世界で最も急速に成長する経済大国の一つであるインドが、今、観光業においても大きな変革期を迎えています。先日、ラジャスタン州の州都ジャイプールで開催されたインド・ヘリテージホテル協会(IHHA)の年次総会は、その象徴的な出来事と言えるでしょう。この動きは、インドが単なる観光地から、世界をリードする旅行デスティネーションへと飛躍する可能性を示唆しています。
背景:政府主導で加速する観光大国への道
インドの観光業が急成長している背景には、政府による強力な後押しがあります。ナレンドラ・モディ首相が推進する「Dekho Apna Desh(自国を見よ)」キャンペーンは、国内の中間層に自国の豊かな文化遺産や自然の魅力を再発見するよう促し、国内旅行市場を爆発的に活性化させました。
これに加え、政府は観光インフラの整備にも巨額の投資を行っています。新しい空港の建設、高速道路網の拡充、鉄道の近代化などが急ピッチで進められており、これまでアクセスが困難だった地方の隠れた名所への旅行が容易になりつつあります。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の2024年の経済影響調査によると、インドの旅行・観光部門は2023年にインド経済に15.5兆ルピー(約28兆円)貢献しました。これは2024年末までに17兆ルピー(約30兆円)に達し、約4,000万人の雇用を支えると予測されています。この数字は、観光業がインド経済の重要な柱となりつつあることを明確に示しています。
ジャイプールでのIHHA総会が持つ意味
このような状況下で、ジャイプールのカノタ城を舞台に開催されたIHHAの年次総会は、インド観光業の未来を占う上で非常に重要です。IHHAは、かつてマハラジャ(藩王)や貴族が所有していた城、宮殿、邸宅などを保存し、ホテルとして活用することを目的とした団体です。
ヘリテージツーリズムの最前線
総会の開催は、インドが今後「ヘリテージツーリズム」を観光の大きな柱として位置づけていることを示しています。歴史的建造物に宿泊するというユニークな体験は、他の国では味わえないインドならではの強力な魅力です。カノタ城のような成功例は、文化遺産の保護と商業的な成功を両立させるモデルとして、国内外の投資家や旅行者の注目を集めています。総会では、こうしたヘリテージホテルの持続可能な運営方法や、デジタル技術を活用した新たな顧客体験の創出などが議論されたとみられます。
「隠れた宝石」の発掘
ジャイプールのような有名な観光地だけでなく、インド全土に点在するまだ知られていない「隠れた宝石(Hidden Gems)」に光を当てることも、今後の重要なテーマです。インフラ整備が進むことで、地方の小さな城や邸宅も新たな観光資源として開発される可能性が広がります。これにより、旅行者はより多様で奥深いインドを体験できるようになり、観光収益が地方経済にも広く分配される効果が期待されます。
予測される未来と旅行者への影響
インド観光業の急成長は、旅行の未来に大きな変化をもたらすでしょう。
予測される未来
WTTCは、インドの旅行・観光部門のGDPへの貢献が2033年までに37.4兆ルピー(約67兆円)を超え、5,800万人以上の雇用を創出すると予測しています。この成長を支えるのは、以下のような動きです。
- 多様なツーリズムの発展: ヘリテージツーリズムに加え、ウェルネス、スピリチュアル、アドベンチャー、エコツーリズムなど、専門性の高い旅行形態がさらに発展します。
- デジタル化の加速: ビザ申請のオンライン化、交通機関の予約システムの統合、多言語対応の観光アプリなど、旅行者の利便性を高めるデジタルインフラが急速に整備されるでしょう。
- 持続可能性への注目: 観光客の増加に伴い、環境保護や地域文化の尊重を重視したサステナブルツーリズムが主流となっていきます。
旅行者への影響
私たち旅行者にとって、インドはさらに魅力的なデスティネーションとなります。
- 選択肢の拡大: 有名なタージ・マハルやデリーだけでなく、地方の個性豊かなヘリテージホテルや手付かずの自然を訪れるなど、自分だけのユニークな旅程を組むことが容易になります。
- 質の高い体験: 競争の激化と投資の増加により、ホスピタリティ全体の質が向上し、より快適で安全な旅行が期待できます。
- 新たな発見: 政府と民間が一体となって推進する観光開発により、これまで地図に載っていなかったような新しい魅力的なスポットが次々と登場する可能性があります。
インドの観光業は今、まさに黄金時代の幕開けを迎えようとしています。歴史と現代性が融合し、無限の可能性を秘めたこの国の未来から目が離せません。









