福岡県篠栗町に位置し、ブロンズ製としては世界最大級の釈迦涅槃像で知られる南蔵院が、急増する外国人観光客への対策として、外国人からのみ拝観料を徴収する方針を固めたことが明らかになりました。この動きは、日本の多くの観光地が直面する「オーバーツーリズム」問題に対する新たな一手として、国内外から注目を集めています。
なぜこの措置が必要だったのか?その背景にある現実
今回の決定の背景には、寺院側が長年抱えてきた深刻な問題があります。南蔵院は、檀家や信徒の寄付によって維持されてきた宗教施設であり、「祈りの場」です。これまで、国籍を問わず無料で境内を開放してきましたが、近年、外国人観光客が急増したことで、文化や習慣の違いからくるマナー違反やトラブルが頻発していました。
急増するインバウンドと現場の疲弊
日本政府観光局(JNTO)によると、2024年4月の訪日外客数は304万2900人に達し、単月として初めて300万人を突破するなど、インバウンド需要はコロナ禍以前を上回る勢いで回復しています。アジアの玄関口である福岡も例外ではなく、南蔵院には大型バスで訪れる団体客が急増。
寺院によると、境内での飲食、大声での会話、立ち入り禁止区域への侵入、ドローンの無許可飛行といった迷惑行為が後を絶たなかったと言います。多言語での注意看板を設置するなどの対策を講じてきましたが、状況は改善されず、静かな祈りの環境を維持することが困難になっていました。
収益目的ではない、環境維持のための苦渋の決断
南蔵院は、今回の措置が収益目的ではないことを強調しています。徴収した拝観料は、マナー違反を注意するための警備員の増員や、多言語対応の強化、そして境内の環境維持や整備費用に充てられる予定です。あくまで、寺院本来の神聖な空間を守り、すべての参拝者が心安らかに過ごせる環境を取り戻すための苦渋の決断なのです。
予測される影響と今後の日本の観光
この「外国人観光客からのみ拝観料を徴収する」というアプローチは、今後の日本の観光にどのような影響を与えるのでしょうか。
「二重価格」への懸念と議論
この措置に対して、最も懸念されるのが「二重価格」であり、国籍による差別ではないかという批判です。旅行者からは不公平感を訴える声が上がる可能性があり、SNSなどを通じてネガティブな評判が広がるリスクも否定できません。
一方で、観光庁は「同じサービス内容で国籍のみを理由に価格差を設けることは問題となりうるが、サービス内容に差を設けるなど合理的な理由があれば問題ない」との見解を示しています。今回のケースが、静寂な環境の維持という「付加価値」の提供と見なされるかどうかが、今後の議論の焦点となるでしょう。
「持続可能な観光」への転換点となる可能性
南蔵院の決断は、日本の観光地が「量」から「質」へと転換する大きなきっかけになるかもしれません。これは、単に観光客を呼び込むだけでなく、地域の文化や環境を尊重し、その維持に観光客自身も貢献してもらうという「持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)」の考え方に通じます。
このモデルが成功すれば、同様の課題を抱える京都の寺社や、富士山、白川郷といった他の観光地でも、同様の料金体系や入場制限の導入を検討する動きが広がる可能性があります。
現場での運用という課題
実際にこの制度を運用する上では、現場での混乱も予想されます。日本人と外国人観光客をどのように見分けるのか、在留資格を持つ外国人への対応はどうするのかなど、明確でスムーズな運用ルールの策定が不可欠です。
南蔵院のこの新たな試みは、オーバーツーリズムという全国的な課題に対する一つの具体的な解決策を提示した点で画期的です。この決断が、国内外でどのような議論を呼び、日本の観光の未来をどう変えていくのか。simvoyageは、今後もその動向を注意深く見守っていきます。

