2025年の国際観光業界は、パンデミックからの回復期を経て、新たな局面を迎えようとしています。旅行者の価値観が変化し、地政学的な状況や気候変動が複雑に絡み合う中、世界の旅行トレンドはどこへ向かうのでしょうか。最新のレポートによると、カナダ、米国、チュニジア、ニュージーランド、フランスの5カ国が来年の観光シーンを牽引すると予測されています。
この記事では、これらの国々が注目される背景と、旅行業界全体に影響を与えるストライキ、自然災害、エコ税といった重要な社会動向について、データと共に詳しく解説します。
2025年の観光トレンドを牽引する5つの国々
単なる人気観光地というだけでなく、それぞれが持つ独自の魅力と社会的な背景から、これらの国々は2025年の旅行者の選択に大きな影響を与えると考えられています。
カナダ:雄大な自然と持続可能な旅
広大な自然景観と多文化が共存する都市が魅力のカナダは、特にアウトドアやアドベンチャートラベルを求める層から強い支持を集めています。カナダ観光局は、持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)を推進しており、環境に配慮した旅行体験が評価されています。パンデミック後の旅行回復も順調で、特に自然回帰を求める旅行者のデスティネーションとして、その地位を確固たるものにすると予測されます。
米国:大規模イベントと多様性の力
国立公園から最先端のメガシティまで、比類なき多様な観光資源を持つ米国。2026年に開催されるFIFAワールドカップに向けた期待感が高まっており、インフラ整備やプロモーション活動が活発化しています。これにより、2025年から既に関連都市への注目が集まるでしょう。一方で、一部で指摘されるビザ取得の煩雑さといった課題も抱えていますが、エンターテイメントやスポーツといった強力なコンテンツが、引き続き世界中の旅行者を引きつける原動力となります。米国旅行業協会(U.S. Travel Association)によると、国際インバウンド旅行は回復を続けており、大規模イベントがその勢いをさらに加速させることが期待されています。
チュニジア:再評価される地中海の宝石
北アフリカに位置するチュニジアは、地中海の美しいビーチ、カルタゴ遺跡に代表される豊かな歴史、そしてヨーロッパからのアクセスの良さで再び注目を集めています。比較的リーズナブルな価格帯も魅力で、特にヨーロッパ市場からの観光客が回復しています。チュニジア政府観光局の発表によると、2023年の観光収入は前年比28%増の約69億ディナール(約22億ドル)に達し、過去最高を記録しました。政情の安定化とともに、新たなリゾート開発も進んでおり、2025年は「発見の旅」を求める旅行者にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
ニュージーランド:責任ある観光と唯一無二の体験
「ロード・オブ・ザ・リング」のロケ地として世界的に有名ですが、ニュージーランドの魅力はそれだけにとどまりません。手つかずの自然環境とアドベンチャースポーツの聖地として、高付加価値な体験を求める旅行者に人気です。特筆すべきは、国を挙げて推進する「ティアキ・プロミス(Tiaki Promise)」。これは旅行者に、自然や文化を尊重し、責任ある行動を促す取り組みです。この明確な姿勢が、環境意識の高い旅行者層から強く支持されており、2025年も「質」を重視する観光のトレンドをリードしていくと見られています。
フランス:オリンピックのレガシーと文化の力
2024年のパリオリンピック・パラリンピック開催は、フランス観光にとって大きな追い風となります。大会を通じて整備された交通インフラや宿泊施設は、2025年以降も「レガシー」として観光客の体験価値を高めるでしょう。フランスはもとより世界一の観光大国であり、2023年には約1億人の外国人観光客が訪れ、約635億ユーロの観光収入を記録しました。今後は、パリだけでなく地方の魅力も発信し、オーバーツーリズム対策と両立させながら、持続可能な形でその地位を維持していくことが課題となります。
2025年の旅行計画に影響を与える世界的動向
個別の国の魅力だけでなく、世界共通の課題も2025年の旅行スタイルを大きく左右します。
頻発するストライキと交通網の混乱
ヨーロッパを中心に、航空会社や鉄道、空港職員によるストライキが頻発しています。賃金や労働条件の改善を求める動きは今後も続くと見られ、フライトの遅延や欠航、公共交通機関の麻痺は、旅行者にとって無視できないリスクです。これにより、旅行計画には予備日を設けるなどの柔軟性が求められ、万一に備えた旅行保険の重要性が一層高まるでしょう。
気候変動がもたらす旅先の変化
世界各地で頻発する洪水、山火事、熱波といった異常気象は、旅行先の選定に直接的な影響を与え始めています。夏の猛暑を避けて春や秋の「ショルダーシーズン」に旅行時期をずらす動きや、気候が安定している地域を選ぶ傾向が強まると予測されます。観光地側も、気候変動への適応策が問われることになります。
エコ税導入と高まる環境意識
環境負荷への懸念から、航空券や宿泊施設に「エコ税」を導入・増税する国が増えています。例えば、ドイツは2024年5月から航空券税を約19%引き上げました。こうした動きは旅行コストを押し上げる一方で、旅行者の環境意識を高めるきっかけにもなっています。結果として、飛行機よりも環境負荷の少ない鉄道旅行へのシフトや、環境認証を受けたホテルを選ぶといった「グリーンな選択」が、2025年の新たなスタンダードになる可能性があります。
まとめ:賢明で責任ある旅へ
2025年の国際旅行は、魅力的なデスティネーションへの期待感と、社会や環境の変化という現実が交差する年となりそうです。旅行者はこれまで以上に情報を収集し、目的地が抱える背景やグローバルな課題を理解した上で、賢明な判断を下すことが求められます。それは単なる旅行計画ではなく、世界とどう向き合うかを問う「責任ある旅」への第一歩と言えるでしょう。

