米国国土安全保障省（DHS）は、ベネズエラ国民に与えられていた一時保護資格（Temporary Protected Status、以下TPS）を2025年9月10日をもって終了すると発表しました。この決定は、米国内に居住する数十万人のベネズエラ人に影響を与えるだけでなく、米国の移民政策、さらには旅行業界にも波紋を広げる可能性があります。
背景：一時保護資格（TPS）とは
一時保護資格（TPS）は、武力紛争や大規模な自然災害、その他の異常な状況により、母国への安全な帰国が困難な特定の国の国民に対し、米国政府が一時的に国内での居住と就労を許可する人道的な制度です。この資格は永住権に直接つながるものではありませんが、資格保持者は強制送還から保護され、合法的に働くことができます。
ベネズエラは、深刻な経済危機、人道的危機、そして政治的な混乱を理由に2021年3月に初めてTPSの対象国として指定されました。その後、状況の悪化を鑑みて複数回にわたり資格の延長や再指定が行われ、現在では推定で70万人以上のベネズエラ人がこの制度の下で米国に滞在しているとされています。彼らは米国の様々な産業で労働力となり、地域社会に貢献してきました。
なぜ今、終了が決定されたのか
DHSは今回の終了決定について、ベネズエラ国内の状況が改善し、安全な帰国が可能になったとの判断に基づいていると示唆しています。TPS制度はあくまで「一時的」な措置であり、母国の状況が安定すれば終了するのが原則です。
しかし、この決定に対しては、多くの人権団体や移民支援団体から強い懸念の声が上がっています。彼らは、ベネズエラ国内の政治的・経済的状況は依然として不安定であり、市民が安全に帰国できる環境にはないと主張しています。この政策転換は、国境管理の強化と不法移民対策を重視する米国のより広範な政治的潮流の一環と見る向きもあります。
予測される未来と多方面への影響
TPSの終了は、多岐にわたる影響を及ぼすと予測されます。
対象となるベネズエラ人への影響
最も直接的かつ深刻な影響を受けるのは、TPSの資格を持つベネズエラ人自身です。2025年9月10日以降、彼らは合法的な滞在資格と就労許可を失い、不法滞在の状態に置かれることになります。これにより、経済的な困窮はもちろん、強制送還の恐怖に直面することになります。特に、米国で生まれた子供を持つ家族にとっては、家族が離散するリスクも高まります。
米国社会・経済への影響
70万人以上の人々が労働市場から一斉に離脱する可能性は、米国経済にも無視できない影響を与えます。特に、フロリダ州やテキサス州など、ベネズエラ人コミュニティが大きく、彼らが労働力として重要な役割を担っている地域では、人手不足や経済活動の停滞が懸念されます。また、法的地位を失った人々への対応が、社会的な課題となる可能性も指摘されています。
旅行業界への影響
この政策変更は、旅行業界にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。
- VFR（友人・親族訪問）旅行の減少：米国内のベネズエラ人コミュニティは、ラテンアメリカ諸国との間での重要な旅行需要を生み出しています。彼らの法的・経済的地位が不安定になることで、家族や友人を訪問するための旅行（VFR）が大幅に減少する可能性があります。
- 旅行消費の冷え込み：就労機会を失うことによる可処分所得の減少は、旅行やレジャーへの支出を直接的に抑制します。これは航空会社やホテル、旅行代理店にとって潜在的な顧客層の喪失を意味します。
- 米国への入国審査への影響：移民政策の厳格化は、国境管理全体の引き締めにつながることがあります。これにより、ラテンアメリカ諸国から米国への一般の観光客やビジネス旅行者に対する入国審査がより厳しくなり、旅行のハードルが上がる可能性も考えられます。
今後の展望
TPS終了までには約1年の猶予期間があります。この間に、対象となるベネズエラ人は弁護士や支援団体に相談し、亡命申請や他のビザへの切り替えなど、代替となる合法的な滞在資格を模索することになります。
政治の舞台では、議会や人権団体から今回の決定の見直しを求める声がさらに強まることが予想されます。今後の政権の動向によっては、この政策が再度変更される可能性も残されています。
今回の決定は、国際情勢や一国の政策がいかに個人の生活や国際的な人の移動に大きな影響を与えるかを浮き彫りにしています。simvoyageでは、今後も世界の旅行と移民に関する重要な動向に注目し、最新情報をお届けしていきます。
