長らく延期が繰り返されてきた欧州連合(EU)の新しい入出国管理システム「EES(Entry/Exit System)」が、ついに2025年秋に正式導入される見通しとなりました。フランス内務大臣がこの導入時期を明言したことで、EUへの渡航ルールが大きく変わる未来が現実味を帯びてきています。
この変更は、日本を含むビザ免除でEU(シェンゲン協定加盟国)を訪れるすべての旅行者に影響します。これまで慣れ親しんだパスポートへのスタンプ押印が廃止され、生体認証データを利用した新たな手続きが始まります。この記事では、EES導入の背景から、旅行者が具体的に何を準備し、どのような影響を受けるのか、そして今後の展望について詳しく解説します。
新たな国境管理の柱「EES」とは?
なぜ今、EESが導入されるのか
EES(Entry/Exit System)は、EUの国境管理を近代化し、セキュリティを強化するために設計された自動化システムです。その主な目的は、非EU市民の出入国記録を電子的に管理することにあります。
現在、EUへの入国審査ではパスポートにスタンプが押され、滞在期間が管理されていますが、この方法は手作業が多く、非効率的で、不法滞在者の正確な追跡が困難でした。EESは、パスポート情報に加えて指紋と顔写真といった生体認証データを収集・登録することで、国境管理の正確性と効率を飛躍的に向上させます。これにより、不法滞在者の特定やテロなどの犯罪防止に繋げることが期待されています。
長年の延期を経てついに導入へ
EESは当初2022年の導入を目指していましたが、関連システムの技術的な課題や、各加盟国のインフラ整備の遅れ、そして新型コロナウイルスのパンデミックなど、様々な要因が重なり、複数回にわたって導入が延期されてきました。特に、多くの旅行者が訪れる空港や港で、新しいキオスク端末の設置や職員のトレーニングが大規模に必要となるため、その準備に時間を要していました。
しかし今回、フランス当局が2024年のパリオリンピック・パラリンピック後の「2025年秋」という具体的な時期を示したことで、導入がいよいよ最終段階に入ったことが明らかになりました。
旅行者への具体的な影響と必要な準備
EESの導入は、私たち旅行者のEUへの渡航体験を大きく変えることになります。特に、渡航前の準備と、現地での入国手続きにおいて新たなステップが加わります。
渡航前に必須となる「ETIAS」の申請
EESと並行して導入が予定されているのが、「ETIAS(エティアス:欧州渡航情報認証制度)」です。これは、米国におけるESTA(エスタ)と同様の電子渡航認証システムで、ビザが免除されている国(日本を含む)からの渡航者に対して、事前のオンライン申請を義務付けるものです。
ETIASはEESより少し早い2025年半ばの導入が予定されており、導入後はEU渡航前に公式サイトから申請し、7ユーロの申請料金を支払って認証を得る必要があります。一度認証されれば3年間有効で、その期間中は何度でも渡航が可能です。
空港での入国手続きはどう変わる?
EES導入後、EU圏(シェンゲン協定加盟国)に初めて入国する際には、空港などに設置されたセルフサービスのキオスク端末で、パスポートのスキャンに加え、指紋(4本指)と顔写真の登録を行う必要があります。この初回登録により、有人の審査カウンターでの手続きにこれまで以上の時間がかかる可能性が指摘されています。
しかし、2回目以降の渡航では、登録済みの生体認証データによって本人確認が迅速に行われるため、長期的には入国手続きのスムーズ化が期待されています。そして、このシステムの導入に伴い、パスポートへの出入国スタンプは完全に廃止されます。
滞在期間の管理が厳格化
旅行者にとって最も注意すべき点の一つが、滞在期間の管理です。シェンゲン協定では、日本人旅行者は「あらゆる180日の期間内で最大90日」の滞在が許可されています。
これまではパスポートのスタンプで管理されていましたが、EES導入後はシステムが自動的かつ正確に滞在日数をカウントします。これにより、意図せず滞在期間を超えてしまう「オーバーステイ」のリスクが厳しく管理されることになります。複数の国を周遊する場合や、短期間に繰り返しEUを訪問する旅行者は、自身の滞在日数をこれまで以上に正確に把握することが重要になります。
予測される未来と今後の展望
導入初期の混乱は避けられないか
新しいシステムが大規模に導入される際には、一定の混乱が予想されます。特に、導入直後の数ヶ月間は、旅行者や空港職員が新しい手続きに慣れていないため、空港の入国審査場で長い行列や遅延が発生する可能性があります。夏のバカンスシーズンなど、旅行者が集中する時期には特に注意が必要となるでしょう。
長期的なメリットと旅行体験の向上
初期の混乱を乗り越えた後、EESはEUの国境管理に多くのメリットをもたらすと考えられています。セキュリティの向上はもちろんのこと、将来的には自動化ゲートがさらに普及し、旅行者はよりスムーズで迅速な入国審査を受けられるようになる可能性があります。
また、旅行者自身も、自身の滞在可能日数をオンラインで簡単に確認できるようになるなど、利便性の向上も期待されます。
EESとETIASの導入は、EUへの旅行におけるルールブックを書き換える大きな変革です。2025年にEUへの渡航を計画している方は、これらの新しい制度について理解を深め、最新の公式情報を常に確認することが不可欠です。simvoyageでは、今後も引き続き詳細な情報や導入の進捗についてお伝えしていきます。安全で快適な旅のために、早めの情報収集と準備を心がけましょう。

