「アラビア・フェリクス(幸福のアラビア)」
かつて古代ローマ人たちがそう呼んだ地、イエメン。摩天楼のようにそびえ立つ泥煉瓦の建築群、乳香の香りが漂う迷宮のようなスーク(市場)、そして何よりも、誇り高くホスピタリティに溢れる人々。その魅力は、一度訪れた者の心を捉えて離さない、不思議な力に満ちています。私もまた、そんなイエメンの奥深い文化と歴史に魅了された旅人の一人です。
この国の日常を語る上で欠かせないのが、人々の生活に深く根付いた「煙」をめぐる文化。午後のひととき、街角のカフェから立ち上る水タバコの甘い香り。男たちが頬を膨らませ、陽気に語らう「カート・パーティー」の光景。そこには、彼らのコミュニケーション、伝統、そして社会のありようが凝縮されています。
この記事では、そんなイエメンの独特な喫煙文化、特に噛む嗜好品「カート」や水タバコ(マダーア)の世界を、旅人の視点から深く掘り下げていきます。しかし、その前に極めて重要なことをお伝えしなければなりません。現在、イエメンは深刻な紛争下にあり、日本の外務省は全土に危険情報レベル4「退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)」を発出しています。これは最も高い警戒レベルであり、いかなる目的であれ、現在のイエメンへの渡航は絶対にできません。本記事は、あくまでイエメンの豊かな文化を理解し、遠い地へと思いを馳せるための読み物であり、決して渡航を推奨するものではないことを、どうかご理解ください。いつの日か、この地に平和が戻り、誰もが安心してその文化に触れられる日が来ることを心から願いながら、ペンを進めたいと思います。
なお、中東地域への渡航を検討される際には、事前の健康対策が不可欠です。例えば、イラクへの旅行では医療事情を把握しておくことが重要です。
はじめに:神秘の国イエメンと煙の文化

旅人の心を捉えるイエメンの原風景
イエメンと聞いて、どのような光景を思い浮かべるでしょうか。世界遺産に登録されている首都サナアの旧市街は、まるで童話の世界から飛び出してきたかのような趣があります。美しい幾何学模様の漆喰(スタッコ)で飾られた窓を持つ赤褐色の塔状の家々が密集し、空へと伸びています。その狭い路地を歩けば、スパイスやコーヒー、焼きたてのパンの香りが混ざり合い、銀細工を打つ職人の槌音や子どもたちの賑やかな声が響き渡ります。
南部のハドラマウト地方へ足を伸ばせば、岩山の上に壮麗にそびえる城塞都市シバームの絶景が目の前に広がります。数百年前の泥煉瓦で築かれた高層建築群は「砂漠のマンハッタン」とも呼ばれ、夕陽に染まるその姿は息をのむほど美しいものです。地元の人々の暮らしぶりも、旅人には新鮮な驚きをもたらします。男性はジャンビーヤと呼ばれる半月形の短刀を腰に携え、女性は黒いアバヤで全身を包んでいますが、その内側には鮮やかなドレスを着ており、心を開けば驚くほど親切で温かな笑顔が返ってきます。
このような独特の景観と文化は、イエメンがアラビア半島の他の国々とは異なる、独自の歴史を歩んできた証です。古代にはシバの女王が支配した国として栄え、香料貿易の拠点として繁栄しました。その記憶は今も国内のいたるところで息づいています。そして、地元の人々の生活リズムや日々の交流の中心には、これから紹介する「カート」や水タバコなどの煙の文化が深く、複雑に絡み合っているのです。
【最重要】現在のイエメンへの渡航について
冒頭でも触れましたが、改めて強調いたします。この記事で紹介しているイエメンの魅力的な風景や文化は、現在、深刻な人道的危機と紛争の最中にある現状とは切り離して考える必要があります。日本の外務省はイエメン全土に対し、危険情報「レベル4:退避を勧告。渡航は中止してください。」を発出しています。これはいかなる理由でも渡航してはならない、最も厳しい警告です。
現地では戦闘や空爆、テロや誘拐が頻発しており、外国人を含む民間人が巻き込まれる事件が絶えません。食料や医薬品も不足し、多くの人々が過酷な生活を強いられています。こうした状況では、個人の安全を確保することはほぼ不可能です。
したがって、この記事はかつての平和な時期の記憶や資料をもとに、イエメンの文化的側面を紹介するものであり、現在の渡航を推奨するものではありません。むしろ、この情報を通じてイエメンが直面する厳しい現実に関心を持っていただき、一日も早い和平の実現を共に願う一助となれば幸いです。安全な情報の収集方法や、日本からできる支援については記事の後半で詳しく解説していきます。
イエメンの日常に溶け込む「カート」とは
イエメンの社会や文化について語る際に避けて通れないのが、「カート(Qat, Khat)」の存在です。これは喫煙とは異なるものですが、タバコ以上に国民の生活に深く根付いた嗜好品であり、その消費は一種の儀式として社会全体に浸透しています。午後になると、多くの男性が頬の片側をリスのように膨らませている様子を見かけますが、それこそがカートを噛んでいる姿なのです。
噛む嗜好品?覚醒効果を持つカート
カートはニシキギ科に属する常緑樹の若葉で、学名は「Catha edulis」といいます。この葉を噛むと、カチノン(Cathinone)というアンフェタミンに似た物質が抽出され、軽い興奮、覚醒、多幸感をもたらします。使用者の話では、気分が高まり会話が弾み、集中力が増す効果があると伝えられています。
消費方法も特徴的です。新鮮な若葉を口に入れ、奥歯でゆっくりと噛み続けます。葉を飲み込むのではなく、噛み砕かれた葉の塊を頬の内側に溜め込み、そこから抽出されるエキスを唾液と一緒にじっくりと吸収するのです。この行為を数時間にわたって行うため、頬が大きく膨らんだ独特の表情が生まれます。イエメンの男性にとって、午後のカートを噛む時間は、仕事の疲れを癒し、仲間と語らう欠かせないひとときなのです。
カートの由来と社会的意義
カートの歴史は古く、その起源はエチオピアにあると考えられていますが、数百年前にイエメンに伝わって以来、独自の文化として発展しました。かつては宗教的な儀式や限られた階層の人々の間で嗜まれていましたが、時を経て一般庶民にも広がりました。特に、南北に分かれていたイエメンが1990年に統一されてからは消費量が急増したとされています。現在では、結婚式や祝祭、商談、友人の集まりなど、あらゆる社交の場でカートが重要な役割を果たしています。カートを共に噛むことは、信頼関係の構築や円滑なコミュニケーションを促す重要な社会儀礼として機能しているのです。
カートを楽しむ光景—「カート・パーティー」
イエメンの午後の風物詩と言えるのが、「タフジーン(Takhzeen)」と呼ばれるカート・パーティーです。男性たちは友人や同僚の家に集い、マフラージと呼ばれる客間の絨毯に車座で座ります。部屋の中央には水タバコが置かれ、甘いお茶や水が提供されます。各自が持ち寄ったカートの束から良質な葉を選び取り、ゆっくりと噛み始めます。
最初は静かだった部屋も、カートの効果が現れ始めると次第に活気づきます。政治や経済、仕事や家族の話題などで盛り上がり、普段は寡黙な人も饒舌になり議論は白熱します。時には詩の朗読や歌が始まることもあり、この時間は情報交換や社会的ネットワークの維持・強化に欠かせない場となっています。外国人旅行者が招かれることもあり、それは最高の歓迎の証とされていますが、現状ではそのような機会はほとんどありません。
旅行者がカートに接する際の注意点
将来的にイエメンに平和が戻り渡航が可能になれば、カートに触れる機会もあるかもしれません。その際に心得ておくべき重要なポイントがあります。
法的側面と健康への注意
まず最も重要なのは、カートに含まれるカチノンやカチンは日本では「麻薬及び向精神薬取締法」により麻薬原料植物および麻薬に指定されていることです。そのためカートを日本に持ち込むことは厳しく禁じられており、違反すれば厳罰が科されます。 この規則は絶対に守らなければなりません。お土産として持ち帰るなど考えることは到底許されません。
現地では合法の嗜好品ですが、健康への影響も指摘されています。不眠、食欲不振、胃腸障害、心臓への負担などの報告があり、さらにカートの栽培には大量の農薬が使用されるため、その残留農薬による健康リスクも懸念されています。勧められても簡単に試すのは慎重になるべきで、特に自分の体質に合うか不明なものを摂取することはリスクを伴います。
経済面や社会的影響
カートはイエメン社会に深刻な問題ももたらしています。特に水資源の問題が顕著です。イエメンは世界でも最も深刻な水不足の国の一つですが、カートの栽培は大量の水を必要とします。貴重な水や農地が食料生産に使われるべきところをカート栽培に割かれることで、食料安全保障の懸念が増しています。また、多くの家庭が収入のかなりの部分をカート購入に充て、家計の負担となっています。午後の数時間をカートに費やすことが国の生産性低下にもつながっているという指摘も根強く、カートは文化的な意味合いだけでなく、社会経済的課題とも密接に結びついているのです。
水タバコ(マダーア/シーシャ)の芳醇な世界

カートとともに、イエメンの人々のくつろぎの時間を彩るのが水タバコです。日本では「シーシャ」として知られていますが、イエメンでは伝統的なスタイルの「マダーア」も広く親しまれています。カフェの軒先や家庭の客間で、人々が水パイプを囲み、ゆったりと煙を楽しむ光景は中東全域に見られる文化ですが、イエメンには独特の風情と様式があります。
イエメン流・水タバコの楽しみ方
イエメンの街を歩くと、オープンエアのカフェからフルーツやスパイスをブレンドした甘く濃厚な香りが漂ってくることがあります。それが水タバコの香りです。人々はチャイ(紅茶)を片手に友人たちと語らい、何時間もかけてゆっくりと水タバコを味わいます。カートの集まりに水タバコが持ち込まれることも多く、カートの興奮と水タバコのリラックス感が合わさって、独特の空気感を生み出しています。
「マダーア」と「シーシャ」の違い
一般的に「シーシャ」と呼ばれる水タバコは、ガラスのボトルに長いホースが取り付けられており、フレーバー付きのタバコの葉(ムアッセル)を炭で熱して、その煙を水で冷やして吸います。リンゴやミント、レモン、ブドウなど、多彩なフレーバーが楽しめるのが特徴です。
これに対し、イエメンで伝統的とされるのが「マダーア(Mada’a)」です。マダーアはシーシャよりも器具が小さくシンプルで、特徴的なのはタバコの葉に直接火をつける点にあります。非常に強烈なタバコが用いられ、その煙は強く、吸い込むとクラッとするほど強いニコチンを感じます。そのため、一度に吸う量はわずかで、多くの場合回し吸いがされています。フレーバー付きのシーシャが若者や女性にも好まれるのに対し、マダーアは年配の男性に人気が高い傾向があります。
カフェで味わうくつろぎのひととき
もし将来、安全にイエメンを訪れることが叶えば、現地のカフェで水タバコを体験するのは、その文化を直接肌で感じる貴重な機会となるでしょう。注文はシンプルで、お店のスタッフに「シーシャ」か「マダーア」と伝え、シーシャの場合は好みのフレーバーを選びます。しばらくすると、炭のセットされた水パイプが運ばれてきます。
吸い方には少しコツがあり、深くゆったりと吸うのが基本です。煙が十分にたまったら、ゆっくりと吐き出します。炭の火力が弱まったら、お店の人に頼んで新しい炭に交換してもらえます。一つの水タバコを複数人で共有するのが一般的で、その際は吸い口を取り替えるか、自分専用のマウスピースを持参すると衛生的です。料金は店によって異なりますが、比較的手頃な価格で楽しめます。
女性と水タバコ文化
保守的なイスラム社会であるイエメンでは、女性が公の場で喫煙したり水タバコを吸ったりすることはほとんどありません。男性が集うオープンカフェは基本的に男性専用の空間です。しかし、これは女性が水タバコを全く楽しまないというわけではありません。
女性たちは家庭内や、女性専用の集まり、結婚式などプライベートな場で水タバコを嗜みます。近年では都市部を中心に女性客向けや家族向けに個室を設けたカフェも現れ、女性たちが気兼ねなく友人と水タバコやおしゃべりを楽しめる場となっています。アパレル企業で働く私にとって、そういった女性たちのプライベートでのファッションやコミュニケーションのスタイルには特に興味が湧きます。黒いアバヤの下に隠された、彼女たちの個性的で洗練された一面を垣間見ることができるのです。
紙巻きタバコ事情とイエメンの禁煙政策
カートや水タバコといった伝統的な嗜好品が根強く愛用されている一方で、もちろん紙巻きタバコの喫煙者も少なくありません。ただし、その位置づけはカートや水タバコとはやや異なっています。ここでは、イエメンにおける紙巻きタバコの現状と、国際的な流れに沿った禁煙政策について詳しく見ていきましょう。
市場に出回るタバコの種類と価格帯
イエメンの市場では、世界的に知られるブランドのタバコから、近隣諸国で作られるリーズナブルなタバコまで、多種多様な製品が流通しています。価格は日本と比べてかなり手頃ですが、国民の所得水準を考慮すると決して軽い出費ではありません。スークの小規模なたばこ店やキオスクで気軽に購入できます。一方で、紛争による経済的混乱が、輸入に頼るタバコの価格や流通状況に影響を及ぼしていると考えられます。
WHOが示すイエメンの喫煙規制状況
イエメンも、世界の多くの国々と同様に、世界保健機関(WHO)が掲げる「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」に批准しています。これに基づき、国内でのたばこ消費抑制を目的とした法律が整備されています。WHOの報告によると、イエメンはタバコの広告や販売促進、後援活動を包括的に禁止する法規制を導入し、公共の場所における喫煙も制限する措置を取っています。詳細はWHOのイエメンに関するレポートをご覧ください。
公共施設における喫煙ルール
法律では、イエメン内の医療機関や教育機関、政府機関の建物など、多数の屋内公共施設で喫煙が禁止されています。ただし、その運用状況には地域差や状況ごとのばらつきがあるのが現状です。特に地方や規制が比較的緩いカフェやレストランでは、たばこを吸っている人の姿がよく見られます。旅行者は、禁煙表示がある場所では必ず喫煙を控え、表示がない場合でも周囲の人々、特に女性や子どもへの配慮を持って喫煙を控えるのが望ましいマナーといえます。
広告と販売に関する規制措置
テレビやラジオ、新聞などの主要メディアにおけるたばこの広告は法的に禁止されています。また、たばこパッケージには健康警告の表示が義務づけられています。ただし、紛争中の現状を踏まえると、これらの規制がどの程度厳密に実施されているかは明確でない部分もあります。それでも国として国民の健康保護のための取り組みを進めている点は確かです。
旅行者として知っておくべきルールとマナー
繰り返しになりますが、これは将来イエメンへの安全な渡航が可能になった際の心構えとしての情報です。イスラム文化圏を訪れる際には、喫煙にまつわるマナーやルールを理解しておくことが、不要なトラブルを避け、現地の人々との良好な関係を築く上で非常に重要となります。特に女性旅行者は、周囲の目を意識した行動が求められます。
喫煙可能な場所と禁煙とされる場所
基本的には、屋外や喫煙が認められているカフェやレストランの喫煙エリアなどで喫煙しても問題はありません。しかし、モスク(イスラム教の礼拝所)やその周辺、政府機関、病院、学校など公共性の高い場所およびその敷地内では喫煙を控えるべきです。また、人の家に招かれた場合、家主が喫煙者でない限り室内での喫煙は失礼にあたります。必ず一言了承を得るか、屋外に出て喫煙するようにしましょう。現地の信仰や生活様式に敬意を払う姿勢が不可欠です。
ラマダン(断食月)期間中の喫煙について
イスラム教の信者が日の出から日没まで断食を行うラマダン期間中は、特に注意が必要です。この期間中、公共の場での日中の飲食はもちろん、喫煙も厳しく禁止されています。断食している人の目の前での喫煙は非常に無礼であり、挑発的な行動と捉えられる恐れがあります。旅行者であってもこのルールは厳守してください。喫煙は、日没後に人々が食事や飲み物を再開してから、目立たない場所で行うように気をつけましょう。ラマダンの時期は毎年変動するため、渡航前に必ず確認することが必要です。
女性旅行者の喫煙に関する留意点
アパレル業界に携わる中で多くの女性のライフスタイルを見てきましたが、イエメンのような保守的な社会では、女性が公共の場で喫煙することに対して非常に厳しい視線が向けられます。不品行や品位を欠く行動とされ、好奇の眼差しや時には望まない声かけの原因となることも少なくありません。安全面からも、女性旅行者が公の場所で堂々と喫煙することは推奨できません。
喫煙をしたい場合は、ホテルの客室やレストランの個室、人目につかないプライベートな空間を利用することをお勧めします。現地の文化を尊重し、控えめに行動することが自分の身を守ることにもつながります。窮屈に感じられるかもしれませんが、異文化の地を訪れる際の重要なマナーのひとつです。
タバコの持ち込み・持ち出しに関して
将来的にイエメンへ渡航できるようになった際には、多くの国と同様にタバコの持ち込みに関して免税範囲が設定されています。一般的に紙巻たばこであれば200本(1カートン)程度までが免税対象ですが、この規定は変わることがあるため、渡航を計画する際には必ず最新の公式情報を確認してください。電子タバコや加熱式たばこについては、その持ち込みが認められているか法的な扱いがどうなっているかを、事前に大使館などで確認することが欠かせません。国によっては持ち込み自体が禁止されている場合もありますので、安易な持ち込みは思わぬトラブルを招く恐れがあります。
【重要】安全な情報収集と文化理解のために私たちができること
ここまでイエメンの喫煙文化について詳しくご紹介してきましたが、締めくくりとして最も重要な点をお伝えします。それは、紛争により深く傷ついたイエメンの現状を正確に理解し、遠く離れた日本にいながらも私たちにできる行動を起こすことです。現地に足を運べない今だからこそ、私たちにできることがあるのです。
外務省「海外安全ホームページ」の活用
まず基本として、外務省の「海外安全ホームページ」を定期的にチェックする習慣を身につけましょう。ここには、イエメンをはじめ世界各国の最新の危険情報や安全対策が掲載されています。イエメンの情勢の変化や渡航の可否について、常に公式かつ一次的な情報源で確認することが不可欠です。友人や知人の「問題なかった」といった非公式な話をそのまま信じるのは避けてください。安全は何よりも優先すべきものです。
イエメンの文化に触れるドキュメンタリーや書籍
現地に行けなくても、イエメンの豊かな文化や歴史に触れる方法は数多くあります。優れたドキュメンタリー映像や写真集、歴史書や旅行記は、私たちをイエメンの地へと案内してくれます。例えば、サナア旧市街の世界遺産にも登録された美しい建築様式を紹介した書籍を手に取ったり、イエメン伝統の音楽を聴いたりすることも良い方法です。こうした文化の探求は、ニュースで伝えられる「紛争地」というイメージのその向こうにある、人々の暮らしや本来のイエメンの姿を理解する助けになります。表面的な情報に留まらず、その国の心とも言える文化に触れることこそが、真の異文化理解の第一歩です。
人道支援と現状理解の重要性
現在、イエメンは「世界で最も深刻な人道危機」のひとつに直面しているとされています。多くの人々が食料不足や医療機能の崩壊に苦しみ、とりわけ子どもたちは深刻な栄養失調に陥っています。この厳しい現実に目を背けることなく、何が起こっているのかを理解することも私たちの重要な役割です。国連世界食糧計画(WFP)やユニセフ、国境なき医師団などの国際機関やNGOが現地で献身的に支援活動を続けています。彼らの公式ウェブサイトを訪れて活動内容を知り、可能な範囲で寄付をすることも具体的な支援のひとつとなります。国連WFPのイエメン緊急支援ページでは、現地の状況や必要な支援について詳しく知ることができます。少額でも寄付の思いは必ず現地の人々の助けとなるでしょう。
日本国内でイエメンの文化に触れる機会
日本国内にも、数は多くないもののイエメン文化に触れられる場があります。例えば、イエメン料理を提供しているレストランを訪れてみるのも一案です。スパイシーな煮込み料理「サルタ」や石窯で焼き上げる「マルージュ」など、イエメンの食文化は非常に奥深く魅力的です。また、大使館が主催する文化イベントや、NGOが開催する現地報告会などに参加することで、イエメンの現状や文化をより深く知ることができるかもしれません。情報にアンテナを張ることで、思いがけない出会いがあることもあります。
旅とは必ずしも物理的にその土地を訪れることだけを意味しません。遠く離れた国に想いを馳せ、その歴史や文化を学び、困難な状況にある人々を思いやることもまた、尊い旅のかたちだと私は信じています。いつか必ず、サナアのカフェで水タバコの煙を漂わせながら現地の人々と笑い合える日が訪れることを、心から願っています。

