米国の移民政策に再び大きな動きがありました。トランプ前大統領は、専門技術を持つ外国人労働者向けの「H-1Bビザ」保持者に対し、入国を一部制限するとともに、新たに10万ドル(約1500万円)の追加手数料を課す大統領令を発表しました。この突然の方針転換は、米国のハイテク産業だけでなく、米国で事業を展開する多くの日本企業や、国際的な共同研究を行う学術機関にも深刻な影響を与えることが懸念されます。
背景:なぜH-1Bビザがターゲットに?
H-1Bビザは、IT、金融、医療、工学などの専門分野で高度な知識を持つ人材を、米国企業が一時的に雇用するための就労ビザです。シリコンバレーのテクノロジー企業をはじめ、多くの米国企業が世界中から優秀な人材を確保するためにこの制度を利用しており、米国の国際競争力を支える重要な柱の一つと見なされてきました。
しかし、トランプ氏は以前から「アメリカ人の雇用を奪っている」として、このビザ制度に批判的な姿勢を示してきました。過去の大統領在任中にも「Buy American, Hire American(米国製品を買い、米国人を雇え)」という大統領令を掲げ、ビザの発給要件を厳格化する動きを見せていました。今回の発表は、その方針をさらに推し進めるものであり、米国内の雇用保護を最優先する姿勢を改めて鮮明にした形です。
衝撃の新制度:10万ドルの壁
今回発表された新制度の核心は、何と言っても「10万ドルの追加手数料」です。
これまでH-1Bビザの申請には、弁護士費用などを含めても数千ドル程度が一般的でした。これに対し、10万ドルという金額は、企業にとって極めて大きな負担となります。特に、多くの専門家を雇用する大企業はもちろん、資金力に乏しいスタートアップにとっては、外国人材の雇用が事実上不可能になるほどの障壁と言えるでしょう。
米国移民局(USCIS)のデータによると、H-1Bビザの発給はインドや中国出身者が大半を占めますが、日本も毎年数千件規模でビザが発給されています。米国の現地法人に赴任する駐在員や、現地の研究機関で働く研究者など、多くの日本人がこのビザを利用しており、今回の措置は彼らのキャリアプランや企業の事業計画に直接的な打撃を与えることになります。
日本企業および研究機関への具体的な影響
- 人材戦略の根本的な見直し
米国に進出している日本の自動車メーカー、電機メーカー、IT企業などは、現地での開発や経営のために日本人技術者や管理職を派遣してきました。1人あたり10万ドルの追加コストは、人材派遣計画の大幅な見直しを迫るものです。優秀な人材を米国に送ることが困難になれば、現地法人の競争力低下に直結する恐れがあります。
- 研究開発の停滞
米国の大学や研究機関は、世界中から才能ある研究者を集めることで最先端の研究をリードしてきました。日本の研究者が米国の機関でポストを得たり、共同研究に参加したりする際にH-1Bビザは不可欠です。この制度が機能不全に陥れば、国際的な頭脳循環が滞り、科学技術の進歩にブレーキがかかる可能性があります。
予測される未来:米国の国際的地位と人材の流動性
この政策が実行されれば、世界の人材獲得競争の地図が大きく塗り替わる可能性があります。
「頭脳」の行き先が変わる
これまで米国を目指していた世界中の優秀なエンジニアや研究者たちが、米国を敬遠し、カナダ、イギリス、ドイツといった他の先進国に目を向けるようになるでしょう。特にカナダは、以前から高度人材の受け入れに積極的な移民政策を打ち出しており、米国からの人材流出の最大の受け皿となる可能性があります。これは、長期的に見て米国の技術革新や経済成長の鈍化を招く「頭脳流出」につながりかねません。
ビジネス渡航への間接的影響
H-1Bビザを利用した長期滞在者が減少すれば、それに伴う家族の渡航や、関連するビジネス出張も減少することが予想されます。これは航空会社やホテル業界にとっても無視できない影響となるでしょう。国際的な人の往来が制限されることは、旅行・観光業界全体にとってマイナス要因となります。
今後の展望
この大統領令に対しては、米国の産業界から強い反発が出ることは必至です。すでに多くのテクノロジー企業や経済団体が法的な異議申し立てを準備しているとの報道もあり、施行までには紆余曲折が予想されます。
しかし、今回の発表は、米国の移民政策が今後さらに内向きになる可能性を示唆しています。米国への渡航や移住を計画している個人、そしてグローバルに事業を展開する企業は、最新の情報を常に注視し、代替策を検討しておく必要がありそうです。simvoyageでは、今後もこの問題に関する最新ニュースを速報でお届けしていきます。









