選挙後の混乱、観光客の安全に警鐘
アフリカ屈指のサファリ観光地として知られるタンザニアが、大統領選挙後の政治的混乱により、深刻な事態に直面しています。選挙結果を巡る対立から治安が悪化し、米国大使館などが自国民に対し「テロ攻撃の危険性がある」として緊急の警告を発令。これを受け、複数の国際線が運航を停止するなど、同国の基幹産業である観光業に大きな影響が広がっています。
セレンゲティ国立公園やキリマンジャロ山、ザンジバル島など、世界中の旅行者を魅了してきたタンザニアで、今何が起きているのでしょうか。その背景と今後の影響について解説します。
背景:選挙を巡る対立の激化
今回の混乱は、2020年10月に行われた大統領選挙が発端です。現職候補の勝利が宣言された一方で、野党側は選挙に大規模な不正があったと主張し、結果の無効と抗議デモを呼びかけました。
特に、野党支持者の多い半自治区ザンジバルでは緊張が著しく高まり、治安部隊とデモ隊との衝突が発生。多数の逮捕者が出たほか、現地ではインターネットの遮断やSNSへのアクセス制限といった措置も取られ、情報が統制されるなど不安定な状況が続きました。
このような政情不安は、過激派が活動するための隙を生むとの懸念も高まっています。ダルエスサラームの米国大使館は、「ホテル、大使館、レストラン、空港といった外国人が集まる場所が、ほとんど、あるいは全く警告なしに攻撃される可能性がある」と述べ、最大限の警戒を呼びかけています。
観光業への具体的な影響
国際航空網の麻痺
治安悪化と安全上の懸念から、航空各社はタンザニアへのフライトに慎重な姿勢を見せています。KLMオランダ航空は、主要な玄関口であるダルエスサラームやザンジバルへのフライトを一時的に停止。その他の一部航空会社も追随する動きを見せており、タンザニアと世界を結ぶ空の便は大幅に減少しています。
これにより、現地に滞在中の観光客が出国困難になるケースや、これから渡航を予定していた旅行者がキャンセルを余儀なくされる事態が相次いでいます。
主要観光地の苦境
タンザニアの経済は観光業に大きく依存しており、世界銀行のデータによれば、観光収入はコロナ禍以前、国のGDPの10%以上を占めていました。しかし、今回の混乱は観光地に直接的な打撃を与えています。
サファリツアーの拠点となるアルーシャや、美しいビーチが広がるザンジバル島では、観光客の姿が激減。ホテルの予約キャンセルが相次ぎ、多くのツアーオペレーターが事業停止の危機に瀕しています。本来であればピークシーズンに向けて賑わうはずの国立公園やリゾート地が静まり返っているという、異例の事態となっています。
予測される未来と旅行者への影響
短期的な見通し
政治的な対立が解決され、治安が完全に回復するまで、観光客の客足が戻ることは難しいと見られています。米国や英国など主要各国政府は、タンザニアへの渡航情報を「渡航中止勧告」や「不要不急の渡航自粛」といった高いレベルに引き上げており、この勧告が解除されない限り、旅行業界の本格的な回復は期待できません。
長期的な懸念
今回の事態が長期化すれば、「平和で安全な観光大国」というタンザニアのブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。観光業に依存する数多くの人々の雇用が失われ、地域経済に深刻なダメージを与えることも懸念されます。政府による事態の収拾と、失われた国際社会からの信頼をいかにして回復するかが、今後の大きな課題となるでしょう。
旅行者が注意すべきこと
これからタンザニアへの渡航を計画している方は、計画を延期するか、中止することを強く推奨します。外務省や各国大使館が発表する最新の渡航情報を必ず確認してください。
すでに現地に滞在している場合は、デモや集会が行われている場所には絶対に近づかず、人混みを避けて安全な場所に留まってください。また、利用予定の航空会社の運航状況を常に確認し、大使館などと連絡が取れる状態を維持することが重要です。









