オーストラリア南東部に位置する、ヴィクトリア州の州都メルボルン。この街をひと言で表すのは、実に難しいことです。「世界で最も住みやすい街」ランキングの常連として知られ、洗練された都市機能と豊かな自然が共存する場所。しかし、その魅力は単なる住みやすさだけにとどまりません。
石畳の路地裏(レーンウェイ)を曲がれば、壁一面を彩るエネルギッシュなストリートアートに出くわし、角を曲がれば、焙煎されたコーヒー豆の芳しい香りがふわりと鼻をかすめる。歴史を物語る壮麗なヴィクトリアン建築の隣では、前衛的なデザインのビルが空を突き、緑豊かな公園では人々が思い思いの時間を過ごしている。そう、メルボルンはカオスと洗練、歴史と革新、文化と日常が絶妙なバランスで混ざり合う、万華鏡のような街なのです。
ここは、ただ観光地を巡るだけの旅ではもったいない。自分の足で歩き、五感をフルに使って、街の呼吸を感じる。そんな能動的な旅人を、メルボルンはいつでも両手を広げて歓迎してくれます。お気に入りのカフェを見つけたり、ふと迷い込んだ路地裏のアートに心を奪われたり、マーケットの活気に胸を躍らせたり。あなただけが発見できる「メルボルンの物語」が、街の至る所に隠されています。
さあ、この地図を片手に、予測不能な魅力に満ちたメルボルンの冒険へと、一歩踏み出してみませんか。きっとあなたの旅の記憶に、深く、鮮やかな一ページを刻んでくれるはずです。
路地裏(レーンウェイ)散策のすすめ – グラフィティアートと隠れ家カフェ
メルボルンの真髄に触れたいなら、まず目指すべきはメインストリートから一本入った「レーンウェイ」と呼ばれる無数の路地裏です。かつてはゴミ捨て場や搬入通路として使われていた薄暗い小道が、今やこの街の文化を象ึงする最も刺激的な場所に生まれ変わりました。そこは、巨大な屋外美術館であり、最高のコーヒーを提供する隠れ家であり、個性的なショップが軒を連ねる宝箱のような空間。計画通りに進まないことこそが、レーンウェイ散策の醍醐味です。
ホーザー・レーン(Hosier Lane):ストリートアートの聖地
メルボルンのストリートアートについて語る上で、ホーザー・レーンを避けて通ることはできません。フリンダース・ストリート駅からほど近いこの石畳の小道に足を踏み入れた瞬間、誰もがその圧倒的な色彩の洪水に息をのむことでしょう。壁、ゴミ箱、配管、地面に至るまで、ありとあらゆるものがキャンバスと化し、スプレーペイントやステンシル、ポスターアートで埋め尽くされています。
ここに描かれるアートは、決して静的なものではありません。常に新しい作品が上から塗り重ねられていくため、昨日見た光景が、今日にはもう存在しないかもしれないのです。まさに「生きたアート」。訪れるたびに違う表情を見せてくれるこのダイナミズムこそが、ホーザー・レーンの最大の魅力と言えるでしょう。風刺の効いた政治的なメッセージ、ポップカルチャーのキャラクター、抽象的なデザイン、そして地元アーティストたちの魂の叫び。それらが渾然一体となって、強烈なエネルギーを放っています。
散策のコツは、ただ歩くだけでなく、細部にまで目を凝らすこと。大きな壁画の隅に描かれた小さなキャラクターや、誰かが書き残した詩的な一文など、思わぬ発見があるかもしれません。カメラを片手に、お気に入りの作品を探してみてください。カラフルな壁を背景にすれば、どんな写真もアーティスティックな一枚に仕上がります。早朝の静かな時間帯に訪れると、前夜に描かれたばかりのフレッシュなアートに出会えるかもしれませんし、日中は世界中から集まった観光客や、まさに今スプレー缶を手に制作しているアーティストの姿を見ることができ、その活気もまた一興です。
ディグレイヴス・ストリート(Degraves Street):パリの風を感じるカフェ通り
フリンダース・ストリートの地下道をくぐり抜けた先にあるディグレイヴス・ストリートは、ホーザー・レーンのようなワイルドな雰囲気とは対照的に、まるでヨーロッパの街角に迷い込んだかのような洗練された空気が流れています。石畳の道の両脇にはカフェがずらりと並び、そのほとんどが屋外にテラス席を設けています。人々はバリスタが淹れたばかりのコーヒーを片手に談笑し、新聞を広げ、行き交う人々を眺めている。この光景こそ、メルボルンの日常を象徴するひとコマです。
ここでは、まず空いている席を見つけて腰を下ろし、メルボルンが世界に誇るコーヒー文化をじっくりと味わうのが正解。定番のラテやカプチーノはもちろん、豆の個性をダイレクトに楽しめる「ロングブラック」や、きめ細やかなスチームミルクとのバランスが絶妙な「フラットホワイト」など、オーストラリアならではのメニューに挑戦してみるのも良いでしょう。
コーヒーと共に楽しみたいのが、カフェ飯の数々。ショーケースに並んだ美味しそうなペイストリーやサンドイッチ、ボリューム満点のベーグルなど、選択肢は無限大です。特に人気なのは、地元で愛される「Pidapipo」のジェラート。濃厚でありながら後味はさっぱりとしていて、散策で火照った体に染み渡ります。ディグレイヴス・ストリートは、ただコーヒーを飲む場所ではなく、メルボルンの空気感そのものを味わうための特等席なのです。
センター・プレイス(Centre Place):個性派ショップがひしめく小径
ディグレイヴス・ストリートから続くセンター・プレイスは、さらに道幅が狭まり、より「路地裏感」が増す魅力的な小道です。ここは、大手チェーン店では決して見つからないような、個性溢れる小さなセレクトショップやブティック、雑貨店がひしめき合っています。
壁にはここでもストリートアートが描かれ、ディグレイヴス・ストリートの洗練された雰囲気と、ホーザー・レーンの荒々しさが程よくミックスされたような独特の空間が広がっています。ショーウィンドウを覗けば、地元の若手デザイナーが手がけたアクセサリー、ユニークなプリントTシャツ、ヴィンテージの古着、手作りの革製品などが並び、見ているだけでも飽きることがありません。
お腹が空いたら、立ち食いスタイルのスープ専門店や、安くて美味しいと評判のクレープリーに立ち寄るのもおすすめ。狭い通路を人々がすれ違いながら、思い思いの店を物色する。その雑多なエネルギーこそがセンター・プレイスの魅力。メルボルンらしい、少しひねりの効いたお土産を探すなら、これ以上ないほど最適な場所と言えるでしょう。ここで手に入れたものは、単なる「物」ではなく、メルボルンの路地裏で過ごした時間の「記憶」そのものになるはずです。
メルボルンの胃袋を満たす – 食の都を味わい尽くす
多文化都市メルボルンは、その多様性を食文化にも色濃く反映させています。世界中から集まった移民たちが持ち寄った故郷の味が、この街で独自の進化を遂げ、メルボルンをオーストラリア随一の「食の都」へと押し上げました。新鮮な食材が集まる巨大マーケットから、お洒落なブランチカフェ、世界各国の本格レストラン、そして夜景を望むルーフトップバーまで。メルボルンでの食体験は、旅のハイライトになること間違いありません。
クイーン・ヴィクトリア・マーケット:南半球最大の市場で美食探訪
140年以上の歴史を誇るクイーン・ヴィクトリア・マーケットは、単なる市場ではなく、メルボルン市民の台所であり、文化の中心地です。広大な敷地には、新鮮な野菜や果物が山と積まれ、精肉店や鮮魚店の威勢の良い声が響き渡ります。その活気とエネルギーに満ちた雰囲気に身を置くだけで、心が躍るのを感じるでしょう。
まずは、デリ・ホールへ足を運んでみてください。ガラスケースの中には、世界中から集められたチーズ、サラミ、オリーブなどが宝石のように並び、その芳醇な香りが食欲をそそります。試食を楽しみながら、お気に入りのデリを見つけるのもマーケットの醍醐味。焼きたてのパンやクラッカーと一緒に購入すれば、近くのカールトン庭園で素敵なピクニックが楽しめます。
そして、マーケット名物として絶対に外せないのが、アメリカン・ホットドッグ・スタンドの「Bratwurst」。ジュージューと焼かれる極太のソーセージをパンに挟み、ザワークラウトとマスタードをたっぷりとかけて頬張る一口は、まさに至福の瞬間です。他にも、温かいジャムドーナツを売るフードトラックや、新鮮なシーフードをその場で調理してくれる屋台など、誘惑は尽きません。地元の人々に混じって、マーケットの喧騒を楽しみながらB級グルメを味わう。これぞ、メルボルン流の食の楽しみ方です。
ブランチ文化を体験する – アボカドトーストから始まる一日
メルボルンの食文化を語る上で、「ブランチ」は欠かすことのできないキーワードです。朝食と昼食を兼ねたこの食事スタイルは、単なる食事以上の意味を持ち、友人や家族とリラックスした時間を過ごすための大切な社交の場となっています。週末にもなれば、街の人気カフェにはブランチを楽しむ人々で長蛇の列ができるほど。
メルボルン・ブランチの象徴的なメニューといえば、「アボカド・スマッシュ・オン・トースト」。サワードウブレッドの上にクリーミーなアボカドをたっぷりと乗せ、フェタチーズやポーチドエッグをトッピングした一皿は、見た目も鮮やかで栄養満点です。他にも、とろりとした卵黄がたまらないエッグベネディクト、ベリーやメープルシロップで彩られたリコッタ・ホットケーキなど、どのカフェも創意工夫を凝らしたメニューで競い合っています。
そして、ブランチに欠かせないのが、もちろん極上のコーヒー。メルボルンのカフェは、どこも豆の産地や焙煎方法に強いこだわりを持っています。バリスタと会話を交わしながら、その日のおすすめのシングルオリジンを試してみるのも一興。美味しい食事と香り高いコーヒー、そしてお洒落でリラックスした空間。メルボルンでの一日は、こんな素敵なブランチから始めてみてはいかがでしょうか。
世界の味が集まるレストランシーン
メルボルンが食の都と呼ばれる所以は、その多様性にあります。イタリア、ギリシャ、ベトナム、中国など、世界各国からの移民がコミュニティを形成し、本場の味を守り続けています。
本格的なイタリアンを味わいたいなら、ライゴン・ストリートを中心とするカールトン地区へ。石窯で焼かれたピッツァや、手打ちパスタの店が軒を連ね、陽気な雰囲気が漂います。ギリシャ料理なら、ロンズデール・ストリート。スブラキ(串焼き肉)やムサカの香ばしい匂いが漂い、地中海の風を感じさせてくれます。安くて美味しいベトナム料理を求めるなら、トラムに乗ってリッチモンドのヴィクトリア・ストリートへ。フォーやバインミーの名店がひしめき合い、活気に満ちています。チャイナタウンでは、本格的な飲茶からモダンチャイニーズまで、幅広い中華料理が楽しめます。一つの街にいながらにして、世界一周のグルメ旅行ができてしまう。それがメルボルンのレストランシーンの面白さです。
ルーフトップバーで夜景とカクテルを
昼間の活気ある雰囲気とは一転、夜のメルボルンはしっとりと大人びた表情を見せます。その夜景を満喫するのに最適なのが、近年続々とオープンしているルーフトップバーです。高層ビルの屋上に設けられた開放的な空間で、きらめく街の灯りを眼下に眺めながらカクテルを傾ける時間は、旅の特別な思い出となるでしょう。
CBD(中心業務地区)には、それぞれに個性的なルーフトップバーが点在しています。ヤラ川やフリンダース・ストリート駅を見下ろす絶景が自慢のバー、緑豊かなガーデンのような雰囲気のバー、DJブースが設けられクラブのような盛り上がりを見せるバーなど、気分に合わせて選ぶことができます。メルボルン産のクラフトジンを使ったオリジナルカクテルや、地元のワイナリーのワインを片手に、美しい夜景に酔いしれる。これ以上ないほど贅沢な夜の過ごし方です。
文化と歴史に触れる – 知的好奇心を満たすスポット
メルボルンは、ただお洒落で美味しいだけの街ではありません。ゴールドラッシュによって繁栄した19世紀の面影を色濃く残す、歴史と文化の薫り高い都市でもあります。街の象徴である駅舎から、世界クラスの美術館、そして世界遺産に登録された壮麗な建築物まで。少し歩けば、あなたの知的好奇心を刺激するスポットにきっと出会えるはずです。
フリンダース・ストリート駅:街の象徴、待ち合わせのランドマーク
「メルボルンで会いましょう(Meet me under the clocks)」という言葉は、地元の人々にとって特別な意味を持ちます。この「時計の下」とは、フリンダース・ストリート駅の正面玄関に掲げられた9つの時計のこと。メルボルン初の鉄道駅として1854年に開業して以来、この駅は街の発展を見守り続けてきた、まさにメルボルンの顔ともいえる存在です。
黄色いドーム型の屋根と、フランス・ルネサンス様式の壮麗なファサードは、一度見たら忘れられないほどの存在感を放っています。日中は通勤・通学客や観光客で賑わい、夜にはライトアップされて幻想的な姿を見せる。その姿は、時間帯によって全く異なる表情を描き出します。駅舎の内部もまた、歴史を感じさせる重厚な造り。ただ電車に乗るためだけでなく、その建築美をじっくりと味わうために訪れる価値があります。
駅の向かいには、セント・ポール大聖堂が荘厳にそびえ立ち、現代的なデザインのフェデレーション・スクエアが隣接するなど、新旧の建築が交差するこの一角は、メルボルンの多様性を象徴する場所でもあります。まずはこの場所から、メルボルン散策をスタートさせるのがおすすめです。
ビクトリア国立美術館(NGV):アートに浸る静かな時間
オーストラリア最古にして最大の美術館、ビクトリア国立美術館(NGV)は、アート好きならずとも訪れたい場所です。ヤラ川の南岸に位置する「NGVインターナショナル」と、フェデレーション・スクエア内にある「イアン・ポッター・センター:NGVオーストラリア」の2館で構成されています。
NGVインターナショナルでは、古代エジプトから現代まで、世界中の幅広い地域の美術品を鑑賞することができます。ヨーロッパ絵画の巨匠たちの作品から、アジアの陶磁器、アフリカの彫刻まで、そのコレクションは圧巻の一言。特に、ステンドグラスの天井が美しいグレート・ホールは必見です。床に寝転がって、万華鏡のようにきらめく光を眺めるというユニークな鑑賞スタイルは、忘れられない体験となるでしょう。
一方のイアン・ポッター・センターは、アボリジニ・アートから現代オーストラリア美術まで、国内のアーティストたちの作品に特化しています。オーストラリアの歴史や文化、自然を反映した作品群は、この国のアイデンティティをより深く理解する手助けをしてくれるはずです。NGVは一部の特別展を除き、常設展の入場が無料というのも嬉しいポイント。街の喧騒から離れ、静かで知的な時間を過ごしたい時にぴったりの場所です。
王立展示館とカールトン庭園:世界遺産の優雅な空間
メルボルンにユネスコ世界遺産があることをご存知でしょうか。それが、CBDの北東に位置する王立展示館と、それを取り囲むカールトン庭園です。1880年のメルボルン万国博覧会のために建設された王立展示館は、ビザンティン、ロマネスク、ルネサンスなど様々な建築様式が融合した、壮麗で優雅な建物です。オーストラリアで最初の国会議事堂として使われた歴史も持ち、この国の歩みにおいて重要な役割を果たしてきました。
現在も展示会やイベント会場として利用されており、内部を見学できるツアーも開催されています。その巨大なドームを見上げれば、ゴールドラッシュ時代のメルボルンの栄華を肌で感じることができるでしょう。
そして、王立展示館を優しく包み込むカールトン庭園は、市民の憩いのオアシスです。美しく手入れされた芝生、季節の花々が咲き誇る花壇、巨大なプラタナスの並木道。木陰のベンチに座って読書をしたり、芝生の上でピクニックを楽しんだり、思い思いの時間を過ごすことができます。メルボルン博物館も庭園内にあり、合わせて訪れるのもおすすめです。歴史的建造物の荘厳さと、豊かな自然が調和したこの空間は、訪れる人々の心を穏やかにしてくれる、特別な場所です。
少し足を延ばして – メルボルン近郊の魅力
メルボルンの魅力は、活気あふれるシティ中心部だけにとどまりません。少し足を延ばせば、そこには息をのむような大自然や、可愛らしい野生動物たちとの出会いが待っています。都会の喧騒を離れて、オーストラリアならではの雄大な風景に身を委ねる日帰り旅行は、メルボルン滞在をより一層豊かなものにしてくれるでしょう。レンタカーを借りるのも良いですし、手軽な現地ツアーに参加するのもおすすめです。
グレート・オーシャン・ロード:世界で最も美しい海岸道路
その名が示す通り、グレート・オーシャン・ロードは単なる道ではありません。トーキーからアランスフォードまで、約243kmにわたって続く海岸線に沿ったこの道は、それ自体がひとつの壮大な観光地です。第一次世界大戦から帰還した兵士たちによって建設されたという歴史を持ち、断崖絶壁と紺碧の海が織りなすダイナミックな景観は、世界中のドライバーを魅了し続けています。
ハイライトは、何と言ってもポート・キャンベル国立公園に点在する奇岩群。中でも、荒波によって侵食された石灰岩の柱が海中から突き出す「12人の使徒(The Twelve Apostles)」の光景は、あまりにも有名です。夕日に照らされて黄金色に輝くその姿は、神々しく、畏敬の念すら抱かせます。近くには、崩落したアーチ橋の跡である「ロンドン・ブリッジ」や、悲劇的な難破船の物語が残る「ロック・アード・ゴージ」など、見どころが満載。展望台から景色を眺めるだけでなく、砂浜まで下りて、打ち寄せる波の音や潮風を肌で感じてみてください。自然が数千万年という時間をかけて創り出したアートのスケールに、ただただ圧倒されるはずです。
フィリップ島:野生のペンギンパレードに感動
メルボルンから車で約90分。フィリップ島では、一生忘れられない感動的な光景に出会えます。それは、日没後に行われる「ペンギン・パレード」。体長わずか30cmほどの世界最小のペンギン、「フェアリーペンギン」たちが、海での漁を終えて一斉に巣へと帰ってくるのです。
夕暮れのサマーランズ・ビーチに設けられた観覧席で待っていると、やがて波打ち際に小さな黒い影が現れます。一羽、また一羽と仲間が集まるのを待ち、群れがある程度の大きさになると、よちよちとおぼつかない足取りで砂浜を横切り、丘の上にある巣穴を目指して行進を始めます。その健気で愛らしい姿には、誰もが心を奪われ、会場は温かい感動に包まれます。ペンギンの生態と自然環境を守るため、写真撮影は固く禁じられていますが、その光景はあなたの目に、そして心に、鮮明に焼き付くことでしょう。自然の中で生きる動物たちの営みを、敬意をもって静かに見守る。それは、何物にも代えがたい貴重な体験です。
ヤラ・バレー:美食とワインの楽園
ワイン好き、グルメ好きにとって、ヤラ・バレーはまさに天国のような場所です。メルボルンから車でわずか1時間ほどのこの地域は、冷涼な気候を活かした上質なピノ・ノワールとシャルドネの産地として世界的に有名。なだらかな丘陵地帯にブドウ畑が広がる牧歌的な風景は、見ているだけで心が和みます。
ヤラ・バレーには、大小80以上のワイナリー(セラードア)が点在しており、その多くでワインのテイスティングが楽しめます。モダンでスタイリッシュな大規模ワイナリーから、家族経営のアットホームなブティックワイナリーまで、その個性は様々。ワイナリー巡りのツアーに参加すれば、効率よく複数のワイナリーを訪れることができます。
そして、ヤラ・バレーの魅力はワインだけではありません。多くのワイナリーには、地元の新鮮な食材をふんだんに使った質の高いレストランが併設されています。美しいブドウ畑の景色を眺めながら、ワインとのマリアージュを考え抜かれた絶品料理に舌鼓を打つ。これほど贅沢な時間は他にありません。また、チーズ工房やチョコレート専門店、クラフトビールの醸造所などもあり、一日中美食探訪を楽しむことができます。都会の喧騒を忘れ、豊かな自然の中で美味しいワインと食事を心ゆくまで味わう。そんな大人の休日を過ごしに、ぜひヤラ・バレーへとお出かけください。
メルボルンを賢く旅するヒント
魅力的なスポットが満載のメルボルン。その旅をより快適で、より深く楽しむためには、いくつかの実践的な情報を知っておくと便利です。独特の交通システムや、変わりやすい気候、そして街の熱気を体感できるスポーツ文化。これらのヒントを頭に入れておけば、あなたもメルボルン・マスターになれるかもしれません。
街の足、無料トラムゾーンを使いこなす
メルボルン観光の最大の味方、それが「無料トラムゾーン」です。CBD(中心業務地区)の広範囲をカバーするこのエリア内では、なんとトラム(路面電車)が無料で乗り放題。フリンダース・ストリート駅やクイーン・ヴィクトリア・マーケット、カールトン庭園といった主要な観光スポットのほとんどがこのゾーン内に含まれているため、旅行者にとっては非常にありがたいシステムです。
乗り方は簡単。緑色の「Free Tram Zone」の標識がある停留所でトラムに乗り、ゾーン内で降りるだけ。チケットもICカードも不要です。レトロなデザインで観光客に人気の「シティ・サークル・トラム(35系統)」ももちろん無料で、車内では観光案内アナウンスも流れます。この無料トラムを使いこなせば、交通費を気にすることなく、効率的に街を散策することができます。
無料ゾーンの外へ出る場合は、「Myki(マイキー)」というチャージ式のICカードが必要です。駅の券売機やセブン-イレブンなどで購入・チャージが可能。トラムに乗る際と降りる際に、車内にあるカードリーダーにタッチします。少し郊外のフィッツロイやサウス・ヤラといったお洒落なエリアに足を延ばす際には、このMykiカードを活用しましょう。
四季が一日にある街?メルボルンの気候と服装
メルボルンの天気を語る時、地元の人々がよく口にするのが「You can experience four seasons in one day(一日の中に四季がある)」という言葉です。これは決して大げさな表現ではなく、晴れていたかと思えば急に雨が降り出し、暖かかったのに冷たい風が吹き始める、といったことが日常茶飯事。この変わりやすい気候に対応することが、メルボルンを快適に旅する上で最も重要なポイントです。
基本の服装は、脱ぎ着しやすい「重ね着(レイヤリング)」スタイル。Tシャツの上にシャツやカーディガンを羽織り、さらに薄手のジャケットやパーカーを持っていると万全です。日差しは強いことが多いので、帽子、サングラス、日焼け止めは季節を問わず必需品。そして、突然の雨に備えて、折りたたみ傘やフード付きの撥水性のある上着があると安心です。
春(9月~11月)と秋(3月~5月)は比較的過ごしやすいですが、朝晩は冷え込むことも。夏(12月~2月)は乾燥して暑くなる日が多いですが、時折気温が急降下することもあります。冬(6月~8月)は寒く、曇りの日が多くなりますが、日本の冬ほど厳しくはありません。天気予報をこまめにチェックしつつも、常に「変化」に対応できる服装を心がけることが、メルボルンを楽しむ秘訣です。
スポーツの聖地で熱狂を体感する
メルボルンは「スポーツの首都」との呼び声も高い、熱狂的なスポーツ都市です。もし滞在中に何らかの試合やイベントが開催されているなら、ぜひ観戦に訪れてみてください。ルールが分からなくても、スタジアムを埋め尽くす観客の熱気と一体感を味わうだけで、忘れられない体験となるはずです。
冬の主役は、オーストラリア独自のフットボール「AFL(オーストラリアン・フットボール・リーグ)」。楕円形のボールを使い、スピーディーで激しい肉弾戦が繰り広げられるAFLは、メルボルンっ子たちの魂そのもの。巨大なメルボルン・クリケット・グラウンド(MCG)が、ひいきのチームカラーに染まる光景は圧巻です。
夏には、同じくMCGでクリケットの国際試合が行われ、紳士のスポーツならではの雰囲気が楽しめます。そして毎年1月には、テニスの四大大会のひとつ「全豪オープン」がメルボルン・パークで開催され、世界中からトッププレイヤーとファンが集結。3月にはF1オーストラリアグランプリが開催されるなど、一年を通してビッグイベントが目白押しです。スポーツを通じて、この街のもう一つの顔に触れてみてはいかがでしょうか。
旅の記憶を彩る、メルボルンならではのお土産
旅の終わりには、その土地の香りを持ち帰りたくなるもの。メルボルンには、ただの記念品ではない、この街のカルチャーやセンスを感じさせる素敵なアイテムがたくさんあります。スーパーマーケットで手軽に買えるものから、路地裏の小さな店で見つける一点物まで。あなたの旅の記憶を鮮やかに呼び覚ます、とっておきのお土産を探してみましょう。
コーヒー豆とローカルチョコレート
「コーヒーの街」メルボルンを訪れたなら、その香りを日本に持ち帰らない手はありません。街には自家焙煎のコーヒー豆を販売するカフェ(ロースタリー)が数多くあり、それぞれがこだわり抜いた豆を扱っています。バリスタにおすすめを聞きながら、好みのフレーバーの豆を選んでみてはいかがでしょうか。パッケージもお洒落なものが多く、コーヒー好きの友人への贈り物にも最適です。Seven Seeds, Market Lane, St Aliといった有名ロースターの豆は、間違いのない品質です。
そして、コーヒーのお供には上質なチョコレートを。メルボルンには、カカオ豆の選定から製造までを一貫して行う「Bean to Bar」のショコラティエが点在しています。Haigh’s Chocolatesのような老舗から、Koko Blackのようなモダンなブランドまで、選択肢は様々。オーストラリア原産のナッツやフルーツを使ったフレーバーなど、ここでしか味わえない一品が見つかるはずです。
レーンウェイで見つけるアートな雑貨
メルボルンの路地裏(レーンウェイ)は、ショッピング天国でもあります。特にセンター・プレイスやその周辺のアーケードには、地元のアーティストやデザイナーが手がけるユニークな雑貨店が隠れています。ストリートアートをモチーフにしたポストカードやポスター、手作りのシルバーアクセサリー、ユニークなデザインの文房具など、大量生産品にはない温かみと個性が光るアイテムばかり。
また、クイーン・ヴィクトリア・マーケットや、週末に開催されるローズ・ストリート・アーティスツ・マーケット(フィッツロイ地区)なども、クリエイターから直接作品を購入できる絶好の機会です。誰かと同じではない、自分だけの特別な宝物を探す時間は、旅の楽しい思い出の一部となるでしょう。
地元デザイナーズブランドのファッション
ファッション感度の高い人々が集まるメルボルンは、オーストラリアのファッションシーンを牽引する存在でもあります。CBDやフィッツロイ、サウス・ヤラといった地区には、オーストラリア発のデザイナーズブランドのブティックが軒を連ねています。リラックス感がありながらも洗練されたデザインは、日本の日常にも取り入れやすいものが多く、旅の記念に洋服やバッグ、靴などを購入するのも素敵です。
また、Aesop(イソップ)やGrown Alchemist(グロウン・アルケミスト)といった、今や世界的に有名な自然派コスメブランドもメルボルン発祥。洗練されたパッケージと、植物由来の心地よい香りの製品は、性別を問わず喜ばれるお土産の定番です。本店やコンセプトストアを訪れて、メルボルンが生んだ美意識の世界に触れてみるのも良い経験になるでしょう。



