「水の都」として世界中の旅行者を魅了するイタリアのベネチアが、深刻化するオーバーツーリズム(観光公害)への対策をさらに強化します。市当局は、2024年に試験的に導入した「日帰り観光税」を2026年にも継続し、本格導入する方針を固めました。この決定は、歴史的な都市の保存と、住民の生活環境を守るための重要な一歩として注目されています。
背景:なぜベネチアに「日帰り税」が必要なのか?
ベネチアがこの施策に踏み切った背景には、長年にわたるオーバーツーリズムとの闘いがあります。コロナ禍以前、ベネチアには年間約3000万人の観光客が訪れていましたが、その多くが宿泊を伴わない日帰り客でした。ピーク時には、サン・マルコ広場やリアルト橋周辺は身動きが取れないほどの混雑に見舞われ、地元住民の日常生活に深刻な影響を及ぼしていました。
数字で見るベネチアの危機
- 住民の減少: 観光客の急増による物価や家賃の高騰、生活環境の悪化により、歴史地区の人口は過去70年で約17万5千人から5万人以下へと激減しました。
- 環境への負荷: 大量の観光客がもたらすゴミ問題や、大型クルーズ船が引き起こす波による歴史的建造物へのダメージも深刻です。
- ユネスコからの警告: このような状況を受け、ユネスコはベネチアを「危機遺産リスト」に登録するよう再三にわたり勧告しており、都市の存続そのものが危ぶまれています。
2024年春から29日間にわたって試験導入された日帰り税は、特定の日に旧市街を訪れる日帰り観光客に対し、5ユーロの支払いを義務付けるものでした。この試みは、税収確保よりも観光客の流れを管理し、混雑を平準化することを主な目的としていました。
2026年からの本格導入で何が変わるか
2026年からの本格導入では、試験導入の結果を踏まえ、より体系的な制度となることが予想されます。現時点では詳細な計画は未定ですが、以下のような点が検討される可能性があります。
- 変動料金制の導入: 観光シーズンや曜日によって料金を変動させ、需要をコントロールする。
- 対象日の拡大: 試験導入時よりも対象となる日数を増やし、年間を通じて混雑緩和を図る。
- 予約システムの強化: オンラインでの事前予約を必須とし、1日あたりの訪問者数に上限を設けることも視野に入れられています。
この税収は、市内のインフラ維持、清掃サービスの向上、文化遺産の修復・保存など、ベネチアが抱える課題の解決に充てられる計画です。
予測される未来と旅行者への影響
持続可能な観光への転換点
この取り組みは、ベネチアにとって「量から質へ」の観光モデル転換を促す重要な試金石となります。日帰り客を抑制し、宿泊客を優遇することで、より深くベネチアの文化や生活に触れる滞在型観光へのシフトが期待されます。長期的には、これにより観光客の満足度が向上し、地元経済にも安定した恩恵がもたらされる可能性があります。
旅行者が留意すべきこと
今後ベネチアへの旅行を計画する際には、この日帰り税の存在を念頭に置く必要があります。
- 事前の情報収集: 訪問予定日が課税対象日かどうか、公式サイトで事前に確認することが不可欠です。
- オンラインでの手続き: 訪問前のオンライン予約と支払いが必須となるため、旅行計画の早い段階で手続きを済ませておくと安心です。
- 訪問時期の検討: 混雑するピークシーズンを避け、オフシーズンに訪れることで、より快適にベネチアの魅力を堪能できるでしょう。
ベネチアの挑戦は、京都やアムステルダムなど、世界中のオーバーツーリズムに悩む観光都市にとってのモデルケースとなる可能性を秘めています。この歴史的な都市が未来へとその美しさを継承していくために、旅行者一人ひとりにも、訪問地の環境と文化に配慮した「責任ある観光」が求められています。









