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    走る、磨く、味わう。アスリートが恋するロンドン・メイフェアの静かなる贅沢

    世界中の道を駆け抜ける旅の途中、私は今、ロンドンの中心部にいます。次のレースは、数週間後に控えたビッグイベント。ピーキングに向けて最も重要なこの時期、私が拠点として選んだのは、意外に思われるかもしれませんが、世界で最も高級な地区のひとつ、メイフェアです。なぜ、華やかなイメージのこの場所を?答えはシンプル。最高のコンディションを創り上げるために必要な「静寂」と「質」、そして「緑」が、ここには完璧なバランスで存在しているからです。

    レース前のランナーにとって、過度な刺激は禁物。心身を穏やかに保ち、トレーニングの質を高め、栄養価の高い食事を摂り、深く良質な睡眠を得る。そのすべてを、メイフェアは驚くほど高いレベルで満たしてくれます。ハイドパークという最高のトレーニングコースは目と鼻の先。喧騒から一歩入れば、そこはまるで時間が止まったかのような静かな街並みが広がります。そして、世界中から集まる本物は、食においても、アートにおいても、身体をケアするサービスにおいても、私たちのパフォーマンスを新たな次元へと引き上げてくれるのです。

    この記事では、単なる観光ガイドでは語られることのない、アスリートの視点から見たメイフェアの魅力をお伝えします。レース前の調整、レース後のご褒美、そして次なる挑戦へのエネルギーチャージ。この街が、いかにランナーにとって理想的な場所であるか。さあ、私と一緒に、静謐なる贅沢が息づくメイフェアの道を走り出しましょう。

    目次

    メイフェアを走る – アスリートの聖地、ハイドパークと静寂のストリート

    ランナーにとって、滞在先の近くに質の高いトレーニングコースがあることは絶対条件です。その点において、メイフェアはロンドンで最も恵まれた場所と言えるでしょう。地区の西側には、広大なハイドパークとグリーンパークが広がっています。ここは、まさに都会のランナーたちの聖地。私のロンドンでの一日は、いつもこの公園の夜明けと共に始まります。

    夜明けのハイドパーク – 最高のトレーニンググラウンド

    メイフェアの西端、パーク・レーンを渡れば、そこはもうハイドパークの入り口です。面積約142ヘクタール(東京ドーム約30個分)にも及ぶこの広大な公園は、ランナーが求めるすべてを備えています。

    早朝5時半。まだ薄暗い中、ホテルのドアを開けて軽いストレッチを済ませ、ゆっくりとジョグを始めます。メイフェアの静まり返った美しい街並みを抜け、パーク・レーンへ。この時間はまだ交通量も少なく、澄んだ空気が心地よい。ハイドパーク・コーナーから公園に入ると、世界が一変します。土と草の匂い、鳥のさえずり。都会の喧騒が嘘のように遠ざかり、一瞬で集中力が高まっていくのを感じます。

    多彩なランニングコース

    ハイドパークの魅力は、そのコースの多様性にあります。

    • 外周路(Perimeter Path): 公園をぐるりと一周する約6.5キロの舗装された道は、ペース走やインターバルトレーニングに最適です。フラットな区間が多く、距離表示もあるため、自分のペースを正確に把握しながら走ることができます。他のランナーも多く、互いに刺激し合いながら、質の高いトレーニングが可能です。特にサーペンタイン・ロード沿いのストレートは、スピードを上げるのにうってつけの場所。
    • サーペンタイン湖周辺: 公園の中央に横たわるサーペンタイン湖の周りを走るコースは、景色が美しく、心地よいリズムで走れます。水面を渡る風を感じながら、白鳥やカモの姿を横目に走る時間は、まるで瞑想のよう。距離は約3キロほど。レース前の軽い調整ランや、LSD(Long Slow Distance)の気分転換にもぴったりです。
    • 林間のトレイル: 舗装路だけでなく、公園内には無数の未舗装のトレイルが張り巡らされています。少し起伏のある土の上を走ることは、足首や体幹を鍛えるのに非常に効果的。着地の衝撃も和らげてくれるため、故障のリスクを抱えるランナーにとっては、まさに天の恵みです。木漏れ日の中を駆け抜ける感覚は、トレイルランニングのそれに近く、心身ともにリフレッシュさせてくれます。

    グリーンパークからバッキンガム宮殿へ

    ハイドパークの南東に隣接するグリーンパークもまた、素晴らしいランニングコースです。ハイドパークよりもこぢんまりとしていますが、その分、落ち着いた雰囲気が漂います。約47エーカーの敷地は、なだらかな起伏に富んだ芝生と木々で構成されており、クロスカントリーのような感覚で走ることができます。

    私のお気に入りは、グリーンパークを抜け、ザ・マル(The Mall)へと続くコース。早朝、朝日を浴びて輝くバッキンガム宮殿に向かって、赤く舗装された道を一直線に走る。この高揚感は、他では味わえません。まるでロンドンマラソンのゴールシーンを追体験しているかのよう。レース本番へのイメージトレーニングにもなり、モチベーションが極限まで高まります。

    メイフェアの街並みを走るということ

    公園での本格的なトレーニングだけでなく、メイフェアの街自体を走ることもまた、特別な体験です。もちろん、日中は人通りや交通量が多いため、ランニングには向きません。しかし、夜明け前の静寂に包まれた時間帯は別。

    マウント・ストリートやブルック・ストリートといった美しいジョージアン様式の建物が並ぶ通りを、自分の足音だけを響かせながら駆け抜ける。ショーウィンドウに映る自分のフォームを確認しながら、まるで街を独り占めしたかのような贅沢な気分に浸れます。ただし、石畳の道も多いので、足元には十分な注意が必要。これは不整地を走る良いトレーニングにもなりますが、無理は禁物です。

    メイフェアに滞在するということは、世界最高峰のトレーニング環境を、日常の一部として享受できるということ。それは、記録を目指すアスリートにとって、何物にも代えがたいアドバンテージとなるのです。

    身体を創る – メイフェアの美食をエネルギーに変える

    ランナーにとって、食事はトレーニングと同じくらい重要です。何を、いつ、どのように食べるか。それが、パフォーマンスを大きく左右します。高級レストランがひしめくメイフェアは、一見するとアスリートの食事には不向きに思えるかもしれません。しかし、そのイメージはすぐに覆されます。この街には、「質」を極めた食事が溢れており、それは最高のエネルギー源となり、身体のリカバリーを力強くサポートしてくれるのです。

    カーボローディングを極める

    レース数日前から行うカーボローディング(グリコーゲンローディング)。体内のグリコーゲン貯蔵量を最大化させ、レース中のエネルギー切れを防ぐための重要な食事戦略です。メイフェアには、このカーボローディングを、ただの「炭水化物の摂取」から「至福の体験」へと昇華させてくれるレストランが揃っています。

    本格イタリアンのパスタ

    質の高い炭水化物の代表格といえば、やはりパスタ。メイフェアには、気取らない雰囲気で本格的なパスタを提供してくれるトラットリアから、洗練を極めたリストランテまで、選択肢が豊富です。

    例えば、「Delfino」のようなピッツェリア兼トラットリア。ここでは、新鮮な素材を使ったシンプルなトマトソースのパスタや、ペペロンチーノなどを気軽に楽しむことができます。余計な脂肪分を抑えつつ、質の良い小麦から作られたパスタで、効率よく炭水化物を摂取。店内の活気ある雰囲気も、レース前の適度なリラックスに繋がります。

    もう少し特別な体験を求めるなら、ミシュランの星を持つイタリアンレストランも選択肢に入ります。「Murano」のような店では、シェフの独創性が光るパスタ料理に出会えます。もちろん、レース直前には、消化の良いシンプルなものを選びますが、その味の深み、素材へのこだわりは、身体だけでなく心にもエネルギーを満たしてくれます。

    焼きたてパンの誘惑

    パンもまた、優れた炭水化物の供給源です。メイフェア周辺には、職人技が光るベーカリーが点在しています。朝のジョギングの帰りに、焼きたてのサワードウブレッドやバゲットを買い、ホテルの部屋でフレッシュなオリーブオイルと共にいただく。これほどシンプルで贅沢なカーボローディングがあるでしょうか。

    「Hedone」のパン部門から独立した「Hedone Bakery」(現在は場所を移転していますが、その流れを汲むベーカリーは注目です)や、高級デパートのフードホールで見つけることができるアルチザンブレッドは、香り高く、噛みしめるほどに小麦の旨味が広がります。全粒粉やライ麦を使ったパンを選べば、ビタミンやミネラル、食物繊維も同時に摂取でき、腸内環境を整える助けにもなります。

    リカバリーを促進する高タンパク質メニュー

    激しいトレーニング後には、筋肉の修復と成長を促すタンパク質の摂取が不可欠です。メイフェアは、世界トップクラスのステーキハウスが集まる場所でもあります。

    究極のステーキで筋肉を修復

    「Hawksmoor Air Street」は、その代表格。サステナビリティ(持続可能性)にも配慮した、イギリス産の最高級ビーフを、完璧な火入れで提供してくれます。赤身肉には、タンパク質はもちろん、鉄分や亜鉛、ビタミンB群といった、ランナーに必要な栄養素が豊富に含まれています。トレーニングで酷使した身体に、力強いエネルギーが隅々まで行き渡っていくのを感じられるはずです。サイドメニューには、ほうれん草のクリーム煮やマッシュポテトなどを選び、ビタミンや炭水化物もバランス良く補給します。

    他にも、アルゼンチンステーキが楽しめる「Gaucho」など、選択肢は様々。レース後の「ご褒美」として訪れるのも最高の体験ですが、トレーニング期間中に、リカバリーを目的として訪れるのも、非常に効果的な栄養戦略です。

    コンディションを整えるヘルシーな選択肢

    常に最高のコンディションを維持するためには、日々の食事が重要です。メイフェアには、ヘルシー志向のニーズに応えるカフェやレストランも充実しています。

    フレッシュなサラダとジュース

    「The Good Life Eatery」「Deliciously Ella」のようなデリでは、新鮮な野菜をふんだんに使った彩り豊かなサラダボウルや、コールドプレスジュース、スムージーを手軽に楽しめます。トレーニング後に失われがちなビタミンやミネラルを、効率よく補給。抗酸化作用の高い食材は、トレーニングによる身体の酸化ストレスを軽減してくれます。アサイーボウルや、アボカドトーストといったメニューは、朝食や軽いランチに最適です。

    伝統と健康の融合、アフタヌーンティー

    意外に思われるかもしれませんが、伝統的なアフタヌーンティーも、選び方次第ではアスリートの栄養補給になります。サンドイッチは、きゅうりや卵、スモークサーモンなど、比較的ヘルシーな具材が中心。スコーンは良質な炭水化物源となり、クロテッドクリームやジャムの量を調整すれば、エネルギー補給に最適です。そして何より、紅茶に含まれるカテキンには抗酸化作用があり、リラックス効果も期待できます。

    「Claridge’s」「The Ritz London」といった最高級ホテルのアフタヌーンティーは、空間そのものが特別な体験。レース前の緊張をほぐし、心を穏やかにする時間として、戦略的に取り入れるのも良いでしょう。

    メイフェアの食は、単なる贅沢ではありません。それは、最高のパフォーマンスを追求するアスリートの身体を、内側から創り上げるための「投資」なのです。本物の味を知ることは、自分の身体を知り、労わることに繋がります。この街で、私は走り、そして食べることで、心身ともに研ぎ澄まされていくのを感じるのです。

    心を研ぎ澄ます – 静寂とアートに浸る時間

    マラソンは、42.195kmという長い距離を、自分自身の身体と対話しながら走り続ける孤独なスポーツです。フィジカルの強さはもちろんですが、レースの勝敗を分けるのは、しばしばメンタルの強さ。レース直前期には、身体のコンディションをピークに持っていくと同時に、心をいかに穏やかに、そして集中力を高い状態で保てるかが鍵となります。メイフェアは、そのための環境として、まさに理想的な場所です。

    アートがもたらす精神的なリフレッシュ

    ランニングとアート。一見、無関係に思えるこの二つには、深い共通点があります。どちらも、日常から離れ、自己の内面と向き合う時間を与えてくれるのです。トレーニングの合間にアートに触れることは、私にとって最高のメンタルトレーニング。思考がクリアになり、新たなインスピレーションを得ることができます。

    ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(RA)

    ピカデリーに堂々と佇む「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」は、私がメイフェアで最も愛する場所の一つです。ここは、イギリスで最も歴史ある美術団体であり、そのコレクションは珠玉の名作揃い。ミケランジェロの彫刻のレプリカから、ターナー、コンスタブルといったイギリスを代表する画家の作品まで、時代を超えた傑作たちが静かに並んでいます。

    私は特に、企画展(サマーエキシビションなど)の合間の、常設展が比較的空いている時期に訪れるのが好きです。静謐な空間で、一枚の絵の前にじっと佇む。画家の筆遣いや色彩のハーモニーに意識を集中させると、レース前に高ぶりがちな神経が鎮まり、心が凪いでいくのを感じます。それは、走りながら「ゾーン」に入る感覚に似ています。雑念が消え、今この瞬間に意識が集中する。アート鑑賞は、私にとって、心をリセットし、再びトレーニングへと向かうエネルギーをくれる貴重な時間なのです。

    現代アートのギャラリー巡り

    メイフェアには、RAのような伝統的な美術館だけでなく、世界最先端の現代アートを発信するコマーシャルギャラリーが数多く点在しています。コーク・ストリートやボンド・ストリート周辺を歩けば、「Gagosian」「White Cube」といった、世界的に有名なギャラリーの看板が目に飛び込んできます。

    これらのギャラリーは、入場無料で、誰でも気軽に立ち寄ることができます。現代アートは時に難解ですが、その既成概念を打ち破るような表現や、力強いエネルギーは、私の思考に新たな刺激を与えてくれます。「限界を突破する」というアスリートとしてのテーマと、アーティストの挑戦的な姿勢が重なり、不思議と勇気が湧いてくるのです。ウィンドウショッピングのように、美しいストリートを散策しながら、気になるギャラリーにふらりと立ち寄る。そんなアクティブレスト(積極的休養)も、メイフェアならではの楽しみ方です。

    静寂を味わう、至福のティータイム

    トレーニングの強度が高まるにつれて、質の高い休息の重要性も増していきます。メイフェアには、世界に名だたる最高級ホテルが点在しており、そのラウンジやティールームは、都会の喧騒を忘れさせてくれる完璧な隠れ家です。

    ホテルラウンジという名のサンクチュアリ

    「Claridge’s」のフォワイエ、「The Connaught」のコンノート・バー、「Brown’s Hotel」のイングリッシュ・ティー・ルーム。これらの場所は、ただお茶を飲むだけの場所ではありません。重厚でありながら心地よい調度品、洗練されたサービス、そしてそこに流れる穏やかな時間。すべてが一体となって、心身を深いリラクゼーションへと誘います。

    私は、LSD(長時間ゆっくり走るトレーニング)を終えた午後に、こうしたラウンジを訪れることがあります。少しフォーマルな服装に着替え、背筋を伸ばしてソファに腰掛ける。ポットで供される上質な紅茶(アールグレイやダージリン)をゆっくりと味わいながら、トレーニング日誌をつけたり、読書をしたりする。この静かな時間は、身体の回復を促すだけでなく、精神的な疲労をリセットする上で非常に効果的です。周りの人々の穏やかな会話がBGMのように聞こえ、自分だけの世界に深く没入できる。この静と動のコントラストが、コンディショニングの質を格段に高めてくれるのです。

    美しい建築とアーケードを歩く

    メイフェアの街並みそのものが、心を落ち着かせてくれるアート作品のようです。ジョージアン様式のタウンハウスが連なる均整の取れた街並み、手入れの行き届いた小さな公園(スクエア)、そして歴史を感じさせる美しいアーケード。

    バーリントン・アーケード

    ピカデリーからバーリントン・ガーデンズへと抜ける「バーリントン・アーケード」は、1819年にオープンした、屋根付きショッピングストリートの先駆けです。美しいアーチ型の天井から自然光が差し込み、両脇には高級宝飾店やカシミア専門店などが並びます。ここで買い物をせずとも、ただ通り抜けるだけでも特別な気分になります。ビードルと呼ばれる、伝統的な制服を身にまとった警備員が今も常駐しており、その歴史と格式を物語っています。早朝にこの前を走り抜ける時と、日中にゆっくりと歩く時とでは、全く違う表情を見せてくれるのも魅力です。

    心を研ぎ澄ますことは、特別な修行をすることではありません。日常の中に、意識的に静寂と美を取り入れること。メイフェアは、そのための最高の舞台を用意してくれています。アートに触れ、静かな空間に身を置き、美しい街を歩く。そうした一つ一つの行為が、レース本番で最高のパフォーマンスを発揮するための、見えない力となるのです。

    究極のコンディショニング – 身体をケアするスポット

    アスリートの身体は、いわば精密機械。最高のパフォーマンスを発揮するためには、日々のトレーニングだけでなく、それを支えるメンテナンス、つまり「コンディショニング」が不可欠です。疲労の回復、筋肉のケア、そして質の高い睡眠。メイフェアは、こうした身体のケアにおいても、世界最高水準のサービスを提供してくれる場所。ここでは、私が実践している、究極のコンディショニング法をご紹介します。

    世界最高峰のスパで身体を解放する

    ハードなトレーニングを続ければ、筋肉には疲労が蓄積し、身体の可動域も狭まりがちです。それを放置すれば、パフォーマンスの低下はもちろん、故障の原因にもなりかねません。そこで重要になるのが、専門家によるボディトリートメントです。メイフェアの高級ホテルには、ウェルネスを追求した素晴らしいスパが併設されています。

    パーソナライズされたトリートメント

    例えば、「The Connaught」内にある「Aman Spa」や、「Four Seasons Hotel London at Park Lane」のルーフトップスパなどは、その代表格。これらのスパの魅力は、単にラグジュアリーな空間であることだけではありません。ゲスト一人ひとりのコンディションや目的に合わせた、完全にパーソナライズされたトリートメントを受けられる点にあります。

    私は、レース1週間前と、レース直後にスパを予約することが多いです。レース前は、筋肉の緊張を和らげ、リラックス効果の高いアロママッサージを選びます。セラピストに、特に疲労が溜まっている脚の筋肉(ハムストリングスやふくらはぎ)を重点的にケアしてもらうようにお願いします。彼らは人体の構造を深く理解しており、どの筋肉がどう連動しているかを的確に見抜き、絶妙な圧でアプローチしてくれます。施術後には、身体が驚くほど軽くなり、関節の可動域が広がっているのを実感できます。

    レース後は、より深い組織にアプローチするディープティッシュマッサージで、筋肉の奥深くに溜まった疲労物質を流し、回復を促します。これは、翌日以降の筋肉痛(DOMS)を軽減するのにも非常に効果的です。静かで落ち着いた空間で、身体の隅々までケアされる時間は、肉体的な回復だけでなく、レースを走り切った精神的な昂ぶりを穏やかにクールダウンさせてくれる、まさに至福のひとときです。

    最高のパフォーマンスは、最高の睡眠から

    どれだけ良いトレーニングをしても、どれだけ栄養のある食事を摂っても、質の高い睡眠がなければ、その効果は半減してしまいます。睡眠中に分泌される成長ホルモンが、身体の修復と成長を司っているからです。メイフェアの高級ホテルは、ゲストに最高の睡眠を提供するための工夫を凝らしています。

    静寂と快適さを追求した客室

    私がメイフェアのホテルを選ぶ際に最も重視するのは、「静かさ」です。パーク・レーン沿いのホテルは便利ですが、交通量の多い通りに面した部屋は避けるようにしています。一本内側に入った、マウント・ストリートやチャールズ・ストリート周辺にあるホテルは、驚くほど静か。「The Beaumont」「Brown’s Hotel」などは、クラシックな落ち着きがあり、外部の騒音をほとんど感じさせません。

    また、ベッドの質も重要な要素です。メイフェアのトップクラスのホテルでは、Savoir BedsやHypnosといった英国王室御用達ブランドのベッドを採用しているところも少なくありません。身体のラインに沿って沈み込み、しっかりと支えてくれるマットレス。肌触りの良い、高番手のリネン。そして、遮光性の高いカーテン。これらが揃うことで、深く、中断されることのない睡眠が実現します。私はいつも、アイマスクと耳栓を持参しますが、メイフェアの質の高いホテルでは、その出番がないことも多いのです。

    フィットネスの哲学 – サヴィル・ロウの教え

    少し視点を変えて、メイフェアのもう一つの顔である、サヴィル・ロウに触れてみたいと思います。言わずと知れた、ビスポーク(オーダーメイド)スーツの聖地です。一見、ランニングとは無関係に思えますが、ここにはアスリートが学ぶべき深い哲学が息づいています。

    身体に完璧にフィットさせることの重要性

    サヴィル・ロウのテーラーは、顧客の身体をミリ単位で採寸し、その人の骨格、筋肉のつき方、姿勢の癖までを読み取り、完璧にフィットする一着を仕立て上げます。それは、既製品では決して得られない、究極の着心地と動きやすさを提供します。

    この哲学は、ランニングギアにも通じます。ランニングシューズ、ウェア、ソックス。これらが自分の身体に完璧にフィットしているかどうかは、パフォーマンスに直結します。シューズが合わなければマメができ、故障の原因になる。ウェアが擦れれば、長距離を走る上で大きなストレスになります。

    サヴィル・ロウを歩き、ショーウィンドウに飾られた美しいスーツを眺めていると、「自分の身体を深く理解し、それに最適なものを与える」ことの重要性を再認識させられます。それは、自分自身への投資であり、敬意の表れです。この街でビスポークスーツを仕立てることはありませんが、その精神を、自分のコンディショニングやギア選びに活かしています。

    メイフェアでの滞在は、単なる休息ではありません。それは、自分の身体という「資本」と真摯に向き合い、最高の状態に磨き上げていくための、戦略的なプロセスなのです。この街が提供してくれる最高のケアを受けることで、私は自信を持って、次のスタートラインに立つことができるのです。

    メイフェアから、次のスタートラインへ

    ロンドンでの日々は、静かに、そして濃密に過ぎていきました。夜明けと共にハイドパークを駆け抜け、身体の声に耳を澄ませながら食事を選び、アートと静寂の中で心を整える。そして、世界最高水準のケアで、酷使した身体を労わる。メイフェアという街は、私がレース前に必要とするすべてを、完璧な形で提供してくれました。

    この街は、多くの人にとって、富と華やかさの象GBSョウかもしれません。きらびやかなショーウィンドウ、ミシュランの星が輝くレストラン、世界中のセレブリティが集うホテル。しかし、私にとってのメイフェアは、それらとは少し違う顔を見せてくれました。それは、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するために、心身を研ぎ澄ますことができる「聖域」としての顔です。

    走ることで見えてくる街の素顔

    ランナーは、旅先で誰よりも早く起き、誰よりも街のディテールに気づくことができる特権を持っています。まだ誰もいない早朝のメイフェアの通りを走っていると、建物の石に刻まれた歴史や、窓辺に飾られた花の美しさ、掃き清められた歩道の清潔さといった、この街が長年守り続けてきた「質」へのこだわりが、静かに伝わってきます。それは、決して派手さや豪華さだけではない、本質的な豊かさです。

    この本質的な豊かさは、私がアスリートとして追求しているものと、どこか重なります。流行に流されるのではなく、自分の身体と対話し、基本を忠実に、地道に積み重ねていくこと。その先にしか、本当の強さはない。メイフェアの静かな朝は、いつも私にそのことを思い出させてくれました。

    日常の中の「特別」をエネルギーに

    もちろん、この街が持つ華やかな側面も、私に大きなエネルギーを与えてくれました。レース後に訪れたステーキハウスでの祝杯。目標タイムをクリアした自分へのご褒美に、ボンド・ストリートで買った上質なニット。格式高いホテルのラウンジで過ごした、夢のようなアフタヌーンティーの時間。

    こうした「特別」な体験は、次の厳しいトレーニングへと向かうための、最高のモチベーションになります。努力した先には、こんなにも素晴らしい世界が待っている。そのことを身体で知ることで、人はまた、限界を超えようと挑戦できるのです。メイフェアは、努力と報酬の美しいサイクルを、身をもって教えてくれる場所でもありました。

    滞在を終え、メイフェアの街を後にする時、私の身体は最高の状態に仕上がり、心は静かな自信に満ちていました。スーツケースには、ロンドンで手に入れた新しいランニングギアと、いくつかの思い出の品。しかし、それ以上に大きな収穫は、この街で得た「コンディショニングの哲学」そのものです。

    次のレースは、また違う国の、違う街が舞台になります。そこには、メイフェアのような環境はないかもしれません。しかし、ここで学んだ、自分の心身と向き合い、質を追求し、静寂の中に身を置くことの重要性は、どこへ行っても私を支えてくれるはずです。

    メイフェアは、私にとってゴールではありません。最高の準備を整え、次なる挑戦へと出発するための、究極のスタートブロックでした。さあ、パッキングは済んだ。空港へ向かい、そして、次のスタートラインへ。私の旅は、まだまだ続きます。

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    この記事を書いたトラベルライター

    マラソンと旅を融合!走るために旅をする、そんなストイックなスタイルで世界を駆け巡っています。レースや補給食の話もリアルに綴ってます。

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