欧州旅行委員会(ETC)が2026年2月9日に発表した最新の「長距離旅行バロメーター」は、今後の海外旅行のトレンドに大きな変化が訪れることを示唆しています。世界的な費用や休暇日数の制約から、旅行者の目はより身近な「近距離」へと向かいつつあるようです。特に、日本市場におけるヨーロッパへの関心の低さは、今後の旅行業界の動向を占う上で注目すべき点と言えるでしょう。
世界の旅行者は「近く」へ、ヨーロッパへの関心は微減
今回の調査は、日本、オーストラリア、カナダ、米国など7つの主要な海外市場を対象に行われました。その結果、2026年にヨーロッパへの旅行に関心を持つと回答した人の割合は全体の42%にとどまり、前年からわずかに減少しました。この背景には、世界的なインフレや燃油サーチャージの高騰による旅行コストの増大、そして限られた休暇を有効活用したいという旅行者の心理が働いていると考えられます。時間的・金銭的な負担が少ない近距離旅行が、より現実的な選択肢として優先される傾向が強まっています。
市場ごとで鮮明な温度差、日本は20%と最低水準に
ヨーロッパへの関心度は、市場ごとに大きく異なる結果となりました。
- 中国: 59%
- ブラジル: 54%
- 日本: 20%
経済成長が著しい中国やブラジルでは、依然としてヨーロッパへの強い憧れや旅行意欲が見られます。一方で、日本からの関心は調査対象市場の中で最も低い20%という結果になりました。
この背景には、いくつかの要因が考えられます。最も大きな要因は、記録的な円安です。旅行費用が大幅に増加し、物価の高いヨーロッパは特に割高に感じられるため、旅行先として敬遠されがちです。その結果、旅行者の関心は、比較的安価に楽しめる韓国、台湾、東南アジアといった近距離のアジア諸国や、魅力が再発見されている国内旅行へとシフトしています。また、長期休暇の取得が依然として難しい日本の労働環境も、ヨーロッパのような長距離旅行のハードルを上げています。
旅のスタイルは「量」から「質」へ
今回のレポートで明らかになったもう一つの重要なトレンドは、旅行体験そのものに対する価値観の変化です。多くの都市を駆け足で巡る周遊型ツアーよりも、個人の興味や好みに深く寄り添った旅行スタイルへの関心が高まっています。
新たな旅行トレンドのキーワード
- 体験型の旅: 単に観光名所を訪れるだけでなく、その土地ならではの文化体験やアクティビティなど、自分だけの特別な思い出を求める動きが強まっています。
- ウェルネスツーリズム: 日常の喧騒から離れ、心と体の健康を取り戻すことを目的とした旅です。スパやヨガ、自然の中でのリトリートなど、リフレッシュや自己投資としての旅行が注目されています。
- スローツーリズム: 一つの場所にじっくりと滞在し、その土地の日常に溶け込むようなゆったりとした旅のスタイルです。移動のストレスを減らし、より深い文化理解や現地の人々との交流を楽しむことを重視します。
今後の展望と日本市場への影響
2026年に向けて、世界の旅行市場は大きな転換期を迎えています。ヨーロッパの観光業界は、価格面での課題に加え、こうした「体験の質」を重視する新たな旅行者のニーズにいかに応えていくかが問われることになるでしょう。
日本市場においては、円安が続く限り、ヨーロッパへの旅行需要の本格的な回復には時間がかかると予測されます。今後は、富裕層をターゲットにした高付加価値なツアーや、芸術、美食、特定の趣味など、テーマを絞った専門性の高い旅行商品が中心となる可能性があります。
一方で、多くの日本人旅行者にとっては、引き続きアジアを中心とした近距離旅行が主流となりそうです。多様化する旅行スタイルの中で、限られた予算と時間で最大限の満足を得られる旅先が選ばれていくことになるでしょう。これからの旅の計画は、単なる「距離」ではなく、「どのような体験をしたいか」という視点がますます重要になってきそうです。

