イングランドの中央部に広がる、なだらかな丘陵地帯。そこに、まるで時が止まったかのような景色が広がっています。ハチミツ色の石で造られた家々が並び、古き良き英国の原風景が今もなお息づく場所、それがコッツウォルズです。羊たちが草を食む牧歌的な丘、清らかな小川が村の中心を流れ、イングリッシュガーデンには四季折々の花が咲き誇る。そのすべてが、訪れる人々の心を捉えて離しません。
「英国で最も美しい村」と称されるバイブリー、「コッツウォルズのヴェネツィア」の愛称で親しまれるボートン・オン・ザ・ウォーター。一つひとつの村が独自の個性を持ち、それぞれが珠玉の輝きを放っています。この地はかつて羊毛の交易で栄え、その富がこの美しい街並みを築き上げました。歴史の重みと自然の優しさが見事に調和した風景は、ページをめくる絵本の世界そのものです。
この記事では、そんなコッツウォルズの魅力を余すところなくお伝えします。代表的な村々の詳細なガイドから、効率的なアクセス方法、現地での楽しみ方、さらには旅のプランを具体的に描けるモデルコースまで。あなたのコッツウォルズへの旅が、一生忘れられない特別な体験となるよう、心を込めてご案内します。さあ、ハチミツ色の石畳を歩き、心安らぐ英国の田園地帯へと旅立ちましょう。
コッツウォルズとは? – 英国の原風景が息づく場所
コッツウォルズという名前を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、あの独特の温かみを持つハチミツ色の家並みではないでしょうか。この地域は、イングランド南西部に位置するグロスターシャー州とオックスフォードシャー州を中心に、約2,000平方キロメートルにわたって広がる丘陵地帯を指します。その美しい景観は法的に保護されており、大部分が「特別自然美観地域(AONB – Area of Outstanding Natural Beauty)」に指定されています。これは、英国の国立公園と同等の価値を持つ景観として認められている証です。
ハチミツ色の石「コッツウォルズストーン」の秘密
コッツウォルズの風景を決定づけているのが、「コッツウォルズストーン」と呼ばれるライムストーン(石灰岩)です。この地域で採れるこの石は、鉄分を多く含んでいるため、風雨にさらされることで酸化し、温かみのある金色やハチミツ色に変化します。村によって石の色合いが微妙に異なり、北部の村々はより黄金色に、南下するにつれてクリーム色に近い淡い色合いへと変わっていくのも興味深い点です。
家々の壁はもちろん、屋根のスレート、石垣(ドライストーン・ウォール)に至るまで、この石材がふんだんに使われています。夕暮れ時、西日に照らされた村全体が黄金色に輝く様子は、まさに幻想的。何世紀にもわたって変わらないその光景は、訪れる人々に深い感動を与えます。
羊が築いた豊かな歴史
「コッツウォルズ(Cotswolds)」という地名の語源には諸説ありますが、一説には「羊のいる丘陵地」という意味があるとされています。中世、この地域は羊毛産業の中心地としてヨーロッパ全土にその名を轟かせました。ここで育った「コッツウォルズ・ライオン」と呼ばれる長毛種の羊から採れる羊毛は最高品質とされ、莫大な富をもたらしました。
その富を元手に、羊毛商人たちは競って豪華な邸宅や教会を建てました。今日私たちが見る美しい村々の多くは、この時代の繁栄の賜物なのです。特に、村の中心にそびえる立派な教会は「ウール・チャーチ(Wool Church)」と呼ばれ、当時の富の大きさを物語っています。マーケットタウンの広場や、ギルドホール(商工組合の集会所)など、街の至る所に羊毛産業で栄えた歴史の痕跡を見つけることができるでしょう。コッツウォルズを歩くことは、この地の豊かな歴史を辿る旅でもあるのです。
コッツウォルズへのアクセス完全ガイド
美しい田園風景が広がるコッツウォルズですが、その分、都心からのアクセスや現地での移動には少し工夫が必要です。しかし、事前に計画を立てれば、ストレスなく快適な旅が楽しめます。ここでは、ロンドンからのアクセス方法と、現地での移動手段について詳しく解説します。
ロンドンからのアクセス
多くの旅行者が拠点とするロンドンからコッツウォルズへは、主に鉄道、バス、レンタカーの3つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の旅のスタイルに合った方法を選びましょう。
鉄道でのアクセス
コッツウォルズへの最も一般的で快適なアクセス方法は鉄道です。ロンドンの主要ターミナルの一つであるパディントン(Paddington)駅から、グレート・ウェスタン・レイルウェイ(GWR)が運行する列車に乗ります。
主な玄関口となる駅は、コッツウォルズ北部に位置するモートン・イン・マーシュ(Moreton-in-Marsh)駅です。パディントン駅からの所要時間は約1時間30分。この駅は、チッピング・カムデンやストウ・オン・ザ・ウォルドといった人気の村へのバスの起点ともなっており、公共交通機関で巡る旅の拠点として非常に便利です。
その他、ストラウド(Stroud)駅やチェルトナム・スパ(Cheltenham Spa)駅、ケンブル(Kemble)駅などもコッツウォルズ地方の主要駅ですが、村々を巡るならモートン・イン・マーシュ駅が最もおすすめです。
列車のチケットは、事前にオンラインで購入すると割引が適用されることが多いです。特に「Advance」チケットは早く予約するほど安くなるので、日程が決まったら早めに手配しましょう。
長距離バス(コーチ)でのアクセス
費用を抑えたい方には、ナショナル・エクスプレス(National Express)などの長距離バス(英国ではコーチと呼ばれます)がおすすめです。ロンドンのヴィクトリア・コーチ・ステーション(Victoria Coach Station)から、コッツウォルズ地方の主要な町、例えばサイレンセスター(Cirencester)やチェルトナム(Cheltenham)などへ直行便が運行されています。
所要時間は鉄道よりも長く、交通状況によっては3時間以上かかることもありますが、運賃は格段に安価です。大きな荷物があっても追加料金なしで預けられるのも魅力の一つ。ただし、バスが到着する町から目的の小さな村へは、さらにローカルバスやタクシーに乗り換える必要があります。
レンタカーでのアクセス
時間やルートに縛られず、自由気ままに旅を楽しみたい方にはレンタカーが最適です。ロンドンのヒースロー空港で車を借りて、高速道路M4やM40を使えば、約2時間ほどでコッツウォルズ地方に到着します。
レンタカーの最大のメリットは、公共交通機関ではアクセスしにくい小さな村や、丘の上の絶景ポイントにも気軽に立ち寄れること。自分のペースで写真を撮ったり、気になったパブで休憩したりと、旅の自由度が格段に上がります。
ただし、英国は日本と同じ左側通行ですが、ラウンドアバウト(環状交差点)のルールや、コッツウォルズ特有の狭い田舎道(カントリーレーン)での運転には注意が必要です。特に、石垣に囲まれた道は対向車とのすれ違いが難しい場所も多いので、慎重な運転が求められます。
現地での移動手段
コッツウォルズに到着してからの移動は、旅の満足度を大きく左右します。
レンタカー
前述の通り、コッツウォルズを隅々まで満喫するならレンタカーが最強の選択肢です。村から村への移動がスムーズなだけでなく、荷物を車に置いたまま身軽に散策できるのも大きな利点。人気の村では駐車場を探すのに苦労することもありますが、その不便さを補って余りあるメリットがあります。
ローカルバス
公共交通機関で旅をする場合、ローカルバスが主要な移動手段となります。モートン・イン・マーシュやボートン・オン・ザ・ウォーター、ストウ・オン・ザ・ウォルドといった主要な村の間は、比較的バスの便があります。
しかし、運行本数は非常に少なく、特に週末や祝日は運休になったり、1日に数本しかない路線も珍しくありません。事前にバス会社のウェブサイトで時刻表を徹底的に確認し、綿密な計画を立てることが不可欠です。「Pulhams Coaches」や「Stagecoach」などがこの地域を運行する主要なバス会社です。一日乗車券などを活用するとお得に移動できます。
タクシーや現地ツアー
バスの時間を気にせず、効率よく有名どころを巡りたい場合は、タクシーをチャーターするか、現地発着の観光ツアーに参加するのも良い方法です。
タクシーは料金が高めですが、数人で利用すれば割安になります。行きたい場所を自由に伝えられるのが魅力です。モートン・イン・マーシュ駅前にはタクシー乗り場があります。
また、モートン・イン・マーシュやボートン・オン・ザ・ウォーターなどからは、コッツウォルズのハイライトを1日で巡るミニバスツアーが催行されています。ドライバーがガイドを兼ねて、各地の歴史や見どころを解説してくれるので、知識を深めながら効率よく観光できます。個人では行きにくい場所もカバーしてくれるため、特に短期滞在の旅行者におすすめです。
絶対に訪れたい!コッツウォルズの珠玉の村々
コッツウォルズには、大小さまざまな魅力的な村が点在しています。その中から、特に人気が高く、訪れる価値のある珠玉の村々を厳選してご紹介します。それぞれの村が持つ独自の雰囲気と物語を感じながら、お気に入りの場所を見つけてください。
バイブリー(Bibury) – 「英国で最も美しい村」
ウィリアム・モリスが「イングランドで最も美しい村」と称賛したことで世界的に有名になったバイブリー。その言葉に違わぬ、絵葉書のような風景が訪れる人々を魅了します。この村のハイライトは、何と言っても「アーリントン・ロウ(Arlington Row)」です。
コルン川のほとりに佇む、急勾配の屋根を持つ石造りのコテージ群。元々は14世紀に羊毛倉庫として建てられ、17世紀に織物職人の住居に改装されたものです。時を経て黒ずんだ石の屋根と、ハチミツ色の壁、そして緑豊かな庭のコントラストは、まるでおとぎ話の世界。英国のパスポートの裏表紙にもデザインされたこの象徴的な風景は、コッツウォルズを訪れたなら必見です。
アーリントン・ロウの向かいには、「ラック・アイル(Rack Isle)」と呼ばれる白鳥が遊ぶ湿地帯が広がっており、のどかな雰囲気を一層引き立てています。村の中心には、新鮮なトラウト(マス)料理が楽しめる「バイブリー・トラウト・ファーム(Bibury Trout Farm)」があり、家族連れにも人気です。ここで釣った魚をその場で調理してもらうことも可能。川沿いに佇む「スワン・ホテル(The Swan Hotel)」の蔦に覆われた外観も美しく、アフタヌーンティーを楽しむのに最適な場所です。バイブリーは小さな村ですが、その凝縮された美しさは、訪れるすべての人に深い印象を残すでしょう。
ボートン・オン・ザ・ウォーター(Bourton-on-the-Water) – 「コッツウォルズのヴェネツィア」
その名の通り、村の中心を清らかなウィンドラッシュ川が流れ、いくつもの低い石橋が架かる風光明媚な村、ボートン・オン・ザ・ウォーター。「コッツウォルズのヴェネツィア」という愛称で親しまれ、常に多くの観光客で賑わう人気のスポットです。
川の両岸には緑の芝生が広がり、人々は思い思いにピクニックを楽しんだり、川に足をつけて涼んだりしています。このゆったりとした雰囲気が、この村の最大の魅力です。川沿いには、ティールームやギフトショップ、パブが軒を連ね、散策するだけでも心が弾みます。
この村でぜひ訪れたいのが「モデル・ヴィレッジ(The Model Village)」。ボートン・オン・ザ・ウォーターの村全体を9分の1のスケールで精巧に再現したミニチュアの村です。建物はもちろん、庭の木々一本一本まで忠実に作られており、自分が巨人になったかのような不思議な感覚を味わえます。モデル・ヴィレッジの中にあるモデル・ヴィレッジを覗き込むと、さらにその中に…という入れ子構造も面白い発見です。
また、「コッツウォルズ・モーター・ミュージアム(Cotswold Motoring Museum)」も人気の観光スポット。クラシックカーや昔懐かしいおもちゃなどが展示されており、大人も子供も楽しめます。お腹が空いたら、川沿いのティールームで伝統的なクリームティーを。スコーンとクロテッドクリーム、ジャム、そして紅茶の組み合わせは、英国の旅の醍醐味です。活気と安らぎが共存するボートン・オン・ザ・ウォーターは、コッツウォルズの楽しさを象徴するような場所と言えるでしょう。
ストウ・オン・ザ・ウォルド(Stow-on-the-Wold) – 丘の上のマーケットタウン
コッツウォルズ丘陵の中でも標高約240mの丘の上に位置する、歴史あるマーケットタウンがストウ・オン・ザ・ウォルドです。かつては7つの主要な道が交わる交通の要衝であり、最大で2万頭もの羊が取引されたという大規模な羊市場で栄えました。
その中心であるマーケット・スクエアは広々としており、かつての賑わいを今に伝えています。広場には、十字架の形をした古いマーケット・クロスや、罪人を晒したという足かせ(ストックス)が残されており、歴史の息吹を感じさせます。広場を囲むように、アンティークショップや画廊、独立系のブティック、そして居心地の良いパブが並び、ショッピングや街歩きが好きな人にはたまらない場所です。
この村で最も神秘的なスポットが、聖エドワード教会(St. Edward’s Church)の北側の扉です。扉の両脇に、まるで扉を守るかのように2本の古いイチイの木が根を張り、一体化しています。この不思議な光景は、J.R.R.トールキンの『指輪物語』に登場する「モリアの西門」のモデルになったのではないかと言われており、ファンタジー好きならずとも必見の場所です。
丘の上にあるため風が強いことでも知られ、「Stow-on-the-Wold, where the wind blows cold(寒風吹きすさぶストウ・オン・ザ・ウォルド)」という古い言葉も残っています。歴史とファンタジー、そしてショッピングの楽しみが詰まった、風格あるタウンです。
カッスル・クーム(Castle Combe) – 時が止まった映画のロケ地
コッツウォルズ南部に位置するカッスル・クームは、しばしば「時が止まった村」と形容されます。その完璧なまでに保存された中世の街並みは、まるで映画のセットのよう。実際に、スティーブン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』や、ファンタジー映画『スターダスト』など、数多くの映画のロケ地として選ばれてきました。
村は小さな谷間にひっそりと佇んでおり、メインストリートを歩いても車一台通らないほどの静けさに包まれています。ハチミツ色のコテージが連なる道の先、村の中心には14世紀に建てられたマーケット・クロスがあり、その隣には聖アンドリュー教会が厳かにそびえ立っています。
この村で最も写真映えするスポットは、バイブルック川に架かる石橋の上から村を眺める景色でしょう。川面に映るコテージの姿と、緑豊かな背景が織りなす風景は、まさに絵画そのものです。
カッスル・クームの魅力は、その商業化されていない素朴さにあります。大きなギフトショップやレストランはほとんどなく、代わりに村人たちが自宅の玄関先でケーキやジャムを無人販売する「オネストリー・ボックス(Honesty Box)」をよく見かけます。手作りの焼き菓子を買い、代金を箱に入れる。そんな素朴なやり取りも、この村ならではの心温まる体験です。喧騒から離れ、ただただ美しい風景の中に身を置きたい、そんな願いを叶えてくれる場所です。
チッピング・カムデン(Chipping Campden) – 豊かな歴史とアーツ・アンド・クラフツ運動
コッツウォルズ北部にあるチッピング・カムデンは、最もエレガントで洗練されたマーケットタウンの一つです。その名の「チッピング」は、古英語で「市場」を意味し、中世には羊毛取引で大いに繁栄しました。
その象徴が、緩やかなカーブを描くハイ・ストリートです。通りの両側には、14世紀から17世紀にかけて建てられた見事な建物が隙間なく並び、壮観な景観を生み出しています。通りの中心に立つのは、1627年に建てられた「マーケット・ホール」。アーチ型の柱が美しいこの建物は、かつてバターやチーズ、鶏肉などを売る市場として使われ、今も村のシンボルとして親しまれています。
チッピング・カムデンはまた、20世紀初頭にウィリアム・モリスが主導した「アーツ・アンド・クラフツ運動」の重要な拠点となったことでも知られています。産業革命による大量生産品を憂い、手仕事の価値を見直そうとした芸術家や職人たちがこの地に移り住み、ギルドを設立しました。その精神は今も受け継がれており、村には質の高い工芸品を扱うギャラリーや工房が点在しています。
少し足を延せば、英国で最も美しい庭園の一つと称される「ヒドコート・マナー・ガーデン(Hidcote Manor Garden)」もあります。テーマごとに区切られた「庭の部屋」がいくつも連なるユニークなデザインで、ガーデニング好きには必見の場所です。歴史的な建築美と芸術の香りが融合した、格調高い魅力を持つタウンです。
ブロードウェイ(Broadway) – 広々としたメインストリートが魅力
その名の通り、「広い道(Broad Way)」が特徴的な村、ブロードウェイ。コッツウォルズの他の村の多くがこぢんまりとした路地で構成されているのとは対照的に、この村のハイ・ストリートは広々としており、開放的な雰囲気に満ちています。通りの両脇には栗の木が植えられ、その下にハチミツ色の美しい建物が並びます。アンティークショップ、アートギャラリー、高級デリカテッセンなどが軒を連ね、洗練された雰囲気が漂います。
この村を訪れたなら、ぜひとも「ブロードウェイ・タワー(Broadway Tower)」まで足を運んでみてください。村から少し離れた丘の上に立つ、城のようなデザインの塔です。この塔は18世紀末、コヴェントリー伯爵夫人の「この丘から自分の領地が見渡せるか知りたい」という願いを叶えるために建てられたと言われています。
天気が良ければ、塔の上からイングランドの16の州を見渡せると言われるほどの絶景が広がります。眼下にはコッツウォルズのなだらかな丘陵地帯が広がり、その壮大なパノラマは息をのむ美しさです。塔の周辺はカントリーパークとして整備されており、ピクニックや散策に最適。また、塔にはかつてウィリアム・モリスも訪れ、デザインのインスピレーションを得たと言われています。美しい村の散策と、壮大な丘からの眺望。その両方を楽しめるのがブロードウェイの魅力です。
ロワー・スローター&アッパー・スローター(Lower & Upper Slaughter) – 静寂を愛するあなたへ
ボートン・オン・ザ・ウォーターの喧騒からわずか数キロ。そこには、嘘のような静寂に包まれた双子の村、ロワー・スローターとアッパー・スローターがあります。村の名前「スローター(Slaughter)」は、古英語で「ぬかるんだ場所」を意味する言葉が語源であり、物騒な意味合いは全くありませんのでご安心を。
二つの村は、穏やかなアイ川(River Eye)に沿って結ばれています。特に観光客に人気なのは、より絵になる風景が広がるロワー・スローターです。川に架かる小さな石橋、水辺に佇むコテージ、そして村の中心にある19世紀の水車小屋「オールド・ミル(The Old Mill)」。この水車小屋は現在、博物館兼クラフトショップ、そしてティールームとして利用されており、訪れる人々の憩いの場となっています。水車の回る音と川のせせらぎを聞きながら過ごす時間は、格別です。
ロワー・スローターからアイ川沿いのフットパスを20分ほど歩くと、アッパー・スローターに到着します。こちらはさらに観光客が少なく、より素朴で手付かずの英国の田舎の雰囲気を味わうことができます。立派なマナーハウス(現在はホテル)と、小さな教会、そして数軒の民家があるだけの、静かで美しい村です。
この二つの村の間を歩く散策は、コッツウォルズの旅のハイライトの一つとなるでしょう。車の音もほとんど聞こえない静寂の中、鳥のさえずりと川の音だけが響く。そんな穏やかな時間を過ごしたい方に、心からおすすめしたい場所です。
コッツウォルズの魅力をさらに深掘り!
美しい村々を巡るだけでなく、コッツウォルズには旅をさらに豊かにする魅力的な体験が溢れています。地元の味に舌鼓を打ち、歴史ある宿で特別な夜を過ごし、自らの足で大地を踏みしめる。ここでは、そんな一歩踏み込んだ楽しみ方をご紹介します。
舌も心も満たされる、コッツウォルズの食体験
旅の喜びは、その土地ならではの食にあります。コッツウォルズは、豊かな自然に育まれた食材の宝庫。伝統的な味からモダンな料理まで、多彩な食体験があなたを待っています。
暖炉のそばで味わうパブ飯
コッツウォルズの村々には、必ずと言っていいほど歴史あるパブがあります。低い梁、燻された壁、そして冬には暖かく燃える暖炉。そんな雰囲気の中で味わう「パブ飯」は格別です。定番は、フィッシュ・アンド・チップスや、ステーキ・アンド・エール・パイ。そして、もし日曜日に訪れるなら、ぜひ「サンデー・ロースト」を試してみてください。ローストビーフやチキンに、ヨークシャー・プディング、ローストポテト、グレイビーソースが添えられた、英国の伝統的な週末のごちそうです。地元のエール(ビール)と共にいただけば、心も体も温まります。
優雅な午後のクリームティー
英国の食文化を語る上で欠かせないのがアフタヌーンティー、そしてその簡易版であるクリームティーです。コッツウォルズには、川沿いや美しい庭園を望む素敵なティールームがたくさんあります。焼きたての温かいスコーンを二つに割り、濃厚なクロテッドクリームと甘酸っぱいストロベリージャムをたっぷり塗っていただく。このシンプルな組み合わせが、なぜこれほどまでに美味しいのか。香り高い紅茶と共に、優雅な午後のひとときを過ごせば、旅の疲れも癒されるでしょう。
ガストロパブと地産地消のレストラン
伝統的なパブだけでなく、近年コッツウォルズでは「ガストロパブ」と呼ばれる、食に力を入れたパブが増えています。地元の農家から仕入れた新鮮な野菜、近郊で育てられたラム肉や牛肉、川で獲れたトラウトなど、地元の旬の食材を活かした創造的な料理を提供しています。また、本格的なファインダイニングを楽しめるレストランも点在しており、特別な日のディナーにも最適です。コッツウォルズの豊かな恵みを、洗練された一皿で味わってみてはいかがでしょうか。
風景に溶け込む、憧れの宿泊施設
せっかくコッツウォルズを旅するなら、宿泊も特別な体験にしたいもの。この地には、旅のスタイルに合わせて選べる魅力的な宿が揃っています。
貴族の気分を味わうマナーハウスホテル
かつての貴族や領主の邸宅(マナーハウス)を改装したホテルでの滞在は、コッツウォルズならではの贅沢な体験です。広大な庭園、アンティーク家具で設えられた客室、重厚な歴史を感じさせるラウンジ。まるで物語の登場人物になったかのような非日常感を味わえます。多くのマナーハウスホテルには、質の高いレストランやスパが併設されており、ホテル内で一日中ゆったりと過ごすのも良いでしょう。一生の思い出に残る、特別な時間を約束してくれます。
家庭的なおもてなしが嬉しいB&B
英国の旅の定番であるB&B(ベッド&ブレックファスト)は、コッツウォルズでも人気の宿泊スタイルです。個人宅の空き部屋を宿泊用に提供していることが多く、オーナー夫妻による温かい家庭的なおもてなしが魅力。ハチミツ色の石造りの素敵な家で、まるでホームステイしているかのような気分を味わえます。そして何よりの楽しみは、朝食です。イングリッシュ・ブレックファストはもちろん、オーナー手作りのジャムやパンが並ぶことも。地元の人との交流を楽しみたい方におすすめです。
暮らすように旅するセルフケータリング
数日間から1週間以上滞在するなら、キッチン付きのコテージを借りる「セルフケータリング」が最適です。地元のファーマーズマーケットやデリカテッセンで食材を買い込み、自分たちで料理をする。まるでその村の住人になったかのように、暮らすように旅をすることができます。朝は庭で鳥の声を聞きながらコーヒーを飲み、夜は暖炉の前でワイングラスを傾ける。そんな自由で気ままな滞在は、旅の満足度を一層高めてくれるはずです。
歩いて感じるコッツウォルズ – フットパスを巡る冒険
なだらかな丘陵地帯であるコッツウォルズの真の美しさは、車窓から眺めるだけでは分かりません。自らの足で大地を踏みしめ、丘を越え、森を抜け、村から村へと歩くことで、その魅力はさらに深まります。英国には「フットパス」と呼ばれる公共の遊歩道が網の目のように整備されており、コッツウォルズもまた、ウォーキング天国として知られています。
英国を代表する長距離歩道「コッツウォルド・ウェイ」
コッツウォルズ地方を南北に縦断する約164kmの長距離自然歩道、それが「コッツウォルド・ウェイ(Cotswold Way)」です。北端のチッピング・カムデンから、南端の古都バースまでを結び、ブロードウェイ・タワーや美しい村々、古代の遺跡などを通り抜けていきます。全行程を歩き通すには1週間以上かかりますが、その一部を歩くだけでも十分に楽しめます。例えば、ブロードウェイの村からブロードウェイ・タワーまでの往復コースは、手軽に絶景が楽しめる人気のルートです。
初心者でも安心のショートウォーク
長距離を歩く自信がない方でも、心配は無用です。コッツウォルズには、1〜2時間程度で気軽に楽しめる短いウォーキングコースがたくさんあります。
特におすすめなのが、前述したロワー・スローターとアッパー・スローターを結ぶコースです。アイ川沿いの平坦な道を約20分歩くだけで、牧歌的な風景を満喫できます。また、ストウ・オン・ザ・ウォルドからマウガーズベリー(Maugersbury)などの周辺の小さな集落へ足を延ばすコースも、静かで美しい田園風景が楽しめます。
ウォーキングに出かける際は、歩きやすい靴(防水性が望ましい)と、天候の変化に対応できる服装(防水ジャケットなど)は必須です。地図やコンパス、あるいはスマートフォンの地図アプリもあると安心。フットパスの入り口には標識がありますが、時には分かりにくい場所もあるので、道に迷ったら無理せず引き返しましょう。風の音、鳥の声、羊の鳴き声だけが聞こえる静かな小道を歩けば、コッツウォルズの魂に触れることができるでしょう。
モデルコース提案 – あなただけのコッツウォルズ旅を
「行ってみたい村はたくさんあるけれど、どういう順番で巡ればいいの?」そんな方のために、滞在日数や交通手段に合わせたモデルコースをいくつか提案します。これを参考に、あなただけのオリジナルな旅の計画を立ててみてください。
1泊2日弾丸ハイライトコース(レンタカー利用)
短い時間でコッツウォルズの「いいとこ取り」をしたい方向けの、レンタカーを駆使した効率重視のコースです。
- 1日目:人気のゴールデンルートを巡る
- 午前: ロンドンまたはヒースロー空港でレンタカーをピックアップし、コッツウォルズへ。最初の目的地は「コッツウォルズのヴェネツィア」、ボートン・オン・ザ・ウォーター。川沿いを散策し、モデル・ヴィレッジを見学。
- 昼食: ボートン・オン・ザ・ウォーターのパブやティールームで。
- 午後: 静寂の双子村、ロワー&アッパー・スローターへ車で移動(約5分)。川沿いをのんびり散策。その後、丘の上のマーケットタウン、ストウ・オン・ザ・ウォルドへ。アンティークショップを覗いたり、聖エドワード教会の不思議な扉を見学したり。
- 夕方〜宿泊: ストウ・オン・ザ・ウォルド、またはその周辺のB&Bやホテルにチェックイン。歴史あるパブでディナーを楽しむ。
- 2日目:「最も美しい村」と映画のロケ地へ
- 午前: 朝一番に「英国で最も美しい村」バイブリーへ。観光客が少ない時間帯に、アーリントン・ロウの幻想的な風景を独り占め。
- 午後: コッツウォルズ南部へドライブし、時が止まった村カッスル・クームへ。完璧な中世の街並みを散策し、小川にかかる橋からの絶景を写真に収める。
- 夕方: カッスル・クームから高速道路M4を経由し、ロンドン方面へ。帰路につく。
3泊4日じっくり満喫コース(公共交通+タクシー)
車の運転はせず、公共交通機関を上手に利用して、コッツウォルズの魅力をじっくり味わうコースです。拠点を一か所に定めるのがポイント。
- 拠点: モートン・イン・マーシュ、またはバスの便が多いボートン・オン・ザ・ウォーター
- 1日目:コッツウォルズの玄関口へ
- 午前〜午後: ロンドン・パディントン駅から鉄道でモートン・イン・マーシュへ。駅周辺のホテルやB&Bにチェックイン。
- 午後: まずは拠点の町を散策。モートン・イン・マーシュならハイ・ストリートの店々を、ボートン・オン・ザ・ウォーターなら川沿いをのんびり歩く。
- 2日目:バスで巡る北部エレガントタウン
- 午前: ローカルバスに乗り、洗練されたマーケットタウン、チッピング・カムデンへ。ハイ・ストリートやマーケット・ホールを見学。
- 昼食: チッピング・カムデンのカフェやパブで。
- 午後: 再びバスに乗り、広々としたハイ・ストリートが魅力のブロードウェイへ。ギャラリーを巡ったり、お土産を探したり。体力に余裕があれば、ブロードウェイ・タワーまでウォーキング。
- 夕方: バスで拠点に戻る。
- 3日目:タクシーやツアーで効率よくハイライトを巡る
- 終日: 公共交通ではアクセスしにくいバイブリーやスローター村、カッスル・クームなどを効率よく巡るため、タクシーを半日チャーターするか、現地発のミニバスツアーに参加。プロのドライバーに任せれば、時間を気にせず安心して観光に集中できる。
- 夕方: 拠点に戻り、最後の夜は少し奮発して美味しいディナーを楽しむ。
- 4日目:最後の散策と帰路
- 午前: 拠点の町で、まだ訪れていない場所を散策したり、お土産を買ったり。ストウ・オン・ザ・ウォルドが拠点から近い場合は、バスで訪れてみるのも良い。
- 午後: モートン・イン・マーシュ駅から鉄道に乗り、ロンドンへ。
1週間滞在型・暮らすように旅するコース
コッツウォルズの真の魅力を体感するための、長期滞在型コース。セルフケータリングのコテージを拠点に、時間に追われず、自由に日々を過ごします。
- 拠点: どこか一つの村にコテージを借りる。少しマイナーな村(ペインズウィック、ウィンチクームなど)を選ぶと、より静かな滞在が楽しめる。
- 過ごし方の例:
- マーケットの日を狙う: 週に一度開かれるファーマーズマーケットへ出かけ、地元の新鮮な野菜やチーズ、パン、肉などを購入。コテージのキッチンで料理を楽しむ。
- フットパス三昧: コッツウォルド・ウェイの一部を歩いたり、地図を片手に近隣の村までウォーキングしたり。毎日違うルートを歩けば、新しい発見があるはず。
- まだ見ぬ村への探訪: 有名な村だけでなく、ガイドブックにはあまり載っていない小さな村(Stanton, Snowshill, Painswickなど)を車やバスで訪ねてみる。自分だけのお気に入りの場所が見つかるかもしれない。
- ガーデン巡り: ヒドコート・マナー・ガーデンやキフツゲート・コート・ガーデンズなど、コッツウォルズ周辺には世界的に有名な庭園が多数。ガーデニング好きなら、毎日違う庭園を訪れるのも一興。
- 何もしない贅沢: コテージの庭で本を読んだり、村のパブで地元の人とおしゃべりしたり。予定を詰め込まず、「何もしない」という贅沢な時間を楽しむ。これが、暮らすように旅する最大の醍醐味。
旅の準備と知っておきたいこと
最高のコッツウォルズ旅行にするために、出発前に知っておきたい実用的な情報と心構えをお伝えします。準備を万端にして、心ゆくまで英国の田園風景を満喫してください。
ベストシーズンはいつ?
コッツウォルズは一年を通して美しいですが、季節ごとに異なる魅力があります。あなたの旅の目的に合わせてベストシーズンを選びましょう。
- 春(4月〜5月):
木々が芽吹き、野原にはワイルドガーリックやブルーベルの花が咲き乱れる生命力に満ちた季節。イングリッシュガーデンも最も華やかになります。日も長くなり始め、ウォーキングにも最適。ただし、天候はまだ不安定で、肌寒い日も多いです。
- 夏(6月〜8月):
一年で最も気候が安定し、日照時間も長くなるベストシーズン。緑は深まり、村々の庭も花で彩られます。観光客で最も賑わう時期でもあり、人気の村や宿泊施設は混雑します。予約は早めに行うのが賢明です。夜9時過ぎまで明るいので、一日中たっぷりと活動できます。
- 秋(9月〜10月):
夏の喧騒が落ち着き、過ごしやすい気候が続きます。木々が色づき始め、コッツウォルズの丘陵地帯が黄金色や赤銅色に染まる様子は格別です。ハチミツ色の家並みと紅葉のコントラストは、写真好きにはたまらないでしょう。少し寂しげでロマンティックな雰囲気を楽しめます。
- 冬(11月〜2月):
観光客が最も少なく、静かなコッツウォルズを味わえる季節。日は短いですが、運が良ければ雪化粧した幻想的な村の姿に出会えるかもしれません。この季節の最大の魅力は、パブの暖炉です。冷えた体を暖炉の火で温めながら、エールやホットワインを飲む時間は、冬ならではの至福のひとときです。クリスマスシーズンには、マーケットが開かれる村もあります。
服装と持ち物
英国の天気は「一日に四季がある」と言われるほど変わりやすいのが特徴です。特にコッツウォルズのような丘陵地帯では、天候の急変に備えることが重要です。
- 服装の基本は「重ね着(レイヤリング)」:
気温の変化にすぐ対応できるよう、Tシャツやシャツの上にフリースやセーター、そしてジャケットを羽織るなど、着脱しやすい服装を心がけましょう。
- 歩きやすい靴は必須:
村の中は石畳や坂道が多く、フットパスを歩くならなおさらです。履き慣れた、クッション性の良いウォーキングシューズやスニーカーが必須です。防水性のあるものだと、急な雨やぬかるんだ道でも安心です。
- 防水性のあるアウター:
折り畳み傘も便利ですが、風が強いことも多いので、フード付きの防水ジャケット(レインウェア)があると両手が空いて便利です。
- その他の必需品:
- 変換プラグ: 英国はBFタイプです。
- 日焼け止め・サングラス: 夏はもちろん、他の季節でも日差しが強いことがあります。
- モバイルバッテリー: 地図アプリや写真撮影でスマートフォンのバッテリー消費が激しくなります。
- 現金: 小さな村の無人販売や、一部の小さな店ではカードが使えない場合も。少額の現金(ポンド)を持っていると便利です。
コッツウォルズを旅する上での心構え
最後に、この美しい土地を訪れる上での心構えをいくつか。
- 住民の生活に配慮する:
コッツウォルズは観光地であると同時に、人々が生活を営む場所です。美しいコテージも個人の住居です。敷地内に無断で入ったり、窓から中を覗き込んだりする行為は絶対にやめましょう。写真を撮る際も、住民の方への配慮を忘れずに。
- ゆっくりとした時間の流れを楽しむ:
都会の喧騒から離れ、この地に流れる穏やかな時間を楽しむことが、コッツウォルズ旅行の醍醐味です。スケジュールを詰め込みすぎず、気に入った場所でただカフェの椅子に座って景色を眺めたり、川のせせらぎに耳を澄ませたりする時間を大切にしてください。
- 不便さも旅の味と捉える:
バスが時間通りに来なかったり、お目当ての店が閉まっていたり。田舎町では、都会のように全てが便利に進むわけではありません。しかし、そんな予期せぬ出来事や不便さも、旅の思い出の一部です。完璧な計画通りに進まなくても、その場の状況を楽しみ、柔軟に対応する心の余裕を持ちましょう。
ハチミツ色の石が紡ぐ歴史と、豊かな自然が織りなす風景。コッツウォルズは、訪れる人々の心に、温かく優しい光を灯してくれる特別な場所です。さあ、あなただけの物語を探しに、英国で最も美しい村々へ出かけてみませんか。

