期待外れの夏、米国観光業に暗雲
パンデミックからの完全回復が期待されていた米国への国際旅行ですが、2024年の夏、その勢いに急ブレーキがかかっています。専門家は、この低迷が一時的なものではなく、2025年以降も続く可能性を指摘しており、米国の観光業界に暗い影を落としています。
多くの旅行者が待ち望んだ海外旅行の本格再開。しかし、米国を目的地として選ぶ国際旅行者は予想を大きく下回っているのが現状です。本記事では、この減少の背景にある複数の要因を分析し、今後の見通しと旅行業界への影響について探ります。
国際旅行者数減少の背景:なぜ旅行者は米国を避けるのか?
米国への旅行者数が伸び悩む背景には、経済的な要因から行政手続きの問題まで、複数の課題が複雑に絡み合っています。
強すぎるドルと高騰する物価
現在の記録的なドル高は、多くの国の旅行者にとって最大の障壁となっています。自国通貨の価値がドルに対して下落しているため、航空券、ホテル、食事、ショッピングなど、米国でのあらゆる費用が割高に感じられます。例えば、ユーロやポンド、日本円などを使用する旅行者にとって、数年前と同じ予算では享受できるサービスが大幅に減少してしまっているのです。
さらに、米国内のインフレも旅行コストを押し上げています。パンデミック以降、物価は上昇を続けており、観光客だけでなく米国内の消費者をも悩ませています。この「ドル高」と「国内インフレ」の二重苦が、旅行者の財布の紐を固くさせていることは間違いありません。
長期化するビザ発給の遅延
もう一つの深刻な問題が、観光ビザ発給の著しい遅延です。特に、インド、ブラジル、メキシコといった主要な旅行市場からの旅行希望者にとって、ビザ面接の予約待機時間は数ヶ月、場合によっては1年以上にも及んでいます。
U.S. Travel Association(米国旅行業協会)は、この問題が米国経済に与える損失の大きさを長年にわたり警告してきました。旅行計画を立てたくても、ビザがいつ発給されるか分からない状況では、多くの人が他の国に行き先を変更せざるを得ません。この行政手続きのボトルネックが、回復の大きな足かせとなっているのです。
他国との競争激化
米国が足踏みする一方で、ヨーロッパやアジアの観光大国は、積極的なプロモーションを展開し、旅行者の誘致に成功しています。比較的物価が安く、独自の文化や美食体験を求める旅行者にとって、他の国々はより魅力的な選択肢となっています。利便性やコストパフォーマンスの面で、米国は国際的な観光地競争において厳しい立場に置かれています。
データで見る厳しい現実
この低迷は、具体的な数字にもはっきりと表れています。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の予測によると、2024年に海外からの旅行者が米国で消費する金額は、パンデミック前の2019年と比較して13%減少し、1,550億ドルに留まる見込みです。これは、2023年の1,780億ドルからも大幅な減少を意味します。
この差額である約230億ドル(日本円で約3.6兆円)は、本来であれば米国のホテル、航空会社、レストラン、小売店などにもたらされるはずだった収益であり、経済的な損失の大きさを物語っています。
ただし、すべての国からの旅行者が減少しているわけではありません。例えば、円安にもかかわらず日本から米国への旅行者数は回復傾向にあるなど、市場による違いも見られます。しかし、全体としてインバウンド市場が縮小しているという事実は揺るぎません。
今後の見通しと観光業界への影響:2025年も続く逆風
専門家は、この逆風が2025年も続くと見ています。U.S. Travel AssociationのCEOであるジェフ・フリーマン氏は、「このままでは米国観光業にとって『失われた10年』になりかねない」と強い懸念を表明しています。
国際旅行者の減少は、単に観光収入が減るだけではありません。観光業は米国内で数百万人の雇用を支える巨大産業です。旅行者の減少は、ホテルの稼働率低下、航空便の減便、レストランや店舗の売上不振に直結し、ひいては雇用不安や地域経済の停滞を引き起こす可能性があります。特に、観光への依存度が高い都市や地域にとっては、死活問題となりかねません。
米国観光業が取り組むべき課題
この危機的状況を打開するためには、米国政府と観光業界が一体となった取り組みが不可欠です。ビザ発給プロセスの抜本的な見直しと迅速化は、喫緊の課題と言えるでしょう。また、ドル高というマクロ経済の動向はコントロールが難しいものの、魅力的な観光コンテンツの発信や、特定の市場に向けた戦略的なプロモーションを通じて、旅行コストの高さを上回る「価値」を提供していく必要があります。
私たち旅行者にとっても、今後の為替動向や米国の観光政策は、旅行計画を立てる上で重要な判断材料となります。simvoyageでは、引き続き最新情報をお届けし、皆様の賢い旅行計画をサポートしてまいります。

