太陽と情熱の国スペインの観光業が、かつてない活況を見せています。パンデミック後の旅行需要の爆発的な回復を受け、2025年の観光客数は過去最高を記録する勢いですが、その裏で旅行者にとっては嬉しくない変化も起きています。これまで「お得な旅行シーズン」として知られていた春や秋の「ショルダーシーズン」でさえも価格が高騰し、かつての魅力が薄れつつあるのです。
過去最高を更新し続けるスペインの観光客数
スペイン国家統計局(INE)によると、2025年上半期にスペインを訪れた外国人観光客の数は、前年同期比で15%増となる約4,200万人に達し、過去最高記録を更新しました。これに伴い、観光収入も550億ユーロを突破し、スペイン経済を力強く牽引しています。
このブームは、パンデミック中に抑えられていた旅行意欲の解放、いわゆる「リベンジトラベル」が主な要因と見られていますが、それに加えてリモートワークの普及により、従来の夏休みに集中していた旅行者が、より柔軟な時期に旅行できるようになったことも背景にあると考えられます。
「お得」ではなくなったショルダーシーズン
これまで多くの賢い旅行者は、夏のピークシーズンを避け、気候が穏やかで混雑も少ない春(4月〜6月)や秋(9月〜10月)のショルダーシーズンを選んできました。何よりも、航空券や宿泊費が手頃であることが最大の魅力でした。
しかし、その常識は覆されようとしています。旅行需要の平準化と世界的なインフレの波を受け、ショルダーシーズンの旅行費用が著しく高騰しているのです。
旅行データ分析会社によると、2025年のショルダーシーズンにおけるスペイン主要観光地(バルセロナ、マドリード、マヨルカ島など)の平均ホテル宿泊料金は、パンデミック前の2019年と比較して平均で25%以上も上昇。特に人気の高い都市では、40%近い値上がりを見せるホテルも少なくありません。航空券も同様に、ピークシーズンと大差ない価格帯で推移しており、「お得感」はほぼ消失したと言えるでしょう。
価格高騰の背景にある複合的な要因
この価格高騰は、単なる需要増加だけが原因ではありません。複数の要因が複雑に絡み合っています。
供給側のコスト増
世界的なインフレは、スペインの観光業にも大きな影響を与えています。人件費、光熱費、食材費など、ホテルやレストランの運営コストが軒並み上昇しており、そのコストがサービス価格に転嫁されているのです。
持続可能な観光へのシフト
オーバーツーリズム(観光公害)に悩まされてきたスペインの各都市では、単に観光客の数を増やすのではなく、客単価を上げて「量より質」を重視する持続可能な観光へと舵を切り始めています。付加価値の高い体験を提供することで観光収入を確保しつつ、地域の環境や住民の生活への負担を軽減する狙いがあります。この戦略的な価格設定も、旅行費用の上昇に繋がっています。
旅行者の行動はどう変わるか?今後の展望
ショルダーシーズンの「高級化」は、今後の旅行者の行動に大きな影響を与える可能性があります。
新たな旅行シーズンの模索
旅行者は、従来のショルダーシーズンを避け、これまでオフシーズンとされてきた冬(11月〜2月)に目を向けるようになるかもしれません。気候は穏やかではありませんが、価格の安さを求めて旅行時期をさらにずらす動きが加速する可能性があります。
目的地の分散化
バルセロナやマドリードといった有名観光地から、まだあまり知られていない地方都市や内陸部の地域へと関心が移っていくことも予測されます。アンダルシア地方の白い村々や、ガリシア地方の美しい海岸線など、新たなデスティネーションが注目を集めることになるでしょう。
スペイン旅行を計画している方は、もはや「ショルダーシーズンだから安い」という前提を捨て、早めの予約を心がけると共に、訪問先の選択肢を広げることが、満足度の高い旅を実現する鍵となりそうです。スペインの観光業は新たなフェーズに入り、旅行者側にもこれまでとは違った計画性が求められています。









