ニューヨークの摩天楼、カリフォルニアの陽光、グランドキャニオンの雄大な自然。ビジネスや観光で世界中の人々を惹きつけてやまない国、アメリカ。しかし、その自由な空気の裏側には、日本とは全く異なる文化や法律が存在します。特に近年、日本人旅行者が最も注意すべきトピックの一つが「大麻(マリファナ)」です。かつては固く禁じられていたこの植物が、今や多くの州で合法化され、街角でその香りに気づくことも珍しくなくなりました。
「合法なら問題ないのでは?」そう考えるのは早計です。アメリカの大麻を巡るルールは、まるでパッチワークのように複雑怪奇。国の法律である「連邦法」と、州ごとの「州法」がねじれの位置にあり、合法の州もあれば、厳しく罰せられる州も存在するのです。この複雑さを理解しないまま、「郷に入っては郷に従え」と軽い気持ちで手を出してしまうと、楽しいはずの旅行が忘れられない悪夢に変わりかねません。それどころか、日本に帰国してから思わぬ法的トラブルに発展する可能性すらあります。
この記事では、世界中を飛び回るビジネスマンである私が、アメリカ出張や滞在の経験から得た知識を基に、旅行者が本当に知っておくべきアメリカの大麻事情を、ルール、背景、そして万が一の対処法まで、網羅的に解説していきます。安全で、そして知的なアメリカ旅行を楽しむために、ぜひ最後までお付き合いください。
アメリカの多様な文化を理解するには、映画や文学といった芸術作品に触れることも一つの方法であり、例えば映画『グリーンマイル』のロケ地巡礼から、アメリカの歴史や社会の一面を深く感じ取ることができるでしょう。
なぜ今、アメリカの大麻事情を知るべきなのか?

まず初めに、なぜこのテーマが現代のアメリカ旅行においてこれほど重要視されているのか、その背景から理解を深めていきましょう。単に「危険だから避けるべき」という話ではなく、その背後にある社会的な変容と、日本人旅行者が直面しうる特有のリスクを把握することが、最初のステップとなります。
広がり続ける合法化の潮流とその背景
アメリカにおける大麻の位置づけは、過去10年で著しい変化を遂げました。2012年にコロラド州とワシントン州が全米で初めて嗜好用大麻を合法化して以来、その動きは急速に全土へと広がりを見せています。
この変化の背景には、複数の要素が複雑に絡み合っています。
まず一つ目は、医療分野での効果が広く認められるようになった点です。慢性痛やてんかん、がん治療に伴う副作用の緩和など、多様な症状に対して大麻由来の成分が有効であると示す研究が相次ぎ、「医療用大麻」という選択肢が社会的に受け入れられるようになりました。
次に、経済的な側面も大きな原動力となっています。大麻を合法化し、管理された市場で流通させることで、大規模な税収を得ることが可能になります。カリフォルニア州では、合法化によって年間数十億ドル規模の新たな市場が形成され、その税収は公共サービスや教育、インフラ整備などに充てられています。違法市場で回っていた資金を合法経済に取り込むことにより、財政基盤が強化され、新たな雇用も生み出されるため、多くの州政府にとって非常に魅力的な手段となっているのです。
さらに、社会的公正の観点も重要な推進力となりました。過去の「ドラッグ戦争」においては、大麻関連の逮捕者がアフリカ系やヒスパニック系のマイノリティに偏っており、これが深刻な人種的不平等を生んでいました。合法化は、こうした人種差別的な処罰の不均衡を是正し、軽微な大麻所持で前科が付く悲劇を減らす手段として位置付けられているのです。
この流れの中で、「医療用」と「嗜好用(レクリエーショナル)」という二つのカテゴリーが区分されました。医療用は医師の処方箋が必要である一方、嗜好用は21歳以上であれば身分証明書の提示により誰でも購入可能です。この嗜好用の合法化こそが、旅行者にとって直接的な関わりを持つポイントとなっています。
日本人旅行者が直面するリスク
アメリカ国内で合法化が進む中でも、私たち日本人旅行者は非常に特殊な立場にあることを忘れてはなりません。その最大の理由が、日本の法律「大麻取締法」の存在です。
日本の大麻取締法には「国外犯規定」が含まれており、これは日本人が海外において大麻を所持、譲受(購入)、譲渡(販売)した場合、日本国内で犯罪を犯したのと同じく処罰される可能性があることを意味します。言い換えれば、たとえカリフォルニアの合法販売店でパスポートを提示して正規に購入したとしても、その行為自体が日本の法では罰せられるリスクをはらんでいるのです。
なお、「使用」行為自体は国外犯規定の直接的な対象ではありませんが、使用するためには「所持」や「譲受」が伴うため、実質的に海外での大麻使用も非常に高い法的リスクを抱える行為と言わざるを得ません。
さらに、法的リスクのみならず、知識不足によって意図しないトラブルに巻き込まれる事例も増加しています。たとえば、友人からのお土産として渡されたクッキーに大麻成分が含まれていたため、知らずに日本に持ち帰ろうとし税関で発覚したケース。あるいは、現地のパーティで勧められたグミを誤って口にし、急性中毒の症状を起こしたケースなどが挙げられます。アメリカでは大麻が日常に浸透しているため、日本では考えられない形で大麻製品に接する可能性があるのです。
これらのリスクを避けるためには、正確な情報が不可欠です。どの場所が安全で、どこが危険なのか。何が認められ、何が絶対に許されないのか。その境界線をこれから詳しく紐解いていきましょう。
連邦法 vs 州法:アメリカの複雑な二重構造
アメリカの大麻に関するルールを理解するうえで、最も重要なのは「連邦法」と「州法」という二つの法律が同時に存在しているという点です。この法律の二重構造が、問題を非常に複雑にしています。
連邦法では依然として違法
まず根本的なこととして、アメリカ合衆国の法律である「連邦法」では、大麻は依然違法な薬物と規定されています。具体的には、「規制物質法(Controlled Substances Act)」の中で、ヘロインやLSDと同じ「スケジュールI」という最も危険なクラスに分類されています。これは、乱用の危険性が高く医療的価値が認められていない物質を指します。
この連邦法が適用されるのは、連邦政府の管理下にある場所です。旅行者が特に関わる代表的な場所は以下の通りです。
- 空港: アメリカ国内のすべての空港敷地は連邦法の管轄下にあります。保安検査場(TSA)で大麻が見つかった場合、たとえその州で合法な分量であっても押収や州の法執行機関への通報が行われる可能性があります。
- 国立公園: ヨセミテやイエローストーンなどの国立公園は連邦政府の所有地です。ここでの大麻の所持や使用は、州法に関係なく連邦法違反となります。
- 連邦政府施設: 裁判所、郵便局、社会保障庁のオフィスなども連邦法が適用されます。
- 州を跨ぐ移動: 州境を越えて大麻を運ぶ行為は州際通商とみなされ連邦の管轄になります。たとえ合法州間の移動であっても犯罪になる恐れがあるため、特に注意が必要です。
つまり、「カリフォルニア州で合法的に購入した大麻を持って飛行機で同じく合法なネバダ州に向かう」という行為は、空港内の持ち込みと州を跨ぐ輸送の両面で連邦法違反となるリスクを含んでいるのです。
【旅行者が絶対守るべきこと】連邦法の管轄下での禁止事項
- 空港の敷地内に大麻を持ち込まないこと。
- 飛行機に搭乗する前に、手荷物や服のポケットに大麻製品が残っていないかを入念に確認すること。
- 国立公園や国定記念物、連邦政府の施設を訪れる際には、大麻を持ち込まないこと。
- 車で移動する際も、大麻を所持したまま州を跨いで移動しないこと。
州ごとに異なる「州法」の現状
連邦法では違法とされているにもかかわらず、多くの州で大麻が合法化されているのはなぜでしょうか。これはアメリカの成り立ちに起因しています。各州には強固な自治権があり、州内の事柄については独自の法律を制定できます。
現在、連邦政府は各州の大麻に関する州法を特定の条件下で黙認する姿勢をとっています。しかし、これはあくまで政治的な判断によるものであり、連邦法そのものは変更されていないことを常に認識しておく必要があります。
このため、アメリカ国内の状況は州ごとに大きく4つのカテゴリーに分かれています。
- 嗜好用・医療用ともに合法な州: カリフォルニア、ニューヨーク、コロラド、ワシントン、ネバダ、マサチューセッツなど、多数の州が該当します。21歳以上の成人は規定の範囲内で嗜好用大麻の購入・所持・使用が認められています。
- 医療用のみ合法な州: フロリダ、ペンシルベニア、アーカンソーなどでは、特定の疾患を持つ患者が医師の推薦を受け州のプログラムに登録した場合にのみ医療用大麻が使用可能です。観光客による利用は基本的に認められていません。
- CBDオイルなど特定成分のみ合法な州: 精神活性作用のない大麻成分「CBD(カンナビジオール)」を含む製品のみを限定的に認めている州があります。
- 完全に違法な州: アイダホ、カンザス、サウスカロライナなど、一部の州では医療用・嗜好用を問わずすべての形態の大麻が違法とされています。
このように州によってルールは大きく異なります。西海岸や北東部の州では合法化が進んでいる一方で、南部や中西部の保守的な州ではいまだに厳しい規制が敷かれています。旅行を計画する際は、訪問予定の州がどのカテゴリーに属するか事前に必ず確認しましょう。信頼できる情報源として、DISAが提供している州別大麻合法性マップのようなウェブサイトを活用すると、最新の情報を視覚的に確認できて便利です。
【州別ガイド】主要観光地のマリファナルールを徹底解説

それでは、日本人旅行者がよく訪れる主要な州を例に挙げ、より具体的な規則を詳しく見ていきましょう。ただし、法律は常に変わる可能性があるため、渡航直前には必ず最新の公式情報を確認することをおすすめします。
カリフォルニア州
ロサンゼルスやサンフランシスコを含むカリフォルニア州は、世界でも最大規模の大麻市場の一つです。ルールが比較的整備されており、旅行者もその文化に触れる機会が多いでしょう。
- 購入・所持に関する規定: 21歳以上であれば、嗜好用の大麻を購入および所持が可能です。所持できる上限は乾燥大麻で28.5グラム(約1オンス)、濃縮物では8グラムまでと定められています。
- 使用可能な場所: 基本的に大麻の使用は「私有地」に限定されます。自宅や、使用を許可している知人宅などが該当します。宿泊施設については注意が必要で、多くのホテルやAirbnbでは敷地内での喫煙(タバコ含む)が禁止されており、大麻も例外ではありません。違反すると高額な清掃費用を請求されることがあります。
- 使用禁止の場所: 公共の場での使用は一切認められていません。公園、路上、ビーチ、レストランのテラス席など、不特定多数が集まる場所での使用は不可です。また、車内での使用も厳禁です。運転時でなくとも、火がついた大麻製品を車内に持ち込むだけで違法となります。さらに、連邦法の管轄下にある国立公園や、学校、保育施設、青少年センターから1,000フィート(約300メートル)以内での使用も禁止されています。
【実践ガイド】カリフォルニアでの大麻購入方法
カリフォルニア州で大麻を購入するには、「ディスペンサリー」と呼ばれる正式な販売店を訪れます。店舗の看板は様々ですが、緑の十字マークが目印になることが多いです。
- 用意するもの: 年齢が21歳以上であることを証明できる、写真付きの身分証明書が必要です。日本人旅行者の場合は原本のパスポートを持参してください。コピーや写真はほとんどの店で認められません。
- 購入までの流れ:
- 入店時にIDチェックが行われます。警備員にパスポートを提示して年齢確認を受けます。
- 店内には多種多様な製品が並んでおり、「バドテンダー」と呼ばれる専門知識を持つスタッフが対応します。
- リラックスしたい、気分を高めたいなど希望する効果や、吸引タイプや食用タイプなど好みの製品について伝えると、適した商品をお勧めしてくれます。
- 商品を決定したらレジで会計します。多くの店舗では連邦の銀行規制の影響でクレジットカードが使えず、現金またはデビットカードでの支払いとなります。店内にATMが設置されていることもあります。
ニューヨーク州
2021年に嗜好用大麻を合法化したニューヨーク州は、新しい市場ですが独特のルールが特徴的です。
- 購入・所持に関する規定: 21歳以上の人が対象で、乾燥大麻の最大所持量は3オンス(約85グラム)、濃縮物は最大24グラムまで認められています。カリフォルニアに比べ所持上限がやや高いのが特徴です。
- 使用に関するルール: ニューヨーク州の特徴は「タバコの喫煙が許可されている場所であれば、基本的に大麻も使用可能」という点です。そのため、路上や公園の一部で他州では禁止されている場所でも使用できる場合があります。ただし、学校や病院の周辺、レストランの屋外席など、自治体ごとに使用禁止エリアが設定されているケースも多いため、注意が必要です。特に観光のメッカであるタイムズスクエア周辺は厳しい取り締まりが行われる可能性があります。
- 販売店の状況: 合法化から日が浅いこともあり、正式なディスペンサリーの数はまだ限られています。一方で、ライセンスを持たない非合法店も多いため、州の公式ライセンスを持った店舗で購入することが重要です。
ネバダ州(ラスベガス)
エンターテイメントの聖地ラスベガスを擁するネバダ州も嗜好用大麻が認められていますが、観光地ならではの厳しいルールが存在します。
- 最大の落とし穴「ホテル内」: ラスベガスの大規模な統合型リゾート(カジノホテル)のほとんどは、敷地内での大麻使用を厳格に禁止しています。これはカジノが連邦政府から厳しい規制を受けているためで、客室はもちろん、バルコニーやカジノエリア、プールサイドまでも禁止区域です。違反すればホテルから退去を命じられる可能性があります。
- 使用許可場所: カリフォルニア同様、基本的に私有地でのみ使用可能です。ラスベガス・ストリップやフリーモント・ストリート・エクスペリエンスといった公道、公園、駐車場などでの使用は一切違法となります。
- 新しい選択肢「消費ラウンジ」: この制約を解消するため、ネバダ州では「消費ラウンジ」と呼ばれる施設の設置が認められ始めています。これはディスペンサリーに併設されたりしており、合法的に大麻を購入し、その場で使用できる場所です。旅行者にとっては、安全に利用できる貴重なスポットとなっています。
違法州での注意事項
アメリカは広大な国土を持つため、合法州から車で少し移動しただけで、大麻に関して極めて厳しい規制を敷く州に入ることがあります。たとえば、カリフォルニア州の隣のアリゾナ州は合法ですが、その先にあるテキサス州は、医療用一部を除いてほぼ全面的に禁止されています。テキサス州では少量の大麻所持でも逮捕され、深刻な法的トラブルに発展する危険が高いです。
繰り返しになりますが、大麻を所持したまま州境を越えることは、たとえ合法州間の移動であっても連邦法違反のリスクが伴い非常に危険です。絶対に避けるようにしてください。
旅行者が知っておくべき実践的知識と行動
州ごとの規則を把握したうえで、次は具体的な行動レベルの知識を身につけましょう。これは安全を守るうえで非常に重要なポイントです。
「ディスペンサリー」とは?安全に購入するための方法
ディスペンサリーとは、州から正式なライセンスを受けて大麻を販売する合法の店舗を指します。違法な売人から買う場合とは異なり、品質や安全性が保証されています。
- 正規店舗の見分け方: 店舗は明るく清潔で、入り口に必ずライセンス番号が掲示されています。また、厳密な身分証明書のチェックを実施していることも特徴です。路上で声をかけてくる販売者や、信頼できないデリバリーサービスはほぼ間違いなく違法です。たとえ価格が安くても、決して手を出さないようにしましょう。
- 店内の雰囲気: 店内は、高級ブティックや薬局のように整えられており、ガラスケースには多様な製品が並んでいます。知識豊富なバドテンダーが丁寧に接客してくれ、質問に親身に答えてくれます。初心者でも恥ずかしがらずに気軽に相談してください。
- 持ち物・準備するもの:
- 21歳以上を証明するためのパスポート原本
- 現金またはデビットカード(多くの店舗でクレジットカードは利用不可)
- 事前にその州の所持制限量を調べておくことをおすすめします
大麻製品のタイプと選び方
ディスペンサリーで扱われる大麻製品は多種多様です。代表的な製品を知っておくと、自分に合ったものを選びやすくなります。
- フラワー(Flower): 乾燥させた大麻の蕾(つぼみ)部分で、最も伝統的な形態です。パイプや手巻きタバコで吸引し、比較的早く効果があらわれます。ただし煙や匂いが強く、喫煙できる場所に制限があります。
- エディブル(Edibles): 大麻成分を含んだ食品類で、グミやチョコレート、クッキー、飲料など様々な種類があります。煙が出ないので手軽ですが、効果が出るまでに30分から2時間かかる点が特徴です。効果を感じないからと追加摂取すると、後から強い作用が起こりやすく、過剰摂取の危険があります。初心者はTHC含有量5mg以下の製品を、パッケージ表示の一食分の半分程度から試し、最低2時間以上様子を見ることが重要です。
- ベイプ(Vape Pens): 大麻抽出液をカートリッジに充填し、専用のバッテリーで加熱して蒸気を吸引する製品です。煙ではなく蒸気なので匂いが少なく、手軽に使えるのが特徴です。ただし品質の良くない製品もあるため、必ず正規店での購入を心がけてください。
- コンセントレート(Concentrates): ワックスやシャッターと呼ばれる、THCを非常に高濃度に抽出した製品です。効果が極めて強力なため、経験豊富な上級者向けであり、旅行者は安易に手を出すべきではありません。
旅行中に絶対守るべき大麻に関する禁止事項
アメリカ旅行での大麻に関わる禁止事項を再度確認しましょう。これらはあなたの旅と人生の安全を守るための厳守すべきルールです。
- 日本への持ち込みは厳禁: 少量であっても、THCを含む大麻製品(お土産のクッキーやCBDオイルなど)を日本に持ち帰ることは大麻取締法違反(輸入罪)にあたり、非常に重い処罰が科せられます。絶対に持ち込まないでください。
- 州をまたいでの持ち運び禁止: 自動車、バス、電車、飛行機など、どの交通手段であっても大麻を所持して州境を超えることは連邦法違反となります。
- 運転中の使用および影響下での運転の禁止(DUI): アルコールの飲酒運転と同じく、大麻の影響下での運転は厳しく罰せられます。事故を起こせば、人生を大きく狂わせる結果になる可能性があります。
- 未成年者への譲渡禁止: 21歳未満の方に大麻を渡すことは重罪に該当します。
- 公共の場での使用禁止: ニューヨーク州など一部の例外を除き、ほとんどの州で公共の場における大麻使用は違法です。周囲の人々への配慮が欠けた行為は厳しい社会的批判や法的処分の対象となります。
- 連邦管轄地での所持・使用禁止: 空港、国立公園、政府関連施設は州法に関係なく常に違法エリアです。
もしトラブルに巻き込まれたら?

細心の注意を払っていても、予期せぬトラブルに遭遇する可能性は完全には排除できません。万が一の事態に備えて、適切な対処法を知っておくことが非常に大切です。慌てず、落ち着いて行動しましょう。
体調が悪化した場合(過剰摂取など)
特にエディブルを摂取した際に起こりやすいのが、過剰摂取によるパニック、不安、吐き気、めまいなどの症状です。これらは「バッドトリップ」とも呼ばれます。
- まずは落ち着くこと: これらの症状は一過性であり、生命にかかわるものではないと自分自身に言い聞かせましょう。パニック状態が症状を悪化させる原因になります。
- 安全な場所で休む: 静かで安心できる環境に移動し、横になって安静にしてください。可能であれば、信頼できる友人のそばにいてもらいましょう。
- 水分をしっかり補給する: 水をゆっくり飲み、脱水を防ぎます。糖分を含むジュースは気分を安定させる効果も期待できます。
- 症状が深刻な場合は救急を要請する: 呼吸困難や激しい胸の痛み、意識がぼんやりするなど重篤な症状が現れたら、ためらわずに「911」をコールして救急車を呼んでください。その際、「大麻を摂取した」と正直にオペレーターや救急隊員に伝えることが重要です。彼らの目的は治療であり、警察への通報ではありません。正確な情報提供が適切な処置につながります。
法的トラブルに巻き込まれた場合
職務質問を受けたり、何らかの容疑で警察に拘留されたりした際の対応方法です。
- 黙秘権を活用する: アメリカ合衆国憲法修正第5条により、あなたには黙秘権があります。「I would like to remain silent.」と明確に伝え、不利な発言を避けましょう。
- 弁護士の同席を求める: 「I want a lawyer.」と申し出て、弁護士が到着するまでは質問に答えない姿勢を維持してください。
- 在米日本国総領事館に連絡する権利を行使する: 逮捕や拘束を受けた場合、日本の領事館へ連絡する権利があります。警察官にその旨を伝えましょう。領事館は弁護士のリスト提供や家族への連絡支援を行いますが、代理交渉や保釈金・弁護士費用の支払いは行いません。それでも、海外での法的トラブル時には頼りになる存在です。渡航前に、滞在予定地域を管轄する日本国総領事館の連絡先を控えておきましょう。
意図せず大麻を摂取した場合
パーティなどで、見た目からは判別しにくいエディブル(ブラウニーやクッキーなど)を誤って口にしてしまうことも考えられます。
- 落ち着いて状況を確認する: 体に異変を感じたら、まずその食べ物を提供した人に何が含まれているかを素直に尋ねましょう。
- 無理をしないこと: 車の運転は絶対に避け、その日はホテルなど安全な場所で安静に過ごしてください。
- 体調の変化へ注意を払う: 体調が悪化した場合は、上記「体調が悪くなった場合」の対処法を参考にし、必要に応じて医療機関へ相談することを検討してください。
日本の法律「大麻取締法」との関係を再確認
アメリカでのルールや対応方法を学びましたが、最後に、そして何より大切なこととして、日本の法律との関係性を改めてしっかりと認識する必要があります。
国外犯規定という大きな壁
既に何度か触れておりますが、日本の大麻取締法には「国外犯規定」という規定があります。具体的には、第24条の8において、日本国外で大麻を不当に所持したり譲り受けたり、または譲り渡した者に対して、日本国内と同様の刑罰(懲役刑等)を科すことができると定められています。
これは、あなたがアメリカのどの州に滞在していようと、日本国籍保持者であれば適用される法律です。現地のディスペンサリーが合法的に営業している店舗であったとしても、そこで大麻を購入する行為は、日本の法律上の「譲り受け」に該当する可能性が非常に高いのです。
「バレなければ問題ない」という考えは非常に危険です。SNSでの投稿や他者との会話など、どの経路で情報が外部に漏れるかわかりません。軽率な行動が、あなたの社会的信用や将来のキャリアを根底から失わせるリスクを常に念頭に置いてください。
帰国時の注意点
アメリカでの滞在中に大麻を使用していなくても、日本に帰国する際に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
- お土産によるリスク: 現地で親しくなった方から「お土産」として渡されたものに大麻製品が混入しているかもしれません。パッケージに麻の葉のデザインがあったり、「THC」や「Cannabis」といった表記がある場合は、絶対に受け取ったり持ち帰ったりしないでください。日本の税関は世界屈指の厳しさを誇り、麻薬探知犬や高度な検査装置によって、極めて微量の証拠でも見逃されることはありません。
- CBD製品に関する注意: 精神作用がないCBD製品は日本でも合法的に販売されています。ただし、アメリカで売られているCBD製品には日本の基準を上回るごく微量のTHCが含まれているケースが少なくありません。THCが一切含まれていない(THCフリー)ことが証明できない限り、安易に日本への持ち込みは非常にリスクが高いです。成分分析証明書(COA)が添付された信頼性の高い製品以外は、持ち帰ることを避けるべきでしょう。
責任ある旅行者としてのアプローチ

これまでに、アメリカにおける大麻の規制やリスクについて詳しく説明してきました。合法化の背景には、医療目的、経済的要因、社会正義といった複雑な事情が絡んでおり、アメリカ社会が大きな変革の只中にあることをお伝えできたかと思います。
合法化された州では、大麻はアルコール同様、個人の責任のもとで管理・使用される嗜好品として認識されています。そこには、酩酊によって他人に迷惑をかけないことや、影響下で危険な行動をしないといった、社会の一員として守るべき暗黙のルールが存在しています。
私たち日本人旅行者は、その土地のルールや文化を尊重するだけでなく、自国の法律も遵守するという二重の責務を負っています。興味本位や開放感に流されるのではなく、まずは正確な情報を収集し、リスクを理解したうえで慎重に判断することが何より重要です。合法化された地域の雰囲気を体験することは、現代のアメリカ文化を知るうえで興味深いことかもしれませんが、その一線を越えるかどうかは、自身の未来に大きく影響する重要な決断と言えるでしょう。
この知識が、あなたのアメリカ旅行をより安全で充実したものにする助けとなれば幸いです。現地の法律を尊重し、同時に日本の法律を守るという基本を心に留めて、素敵な旅をお楽しみください。

