ヨーロッパとアジア、二つの大陸にまたがるエキゾチックな国、トルコ。イスタンブールの歴史的な街並み、カッパドキアに浮かぶ無数の気球、そしてエーゲ海に広がるターコイズブルーの海岸線。どこを切り取っても絵になるこの国を旅するなら、その感動を特別な形で記録に残したいと思いませんか。
近年、旅の新しい楽しみ方として人気を集めているのがドローンによる空撮です。地上からでは決して見ることのできない壮大なスケールで、トルコの絶景を映像に収める。それはまるで、自分だけの映画を撮影しているかのような、格別な体験となるでしょう。私たち夫婦も、旅先でドローンを飛ばし、その土地の美しさを新たな視点から発見することに夢中になっています。
しかし、心躍る空撮の旅を実現するためには、避けては通れない大切な準備があります。それが、現地の法律やルールを正しく理解し、必要な手続きを行うことです。特にトルコは、ドローンに関する規制が世界的に見ても厳しい国の一つとして知られています。何も知らずにドローンを持ち込み、飛ばしてしまった結果、高額な罰金や機体の没収、最悪の場合は法的なトラブルに巻き込まれてしまう…なんてことになったら、せっかくの楽しい旅が台無しです。
この記事では、これからトルコでドローン撮影を計画されている方、特に私たちと同じようにゆとりある旅を楽しむシニア世代の皆様に向けて、複雑で少し難しく感じるトルコのドローン規制について、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説していきます。面倒な手続きも、一つひとつ手順を追っていけば決して難しいものではありません。この記事を読めば、安心してトルコの空へご自身のドローンを飛ばすための、全ての準備が整うはずです。さあ、一緒に特別な旅の扉を開きましょう。
なぜトルコでドローン撮影が注目されるのか?

世界中に美しい景色は数あれど、なぜこれほどまでに多くの人々がトルコでのドローン撮影に魅了されるのでしょうか。その理由は、この国が持つ他に類を見ない、多様でドラマチックな風景にあります。
空から見たい、息をのむ絶景の数々
地上から眺めるだけでも十分に美しいトルコの景色ですが、空からの視点を得ることで、その魅力は何倍にも増幅されます。想像してみてください。
カッパドキアの奇岩群と気球の絨毯
トルコといえば、まず思い浮かぶのがカッパドキアの幻想的な風景ではないでしょうか。「妖精の煙突」と呼ばれる奇岩群が大地に林立し、まるで異世界に迷い込んだかのよう。そして、そのハイライトはなんといっても早朝です。夜の帳が明け、空が白み始めると、大地から色とりどりの巨大な気球が次々と浮かび上がり、空を埋め尽くします。地上から見上げる気球も美しいですが、ドローンを使えば、その気球の群れと同じ目線で、あるいはそれらを見下ろしながら、眼下に広がる奇岩群と共に一枚の絵画のような映像を撮影できるのです。朝日を浴びて輝く大地と、空に広がる気球の絨毯。この光景を自分の手で撮影できた時の感動は、一生忘れられない宝物になるでしょう。
パムッカレの純白の石灰棚
「綿の城」を意味するパムッカレ。長い年月をかけて温泉水に含まれる石灰が沈殿し、丘の斜面を覆い尽くしてできた純白の棚田は、まさに自然が作り出した芸術品です。空から見ると、幾重にも重なる白い棚田に溜まった青い温泉水が、まるで宝石のようにきらめいているのが分かります。地上からは見ることのできない、その幾何学的な美しさや全体のスケール感を捉えられるのは、ドローン撮影ならではの特権です。太陽の光の角度によって刻一刻と表情を変える石灰棚を、ゆっくりと上空から撮影する時間は、まさに至福のひとときです。
エーゲ海・地中海のターコイズブルーの海岸線
トルコの南部には、世界中の人々を魅了してやまない美しい海岸線が延々と続いています。「トルコ石」の色を意味するターコイズブルーの海は、息をのむほどの透明度を誇ります。入り組んだ入り江、断崖絶壁に打ち寄せる白い波、そして点在する古代遺跡。こうした海岸線のダイナミックな景観を余すところなく捉えるには、ドローンの力が不可欠です。ボートでしか近づけないような秘密のビーチを上空から発見したり、紺碧の海と緑豊かな断崖のコントラストを捉えたりと、その可能性は無限に広がります。
イスタンブールの歴史が交差する街並み
アジアとヨーロッパの文化が融合する魅惑の都市、イスタンブール。ブルーモスクの荘厳なドームとミナレット(尖塔)、アヤソフィアの圧倒的な存在感、そして金角湾を忙しく行き交う船。これらの歴史的建造物や活気ある港の様子を上空から俯瞰すれば、この街が歩んできた何千年もの歴史の重みと壮大さを肌で感じることができるでしょう。ただし、イスタンブールのような大都市での撮影は、後述するように特に厳しい規制があるため、細心の注意が必要です。
他の旅行者とは一味違う、特別な旅の記録
スマートフォンやカメラで写真を撮るのも素晴らしい旅の記録ですが、ドローンがもたらす映像は、全く新しい次元の感動を与えてくれます。滑らかに空を移動しながら撮影された映像は、旅の記憶をより鮮やかに、そしてドラマチックに蘇らせてくれるでしょう。
旅から戻り、リビングの大きな画面でトルコの雄大な景色を映し出せば、あの時の感動が再び胸に込み上げてきます。ご家族や友人と一緒に映像を観ながら、旅の思い出を語り合う時間もまた、格別なものになるはずです。SNSで共有すれば、多くの人々がその美しさに驚き、感動してくれることでしょう。
私たちシニア世代にとって、ドローンは新しい趣味の世界を広げてくれる素晴らしいツールでもあります。少し操作を覚えれば、誰でもプロのような映像を撮ることができる。それは、旅の楽しみ方をより深く、より創造的なものへと変えてくれます。トルコの絶景は、そんな私たちの探求心を掻き立てる、最高の被写体なのです。
トルコのドローン規制:知っておくべき基本ルール

トルコでの素晴らしい空撮体験を実現するためには、まずこの国のドローンに関するルールを正しく理解することが不可欠です。トルコの規制は非常に体系的かつ厳格に定められており、知らなかったでは済まされないケースが多々あります。ここでは、その基本となる部分を丁寧に解説していきます。
管轄機関はどこ?トルコ民間航空総局(SHGM)
トルコにおけるドローンの登録、許可、規制の全てを管轄しているのは、「トルコ民間航空総局(Sivil Havacılık Genel Müdürlüğü)」、通称「SHGM」です。日本でいう国土交通省航空局のような役割を担う政府機関で、ドローンに関するあらゆる公式情報は、このSHGMのウェブサイトから発信されます。
個人ブログやSNSの情報も参考にはなりますが、規制は頻繁に更新される可能性があります。したがって、トルコへの渡航前には、必ずSHGMの公式ドローン情報ポータルを確認する習慣をつけてください。このサイトが、これからご説明する全ての申請手続きの窓口となります。サイトは主にトルコ語で記載されていますが、ウェブブラウザの翻訳機能を使えば、内容を十分に理解することが可能です。
ドローンの重量によるクラス分け
トルコの規制の根幹をなしているのが、ドローンの最大離陸重量(バッテリーなどを含んだ総重量)に基づくクラス分けです。このクラスによって、登録義務や必要なライセンス、飛行許可の要件が大きく異なります。
- UAV0: 最大離陸重量が500g以上、4kg未満のドローン
- UAV1: 最大離陸重量が4kg以上、25kg未満のドローン
- UAV2: 最大離陸重量が25kg以上、150kg未満のドローン
- UAV3: 最大離陸重量が150kg以上のドローン
さて、ここで多くの方が疑問に思うのは、「500g未満のドローンはどうなるのか?」という点でしょう。以前は、500g未満のドローン(例えば、DJI Miniシリーズの初期モデルなど)は登録が免除されていました。しかし、現在の規則では、500g未満のドローンであっても、趣味目的で飛行させる場合はSHGMへの登録が義務付けられています。 この点は非常に重要な変更点ですので、お持ちのドローンが軽量モデルであっても、必ず登録が必要であると覚えておいてください。
私たちが旅行で一般的に使用するドローンの多く、例えばDJI社のMavicシリーズやAirシリーズ、そして現行のMiniシリーズ(249gを超えるモデル)などは、ほとんどが「UAV0」クラスに該当します。この記事では、主にこの「UAV0」クラスのドローンを趣味目的で飛行させる場合を想定して解説を進めていきます。
飛行禁止区域(No-Fly Zones)を必ず確認
トルコでは、国の安全保障や公共の安全、プライバシー保護の観点から、ドローンの飛行が固く禁じられているエリア(No-Fly Zones)が広範囲に設定されています。これらの場所で許可なくドローンを飛行させることは重大な法律違反となり、厳しい罰則の対象となります。
具体的に、以下のような場所とその周辺は原則として飛行禁止です。
- 空港やヘリポートの周辺: 通常、空港から半径9km以内は厳しく制限されています。
- 軍事施設・基地、警察署、沿岸警備隊の施設: 国の安全保障に直結するため、絶対に近づいてはいけません。
- 政府関連の重要施設: アンカラにある大統領官邸、国会議事堂、各省庁の建物など。
- 刑務所や拘置所
- エネルギー関連施設: 発電所、石油・ガスのパイプラインや貯蔵施設など。
- 歴史的・文化的に重要な建造物の上空: イスタンブールのアヤソフィア、ブルーモスク、トプカプ宮殿など、多くの観光名所が該当します。これらの場所を撮影したい場合は、建造物から十分に離れた、許可された場所から撮影する必要があります。
- 国立公園や自然保護区: 事前に特別な許可が必要です。
- 大規模な集会やイベント会場の上空
これらの飛行禁止区域は、SHGMのウェブサイトで地図情報として提供されています。ドローンを飛ばす計画を立てる際には、必ずこの地図で飛行予定地が禁止区域に含まれていないかを確認してください。
もし禁止区域で無許可でドローンを飛行させた場合、その場で警察や憲兵隊(ジャンダルマ)に拘束され、機体の没収はもちろんのこと、高額な罰金(数十万円以上にのぼることもあります)が科せられます。さらに、悪質なケースと判断されれば、刑事罰の対象となり、逮捕・訴追される可能性もゼロではありません。
「少しだけなら大丈夫だろう」という安易な考えは、トルコでは全く通用しません。ルールを厳守することが、安全で楽しいドローン撮影の第一歩です。
【最重要】外国人旅行者がトルコでドローンを飛ばすためのステップ

さて、ここからが本題です。私たち外国人旅行者が、トルコで合法的にドローンを飛ばすためには、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。プロセスは大きく分けて「機体と操縦者の事前登録」と「飛行ごとの許可申請」の二段階になります。少し手間はかかりますが、一つひとつ丁寧に進めていきましょう。
ステップ1:トルコ民間航空総局(SHGM)への事前登録
トルコ国内でドローンを飛行させる全ての人は、国籍を問わず、事前にSHGMのシステムに操縦者情報と機体情報を登録することが義務付けられています。この手続きは、トルコへ出発するかなり前(少なくとも1ヶ月前を推奨)に、オンラインで済ませておく必要があります。
必要なものは?
登録手続きをスムーズに進めるために、あらかじめ以下のものを準備しておきましょう。
- パスポート: 身分証明として、顔写真ページの鮮明なスキャンデータまたは写真が必要です。
- ドローン本体: メーカー名、モデル名、シリアルナンバーが必要です。シリアルナンバーは機体本体や購入時の箱、アプリの機体情報画面などで確認できます。
- 技術適合宣言書(Declaration of Conformity): これは、そのドローン製品がEUの安全基準に適合していることを証明する書類です。通常、DJIなどの大手メーカーのウェブサイトから、お使いのモデルのものをPDF形式でダウンロードできます。「(モデル名) Declaration of Conformity」などで検索してみてください。
- トルコの電話番号(またはSIMカード): 登録プロセスで、SMS認証が必要になる場合があります。トルコ到着後に現地のSIMカードを購入する予定の方は、その番号を使って登録することも可能ですが、できれば日本で入手できる海外用eSIMなどでトルコの番号を事前に確保しておくと、渡航前に手続きを完了できるので安心です。
- トルコでの滞在先住所: ホテルの住所などで構いません。
登録プロセスの流れ
登録は、前述のSHGM公式ドローン情報ポータルから行います。サイトはトルコ語ですが、慌てる必要はありません。ブラウザの翻訳機能を使いながら、以下の手順で進めてください。
- アカウントの作成: サイトにアクセスし、「Kayıt Ol」(登録)またはそれに相当するボタンを探します。個人登録のページに進み、「Yabancı」(外国人)を選択します。
- 個人情報の入力: パスポート番号、氏名、生年月日、国籍、メールアドレス、電話番号、トルコでの滞在先住所などを、指示に従って入力していきます。パスポートのスキャンデータもここでアップロードします。
- 機体情報の登録: 次に、お持ちのドローンの情報を登録します。「Yeni Kayıt」(新規登録)などのメニューから、メーカー、モデル、シリアルナンバー、重量などを入力します。技術適合宣言書(Declaration of Conformity)のPDFファイルもアップロードを求められます。
- 申請の送信と承認待ち: 全ての情報を入力し終えたら、申請を送信します。その後、SHGMの担当者による内容の確認が行われます。この審査には数日から数週間かかることがあります。そのため、出発ギリギリではなく、時間に十分な余裕をもって申請することが非常に重要です。
- 登録完了の確認: 申請が承認されると、登録完了の通知がメールで届きます。これで、あなたの名前とドローンがSHGMのシステムに正式に登録されたことになります。この登録完了通知のメールは、後々必要になることがあるので、必ず保存し、スクリーンショットを撮ったり、印刷したりして携帯するようにしましょう。
私たち夫婦も最初にこの手続きをした際は、トルコ語のサイトに少し戸惑いましたが、翻訳機能を頼りに一つずつ進めていくことで、無事に登録を終えることができました。焦らず、丁寧に入力することが成功の鍵です。
ステップ2:飛行許可の申請(フライトごと)
SHGMへの登録が完了しただけでは、まだトルコでドローンを飛ばすことはできません。次に、実際にドローンを飛ばしたい場所と日時について、その都度、飛行許可を申請する必要があります。この手続きも、同じくSHGMのポータルサイトから行います。
どこで、いつ申請するのか?
飛行許可の申請は、SHGMのポータルにログインし、あなたの登録情報に紐づけられた管理画面から行います。「Uçuş İzni Başvurusu」(飛行許可申請)といったメニューを探してください。
申請のタイミングは、飛行を希望する日の少なくとも10営業日前までと定められています。土日祝日はカウントされないため、実質的には2週間以上の余裕を見ておくと安心です。例えば、カッパドキアで特定の日に気球と一緒に撮影したい、というような明確な計画がある場合は、その日程が決まり次第、速やかに申請手続きに入りましょう。
申請フォームには、以下のような情報を詳細に記入する必要があります。
- 飛行目的: 「Hobi/Eğlence」(趣味/レクリエーション)を選択します。
- 飛行日時: 飛行を開始する日時と、終了する日時を正確に指定します。
- 飛行場所: ここが最も重要です。地図上で飛行させたいエリアを正確に指定します。緯度経度の座標を入力するか、地図上のポリゴン(多角形)で範囲を指定する形式が一般的です。
- 最大飛行高度: 地上からの最大高度を指定します。趣味目的の場合、通常は120メートルが上限です。
- 使用するドローン: 事前に登録した自分の機体リストから選択します。
全ての情報を入力したら申請を提出し、SHGMからの承認を待ちます。承認されると、許可証が発行され、システム上で確認できるようになります。この許可証も、飛行時には必ず携帯(スマートフォンに表示できる状態、または印刷)しておく必要があります。
申請が許可されるためのポイント
全ての申請が必ず許可されるわけではありません。許可を得る確率を高めるためには、以下の点に注意してください。
- 飛行禁止区域を避ける: 申請前に、飛行予定地が前述の飛行禁止区域(No-Fly Zones)にかかっていないか、SHGMの地図で入念に確認しましょう。少しでも禁止区域にかかっていると、申請は即座に却下されます。
- 人口密集地を避ける: イスタンブールやアンカラなどの大都市の中心部や、観光客で賑わうビーチなど、人の多い場所での飛行許可は非常に降りにくいのが実情です。安全上のリスクが高いと判断されるためです。できるだけ、開けていて人が少ない郊外や自然の中で計画を立てるのが賢明です。
- 申請内容を正確に: 座標や日時の入力ミスがないように、慎重に確認しましょう。不備があると、それだけで審査が遅れたり、却下されたりする原因になります。
この飛行ごとの許可申請は、旅のスケジュールをかなり具体的に、かつ事前に固める必要があるため、少し窮屈に感じるかもしれません。しかし、これがトルコのルールです。むしろ、このプロセスを通じて、どこでどんな映像を撮りたいか、じっくりと計画を練る良い機会だと捉えるのも一つの楽しみ方かもしれません。
特別許可が必要なケース
趣味の範囲を超えるような特殊な飛行には、さらに複雑な手続きと追加のライセンスが必要となります。私たち一般の旅行者がこれらの許可を得るのは非常に困難ですが、知識として知っておきましょう。
- 夜間飛行: 日没後から日の出前までの飛行は、原則として禁止されています。特別な許可が必要ですが、趣味目的ではまず認められません。
- 人口密集地上空での飛行: 前述の通り、原則禁止です。商業撮影などでどうしても必要な場合は、追加の安全対策などを盛り込んだ詳細な計画書を提出し、特別な審査を受ける必要があります。
- 目視外飛行(BVLOS): 操縦者からドローンが直接見えない範囲まで飛行させることは禁止されています。
- 商業目的の撮影: 営利目的でドローンを飛行させる場合は、トルコで有効なドローン操縦士ライセンスを取得し、トルコ国内で法人を設立するか、現地の制作会社と提携するなど、全く異なる手続きが必要となります。
旅行で楽しむ範囲であれば、これらの特殊な飛行は避け、日中の、開けた場所での、目視内飛行に徹することが、トラブルを避ける上で最も重要です。
持ち込みは?税関での注意点

無事にSHGMへの登録を済ませ、いよいよトルコへ出発。しかし、空港に到着した際にも、いくつか注意すべき点があります。ドローンは精密機器であり、バッテリーは危険物として扱われるため、その輸送と税関での手続きには配慮が必要です。
ドローン本体とバッテリーの機内持ち込み
まず、航空機での輸送ルールを遵守しましょう。これはトルコの法律というより、国際的な航空安全規則に基づいています。
- ドローン本体: 本体は、衝撃から守るために専用ケースなどに入れ、預け入れ荷物(受託手荷物)にすることも、機内持ち込み手荷物にすることも可能です。ただし、高価な機材ですので、盗難や破損のリスクを考えると、できるだけ機内持ち込みにすることをおすすめします。
- リチウムイオンバッテリー: ドローンのバッテリーは、必ず機内持ち込み手荷物に入れなければなりません。預け入れ荷物に入れることは固く禁じられています。これは、リチウムイオンバッテリーが気圧の変化や衝撃によって発火する危険性があるためです。
- バッテリーの梱包: バッテリーは、ショート(短絡)を防ぐために、購入時のケースに入れたり、端子部分をテープで絶縁したりして、一つひとつ個別に保護した状態で持ち込むことが推奨されています。また、多くの航空会社では、持ち込めるバッテリーの容量(Wh)や個数に制限を設けています。搭乗する航空会社のウェブサイトで、事前に規定を必ず確認しておきましょう。
税関での申告とSHGMの登録証明
トルコの空港に到着し、入国審査を終えて荷物を受け取った後、税関検査(Gümrük)を通過します。ここで、職員からドローンの持ち込みについて質問される可能性があります。
トルコでは、未登録のドローンを国内に持ち込むことを規制しており、税関で差し止められるケースが報告されています。もし税関職員に声をかけられたら、慌てずに以下の対応をしてください。
- 正直に申告する: 「ドローンを持っていますか?」と聞かれたら、「はい、趣味の撮影用のドローンです」と正直に答えましょう。
- SHGMの登録証明を提示する: ここで非常に重要になるのが、事前に済ませたSHGMへの登録証明です。登録完了時に受け取ったメールのコピーや、登録情報が記載されたポータルサイトの画面のスクリーンショットなどを印刷して、パスポートと一緒にすぐに提示できるように準備しておきましょう。「トルコの法律に従い、民間航空総局(SHGM)に正式に登録済みです(Türkiye kurallarına uygun olarak Sivil Havacılık Genel Müdürlüğü’ne kaydım yapıldı)」と伝えられれば完璧です。
- 冷静に対応する: 万が一、職員が規則をよく理解しておらず、機体を一時預かりにしようとする可能性もゼロではありません。その場合も感情的にならず、登録済みであることを冷静に、繰り返し説明してください。
事前に正規の手続きを踏んでいれば、何も恐れることはありません。堂々と登録証明を提示することが、スムーズな入国のための最大の防御策となります。逆に、未登録のまま持ち込もうとすると、機体を空港の税関倉庫に預け、出国時に引き取る形になったり、最悪の場合は没収されたりするリスクがあります。必ず、渡航前に登録を済ませておきましょう。
現地でのドローン飛行!安全に楽しむためのルールとマナー

さて、全ての公式な手続きをクリアし、いよいよトルコの美しい大地でドローンを飛ばす時が来ました。しかし、許可を得たからといって、何をしても良いわけではありません。安全に、そして周囲に迷惑をかけずに楽しむための、現場でのルールとマナーがあります。
守るべき飛行ルール
これらは、トルコだけでなく世界中の多くの国で共通する、ドローン飛行の基本原則です。
- 常に目視できる範囲で飛行させる(VLOS): ドローンが自分の目で直接見える範囲を超えて飛行させてはいけません。遠くまで行き過ぎて機影を見失うと、位置感覚が分からなくなり、墜落や衝突のリスクが格段に高まります。
- 最高高度は地上120メートルまで: 趣味目的の飛行では、飛行させる場所の真上の地上から120m(約400フィート)が上限です。これ以上の高度で飛行させると、小型飛行機などと衝突する危険性があります。
- 人や建物、車両からの安全な距離を保つ: 人の真上を飛行させることは絶対に避けてください。また、建物や走行中の車、船舶などからも、万が一の墜落時に被害を及ぼさないよう、十分な距離(一般的には30〜50メートル以上)を保つ必要があります。
- プライバシーの尊重: 他人の私有地(家や庭など)の上空を無断で低空飛行したり、個人のプライバシーを侵害するような撮影を行ったりしてはいけません。これは法的なトラブルに発展する可能性のある、非常にデリケートな問題です。
- 天候の確認: 強風、雨、雪、霧などの悪天候時には、ドローンを飛行させてはいけません。機体が不安定になり、墜落のリスクが高まるだけでなく、電子機器が故障する原因にもなります。飛行前には必ず現地の天気予報を確認しましょう。
トルコならではの注意点
国際的な基本ルールに加え、トルコという土地柄を考慮した配慮も大切です。
周囲への配慮とコミュニケーション
ドローンは、プロペラが回転する際に独特の「ブーン」という飛行音を発します。静かな自然の中や、歴史的な遺跡のそばでは、この音が意外と大きく響き、他の観光客の静かな鑑賞の妨げになったり、現地の人々に不快感を与えたりすることがあります。
ドローンを離陸させる前には、必ず周囲を見渡し、人が密集していないか、迷惑になりそうな状況ではないかを確認しましょう。もし近くに人がいる場合は、「少しだけドローンを飛ばしてもいいですか?(Biraz dron uçurabilir miyim?)」と一声かけるだけで、相手の印象は大きく変わります。
また、特に地方では、ドローンという機械自体に馴染みのない方もいらっしゃいます。警察官や、施設の警備員、あるいは一般の方から「それは何だ?」「ここで飛ばしていいのか?」と声をかけられることもあるでしょう。そんな時こそ、冷静に対応するチャンスです。
- 許可証を見せる: まずは笑顔で挨拶し、SHGMから発行された飛行許可証(スマートフォンの画面や印刷したもの)を見せましょう。公的な書類があることで、相手も安心します。
- 目的を説明する: 「趣味で風景を撮影しています(Hobi olarak manzara çekiyorum)」と、簡単な言葉で目的を伝えましょう。
- 簡単なトルコ語: いくつか覚えておくと、コミュニケーションが格段にスムーズになります。
- こんにちは:Merhaba (メルハバ)
- ありがとう:Teşekkür ederim (テシェッキュル・エデリム)
- 許可があります:İznim var (イズニム・ヴァル)
- 問題ありません:Sorun yok (ソルン・ヨック)
威圧的な態度を取られたり、言葉が通じなかったりしても、決して感情的にならず、丁寧な態度を心がけることが大切です。誠実な対応は、万国共通のコミュニケーションの鍵です。
宗教施設や遺跡周辺での飛行
トルコはイスラム教を主な信仰とする国であり、モスクは人々にとって非常に神聖な場所です。多くの有名なモスクは飛行禁止区域に指定されていますが、もし許可されたエリアからモスクを撮影する場合でも、最大限の敬意を払う必要があります。特に、1日に5回行われる礼拝(エザーン)の時間帯に、モスクの近くでドローンを飛ばすのは避けるべきです。静寂の中で祈りを捧げる人々の邪魔をすることは、絶対にあってはなりません。
また、トルコ全土に点在する古代ギリシャ・ローマ時代の遺跡や、ヒッタイト帝国の遺跡なども、非常にデリケートな場所です。ドローンの風圧(ダウンウォッシュ)が、脆くなっている石造りの建造物にダメージを与えてしまう可能性も考慮しなければなりません。遺跡を撮影する際は、建造物の上空を直接飛行するのではなく、十分な距離と高さを保ち、その壮大な全景を捉えるように心がけましょう。
シニア世代の旅に役立つ!トルコの治安と医療情報

ドローン撮影という新しい楽しみが加わると、旅はより一層充実したものになります。しかし、高価な機材を持ち歩き、撮影に集中する時間は、同時に少し注意が必要な時間でもあります。私たちシニア世代が、安心してゆとりある旅を続けるために、安全対策や健康管理についても触れておきたいと思います。
ドローン撮影時の安全確保
ドローンやコントローラー、予備バッテリー、カメラといった機材一式は、高価で狙われやすい物品です。特に、イスタンブールのスルタンアフメット地区やグランドバザール周辺など、観光客で混み合う場所では、スリや置き引きに対する注意が常に必要です。
- 機材から目を離さない: 撮影場所を探して歩いている時や、撮影の準備・撤収作業をしている時など、少しの油断が命取りになります。リュックサックは前に抱えるように持つ、カフェで休憩する際も機材の入ったバッグは必ず膝の上か、視界に入る場所に置くなど、基本的な注意を徹底しましょう。
- 撮影に夢中になりすぎない: ファインダーやモニター越しの美しい世界に没頭していると、周囲への注意が散漫になりがちです。背後から近づいてくる人や、自分の足元など、周囲の状況にも常に気を配る癖をつけましょう。可能であれば、ご夫婦やパートナーと一緒に行動し、一人が操縦している間、もう一人が周囲を見守るという役割分担をするのが理想的です。
- 人目につかない場所で準備する: 機材を広げる際は、大通りの真ん中などではなく、少し落ち着いた場所を選びましょう。「ここに高価な機材がある」と公言しているようなものですから、できるだけ目立たないように準備・撤収を行うのが賢明です。
もしもの時のために:現地の医療事情 旅先で最も避けたいのが、病気や怪我です。慣れない環境での疲れや、ドローン操作中の不慮の事故など、万が一の事態に備えておくことは、心のゆとりにも繋がります。 私たちも、長期滞在の際には、滞在先の近くにある日本語通訳サービスのある病院や、保険会社と提携している病院のリストを事前に作成して持参するようにしています。使わずに済むのが一番ですが、「いざという時にはここに連絡すれば大丈夫」という安心感があるだけで、旅の質は大きく変わるものです。 ここまで、トルコでドローンを撮影するための法律、申請手続き、そして安全対策について、詳しく解説してきました。正直なところ、他の国に比べて手続きが複雑で、時間もかかるのは事実です。そのプロセスの多さに、少し気後れしてしまった方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、この一つひとつのステップは、トルコという国が、その貴重な文化遺産や自然、そしてそこに住む人々の安全をいかに大切にしているかの表れでもあります。私たち旅行者は、その国にお邪魔させてもらう「ゲスト」であるという意識を持ち、定められたルールに敬意を払うことが、真の国際交流の第一歩なのではないでしょうか。 面倒な手続きを乗り越えた先には、間違いなく、言葉を失うほどの絶景があなたを待っています。ルールを守って許可を得た者だけが見ることのできる、特別な景色です。カッパドキアの空に舞う気球の群れを、自分のドローンで追いかけた時の高揚感。パムッカレの純白の石灰棚が、モニターの中で壮大なアートに変わる瞬間。それは、他のどんな旅の思い出とも比べられない、格別な体験となるはずです。 最後に、最も重要なことをもう一度お伝えします。ドローンに関する規制は、技術の進歩や社会情勢の変化に伴い、常に変わる可能性があります。この記事は2024年現在の情報に基づいていますが、あなたが旅立つ前には、必ずトルコ共和国文化観光省の公式サイトや、何よりも管轄機関であるSHGMの公式ウェブサイトで、最新の情報を自らの目で確認してください。 準備を万全に整え、ルールとマナーを守れば、トルコの空は、きっとあなたを温かく迎え入れてくれるでしょう。さあ、カメラと、少しの勇気を持って、まだ誰も見たことのないあなただけのトルコを探す旅に出かけましょう。素晴らしい空の旅になることを、心から願っています。トルコの空が、あなたを待っている


