「グアム」と聞いて、あなたが思い浮かべるのはどんな景色ですか?どこまでも続くターコイズブルーの海、白い砂浜に並ぶパラソル、免税店が軒を連ねる賑やかなストリート……。もちろん、それもグアムが持つ魅力的な顔の一つ。でも、もしあなたが、まだ誰も知らないような、この島の心臓部に触れる旅を求めているなら。今回ご紹介する「パガットケーブ」は、あなたのグアムに対するイメージを、きっと鮮やかに塗り替えてくれるはずです。
アパレル企業で働きながら、長期休暇のたびにスーツケース一つで世界を旅する私、亜美。ファッションやアートと同じくらい、その土地が紡いできた歴史や、手つかずの自然が織りなす造形美に心を奪われます。そんな私がグアムで出会ったパガットケーブは、まさに冒険心をくすぐる、秘密の宝箱のような場所でした。
そこは、うっそうと茂るジャングルの奥深くに眠る、古代チャモロ人の聖地。険しいトレイルを抜けた先には、時が止まったかのような神秘的な洞窟と、エメラルドグリーンに輝く天然の泉が待っています。さらにその先には、荒々しい波が打ち寄せる、息をのむような断崖絶壁が広がっているのです。
この記事では、私が実際に体験したパガットケーブへの道のりを、余すところなくお伝えします。アクセス方法から、安全に楽しむための服装や持ち物、そしてトレッキングの詳細なレポートまで。女性目線での注意点や、初心者でも安心して挑戦できるヒントもたくさん詰め込みました。この記事を読み終える頃には、あなたはきっと、次の旅の目的地として、グアムのジャングルに思いを馳せているはず。さあ、一緒に神秘の冒険へ出かけましょう。
そしてこの島には、冒険心をくすぐる場所の他にも、ローカルに愛されるグアムの秘宝がまだたくさん眠っています。
パガットケーブとは?グアムの歴史と自然が交差する聖地

パガットケーブへの冒険に旅立つ前に、この場所がいかに特別であるか、少しだけ歴史の扉を開いてみましょう。単なる美しい景勝地以上の意味を持つその深い背景を知れば、あなたの体験はより一層豊かになるでしょう。
古代チャモロ人が残した神聖な地
パガット(PagatまたはPågat)は、グアムの先住民チャモロ人の言葉に由来します。このエリアは、数千年前にチャモロ人が暮らした集落の跡であり、グアムの歴史において非常に重要な場所です。アメリカ合衆国国家歴史登録財にも登録されているこの場所には、彼らの生活の痕跡が今なお静かに息づいています。
トレッキング中は足元や周囲をよく観察してみてください。サンゴを積み重ねて築かれた住居の基礎や、「ラッテストーン」と呼ばれる古代チャモロ建築の土台の跡を見つけられるかもしれません。ラッテストーンとは、サンゴ作りの柱(ハリギ)の上に、お椀状の冠石(タサ)を載せた独特な構造で、高床式住居や集会所の基盤として使われていたと考えられています。チャモロ文化の象徴とも言える存在です。
この地は単なる住居跡にとどまりません。洞窟や泉はチャモロの人々にとって神聖な儀式の場であり、生活に欠かせない水源でもありました。これから足を踏み入れるのは、彼らの魂が息づく聖なる場所です。そのことを心に刻み、深い敬意を持って歩むことがこの地を訪れる者にとって最も重要な心得と言えるでしょう。グアムの歴史や文化についてさらに知りたい方は、Guampediaのパガット紹介ページが大変参考になります。古代の人々の暮らしに思いを馳せながら歩くジャングルは、まるで時を超えて旅をしているような不思議な感覚を味わわせてくれます。
神秘の淡水泉「ケーブプール」の魅力
パガットケーブの最大の見どころは、洞窟の最深部に広がる神秘的な淡水の泉です。地元では「ケーブプール」と呼ばれ、多くの冒険者たちを惹きつけ続けています。
ジャングルの湿気やトレッキングで火照った体を、透き通った冷たい水に浸す瞬間は至福そのもの。泉の水は雨水が石灰岩を通って濾過されたもので、驚くほど透明度が高いのが特徴です。洞窟の天井の小さな隙間から差し込む光が水面に反射して、エメラルドグリーンの光のカーテンを生み出す様子は、息を呑むほどの美しさ。まるで別世界に迷いこんだかのような幻想的な空間が広がっています。
この泉は、古代チャモロ人にとっても非常に貴重な水源であり、暮らしの中心でした。乾季でも枯れることのないこの泉があったからこそ、この地の集落は栄えたのです。そんな彼らの生命線を、現代に生きる私たちが体感できるのは感慨深いものがあります。水深は場所によって異なり、浅く足がつく場所もあれば、大人がすっぽり浸かるほど深い場所もあります。天然のプールで泳ぐ非日常の体験は、きっと心に残る思い出になるでしょう。
雄大な太平洋を望む絶景の断崖
洞窟探検で涼をとったあとは、もうひとつの見事な絶景が待っています。トレイルのもう一方の終点には、雄大な太平洋を見下ろす断崖、パガットクリフが広がっています。
木々のトンネルを抜けると、眼前に広がるのは限りなく続く水平線と、激しく打ち寄せる波の海岸線。深緑のジャングルと、深く透き通る青い海の対比は圧巻の一言です。黒々とした溶岩の岩肌に白い波しぶきが砕け散る様子は、自然の力強さをまざまざと見せつけてくれます。
ここはトレッキングの疲れを癒し、達成感に浸るのに最適な場所。岩の上に腰を下ろし、潮風を感じながらただ景色を眺めるだけで、心が浄化されるような気持ちになります。ただし、この断崖は柵などの安全設備が一切ない自然のままの状態です。絶景に魅了されるあまり崖の際に近づきすぎないよう、十分に注意してください。特に写真撮影に夢中になると足元がおろそかになりがちです。安全な場所から、この雄大な風景をゆっくり堪能しましょう。
冒険の始まり!パガットケーブへのアクセス完全ガイド
その神秘的な魅力とは裏腹に、パガットケーブは観光地として広く整備されているわけではありません。だからこそ「秘境」と呼ばれるのですが、訪れるには多少の準備と知識が必要となります。ここでは、迷わずトレイルの入口にたどり着くための具体的な方法を紹介します。
レンタカーがマスト!グアム北東部へのアクセス方法
まず最も重要なのは、パガットケーブへアクセスする手段はレンタカーのみという点です。タモンやタムニンといった主要ホテルエリアからのシャトルバスや公共交通機関は、この地域まで運行していません。タクシーも利用可能ですが、トレッキングには時間を要するため、帰りの手配や費用を考えると現実的とは言い難いでしょう。
パガットケーブはグアム北東部、マンギラオ地区の郊外に位置しています。タモンの中心地からは車で約30~40分。グアムの道路は比較的シンプルですが、日本の感覚とは異なる点も多いので、国際免許証の準備や現地の交通ルール(右側通行や速度のマイル表示など)の事前確認は必須です。
カーナビやスマートフォンの地図アプリで「Pagat Cave」を検索すれば、おおよその場所までは案内してくれます。目的地は島の東海岸沿いに走る主要道路「Route 15(ルート15)」です。この道路沿いにトレイルの入口があるのです。
駐車場は道路脇の未舗装スペースで、数台分の駐車が可能な程度の広さ。看板も非常に小さいため、注意していないと見逃しやすいです。後述する目印を頼りにゆっくり走行しましょう。また、管理人が常駐しているわけではないため、車上荒らしのリスクを避けるためにも、貴重品や荷物は車内に放置しないようにしてください。パスポートや財布はもちろんのこと、お土産のショッピングバッグなども外から見えないトランクにしまうのが賢明です。
トレイルの入口の見つけ方
パガットケーブのトレイルヘッド(登山道入口)は、正直非常にわかりにくい場所にあります。大きな看板や案内所はなく、Route 15の道端にひっそりと立つ小さな手作り風の木製看板だけが目印です。この看板を見逃さないことが、最初の難関となります。
タモン方面からRoute 15を南下すると、進行方向左手に現れます。具体的な目印としては、まず「グアム大学(University of Guam)」を通り過ぎ、その先のさらに南側。向かいの対向車線側(右手)にはグアム電力公社の建物が見えることがあります。
最も確実な方法は、出発前にGoogleマップなどの地図アプリで「Pagat Cave」の位置を保存し、ストリートビューで入口周辺の様子をあらかじめ確認しておくことです。「ああ、ここね」という感覚で場所を覚えておくだけで、現地での迷いが大幅に減ります。私が訪れた際には、「PÅGAT」と書かれたやや色あせた木製の看板が印象的でした。この看板を見つけたら、そのすぐ脇にある草むらの小道が、冒険の始まりを告げる道です。
これで完璧!パガットケーブ・トレッキングの準備と持ち物リスト

手つかずの自然が広がるパガットケーブのトレッキングに挑む際は、入念な準備が成功のカギとなります。快適さと安全性を両立させるために、どんな服装をし、何を持参すべきか。アパレル業界での経験を踏まえつつ、実践的な持ち物リストをお伝えします。これを参考にすれば、準備は万全です!
服装のポイント:機能性重視で安全かつスタイリッシュに
グアムと聞くと、Tシャツにショートパンツ、そしてサンダルというカジュアルなイメージが浮かぶかもしれません。しかし、パガットケーブの環境ではこうした軽装は避けるべきです。ここはジャングル内部。機能性と安全性を最優先し、適切な服装を選びましょう。
- 靴: 最も重要な装備です。トレイルはでこぼこした石灰岩の岩場や湿った土、滑りやすい木の根が続きます。必ず滑りにくい靴底でしっかりと足を支える靴を選んでください。理想は軽量なトレッキングシューズやハイキングシューズ。持っていない場合は、グリップ力の高いスニーカーでも代用できますが、汚れや濡れには覚悟が必要です。私のおすすめは、水陸両用のマリンシューズやウォーターシューズです。洞窟の泉で泳いだ後もそのまま履けるため、濡れに気を遣わずに済みます。ビーチサンダルやヒールの靴は怪我の原因となるため絶対に避けてください。
- 服装(トップス&ボトムス): 長袖と長ズボンを強く推奨します。ジャングルには蚊などの虫が多いほか、知らない植物の葉や枝が道を覆っているため、肌の露出は虫刺されや擦り傷のリスクを高めます。速乾性に優れた化学繊維(ポリエステルなど)が最適で、汗をかいても速やかに乾きます。コットンは汗を吸って乾きにくく、体を冷やす恐れがあるため避けましょう。最近はUVカットや接触冷感機能が付いたおしゃれなアウトドアウェアも充実。レギンスにショートパンツを重ねるスタイルも動きやすくおすすめです。
- 水着: ケーブプールで泳ぐ予定があるなら、事前に服の下に着用しておくのがベストです。現地には更衣施設がなく、ジャングル内で着替えるのは困難かつ防犯面でも好ましくありません。出発前にホテルで水着を着て、上からトレッキングウェアを重ねるのが最もスマートな方法です。
持ち物一覧:これだけは必ず携帯したい必須アイテム
リュックに詰めるべき必携品をまとめました。出発前に漏れがないか必ずチェックしましょう。
- 水分: トレッキングは往復で約1.5~2時間、さらにグアムの蒸し暑い気候を考慮すると、一人当たり最低でも1.5リットルの水分補給が必要です。トレイルや入口付近に自動販売機や売店は一切ないため、多めに用意することをおすすめします。スポーツドリンクなどミネラルや塩分を補えるものがあると、なお安心です。
- 軽食: 予想以上に体力を消耗するため、素早くエネルギー補給できるナッツ類、ドライフルーツ、エナジーバー、チョコレートなどを持参してください。特に洞窟や崖の休憩時、美しい景観を楽しみながら食べるおやつは格別です。
- タオル: ケーブプールで泳いだ後に体を拭くため、必ず持参しましょう。一般的なコットンタオルはかさばるため、吸水性と速乾性に優れたマイクロファイバー製のスポーツタオルが便利です。コンパクトに折りたため、荷物になりません。
- 懐中電灯またはヘッドライト: 洞窟内部は入口付近を除いてほぼ闇です。スマホライトで代用もできますが、片手が塞がれてしまうと岩場での登り降りが危険。両手を自由に使えるヘッドライトを1人1つ必ず携行してください。
- 虫よけスプレー: グアムのジャングルには蚊が多く飛び交っています。出発時は肌の露出部分にしっかりスプレーし、トレッキング中も塗り直しできる携帯用があると便利です。
- 日焼け止め: ジャングル内は木陰が多いものの、入口や崖上など直射日光が強い場所もあります。汗や水で落ちやすいため、ウォータープルーフタイプの日焼け止めを使いましょう。
- 防水バッグまたはジップロック: スマホ、カメラ、車のキーなど電子機器を水濡れから守るために必須です。ケーブプール周辺や突然のスコールに備え、防水対策を万全にしましょう。
- 軍手やグローブ: トレイルの途中でロープを掴んで急斜面を下りたり、ごつごつした岩を手で握る場面があります。軍手があれば手を保護し滑り止め効果もあるため、安全にトレッキングが楽しめます。
- 救急セット: 絆創膏や消毒液、痛み止めなど簡単な応急処置セットを持参すると、万が一の擦り傷や切り傷にも安心です。
守るべきルールとマナー
パガットケーブは古代チャモロ人の魂が宿る神聖な地であり、貴重な自然環境でもあります。訪れる私たちは敬意と感謝を持ち、以下のルールとマナーを必ず守りましょう。
- ゴミは必ず持ち帰る: 基本中の基本ですが最重要事項です。食べ残しや飲み物の空容器はもちろん、どんなに小さなゴミも持ち帰りましょう。「来たときより美しく」を心掛けてください。
- 遺跡には触れない: トレイル中に目にするラッテストーンなどの遺跡には、絶対に触れたり登ったりしないでください。貴重な文化遺産を守るため、静かに眺め写真に収めるだけにとどめましょう。
- 自然を傷つけない: 植物を折ったり持ち帰ったりすることは禁止です。また洞窟内の鍾乳石は何百年、何千年もの歳月をかけて形成されたもので、絶対に触らないでください。
グアムでは、島全体の自然環境と生態系保護に向けた取り組みが行われています。旅行者である私たちもその一翼を担い、責任をもって行動することが求められます。詳しくはグアム公衆衛生・社会福祉省環境衛生課の公式サイトをご覧ください。美しい自然を次世代に引き継ぐため、ひとりひとりの協力が不可欠です。
いざ出発!神秘の洞窟を目指すトレッキング体験記
準備が整ったら、いよいよ冒険の始まりです。Route 15の脇にある小さな入り口から一歩足を踏み入れると、そこはまるで別世界のよう。私が実際に歩いた道を、臨場感たっぷりにお届けします。
ジャングルに踏み込む冒険のはじまり
草むらの小径を抜けると、すぐに鬱蒼としたジャングルが私たちを包み込みます。タモンの喧騒は嘘のように遠ざかり、聞こえてくるのは名前も知らない鳥たちのさえずりと、風が木々の葉を揺らす音だけ。肌を撫でるひんやりと湿った空気と、南国特有の土や植物の香りが深く胸の中に広がります。
トレイルの序盤は比較的平坦ですが、足元は木の根や石灰岩がごつごつとしています。一歩一歩、どこに足を置くかをしっかり確認しながら慎重に進みましょう。頭上にはシダ植物や巨大なパンノキの葉が空を覆い隠し、まるで緑のドームの中にいるかのような感覚を覚えます。木漏れ日が地面にまだら模様を描き出し、幻想的な雰囲気に包まれています。この非日常の空間にいるだけで、心がわくわくするのを感じました。
分かれ道は注意!洞窟へ向かう正しいルート
トレイルを10分ほど進むと、道が二手に分かれる分岐点に到着します。ここが最初の重要なポイントです。通常、木には手書きのサインがありますが、風雨で擦れている場合もあるため注意が必要です。
一般的なコースは、まず左に進み「洞窟(Cave)」を目指し、その後この分岐点に戻ってから右の「崖(Cliff)」へ向かうという順番です。洞窟の泉で汗を流してクールダウンしてから、最後に絶景を楽しむのが体力的にも理にかなっています。
私たちは迷わず左の道を選びました。ここから道は次第に険しくなり、急な下り坂が現れ、地面も一層滑りやすくなります。設置されたロープを補助にしながら、ゆっくりと慎重に降りていきましょう。軍手がここで早速役立ちます。焦らず、自分のペースで進むことが大切です。
光と影の織り成す洞窟内部を進む
急勾配の坂を下り切ると、目の前に大きく口を開けた洞窟の入り口が現れます。ジャングルの蒸し暑さから一転、洞窟内部からひんやりとした空気が漂い、期待に胸が弾みます。ここで準備していたヘッドライトを装着し、ついに洞窟探検の始まりです。
一歩入ると、そこは光の届かない暗闇の世界。ヘッドライトの灯りだけが、進むべき道を示しています。足元は湿った岩で非常に滑りやすく、頭上からは水滴がポタポタと落ちてきます。天井が低い場所では身をかがめて進まなければなりません。ごつごつした岩をよじ登り、狭い隙間をくぐり抜けると、まるでインディ・ジョーンズになったかのようなスリル満点の冒険です。
壁面にライトを向けると、長年かけて形成された鍾乳石がキラキラと輝き、自然が生み出した芸術作品に目を奪われます。この神秘的な空間では大声を控え、静かに自然の音に耳を澄ませてみてください。闇の中で自分の足音と呼吸だけが響き、五感が研ぎ澄まされていくのを感じられるでしょう。
目の前に広がるエメラルドグリーンの泉
暗く険しい洞窟内を5分ほど進むと、突然視界が開け、ヘッドライトの先に信じがたいほど美しい光景が広がりました。透明でエメラルドグリーンに輝く泉です。
わずかな天井の隙間から差し込む自然光が水中で乱反射し、泉全体を淡く照らしています。その神秘的な美しさに思わず息をのむ瞬間でした。疲れが一気に吹き飛ぶ、感動のひとときです。
早速服を脱ぎ、水着に着替えてそっと泉に足を入れます。ひんやりとした水の感触が火照った体に心地よく染み渡ります。水は驚くほど透き通っており、底の白い砂地まではっきりと見えました。水深は場所によって異なるため、まずは足がつく浅い場所で体を慣らしてから、ゆっくり深い方へ進みます。ぷかぷかと水に浮かびながら洞窟の天井を見上げると、まるで地球の母なる子宮に包まれているような不思議な安らぎを感じました。古代チャモロの人々も、きっとこの泉で体を清め、癒されていたのでしょう。悠久の時を思い起こしながら味わう、最高のクールダウンタイムとなりました。
もう一つの絶景へ。太平洋を見下ろす断崖を目指して

神秘的な泉で心も体もリフレッシュした後は、冒険の第2章へと進みます。来た道を慎重に引き返し、先ほどの分岐点からもう一つの目的地であるパガットクリフを目指します。
再びジャングルを抜け、海へ向かう
洞窟からの帰路は、下ってきた坂を今度は登り返すことになります。この登りは意外に体力を消耗するため、こまめに休憩をとりつつ無理のないペースで歩きましょう。分岐点に戻ったら、今度は「崖(Cliff)」を示す方向へ進みます。
こちらのトレイルは、洞窟へ向かう道とは少し異なる趣があります。海に近づくにつれて、潮の香りが風に乗って漂い始めます。植生も徐々に変わり、視界が開ける場所が増えてきました。足元は相変わらず岩が多く歩きにくいものの、もうすぐゴールだと思うと自然と足取りが軽くなります。
息を呑む絶景との出会い
木々のトンネルを抜けたその瞬間、目の前に言葉を失うほどの壮大な景色が広がりました。ごつごつとした黒い溶岩の断崖と、その下に広がる果てしなく青い太平洋。白い波が絶え間なく岸壁に打ち寄せ、ザザーッという力強い音が響いています。
そこには観光地の穏やかなビーチとは全く異なる、荒々しくも美しいグアムのありのままの姿が広がっていました。風は非常に強く、頬を撫でる潮風がとても心地よいものです。私たちは崖の安全な場所に腰を下ろし、持参したおやつと水分を取りながら、しばらく静かにこの雄大な景色を見つめていました。
水平線の彼方を眺めるうちに、日々の悩みやストレスが些細に感じられてきます。これこそが自然の持つ偉大な力なのでしょう。この景色は、厳しいトレッキングを乗り越えた者にのみ与えられる最高のご褒美です。写真では伝えきれない圧倒的なスケール感を、ぜひご自身の目で確かめてほしいと思います。ただし、繰り返しになりますが、崖の先端は非常に危険です。とくに風の強い日には絶対に端に近づかないようにしてください。安全な場所から、この感動を心に刻みましょう。
安全に楽しむための重要情報とツアーの活用
パガットケーブは非常に魅力的なスポットですが、手付かずの自然を歩くため、それなりのリスクも伴います。特にトレッキング初心者や女性だけのグループで訪れる場合は、十分な安全対策を講じることが不可欠です。
治安と安全対策:女性の一人旅でも安心できる?
グアム全体としては治安が比較的良好ですが、パガットケーブのトレイルは時間帯によって人通りが極端に少ないことがあります。そのため、女性が一人でトレッキングするのは安全面の観点からあまり推奨できません。できるだけ信頼のおけるパートナーや友人と複数人で行動することが望ましいです。
どうしても一人旅で訪れたい場合は、後述するガイド付きツアーの利用が最も安全で確実な方法です。また、複数人で行く場合でも、以下のポイントは必ず守りましょう。
- 早い時間帯に行動する: 午後遅くに出発すると、帰りが日没後になる恐れがあります。ジャングルの中は日が暮れるのが早く、暗くなってからの道迷いは非常に危険です。午前中の早いうちに出発し、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。
- 行程を必ず共有する: 出発前に、日本の家族や友人、滞在先のホテルスタッフに「パガットケーブへ行く」と伝えておくことが重要です。万が一の際に備え、誰かがあなたの居場所を把握している状態を作っておきましょう。
- 車上荒らしへの注意: これはグアム内のどの観光地でも共通の注意点ですが、車内に荷物を置いたまま車を離れないようにしてください。特にレンタカーは観光客だと一目でわかるため、ターゲットになりやすいです。貴重品は必ず持ち歩き、その他の荷物もトランクに隠すなど外から見えない対策を行いましょう。
初めてのトレッキングにはガイド付きツアーが安心
「自分たちだけだと不安」「道に迷わないか心配」という方には、現地のガイド付きツアー参加を強くお勧めします。ツアーには個人で行く場合にはない多くのメリットがあります。
- 送迎サービス付きで安心: 多くのツアーにはホテルまでの送迎が含まれているため、慣れない道での運転や分かりにくい入口探しの手間が省けます。
- 装備のレンタル: 懐中電灯や手袋など、トレッキングに必要な装備をレンタルできるツアーもあり、日本から全てを持参する必要がありません。
- 安全確保: 経験豊富なガイドが同行するため、道に迷う心配はなく、危険個所や注意点を的確に教えてくれます。安全面での安心感は大きなメリットです。
- 深い知識が得られる: ガイドはパガットの歴史やチャモロ文化、ジャングルに生息する植物や生物について豊富な知識を持っています。単に景色を楽しむだけでなく、背景にある物語に触れることでより興味深い体験になります。
ツアーは複数の会社が催行しているため、予約の際は料金だけでなく内容、催行人数、保険の有無、口コミなどをしっかり比較検討しましょう。グアム政府観光局公式サイトなどで信頼できるツアー会社を探すのもおすすめです。
万が一のトラブル発生時の対処法
十分な準備をしていても、思わぬトラブルが起こる可能性はあります。いざという時のために対処法を知っておきましょう。
- 道に迷った場合: 最も大切なのはパニックを起こさないことです。無闇に進むと状況を悪化させるおそれがあります。まず落ち着いて、来た道を引き返すのが基本です。もしどちらから来たのか分からなくなったら、その場でじっとして救助を待つのが賢明です。グアムの緊急通報番号は「911」です。
- 怪我をした場合: 軽い擦り傷などは持参した救急セットで応急処置を行いましょう。捻挫などで歩行困難になった場合は無理せず、同行者に助けを求めるか、携帯が通じる場所であれば救助を呼んでください。
- ツアーのキャンセルや返金について: 天候不良などでツアーが中止になることがあります。その際の対応(全額返金か日程変更かなど)はツアー会社によって異なります。予約時にはキャンセルポリシーを必ず確認し、自己都合でのキャンセル規定についても把握しておきましょう。
パガットケーブ周辺のおすすめ立ち寄りスポット

トレッキングで爽やかな汗をかいたあとは、美味しい食事と美しい景色に包まれて、冒険の余韻をじっくり味わいましょう。グアム東海岸に位置するパガットケーブ周辺には、観光客にはあまり知られていない隠れた魅力的なスポットが点在しています。
地元の味でエネルギー回復!「McKraut’s」
パガットケーブから車で約10分の場所にある「McKraut’s(マックラウツ)」は、地元住民や米軍関係者から親しまれている本格ドイツ料理のレストランです。ジャングルの中にひっそりと佇む隠れ家的なロケーションも魅力のひとつです。
トレッキングで空腹になった体を満たすには、ここのジューシーなブラートヴルスト(ドイツ風ソーセージ)とザワークラウトの組み合わせが抜群。食べごたえのあるシュニッツェル(ドイツ風カツレツ)も人気の一品です。冷たくキンと冷えたドイツビールで乾杯すれば、冒険の疲れも一気に癒えるでしょう。観光地のレストランとは異なる、アットホームなローカル感を楽しめるのもこの店の魅力です。
マンギラオ・ゴルフクラブの息を呑むオーシャンビュー
ゴルフに興味がない方にもぜひ訪れてほしいのが「マンギラオ・ゴルフクラブ」です。ここは、太平洋を望む世界的に評価の高いシーサイドコースで、特に海越えのショットで有名な12番ホールからの景観は圧巻です。
クラブハウス内のレストランは、プレーヤーでなくても利用可能です。大きな窓越しに広がる美しいオーシャンビューを楽しみながら、ゆったりとランチやドリンクを味わえます。トレッキング後の少しワイルドな時間とは対照的に、リゾートの落ち着いた雰囲気の中で過ごすひとときもまた格別です。冒険とリラックス、どちらも楽しめるのがグアム旅行の醍醐味と言えるでしょう。
歴史と自然が織りなす、忘れられないグアムの記憶
パガットケーブで過ごした一日は、私にとって単なるアクティビティ以上の意味を持つ体験となりました。それは、煌びやかなリゾートのイメージの裏側に隠されたグアムの新たな姿、島の深い魂に触れる旅だったのです。
汗をかき、息を切らしながらジャングルを踏み進めた道のり。暗がりの洞窟で古代の人々の息遣いを感じた瞬間。そして、目の前に広がる太平洋の雄大な景色に心奪われたあの崖の上。ひとつひとつの風景や体験が、鮮烈な記憶として私の心に残っています。
私たちが気軽に訪れるこの場所は、チャモロの人々にとって何千年ものあいだ生活の拠り所であり、祈りを捧げてきた神聖な聖地であることを、決して忘れてはなりません。この美しい自然と貴重な文化遺産は、彼らの祖先から受け継がれ、未来にわたって守り伝えられるべき大切な宝物なのです。
だからこそ、パガットケーブを訪れる際には、最大限の敬意と感謝の心で臨みましょう。ゴミを一切残さず、遺跡には触れず、静かにその場の空気を味わうこと。そうした小さな配慮こそが、この神聖な場所を守り続けることにつながるのです。
グアムはショッピングやマリンスポーツだけが魅力ではありません。もし日常から抜け出し、本物の冒険を求めるなら、勇気を持ってジャングルの奥深くへ足を踏み入れてみてください。そこにはきっと、あなたが知らなかったグアムと、新たな自分自身との出会いが待っています。パガットケーブは、訪れるすべての人に忘れがたい感動と、自然への畏敬の念を教えてくれる特別な場所だからです。





