かつて世界中の旅行者を惹きつけてきた米国が、国際観光の分野で苦戦を強いられています。パンデミック後の回復が期待される中、最新の予測では、米国を訪れる国際観光客の数は依然として伸び悩み、2025年になってもパンデミック以前の水準には遠く及ばない可能性が指摘されています。simvoyageでは、この厳しい現状の背景にある複数の要因と、米国の観光業界が直面する未来について深掘りします。
依然として遠いパンデミック前の水準
米国旅行協会(U.S. Travel Association)や米国商務省国家旅行観光局(NTTO)のデータを分析すると、回復ペースの鈍化が鮮明に浮かび上がります。2023年には国際観光客数がパンデミック前の2019年比で約84%まで回復したものの、その後の伸びは期待を下回るものとなっています。
2024年に入ってもこの傾向は続き、関係者の間では2025年の予測に対しても悲観的な見方が広がっています。特に、主要な市場であるヨーロッパやアジアからの旅行者数が完全に回復するには、まだ多くの時間を要すると見られています。この停滞は、単一の理由ではなく、複数の根深い問題が絡み合った結果と言えるでしょう。
回復を阻む複数の障壁
長引くビザ発給の遅延
米国への旅行回復を阻む最大の要因の一つが、ビザ発給プロセスの大幅な遅延です。パンデミック中に滞った業務の影響が今なお続いており、多くの国で観光ビザの面接予約に数ヶ月から1年以上待たされるケースが常態化しています。
例えば、インドやコロンビア、メキシコといった主要な市場では、面接の待機期間が平均で400日を超えるという異常事態も報告されています。この「ビザの壁」は、ビジネスや観光目的での渡航を計画している潜在的な旅行者を遠ざけ、彼らがビザ要件の緩い他の国へと目的地を変更する大きな原因となっています。
ドル高と世界的なインフレ
世界経済の動向も、米国観光には逆風となっています。米ドルが多くの通貨に対して高い価値を維持しているため、海外の旅行者にとって米国での滞在費や航空券、アクティビティなど、あらゆる費用が割高になっています。
さらに、世界的なインフレが個人の可処分所得を圧迫していることも見逃せません。旅行予算が限られる中で、よりコストパフォーマンスの高い旅行先が選ばれる傾向が強まっており、物価の高い米国は選択肢から外れやすくなっているのです。
激化する国際的な観光客誘致競争
パンデミック後、世界中の国々が観光業の再興をかけて、積極的な誘致合戦を繰り広げています。アジアやヨーロッパの競合国は、ビザ要件の緩和、大規模なプロモーションキャンペーンの実施、新たな観光資源の開発などを通じて、旅行者の関心を惹きつけようと躍起になっています。
こうした中で、米国は競合国に比べて効果的なアピールができていないとの指摘もあります。入国手続きの煩雑さや治安に対する懸念なども相まって、国際的な旅行市場における米国の魅力が相対的に低下している可能性があります。
観光業界への深刻な影響と未来への展望
経済的損失の拡大
国際観光客の減少は、米国の経済に深刻な影響を及ぼしています。2019年には約2,390億ドル(約37兆円)に達した国際観光客による消費額は、今なお完全には回復していません。この消費の落ち込みは、航空会社やホテル、レストラン、小売業といった観光関連産業に直接的な打撃を与え、雇用にも影響を及ぼしています。特に、国際線のゲートウェイとなる主要都市や国立公園周辺の地域経済にとっては、死活問題となっています。
求められる政府と業界の連携
この苦境を打開するためには、政府と民間業界が一体となった大胆な対策が不可欠です。具体的には、以下の点が急務とされています。
- ビザ発給プロセスの抜本的な改革と迅速化
- 戦略的な国際マーケティングとプロモーションの強化
- 空港での入国審査プロセスのデジタル化と効率化
- 旅行者にとって安全で快適な環境の整備
2026年にはFIFAワールドカップが北米3カ国で共同開催され、2028年にはロサンゼルスで夏季オリンピックが開催されます。これらの世界的なビッグイベントは、米国が再び観光大国としての魅力を世界に示す絶好の機会です。このチャンスを最大限に活かすためにも、今こそ官民が連携し、国際観光客を温かく迎え入れるための体制を再構築することが強く求められています。米国観光の未来は、今後数年間の取り組みにかかっていると言っても過言ではないでしょう。









