MENU

なぜスペインの昼休みは長い?灼熱の太陽と文化が育んだ「シエスタ」を旅人が賢く楽しむ完全ガイド

太陽の国、スペイン。情熱的なフラメンコ、心躍るフィエスタ、そしてガウディの独創的な建築群。この国の魅力を語り始めれば、きりがありません。しかし、スペインの日常に深く根ざし、旅人を時に喜ばせ、時に戸惑わせる、もうひとつのユニークな文化があることをご存知でしょうか。それが、世界的に有名な長いお昼休み、「シエスタ」です。

「お店が閉まってる!」「街から人が消えた…?」初めてスペインを訪れる多くの人が、昼下がりの静寂に驚かされます。日本の分刻みのスケジュールに慣れている私たちにとって、数時間にも及ぶこの長い休憩時間は、少し不思議に感じられるかもしれません。なぜスペインの人々は、こんなにも長い昼休みをとるのでしょうか。それは単なる怠惰なのでしょうか?いいえ、決してそうではありません。シエスタの背後には、この国の気候風土と、人々が大切にしてきた豊かな文化、そして生活の知恵が深く関わっているのです。

この記事では、アパレル企業で働きながら世界を旅する私が、スペインの魂ともいえる「シエスタ」の謎を解き明かしていきます。その起源から現代における変化、そして何より、私たち旅行者がこのユニークな文化を賢く、そして楽しく乗りこなすための具体的な方法まで、余すところなくお伝えします。シエスタをただの「不便な時間」ではなく、「スペインらしさを体験する絶好の機会」に変えるヒントが、ここにあります。さあ、太陽と情熱が織りなすスペイン時間の流れに、一緒に身を委ねてみましょう。

シエスタの習慣を理解したら、次はスペインでの滞在をより快適にするために、公共の場での喫煙ルールについても確認しておきましょう。

目次

シエスタとは何か?ただの昼寝ではない、その本質

siesta-meaning-cultural-background-benefits-reset-time-practice-summary

「シエスタ」と聞いて、多くの人がまず「昼寝」を連想するかもしれません。確かに、食後に短時間眠ることもシエスタの一部ではありますが、その本質はより深く、多面的なものです。シエスタとは、単なる休憩時間を超えて、スペインの生活様式そのものを象徴する文化として存在しています。

シエスタの語源と歴史的背景

シエスタの起源をたどると、古代ローマ時代まで遡ります。その言葉はラテン語の「hora sexta」、つまり「第六の時間」を意味します。古代ローマでは、一日の始まりを日の出とし、時間を数えていました。したがって、「第六時」とは正午頃、太陽が真上に来る時間帯のことを指していました。この時間に仕事を休み、食事と休憩を取る習慣が、後のシエスタの原型となったのです。

この慣習は農業中心の社会で特に合理的でした。スペイン、特に南部のアンダルシア地方の夏は非常に高温で、気温が40度を超える日も珍しくありません。灼熱の太陽の下で働き続けるのは健康に危険が伴うため、人々は日の出から就労を始め、最も暑い「hora sexta」の時間帯には屋内に避難して休息を取りました。日差しが和らぐ夕方から再び仕事を再開するというこの生活様式は、過酷な自然環境に適応した生活の知恵と言えるでしょう。

さらに、この休息時間は家族との交流を深める大切な機会でもありました。共に食事をし、会話を楽しみながら、一緒に過ごす時間を持つことがシエスタの重要な役割の一つでした。つまり、シエスタは体を休めるだけでなく、家族の絆を育む貴重な時間でもあったのです。このように、シエスタはスペイン特有の気候条件、農業中心の生活、そして家族を大切にする文化が融合して生み出された、必然的な文化だと言えるでしょう。

現代スペインにおけるシエスタの実情

それでは、現代のスペインでもすべての人がシエスタを行っているのでしょうか。答えは「イエス」であり「ノー」でもあります。スペインの多様性を反映するように、シエスタの実態は地域や職種によって大きく異なっています。

マドリードやバルセロナのような大都市の中心部では、国際的なビジネス慣行が浸透し、シエスタの習慣は徐々に薄れてきています。大手企業やデパート、観光地のレストランやショップは、昼休みも営業を続けることが増え、かつてのように昼下がりに街が閑散とすることは少なくなりました。ただし、これはあくまで一部のエリアに限られています。

一方で、路地裏に足を踏み入れると、昔ながらの個人商店やバルが「Cerrado(閉店)」の札を掲げており、今もなおシエスタを守る光景に出会えます。特に地方の小さな町や村では、シエスタは依然として生活リズムの中心であり、午後2時から5時頃まで商店や役所、銀行までもが閉まり、街全体が静まり返ります。この時間帯に用事を済ませるのはほぼ不可能であり、この「都市部と地方の違い」は訪れる人が最初に理解すべき重要なポイントの一つです。

また、働き方の変化もシエスタの継続に影響を与えています。スペインでは長時間労働に関する法的規制が強まっており、かつての「早朝から働き、シエスタを挟み夜遅くまで仕事をする」というスタイルは、特にオフィスワーカーの間で見直されつつあります。EUの働き方基準に沿う形で、昼休みを縮小し早めの退社を促す企業が増える一方、とはいえ昼食に1時間半から2時間をかける慣習は根強く残っており、日本の標準的な昼休みと比べると大変ゆったりとした時間と言えます。こうした変化の中でも、シエスタは形を変えつつもスペイン人の生活の中に深く根付いているのです。

なぜシエスタは生まれたのか?気候が育んだ生活の知恵

スペインでシエスタという習慣が深く根付いている最大の理由は、その独特な「気候」にあります。特に夏の厳しい暑さが、人々の生活様式を根本的に形作ってきました。シエスタは、自然の過酷な環境から身を守り、健康に暮らすために先人たちが編み出した偉大な知恵であったのです。

灼熱の太陽を避けるための必然

スペイン、特に南部のアンダルシア地方(セビリア、コルドバ、グラナダなど)で夏を過ごしたことがある人なら、シエスタが欠かせない理由を実感できるでしょう。7月から8月にかけては、日中の気温が連日40度近くまで上がり、時には45度を超えることも珍しくありません。アスファルトからの強烈な照り返しによって、数分外を歩くだけで体中の水分が奪われるような感覚に襲われます。

このような過酷な環境の中で、特に午後2時から5時頃の最も暑い時間帯に外で活動するのは、熱中症や日射病のリスクを大きく高めるのです。現代のようにエアコンが普及していなかった昔においては、それはまさに生命に関わる深刻な問題でした。人々はこの危険な時間帯の活動を避け、比較的涼しい石造りの家の中で体を休め、健康と命を守ってきました。シエスタは単なる快適さの追求ではなく、生き抜くための戦略であったと言えるでしょう。スペイン政府観光局が提供する気候情報を見ても、特に内陸部と南部では夏の気温が非常に高くなることが示されており、こうした気候環境が生活習慣に深く影響を及ぼしてきたことは容易に推察できます。

現在でも、この知恵は生き続けています。たとえ職場にエアコンが備わっていても、多くのスペイン人は日中の最も暑い時間帯の外出を控えます。昼食のために一旦自宅に戻り、午後の仕事が始まるまで家で過ごす人も少なくありません。これは身体への負担を軽減するための理にかなった判断であり、長年にわたり受け継がれてきた生活リズムなのです。旅行者である私たちも、この現地の知恵に倣い、真夏の午後は無理をせず過ごすべきでしょう。

農業中心社会の名残としてのシエスタ

気候と密接に結びつくもう一つの要因が、スペインが長期間農業中心の社会であった歴史です。広大な土地でオリーブやブドウ、小麦などを育てる農家にとって、一日の労働サイクルは太陽の動きと調和したものでした。

農家の1日は、まだ涼しい早朝、日の出とともに始まります。午前中に集中的に作業を行い、太陽が頂点に達し気温が最も高くなる昼近くには仕事を一時中断します。家に戻り、家族とともにゆっくり昼食をとり、休息をとって体力を回復させるのがシエスタの時間です。そして夕方になると、強烈な日差しが和らいだ頃合いを見計らって再び畑に戻り、日没まで働き続けます。この「早朝と夕方に分けて働く」スタイルは、炎天下で効率的に生産性を維持するために最適な方法だったのです。

この生活パターンは農村部だけでなく、都市部の職人や商人たちにも広がりました。彼らの顧客である農家がシエスタの時間を取るため、昼下がりの街は人影が減り商売が成り立たなかったからです。その結果、社会全体がシエスタのリズムに合わせて動くようになり、これがスペイン全土に広がる文化として根付いていったのです。

産業構造の変化や農業人口の減少が進む現代でも、この生活リズムは人々の意識の奥底に生き続けています。終業時間が遅くなることを厭わず、昼に長めの休息を取る価値観は、効率や生産性だけでは説明できない、スペインの歴史と風土によって育まれた文化的DNAの一部と言えるでしょう。

シエスタは文化の証。食事と家族を愛するスペインの心

siesta-is-a-cultural-symbol-the-spanish-heart-that-loves-food-and-family

シエスタがスペイン人の日常にこれほどまでに深く根付いている背景には、単なる気候条件だけで説明できない文化的な価値観が強く関与しています。スペインの人々は何を重視し、どのように人生を楽しむかという考え方が反映されており、シエスタは豊かな食文化や、何よりも大切な家族との団欒の時間を楽しむために欠かせない存在となっています。

一日のなかで最も重要な食事「アルムエルソ」

スペインでは、昼食(アルムエルソ)が一日の食事の中で最も重要視され、その時間は豊かに過ごされます。日本のビジネスパーソンのように、デスクでサンドイッチをさっと食べたり、短時間で牛丼をかき込んだりする光景は、スペインではほとんど見られません。昼食は単なるエネルギー補給ではなく、生活の質を向上させるための大切な儀式として位置付けられているのです。

一般的に、スペインのレストランのランチタイムは午後1時30分頃から始まり、午後4時頃まで続きます。前菜、メイン、デザート、さらに食後のコーヒーまで、ゆったりと1時間半から2時間かけて楽しむのが普通です。ワインを傾けながら、同僚や友人と会話を楽しみつつ、充実した食のひとときを過ごします。このため、長めの昼休みが不可欠となっています。

料理の量もたっぷりしています。多くのレストランでは、「Menú del Día(メヌー・デル・ディア)」という日替わりのランチセットを提供しており、前菜、メイン、デザートまたはコーヒー、さらにパンと飲み物(ワインや水など)がセットになって、10〜15ユーロ程度と手頃な価格です。パエリアやガスパチョといったスペインを代表する料理から、地方独特の煮込み料理まで、本格的な味を気軽に楽しめます。このように昼食に時間と費用を惜しまず楽しむ文化が、長いシエスタの時間を支える大きな要因となっています。

家族の絆を深める貴重な時間

シエスタには、もうひとつ重要な役割として「家族と過ごす時間」があります。特に子どもがいる家庭では、シエスタは家族全員が顔を合わせる大切な機会です。

スペインの多くの学校は午前9時から午後2時まで授業を行い、その後に長い昼休みに入ります。夕方に課外活動などで再び学校へ戻るか、帰宅するスケジュールが一般的です。そのため、親がシエスタの時間帯に帰宅し、子どもが学校から帰ってくる時間と重なります。こうして家族全員が揃って温かな昼食を囲み、その日の出来事を語り合う時間が生まれます。

この習慣は家族の結びつきを非常に強めます。現代社会では核家族化が進み、親子のすれ違いが問題視される中、毎日家族全員で食卓を囲む時間はかけがえのない宝物です。食後は文字通りシエスタ(昼寝)をする人もいれば、子どもの宿題を手伝ったり一緒に遊んだりすることもあります。シエスタは疲れを癒すだけでなく、家族の愛情を確かめ合い、心の安らぎを育む大切な時間として機能しています。

もちろん、都市化の進展や共働き家庭の増加により、毎日家族全員が揃って昼食を取ることが難しくなっている現実もあります。それでも「家族との時間を最優先にする」という価値観は、多くのスペイン人の心に深く根付いています。シエスタという文化は、単なる効率性や生産性だけでは語り尽くせない、スペイン社会の温かさや人間味の象徴と言えるでしょう。

旅行者がシエスタを賢く乗り切るための実践ガイド

ここまでシエスタについての背景を説明してきましたが、私たち旅行者にとって最も肝心なのは、「この文化をどう受け入れ、旅を最大限に楽しむか」という点です。シエスタの存在を知らずに訪れると、お店が閉まって食事ができなかったり、入館できるはずの観光スポットに入れなかったりして、計画が乱れてしまうことがあります。しかし、前もってその特徴を理解し対策を練っておけば、シエスタが邪魔になることはありません。むしろ、スペイン独特のゆったりとした時間の流れに触れる、貴重な体験となるでしょう。ここでは、私の体験も交えつつ、シエスタをうまく乗り切る具体的な方法をご紹介します。

シエスタ時間帯を考慮した計画の立て方

スペイン旅行の成功は、シエスタを念頭に置いたスケジュール作りにかかっていると言っても過言ではありません。行き当たりばったりの行動は避け、しっかり計画を立てて動くことが重要です。

シエスタ時間の把握

まず、訪れるエリアのシエスタ時間帯を大まかに把握しましょう。一般的には午後2時(14:00)から午後5時(17:00)頃がシエスタの時間とされていますが、あくまで目安です。マドリードやバルセロナの中心部では短めなのに対し、アンダルシアの小さな村ではより長く取られることもあります。特に個人経営の小規模なお店やレストラン、地方の観光施設はこの時間帯は閉まることが多いので注意が必要です。

公式サイトで営業時間を必ず確認する

行きたい美術館や教会、ショップ、レストランが決まっている場合は、必ず事前に公式サイトで営業時間をチェックしてください。Google マップの情報も役立ちますが、まれに古い情報が掲載されていることがあります。特に重要な観光施設は、公式サイトの「Horario(営業時間)」または「Opening hours」ページの確認が最も確実です。サグラダ・ファミリアやプラド美術館のような人気のスポットはシエスタ時間も営業していますが、地方の小さな博物館などは休業している可能性が高いです。旅の計画段階で訪問予定の場所リストと営業時間をメモしておくと、現地で慌てることがありません。

午前と夕方以降に活動を集約する

シエスタを活用した効率的な観光プランは、「午前中に観光し、シエスタ時間は休憩、夕方から再び観光を楽しむ」というものです。たとえば、午前10時から午後2時まで美術館巡りやショッピングを済ませ、午後2時頃にゆっくりランチを楽しみます。その後、午後5時頃まではホテルで休憩したり、公園の木陰で読書をするなどの「自分だけのシエスタタイム」を満喫しましょう。そして夕方からお店が再び開くのに合わせて街歩きを再開します。スペインの夏は夜9時頃まで明るいため、夕方からの活動でも充分に楽しめます。このリズムに慣れると、体力的にも負担が軽減されます。

準備と持ち物リスト

シエスタ時間帯を快適に過ごし、万が一のトラブルに備えるために、日本からの準備や持ち物にも気を配りましょう。

  • 用意しておきたい持ち物
  • サングラス、帽子、日焼け止め:必須アイテムです。特に夏のスペインの日差しは日本より強烈なので、シエスタ中の移動時にも紫外線対策をしっかり行わないと、火傷のような症状や熱中症の原因になりかねません。
  • 羽織りものやストール:一日中暑くても、教会や美術館、レストランのなかは冷房がかなり効いていることがあります。また、直射日光を避ける意味でも薄手の長袖シャツやストールを一枚持っておくと便利。ファッションのアクセントにもなりますね。
  • 携帯用水筒:水分補給は何より重要です。特にシエスタ時間帯は営業しているお店を探すのが難しい場合もあるので、ホテルを出る際に水やお茶を入れて持ち歩く習慣をつけましょう。街には給水ポイントも多いです。
  • モバイルバッテリー:スマホは地図や翻訳、情報検索、写真撮影に必須。シエスタ中に充電切れになると不安なので、大容量のモバイルバッテリーは必携です。
  • ウェットティッシュや除菌ジェル:タパスをつまんだり市場で果物を買ったりする時など、手を洗う場所がすぐには見つからないこともあります。衛生面のために持ち歩くと便利です。
  • エコバッグ:スペインのスーパーはビニール袋が有料のことが多いので、折りたためるエコバッグをカバンに入れておくと急な買い物にもスマートに対応できます。

シエスタ中の食事はどうする?

旅の大きな楽しみの一つである食事。シエスタ時間帯に「ランチ難民」にならないよう、対策を知っておきましょう。

ランチは早めに、ディナーは遅めに

スペインのレストランは、ランチのピークは午後2時頃、ディナーは午後9時頃です。人気店では予約なしでは席に着けないことも多いため、時間をずらすのがコツ。ランチは午後1時過ぎ、ディナーは午後8時頃に入店すると比較的スムーズです。シエスタで閉まるお店で食べる場合は、遅くとも午後1時半までにはお店に入るのが望ましいです。

通し営業の店を見つける

観光客の多いエリアでは、シエスタなく通しで営業しているレストランやバル(「ノンストップ・キッチン」とも呼ばれます)が増えています。Google マップの検索で「営業中」フィルターを使うと見つけやすいです。デパートの最上階レストラン街や市場(メルカド)に併設されたフードコートも通し営業のことが多く狙い目です。私が訪れたマドリードのサン・ミゲル市場やバルセロナのボケリア市場では、昼下がりでもバルが賑わい、美味しいタパスとワインを楽しめました。

スーパーや市場を活用する

予算を抑えつつ地元感を味わいたいなら、スーパーマーケット(MercadonaやCarrefourなど)や市場の利用がおすすめです。営業時間をあらかじめ確認し、シエスタが始まる前に生ハムやチーズ、パン、オリーブ、新鮮なフルーツなどを購入しておけば、ホテルの部屋や公園で気軽に楽しめます。特にスペインの生ハム「ハモン・セラーノ」はスーパーの切り売り品でも十分おいしいです。

注意点とトラブル対処法

準備しておけば慌てずに済みます。シエスタに関するトラブルとその対応策を知っておきましょう。

マナーに関する注意

シエスタはスペインの人々にとって大切な休息時間です。閉まっている店のドアを無理に開けようとしたり、大声で騒いだりするのは避けましょう。静かな街の雰囲気を尊重し、静かに過ごすことが礼儀です。

目当てのお店が閉まっていた場合

せっかく行ったのにお店が閉まっていることはよくあることです。そんな時は動揺せずにスマホを取り出し、Google マップで周辺の同ジャンルのお店を「営業中」フィルターで検索しましょう。思いがけない素敵なお店に出会うこともあります。旅ならではの楽しみと考えてポジティブに切り替えましょう。

交通機関への影響は?

大都市の地下鉄や主要な長距離列車はシエスタの影響をほとんど受けませんが、地方都市間を結ぶバスや小さな町の路線バスは、シエスタ時間帯に間引き運行や運休があることがあります。移動計画を立てる際は、必ず公式サイトや現地のバス停で最新の時刻表を確認してください。特に小さな村への日帰り旅行では、帰りのバスに乗り遅れないよう注意が必要です。

体調不良時の対応

万一、暑さで体調を崩した場合に備え、海外旅行保険の連絡先や証書番号をすぐ取り出せる場所に保管しておきましょう。薬局(Farmacia)は地域ごとに当番制の24時間営業店舗があります。「Farmacia de guardia」と検索すれば、その日に開いている薬局がわかります。緊急時はためらわずに救急車(電話:112)を呼んでください。言語に不安がある場合はホテルのフロントに助けを求めると安心です。在スペイン日本国大使館・総領事館の連絡先も控えておくと安心です。

公式情報の活用

旅の計画で最も信頼できる情報源は公式サイトです。一般的なブログやガイド本は参考程度にとどめ、最終確認は必ず公式サイトで行いましょう。祝祭日(フィエスタ)などは特別な営業時間になる場合もあるため、特に注意が必要です。

  • スペイン政府観光局公式サイト: スペイン全土の観光情報やイベント情報が網羅されています。旅の計画のスタートに最適です。
  • 各観光施設の公式サイト: 営業時間や入場予約(オンライン予約必須の場所も多い)を必ずチェックしましょう。
  • Renfe(レンフェ)公式サイト: スペイン国鉄の公式サイトで、長距離移動の計画に欠かせません。早期予約で割引が受けられるケースもあります。

これらの準備と知識があれば、シエスタを恐れる必要はまったくありません。むしろ、スペイン文化に深く触れる貴重なチャンスとして楽しめるでしょう。

シエスタはただの休憩じゃない。スペインの働き方とライフバランス

siesta-is-not-just-a-break-spanish-work-style-and-life-balance

シエスタは単なる生活習慣にとどまらず、スペイン人の労働観や人生観を映し出す鏡のような存在です。効率や生産性のみを追求するのではなく、「よく働き、よく休む」そして「人生を豊かに楽しむ」という彼らの哲学がここにあります。しかし、グローバル化の進展に伴い、この伝統的な働き方が多くの議論を呼んでいるのも事実です。

シエスタがもたらす光と影

シエスタの最大の「光」として挙げられるのは、間違いなく生活の質の向上でしょう。家族と昼食を共にし、心身をリフレッシュする時間があるため、午後の仕事に集中しやすいと考える人もいます。ストレスを溜めず、オン・オフをはっきり切り替えるこのスタイルは、ワークライフバランスを重視する現代の価値観とも調和しています。仕事だけが人生のすべてではない、という明確なメッセージがシエスタには込められているのです。

一方で、「影」の側面も存在します。その中で最も指摘される問題は、終業時間の遅さです。長い昼休みをとるため、仕事が夜8時や9時まで続くことも珍しくありません。これは家族と夕食を取る時間が遅くなることを意味し、子供たちの就寝時間にも影響を及ぼします。また、他のヨーロッパ諸国や国際的なビジネスパートナーとの間に「時差」が生じる問題もあります。ヨーロッパの多くの国が夕方5時に仕事を終える一方で、スペインではまだ午後の業務が続いている状況が起こりうるのです。こうした点は国際競争力の面で不利だとする意見も存在します。独立行政法人 労働政策研究・研修機構の報告などを見ると、スペインの労働時間制度は常に議論の的となっており、改革の動きも続いています。

変化の波とシエスタの未来

こうした国内外からの指摘を受けて、スペイン社会は変革の時期を迎えています。特に1986年のEU(当時はEC)加盟は大きなターニングポイントとなりました。ヨーロッパ標準の働き方に順応する形で、政府主導により労働時間の見直しが進み、多くの企業でシエスタの時間を短縮し、退社時間を早める流れが広がっています。

若い世代においては、シエスタへの価値観が多様化しています。都市部で働く若者の中には、長い昼休みに一旦帰宅するより、短いランチで済ませて仕事を早く終え、アフター5の時間を趣味や自己投資、友人との交流に充てたいと考える人が増えています。伝統的なシエスタの形はもはや絶対的なものではなく、数あるライフスタイルの一つの選択肢となってきているのです。

では、シエスタは近い将来なくなってしまうのでしょうか。私はそうは思いません。形は変わるかもしれませんが、その根底に流れる「人生を急がず楽しむ」という精神はスペイン人の心から消えることはないでしょう。昼食の時間を大切にし、仲間と会話を楽しみ、時にはカフェのテラスで陽の光を浴びながら一息つく。このゆとりこそがスペインという国の魅力の源泉です。シエスタは時代の変化に合わせて形を変えつつも、スペイン文化の核心としてこれからも生き続けるに違いありません。

旅人としてシエスタ文化に触れるということ

旅の終着点が近づいてきました。ここまで、スペインの昼休み「シエスタ」について、その歴史的な起源から気候との関係性、現代における実態と旅行者としての向き合い方まで、多角的に探ってきました。

最初はただの「不便な時間」と映るかもしれない昼下がりの静けさ。しかし、その静けさに耳を澄ませば、スペインという国が紡いできた歴史の響きや、自然と共に暮らしてきた人々の息づかい、そして人生を楽しむ心の歌声が聞こえてくることでしょう。

シエスタは、生産性や効率といった尺度では捉えきれない、豊かさの別の形を私たちに示してくれます。それは、強烈な太陽から身を守る知恵であり、家族が食卓を囲む歓びであり、なによりも「立ち止まること」を許す文化の表れです。忙しないスケジュールに追われる日常から一歩離れ、スペインならではのゆったりと流れる時間に身を任せること。これこそが、シエスタを体感するということなのではないでしょうか。

訪れた店が閉まっていたら、近くの公園のベンチに腰掛けて、人々の様子を眺めてみる。観光客の喧噪が消えた路地裏を、迷子になる楽しさとともに歩いてみる。営業中のバルを見つけたら、カウンターで冷えたビールと一皿のタパスを注文し、地元の人びとのように午後の時間を過ごしてみる。シエスタを障害と捉えるのではなく、独自の楽しみ方を編み出す創造的な時間として見直したとき、あなたのスペイン旅行はより深みを増し、忘れられないものになるでしょう。

旅とは、有名な観光地をただ巡るスタンプラリーではありません。その地の空気を感じ、その地のペースで歩み、その地の人々の価値観に触れること。シエスタはまさに、そのための絶好のチャンスをもたらしてくれます。さあ、次の旅では、時計の針を少しだけ緩め、太陽と語り合うスペインの午後に心ゆくまで浸ってみませんか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いたトラベルライター

アパレル企業で培ったセンスを活かして、ヨーロッパの街角を歩き回っています。初めての海外旅行でも安心できるよう、ちょっとお洒落で実用的な旅のヒントをお届け。アートとファッション好きな方、一緒に旅しましょう!

目次