ヨーロッパへの旅行を計画しているアメリカ人旅行者にとって、国境での手続きが大きく変わります。2024年10月6日より、シェンゲン協定加盟国へ入国する際に、指紋と顔写真の生体認証情報を提供することが義務化されます。これは、EUが導入する新しい出入国管理システム「エントリー・エグジット・システム(EES)」によるものです。
この記事では、この新制度の背景、旅行者が具体的に何をすべきか、そして今後の旅行にどのような影響が予測されるのかを詳しく解説します。
欧州の新たな国境管理「エントリー・エグジット・システム(EES)」とは?
背景と目的
EESは、EU域外からの短期滞在者の出入国管理を近代化し、セキュリティを強化するために導入される自動化システムです。これまで、パスポートへのスタンプ押印によって行われていた出入国記録をデジタル化することで、主に以下の3つの目的を達成しようとしています。
- セキュリティの強化: 国境を越える人物の身元確認をより正確に行い、テロや組織犯罪の防止につなげます。
- 不法滞在の防止: 滞在許可期間を超えて滞在する「オーバーステイ」を自動的に検出し、管理を容易にします。従来のパスポートスタンプでは、有効期限の確認が煩雑でした。
- 国境手続きの効率化: 生体認証を利用することで、正規の旅行者の国境通過を迅速化し、空港などでの混雑緩和を目指します。
対象となる旅行者と国
この制度は、日本やアメリカ、カナダ、オーストラリアなど、シェンゲン協定加盟国へ短期滞在(90日以内)のためにビザなしで渡航できる国籍の旅行者が対象です。
対象となる渡航先は、EU加盟国の大半を含む以下のシェンゲン協定加盟国29カ国です。イギリスやアイルランドは対象外となります。
旅行者は何をすべきか?具体的な手続きの流れ
初めてEESが導入された国に入国する際、旅行者は以下の手続きを行う必要があります。
- 生体認証情報の登録: 空港や港に設置された自動キオスク端末(セルフサービス端末)で、パスポートをスキャンした後、顔写真の撮影と指紋(両手の4本指)のスキャンを行います。
- 国境警備官による確認: キオスクでの登録後、国境警備官のブースへ進み、最終的な本人確認と入国審査を受けます。
一度登録した生体認証情報は、3年間有効です。この期間内に再度シェンゲン協定加盟国を訪れる際は、初回のような登録作業は不要となり、自動化ゲートなどを利用してよりスムーズな入国が期待されます。
新制度がもたらす影響と今後の展望
導入初期の混乱と待ち時間の増加
制度が開始される2024年秋以降、特に導入初期には、旅行者の手続きへの不慣れやシステムトラブルにより、空港での待ち時間が大幅に増加する可能性があります。ヨーロッパの主要空港では、ピーク時には数時間の遅延が発生するとの予測も出ています。
また、生体認証情報の提供については、プライバシーに関する懸念の声も上がっています。EUは厳格なデータ保護規則(GDPR)に基づき情報を管理するとしていますが、旅行者自身の理解も重要になります。
長期的なメリットと旅行スタイルの変化
長期的には、EESは旅行者にとってもメリットをもたらします。パスポートへのスタンプが不要になり、自動化ゲートの利用が拡大すれば、出入国手続きは現在よりもはるかに迅速かつスムーズになるでしょう。
これにより、国境管理のセキュリティレベルが向上し、ヨーロッパ全域の安全性が高まることも期待されています。旅行者は、渡航前にEESに関する情報を確認し、空港にはこれまで以上に時間に余裕を持って到着するといった、新たな準備が必要になります。
2025年導入予定の「ETIAS」との違い
EESとしばしば混同されるのが、2025年半ばに導入が予定されている「欧州渡航情報認証制度(ETIAS)」です。この2つは目的が異なります。
- EES(エントリー・エグジット・システム): 国境での「出入国記録」を管理するシステムです。実際に国境を通過する際に登録・認証を行います。
- ETIAS(欧州渡航情報認証制度): 旅行前にオンラインで申請し、渡航認証を受ける「事前審査」システムです。アメリカのESTAに似た制度で、申請には7ユーロの手数料がかかる予定です。
将来的には、アメリカ人旅行者がヨーロッパへ渡航する際、「①渡航前にETIASを申請・取得」し、「②現地到着時にEESで生体認証登録」という2つのステップが必要になります。
まとめ:旅行者へのアドバイス
2024年10月から始まるEESは、ヨーロッパ旅行のあり方を大きく変える重要な変更点です。この秋以降にヨーロッパへの渡航を計画している方は、以下の点を心に留めておきましょう。
- 時間に余裕を持つ: 特に導入初期は、空港での手続きに通常より時間がかかることを想定し、早めに空港に到着してください。
- 最新情報を確認する: 渡航前には、EUの公式サイトや利用する航空会社のウェブサイトで、EESに関する最新情報を必ず確認しましょう。
- 心の準備をしておく: 新しい手続きに戸惑うこともあるかもしれませんが、セキュリティ強化と将来的な利便性向上のためのステップだと理解し、冷静に対応しましょう。
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