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天下分け目の地へ、時を超える旅路。シニア夫婦が巡る関ヶ原古戦場探訪記

「歴史は、書物で読むだけでは半分しか理解できない」。これは、長年ヨーロッパの古城や戦場跡を夫婦で巡る中で、私たちがたどり着いた実感です。子育ても一段落し、時間に縛られない旅ができるようになった今、改めて日本の歴史の大きな転換点に立ってみたい。そう思い立ったのが、今回の旅の始まりでした。選んだ舞台は、慶長5年(1600年)9月15日、わずか半日で日本の運命を決定づけた「関ヶ原の戦い」の地です。

かつて東山道の不破関が置かれ、中山道と北国街道が交差する交通の要衝であったこの地は、まさに歴史が動くべくして動いた場所。徳川家康率いる東軍と、石田三成を中心とする西軍、合わせて十数万もの兵士たちがこの地に集い、激突したのです。その痕跡は、400年以上の時を経た今も、静かに、しかし確かにこの地に息づいています。

若い頃のように、分刻みのスケジュールで観光地を駆け巡る旅はもう卒業。私たち夫婦が目指すのは、歴史と対話し、その土地の空気を肌で感じる、ゆとりある旅です。風の音に耳を澄ませ、武将たちの声なき声を聞く。そんな深い体験を求めて、天下分け目の地、関ヶ原へと向かいました。この記事が、私たちと同じように、歴史の舞台をじっくりと味わいたいと願う方々の、ささやかな道しるべとなれば幸いです。

まずは、私たちの旅の拠点となった場所を地図でご覧ください。ここから、時を超える旅が始まります。

歴史の舞台をじっくりと味わいたい方には、武士の夢の跡を辿る鎌倉幕府の旅もまた、心に残る体験となるでしょう。

目次

旅の準備編:古戦場巡りを快適にするために

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壮大な歴史のロマンに心を躍らせる一方で、旅の成功は事前準備にかかっていると言っても過言ではありません。特に私たちシニア世代にとっては、無理なく快適に過ごせる準備が何より重要です。歴史の舞台に立つその前に、まずは万全の体制を整えましょう。

いつ訪れるのが最適?季節ごとの魅力と注意点

関ヶ原は盆地特有の気候で、夏は厳しい暑さ、冬は伊吹山から吹き下ろす冷たい「伊吹おろし」が吹きつけ、雪も多く降ります。古戦場巡りは屋外での活動が中心となるため、訪れる季節の選択は非常に大切です。

おすすめしたいのは、気候が穏やかで過ごしやすい春(4月~5月)と秋(10月~11月)です。暑さや寒さを気にせず、心地よい風を感じながら史跡を巡れます。特に秋は、毎年10月に開催される「関ケ原合戦まつり」で町全体が活気に満ちます。武者行列や火縄銃の実演など、歴史好きを問わず楽しめるイベントが豊富にあります。この時期に合わせて訪れるのも魅力的です。

夏に足を運ぶなら、熱中症対策が必須です。帽子や日傘を準備し、こまめな水分補給を心掛けてください。史跡間は日陰が少ないところも多いため、体調管理には特に気を付けましょう。

冬の雪景色の中に浮かぶ史跡は風情がありますが、路面の凍結や、雪で碑が見えにくくなることも考慮が必要です。防寒はもちろん、滑りにくい靴を用意するなど、特別な備えが求められます。松尾山などの山間部の史跡へのアクセスも難しくなり、行動範囲が制限される可能性があることも念頭に置きましょう。

服装と持ち物リスト:歩きやすさと備えをしっかりと

古戦場巡りは予想以上に歩くことになります。離れた陣跡を繋いでめぐると、数キロに達することも珍しくありません。だからこそ、服装と持ち物は「快適さ」と「安全性」を最優先に選びたいものです。

快適な旅を支える服装

  • 靴: 何よりも重要なのは靴です。必ず履き慣れた歩きやすいスニーカーやウォーキングシューズを選んでください。新品の靴は靴擦れの原因になります。笹尾山や松尾山など、多少の坂道や未舗装路も歩くことを想定しておきましょう。
  • 服装: 体温調節がしやすく、重ね着できる服装が基本です。天候が変わりやすい山間地域では、朝晩と日中の気温差も大きくなります。気軽に羽織れるウィンドブレーカーやカーディガンが便利です。
  • 帽子・日焼け止め: 季節を問わず、紫外線対策は欠かせません。特に夏はつばの広い帽子が重宝します。
  • 雨具: 急な天候の変化に備えて、軽量の折りたたみ傘やレインウェアをバッグに忍ばせておくと安心です。両手が空くレインウェアは、自転車で巡る場合に特に役立ちます。

必携の持ち物リスト

  • 飲み物: 水筒やペットボトルは必ず持参しましょう。史跡周辺には自動販売機やコンビニが少ないため、特に夏場は多めに用意することをおすすめします。
  • 地図・パンフレット: JR関ケ原駅前の観光交流館で、詳細な古戦場マップが手に入ります。これを手に巡るのが基本スタイルです。スマートフォンアプリも便利ですが、紙の地図があると全体像を把握しやすく、電波状況やバッテリーを気にせずに済みます。
  • モバイルバッテリー: 写真撮影や地図アプリの使用により、スマートフォンのバッテリーは意外と早く消耗します。予備のバッテリーがあると安心です。
  • 健康保険証・お薬手帳: 万が一の体調不良に備え、必ず携帯しましょう。普段服用している薬がある方は、忘れずに持参してください。
  • 虫除けスプレー: 緑の多い場所を散策する春から秋にかけては、虫刺され対策として持参すると安心です。
  • 小さなタオル・ウェットティッシュ: 汗を拭ったり、手を清潔に保つのに役立ちます。
  • 杖やサポーター: 足腰に不安がある方は、使い慣れた杖やサポーターを持つと散策の負担が軽減されます。無理せず、自分の体調と相談して計画を立てることが大切です。
  • 小腹を満たす軽食: 飴やチョコレート、カロリーメイトなど、手軽に糖分補給できるものがあると疲れた時に助かります。

これらの準備を万全にすることで、心に余裕が生まれ、目の前の歴史にじっくり向き合えます。

アクセス方法の検討:自分たちに合った移動手段を選ぶ

関ヶ原へのアクセスは、主に公共交通機関か自家用車のどちらかとなります。それぞれのメリットとデメリットを理解し、ご自身の旅のスタイルに合った方法を選びましょう。

公共交通機関を利用する場合

JR東海道本線の「関ケ原駅」が旅の出発点となります。名古屋駅から約45分、米原駅からは約15分と、主要駅からのアクセスは良好です。

駅のすぐそばにある「関ケ原駅前観光交流館」は情報収集の拠点であり、ここでレンタサイクルを借りるのが一般的な巡り方です。普通の自転車に加え、電動アシスト自転車もあり、私たちシニア世代には特に電動アシストをおすすめします。関ヶ原の地は比較的平坦ですが、笹尾山や大谷吉継陣跡などに緩やかな坂道もあるため、電動アシストなら疲れを気にせず快適に史跡巡りができます。

また、町内を巡るコミュニティバスやタクシーを利用する方法もあります。体力に自信がなかったり、天候が悪い日には便利な選択肢です。

自家用車を使う場合

時間を気にせず自由なペースで巡りたいなら自家用車が便利です。主要な史跡の近くには無料駐車場が整備されていることが多く、例えば岐阜関ケ原古戦場記念館や笹尾山交流館の駐車場は広く利用しやすいです。

ただし、史跡によっては道が狭く駐車スペースが限られている場所もあります。特に、小さな陣跡を点々と巡る際には農道のような細い道を通ることもあるため、運転には注意が必要です。カーナビに目的地をセットする際は、史跡の名前だけでなく駐車場の有無も事前に確認しておくとスムーズです。

私たち夫婦は今回、新幹線で米原駅まで行き、そこからJR在来線で関ケ原駅へ向かうルートを選びました。駅を拠点に電動アシスト自転車を利用したことで、車の運転から解放され、関ヶ原の風を直に感じながら自由に寄り道を楽しむことができました。

関ヶ原の歩き方:モデルコースと見どころ解説

いよいよ古戦場の地へと足を踏み入れます。しかし、関ヶ原の広大な土地に点在する数多くの史跡を前にして、どこから巡ればよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。ここでは私たちの体験をもとに、効率的で深く歴史を感じられる歩き方とモデルコースをご紹介します。

最初に訪れたい場所:関ケ原駅前観光交流館

JR関ケ原駅の改札を出てすぐ目の前にある洗練された建物が「関ケ原駅前観光交流館」です。ここを旅の出発点にすることで、以降の行動がずっとスムーズになります。

まず館内で、古戦場めぐりの必須アイテムである「関ケ原古戦場マップ」を入手しましょう。主要な史跡の位置関係はもちろん、飲食店やお土産屋の情報も網羅されておりとても便利です。常駐スタッフにおすすめのコースや最新情報を聞いてみるのも良いでしょう。

さらに、古戦場巡りの心強い味方がレンタサイクルです。

  • 利用手順: 館内受付で申込用紙に記入し、利用料金を支払います。身分証明書の提示が求められることがあるため、運転免許証や健康保険証を用意しておくと安心です。
  • 種類と料金: 普通自転車と電動アシスト自転車があり、料金は異なります。私たちは迷わず電動アシストを選択しました。料金体系は時間制(例:4時間、1日など)が一般的で、ゆっくり回りたい場合は1日レンタルが安心です。
  • 注意点: 貸出および返却時間に制限があるため、事前に確認して遅れないように計画を立てましょう。加えて、パンクなど万が一のトラブルに備えて緊急連絡先を控えておくこともお忘れなく。

駅にはコインロッカーも設置されているので、大きな荷物はそちらに預けて身軽な格好で出発するのが賢明です。地図を片手に、さあペダルを漕ぎ出しましょう。

おすすめ見学コース:半日から一日で巡る古戦場の歩き方

関ヶ原の史跡巡りは、時間や体力、興味に応じてさまざまなルートが考えられます。ここでは主要なスポットを効率よく回るためのモデルコースを2つご案内します。

半日コース(所要時間:約3〜4時間)

「時間は限られているけれど、関ヶ原の空気感はしっかり味わいたい」という方におすすめの、要点をおさえたコースです。電動アシスト自転車の利用を強く推奨します。

関ケ原駅前観光交流館 → 岐阜関ケ原古戦場記念館 → 徳川家康最後陣跡 → 決戦地 → 石田三成陣跡(笹尾山) → 関ケ原駅

このコースでは最初に「岐阜関ケ原古戦場記念館」を訪れることがポイントです。合戦の全体像を把握したうえで各史跡を巡ると、より深く理解できます。西軍の拠点であった笹尾山から戦場全体を眺め、東軍の家康が最後に陣を構えた場所、さらに激戦地だった決戦地を巡ることで、合戦の大きな流れを実感できるでしょう。

一日じっくりコース(所要時間:約6〜7時間)

「せっかく訪れたのだから、歴史の細部までじっくり味わいたい」という方向けの、より深く多角的に合戦を体感するコースです。

半日コースに加え、島津義弘陣跡、大谷吉継陣跡・墓所、福島正則陣跡などを訪問

半日コースをベースにさらに足を伸ばします。とりわけ西軍ながら義に殉じ、小早川秀秋の裏切りによる壮絶な最期を遂げた大谷吉継の陣跡と墓は、歴史ファンの心を強く打つスポットです。また、合戦の口火を切った福島正則の陣跡や、敵陣突破で知られる島津義弘の陣跡を訪れることで、多面的なドラマが立ち現れます。

もし体力と時間に余裕がさらにあれば、裏切りの大将・小早川秀秋が陣を据えた「松尾山」へ挑戦するのも良いでしょう。ただし、こちらは軽い登山を伴うため、相応の準備が必要です。

最後に心がけたいのは、モデルコースに縛られすぎないことです。興味のある武将や印象に残った場所にゆっくり時間をかけるのが、個人旅行の醍醐味です。私たちも地図を見ながら「次はあの武将の陣跡へ行ってみようか」と夫婦で相談しつつ、自由にルートを変えながら楽しみました。

主要な史跡を巡る:武将たちの息吹を感じて

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地図を手に自転車を走らせると、のどかな田園風景のなかに突然、武将たちの陣跡を示す幟(のぼり)や石碑が目に入ります。一つひとつ立ち寄り、目を閉じてみると、400年以上前の鬨(とき)の声や馬のいななきが聞こえてくるように感じられます。ここでは、私たちが特に印象に残った代表的な史跡と、その見どころをご紹介します。

岐阜関ケ原古戦場記念館:戦いの全容を把握する

古戦場巡りのスタート地点として、また理解を深める拠点として、絶対に見逃せないのが2020年に開館した「岐阜関ケ原古戦場記念館」です。最新技術を駆使した展示は、歴史に詳しくない人でも関ヶ原の戦いの世界に引き込まれること間違いありません。

  • チケット購入: 訪問前に公式サイトで開館日時や休館日、観覧料をチェックしましょう。チケットは当日館内の券売機で購入可能です。各種割引制度があるため、該当者は証明書の持参をお忘れなく。
  • 見どころ:
  • グラウンド・ビジョン: 1階の床全体を覆うスクリーンに関ヶ原の地形が映し出され、東西両軍の動きが光で示されます。ナレーションとともに変化する戦況を俯瞰することで、複雑な合戦の流れを直感的に理解できます。
  • シアター: 2階のシアターでは、大迫力の映像と音響により、まさに合戦の渦中にいるかのような臨場感が味わえます。風や振動の演出も加わり、その臨場感には圧倒されました。
  • 常設展示室: 合戦で実際に使われた甲冑や火縄銃、貴重な古文書などが展示されており、武将たちの人物像や戦いに至る背景を深く学べます。
  • 展望室: 5階の展望室からは関ヶ原の古戦場が一望でき、これから巡る史跡や既に訪れた場所の位置関係を確認するのに最適です。笹尾山、松尾山、そして家康が最初に陣を置いた桃配山(ももくばりやま)など、重要地点を実際に目で見て把握することで、地形が戦況に及ぼした影響を実感できるでしょう。

館内にはエレベーターが完備され、休憩用の椅子も随所に設置されているため、私たちシニア世代でも安心して見学が可能です。まずここで1時間から1時間半ほどかけてじっくり学び、合戦の全貌を理解してから史跡巡りに出発することをおすすめします。

石田三成陣跡(笹尾山):西軍本陣から戦場を見渡す

記念館を出て西へ少し進むと、石田三成の「大一大万大吉」の旗印がたなびく小高い山が見えてきます。標高約198メートルの笹尾山は、西軍の事実上の本陣、石田三成陣跡です。

麓には笹尾山交流館があり、駐車場やトイレが整備されています。ここから山頂までは整備された階段や坂道が続き、徒歩約10分。急な箇所もあるため、足元に気をつけつつ自分のペースでゆっくり登りましょう。息が上がり始めるころ、視界が一気に開け、関ヶ原の盆地を見渡せる山頂にたどり着きます。

この場所に立つと、なぜ三成がここを本陣に選んだのかがよく理解できます。眼下には決戦の地が広がり、東軍の諸隊の動きを一望できるのです。正面には、合戦の鍵を握る小早川秀秋が陣した松尾山が見えます。三成はここから、徳川の鉄砲隊による威嚇射撃や、はずの味方の小早川軍が襲いかかる様子を、どのような思いで見つめていたのでしょうか。

山頂には三成の陣跡を示す石碑のほか、盟友島左近の陣跡も麓に残ります。戦略の拠点であると同時に、多くの西軍兵士たちの無念が染み込んだ場所です。吹き抜ける風に、彼らの声なき声が聞こえてくるような、そんな感傷的な気持ちを抱かせる場所でした。

徳川家康最後陣跡(床几場):勝利を確信した地

笹尾山から自転車で数分、記念館のすぐ近くに、徳川家康が合戦終盤に陣を移した場所があります。ここは元々、西軍の島津義弘が陣を構えていた地です。

西軍敗走が濃厚になった頃、家康は桃配山から前線のこの床几場(しょうぎば)へと進出し、諸将の首実検(討ち取った敵将の首を確認する作業)を行ったと伝えられています。

周囲は静かな公園として整備されており、訪問者はそれほど多くありません。しかし、この場所こそ家康の天下取りがほぼ確定した歴史の転換点です。勝利を確信し、冷静に首実検をする家康の姿を想像すると、その冷徹さと先見性に改めて畏敬の念が湧きます。平坦でアクセスが良いため、ぜひ訪れたいスポットです。

決戦地:激戦の中心地へ

関ヶ原の戦いで最も激しい戦闘が繰り広げられたとされるのが、この「決戦地」です。現在はのどかな田園風景が広がっているものの、かつてこの地では数え切れない命が失われました。

中央には「関ヶ原合戦決戦地」と刻まれた大きな石碑が静かに立っています。東軍の福島正則隊や井伊直政隊、西軍の宇喜多秀家隊などがここで激しく火花を散らしました。周囲に遮るものがなく、広い空が印象的です。

私たちは自転車を停め、しばらく黙ってその場に佇みました。石碑前に供えられた花は訪れる人々の慰霊の気持ちを物語っています。ここで展開されたであろう凄惨な光景を思い浮かべると胸が締め付けられるようでした。歴史の華やかさの裏にある数多の悲劇を静かに語りかけるこの場所は、関ヶ原探訪の要所として心を落ち着けて向き合うべき場所です。

松尾山・小早川秀秋陣跡:裏切りの舞台

関ヶ原の勝敗を決定づけた最大の要因は小早川秀秋の裏切りでした。彼が約1万5千の大軍を率いて陣を構えたのが、関ヶ原南方にそびえる松尾山です。

注意: ここは他の史跡とは異なり、本格的な登山となります。特にシニア世代の方が安易に登るのはおすすめできません。麓から山頂まで片道40分から1時間ほどかかり、道は整備されているものの急坂やぬかるみもあります。挑戦する場合は、下記の準備と心構えが必要です。

  • 服装・装備: トレッキングシューズか登山靴を用意し、水分、タオル、熊鈴などの野生動物対策グッズも携行しましょう。
  • 体調管理: 無理は禁物です。天候が悪い日や体調に不安がある場合は潔く断念する勇気を持ちましょう。
  • 情報収集: 登山口の状況などを事前に観光交流館で確認することが望ましいです。

今回私たちは麓から山を眺めるだけにとどめましたが、それでも山頂で戦況を見守っていた秀秋の葛藤を思い描くには十分でした。西軍を裏切って東軍につくのか、あるいは義を貫くのか。彼の一挙手一投足で戦況はもちろん日本の未来までも大きく動いたのです。山頂からの眺めはまさに天下を一望するにふさわしいといわれています。健脚に自信のある方は万全の準備をして挑戦してみてはいかがでしょうか。

大谷吉継陣跡と墓:義に殉じた武将を偲ぶ

私が関ヶ原で最も心を惹かれた武将は大谷吉継です。石田三成との友情に殉じ、病身を押して西軍に参加し、小早川秀秋の裏切りを予見しながら松尾山東側の山中に陣を構えました。

吉継の陣跡は松尾山の東側にあり、彼が自害した墓所はさらに山道を奥へ進んだ、静かで厳かな場所にあります。

墓所へ続く道は木々に囲まれ、ひんやりとした空気が漂います。蝉の声のみが響く静寂の中、苔むした墓石の前に立つと自然に頭が下がります。不利を悟りつつも友との義に生きた吉継の生き様は、400年以上経った今も私たちの心を深く打ちます。派手さはないものの、関ヶ原を訪れた際にはぜひ足を運んでいただきたい場所の一つです。

旅の安心・安全のために:シニア世代が知っておきたいこと

楽しい旅は、心身の健康と安全があって初めて成り立ちます。特に見慣れない土地では、予期しない事態に備えておくことが心に余裕をもたらします。歴史探訪に夢中になるあまり、基本的な注意を忘れないよう心掛けたいものです。

現地の医療情報

旅先での体調不良は何より避けたい状況ですが、万が一に備えることは非常に重要です。

  • 関ケ原町内の医療機関: 町内にはいくつかのクリニックや診療所があります。大規模な病院は隣接する市(例えば大垣市など)にありますが、急な体調の変化があった際は、まず宿泊先や観光案内所に相談し、最寄りの医療機関を教えてもらうと安心です。
  • 緊急時の連絡先: 救急車を呼ぶ場合は市外局番なしの「119」へ。落ち着いて現在地と症状を正確に伝えましょう。
  • 事前の準備: 旅行前にはかかりつけの医師に相談し、無理のない旅程かどうか確認しておくことを推奨します。また、健康保険証やお薬手帳のコピーを財布以外の場所に保管しておけば、万一の紛失時にも対応可能です。

私たちも旅行前には互いの体調を必ず確認し、常備薬の確認を欠かしません。この小さな準備が安心感につながっています。

治安とトラブル対応

関ケ原町は治安が良く穏やかな地域ですが、油断は禁物で、一般的な観光地と同様の注意が必要です。

  • 貴重品の管理: 記念館など人が多い場所では、荷物から目を離さないようにしましょう。自転車で回る際も、かごに貴重品を置いたまま離れることがないよう気を付けてください。
  • 野生動物への注意: 史跡は山中や田畑の中に位置することが多く、特に松尾山や大谷吉継の墓所など山間部に入る際は、熊や猪、蛇などと遭遇するリスクもあります。単独行動は避け、熊鈴を携帯するなど音を出して人の存在を知らせる工夫をするとよいでしょう。
  • 道に迷った場合: 案内板は整備されていますが、細い道に入ると不安になることも。そんな時は遠慮せず地元の方に道を尋ねてみてください。親切に教えてもらえます。スマートフォンの地図アプリは便利ですが、バッテリー切れに備えて紙の地図も併用するのが賢明です。
  • レンタサイクルのトラブル: パンクなどのトラブルが発生した場合は無理に走行せず、まず安全な場所で停車してください。その後、貸出場所(観光交流館など)へ連絡し指示を仰ぎましょう。貸出時に受け取る書類や緊急連絡先は必ず携帯することをお勧めします。

食事と休憩スポット

古戦場巡りは予想以上に体力を使います。適度な休憩と十分な栄養補給が、旅を楽しみ続ける秘訣です。

関ヶ原の飲食店は主にJR関ケ原駅周辺と岐阜関ケ原古戦場記念館周辺に集中しています。記念館内のレストランやカフェは、移動の手間が少なく便利で、メニューも豊富なのでゆったりと休憩が可能です。

駅周辺には地元食材を使った食堂やレストランが点在し、近江牛や伊吹そばなどが名物として親しまれています。私たちも一日の散策を終えたあと、駅前の食堂で温かいそばを味わい、心身ともに温まりました。

注意点として、広大な古戦場のエリアには飲食店やコンビニエンスストアがほとんどありません。散策の途中に食事や休憩を取りたい場合は、あらかじめ駅周辺で済ませるか、弁当などを用意しておくことをおすすめします。こまめな水分補給と計画的な休憩が、快適な古戦場巡りを支えてくれます。

関ヶ原をもっと深く楽しむために

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一度訪れるだけでも十分に魅力的な関ヶ原ですが、少し工夫を加えることで、旅はさらに深みを増し、心に残るものとなるでしょう。歴史の表層をなぞるだけでなく、その背後に秘められた物語に触れるためのポイントをいくつかご紹介します。

古戦場ガイドの活用法

地図を頼りに自分たちだけで巡るのも自由で楽しいですが、専門のガイドの解説を聞きながら歩くと、目に映る景色の印象がまったく変わります。関ケ原では、ボランティアガイドの案内をお願いすることが可能です。

  • ガイドの魅力: ガイドブックには載っていない裏話や、武将たちの人間味あふれるエピソード、地形が戦況に及ぼした具体的な影響の解説など、生の声を通じて歴史を学べます。小さな石碑の意味など、私たちだけでは見過ごしがちな細部を教えてもらったときは、本当に「目から鱗が落ちる」体験でした。
  • 申し込み方法: ガイドの依頼には事前予約が必要です。関ケ原観光ガイドの公式サイトなどから申し込みができ、希望するコースや時間、特に興味のある武将などを伝えておくと、より充実した案内が受けられます。料金や予約締切についての詳細は公式サイトをご確認ください。

知識豊かなガイドとの対話は、旅の大きなスパイスとなります。歴史理解が深まるだけでなく、地元の方々との交流もまた、旅の素晴らしい思い出になるでしょう。

関連施設にも足を伸ばしてみる

時間に余裕があるなら、主要な古戦場跡だけでなく、関連する施設にも訪れてみることをおすすめします。

  • 関ケ原町歴史民俗学習館: 岐阜関ケ原古戦場記念館の別館として位置づけられており、関ヶ原の戦いだけでなく、古代から近代までの関ケ原町の歴史や文化を幅広く学べます。特に古代の重要な関所であった「不破関(ふわのせき)」に関する展示は興味深く、「関ヶ原」という地名の由来にもなったこの地域の重要性を改めて実感させてくれます。
  • 不破関跡: 学習館のすぐそばにあり、国の史跡にも指定されている遺跡です。壬申の乱(672年)で重要な役割を果たした関所であり、平安時代まで日本の東西を結ぶ交通や軍事の要衝でした。合戦の舞台となる遥か以前から、この地が歴史の中心地であったことを物語っています。静かな森に佇む関跡を散策すると、関ヶ原の持つ歴史の重層性を肌で感じられるでしょう。

こうした施設を訪れることで、「関ヶ原の戦い」という一点だけでなく、より広い時代の流れの中でこの土地の歴史を把握でき、旅の質が一層豊かになります。

お土産選びの楽しみ

旅の締めくくりとして、お土産選びも楽しみのひとつです。関ヶ原には歴史好きの心をくすぐるユニークな品々が揃っています。

岐阜関ケ原古戦場記念館のミュージアムショップは品ぞろえ豊富で、各武将の家紋をあしらったグッズや合戦図のクリアファイル、専門書籍などが並び、見ているだけでも楽しいです。夫は熱心に各武将のTシャツを吟味していました。

また、関ケ原駅前観光交流館にもお土産コーナーがあり、地元の銘菓や特産品が取りそろえられています。私たちは合戦にちなんだ名前のお菓子や地元産の醤油を買い求め、旅の思い出を家族や友人と共有しました。お土産選びの時間は、旅の楽しい記憶を振り返る大切なひとときです。ぜひ心惹かれる一品を見つけてみてください。

歴史の舞台に立ち、未来を想う

関ヶ原の地を巡る旅を終え、帰路の電車に揺られながら、車窓を流れる穏やかな田園風景をぼんやりと眺めていました。ほんの数時間前までは、この静かな土地で、国を二分する激しい戦いが繰り広げられていたとは、とても信じがたい情景です。しかし私たちは確かにその地を踏み、肌でその空気を感じ取ってきました。

笹尾山の頂で受けた風は、石田三成が目にしたであろう景色の一端を、わずかに私たちにも見せてくれたようでした。決戦の地に立つ石碑の前で手を合わせたとき、私たちは歴史の教科書に記された冷たい事実としてではなく、そこで生きた人々の痛みや無念が確かに伝わってきた気がしました。それは書物や映像からは決して得られない、旅だからこその貴重な体験でした。

「兵どもが夢の跡」という芭蕉の句ほど、心に深く響いた言葉はありません。天下統一の礎となったこの輝かしい勝利の裏には、数え切れない名もなき兵士たちの死があったのです。義に生きた者、裏切った者、野望に燃えた者、そして家族のもとに帰ることを願った者―それぞれの想いが交錯し、やがて消えていった場所。それこそが関ヶ原であると、この旅を通じて強く理解しました。

歴史の舞台に立つことは、ただ過去を回想するだけに留まりません。そこで起こった出来事を知り、人々の想いに寄り添うことで、私たちが今享受している平和の尊さを改めて実感させられます。争いのない未来を願い、希望を託したであろう武将たちの思いは、形を変え、現代を生きる私たちへのメッセージとして、この地に息づいているのかもしれません。

ヨーロッパの壮麗な城や教会を巡る旅も素晴らしいですが、日本の歴史が凝縮された古戦場を訪れる旅は、私たち日本人の心に直に響く、また違った深い感動をもたらしてくれました。ゆったりとした時間の中で歴史と静かに向き合う。そんなシニア世代ならではの知的な旅のスタイルを、これからも夫婦で大切に続けていきたいと思います。関ヶ原の空のもとで、私たちはそう固く胸に誓ったのです。この旅の記録が、あなたの新たな一歩を踏み出すきっかけとなることを心から願っています。

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この記事を書いたトラベルライター

子育てひと段落。今は夫と2人で「暮らすように旅する」を実践中。ヨーロッパでのんびり滞在しながら、シニアにも優しい旅情報を綴ってます。

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