長いトンネルを抜け、世界は再び旅の季節を迎えました。空港は活気を取り戻し、見知らぬ街のざわめきが、私たちを誘います。この世界的な旅行需要の爆発的回復を背景に、オンライン・トラベル・エージェント(OTA)業界は、かつてないほどの激しい競争と変革の渦中にあります。私たちの旅の計画に欠かせない存在となったこれらのプラットフォームは、今、どのような未来を描いているのでしょうか。
かつての「予約サイト」という枠を超え、AIによるパーソナライズ、シームレスな旅行体験の提供、そしてサステナビリティへの貢献まで。その戦いは、もはや単なる価格競争ではありません。テクノロジー、ブランド、そしてビジョンを懸けた、壮大な覇権争いが繰り広げられているのです。
この記事では、ビジネスアナリストの視点から、OTA業界を牽引する5つの巨人――Booking.com, Expedia, Agoda, Trip.com, そしてAirbnb――の現在地を解き明かし、2024年から2025年にかけての戦局を徹底的に分析します。各社の強みと弱み、隠された戦略、そして私たちが次に旅に出るとき、どのプラットフォームが最高のパートナーとなり得るのか。その答えを探す旅に、ご一緒しましょう。
OTA業界の現在地:回復から成長へ、地殻変動の予兆
パンデミックがもたらした旅行業界への打撃は甚大でしたが、その回復力は私たちの予想をはるかに超えるものでした。人々は長らく閉ざされていた世界へ一斉に飛び出し、その手にはスマートフォンを握っています。OTA業界は、この前例のない危機を乗り越え、新たな成長ステージへと進もうとしています。
ポストコロナで加速する旅行需要とOTAの役割
社会が日常を取り戻すにつれて、旅行への欲求はかつてないほど高まっています。国連世界観光機関(UNWTO)の報告によると、国際観光は2024年にパンデミック前の水準に完全回復する見込みであり、一部の地域ではすでにそれを上回る活況を呈しています。この「リベンジトラベル」とも称される現象は、OTAにとって大きな追い風となっています。
一方で、旅行者の意識には明確な変化が見られます。パンデミックを経験したことで、私たちは旅に「確実性」と「柔軟性」を強く求めるようになりました。直前までキャンセル可能なプラン、細かな衛生基準の情報提供、非接触でのチェックインなど、これらのニーズに応えることがOTAの新たなスタンダードとなりつつあります。
さらに、単なる移動手段としての旅行ではなく、「そこでの体験」への関心が高まっています。地元の料理教室に参加したり、隠れた名所を巡るガイドツアーを予約したり、ユニークなアクティビティに挑戦したりといった旅のエクスペリエンスが求められているのです。OTAはもはや宿泊や航空券の予約窓口に留まらず、旅の発見段階から現地での体験、そして帰宅後の思い出の共有まで、旅行の一連のプロセスを包括的に支援する「旅のコンシェルジュ」としての役割が一層強まっています。
このような需要の変化は、OTAに新たなサービス開発を促しています。AIを活用して個々の嗜好にマッチした旅行プランを提案したり、宿泊・航空券・アクティビティをシームレスに連携させる「Connected Trip(コネクテッド・トリップ)」の概念を打ち出したりと、その革新は止まることを知りません。ユーザーはより賢く、豊富な情報を求めるようになり、OTAはその期待に応え続けるためにプラットフォームを進化させています。
激化する市場競争:数字で見る5大OTAの勢力図
現在のOTA市場は、依然として二大巨頭の支配が続いています。オランダ拠点のBooking Holdings(Booking.com、Agoda、Priceline、Kayakなどを傘下に持つ)と、米国を拠点とするExpedia Group(Expedia、Hotels.com、Vrboなどを傘下に持つ)です。長期間にわたり、この両者が世界のオンライントラベル市場の大部分を占める状況が維持されています。
Booking Holdingsは、特にヨーロッパ市場で揺るぎない強さを誇り、世界最大規模の宿泊施設掲載数を保持しています。一方、Expedia Groupは北米市場を地盤とし、航空券とホテルのパッケージ予約で優位性を築いています。2023年の両社の業績を見ると、Booking Holdingsの総予約額は約1,506億ドル、Expedia Groupは約1,040億ドルであり、依然としてBooking Holdingsがリードしていますが、Expedia Groupも着実に成長を遂げています。
この二強体制に挑戦状を突きつけているのが中国発のTrip.com Groupです。14億人の巨大な国内市場を背景に急速に成長し、中国人旅行者のアウトバウンド需要の回復とともにグローバル市場での存在感を急激に高めています。特にアジア地域でのシェア拡大が著しく、テクノロジーを駆使したアプローチで既存の大手を脅かし始めています。
また、この競争構図に独自の切り口で参入しているのがAirbnbです。ホテルではなく個人の住宅やユニークな物件を貸し出すバケーションレンタル市場を創出し、その象徴となりました。「暮らすように旅する」というコンセプトはミレニアル世代やZ世代から高く支持され、従来のOTAとは異なる独自のポジションを築いています。
これら5社は、それぞれ異なる強みと戦略を持ち、互いに領域を侵食し合いながら激しいシェア争いを展開しています。2024年から2025年にかけて、この勢力図がどのように変わるのかは、各社が直面する課題を克服しつつ、新たな成長戦略をどのように実践できるかにかかっています。
巨人たちの死角と勝算:5大OTA徹底比較分析
巨大な体躯を誇る巨人たちにもアキレス腱は存在します。ここでは、主要5大OTAそれぞれの強みと弱みを詳細に分析し、2024~2025年に向けた彼らの戦略と成功の見込みを、ビジネスアナリストの視点から紐解いていきます。
Booking.com:確固たる王者の盲点と次の戦略
強み:圧倒的な在庫量とブランドパワー
Booking.comの最大の強みは、その膨大な「在庫量」にあります。世界中の高級ホテルから手頃なホステル、アパートメントタイプの宿泊施設まで、圧倒的な掲載数で他社を圧倒しています。ユーザーにとって「Booking.comで探せば必ず何かが見つかる」という安心感は、非常に強いブランドロイヤリティを生んでいます。特にヨーロッパ市場におけるブランドの存在感は絶大で、多くの人々のホテル予約の第一想起はBooking.comです。
ビジネスモデルとしては、「エージェンシーモデル」を軸にしている点が特徴的です。予約時に手数料が発生し、ユーザーは現地で支払う仕組みで、Expediaグループが多用する「マーチャントモデル」と異なり、OTA側が在庫リスクを負うことなく、安定したキャッシュフローを生みやすい構造となっています。
近年、Booking Holdingsが注力するのが「Connected Trip」戦略です。宿泊予約に加え、航空券、レンタカー、空港タクシー、アクティビティ予約まで一つのプラットフォームで完結させ、ユーザーを自社のエコシステム内に留める壮大な展開です。この戦略が成功すれば、顧客一人当たりの生涯価値(LTV)は飛躍的に高まるでしょう。
弱み:マーケティング依存とイノベーションの壁
一方で、王者にも悩みはあります。代表的な課題はGoogleを中心とした検索エンジンへの過剰なマーケティング依存です。「(地名) ホテル」などのキーワード検索において、広告枠のトップに表示されることで莫大なトラフィックを獲得してきましたが、その反面、Googleのアルゴリズム変更や広告費高騰の影響を常に受けるリスクも抱えています。これを脱却して、直接予約(サイト訪問ユーザー)比率を高めることが長年の課題です。
また、巨大組織ゆえのイノベーションのジレンマもあります。Airbnbが「民泊」という新市場を切り拓いた際、Booking.comは「Booking Home」などで追走しましたが、後追いの印象は拭えませんでした。破壊的イノベーションを起こすよりも、既存の巨大ビジネスモデルを最適化することにリソースを割く傾向は、大企業の宿命とも言えます。
2024-2025年展望:AI活用の深化とサステナビリティ強化
今後のBooking.comは、AIを活用したパーソナライゼーションの高度化に注力すると見られます。すでに導入されている「AIトリッププランナー」は対話形式で旅行プランを提案しますが、今後は予約履歴や閲覧行動、リアルタイムの位置情報などと掛け合わせて、さらに精度の高い推奨機能が提供されるでしょう。
「Connected Trip」戦略も加速します。航空券とホテルの連携強化に止まらず、現地のレストラン予約やイベントチケット販売など、あらゆる旅のタッチポイントを押さえる方向に進むはずです。ロイヤルティプログラム「Genius」の特典を宿泊以外にも広げていく可能性もあります。
さらに、今後重要視されるのがサステナビリティです。Booking.comの発表したサステナブル・トラベル調査で示されたように、多くの旅行者が持続可能な旅行に関心を寄せています。同社の「Travel Sustainable」認証プログラムで環境・社会配慮型宿泊施設を可視化し、ブランドイメージ向上とユーザー選択基準の一つとして根付かせられるかが、今後の成長を左右する重要課題です。
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Expedia:復活を遂げた老舗の次なる挑戦
強み:北米市場の盤石な基盤とBtoB事業
Expedia Groupは特に北米において強力なブランド力を維持しています。長年、航空券とホテルのパッケージ予約分野で優位に立ち、レジャー旅行のみならずビジネス出張需要にも強みがあります。
また、彼らの収益を支える大黒柱の一つがBtoB事業「Expedia Partner Solutions(EPS)」です。膨大な旅行在庫や予約テクノロジーを他航空会社や旅行代理店、金融機関に提供し、安定した収益を確保しています。一般消費者の目には見えにくい部分ですが、競争激化のBtoC市場を支える強力な基盤となっています。
近年では、複数ブランド(Expedia、Hotels.com、Vrbo等)を技術的に統合し、効率的なプラットフォーム構築に取り組んでいます。その成果として、2023年にロイヤリティプログラム「One Key」を立ち上げ、ポイントをブランド横断で利用可能に。これによりグループ全体で顧客の囲い込み強化を目指しています。
弱み:インフラ整備途上の痛みとブランド古さ
大規模なプラットフォーム統合は長期的な強みになる一方で、短期的には移行コストやサービス不安定化のリスクを伴います。競合がAIなど新技術へ積極投資する中で、足元のインフラ整備を優先せざるを得ない状況は弱点と言えるでしょう。
また、Booking.comと比べてグローバル掲載宿泊施設数が少なく、ヨーロッパやアジアでのブランド浸透も課題のままです。さらに「Expedia」というブランドに対して古風な印象を持つユーザーもおり、特に若年層への訴求が今後のチャレンジとなります。
2024-2025年展望:One Keyの成否とAI投資の本格化
今後の鍵は「One Key」の成否です。ユーザーに受け入れられ、グループ内のクロスセル(異なるブランド間の顧客誘導)が活発化すれば、Booking Holdingsに対抗できる強力な武器となります。特にホテル予約ユーザーを高利益率のバケーションレンタル(Vrbo)やパッケージ予約への誘導が重要です。
プラットフォーム刷新が一段落すれば、AI投資も本格化するでしょう。開発中の対話型AI「Romi」は、旅行計画支援に加えフライト遅延時の代替案提案などトラブル対応にも活用が期待されます。BtoBで培った技術をBtoCに還元し、顧客のストレスを軽減することで満足度向上に繋げる戦略です。
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Agoda:アジアの虎が切り拓く世界市場
強み:アジア市場における圧倒的知名度と価格競争力
Booking Holdings傘下ながら独自ブランドと戦略で存在感を放つのがAgodaです。最大の強みはアジア太平洋地域で確立した圧倒的なネットワークと知名度。特に東南アジアでは「ホテル予約と言えばAgoda」との認識が定着しています。地域の商習慣や文化に精通し、多様な決済手段を用意するなど現地密着のサービスが成功要因です。
また、積極的な価格戦略も特徴的です。「Agoda VIP」プログラムや頻繁なクーポン配布、キャッシュバックなど、価格に敏感なアジアユーザー層を惹きつけるプロモーションが武器です。この競争力は時にリスクともなりますが、新規顧客獲得と市場拡大に大きく寄与しています。
さらに、モバイルファースト戦略も強みです。アジアではスマホからのアクセスが主流であり、アプリの利便性やモバイル限定割引などスマホユーザーに最適化された体験提供に長けています。
弱み:欧米市場での認知不足とサポート課題
一方で、ヨーロッパや北米におけるAgodaのブランド認知は依然として低水準です。Booking Holdings内で欧米はBooking.com、アジアはAgodaと役割分担されていますが、グローバル成長においてこの認知度克服が大きな壁です。
加えて急成長と価格競争の代償として、カスタマーサポートの質への不満も散見されます。特に複雑なトラブル対応能力には改善の余地があり、グローバルブランドとしての信頼獲得に向け課題が残ります。
2024-2025年展望:アジア発グローバル拡大とサポート強化
今後のAgodaは、アジアで築いた盤石な基盤を元に、海外市場への本格進出を目指すでしょう。経済成長著しいアジア諸国のアウトバウンド旅行者は、慣れ親しんだAgodaを使い欧米ホテルを予約する可能性が高く、その流れを掴めれば欧米シェア拡大も期待されます。
サービス面では、従来のホテル予約に加え「Agoda Homes」などバケーションレンタルや航空券とのパッケージ強化に乗り出し、ExpediaやAirbnbとの競争が激化しそうです。
カスタマーサポート課題には、AIチャットボット導入などテクノロジー活用による効率化と質向上の両立が鍵となるでしょう。アジアの虎が、その俊敏性と価格競争力で世界OTA市場にどのような旋風を巻き起こすか注目です。
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Trip.com:中国市場を背負う新興の雄
強み:中国市場という強固な基盤と先進テクノロジー
Trip.com Group(旧Ctrip)が誇る最大の強みは、14億人を抱える中国市場の巨大なホームアドバンテージです。中国国内旅行市場で圧倒的シェアを持ち、安定収益基盤がグローバル展開の原動力となっています。
中国のアウトバウンド旅行者は世界に大きな影響を与えており、多くが海外旅行の予約にTrip.com(中国国内ではCtrip)を選びます。このリーチの強さは他社にはない強烈な武器です。
さらに同社はテクノロジー企業色が強く、AIやビッグデータを積極活用。パーソナライズ推薦や24時間多言語サポートなど、最先端技術を旅行体験改善に取り入れています。AIアシスタント「TripGenie」は複雑な行程提案や予約代行など高度な機能を備え、技術で旅を革新しようとする強い意志が感じられます。
弱み:地政学リスクとグローバル信頼の構築
ただし、その強みは弱みにもなります。中国市場への依存度が高いため、中国経済の変動や政府政策、米中関係の緊張など地政学リスクを直撃します。これがグローバル展開の大きな足かせとなり得るのです。
また、「Trip.com」というグローバルブランドの認知度と信頼獲得はまだ途上にあります。特に欧米ユーザーには馴染みが薄く、個人情報保護やデータプライバシーの懸念も根強いです。中国企業というイメージを乗り越え、国際基準の信頼を勝ち取ることが今後の成長のカギを握ります。
2024-2025年展望:中国のアウトバウンド回復を追い風に世界進出
中国政府による海外団体旅行の解禁が進み、2024年以降にはアウトバウンド需要が大幅に回復すると予想されます。Trip.com Groupはまずアジア、特に東南アジア、日本、韓国で存在感を急拡大し、その後ヨーロッパ進出を果たすシナリオが有力です。
その際の強力な武器はやはり技術力です。「TripGenie」の高度AI機能をグローバルアプリにも展開し、「最もスマートで便利な旅予約サイト」というブランドイメージを固めていくでしょう。加えてWeChat PayやAlipayといった中国発の決済手段を世界各地で活用可能にし、中国人旅行者の利便性を高め、エコシステムを拡充する戦略も考えられます。地政学的な難題を突破し、真のグローバル企業へと進化できるか、その手腕が問われます。
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Airbnb:破壊的イノベーションの次の成長段階
強み:唯一無二のブランドとコミュニティ
Airbnbは単なる宿泊予約サイトを超え、「暮らすように旅をする」という旅の新スタイルを創出し、世界中に熱狂的ファンを持つ強力なブランドを築いています。お城やツリーハウス、農家といったユニークな宿泊体験は、従来のホテルでは得られません。これがAirbnb最大の強みです。
ホストとゲスト相互のレビューによる信頼のコミュニティも強固な基盤です。この評価制度が見知らぬ人の家に泊まる心理的障壁を下げています。
コロナ禍ではリモートワーク普及に伴う長期滞在やワーケーション需要を巧みに取り込み、大きく成長しました。都市から離れた自然豊かな場所での数週間~数か月の滞在はAirbnbの特色によくマッチしています。
弱み:法規制とサービス品質のばらつき
破壊的イノベーターの宿命として、Airbnbは法規制に常に直面しています。民泊規制は都市ごとに異なり、規制強化でリスティング数が急減するリスクがあります。京都市の事例はその典型です。
また、個人提供のため宿泊品質にムラがある点も課題です。素晴らしいホストもいれば、写真と異なる物件や清掃不備に遭遇することもあり得ます。最近問題視される高額な清掃料やサービス料という「隠れコスト」への不満も高まっており、ブランド信頼を損ねかねません。
2024-2025年展望:体験深化と価格透明化の推進
今後Airbnbは、「ユニークな個人宅」という原点を大切にしつつ、新たな成長軸を模索します。中でも「体験(Experiences)」カテゴリの強化が重要視され、地元ホストがナビゲートする料理教室やガイドツアーといったユニークなアクティビティが宿泊に並ぶ収益柱に成長する可能性を秘めています。
価格の不透明性問題には既に総額表示(清掃費等を含む)を導入するなど対応を始めており、これを徹底推進しユーザー信頼回復を目指す方針です。
さらにAI技術を活用し、ゲストの嗜好とホストの物件や人柄をより高度にマッチングする仕組みも進化させるでしょう。単なる施設スペックではなく、「静かな環境を好むゲスト」と「落ち着いた住宅街の物件」を結びつけるなど情緒的価値を提供し、他OTAとの差別化を一層強めることが期待されます。ホテルにはないAirbnbならではの価値を再定義し続けることが、彼らの真価を示す重要な勝負所となります。
以上、5大OTAの2024-2025年にかけての強み・弱みと戦略展望を、ビジネスアナリストの視点で解説いたしました。
OTAの未来を占う3つのメガトレンド
個別の企業戦略はもちろん重要ですが、それ以上に業界全体を牽引する大きな潮流、つまりメガトレンドを把握することが、未来予測を行う上で欠かせません。2024年から2025年にかけてOTAの競争を左右すると考えられる3つのメガトレンドについてご紹介します。
トレンド1:AIがもたらす超パーソナライゼーションの時代
特に生成AIの急速な進歩は、旅行体験の根幹を大きく変革しようとしています。例えば、「パリで3日間アートとグルメを堪能したい」といった漠然としたニーズに対し、AIが最適なホテルの手配、美術館の予約、レストランの提案まで一括して瞬時に組み立てた理想的な旅程を提供する未来が現実味を増しています。
この分野では、各社が激しく競争を繰り広げています。Booking.comの「AI Trip Planner」、Expediaの「Romi」、Trip.comの「TripGenie」など、主要OTAはこぞって対話型AIアシスタントの導入とその質の向上に巨額の投資を行っています。
今後の勝負どころは、「ユーザーの潜在的な欲求を掘り起こし、期待を上回る提案をどれだけ実現できるか」にシフトしていきます。過去の予約履歴や検索キーワードのみならず、SNSの投稿内容や日常のライフスタイルに関するデータ(もちろんプライバシー保護を徹底した上で)を解析し、利用者自身が気づいていなかった新たな旅の可能性を提示できるプラットフォームこそが、最終的な勝者となるでしょう。これは単なる予約サイトではなく、「究極のパーソナル旅行プランナー」を目指す競争といえます。
トレンド2:「Connected Trip」を巡る覇権争い
前述の通り、移動、宿泊、食事、体験といった旅の要素を一本化し、シームレスに連携させる「Connected Trip」のコンセプトは、業界共通の大きな目標です。一度ユーザーを自社エコシステムに取り込めば、次回以降の旅行でも自社サービスの利用が促され、顧客生涯価値(LTV)の飛躍的な向上が期待できます。
この競争のカギとなるのが、ロイヤリティプログラムの充実です。例えばExpediaの「One Key」のように、グループ内の複数サービスでポイントを一元管理し、貯めて使える仕組みは、ユーザーの囲い込みに極めて効果的です。今後は航空会社のマイルやクレジットカードポイントとの連携もさらに深まり、より複雑で魅力的な経済圏の構築が進んでいくことでしょう。
加えて、このエコシステムにはFinTechの要素も融合します。後払い決済サービス(Buy Now, Pay Later=BNPL)の導入や旅程に合わせた旅行保険の自動提案など、旅行予約に付随する金融サービスが新たな収益源として注目されています。旅の計画から支払い、万一の際の備えまでを一つのアプリで完結できる利便性は、ユーザーにとって大きな魅力となるでしょう。
トレンド3:サステナビリティと社会的責任という新たな評価基準
環境問題への関心が高まる中で、旅行者の選択にも大きな変化が見られます。自身の旅が環境や地域社会に及ぼす影響を考慮し、より持続可能な選択を求める人が増加しており、この潮流はもはや一部の意識の高い層に限られません。
OTA側もこの変化に迅速に対応しています。Booking.comの「Travel Sustainable」プログラムやExpediaグループのサステナビリティ戦略など、環境配慮型の宿泊施設やツアーを可視化し選びやすくする取り組みが活発化しています。観光庁の報告書が指摘するように、オーバーツーリズム(観光過多)の問題が世界各地で深刻化する中、主要観光地に偏りがちな観光客を、まだ知られていない魅力的な地域へ分散させる提案力もOTAに求められる重要な社会的使命と言えるでしょう。
将来的には、フライトや宿泊に伴うCO2排出量の表示やそれをオフセットする選択肢の提供など、具体的なアクションが標準装備される可能性も高いです。価格や利便性に加え、「地球環境や地域社会に配慮した選択かどうか」がプラットフォーム選択の重要な判断材料となる時代が間近に迫っています。企業がCSR(企業の社会的責任)に注力することが、ブランドイメージに直結し、最終的にユーザーの支持を獲得する決め手となるでしょう。
結論:2025年、旅行者はどのプラットフォームを選ぶべきか?
熾烈な競争と急速な技術革新が絶え間なく進むOTA業界。この戦国時代の中で、私たちは最終的にどのプラットフォームを羅針盤とすべきなのでしょうか。これまでの考察を踏まえ、あなたの旅のスタイルに合った最適な選択肢を探ってみましょう。
- 世界中の選択肢から、最もお得な宿を見つけたいあなたに
豊富な選択肢と価格の比較を重視するなら、依然としてBooking.com と Agoda が力強い味方となるでしょう。特にBooking.comの膨大な掲載数は、どんな旅先でも最適な宿を見つける助けとなります。また、アジア旅行ではAgodaの攻めの価格設定や魅力的なプロモーションも見逃せません。
- 航空券とホテルを一括で手配したいあなたへ
シンプルな旅の計画を望み、航空券と宿泊を同時に予約しながら効率的にポイントを貯めたい方には、Expedia のサービスがぴったりです。特に北米旅行や、ブランド横断型のロイヤリティプログラム「One Key」の利便性を活用したい場合には最適な選択肢となるでしょう。
- ガイドブックに載らない特別な体験を求めるあなたに
ただ観光地を巡るだけでなく、現地の文化に溶け込み、忘れがたい思い出を作りたいなら、Airbnb に勝るものはありません。ユニークな宿泊施設や地元の人々との交流を通じて、「暮らすような旅」というかけがえのない価値を提供してくれます。
- 最先端テクノロジーを駆使してスマートに旅をしたいあなたへ
最新のAIアシスタントに旅の相談をしたり、未来の旅行体験をいち早く味わいたいテクノロジー志向のあなたには、Trip.com が魅力的な選択肢になるでしょう。特にアジア方面の旅では、そのシームレスなサービスと先進的な機能が旅をより快適かつ刺激的なものに変える可能性があります。
2024年から2025年にかけて、市場を一社が完全に支配するような未来は訪れないでしょう。むしろ各社がそれぞれの強みをより尖らせ、多様な価値観を持つ旅行者を受け入れることで、健全な棲み分けが進んでいくと考えられます。
この激しい競争は、私たち旅行者にとって大きな恩恵となります。AI技術の導入で旅の計画はよりパーソナルかつ簡便になり、「Connected Trip」の進展により旅の体験は一層シームレスで豊かなものへと進化します。そして、サステナビリティという新たな価値観が、私たちの旅をより意義深いものに変えていくでしょう。
次にスーツケースを開くその瞬間、手にしたスマートフォンは無限の可能性を携えています。さあ、どの扉を開き、未踏の世界へと旅立ちますか?旅の未来は、あなたの指先から始まるのです。









