした都市の労働問題や貧富の格差について継続的に報道しています。旅行前に少しでも現地の社会状況を把握しておくだけで、街の見え方は大きく変わるでしょう。

再開発の波と失われつつある光景

近年のバンコクでは、都市開発が目覚ましい速度で進んでいます。シーロムも例外ではなく、古い建物が次々と取り壊され、新たな高級コンドミニアムやショッピングモールが立ち並んでいます。その結果、街はより清潔で現代的な姿へと変貌を遂げつつありますが、同時にそこにあった屋台や庶民的な店、地域コミュニティが姿を消してしまう現実も顕在化しています。

私たちが目にするシーロムの景観は、常に変化の只中にある、一時的な姿にすぎません。経済の発展と都市の近代化は、人々の暮らしを豊かにするものの、一方で何かを奪い去っているのも事実です。この問いはバンコクに限らず、東京をはじめとした世界中の大都市が共有する課題でもあります。私たち旅行者はその変容を見届ける者であり、ある意味でその一端を担う存在でもあります。私たちの消費が、良くも悪くも街の未来を形作る力となるのですから。

旅人として、私たちは何ができるのか

シーロムの光と影を目の当たりにしたとき、私たちはどのように考え、どのように行動すべきでしょうか。ただの傍観者や消費者で終わるのではなく、この場所とより深く、誠実に関わるためには「責任ある観光(Responsible Tourism)」という考え方があります。これは、訪れる土地の環境や社会、文化に敬意を払い、地域へ積極的に貢献することを目指す旅行のスタイルです。

意識的な消費を心がける

旅先での消費は、未来への投票のようなものです。どこにお金を使い、何を選ぶかが、その地域の将来に影響を与えます。

  • 地元ビジネスを支援しよう: グローバルチェーン店ではなく、地域の人々が運営する小さな食堂や個人商店、家族経営のゲストハウスなどを利用することをおすすめします。そうすることで、あなたの出費がより直接的に地域コミュニティに還元されます。
  • フェアトレード製品を選ぶ: お土産を買う際には、生産者の労働環境や権利に配慮されたフェアトレード商品を探してみましょう。例えば、タイ北部の山岳民族が手作りした工芸品など、背景に物語のある品は旅の記憶をより豊かなものにしてくれます。
  • 動物福祉を意識する: 動物を使ったショーやアトラクションの中には、劣悪な環境で動物を飼育している場合があります。参加する前に、その施設が倫理的に運営されているかどうかをよく考えることが重要です。

文化や人々への敬意を大切にする

タイは「微笑みの国」として知られていますが、その笑顔の奥には私たちが尊重すべき深い文化と伝統が息づいています。

  • 寺院での服装マナー: 寺院(ワット)訪問時には、露出の多い服装(タンクトップ、ショートパンツ、ミニスカートなど)を避けるようにしましょう。入り口で服装チェックがあり、規定に合わない場合は入場を断られることもあります。多くの主要寺院では羽織るための布の貸し出しがありますが、敬意を示す意味でも事前に適切な服装で訪れることが望ましいです。王室関連の施設も同様に厳しい服装規定が設けられています。
  • 写真撮影時の配慮: 通りですれ違う人々の写真を撮る際には、必ず一言声をかけて許可を得るようにしましょう。特に子供の写真は無断で撮影しないことがマナーです。また、仏像に背を向けたり、足を仏像の方向に向けるようなポーズで写真を撮るのは非常に失礼にあたります。
  • 頭と足の取り扱い: タイでは、頭が最も神聖な部位であり、足は最も不浄な部位と考えられています。たとえ子どもであっても、他人の頭を触るのは避けるべきです。また、人に足の裏を見せたり、足で物を指す行為は重大な侮辱とみなされます。

学び、対話を深める

旅の最大の価値は、異文化に触れることで自身の価値観を揺さぶり、多様な視点で世界を捉えられるようになることだと私は考えています。シーロムの光と影は私たちに多くの気づきを与えてくれます。タイ国政府観光庁の公式サイトなどで訪問先の歴史や文化を事前に学ぶことで、旅はさらに深みを増すでしょう。そして、できる限り現地の人々と交流してください。屋台のおばちゃんとの何気ない会話、トゥクトゥクの運転手との値段交渉、ホテルスタッフとのやり取り。それらのひとつひとつが、ガイドブックには載っていない、息づいたタイの姿を教えてくれるはずです。

シーロムが私たちに問いかけるもの

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シーロムの旅を終えて東京に戻ると、日常の景色が少し異なって見えてきます。昼夜を問わず煌々と灯る新宿のネオンや、忙しげに行き交う丸の内のビジネスマンたち。ここにもまた、バンコクとは異なる形での「光と影」が存在しています。私たちは普段、その光の部分だけを見て、あるいは見ようとして生活しているのかもしれません。

シーロムは、そんな私たちの普段の暮らしに鋭い問いかけをしてきます。経済発展の恩恵を享受する私たちの生活は、誰かの犠牲の上に成り立っているのではないか。私たちが手にする便利さや快適さの裏側で、見過ごされている人はいないだろうか。そして父親として、私は我が子たちに、この世界の光だけでなく、影の部分をどう伝えていくべきなのか。その複雑さを、誠実にごまかすことなく語り伝えられるだろうか。

旅は答えを示してはくれませんが、良質な問いをもたらしてくれます。シーロムはまさに、そんな問いに溢れた場所でした。摩天楼の輝きも、路地裏のネオンのきらめきも、すべてがこの街の真実の一端です。その両方を、自分の目で確かめ、足で感じ、心で受け止めること。それこそが私たちがバンコクの心臓部、シーロムを訪れる真意なのかもしれません。次にこの街を訪れた時、私は子どもたちとどんな対話を交わすのだろう。その答えを探す旅は、まだ始まったばかりです。

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この記事を書いたトラベルライター

小学生の子どもと一緒に旅するパパです。子連れ旅行で役立つコツやおすすめスポット、家族みんなが笑顔になれるプランを提案してます!

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