どこまでも続く青い空、天を衝くようにそびえ立つ4000m級の山々、そして太陽の光を浴びてきらめくブドウ畑。スイスと聞けば多くの人が思い浮かべるであろう、そんな理想郷のような風景が、ここヴァレー州には広がっています。
アルプスの象徴マッターホルンを擁するツェルマットはもちろんのこと、ヨーロッパ最大のアレッチ氷河、歴史ある古城が佇む州都シオン、そしてスイスワインの故郷としても知られるこの土地は、訪れる人々の五感を刺激し、忘れられない感動を与えてくれます。
世界30か国を旅してきた私にとっても、ヴァレー州の風景は特別なもの。ただ美しいだけではない、自然の厳しさと、その中で育まれた人々の温かい文化が、深く心に刻まれています。
「スイス旅行を計画しているけれど、どこに行こうか迷っている」 「ハイキングや美食、文化体験など、欲張りに楽しみたい」
そんなあなたにこそ、ヴァレー州の旅をおすすめします。この記事では、ヴァレー州の基本情報から、絶対に外せない観光スポット、現地でしかできない特別な体験、そして旅行の計画に役立つ具体的な情報まで、私の経験を交えながら余すところなくお伝えします。さあ、一緒にアルプスの心臓部へと、心躍る旅に出かけましょう。
このヴァレー州での心躍る旅の先に、もしヨーロッパの新たな魅力に触れたいと感じたら、時が止まったかのようなルーマニアの秘境、マラムレシュで独自の文化に触れる旅もおすすめです。
ヴァレー州ってどんなところ?アルプスの心臓部で輝く宝石

まずは私たちがこれから訪れるヴァレー州がどのような場所か、その魅力の輪郭をつかんでみましょう。基本を押さえておくことで、旅がより深く、さらに楽しいものになりますよ。
地理と気候:太陽に祝福された大地
ヴァレー州(ドイツ語ではヴァリス州)は、スイスの南西部に位置し、イタリアとフランスの国境に接しています。州の真ん中を流れるのはヨーロッパ有数の大河ローヌ川。その源泉であるローヌ氷河からレマン湖まで続く壮大なローヌ谷を軸に、多くの支谷が複雑に入り組んでいます。
この地形こそが、ヴァレー州に多彩な風景をもたらす秘密です。さらに特筆すべきは気候で、高いアルプスの山々に囲まれているため湿った空気が遮られ、乾いた晴天の日が非常に多いのが特徴です。「年間300日晴れ」とも称され、スイス国内でも屈指の太陽の恵みを受ける地域となっています。
こうした気候のおかげで、夏はハイキングやサイクリング、冬はスキーやスノーボードと、通年を通してアウトドアスポーツが楽しめます。
旅の服装はどう整える?
服装選びは旅の準備で重要なポイントですよね。ヴァレー州を訪れる際に特に意識したいのは「レイヤリング(重ね着)」です。谷底の街と山の展望台では、同じ日の中でも15度以上気温が異なることが珍しくありません。
- 夏の期間(6月~9月)
谷沿いの街では日中は半袖でも快適ですが、朝晩は冷え込みます。ハイキングに出るなら、速乾性のTシャツの上に薄手のフリースやウインドブレーカーを重ねられる服装がおすすめです。標高3000mを超える展望台に行く場合は、軽いダウンジャケットやニット帽、手袋があると安心です。年中日差しが強いため、サングラスと日焼け止めも必ず携帯しましょう。
- 冬の期間(12月~3月)
街中でも氷点下になるのが普通です。保温性の高いインナー、フリースやセーター、防水・防風性のあるアウター(スキーウェアなど)が必須です。足元は防水性があり滑りにくいスノーブーツが最適。加えてカイロ、厚手の靴下、ネックウォーマーも忘れずに準備してください。
天気は急変することが頻繁にあるので、出発前に天気予報をチェックし、いつでも一枚多く羽織れるものを携帯するのがアルプスの旅の鉄則です。
二つの言語が織りなす文化:ドイツ語圏とフランス語圏
ヴァレー州のユニークな特徴の一つは、州内で二つの公用語が共存していることです。東部のツェルマットやアレッチ氷河を含む「上ヴァレー(Oberwallis)」はドイツ語圏、一方、西部の州都シオンやワイン産地が広がる「下ヴァレー(Bas-Valais)」はフランス語圏になります。
言葉の境界線はローヌ谷のプフィン・フィンゲスの森周辺にあり、この付近では標識や人々の話す言葉がガラリと変わるのを実感できます。もちろん観光地では英語も通じますが、現地の言葉で挨拶をすると、より心温まる交流が生まれるかもしれません。
- ドイツ語圏での挨拶:
- こんにちは:Grüezi(グリュエツィ)
- ありがとう:Danke(ダンケ)
- さようなら:Uf Wiederluege(ウフ・ヴィーダルエゲ)
- フランス語圏での挨拶:
- こんにちは:Bonjour(ボンジュール)
- ありがとう:Merci(メルシー)
- さようなら:Au revoir(オルヴォワール)
食文化にも違いがあり、ドイツ語圏ではソーセージやジャガイモを使った力強く素朴な料理が楽しめる一方、フランス語圏では洗練されたチーズやワイン文化が根付いています。ひとつの州で二つの文化圏を巡れるのは、ヴァレー州ならではの魅力です。
ヴァレー州へのアクセス手段
日本からヴァレー州へ向かう際、主要な玄関口になるのはジュネーブ空港かチューリッヒ空港です。どちらの空港からも、世界に誇るスイスの鉄道網を使って快適にアクセスできます。
- ジュネーブ空港から: フランス語圏のマルティニー(Martigny)まで約1時間45分、ドイツ語圏のブリーク(Brig)まで約2時間30分です。
- チューリッヒ空港から: ブリークまで約2時間15分、フィスプ(Visp)経由でツェルマットまで約3時間15分かかります。
空港にあるスイス連邦鉄道(SBB)の窓口でチケットを購入可能ですが、私としては事前に日本で準備しておくことを強くおすすめします。
スイストラベルパスの賢い活用法
スイス旅行で心強い味方になるのが「スイストラベルパス」です。このパスは、指定した期間中にSBBの鉄道やバス、湖上船のほとんどが乗り放題になる外国人旅行者向けのもの。さらに、全国約500ヶ所の美術館・博物館が無料で入館できたり、多くの山岳交通(ロープウェイや登山鉄道)が割引になる特典もあります。
切符をその都度買う手間がなく、乗り降り自由で自由度が高いため、気ままな旅に最適です。特にヴァレー州のように鉄道やバス、ロープウェイを乗り継ぐことが多い地域では、その利便性が一層際立ちます。
- 購入方法:
SBB公式サイトや日本の旅行代理店で購入可能。Eチケット形式でスマートフォンに保存すれば、検札時にQRコードを提示するだけで手間いらずです。
- 使い方:
有効期間内であれば改札のないスイスの駅でそのまま列車に乗ることができます。検札官が来たらパスポートと一緒にパスを提示しましょう。割引対象の山岳交通利用時は窓口でスイストラベルパスを見せるのを忘れずに。
スイスの鉄道は非常に時間に正確で乗り換えもスムーズ。SBBの公式アプリを利用すればリアルタイムの運行情報や乗り換え案内を確認でき、万一の遅延や運休時も代替ルートの検索が可能。旅のパートナーとしてぜひ活用してください。
絶対に訪れたい!ヴァレー州の必見観光スポット
広大なヴァレー州には、息をのむほどの絶景スポットが点在しています。その中でも、ぜひ訪れてほしい特別な場所を、具体的な楽しみ方とともにご紹介いたします。
ツェルマットとマッターホルン:アルプスを象徴する絶景を望む
ヴァレー州、そしてスイスを象徴するのが、鋭く天を突き刺す孤高の山、マッターホルン(標高4,478m)です。その山麓に広がるのが、山岳リゾートの村、ツェルマットです。
この村の特徴は、環境保護のためガソリン車の乗り入れが禁止されていること。聞こえてくるのは、静かな電気自動車の走行音、人々の明るい話し声、そして馬車の蹄の響きだけ。澄んだ空気の中、伝統的な木造シャレーが並ぶ村を歩くだけで、心が浄化されるような気分になります。
ゴルナーグラート鉄道で絶景パノラマへ
ツェルマットからマッターホルンをもっとも雄大かつ美しく眺められるのが、標高3,089mのゴルナーグラート展望台です。ここへは、ヨーロッパ最高地点を走る屋外登山鉄道、ゴルナーグラート鉄道を利用します。
- チケットの購入方法と乗車のポイント:
チケットはツェルマット駅前のゴルナーグラート鉄道窓口、またはオンラインで購入可能です。スイストラベルパス所持者は50%割引が適用されるため、窓口で購入するときは必ず提示してください。夏冬のハイシーズンは混雑するため、前日までの購入か事前のオンライン予約がおすすめです。
乗車時のコツは、進行方向の「右側」の席に座ること。登山中、常に窓越しにマッターホルンの姿が広がり、最高の景観を楽しめます。途中駅での乗り降りも自由なので、ハイキングと組み合わせるのも良いでしょう。
マッターホルン・グレッシャー・パラダイスで氷河の世界を体感
標高3,883mに位置するヨーロッパ最高峰の展望台が、マッターホルン・グレッシャー・パラダイスです。ロープウェイを乗り継いで到達するこの場所は、まさに雲上の別世界。通常とは異なるイタリア側からのマッターホルンの眺めのほか、スイス、イタリア、フランスの3か国にまたがる38座もの4000m級の峰々、そして眼下に広がるテオドール氷河の広大なパノラマを堪能できます。
- 高山病への注意点:
標高が高いため高山病のリスクがあります。展望台に着いたら慌てず、ゆっくりと深呼吸しながら動きましょう。水分補給もこまめに行うことが重要です。頭痛や吐き気を感じたら無理せず、速やかに低地へ移動してください。
展望台内部には、氷河の地下15mに設けられた「グレッシャー・パレス(氷の宮殿)」があり、幻想的な氷の彫刻を楽しめます。雪と氷に一年中覆われたこの世界は、心に深く残る体験となるでしょう。
初心者でも安心の絶景ハイキングコース
ツェルマットの魅力は展望台からの眺望だけでなく、多彩なハイキングコースも魅力の一つです。整備された道を歩きながら、自分の足でアルプスの自然を肌で感じられます。
- おすすめのルート:リッフェルゼー湖で見る逆さマッターホルン
ゴルナーグラート鉄道途中駅、ローテンボーデン(Rotenboden)から約10分のリッフェルゼー湖は、初心者にもぴったりの絶景ポイント。風がなく晴れた日には、湖面にくっきりと映る「逆さマッターホルン」を見ることができます。私が訪れた際も、静寂の湖面に映る山の姿に心を奪われたのを今でも鮮明に覚えています。
- ハイキングに必要な持ち物:
- 必須品: 歩きやすいハイキングシューズ、リュックサック、水(最低1リットル)、帽子、サングラス、日焼け止め、雨具(レインジャケットや防水パンツ)
- あると便利なもの: トレッキングポール、軽食(チョコレートやナッツ)、地図、絆創膏などの救急セット、カメラ
山の天候は変わりやすいので、出発前に必ず天気予報をチェックし、少しでも不安があれば無理をせず行動してください。
アレッチ氷河:ヨーロッパ・アルプス最大かつ最長の氷河
マッターホルンと並ぶヴァレー州のもう一つの自然の宝物が、ユネスコ世界自然遺産「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ」の構成資産のひとつであるアレッチ氷河です。全長約23km、最大幅約1.5kmにおよび、最も厚い部分は約900mに達する、ヨーロッパアルプスで最大かつ最長の氷河。その圧倒的な規模は展望台から眺めると、まるで巨大な氷の川が流れているようで、地球の偉大な営みを実感せずにはいられません。
この壮大な氷河を望む展望台は主に3箇所あり、それぞれ異なる角度で氷河の姿を楽しめます。
- エッギスホルン(Eggishorn): 氷河の最も美しい曲線を見渡せるスポット。
- ベットマーホルン(Bettmerhorn): 氷河の雄大な流れを間近に体感できる場所。
- モーースフルー(Moosfluh): アクセスしやすく、氷河の割れ目(クレバス)までよく観察できる展望台。
これらの展望台へは、周辺の村(フィーッシュ、ベットマーアルプ、リーダーアルプ)からロープウェイを乗り継いでアクセスします。
氷河の上を歩く特別な体験
展望台から眺めるだけでも十分感動的ですが、もし体力に自信があれば、専門ガイドと共に氷河トレッキングに参加するのがおすすめです。アイゼン(靴につける滑り止めの爪)を装着し、ザイルでガイドと繋がって歩くこの体験は、まさに冒険の醍醐味。氷の青い輝きや、深い割れ目を間近で見られる貴重な瞬間は、一生の思い出となるでしょう。
- ツアー参加の流れ:
現地の観光案内所や山岳ガイド事務所で予約可能。半日から1日のコースがあり、自身の体力に合わせて選べます。アイゼンやハーネスなどの専門装備は、多くの場合料金に含まれレンタルされます。服装は通常のハイキング装備に加え、手袋とニット帽の着用が必須です。安全を最優先に、必ずガイドの指示に従ってください。
シオン:丘の上の城が見守る州都の歴史
雄大な自然だけでなく、歴史や文化も豊かなのがヴァレー州の魅力。州都シオン(Sion)はその中心地です。ローヌ谷に位置するこの街の象徴は、旧市街を見下ろす二つの丘。その上にはそれぞれトゥールビヨン城とヴァレール城が悠然と建っています。
- トゥールビヨン城(Château de Tourbillon): 13世紀に司教によって築かれた要塞の遺構。廃墟となった現在でも、丘の上からの眺望は素晴らしく、シオンの旧市街や周囲のブドウ畑、ローヌ谷を一望にできます。
- ヴァレール城(Château de Valère): 要塞化された教会で、内部には15世紀に製作された演奏可能な世界最古のパイプオルガンが保存されています。城内はヴァレー歴史博物館となっており、この地域の歴史に深く触れることができます。
旧市街は石畳の道が続き、中世の風情を色濃く残しています。ブティックやカフェが立ち並ぶ通りを散策したり、毎週金曜日に開かれる市場(マルシェ)で、地元産のチーズやサラミ、新鮮な果物を楽しんだりすることも魅力的な時間です。
ヴァレー州ならではの体験!旅を彩るアクティビティと美食

見るだけの観光で終わらせるのはもったいない!ヴァレー州には、あなたの旅を一層豊かにし、五感で楽しめるさまざまな体験が満載です。
太陽の恵みを味わう:ヴァレー産ワインとグルメの魅力
ヴァレー州は年間を通じて日照時間が長く、乾燥した気候とローヌ渓谷の急斜面という独特のテロワール(土地の特徴)を備えています。実はここはスイス最大のワイン生産地で、国内で生産されるワインの約3分の1がこの地で作られています。
斜面に沿って広がる段々畑の景観は圧巻です。50種以上のブドウ品種が栽培され、代表的な白ブドウにはスイスを代表するシャスラ(ヴァレーではファンダンと呼ばれています)や、アプリコットや柑橘系の香りが特徴のプティ・アルヴィンがあります。赤ワインの品種ではピノ・ノワールやガメイが有名です。
ワイナリー見学で本場の味を堪能
せっかくワインの産地を訪れたら、ぜひワイナリー探訪をおすすめします。ワインの試飲体験「デギュスタシオン(Dégustation)」が楽しめます。生産者から直接ワイン造りの話を聞きながら味わう一杯は、レストランで飲むのとはひと味違った特別な味わいです。
- ワイナリー訪問のポイント:
多くのワイナリーは訪問時に事前予約が必要です。公式サイトからメールで問い合わせるか、現地の観光案内所に相談するとスムーズです。家族経営の小規模なワイナリーも多く、温かいおもてなしが受けられます。試飲には有料の場合がほとんどですが、ボトルを購入すると試飲代が無料になることもあるので、気に入ったワインは旅の思い出に購入してみてはいかがでしょうか。
ヴァレーの郷土料理も味わおう
美味しいワインには美味しい料理が不可欠です。ヴァレー州には、アルプスの厳しい自然環境で育まれた素朴ながら味わい深い伝統料理が数多くあります。
- ラクレット(Raclette): ヴァレー州発祥の代表的なチーズ料理。大きなラクレットチーズの断面を炙り、溶けたチーズをナイフで削ぎ落として茹でたジャガイモにかけていただきます。ピクルスや酢漬けの小タマネギと一緒に食べるのが伝統的なスタイル。とろけるチーズの香ばしさは、一度食べたら忘れられません。
- フォンデュ(Fondue): ラクレット同様スイスを代表するチーズ料理ですが、ヴァレー州のフォンデュはトマトやキノコを加えたバリエーションも楽しめます。
- ヴァレー風肉盛り合わせ(Assiette Valaisanne): 乾燥牛肉や豚肉、生ハム、サラミ、地元産チーズが盛り合わされた一皿。ライ麦パンと共にワインのお供として最高の組み合わせです。
レストランでは、ぜひ地元産の白ワイン「ファンダン」や赤ワイン「ピノ・ノワール」とともに、これらの郷土料理を堪能してください。
絶景を楽しむ:ハイキングとサイクリング
ヴァレー州には総延長8,000kmにも及ぶハイキングコースのネットワークが整備されており、初心者向けの軽い散策路から本格的な登山ルートまで、レベルに合ったコースでアルプスの壮大な自然を満喫できます。
- 安全に楽しむための準備と注意点:
- 計画は入念に: コースの距離や所要時間、高低差を事前によく確認しましょう。自身の体力に合わせた無理のないプラン作りが重要です。
- 天候を必ずチェック: 山の天気は急変しやすいので、出発前には最新の天気予報を必ず確認してください。スイスの公式気象情報アプリ「MeteoSwiss」は高精度で信頼できるため、ハイカーにとって欠かせないツールです。
- 適切な装備を: 持ち物リストに加え、紙の地図やオフライン対応の地図アプリなど、自分の位置を確認できるものを必ず携行しましょう。もし道に迷ったら無理せず来た道を戻る勇気も大事です。
- 緊急連絡先を覚える: 万が一の事故や遭難時に備え、スイスの山岳救助隊「Rega」の緊急連絡番号(1414)を控えておくと安心です。
道標はしっかり整備されており、黄色の標識が行き先や所要時間を案内します。赤いストライプが入った標識は難易度の高い山岳ルートの印なので、初心者は避けることをおすすめします。
知る人ぞ知る温泉リゾート:ロイカーバート
ハイキングの疲れを癒すのに最適なのが温泉。ヴァレー州にはスイス最大の温泉リゾート地、ロイカーバート(Leukerbad)があり、古代ローマ時代から知られるこの地では、毎日約390万リットルもの温泉が湧き出しています。
- 公共温泉施設の楽しみ方:
村には複数の大規模な公共温泉施設があり、水着着用で気軽に利用可能です。日本の温泉とは異なり、温水プールのような感覚で家族連れやカップルが共に楽しんでいます。ジェットバスや滝、サウナなど設備も充実しており、特に雪が舞う中の露天風呂は格別です。雄大なアルプスの景色を眺めながらの入浴は、旅の疲労を一気に癒してくれます。
- 持ち物とマナー:
水着とタオルは持参するのが基本(レンタルもありますが割高です)。多くのロッカーはコイン式なので、小銭を用意すると便利です。また、衛生面を保つためにプールサイドに入る前は必ずシャワーを浴びることがマナーとされています。
伝統文化に触れる:祭りと牛の闘い
ヴァレー州では昔からの伝統が今なお大切に守られています。旅の時期が合えば、ぜひ地元の祭りに参加してみてください。
中でも特にユニークなのが「牛の闘い(Combat de Reines)」です。これはヴァレー独特のたくましいエラン種(Hérens)の牛たちが群れのリーダー(女王)を決定するために角を突き合わせる伝統行事です。スペインの闘牛とは異なり、牛同士が傷つくまで戦うことはなく、どちらかが逃げることで勝負がつきます。春から秋にかけて州内各地で開催され、その会場は地元の人々の熱気に包まれます。開催日程はスイス政府観光局の公式サイトなどで確認可能なので、興味があれば旅程にぜひ加えてみてください。
旅の計画を立てよう!ヴァレー州旅行の実用情報
ヴァレー州の魅力は十分に伝わったでしょうか。ここからは、実際の旅の計画を立てるために役立つ具体的な情報をご紹介します。
おすすめの滞在プランモデル
ヴァレー州は広大で見どころが多いため、どの場所を拠点にしてどのように巡るか、計画を立てることが重要です。
- 4泊5日プラン(基本のコース)
- 1日目: ジュネーブまたはチューリッヒから鉄道でツェルマットへ移動。到着後は村をゆっくり散策します。
- 2日目: 終日ツェルマットで過ごし、ゴルナーグラート鉄道に乗って展望台へ。午後はリッフェルゼーまでのハイキングを楽しみます。
- 3日目: ツェルマットから鉄道でシオンへ移動。荷物を預けて旧市街や二つの城を見学し、夕方にマルティニーなどのフランス語圏の街に移って宿泊します。
- 4日目: マルティニーを拠点にワイナリー巡りやサイクリングを堪能します。
- 5日目: 鉄道で空港へ向かい、帰国の途につきます。
- 7泊8日プラン(ゆったり楽しむコース)
- 上記プランに加え、3日目と4日目の間にアレッチ氷河地域での滞在を含めます。ブリークからフィーッシュへ移動し、1~2泊。アレッチ氷河の展望台からの絶景やハイキングを満喫します。さらに、ロイカーバートで1泊して温泉に浸かり、リラックスする時間を加えるのもおすすめです。
旅行の予算感:スイス旅行は高額?賢い節約方法
「スイスは物価が高い」というイメージがありますが、確かに外食費や宿泊費は日本より高めです。ただし、工夫次第で予算を抑えることは十分可能です。
- 宿泊費:
- ホテル:1泊1室あたり約20,000円〜
- アパートメント(キッチン付き):長期滞在に適しており、自炊で食費を節約できます。
- 山小屋(ヒュッテ):ハイキングの途中に泊まる施設。相部屋が基本で比較的リーズナブル。
- 食費:
- レストランでの夕食:1人あたり約5,000円〜
- ランチ:約2,500円〜
- 交通費・アクティビティ費用:
- スイストラベルパス(8日間・2等):約60,000円
- ゴルナーグラート鉄道(往復・パス割引適用):約7,000円
賢く節約するコツ
- スーパーマーケットを利用する: Coop(コープ)やMigros(ミグロ)といった大手スーパーでは、サンドイッチやお惣菜、サラダバーなどが充実。天気の良い日は、パンやチーズ、ハムを購入して景色の良い場所でピクニックランチを楽しむのがおすすめです。
- 水道水を活用: スイスの水道水は非常に清潔で安全です。マイボトルを持参し、街中の水飲み場で補充すれば飲み物代を節約できます。
- ランチセットを選ぶ: ディナーよりも比較的リーズナブルなセットメニュー(Tagesteller/Plat du jour)を提供するレストランが多いので、ランチに活用するとお得です。
トラブルが起きたら?対処法を知っておこう
旅先でのトラブルは避けられませんが、あらかじめ対処法を把握しておけば慌てずに対応できます。
- 列車の遅延・運休:
スイスの鉄道は非常に正確ですが、悪天候などで遅延や運休が発生する場合があります。まずはSBBのアプリで最新情報を確認し、代替ルートを調べましょう。乗り換えに間に合わなかった場合も、多くの路線は30分から1時間に1本運行されているため、次の列車を待てば問題ありません。大きな遅延時は駅窓口で相談すれば、別の交通手段について案内してもらえます。スイストラベルパスを持っていれば、指定の列車に乗り遅れても追加料金なしで次の便に乗車可能なので安心です。
- 病気やけが:
もし病院が必要な場合は、ホテルのフロントに相談して最寄りの医療機関を紹介してもらいましょう。緊急時は救急車(電話番号144)を呼びます。海外旅行保険には必ず加入し、保険会社の連絡先を控えておくことが重要です。キャッシュレス診療が可能な病院を案内してもらえることもあります。薬局はドイツ語圏では「Apotheke」、フランス語圏では「Pharmacie」と呼ばれ、緑の十字マークが目印です。
- 持ち物の紛失や盗難:
駅や列車内で物をなくした時は、SBBの遺失物取扱所へ連絡しましょう。オンラインで紛失届を出すことも可能です。盗難の場合は、すぐに最寄りの警察署で盗難証明書(ポリスレポート)を発行してもらうことが必要です。この証明書は海外旅行保険の請求時に必須となります。
心に残るヴァレーの風景、次の旅へのプロローグ

険しくも美しいアルプスの峰々、太陽の光をたっぷりと浴びて育ったブドウが生み出す豊かな味わいのワイン、そして長い歴史の中で大切に受け継がれてきた温かな文化。ヴァレー州の旅は、日常から少し距離を置きながら、大地の壮大さと人々の営みの素晴らしさを静かに、しかし力強く伝えてくれます。
朝日に染まるマッターホルンの前で言葉を失い、巨大な氷河の歴史の深さに心を奪われ、ワイナリーで出会う人々の笑顔にほっと安らぐ。そんな一つひとつの瞬間が、きっとあなたの心に強く刻まれ、旅が終わった後もふとした瞬間に思い返しては温かな気持ちを呼び起こす、素敵な宝物となることでしょう。
このガイドが、ヴァレー州への旅の第一歩となることができれば、それ以上の喜びはありません。さあ、地図を広げて、夢をリュックに詰め込みましょう。太陽とアルプスが待つヴァレー州で、あなた自身だけの物語を見つけに出かけてみませんか?









