大西洋に浮かぶ緑の宝石、ポルトガル領マデイラ島。一年を通して温暖な気候から「大西洋の真珠」や「永遠の春の島」と称されるこの島には、訪れる者を魅了してやまない手つかずの自然が息づいています。アパレル企業で働きながら、長期休暇のたびに世界の街角を巡る私、亜美が今回目指したのは、島の心臓部に広がる神秘の森、ラバサル渓谷です。
そこは、太古の森「ラウリシルヴァ」が深く根を張り、無数の滝が清らかな歌を奏でる場所。島全体に網の目のように張り巡らされた「レヴァダ」と呼ばれる灌漑用水路に沿って歩くハイキングは、ただの山歩きではありません。それは、マデイラの自然と歴史、そして人々の営みが織りなす壮大な物語の中を旅するような、特別な体験でした。この記事では、ラバサル渓谷の魅力はもちろん、アクセス方法から服装、持ち物、安全に楽しむための注意点まで、私の体験を交えながら詳しくご紹介します。次の旅の行き先に、緑豊かな楽園を加えてみませんか?
トレッキングの後は、マデイラ島の名物である豪快な串焼きエスペターダを味わうのが最高の楽しみです。
ラバサル渓谷とは? – 永遠の春に抱かれた緑の楽園

マデイラ島でのハイキング情報を調べ始めると、ほぼ間違いなく目にするのが「ラバサル(Rabaçal)」という名前です。この渓谷は、島の北西部に広がる壮大な高原地帯、パウル・ダ・セーラ高原の斜面に深く切り込まれています。標高およそ1,000メートルに位置するこの地は、マデイラの自然の多様性を凝縮したかのような神聖な空間といえるでしょう。
生命を紡ぐ水路「レヴァダ」
ラバサル渓谷のハイキングで欠かせない存在が「レヴァダ(Levada)」です。レヴァダとは、山間の豊富な雨水を島の南側にある農地や集落へと導くために築かれた石造りの灌漑用水路のこと。起源は15世紀の大航海時代までさかのぼりますが、驚くべきことに今なお島の各地で現役の役割を果たしています。その全長はなんと2,500キロメートル以上に及ぶとされています。
このレヴァダは単なる水路ではありません。水路沿いには、維持管理のための作業路が必ず設けられてきました。この道が現在では世界中のハイカーを惹きつける素晴らしいトレッキングルートとなっています。レヴァダウォークの最大の魅力は、そのゆるやかな勾配です。水は高地から低地へとわずかな傾斜で流れるため、道も同様に緩やかなアップダウンで構成されており、体力に自信がなくとも気軽に美しい自然を楽しむことが可能です。せせらぎの音をBGMに、シダや苔に覆われた石の壁沿いを歩く時間は、心に安らぎをもたらす魔法のひとときです。
ユネスコ世界自然遺産「ラウリシルヴァの森」
ラバサル渓谷を包む深い緑の森は「ラウリシルヴァ(Laurissilva)」と呼ばれる照葉樹林です。これは、数百万年前の第三紀に南ヨーロッパを広く覆っていた森の生き残りであり、氷河期を経てマデイラ島など限られた地域にのみ現存する極めて貴重な原生林です。その価値が認められ、1999年にはユネスコ世界自然遺産に正式に登録されました。
一歩森の中に踏み込むと、空を覆うほどに枝を広げた月桂樹の古木、地面や岩を密に覆う苔、そしてシダ植物が織りなす幻想的な景観に息を呑みます。まるでジュラシック・パークの世界に迷い込んだかのような感覚です。霧が立ち込めると、その神秘性は一段と増し、木々の間から差し込む光が神聖な輝きを放ちます。この森はマデイラカナリアやマデイラバトなど多くの固有種の動植物が暮らす生命の泉であり、島の生態系の中核を担っています。ラバサルのトレッキングは、太古から続く生命の循環の中に身を委ねる体験でもあるのです。
無数の滝が奏でる水の交響曲
ラバサル渓谷が「水の楽園」と称される理由は、数多くの滝が点在していることにあります。ハイキングの目標地点である「25の泉の滝(25 Fontes)」や「リスコの滝(Risco)」に加え、名前のついていない小さな滝が無数に岩肌を伝い流れ落ち、渓谷全体が澄んだ水音に包まれています。湿度の高い森の中で飛び散る滝のしぶきはひんやりと心地よく、歩き疲れた身体をリフレッシュしてくれます。特に「25の泉の滝」は、苔むした円形の岩壁からレースのカーテンのように何本もの水流が優雅に流れ落ち、その圧倒的な美しさに見入ってしまうほどです。
いざ出発!ラバサルへのアクセス完全ガイド
ラバサル渓谷のハイキングコース入口は、ER105道路沿いにある駐車場がスタート地点となります。マデイラ島の中心都市フンシャルから車で約1時間の距離ですが、公共交通機関でのアクセスは非常に難しいため、主にレンタカーかツアー参加のどちらかで訪れることになります。
レンタカーで訪れる場合
自由に島内を巡りたい方には、レンタカーの利用が最も適しています。自分のペースで好きな時間に行動でき、ハイキング後にほかの観光スポットへ立ち寄ることも可能です。
- ルートと注意点: フンシャルからは、VR1高速道路を利用してリベイラ・ブラーヴァ方面へ向かいます。そこから山道に入り、パウル・ダ・セーラ高原を目指します。マデイラ島の道路は急カーブや急勾配が多いため、安全運転が必須です。特に山道は霧が発生しやすく視界が悪くなる場合もあります。また、対向車もあるためスピードの出し過ぎに注意しましょう。時間に余裕をもった行程を計画することをおすすめします。
- 駐車場の状況: ラバサルのハイキングコースに最も近い駐車場はER105沿いにありますが、非常に狭いため、特にハイシーズンの午前10時から午後3時頃まではほぼ満車状態です。路上駐車の列が長く伸びることも珍しくありません。そのため、朝の早い時間帯、できれば午前9時前に到着することを目標にすると良いでしょう。
- 駐車場からハイキング入口までのシャトルバス: 駐車場から実際のハイキングコースの起点である「ラバサル森林小屋(Casa de Abrigo do Rabaçal)」までは約2kmの急な下り坂が続きます。この道を歩いて下山することも可能ですが、体力温存のために有料のシャトルバス利用を強く推奨します。特に帰りは疲れた状態での急な上り坂になるため、バスのサービスを利用すると便利です。バスは頻繁に往復しており、片道3ユーロ、往復5ユーロ程度(変動の可能性あり)で、現金払いのみの場合が多いため、小銭の準備があると安心です。
ツアーで参加する場合
運転に自信がない方や、ガイドの解説を聞きながら自然をより深く理解したい方には、ツアー参加が最適です。多くのツアーではフンシャルのホテルからの送迎が含まれているため、移動の手間を気にせずに済みます。
- ツアーの種類: ラバサル渓谷を訪れるツアーには、半日でハイキングが楽しめるプランのほか、西部の名所(ポルト・モニスの天然プールなど)を巡る一日ツアー、オフロード車によるジープツアーなど多彩なタイプがあります。自身の興味や体力に合わせて選べます。
- メリット: プロのガイドが同行するため、道に迷う心配がなく、安全にハイキングを満喫できます。また、動植物の名称やレヴァダの歴史といった、個人では得にくい知識を得られる点も大きな魅力です。他の参加者との交流も旅の素敵な思い出になることもあるでしょう。
- 予約方法: ツアーの予約は、現地の旅行代理店やホテルのフロント、またはViatorやGetYourGuideなどのオンライン予約サイトを通じて事前に行えます。人気が高いツアーはすぐに定員に達することもあるため、早めの予約をおすすめします。
亜美のおすすめハイキングコース徹底解説

ラバサルのシャトルバスを降りた先にある森林小屋を出発点として、いくつかの素晴らしいハイキングコースが広がっています。ここでは、私が実際に歩いた代表的なコースを、その魅力とともにご紹介します。
PR6 レヴァダ・ダス・25フォンテス(Levada das 25 Fontes)
ラバサルで最も知名度が高く人気のあるコースが、この「25の泉」を訪ねるルートです。多くの人がこの神秘的な滝を見るためにラバサルを訪れます。
- コース概要: 森林小屋から往復でおよそ4.6km、所要時間は2.5〜3時間程度が目安です。道中には何度か階段の上下があり、道幅が非常に狭くなる箇所もあるため、少し注意が必要です。
- 見どころ: コース最大の見所は、もちろんゴール地点にある「25の泉の滝」です。半円形に切り立った緑豊かな岩壁から、無数の細い滝が簾のように流れ落ち、その下にはエメラルドグリーンに輝く美しい滝壺が広がっています。その光景はまるで妖精が現れそうな幻想的な雰囲気。滝の周辺はひんやりと涼しく、持参したランチを広げて休憩するのにも最適な場所です。ただし、人気スポットのためお昼時は多くのハイカーで賑わいます。静かな時間を過ごしたい場合は、少し時間をずらすのがおすすめです。道中には苔むしたレヴァダやシダが生い茂る森の風景が続き、飽きることがありません。
- 注意点: こちらのコースは人気が高いので、時間帯によってはかなり混み合います。特にレヴァダ沿いの道は、大人同士がすれ違うのがやっとというほど狭い箇所があります。譲り合いの気持ちを大切にして、安全第一で歩きましょう。また、足元は常に湿って滑りやすいため、しっかりとした靴を履くことが不可欠です。
PR6.1 レヴァダ・ド・リスコ(Levada do Risco)
「25の泉」コースの途中から分かれて伸びる、もう一つの壮大な滝「リスコの滝」へ向かうルートです。比較的平坦で歩きやすいので、初心者の方にもおすすめできます。
- コース概要: 森林小屋から往復約3km、所要時間は1〜1.5時間程度です。「25の泉」コースとの分岐点までは同じ道をたどり、その先はほぼ平坦で危険な場所も少ないため、気軽に歩けます。
- 見どころ: 「リスコ」とはポルトガル語で「危険」を意味しますが、コース自体は安全です。その名前は、高さ約100メートルとも言われる断崖絶壁から一気に流れ落ちる滝の迫力に由来しています。展望スポットからは滝の全景をじっくり楽しめ、その壮大な光景に圧倒されること間違いなし。水量が豊富な時期は特に見応えがあり、谷の向こう側に広がる深い緑とのコントラストも非常に美しく、写真撮影にも絶好の場所です。
2つのコースを巡るモデルプラン
体力や時間に余裕があれば、「25の泉」と「リスコの滝」の両方を訪れてみることを強くおすすめします。異なる魅力をもつ二つの滝を満喫することで、ラバサル渓谷の奥深さをより一層感じることができるでしょう。
- おすすめルート: 森林小屋 → PR6.1/PR6分岐点 → リスコの滝(PR6.1)→ 分岐点へ戻る → 25の泉の滝(PR6)→ 森林小屋
このルートを歩く場合、所要時間は合計で約4〜5時間を見ておくと良いでしょう。最初に比較的歩きやすいリスコの滝を訪れ、その後で少し難易度の高い25の泉へ向かう順序がおすすめです。途中の美しい景色を楽しみつつ、休憩時間も十分に考慮してゆとりある計画を立ててください。 マデイラ観光局の公式サイトでも詳細なコース情報が確認できるので、事前にチェックすることをおすすめします。
旅の準備は完璧に。持ち物&服装リスト
ラバサル渓谷のハイキングを安全かつ快適に楽しむためには、十分な準備が欠かせません。特に山の天候は変わりやすいため、油断せず慎重に臨む必要があります。アパレル業界での経験を踏まえ、機能性とファッション性を両立させた服装と持ち物のポイントをお伝えします。
服装のポイントとおすすめスタイル
ラバサルには特別な服装規定はありませんが、アウトドアに適した装いが望まれます。ポイントは「レイヤリング(重ね着)」です。
- アウター: 防水性・防風性のあるジャケットは必ず用意しましょう。山の天候は急に変わることがあり、晴れていたのに急に雨が降ったり霧がかかって気温が下がることもあります。軽くてコンパクトに収納できるものが便利です。鮮やかな色を選べば、緑いっぱいの森の中で写真映えし、万が一のときに見つけやすいので安全面でもおすすめです。
- ミドルレイヤー: 保温用の中間着として、薄手のフリースや軽量ダウンがおすすめです。歩き始めは肌寒くても、動くと汗をかくので、暑くなったら脱ぎ、休憩時に冷えたら着るなど、体温調節がしやすい素材を選びましょう。
- ベースレイヤー: 直接肌に触れるインナーは、速乾性かつ吸湿性に優れた素材(ポリエステルやメリノウールなど)が必須です。綿素材は濡れると乾きにくく体温を奪うため、ハイキングには適しません。
- ボトムス: 動きやすさを最優先に、ストレッチ性のあるトレッキングパンツやレギンスが好ましいです。デニムなど硬く濡れると重くなる素材は避けましょう。また、植物の摩擦や虫刺されのリスクを考えると、ショートパンツより長ズボンが安全です。
- 靴: もっとも重要な装備です。レヴァダ沿いの道は常に湿って滑りやすいため、凹凸のはっきりした滑りにくいハイキングシューズやトレッキングシューズを必ず履きましょう。防水機能(ゴアテックスなど)があれば、水たまりやぬかるみでも快適に歩けます。スニーカーやサンダルは避けてください。
持ち物リスト(必携アイテム)
- バックパック: 両手が自由になるバックパックは必須で、容量は20〜30リットル程度が日帰り散策には十分です。レインカバー付きだと、急な雨で中身が濡れる心配が減ります。
- 水分: 最低1.5リットルは持参しましょう。森の中では予想以上に汗をかくため、こまめな水分補給が熱中症や脱水の予防に繋がります。
- 行動食・ランチ: ナッツ、ドライフルーツ、チョコレート、エナジーバーなどのスナックをいくつか用意しましょう。滝のそばで食べるランチは格別なので、手軽に食べられるサンドイッチやおにぎりもおすすめです。
- ヘッドライトまたは懐中電灯: ラバサルの一部コースには照明がないトンネルがあるため、スマートフォンのライトでも代用可能ですが、専用のライトがあるとより安全で便利です。
- 地図: スマートフォンのオフライン地図アプリ(Maps.meなど)を事前にダウンロードしておくと、電波が届かないエリアでも現在地の確認ができるため安心です。
- 現金: シャトルバスの運賃や森林小屋のカフェでの支払いに必要です。カード不可の場合に備え、ユーロのコインや小額紙幣を用意しましょう。
持っていると便利なアイテム
- トレッキングポール: 特に下り坂で膝への負担を軽減し、バランス維持にも役立ちます。長距離歩行時の疲労軽減に効果的です。
- 救急セット: 絆創膏、消毒液、鎮痛剤、虫刺され薬などの応急手当できるものがあると安心です。
- 日焼け止め・サングラス・帽子: 森の中は日差しが遮られる箇所が多いものの、開けた場所では紫外線が強いです。特に高原エリアなので、しっかりと紫外線対策をしましょう。
- タオル: 汗を拭いたり、突然の雨で濡れた際に便利です。
- モバイルバッテリー: 写真撮影や地図アプリ利用でスマートフォンのバッテリーはすぐに消耗します。予備のバッテリーがあると安心です。
安全に楽しむためのルールとエチケット

ラバサル渓谷の豊かな自然は、訪れる私たちがルールやマナーを守ることで将来へと受け継がれていきます。安全かつ快適にハイキングを楽しむため、以下のポイントに気を付けましょう。
禁止事項と基本的なマナー
- 自然環境の尊重: ラウリシルヴァの森は貴重な世界遺産です。植物を採取したり、動物に餌を与えたりする行為は厳禁です。美しい花や珍しい植物に出会っても、撮影だけにとどめてください。
- ゴミは必ず持ち帰る: ゴミ箱は設置されていません。食品の包装やペットボトルなど、自分が出したごみは全てバックパックに入れて持ち帰りましょう。「訪れた時よりも美しく」を意識したいですね。
- 火気の使用禁止: 森の中での喫煙や火の使用は山火事の危険を高めますので、絶対に避けてください。
- 静かに歩く: 大声で話したり、大音量で音楽を流したりするのは控えましょう。鳥の囀りや水の流れる音など、自然の音に耳を傾けるのもレヴァダ・ウォークの醍醐味です。
レヴァダ・ウォーク独特の注意点
- 水路に注意を払う: レヴァダのそばを歩く際は、水路に落ちないよう十分注意しましょう。特に写真撮影に夢中になると、足元がおろそかになりがちです。
- 譲り合う気持ちを持つ: 狭い場所ですれ違う際はマナーが求められます。基本的には山側(レヴァダから離れた側)の人が壁際に寄り、谷側(レヴァダ側)の人を優先して通すのが安全です。お互いに「オラ!(こんにちは)」と挨拶を交わしながら、気持ちよく道を譲り合いましょう。
- 自分のペースを守る: 無理に周囲のペースに合わせるのは避けましょう。自身の体力に応じて、疲れたら休憩をとり景色を楽しんでください。時間に追われず、ゆったりと自然と向き合うことが、何よりの贅沢です。
トラブル発生時の対応方法
万が一の事態に備え、基本的な対処法を知っておくことが大切です。
- 道に迷った場合: まずは冷静に、来た道を戻ることが基本です。むやみに進むと状況が悪化する恐れがあります。オフラインマップで現在地を確認し、分かる場所まで引き返しましょう。
- 怪我をした場合: 軽い擦り傷であれば持参した救急セットで応急処置を行います。捻挫などで歩行が難しい場合は無理に動かず、助けを呼んでください。マデイラを含むポルトガルの緊急通報番号は「112」です。ただし、山中では電波が届かないことも多いので注意が必要です。
- 天候の急変時: 突然の強い雨や濃霧などで視界が悪くなった場合は、無理に先へ進まず安全な場所で天候の回復を待つか、安全を優先して引き返しましょう。事前に現地の気象情報を確認しておくことも重要です。
ハイキング後のご褒美。周辺のグルメと立ち寄りスポット
ハイキングで心地よい汗をかいた後には、マデイラならではの美味しい料理や圧巻の景色が待っています。頑張った自分へのご褒美として、ぜひ立ち寄ってみてください。
ラバサル森林小屋(Casa de Abrigo do Rabaçal)
ハイキングの出発点でありゴールでもあるこの山小屋には、素朴なカフェが併設されています。ここでハイキング後にゆっくりと休む時間は特別です。温かいコーヒーと、マデイラの名物であるフルーツケーキ「ボーロ・デ・メル」でエネルギー補給をしましょう。シンプルにハムとチーズを挟んだサンドイッチも、空腹を満たすのにぴったりの美味しさです。テラス席に座って、眼下に広がる渓谷を眺めながら過ごすひとときは、最高のクールダウンとなるでしょう。
ポルト・モニスの天然プール(Porto Moniz Natural Swimming Pools)
ラバサルから車で北へ30~40分ほど進むと、海岸沿いの町ポルト・モニスに火山の溶岩で形作られた天然海水プールがあります。大西洋の荒波が岩に打ち寄せ、その波がプール内へ流れ込む光景は迫力満点です。ハイキングで疲れた身体を潮風に包まれながら海水に浮かべるのは、マデイラならではの贅沢な体験と言えます。更衣室やシャワーも備わっているため、気軽に利用可能です。
マデイラ料理を味わう
フンシャルに戻ったら、ぜひ地元の郷土料理を堪能してください。
- エスペターダ(Espetada): 牛肉の串焼きで、月桂樹の枝に大きな肉塊を刺し、ニンニクと塩でシンプルに味付けして炭火で豪快に焼き上げます。テーブルに吊るされた状態で提供されるのが特徴で、滴り落ちる肉汁をパンにつけて食べるのがマデイラ流です。ジューシーで香ばしい味わいが、ハイキング後の体に力を与えてくれます。
- 黒太刀魚のフリット バナナ添え(Espada com Banana): マデイラ近海で獲れる深海魚、黒太刀魚(エスパーダ)を使った名物料理です。淡白で柔らかな白身魚のフリットに、甘くソテーしたバナナが添えられています。一見珍しい組み合わせですが、魚の塩味とバナナの甘みが絶妙に調和し、忘れがたい味わいを生み出しています。
これらの料理は、フンシャルの旧市街(Zona Velha)にある多彩なレストランで楽しむことができます。
ラバサル渓谷が教えてくれた、自然と向き合うということ

ラバサル渓谷で過ごした一日は、私にとってただのハイキングを超えた、深く心に刻まれる体験となりました。レヴァダのせせらぎに耳を澄ませ、苔むした森の香りを胸いっぱいに吸い込み、木漏れ日を肌でじんわりと感じる。すべての感覚が研ぎ澄まされ、自分が雄大な自然の一部であるという実感がその場に確かにありました。
ファッション業界で常に新たなトレンドやデザインを追求している日常とは対称的に、ラバサルの森は数百万年もの悠久の時をほぼ変わることなく生き続けています。その圧倒的な時間の流れの中に身を委ねると、日々の悩みや焦りがどれほど小さなことだったのかに気づかされます。
機能性を重視したアウトドアウェアに身を包み、泥や雨を気にせず歩く時間は、何よりも自由な気持ちをもたらしました。自然に溶け込むアースカラーの服も素敵ですが、あえて鮮やかな色のジャケットを選ぶことで、緑豊かなキャンバスに自分がひとつのアクセントとして加わる楽しみもあります。自然と対話し調和しながら、自分らしいスタイルで楽しむ。そんな旅のあり方もまた、魅力的だと感じます。
この記事を読んでいるあなたが、もし次の旅先に迷っているなら、ぜひマデイラ島、特にラバサル渓谷を訪れてみてください。そこには、画面越しには決して伝わらない、生命力に満ち溢れた感動があなたを待っています。自分の足で一歩一歩踏みしめながら感じる太古の森の息吹は、きっと心を豊かに満たし、明日への新たな活力をもたらしてくれることでしょう。

