大手クルーズ会社ロイヤル・カリビアン・インターナショナルは、カリブ海に浮かぶハイチのプライベート寄港地「ラバディ(Labadee)」への寄港を、2026年4月まで全面的に中止すると発表しました。この決定は、ハイチ国内の深刻な治安悪化を受けたものであり、カリブ海クルーズの旅程に大きな影響を与えることになります。
背景:なぜ楽園への扉は閉ざされたのか
ハイチの深刻な治安状況
今回の寄港中止の直接的な原因は、ハイチ国内、特に首都ポルトープランス周辺で激化するギャングによる暴力と、それに伴う政治的・社会的な混乱です。
2024年初頭から、武装したギャング集団が政府機関やインフラを攻撃し、国内の統治機能は著しく低下。空港や港湾が閉鎖される事態にまで発展しました。この状況を受け、米国務省はハイチへの渡航情報を最も危険度が高い「レベル4:渡航中止勧告」に引き上げ、自国民に国外退避を強く勧告しています。
プライベートリゾート「ラバディ」の特殊性
ラバディは、ハイチ北部の沿岸に位置するロイヤル・カリビアン専用のプライベートリゾートです。高いフェンスで囲まれ、厳重な警備体制が敷かれており、これまでハイチ本土の混乱とは切り離された「安全な楽園」として運営されてきました。乗客はここで美しいビーチやウォータースポーツ、ジップラインなどを楽しむことができました。
しかし、国内全土に広がる不安定な情勢は、この隔離されたリゾートの運営にも影を落とし始めました。乗客と乗組員の安全を最優先するという観点から、同社は長期的な寄港中止という難しい決断を下さざるを得なかったのです。
予測される影響と今後の見通し
旅行者とクルーズの旅程への影響
ラバディへの寄港が中止されることで、該当するクルーズの旅程は変更を余儀なくされます。代替地としては、同じくロイヤル・カリビアンが所有するバハマのプライベートアイランド「パーフェクトデイ・アット・ココケイ」や、ジャマイカ、グランドケイマンといった他のカリブ海の島々が選ばれることが予想されます。
予約済みの旅行者にとっては、楽しみにしていた寄港地への訪問が叶わないという残念なニュースですが、クルーズ会社は代替の寄港地で満足度の高い体験を提供することで、影響を最小限に抑えようとするでしょう。
ハイチ地域経済への打撃
この決定は、ハイチの地域経済にとっても大きな痛手です。ラバディは、地元住民に対して数百人規模の雇用機会を創出し、港湾使用料や関連ビジネスを通じて、ハイチにとって貴重な外貨獲得源となっていました。
寄港中止が2026年まで続くことにより、この経済的な恩恵は完全に失われます。治安の回復が見通せない中、地域社会はさらなる困難に直面することになります。
クルーズ業界の未来
今回の事態は、クルーズ会社が寄港地の選定において、政治的安定性や治安状況をいかに重要な要素と見なしているかを改めて浮き彫りにしました。今後、クルーズ業界全体として、政情が不安定な地域への寄港に対してより慎重な姿勢を取る可能性があります。
一方で、天候や政情に左右されにくい自社所有のプライベートアイランドの価値はさらに高まり、各社がこうしたリゾート開発への投資を加速させる一因となるかもしれません。
寄港が再開されるためには、ハイチ国内の治安が劇的に改善し、政府機能が回復することが絶対条件です。国際社会の支援のもと、ハイチが一日も早く安定を取り戻し、ラバディの美しいビーチが再び世界中の旅行者を迎え入れる日が来ることを願ってやみません。









