マドリードとバルセロナ。スペインを旅する多くの人が、この二大都市を結ぶ高速鉄道AVEの車窓から、広大な大地を眺めることでしょう。そのちょうど中間地点に、まるで宝石のように輝く街があることを、あなたはご存知でしょうか。その名は、サラゴサ。アラゴン州の州都であり、2000年以上の歴史が幾重にも折り重なる、知的好奇心をくすぐる魅惑のデスティネーションです。
こんにちは、旅ライターの亜美です。アパレル企業で働きながら、長期休暇を見つけては世界の街角へ繰り出すのが私のライフワーク。特に、その土地の歴史やアート、そしてファッションに触れる旅が大好きです。今回私が皆さんを誘うのは、そんな私の心を鷲掴みにした街、サラゴサ。
「サラゴサって、何があるの?」そう思う方もいるかもしれません。しかし、この街には、スペインの歴史そのものが凝縮されているのです。ローマ帝国時代の基盤の上に、イスラム教徒が築いた華麗な宮殿が残り、レコンキスタ(国土回復運動)を経てキリスト教文化が花開く。そして、近代スペインを代表する画家フランシスコ・デ・ゴヤが、その芸術家としての第一歩を記した地でもあります。
この記事では、サラゴsaの壮大な歴史と文化を紐解きながら、圧倒的なスケールを誇る大聖堂や、息をのむほど美しいイスラム宮殿、ゴヤのアートを巡る旅をご提案します。それだけではありません。活気あふれるバル街での美食体験や、女性一人でも安心して旅するためのヒントまで、私の経験を交えながら具体的にお伝えしていきます。この記事を読み終える頃には、きっとあなたの次の旅の目的地リストに、「サラゴサ」の名が加わっているはず。さあ、一緒にアラゴンの至宝を巡る、知的な旅に出かけましょう。
サラゴサの壮大な歴史と文化に触れる旅の他にも、世界遺産ブルゴス大聖堂がそびえ立つ古都への訪問もおすすめです。
まずはサラゴサを知ることから。基本情報とアクセス完全ガイド

旅のスタートは、目的地の基礎知識を押さえることから始まります。サラゴサがどんな街で、どのようにアクセスするのか。本項では、旅の計画に欠かせない基礎情報と、スムーズな移動を実現する実用的なポイントを詳しく解説します。
サラゴサとは?重なる歴史の層を感じる街
サラゴサは、スペイン北東部に位置するアラゴン州の州都です。スペインで5番目の規模を持つ都市ですが、喧噪の大都市とは異なり、落ち着いた品格を感じさせる街並みが魅力です。街の中心をゆったり流れるのは、イベリア半島で最も長いエブロ川。この川は、サラゴサの歴史の生き証人と言えます。
その歴史は、紀元前1世紀にローマ帝国のアウグストゥス皇帝によって建設された植民都市「カエサルアウグスタ」から始まります。市内には今も残るローマ時代の劇場や公衆浴場の遺跡が、古代の息吹を今に伝えています。
8世紀にはイベリア半島がイスラム勢力の支配下に置かれると、サラゴサはタイファ(イスラム小王国)の首都として栄華を極めました。繊細で華美なイスラム文化が花開き、その象徴が後ほど詳しくご紹介するアルハフェリア宮殿です。
12世紀に入り、レコンキスタの結果アラゴン王国の支配下に入ると、サラゴサはキリスト教文化の拠点として発展しました。イスラム建築の技術を融合させた「ムデハル様式」という独特で美しい建築様式が誕生し、街を彩っています。この様式はユネスコ世界遺産にも登録されており、サラゴサの街歩きはまさに世界遺産巡りでもあるのです。
ローマ、イスラム、キリスト教──異なる文化が時に対立し、時に融合しながら積み重なってきた歴史の層こそが、サラゴサ最大の魅力といえるでしょう。
日本からのアクセスはAVE(高速鉄道)が便利
日本からサラゴサへは直行便がないため、マドリードのバラハス空港(MAD)かバルセロナのエル・プラット空港(BCN)を経由するのが基本的なルートです。いずれの都市からも、スペインが誇る高速鉄道AVEの利用が圧倒的に便利です。
マドリード(アトーチャ駅)やバルセロナ(サンツ駅)から、サラゴサ(デリシアス駅)まではAVEで約1時間半。まるで新幹線に乗るかのような感覚で快適に到着します。窓の外に広がる乾いた大地やオリーブ畑の風景は、スペインらしい旅の雰囲気を一層高めてくれます。
旅上手になる!AVEチケット購入のコツ
AVEのチケットは駅窓口でも当日購入可能ですが、私は断然、事前予約を推奨します。理由は「早割」があり、早めに予約するほど料金が安くなるためです。旅程が決まったら、できるだけ早くチケットを確保しましょう。
チケット購入は、スペイン国鉄Renfeの公式サイトまたは公式アプリが最も安全で手数料も不要です。はじめは手続きがやや複雑に感じられますが、一度覚えれば簡単に利用できます。
- ステップ1:サイトにアクセスし、区間と日時を指定
Renfeのサイトは英語表記に切り替え可能です。出発駅(例:MADRID – ATOCHA CERCANIAS)、到着駅(ZARAGOZA – DELICIAS)、日時、人数を入力して検索します。
- ステップ2:希望する列車と料金プランを選択
検索結果には時刻ごとの列車と料金タイプが表示されます。基本的には「Básico(ベーシコ)」プランで十分ですが、キャンセルや変更の可能性がある場合は「Elige(エリーヘ)」や「Prémium(プレミウム)」など柔軟なプランを検討してください。料金や条件はよく確認しましょう。
- ステップ3:乗客の情報を入力
名前や苗字、パスポート番号を正確に入力します。メールアドレスはEチケット送付のため必ず間違えないよう注意してください。
- ステップ4:座席選択と決済
追加料金で座席指定も可能です。最後にクレジットカード情報を入力して決済を完了させると、登録のメールアドレスにQRコード付きのEチケット(PDF形式)が送信されます。
このEチケットはスマートフォンに保存するか、プリントアウトしておきましょう。乗車時は改札でQRコードを読み取るだけで乗車可能。駅で発券の手間が省け、大変スマートです。
トラブルが起きたらどうする?
もし列車が大幅に遅延したり運休した場合、Renfeには遅延補償制度があります。遅延時間に応じて運賃の一部あるいは全額が返金されることも。駅のカスタマーサービス(Atención al Cliente)で手続きをするか、後日ウェブサイトから申請できます。
また、ストライキなどで運休が決定した場合は、Renfeから代替便や返金案内のメールが届きます。メール内容を冷静に確認し、指示に従いましょう。言語に不安があれば翻訳アプリを活用すれば問題ありません。こうしたトラブルも乗り越えれば、旅の貴重な経験になります。
サラゴサ市内の移動は徒歩とトラムが便利
サラゴサ・デリシアス駅は市街中心部から少し離れていますが、駅前から市内バスやタクシーで手軽にアクセスできます。
主要な観光スポットはピラール広場を中心とした旧市街にコンパクトに集まっているため、基本的には徒歩で十分楽しめます。石畳の道をゆったり歩きながら、ふと目を引く美しい教会のファサードや歴史を感じる建物のバルコニーを眺める──そんな気ままな散策こそ、サラゴサ観光の醍醐味です。
少し距離のあるアルハフェリア宮殿やショッピングエリアに足をのばす際は、トラム(路面電車)が便利です。清潔でわかりやすく、観光客にも使いやすい交通手段です。券売機でチケットが買えますが、複数回利用する場合はチャージ式の交通カード「Tarjeta Bus」や「Tarjeta Lazo」を購入するとお得です。タバコ屋(Tabacos)やキオスクで購入可能です。
準備は万全ですか?それでは、サラゴサの魅力あふれる中心地へと、いよいよ足を踏み入れてみましょう。
サラゴサの至宝、ピラールの聖母大聖堂を徹底解剖
エブロ川のほとりに、まるで巨大な宝石箱のように佇む壮麗な建築物があります。それが、サラゴサの象徴であり、スペインの人々の心の支えとなる「ピラールの聖母大聖堂(Basílica de Nuestra Señora del Pilar)」です。その圧倒的な規模と美しさは、写真で見るのとは比べ物にならないほど雄大で、一歩足を踏み入れれば誰もがその荘厳な雰囲気に心を奪われることでしょう。
川面に映る絶景と、輝くクーポラ
この大聖堂の最も美しい姿を目にできるのは、エブロ川の対岸に架かる「ピエドラ橋(Puente de Piedra)」の上です。特に夕暮れ時、夕焼け空が茜色に染まる頃や、ライトアップされた夜間がおすすめ。青や黄色、白のタイルで装飾された11のクーポラ(丸屋根)が川面に映り込み、まるで幻想の世界に誘うかのような光景を作り出します。その美しさに誰もが時間を忘れ見惚れてしまうほどです。私が訪れた日も、多くの人たちが橋の上でカメラを構え、この奇跡の瞬間を心ゆくまで楽しんでいました。
この大聖堂は、17世紀から18世紀にかけて現在のバロック様式で建設されましたが、その歴史は西暦40年にまで遡ると伝えられています。聖ヤコブがこの地で布教活動を行っていた際、聖母マリアが翡翠の柱(ピラール)の上に現れたという伝説が始まりです。それ以来、この地は聖地とされ、スペインにおける聖母マリア信仰の最も重要な中心地となっています。
聖堂の内部へ。信仰と芸術が織りなす空間
巨大な扉を押し開け中に入ると、外の光が遮られ、ひんやりとした神聖な空気が身体を包みます。天井は目を奪うほど高く、いくつもの礼拝堂が連なる広大な空間が広がっています。内部は非常に広大で見どころも多いため、時間をかけてじっくりと巡ることをおすすめします。
聖なる柱(ピラール)と聖母像
真っ先に訪れたいのは、大聖堂の名前の由来となった「聖なる柱」です。中央祭壇の近くにある小礼拝堂「サンタ・カピージャ」にその柱が安置されています。銀の装飾に覆われていますが、一部だけが信者のために触れたりキスをしたりできるよう開けられており、長年の信仰によってその部分が深く窪んでいるのが見受けられます。私もそっと手を触れてみましたが、ひんやりとした石の感触から、2000年近くにわたる人々の祈りの重みが伝わってくるように感じました。
柱の頂上には、小さな聖母マリア像が祀られています。この聖母像は「マント」と呼ばれる豪華な衣装をまとっており、そのマントは毎日新しいものに取り替えられるそうです。信者たちから奉納された多くのマントは、隣接する博物館で鑑賞することができます。
若きゴヤの情熱を映す天才画家のフレスコ画
この大聖堂を訪れるもう一つの大きな魅力は、サラゴサ出身の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤが描いたフレスコ画です。天井を見上げると、色鮮やかで力強い天井画が広がっています。特に有名なのが、小さなクーポラの一つに描かれた『天使の女王マリア(Regina Martyrum)』です。ゴヤが30代半ば、ローマでの修行を終えて故郷に戻った頃の作品であり、若き日の情熱と才能が存分に表れています。大胆な筆づかいと鮮やかな色彩には、彼の後の作風を予見させるエネルギーがあふれています。荘厳な宗教画でありながら、どこか人間らしい温かみと生命力に満ちているのが、まさにゴヤならではの魅力です。
塔の上から望む360度のパノラマ
大聖堂の内部を堪能したら、ぜひ塔の上へも足を伸ばしてみてください。北西の角にある塔にはエレベーターが設置されており、気軽に素晴らしい眺望を楽しめます。
塔へのアクセス・実践ガイド
- チケット購入: 塔へのエレベーターのチケットは大聖堂内部の専用窓口で購入可能です。入口付近には案内表示があり、見つけやすいです。料金は数ユーロ程度で手頃です。
- エレベーター利用: 購入後は指定された塔の入り口へ向かい、エレベーターで一気に展望台まで上がります。
- 展望台からの景色: エレベーターを降りると、目の前にサラゴサの街並みが広がります。眼下には広々としたピラール広場、オレンジ色の屋根が続く旧市街、そして雄大に流れるエブロ川。遠方には近代的な高層ビル群も見渡せ、歴史と現代が調和する街の姿がよくわかります。そよ風を感じながら眺める景色は、心に残る素敵な思い出となるでしょう。
訪問時のマナーと注意点
ピラールの聖母大聖堂は、単なる観光名所ではなく、今も多くの人々が祈りを捧げる神聖な場所です。訪れる際には敬意を忘れず、以下の点にご注意ください。
- 服装について: 厳密なドレスコードはありませんが、信仰の場にふさわしい服装が望まれます。特に夏場は、タンクトップやショートパンツなど肩や膝が大きく露出する服装は避けるのがマナーです。心配な方は一枚はおれるショールやカーディガンを用意しておくと安心です。これはスペインの他の教会を訪れる際にも役立つ知恵です。
- 写真撮影の制限: 聖堂内での写真撮影は基本的に禁止されています。特にミサや祈祷の最中にカメラを向けるのは厳禁です。美しい光景を記憶に残したい気持ちは理解できますが、ルールを守り静かにその場の空気を味わいましょう。
- ミサの時間: 定期的にミサが行われており、その時間帯は信者以外の立ち入りが制限されたり、見学可能エリアが限定される場合があります。公式サイト等で事前にミサの時間を確認しておくとスムーズです。
- 持ち物について: 大きなリュックやスーツケースの持ち込みは断られることがあります。貴重品のみを入れた小さなバッグで訪れるのが賢明です。
荘厳な建築、美しい信仰の歴史、そして若きゴヤの情熱の結晶。ピラールの聖母大聖堂は、訪れる者の五感すべてに深く響き渡る、まさにサラゴサの魂とも言える場所です。
歴史の交差点、アルハフェリア宮殿の魅力を探る

サラゴサの旧市街から少し西へ歩みを進めると、まるで中東の城塞を思わせる一方で、どこか優美さを漂わせる不思議な建物が姿を現します。これこそが、スペインのイスラム建築における傑作の一つと称される「アルハフェリア宮殿(Palacio de la Aljafería)」です。アンダルシア地方のアルハンブラ宮殿やメスキータほどの知名度はないかもしれませんが、その歴史的価値と美しさは決して劣るものではありません。
イスラムからキリスト教、そして現代へ。変遷を辿る物語
この宮殿の起源は11世紀に遡ります。当時、サラゴサはイスラム教徒のタイファ(小王国)の首都であり、この宮殿は王が歓びと憩いの場として築いた離宮でした。そのため「喜びの宮殿」とも呼ばれていました。その後、レコンキスタが進み、キリスト教徒の支配となると、アラゴン王国の王宮として改築や増築が行われます。
興味深いのは、キリスト教の君主たちがイスラム時代の美しい建築を壊すのではなく、自らの様式と融合させて再利用した点です。このため、イスラムの繊細な装飾とゴシック様式の重厚さが共存する「ムデハル様式」の見事な作品が誕生しました。
さらに時代が下ると、カトリック両王(イサベル1世とフェルナンド2世)の時代には宮殿として、やがて軍事要塞や兵舎としての役割も担いました。現在ではアラゴン州の議事堂として使われており、イスラムの王が喜びのために築いた建物が、時代を経て民衆の議事堂へと姿を変えたというドラマチックな歴史を持つ建造物は、世界的にも稀有と言えるでしょう。
宮殿内部へ。時代を超えた美の響宴
一見すると城壁のように無骨な外観とは対照的に、内部は繊細で優雅な空間が広がっています。順路を進むごとに、まるで時空を越えた旅をしているかのような感覚にとらわれます。
イスラム時代の栄光を伝える空間
- サンタ・イサベルの中庭 (Patio de Santa Isabel): 宮殿の中心に位置する、最も美しい場所の一つです。オレンジの木が植えられ、水路が巡る長方形の中庭は、イスラム建築が理想とする楽園のイメージを具現化しています。連なるアーチの回廊は繊細なデザインで、光と影のコントラストが美しく映えます。ここでゆったり息を吸えば、およそ千年前に王たちが目にしたであろう風景が鮮やかに蘇るようです。
- ミフラーブと黄金の間 (Mihrab & Salón Dorado): 中庭の北側には、王がプライベートに利用した小さなモスクがあります。そこにあるメッカの方向を示す「ミフラーブ」は、馬蹄形のアーチと植物や幾何学模様で彩られた漆喰彫刻が見事な逸品です。隣接する「黄金の間」では、王が賓客をもてなした豪華な空間で、かつては金箔で覆われた華麗な部屋だったと伝えられています。
キリスト教時代が加えた重厚な美
イスラム時代の空間を抜け階段を上がると、雰囲気は一変し、キリスト教時代に増築されたカトリック両王の宮殿エリアが広がります。
- 謁見の間 (Salón del Trono): 最も印象に残るのは天井です。緻密に組まれた松材によるムデハル様式の格天井はまさに芸術作品。イスラムの幾何学模様の伝統を受け継ぎつつ、カトリック両王の紋章も施されており、文化の融合が見事に表現されています。木の温かみと荘厳さが共存する独特な魅力を持つ空間です。
アルハフェリア宮殿訪問のための実用ガイド
この貴重な宮殿を十分に楽しむために、以下のポイントを知っておくと便利です。
- チケットは事前予約がベスト: アルハフェリア宮殿は非常に人気があるため、時間帯によっては入場制限がかかる場合があります。特に週末や観光シーズンは混雑が予想されますので、公式サイトから事前に日時を指定して予約するのが確実です。サラゴサ観光公式サイトで最新情報を確認し、予約ページへ進めます。当日券も窓口で販売されていますが、希望の時間に入れない可能性も念頭に置いておきましょう。
- 議事堂としての側面を考慮: 前述の通り、宮殿は現在もアラゴン州議事堂として使われているため、議会開催日に見学が制限されたり、見学時間が変更されたりすることがあります。訪問前に必ず公式サイトで開館スケジュールをチェックし、せっかく訪れて入れないといった事態を避けましょう。
- ガイドツアーへの参加をおすすめ: スペイン語や英語の無料ガイドツアーが定期的に行われています。時間に余裕があればぜひ参加してください。単独で回るだけでは気づきにくい建物の歴史的背景や装飾の意味が詳しく解説され、宮殿への理解が格段に深まります。予約が必要な場合もあるため、公式サイトで確認をお忘れなく。
- アクセス方法: 旧市街中心部からは徒歩で約20分、エブロ川沿いの散策路を歩くのも心地よいです。歩くのが難しい場合は、市内バスを利用すれば宮殿近くまで簡単にアクセスできます。
アルハフェリア宮殿は、サラゴサが有する「文化の交差点」という特性を象徴する場所です。異なる時代の美意識がぶつかり合い、そして調和しながら生まれた唯一無二の空間は、あなたの知的好奇心を大いに刺激することでしょう。
ゴヤの足跡を辿る、サラゴサ・アート散策
スペイン絵画の巨匠、フランシスコ・デ・ゴヤ。彼は宮廷画家として名を馳せるだけでなく、近代絵画の父とも称される存在です。その芸術家としての精神が育まれたのが、このサラゴサと近郊の村フエンデトードスの地です。サラゴサの街中には、ゴヤの初期作品から彼の芸術の本質を感じさせる版画まで、多彩な作品が点在しています。ゴヤの息吹を体感しながら、芸術あふれる街歩きを楽しんでみませんか。
ゴヤのすべてがここに。ゴヤ美術館 – イベルカハ・コレクション
ゴヤの作品を巡る旅の起点として訪れたいのが、「ゴヤ美術館 – イベルカハ・コレクション(Museo Goya – Colección Ibercaja)」です。ルネサンス様式の美しい邸宅を改装したこの美術館は、その名の通りゴヤの作品、特に彼の版画コレクションの豊富さでよく知られています。
版画集に見る、ゴヤの鋭い視点
マドリードのプラド美術館が『裸のマハ』や『着衣のマハ』、『カルロス4世の家族』などの油彩画の名作で名高い一方、このサラゴサのゴヤ美術館の魅力は、彼が後年に情熱を注いだ4つの版画集、『ロス・カプリーチョス』、『戦争の惨禍』、『闘牛技』、『妄』をすべて所蔵している点にあります。
- 『ロス・カプリーチョス』: 「気まぐれ」と訳されるこの版画集では、当時のスペイン社会の偽善や迷信、人間の愚かさが、辛辣なユーモアと幻想的なイメージを通じて表現されています。例えば有名な『理性の眠りは怪物を生む』など、一枚一枚に込められた風刺の意味を考慮しながら鑑賞すると、ゴヤの社会批評家としての鋭さが鮮明に浮かび上がります。
- 『戦争の惨禍』: ナポレオン軍の侵略によるスペイン独立戦争の悲惨な現実を、ゴヤは容赦なく描写しました。目を背けたくなるような凄惨な場面も含まれていますが、それは彼が見た真実の記録です。戦争がもたらす人間性の破壊をこれほど生々しく告発した芸術家は他にいないでしょう。
これらの版画は、明るい宮廷画家というイメージとは一線を画す、ゴヤの魂の叫びといえます。白黒のモノクロームの世界だからこそ、描かれたテーマがより力強く、感情にダイレクトに響いてくるのです。
美術館を楽しむためのポイント
- 公式サイトで事前に情報チェック: 訪問前にはゴヤ美術館の公式サイトで開館時間や企画展の最新情報を確認しましょう。入場料の案内や特定の曜日日や時間帯での無料入場についても掲載されています。
- オーディオガイドを利用する: 各作品の背景をより深く理解したい場合は、オーディオガイドのレンタルがおすすめです。特に版画集は、その制作意図を知ることで鑑賞の深みが格段に増します。
- ゴヤ以外の作品も鑑賞を: 美術館には、ゴヤの師匠フランシスコ・バイエウや同時代の画家たちの作品も展示されており、ゴヤがどのような芸術的環境で育まれたかを知るうえで非常に興味深い資料となっています。
若き日の作品に触れる。サラゴサ博物館と聖堂
版画を通してゴヤの思想の深さを味わった後は、彼の初期の作品を訪ね歩いてみましょう。
サラゴサ博物館(Museo de Zaragoza)
この博物館は考古学部門と美術部門に分かれ、とても充実した施設です。美術部門には、ゴヤによる数点の肖像画が所蔵されています。宮廷画家として名を馳せた彼の人物描写の卓越した技術は、これら初期肖像画にもしっかりと表現されています。版画のゴヤとは異なる肖像画家としての確かな腕前を堪能することができます。
ピラールの聖母大聖堂の天井画
前述のピラールの聖母大聖堂に描かれた天井画も、見逃せないゴヤの重要作品です。特に『天使の女王マリア』は、ローマから帰国したばかりの希望と野心に満ちた若きゴヤのエネルギーが爆発したような傑作です。ダークな版画集の世界観を知ったあとにこの天井画を見上げると、一人の芸術家の光と影、その人生ドラマに思いを馳せ、よりいっそう胸に迫るものがあります。
サラゴサでのアート散策は、単に名画を鑑賞するだけの体験にとどまりません。一人の天才芸術家が故郷で何を感じ、何を描き、いかにして時代を鋭く告発する表現へと至ったのか。街全体がそのドラマの舞台となり、知的好奇心を刺激する貴重な冒険の場となることでしょう。
サラゴサの胃袋を満たす!美食と活気のバル巡り

歴史や芸術に心が満たされたら、次はついに本当のお腹を満足させる時間がやってきます。サラゴサは、美食の宝庫としても名高い街です。特に旧市街の一角に広がる「エル・トゥボ(El Tubo)」地区は、狭い路地に数え切れないほどのバルが軒を連ねるまさにタパスの楽園。夜になると地元の人や観光客で賑わい、陽気な活気があふれています。さあ、サラゴサの夜の魅力を味わいに出かけましょう!
タパスの宝庫「エル・トゥボ」の歩き方
「トゥボ」とはスペイン語で「管」を意味します。その名の通り、細長い管のように入り組んだ路地が広がるこのエリアは、サラゴサのバル文化の中心地です。ここでの楽しみ方のポイントは、まさに「バル・ホッピング(はしご酒)」。一軒で長居をせず、それぞれの店の名物タパスとワインやビールを一杯ずつ味わったら、次の店へ移動するというスタイル。これが、地元サラゴサの人々の粋な夜の過ごし方です。
初めてでも安心!バル巡りのマナーと注文方法
バルが密集する景色に、初めは圧倒されるかもしれませんがご安心を。いくつかのポイントを押さえれば、誰でも気軽に楽しめます。
- まずはカウンターへ向かう: 店に入ったら、まずはカウンターを目指しましょう。カウンターには色とりどりのタパスが並んでいることが多く、指差しで注文できるので、スペイン語が分からなくても心配いりません。
- 飲み物を頼む: タパスと共に飲み物をオーダーしましょう。「Una caña, por favor(ウナ・カーニャ、ポル・ファボール)」と言うと、小さなグラスに注がれた生ビールが出てきます。タパス巡りにはぴったりのサイズです。ワインを頼む場合は赤なら「Vino tinto」、白なら「Vino blanco」と伝えましょう。
- その場で調理されるタパスもある: カウンターに置いてあるタパス以外に、注文後に調理してくれる温かいタパス(raciones)もあります。壁の黒板やメニューを確認するとよいでしょう。周囲の人が何を食べているか見てみるのも参考になります。
- 会計はまとめて支払うのが基本: 注文ごとに支払うのではなく、最後にまとめて会計をします。店を出る際に「La cuenta, por favor(ラ・クエンタ、ポル・ファボール)」と声をかけると、伝票を持ってきてくれます。自己申告制の店もあるため、何を注文したか覚えておくことが大切です。
- 床の汚れは繁盛の証し?: バルによっては、使用済みのナプキンやオリーブの種を床に捨てる風習が残っているところもあります。これは汚れではなく、客足が絶えない繁盛のサイン。地元の習慣に合わせて楽しんでみましょう。
必食!エル・トゥボの名物タパス紹介
数多くのバルが軒を連ね、どこに入ろうか迷ってしまうかもしれません。ここでは、私が訪れて特に感銘を受けたお店と、そこでぜひ味わってほしい名物タパスをいくつかご紹介します。
- El Champi(エル・チャンピ)のマッシュルーム: エル・トゥボの象徴的存在がこの店の「チャンピニョネス(Champiñones)」。鉄板でじっくり焼かれたジューシーなマッシュルームが串に刺さり、特製ガーリックソースと小エビがトッピングされています。熱々を頬張れば、マッシュルームの旨味とにんにくの香りが口いっぱいに広がり、ビールとの相性は抜群です。
- Doña Casta(ドーニャ・カスタ)のクロケッタ: スペインの家庭料理の定番、クロケッタ(コロッケ)。こちらの店では種類が豊富で、外はカリッと中はとろける食感。生ハム(Jamón)、イカスミ(Chipirón)、キノコ(Boletus)など多彩なフレーバーが楽しめます。どれも試す価値がある絶品揃いです。
- La Cueva en Aragón(ラ・クエバ・エン・アラゴン)のテルナスコ: アラゴン地方名物の子羊肉「テルナスコ」を使ったタパスや串焼きが味わえます。クセがなく驚くほど柔らかい肉質で、一度食べたら忘れられない美味しさです。
アラゴン伝統料理をレストランでゆったりと味わう
バル巡りも魅力的ですが、ぜひ一度はレストランで落ち着いてアラゴン地方の郷土料理をじっくり堪能してみてください。
- テルナスコ・アサード (Ternasco Asado): 先にご紹介した子羊肉を、時間をかけてオーブンでローストした料理です。皮は香ばしくパリッと、中の肉はほろほろと骨から離れる柔らかさ。特別な日のご馳走として愛されています。
- ボルハ (Borraja): 日本ではあまり馴染みのないルリヂシャ科の野菜。ややぬめりのある食感が特徴で、茹でたものをジャガイモと和えてオリーブオイルでいただいたり、スープにしたりします。素朴ながらも深い味わいが魅力です。
- ミガス (Migas): 固くなったパンを細かく砕き、ニンニクやチョリソー、ブドウなどとオリーブオイルで炒めた料理。元は羊飼いたちの保存食でしたが、今では立派な郷土料理として親しまれています。
食の楽園、中央市場 (Mercado Central)
地元の食文化を体験したいなら、市場は外せません。サラゴサの「中央市場」は、19世紀末に建てられた美しい鉄骨とガラスの建築が特徴的なモデルニスモ様式の建物です。
一歩足を踏み入れれば、そこはまさに食の楽園。鮮やかな野菜や果物、ずらりと吊るされたハモン(生ハム)、種類豊富なチーズやオリーブが並びます。地元の人々の活気と色とりどりの食材に触れるだけで心が弾みます。市場内には小さなバルも併設されており、新鮮な食材を使ったタパスをその場で味わうことも可能です。お土産には真空パックのハモンや、アラゴン地方の名産ワイン(カリニェナやソモンターノなど)を探してみるのも楽しいひとときです。
エル・トゥボの熱気、レストランでの伝統の味わい、市場の活気。サラゴサの食文化は、この街の歴史と同様に豊かで奥深い魅力に満ちています。
街歩きがもっと楽しくなる!サラゴサの隠れた魅力
サラゴサの旅は、有名な大聖堂や宮殿だけを訪れるにとどまりません。この街の真の魅力は、ひっそりとした路地裏や川沿いの散策、小さな教会の発見に隠されています。ここでは、あなたのサラゴサ滞在をより豊かに彩る、街歩きの楽しみ方をご紹介します。
エブロ川沿いの散策と心に残る夕景
サラゴサの源流ともいえるエブロ川。その沿岸は地元の人々にとっても憩いの場となっている遊歩道です。特にピラールの聖母大聖堂の対岸は、絶好の散歩スポット。ライオン像が印象的な「ピエドラ橋」から眺める大聖堂の姿は非常に有名で、何度見ても息を飲む美しさがあります。
私が特におすすめしたいのは、夕暮れ時の散策です。太陽が西の空に傾き始めると、空の色彩が刻々と変わり、大聖堂のシルエットがドラマティックに浮かび上がります。日没後、街の灯りが灯り始めるとライトアップされた大聖堂が川面に映り込み、幻想的な風景が広がります。このマジックアワーはきっと旅の忘れられない瞬間の一つとなるでしょう。川辺のベンチに腰掛け、ただ静かにその景色を楽しむ。そのような贅沢な時間の過ごし方が、サラゴサにはとても似合います。
ローマ帝国時代の記憶をたどる遺跡めぐり
サラゴサの地下には、2000年以上前のローマ帝国時代の都市「カエサルアウグスタ」が眠っています。街のいくつかの場所では、その遺跡が発掘・保存されており、博物館として一般公開されています。
- カエサルアウグスタ劇場博物館 (Museo del Teatro de Caesaraugusta): 旧市街を歩いていると、突然巨大なローマ劇場跡が現れます。博物館内では、この劇場がどのように使われていたかを映像や模型で学べ、ガラス張りの通路からは遺跡全体を俯瞰することができます。古代ローマの人々の娯楽に思いを馳せられる、興味深い体験です。
- フォロ博物館、公共浴場博物館、川の港博物館: 劇場以外にも、古代都市の中心的な「フォロ(公共広場)」、人々の交流の場であった「公共浴場」、エブロ川の水運を支えた「港」の遺跡も博物館として保存されています。
これらのローマ遺跡は、4ヶ所すべてを巡るお得な共通チケットが販売されています。歴史好きなら、このチケットを利用して古代カエサルアウグスタへの時間旅行をぜひ体験してみてください。
世界遺産に登録されたムデハル様式の教会群
アルハフェリア宮殿で触れた「ムデハル様式」とは、イスラム文化の影響を受けた独特の建築様式のことです。「アラゴンのムデハル様式の建築物」としてユネスコ世界遺産に登録されており、サラゴサ市内にも美しい教会が点在しています。
- サン・パブロ教会 (Iglesia de San Pablo): 「サラゴサの第三の聖堂」とも呼ばれる重要な教会で、特に八角形の塔が見どころです。レンガと装飾タイルが織り成す幾何学模様は、レースのように繊細で、イスラムのミナレット(尖塔)を彷彿とさせます。
- サンタ・マリア・マグダレナ教会 (Iglesia de Santa María Magdalena): 美しいムデハル様式の塔を持つ教会で、旧市街の東側に位置しています。観光で賑わう中心地とは一味違う、落ち着いた雰囲気が漂います。
これらの教会はピラール大聖堂のような壮大さこそないものの、異文化が融合して生まれたサラゴサならではの美しさを静かに伝えています。街歩きの途中で、美しい塔をぜひ見上げてみてください。
おしゃれなショッピングストリートとカフェでのひと休み
歴史散策で少し疲れたら、現代のサラゴサも体験してみましょう。ピラール広場から南へ伸びる「アルフォンソ1世通り(Calle de Alfonso I)」は、美しい建物に囲まれ、アパレルショップや雑貨店が軒を連ねるメインのショッピングストリートです。通りの正面にはピラール大聖堂が見え、絶好のフォトスポットになっています。
その先にある「インデペンデンシア通り(Paseo de la Independencia)」は、ZARAやMANGOなどのスペインブランドからデパートまで揃う、より現代的なショッピングエリアです。
散策の合間には、おしゃれなカフェで一息ついてみましょう。スペインのカフェ文化は幅広く、朝食のトーストとコーヒーから午後のスイーツタイム、夜のアペリティーボ(食前酒)まで、一日中楽しめます。広場に面したテラス席で、行き交う人々を眺めながらカフェ・コン・レチェ(カフェオレ)を味わう。そんな時間が、旅の思い出として心に残るでしょう。
歴史の名所からさりげない日常の風景まで、自分の足で歩き、五感で感じることで、サラゴサという街の多層的な魅力がいっそう深く心に刻み込まれていきます。
サラゴサ滞在のための実践情報と安全対策

魅力的な旅も、安心してこそ真に楽しめるものです。ここでは、サラゴサ滞在をより快適かつ安全に過ごすための実践的な情報をお伝えします。特に女性の一人旅では、しっかりした準備とちょっとした注意が、旅の質を大きく左右します。私自身の経験をもとにしたヒントをぜひ参考にしてください。
女性視点での安全対策。安心して街歩きを楽しむために
サラゴサは、スペインの他の大都市に比べて比較的治安が良いとされています。昼間は観光客でにぎわい、夜のバル街も活気にあふれていますが、それでも油断は禁物です。どの国でも旅人は狙われやすいことを念頭に置きましょう。
スリや置き引きに特に注意!具体的なポイント
最も気をつけたいのはスリや置き引きです。特にピラール広場周辺やエル・トゥボの混雑するバル、市場など人が密集する場所では常に警戒を怠らないようにしましょう。
- バッグは体の前で持つ: リュックは背中に背負わず、前で抱えるように持つのが基本です。ショルダーバッグやトートバッグも必ず体の前側に置き、手で押さえておきましょう。ファスナーのないものは避けるのが安全です。
- 貴重品は分散保管を: パスポートや現金、クレジットカードを一つの財布にまとめるのは非常にリスクが高いです。現金は少しずつポケットや財布に分け、残りはホテルのセーフティボックスや服の下に隠せるセキュリティポーチに分散させて保管しましょう。パスポートの原本を持ち歩く代わりにコピーで十分なことも多いです。
- 「ながらスマホ」は危険信号: スマホを操作しながら歩くのは、盗みの絶好のターゲットになります。写真を撮るとき以外は、すぐにバッグにしまう習慣をつけましょう。
- 過度な親切には注意を: 親切を装って話しかけ、注意をそらして仲間が盗みを行う手口もあります。物をこぼされたり道を尋ねられたりした時も、荷物から目を離さないように心がけてください。
夜間の過ごし方について
エル・トゥボのバル巡りは楽しいですが、深夜の一人飲み歩きは避けるのがおすすめです。ホテルへ帰るときは、できるだけ人通りが多く明るい大通りを選び、場合によってはタクシーを利用すると安心です。
トラブルに遭った場合の対処法
万が一、盗難などのトラブルに遭った際は、慌てず冷静に行動しましょう。
- 警察への届け出: まずは最寄りの警察署(Comisaría de Policía Nacional)に行き、被害届を提出してください。これにより、海外旅行保険の請求に必要な「盗難証明書(Denuncia)」を受け取れます。
- カード会社への連絡: クレジットカードが盗まれた場合は、すぐにカード会社の緊急連絡先に電話し、カードを停止しましょう。
- 日本大使館・領事館への連絡: パスポートを紛失や盗難された場合は、在スペイン日本国大使館(マドリード)または在バルセロナ日本国総領事館に連絡し、再発行や「帰国のための渡航書」の取得方法について案内を受けましょう。
これらの緊急連絡先は、渡航前にスマートフォンだけでなく紙にも控えておくことを強くおすすめします。
旅の満足度を高める準備と持ち物
快適な旅行には周到な準備が欠かせません。サラゴサの気候や特徴に合わせたおすすめの持ち物リストをご紹介します。
服装について
- 歩きやすい靴: 石畳が多いサラゴサの街歩きには、履き慣れたスニーカーやフラットシューズが必須です。見た目も大事ですが、足の痛みは旅の楽しみを大きく損ないます。
- 羽織りもの: 教会や大聖堂の訪問時の服装マナーとして、また早朝や夜間の寒暖差、室内の冷房対策として、カーディガンやストール、薄手のジャケットなど一枚あると非常に便利です。
- 季節に応じた対策: 夏(6〜8月)は日差しが強いので、帽子、サングラス、日焼け止めは必須です。冬(12〜2月)は内陸性気候で気温が下がるため、コートに加えヒートテックのような防寒インナー、手袋やマフラーでしっかり寒さ対策をしてください。
持っていると便利なアイテム
- 変換プラグ(Cタイプ): スペインの電源プラグはCタイプ。日本のAタイプとは形状が異なるため、変換プラグを必ず持参しましょう。
- モバイルバッテリー: 地図アプリや写真撮影でスマホの電池は予想以上に早く消耗します。モバイルバッテリーがあれば安心して外出できます。
- エコバッグ: スペインのスーパーや店舗ではレジ袋が有料の場合が多いため、小さく折りたためるエコバッグを1つ持っておくと買い物やお土産に便利です。
- 保湿用品: スペインは空気が乾燥しやすい地域です。特に冬場はリップクリームやハンドクリーム、保湿力の高いスキンケア用品を持っていると快適に過ごせます。
宿泊エリアの選び方。おすすめエリアの紹介
サラゴサ滞在を充実させるため、目的にあったホテル選びも大切です。以下のエリアが特におすすめです。
- 旧市街(ピラール広場周辺): 主要観光地が徒歩圏内で、バル街「エル・トゥボ」もすぐ近く。観光中心の滞在に最適です。歴史的建造物を利用した趣あるホテルも多く、サラゴサらしい雰囲気を味わえます。
- 中心部(インデペンデンシア通り周辺): ショッピングや飲食店が豊富で、近代的な設備を備えたホテルが多いエリア。トラムの駅も近接し、交通アクセスも良好です。
少しの準備と心がけで、旅の不安は大きく軽減されます。万全の体制を整えて、心ゆくまでサラゴサの魅力を堪能してください。
サラゴサから足を延ばして、まだ見ぬアラゴンへ
サラゴサの街を心ゆくまで堪能したなら、その旅を少しだけ広げてみませんか。サラゴサはアラゴン州の交通の要衝であり、ここを拠点にすれば日帰りで訪れることができる魅力的なスポットが数多く存在します。歴史やアート、そして息をのむような自然の美しさ。サラゴサの旅の締めくくりとして、あるいは新たな冒険の第一歩として、ショートトリップのご提案です。
ゴヤの原点を訪ねて。フエンデトードス(Fuendetodos)
フランシスコ・デ・ゴヤの芸術に惹かれたなら、彼の故郷であるフエンデトードスへの訪問は格別の体験となるでしょう。サラゴサから南へ約45km、車でおよそ1時間のところに位置する、石造りの家並みが続く素朴で静かな村です。
ここにはゴヤの生家(Casa Natal de Goya)が保存されており、質素な農家の家屋の中には18世紀の暮らしを思わせる調度品が置かれています。この静かな村で、乾いた大地と厳しい自然環境の中から、あの情熱的で人間味あふれる芸術家の感性が培われたことを想像するとなかなか感慨深いものがあります。
また、村にはゴヤの版画作品を展示する版画美術館(Museo del Grabado)もあり、彼の芸術の原点にじかに触れることが可能です。サラゴサからは日帰りツアーに参加するか、レンタカーでの訪問が一般的。アラゴンの乾いた風を感じながらのドライブもまた格別な体験でしょう。
水と緑のオアシス、ピエドラ修道院自然公園(Monasterio de Piedra)
サラゴサ近郊の乾燥した風景とは対照的に、まるで別世界のような豊かな緑と清らかな水が広がるのが「ピエドラ修道院自然公園」です。サラゴサから南西へ約120km、車で約1時間半の距離にあります。
ここは12世紀に建てられたシトー会修道院の遺跡と、その周囲の自然公園が一体となった場所。園内を歩けば、大小さまざまな滝が次々と姿を現し、エメラルドグリーンに輝く湖や豊かな樹木に心が癒されます。特に高さ50mを超える「馬の尻尾(Cola de Caballo)」と呼ばれる滝は圧巻。その裏側に続く洞窟を通り抜けることもでき、水しぶきを浴びながら自然の息吹を全身で感じられます。
古の修道院の荘厳さと生命力あふれる自然美が見事に調和したこの場所は、都会の喧騒を忘れさせてくれる最高の逃避先です。歩きやすい靴と、少し濡れても問題のない服装で訪れるのが良いでしょう。
サラゴサの旅は単なる都市訪問以上の意味を持ちます。それはローマ時代からイスラム、キリスト教へと続く壮大な歴史の物語を辿り、ゴヤという天才の人生に寄り添い、アラゴンの豊かな食文化や伝統に触れる、多層的な体験なのです。
マドリードとバルセロナを結ぶライン上にある単なる通過点ではありません。サラゴサは時間をかけてじっくり向き合う価値があり、深みと知性に満ちた魅力的な場所です。この街で過ごした時間が、あなたの旅の思い出に鮮烈で忘れがたい一ページを添えてくれることを心から願っています。さあ、次はあなたがこのアラゴンの宝石の扉を開ける番です。

