2025年10月22日、ロンドンで開催された西バルカン首脳会議(ベルリン・プロセス)において、西バルカン6カ国が欧州連合(EU)とのビザ政策を段階的に調整し、国境管理を大幅に強化することで合意しました。この歴史的な合意は、地域の安定化と長年の課題であったEU加盟への道を大きく前進させるものとして、国際社会から注目されています。
合意の背景:地域の安定とEUの安全保障
西バルカン地域(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)は、地理的にEUに囲まれており、EUへの不法移民が流入する主要な「西バルカンルート」として知られてきました。欧州国境沿岸警備機関(Frontex)の報告によると、2023年にはこのルートで検出された不正規な越境者の数が13万人を超え、依然としてEUの安全保障における重要な課題となっています。
また、一部の西バルカン諸国が、EUがビザを義務付けている第三国の国民に対してビザなし渡航を許可している「ビザ政策の不一致」も問題視されていました。この政策のずれが、一部の移民が西バルカン諸国を経由してEU圏内に入るための抜け道として利用されるケースがあったためです。
今回の合意は、こうした状況を打開し、西バルカン諸国がEUの安全保障基準に歩調を合わせるという強い意志を示したものです。2014年にドイツ主導で始まった「ベルリン・プロセス」は、西バルカン諸国のEU加盟を支援する枠組みであり、今回の首脳会議はその集大成の一つと言えるでしょう。
合意内容と今後の展望
今回の合意の柱は大きく二つです。
ビザ政策のEU基準への調和
西バルカン6カ国は、自国のビザ免除リストを見直し、EUの基準と整合性を取ることを約束しました。これにより、これまでビザなしで西バルカン諸国を訪問できた一部の国籍の旅行者は、今後ビザの取得が必要になる可能性があります。この政策は段階的に実施される予定ですが、EUへの非正規な流入を抑制する上で大きな効果が期待されています。
国境管理の抜本的強化
Frontexとの連携をこれまで以上に強化し、共同での国境パトロールやリアルタイムでの情報共有を推進します。さらに、国境監視技術の近代化や警備隊員の訓練強化に対し、EUは「西バルカン投資枠組み」などを通じて数億ユーロ規模の資金的・技術的支援を行うことを表明しており、国境管理能力の飛躍的な向上が見込まれます。これにより、人身売買や密輸といった国境を越える組織犯罪への対策も強化されます。
旅行者への影響と西バルカンの未来
この合意は、西バルカン地域への旅行を計画している人にも影響を与える可能性があります。
短期的な影響:渡航前のビザ情報確認が必須に
ビザ政策の変更が段階的に実施されるため、西バルカン諸国への渡航を予定している方は、出発前に必ず訪問国の在日大使館などで最新のビザ要件を確認することが重要です。特に、複数の国を周遊する場合や、西バルカンを経由してEU諸国へ移動する場合には注意が必要です。
長期的な展望:より安全で魅力的な旅行先へ
長期的には、この合意は西バルカン地域の旅行者にとって多くのメリットをもたらすでしょう。国境管理の強化は地域の治安向上に直結し、旅行者はより安心して滞在できるようになります。
さらに、EU加盟への道筋が具体的になることで、域内のインフラ整備(高速道路、鉄道網など)が加速し、国境を越えた移動がよりスムーズになることが期待されます。将来的には、これらの国々がシェンゲン協定に加盟すれば、EU諸国との間でパスポート審査なしでの往来が可能となり、ヨーロッパ周遊の選択肢が大きく広がることになります。
今回の合意は、西バルカンが単なる「ヨーロッパの火薬庫」という過去のイメージを払拭し、EUと共存共栄する安定したパートナーとなるための重要な一歩です。旅行者にとっては、アドリア海の美しい海岸線や歴史的な街並みが、より安全で快適な環境で楽しめる未来が近づいていると言えるでしょう。









